ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百七十三話「会話と状況 2」

――のぞみはドラえもんの道具の恩恵により、デザリアム戦役で闇落ちした場合の結果を知ることになり、なんとかそれを『回避した』。(やってしまった世界線が生まれたことには強い罪悪感があるのには変わりはない。それも前線で戦い続ける理由になった)だが、どこかにはそうなった世界があることになったため、それを他山の石とするしかないと、ドラえもんはデザリアム戦役の時に述べていた――

 

 

「何事も、最悪の場合は起こり得る事です。事前に回避できたことは素直に喜ぶべきですよ。選択一つで、世界はいくらでも変わっていくものです」

 

ルドルフはそう言って、のぞみを慰める。ドラえもんから『その世界線』を見せられて以降、心にひっかかりを感じていたため、ルドルフはそのひっかかりを取り払い、気持ちを楽にさせるきっかけをもたらしたわけだ。

 

「他山の石以て玉を攻むべし。そうして、自らを律するのが、貴方にできる事でしょう。私も引退の決断を促された時は荒れましたからね。」

 

「あなたにも、そういう経験が?」

 

「誰しも、失敗はつきものです。エジソンしかり、アインシュタインしかり」

 

さしものルドルフも引退の決断の際には荒れ狂ったようで、自分の恥部だと自嘲混じりに告白した。生きていれば、失敗は誰でもする。エジソンにしても、アインシュタインにしても、だ。それは傍から見れば、偉大な存在である二人にもあるし、『起こり得る事』。ルドルフは第三者であるという点が功を奏し、のぞみを精神的に楽にさせる方法を考えつけた。それも本人に穏便に自覚させる方法』で。似た体験をし、現役時代は『似た立ち位置』(集団の中心人物)にいた彼女だからこそやれた事である。(都市一個を破壊したということは重大事だが、この世界線では『起こらなかった』。ドラえもんの見せたのは、あくまでも『起こり得た可能性』の一つなのだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――カールスラント空軍は技術流出で技術的優位が一夜にして失われていく様に為す術もなかった。人的資源的意味での優位性は崩れきってはいなかったが、ジェットへ忌避感を持つ者が多く、(機材的優位性が失われた事もあって)機種転換は愚か、機種選定の段階で騒動が起きる始末。それでも、ジェット戦闘機を組織だって装備し、運用するだけの底力は残されていた。元々、Me262を装備した航空隊がいくつかあったからだ。同空軍の再建はその部隊から始められたと言える。とはいえ、実用化寸前にこぎつけていた『Ta183』の概念図が流出し、F-86を生んでしまったことをカールスラントの関係者は悲劇と表現した。F-86は同機の概念図がなければ『そうなる保証』はなかった。プロトタイプは日本連邦の手で手直しされ、ダイ・アナザー・デイ後半以降に量産され、作戦の主力になり、1949年の段階では一線を退き始めている。とはいえ、ウィッチ世界が『自力で量産できるもの』としては高性能であり、扶桑で一線を退いても、他国にとっては新鋭機である。カールスラントはその面でも屈辱を味わった。更に、再燃焼装置は加速に必要だが、それに耐えられる耐熱合金は日本連邦でしか造れない。カールスラントの耐熱合金は質的には劣悪なものであったので、ジェットエンジンの寿命は短く、数回の整備で使い物にならなくなる。だが、日本連邦のものは21世紀以降の水準の素材技術で製造されているため、比較にならない。そこがカールスラントの技術者が耐熱合金の開発を血眼になって行う理由であった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――F-100 スーパーセイバー。ノースリベリオン社最後の制式機である。リベリオンが早期開発に成功し、予めの改良が施された状態で生産した。とはいえ、史実が史実だけに、制空戦闘機としての優位は長く保てないと判断された。その用途での後継機種はF-15になったが、自由リベリオンがそれをまとまった数で装備できたのは、1950年代のことになる。それまでの時間を支えたのはF-100であるため、史実にはない改良型も制作される。F-106は高価であり、F-4はM粒子の存在もあり、E型が海軍でも採用されたが、史実より遥かに早いペースで機種更新が進むため(レシプロ機出身のパイロットが現役であるため)、史実と違い、爆撃用途主体で使用されたという。対する扶桑は史実通りにステップを踏んでいくが、制空用途に用いるには、F-4は『機動力が不足』と判断されたため、元からドッグファイトを想定されていた『F-8』の改良が長期に渡って行われていく。この経緯は『レシプロ機で育ったパイロットが現役である時に配備された』からで、機動力重視の傾向が続いた故の流れであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――扶桑はF-106やF-4がリベリオン本国で量産される事を見込み、高性能が担保されている機種である、F-14/F-15/F-20と空中指揮管制機の配備を始めた。他国が戦後第一世代ジェット戦闘機の配備を開始し始めた段階で、第三/第四世代機の配備をするというのは大げさなようだが、史実の日本が味わったトラウマの大きさは扶桑をして『心配性だ』と揶揄されるほどであった。既存の機材の時点で充分な性能を持つからだが、日本側の指導もあり、対空母戦はミサイルで事前に対空武器と電子兵装を潰すことになり、ミサイル装備を持つ艦が配備されだしたが、史実ほどミサイルに傾斜した艦はM粒子の影響で造れない。更に日本の巡洋艦以下の艦は武装を詰め込み過ぎて、艦の容積に余裕がない。皮肉な事に、中途半端な船と揶揄され、無用の長物と見なされた超甲巡が軍事的に注目され、高角砲や機銃の取り外し、魚雷装備の変更等がなされた後、第二生産ロットとして建造中であったものはミサイル装備(VLSなど)が施され、その姿で竣工した。偽装の意図もあり、マストと後部艦橋のデザイン、配置は完全に大和型戦艦と同様のものに変更された。240m級の巨体は洋上機動に向かないとされたが、大出力機関とバウスラスターなどの配置で問題を解消。艦橋の近代化が比較的簡単(内部にCICを増設する余裕がある)ため、既存の艦にも施された。大和型戦艦に次いで、近代艦としての能力を備える事になり、旧式戦艦を退役に追い込む理由の一つになった――

