ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百七十四話「会話と状況 3」

――ダイ・アナザー・デイで起こった混乱はウィッチ世界自身の未来技術も64Fに流れる事になった。その後の太平洋戦争での事。

 

「未来の時間軸から送り込まれた兵器?」

 

「ああ。70年後も研究が続いて、ウルスラの娘が50代になる頃に実用化にこぎつけたものだ。ドラえもん世界のゲームにあったゲームの機体を参考に造ったらしいが、つか、言っていいか?ブランシュネージュだよな、これ」

 

「ええ…。縁がないとは言えないんで、私が乗っていいですか?」

 

「構わんよ。送り主の『ウルスラの子』も好きに使ってくれとのことだ。元々は第三世代理論式の追加ユニットとして造っていたが、開発予算を得るために、搭乗型の人型兵器に変更したそうでな」

 

「いつ頃の建造なんです?」

 

「うちの世界での2003年頃。ウルスラの子が50代になる頃で、完成は2006年だが、その頃には、中東地域の怪異の鎮圧に目処が立ったとかで、倉庫の肥やしになりかけてた。そこで、『過去の世界でデータ取りさせてくれ』と、うちのガキ越しに要請があった」

 

「交代で来て、まさか……ブランシュネージュを見る事になるなんて。すると、扶桑は2000年代には?」

 

「人型機動兵器の自主開発能力を得てるってことだ。のぞみはしばらく休暇だから、その間を頼むぞ」

 

扶桑が2000年代に建造したはいいが、使いどころが無くなった機動兵器。それが過去に送り込まれるという、なかなかにSFチックな話である。

 

「ところで、のぞみのほうは?」

 

「ああ。ウマ娘達とやってるようだ。競走馬のいわば転生のような存在だから、世代交代が早いペースで進むようでな。それに抗いたい思考があるようだ。彼女らはある意味、サラブレッドの負の側面が社会に反映されちまってるようでな。世代交代はすべきだが、一流は一流であり続けて欲しいっていう願望もある。ある意味、俺たちやお前ら……プリキュア以上に『落伍者』や『ロートル』に冷たい空気がある。サラブレッドの世界じゃ、最速、半年で世代交代が起こるからな」

 

キュアサンシャインにそう漏らす黒江。部下の黒田が牧場を経営するようになり、競走馬を育成しているためか、サラブレッドの性……悪く言えば、『使い捨て』に近い性質が人型に進化しても、色濃く反映された社会構造になってしまっているウマ娘には思うところがあるようだ。

 

「アスリートには引退する時は来ますからね。でも、サラブレッドは人間より遥かに残酷な形でそれが来る…。オグリキャップやキタサンブラックみたいに、幸福な形で引退ができるのは一握りですからね、はっきりいって」

 

「ああ。黒田の奴が数年前から牧場を経営してて、それを見学した事があるが…。サラブレッドは人間が『競走のために、数百年もかけ合わせていった』動物だ。その性質がウマ娘の世界では、『社会構造の段階』で浸透してるみたいだからな。だから、反発が起きたんだろう。花形と言われるレースを引退した顕彰ウマ娘達による競走を『サーカス』と批判する風潮すらあるというからな」

 

 

ドリームシリーズは元々、トゥインクルシリーズで功績を挙げたウマ娘達への福利厚生ということで生み出された。レースの体裁は取っているが、現役時の戦績にプラスがあるわけではないので、一種の興行と言える。レース以外に存在意義を見いだせず、そこからの転職も上手くいかず、非業の最期を遂げたウマ娘がおり、いくつもの名家(ヒシ一族の嫡流など)が絶えた時代があった。そのことを受け、『エンターテイメント』として生み出された。名目上は上位リーグだが、実際は『一定以上の功績のある顕彰ウマ娘(無論、全盛期を過ぎている)たちの『レースの体裁を取る』興行と化しており、TTGは(テンポイントの反発もあり)資格はあるが、参加してこなかった。別のスポーツでいれば、フィギュアスケートのプロスケーターのようなものだが、プライドの高いウマ娘は『ドリームシリーズへの誘い=肩たたき』と解釈し、トゥインクルシリーズにずっと在籍し続けるという問題があった。シンザンやトウショウボーイは、ドリームシリーズを改革する事で、ドリームシリーズを真の意味での上位リーグにし、それでいて、トゥインクルシリーズの立場は尊重したいという『矛盾に満ちた思惑』を叶えようとしているのだ。

 

「顕彰ウマ娘達によるレースを『オールスターゲームみたいなお遊び』じゃなくて、『真剣勝負』に変えたいと、かの神馬『シンザン』は言ったそうだが……」

 

「シンザン?」

 

「戦後初の三冠馬だったサラブレッドだ。在りし日は日本競馬界の王者として君臨した。あのハイセイコーよりも『かなり前の世代』だから、若いもんはわからんか」

 

 

黒江は苦笑交じりに説明する。その昔、日本競馬界の王者として君臨し、王者の地位が世代交代するには、シンボリルドルフの登場を待たねばならなかったほどの偉大な存在だと。トウショウボーイらの動きの背後には、『ウマ娘の神』とさえ謳われたシンザンの存在が見え隠れしている。シンザンはメジロアサマ(マックイーンの祖母)の先輩でもあり、生存中のウマ娘としては最高位に近い地位にある。その容貌は(生存中のウマ娘で上位の高齢を考えれば)非常に若々しく、後輩のメジロアサマが年上に見えるほどの容貌を保っているという。(これは現役時代に時代相応の特訓を積んでいたことの名残りと本人は述べている)それでいて、全盛期の頃のルドルフを一目で萎縮させるほどの覇気を纏う(シンザンの後輩かつ、ルドルフの祖母である『スピードシンボリ』は苦笑交じりにシンザンを諌めているが)力を残す。

 

 

「なるほど……」

 

「古い表現だが、シンザンがカラスは白いと言えば、みんながそれに追従する。それほどの権威があるのさ。そこまで行けるのは、そうはいねぇよ。そのシンザンから親書が来たが、何事かと思ったよ」

 

シンザンは21世紀でも『最強のウマ娘だった』という声は絶えない。野球でいえば、黄金時代の読売ジャイアンツを21世紀の時代のチームを比べるようなものだ。だが、マルゼンスキーやシンボリルドルフの世代とスペシャルウィークなどの『黄金世代』が同時代を生きているのに対し、シンザンやその直近の後輩らは現役組の祖父母世代という点で、不思議な帳尻合わせという他ない。シンザンをも凌ぐ権威があるのは、トキノミノルか、セントライトのみだが、いずれも戦前と戦後の活躍馬であるため、存命中であるかは怪しい(トキノミノルの方は戦後なので、まだ希望はあるが)。とはいえ、シンザンは歳の離れた妹(娘でも不自然ではないため、娘説も根強い)のミホシンザンが実質の後継者である。(史実ではシンザンは種牡馬としても、一時代を築いたが、名が後世に残る子孫は意外に少ない。競走馬としてのシンザンの直系の子孫は孫のマイシンザンで絶えているとの事)

 

「彼女は引退したウマ娘に『生きがいを与えたい』ようでな。ハマノパレード、ハードバージの悲劇を繰り返したくはないとの事だ。そこで、上位リーグという触れ込みで存在するが、実際は全盛期を過ぎた顕彰ウマ娘の興行とバカにされてるリーグを改革するという意志を見せている。そのためには、競争者として健在なウマ娘達が全盛期の力を取り戻す必要があると述べているよ」

 

黒江はキュアサンシャインに、シンザンから自分への親書が来たことを話す。つまり、黒江とドラえもん達の善意が偶然にシンザンの願望を実現させたため、シンザンが自身の思惑半分、願望半分の想いを叶えるために接近してきたというわけだ。プレストウコウやヒシスピードのように、存在自体が忘れ去られる悲劇を起こさないようにするためには、顕彰制度だけでは不十分なのだ。

 

「顕彰を受けられるのは、三冠やそれに匹敵する実績がある奴だけ。選考側の好みもあるから、馬体の小ささだけででなれなかった名馬もいる。今までのは、黒田から聞いた話の受け売りだが、その性質を色濃く受け継いじまってるのは確かなことは確定したよ」

 

タイシン、ブライアン、テイオー、マックイーンの四名が『新世代の台頭』は受け入れつつも、檜舞台を降りない選択を取りたがり、それに追従するウマ娘が増えていってる理由はおぼろげにしかわからなかったが、シンザンの親書を読んだおかげで、『線と線が繋がった』。

 

「どうするんですか?」

 