 

 

 

 

 

――デモイン級重巡洋艦はその高性能で扶桑の既存の巡洋艦を陳腐化させてしまった。扶桑は超甲巡の量産で対処しようとしたが、超甲巡の立ち位置で揉めてしまったため、場繋ぎで伊吹型を巡洋艦として(大戦型の軽空母が陳腐化したので、巡洋艦として建造したほうが費用対効果が高かったのだ)竣工させつつ、高雄型重巡洋艦の改良型を新造。既存型の巡洋艦もある程度は建造せねばならなかった。折しも、大正期建造の巡洋艦が老朽化していたためでもあり、大型護衛艦の設計を単純に流用するだけでは『ウィッチ世界でのニーズに応えられない』ための暫定措置であった。旧来の巡洋艦の存在意義が大きく揺らいだのも、この時期だ。戦艦をいちいち動かすのは『労力のいる事』なので、駆逐艦とフリゲート艦よりは頑強な巡洋艦が注目された。ウィッチ世界特有の現象であるが、21世紀型艦艇は過去の兵器に万能ではない事の証明である。扶桑の21世紀派遣艦隊は過去に連合艦隊の軍港であった事のある『いくつかの場所』を間借りしているが、元々が二次大戦型の艦艇である分、造形的に美しい艦が多く、町おこしにも一役買っていた。21世紀世界で『日本連邦仕様塗装』の連合艦隊の艦艇のプラモデルが生まれ、スケールモデルの世界に新風を巻き起こし、ノビスケ達も購入していた――

 

――野比家――

 

「何をしているんだ、タマ」

 

「この家のチビに頼まれて、軍艦のプラモデルを作っとるんや。ロボの奴と違って、船と戦車とかはスナップキットやないから、小学生の手に余るんや。金型も古いし」

 

タマモクロスは珍しく、プラモデルを制作していた。艦艇のプラモデルはスナップキットであることは(金型の制作年代の都合もあって)珍しかったので、ノビスケの手に余った。そのため、タマモクロスが引き受けたのだ。

 

「タマは経験があるのか?」

 

「うちのチビ達にせがまれて、作っとるからのぉ。艦艇のプラモは慣れとる。戦艦はまだ楽な方やで」

 

タマモクロスは気を利かせ、エッチングパーツも使って制作している。オグリが物珍しそうに見ていることから、珍しい光景らしい。戦艦武蔵と、ちょっとマニアックなプラモデルであり、ウィッチ世界で実験艦に転用されたため、第三砲塔と第二副砲が撤去され、飛行甲板が延長されている姿になっているため、その再現をされた新モデルらしい。艦載機はコア・ファイター(一年戦争時の仕様)になっている。ある意味、史実の太平洋戦争で模索された航空戦艦の運用が叶った形だ。船体の前半部は戦艦、後部はアングルドデッキを持つ空母。そうした艦艇は本来は中途半端だが、コア・ファイターの性能もあって、成立している。扶桑が模索している『V字型の飛行甲板』も検討されたが、被弾面積の大きさから、通常の船体になった。航空戦艦というジャンルそのものが本来は『宇宙戦艦時代に始めて実現可能』なものなので、コア・ファイターは小型機であるが、小型機故に、ジャンルそのものが陳腐化した水上戦闘機に代わる選択肢にできることは扶桑には福音であった。ウィッチ装備が大型・高性能化し、戦艦や巡洋艦での運用が取りやめられていくと、対空防御が減るという意見があり、航空戦艦は本気で研究されたわけだ。

 

「ん?空母と戦艦がくっついてるようだが…?」

 

「航空戦艦つーキワモノや。普通は一過性のもんなんやで?こーゆーニコイチは」

 

戦艦武蔵を航空戦艦にするというアイデアは普通は採用されない。それは軍事の素人でも分かる。一見していいとこ取りのようだが、どっちつかずになるからだ。」

 

「とんでもない技術を得ると、遊びたくなるって奴や。フラッシュの国(ドイツ)も実用的じゃないものを大戦中にいくつも作りおったが、その流れや」

 

「普通は、それぞれを別々に作ればいいからな。……ん、金属のパーツを使うのか?」

 

「エッチングパーツ。ディテールアップしたい上級者が使う奴や。プラスチックじゃ出せない質感を出すために使うから、プラモ上級者の大人がやるんや。うちかて、滅多にやったことないで」

 

タマモクロスはプラモにエッチングパーツを使い、組み立てていく。幼い弟達のために、プラモデルを組み立ててやっているため、慣れた手付きで組んでいく。既に仲間内での注文を受けているようで、いくつかの箱が積まれている。また、野比家の地下に実物があるのに、プラモを頼んだ『剛田ヤサシ』(ジャイアンの子)など、色々な事情と理由で依頼されていた。

 

「こんなにどうするんだ?」

 

「バイト賃払うからって、押しつけられたんや。次のドリームシリーズまでには作り終えとく」

 

「大変だな」

 

「お前さんには縁遠い世界やで、オグリ」

 

「いや、弟と妹に任せるからな、こういうものは」

 

「お、おるんかい!?てっきり一人っ子だと…」

 

「すまない。言うべきだったかな…。妹は桜花賞を取っている。最も、それが最高のレースだったが」

 

オグリは年の離れた妹に『オグリローマン』がおり、ある年の桜花賞の勝者である。姉と違い、臆病であった事もあり、素質はあったが、それが開花しきることはなかった。エアグルーヴの二期先輩であったが、学園を実家の事情で離れた(姉の引退から時間が経過していた事もあり)。

 

「学園にいたのは僅かだったから、タマは見てはいないはずだ。ブライアンが顔を合わせたかどうかで、ルドルフも『名だけしか』知らんだろう」

 