「任意での措置であると、先方に通告するよ。そうでないと、引退組と現役組のバランスが崩れちまうからな。とはいえ、『最盛期のポテンシャルがまた出せるようになる』って噂はいずれどこかで流れる。意思確認はハッキリと交わした上の『特別措置』と注意喚起を促したほうがいいだろうな。現在の予約分は終えた上で、だが」

 

この時点で、大物ウマ娘達の多くが措置を受けていたか、予約をしていたため、その分は契約通りに終えなくてはならないとしつつ、新規の依頼は審査を厳しくするつもりであった黒江。この時点までに受けたウマ娘はテイオー、マルゼンスキー、マックイーン、フジキセキ、ナリタタイシン、ナリタブライアン、マヤノトップガン、オグリキャップ、タマモクロス、シンボリルドルフなどの時代ごとの有力ウマ娘であった。また、メジロ家は『血は残るが、家の将来的な衰退』(ドーベル/ブライトの後が続かないのだ)の未来が待っていた(ドーベル、ブライトの後の世代は駄馬が続き、メジロ牧場は災害による痛手もあり、命運は尽きる。だが、メジロマックイーンの孫世代にオルフェーヴルとゴールドシップを輩出する)という未来が待ち受けるため、『メジロ家の衰退』の運命を覆すために、マックイーン世代は現役を続けることになる。それは、ある意味では残酷な宣告でもある。『ドーベルとブライトの後の世代のメジロには『第一線で戦える力はない』ことを意味するからだ。だが、マックイーンやドーベルにしてみれば、『自分達の代でメジロ家が消えゆくこと』は耐えられない。その苦悩の果ての選択であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――前線では、各部隊が人材のやりくりに四苦八苦するようになり、新人の配属を懇願する部隊も現れた。後方配置のパイロットを最前線に配置しなければ、64Fに負担がのしかかるからだ。流石に日本側も認めざるを得なかった。21世紀でも、教導隊や実験隊所属のパイロットが実戦部隊に再配置されるのは当たり前にあるからだ。前線のパイロット達は労働時間が『過労死ラインの一歩手前』に達している部隊もあり、流石に交代要員の配置は(人道的観点から)認められた。既存部隊の肥大化はこうして起きていくわけだが、相手がリベリオン合衆国である以上、人的資源に限りがある扶桑皇国は『一騎当千を求めつつ、科学力で圧倒的に差をつける』しか手がないため、第三/第四世代ジェット戦闘機の大規模配備は必須であった。その兼ね合いでF-4系列が嫌われていくのは、戦闘機=単座の認識が強い時代であるからだが、運用ノウハウがあり、艦爆/艦攻/水偵出身者を有効活用できることもあり、同機も徐々に配備数を増やす。彗星/流星/天山/彩雲などの代替用途で使われるからで、ジェット戦闘機の普及の進展は扶桑の空軍力を世界最高峰に押し上げていったが、同時に、史実で実績ある機種の生産しか認めない合理性至上主義な防衛省の姿勢は反発を呼んだため、震電の系譜が生き延びる。防衛省の目指した『合理化』を阻んだのが『人情』な点は、日本の特殊性だろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

――他国の大半が戦後第一世代の配備すら四苦八苦している最中、その更に数十年後の機種をすることは『チート』そのものだが、ストライカーの方は魔導理論の進歩が相応に起きなければ、実用化は困難であるため、1949年当時の陸戦ストライカーは45年当時に最新であったものののマイナーチェンジに留まっていた。第二世代理論式の陸戦ストライカーは『共通シャーシ』の開発が遅延した影響もあり、未だに試作品の段階。45年当時の最新型を改善したものが主流のままであった。とはいえ、機械化装甲歩兵といえど、人同士の戦争での効果は装甲車両と比べ、コストパフォマンスの良さは評価されたが、人数の確保が困難&制空権の確保が必須なため、戦車同様の運用制限がある。その制限のないプリキュア達は重宝されていた。これは銀河連邦警察が銀河連邦の軍隊の役目も担っているのと似たようなものである――

 

 

 

 

 

 

――シンボリルドルフは出走予定が入ったものの、当分は先のことであったためと、生徒会長という身分から解放されていたため、キュアハートの体を借りている状態を続けていた――

 

「会長、そのような戯れをまだ続けておいでなのですか?」

 

「私は辞職を表明した身だよ、エアグルーヴ。せっかく、長年の責務から開放されたのだ。少しは楽しみたくてね」

 