と、実の妹の事を話す。ブライアンの同期であったが、桜花賞を取れたのが奇跡だと言われるくらいにレース向きの気質でなかったのと、実家の事情もあり、早期に引退し、学園も去っている。オグリキャップの妹という肩書がプレッシャーになっていたのだろうとされ、存在意義が『姉へクラシック戦線の勝利を捧げる』ことのみであったため、桜花賞を勝ち、それを為した時点で、彼女の役目は終わったと言える。

 

「妹は……私の成し得なかった『クラシック制覇』を為すための存在としか言えなかったからな。なんといおうか……」

 

オグリローマンはそのためのレース生活だったと言わざるを得ない戦績であったが、G1を一回でも勝ち、オグリキャップの実妹であるという事実もあり、引退後は年金生活を送れている。その事を鑑みると、オグリキャップは妹のレース生活に同情しているようだ。G1ウマ娘になれれば、概ねは引退後も安定した生活が送れるのだが、引退後も行方不明になり、その死に様すら用として知れない者も多いのが実情。オグリローマンはオグリキャップの血縁者という幸運もあり、福利厚生はかなり恵まれているほうだ。

 

「そうか、アンタの引退後、実家がまた大変になって、オグリローマンの桜花賞制覇で持ち直したんやな?」

 

「ああ。ローマン以外の兄弟は中央で活躍できなかったからな」

 

オグリの一族は史実を鑑みると、孫の代になっても、顕著な活躍をする者は現れないが、血は残る。同じ三強と謳われた『ウイニングチケット、ナリタタイシン、ビワハヤヒデ』が直接の子孫を残せず、ウイニングチケット以外は『血統が孫の代で絶えてしまう』結末を迎えたのと対照的である。オグリは妹の辿った道に同情しつつ、三強の後継を目された後輩たちは自分やイナリ、クリークのようにはなれずにいる。そこも、BNWの悲劇と言えた。

 

「それはそうと、タイシン、チケットはこれからが大変だと思うんだ。ハヤヒデが引退するだろう?」

 

「芦毛最強伝説も、これで一段落やな。あとはゴルシやクロフネ待ちや」

 

芦毛はプレストウコウ以降、タマモ、オグリ、マックイーン、ハヤヒデまでの四代の馬たちが最強クラスの実力を誇った後に、クロフネ、ゴールドシップが衣鉢を継ぐ運命にある。最強伝説の一翼を担った身としては、寂しい気持ちがあるらしい。

 

「チケゾーとタイシンは相方を欠いた状況で現役を続けるつもりや。これからが正念場やで。ライバルがいなくなった後のウマ娘は燃え尽きるのがお約束や。例外はおるけど」

 

「私自身がそうだったからな」

 

「オグリは最後に勝ったやろ。一番難しい事やで、それは」

 

最後に有終の美を飾る。結果的にそうなった例を含めても、意外に数は少ない。2010年代以降はラストランの舞台としての有馬記念を避けるケースも多く、2010年代末を最後に『有馬記念で有終の美を飾れた競走馬』は珍しくなり始める。体が健全なうちに種牡馬、ないしは繁殖牝馬に転向させたいからだが、オグリキャップのように、当人は突然変異か隔世遺伝で『第一級』になれたが、兄弟や子、孫に至るまで、第一級馬が出ていない例、タマモクロスのように、子孫は親の能力を受け継がず、血統の存続が危うくなっている例もある。シービーとブライアンも、色々な要因で直接の子孫は残っていない。(シービーは子世代が孫世代を儲けられない、ないしは孫世代からG1馬が出なかった)。ルドルフもテイオーが『自分と父のように、大成できた子を出せなかった』ことから、血統が絶える寸前である。

 

「ああ。しかし、子孫が天才の能力を受け継ぐことほうが珍しいんだな」

 

「遺伝子のいたずらや。マックイーンの婆さま(メジロアサマ)、かーちゃん(メジロティターン)、マックイーンの三代が珍しいんや。そのマックイーンにしても、能力を受け継いだのは子やなくて、史実での孫の世代や。ゴルシ、オルフェーヴル…。あんたにしても、婆さまの遺伝やろ?」

 

「面識はないが」

 

そこは苦笑交じりのオグリ。オグリが生まれた時代、既に祖母『グレイファントム』は逝去していたので、面識はないからだ。競走馬の世界で『ある強豪馬の直接の子が一流になる』ことは非常に珍しい。故に、エアグルーヴの代でサンデーサイレンスの血と交わることで隆盛し、その子のアドマイヤグルーヴ、ひ孫のドゥラメンテ、玄孫のタイトルホルダー。実に五代もの間、繁栄を謳歌する『ダイナカールの系譜』が如何に稀有であるかという話だ。

 

 

「おっと、今日はTV局で歌うんだった。この前のマラソン大会で、私たちの存在が知れ渡ったろ?それで、フジ(フジキセキ)やマルゼンと一緒に歌を歌うことになった。おそらくは『UNLIMITED IMPACT』を歌うことになるという話だ」

 

「ずいぶん、珍しい組み合わせやな」

 

「おそらく、世代最強、ないしは候補と目されながら、何らかの要因で順風満帆なレース生活とはいかなかった繋がりだろうな。フジは三冠候補を謳われたが、早期に引退を余儀なくされた。日常生活に支障はなくなったが、措置がなければ、レースに戻れなかったはず」

 

「悲劇のウマ娘の一人という評判やからな、アイツは」

 

 

フジキセキはマヤノトップガン世代での三冠候補第一を謳われたが、トレーニング中の事故で事実上、選手生命を断たれてしまった。もし、肉体が健全であれば『ナリタブライアンに続き、三冠を取れていた』と評されている。ブライアンやオグリの勧めで措置を受け、全盛期の肉体を取り戻したが、現役時代から走法を変えている。走法が事故の要因であったからだ。意外なことに、レース生活へのデビューはマヤノトップガンと同時期にあたるため、レースの上では、テイオー/マックイーン世代の後輩にあたる。

 

 

「…ん、そろそろ時間だ。マルゼンが迎えに来る。奴は張り切っているぞ」

 

「あかん。マルゼンが口を開いたら、大恥かく事確定や。2020年代に『チョベリバ』とかの死語を連発させるわけにあかんで。お茶の間が凍りつくで…。ウチもついてくことにする」

 

「別にいいだろう?」

 

「アホぬかせ。21世紀の世の中に、前世紀の遺物な死語を連発してみぃ。場が凍りつくで」

 

と、辛辣な発言ぶりだが、タマモクロスはマルゼンスキーの体面を考えている。オグリは気にしていないが、関西人かつ、ツッコミ気質の彼女はTVを通して、マルゼンスキーが『死語を連発するのを心配している。(史実では、10年近くも活躍した時代に差があるが、ウマ娘としてはそれほど遠くない差である)故についていくことにしたようで、出かける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘達の関係性は史実とは多少の差異が存在する。サイレンススズカとスペシャルウィーク(史実では親類にあたる)が寮の同室で先輩後輩関係、トウカイテイオーがメジロマックイーンを明確にライバルと見なしている(史実では、マックイーンとの対決は一度のみ)、ナリタブライアンが殆どの同期をライバルと見なしていない(史実で負けたサクラローレルのことは明確に意識しているが)、など。史実の因果に引きずり込まれそうになったが、それを抜け出した者たちは『運命を超える』事を目指している。例として、メジロマックイーンは表向きは療養と発表し、隠遁生活を送りつつ、措置で全盛期の能力を取り戻しているように――

 

 

「先輩はなぜ、トレーニングを再開なされたのです?」

 

「一つは体力の維持だ。ウマ娘は人間でいう成人頃の年齢からは内面から衰えていく。特に、身体能力に顕著だ。ヒトは30代半ばでパフォーマンスに衰えが出始めるが、ウマ娘の場合は早い者では、18歳に達した途端に始まる。サクラチヨノオーがそうだったように」

 

トウショウボーイがマルゼンスキーに言うように、ウマ娘という種族は謎も多く、人型の構造をしているのに、馬類がかかる怪我を発症し、選手生命を絶たれる例は枚挙に暇がないなど、完全にはヒトと共通しない点が存在する。精神的要因で能力が伸び悩むなどの現象もあるため、史実の因果が縛っているのは嘘ではないだろう。ただし、それさえ乗り越えれば、前世で届かなかったものを得られる。スズカがそうであったように。

 

 

 

「サクラチヨノオーはシニア級に突入した途端に能力に減退が起き、怪我が治りきらずに引退した。お前の無念を晴らすことが彼女の役割だった。それを果たして、彼女はターフを去った。その仇討がしたいのなら、お前がそれを為せ」

 

「は、はい」

 

マルゼンスキーは地味に、先輩格のトウショウボーイから難題を課された。サクラチヨノオー(史実での子)の仇討をしたければ、運命を超えろと。

 

「ご自分でされないのですか?」

 

「私達もそれは考えてはいる。だが、親に止められていてな。テンポイントは死にかけたから、なおさらだ。私とて、シービーの仇討はしたいさ」

 

トウショウボーイも現役復帰を考えているようだが、ライバルのテンポイントの復帰は(引退直後に生死の境を彷徨う大怪我を負っていた事もあって)極めて困難であると述べる。ウマ娘の肉体的全盛期は極めて短いという常識も足かせになっている。多くの場合、競走馬が人型の肉体を得て転生したと思われるので、肉体の最大ポテンシャルを維持できる期間は『ヒトより短い』。競走馬の全盛期は『半年から一年半程度』である事に当てはまるからだが、それを覆そうとする動きも出てきている。

 

「だからこそ、次のドリームシリーズは試金石なのだ。ロートルと言われていようと、現役を倒せる事を証明するという、な」

 

 

 

ウマ娘は基本的に4年以上もトゥインクルシリーズにいると、世代交代をせっつかれる。だが、オグリ、ルドルフなどの第一級のスターがいて、ターフから去った後、次代のスターが現れるまでの期間のウマ娘は注目されない。また、ライバルが少なくても、世間は疎んじる。メイショウドトウが唯一、対等に戦えたテイエムオペラオーがそうである。なお、同世代のアドマイヤベガ、ナリタトップロードはオペラオーの全盛期には対等とはいい難かった事も、オペラオーの孤独と悲劇に繋がってしまった。G1レースを七勝しながら、世間が手放しに祝福しなかったのは彼女くらいである。(史実でも顕彰馬になれたのは、引退から数年後の事だ)トウショウボーイは直接の後輩であるマルゼンスキーに、協会の抱える事情を教え、奮起を促す。ドリームシリーズの存在意義の証明のためだと。引退組を現役組が見下さないようにしたいという声が、一つのうねりとなっていたのだ。これは将来的に、ディープインパクトがルドルフの後継的な地位につき、次代の絶対王者になることがほぼ確定していた故だ。ゴルシがそのメタ情報をもたらしたことで、それが規定事項のように扱われていく事への反発がドリームシリーズの拡大を後押しした。テイオーとマックイーンが現役を続けられたのは、その動きを上手く利用したためでもある。ある種のディープインパクトの強大な能力への挑戦の風潮が呼び込んだ動きと言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――街の何処か――

 

「オジキか。……そうか。腹は決まったかい」

 

「ルドルフ会長へ伝えておけ。いつでも挑戦は受けるとな」

 

「ヒュウ♪言うねぇ」

 

「ジュニア級のレースとトロフィーは総なめした。来年を楽しみにしておけ、ゴルシ」

 

「ああ。頼んだぜ」

 

ディープインパクトはゴルシとは史実での関係で接しているため、ゴルシは『歳の近いおじに接する甥っ子か姪っ子』として接している。大人びた外見ながら、ゴルシが意外に若い事の表れでもあるが、ごく稀に、ウマ娘に前世の記憶がデフォルトで備わる場合がある事の証明のような電話であった。ゴルシは競走馬としての自身がそうであるように、自由気ままに行動する。しかし、その一方でトレーナーの予測も超える策略を練っている側面がある。前世で自身の『おじ』であったディープインパクトと組み、何をするのか。それは二人だけの秘密である…。

 

 

 

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