ルドルフは生徒会長という立場から開放されたため、エアグルーヴの前では在職時と同じ口調で応対しているものの、どことなく以前ほどの迫力はない。当人が『生徒会長としてふさわしい迫力を出す』ように意識していないからだが、それでも、王者としての風格は損なわれていない。心に染み付いているからだ。

 

「ルドルフの好きにさせてやれ。こいつは羽目を外したいんだろう」

 

「ブライアン、お前にしては珍しい真似だな?」

 

「金鯱賞は取ったし、私とお前は留任だから、後任への引き継ぎの必要もないからな。それに、マスコミの応対は柄じゃない」

 

ブライアンはまた、ドリームの体を借りたようである。久しぶりに重賞レース、それも金鯱賞を優勝したため、マスコミが押し寄せたが、本人はマスコミへの応対は元から億劫な上、不振期における掌返しで不信感を持ったため、最近はマスコミへの応対を(入れ替わっている際は)のぞみにやらせていたりする。その場合、ブライアン本人よりは声のトーンが多少高いが、ブライアン本人が元からハスキーボイスなため、違和感は少ない。

 

「彼女にまた頼んだのか?横着しおって」

 

「怪我で不振だった時期に、『ナリタブライアンは終わった』……なんて書かれてみろ。ブンヤ連中が鬱陶しくなるぞ。姉貴はよくあしらっていられたもんだ。あいつなら、割に無難に応対できるし、姉貴の引退式の前だ。面倒事は起こしたくない」

 

ブライアンはキュアドリームの体を借りていても、五冠を達成した故の風格を感じさせていた。武道は嗜みと護身程度に、両親から武術を習わされていた。先輩のヤエノムテキと違い、嗜み程度のものだが、それでも普通に並のプリキュアより強いのだ。年下には姉御肌な事も、ドリームの性格への印象が個々の後輩プリキュアの間で差異が大きい理由の一端は、ブライアンにあったりする。

 

「待て。聞くが、お前、プリキュアとしての戦闘をしているのか?」

 

「自衛と犯罪の制圧目的でしてるだけだ。元々、ウチの親父やおふくろが武術を習わせていた関係で身のこなしは身についているし、ある時に間違って酒を飲んで、酒乱したヤエノムテキを取り押さえた事もあるからな」

 

「何、初耳だぞ?」

 

「ある時の広報活動の一環で、奴がエナジードリンクのCMの撮影に出ていた時の事だ。スタッフのミスで、ヤエノに渡されたのが酒だったんだよ」

 

「先方のミスな上、そのエナジードリンクの販売会社は、協会の協賛スポンサーでね。こちらとしても、内々で処理するしかなくてね。君には知らせないことになったのだ」

 

 

ルドルフ(外見はキュアハート)が補足する。ブライアンはある時のエピソードを打ち明ける。エアグルーヴの預かりしらぬところで起こり、処理が決められたため、エアグルーヴは初耳であった。とはいえ、武術の道場の道場主の孫娘であるというヤエノムテキを制圧できるくらいの武術の心得がブライアンにあるというのか?エアグルーヴは疑問なようだった。

 

 

 

 

 

――その日、学園都市の能力者崩れのチンピラが学園都市から持ち込んだ大型重機で破壊行為に出たという通報があり、ナリタブライアンはキュアドリームとして、その鎮圧に当たった――

 

「やれやれ。街を壊されるわけにはいかない。こいつでケリをつけさせてもらう」

 

ブライアンは自身の能力を活かしての高速の剣戟戦闘を行った。のぞみより剣戟の熟練度は上であった(剣道を幼少期に習っていたらしい)ため、ブライアンが入れ替わっている時は『脚質を活かす』という意味でも、剣戟戦闘を行う。

 

「この剣の切れ味は……伊達じゃない!!」

 

キュアドリームの持つ能力で、空間に満ちるエネルギーを固定、実体化させ、『両手持ちの大剣』を生成、それを構える。そして、背中の純白の翼(ドリームはパワーアップを重ねた結果、通常フォームでも『天使のような羽』を展開できる。これは既に、現役初期段階でなった場合の『スーパープリキュア』を超えている事でもある)

 

「わかっていると思うが、操縦席は外せよ」

 

「ああ。警察の代わりということは心得ている」

 

エアグルーヴが心配そうに忠告する。ブライアンはそれに頷きつつ、攻撃を開始した。

 

『風を――……光を超える!!」

 

怪物とまで謳われたその脚力と、三冠ウマ娘故の『閃光』のような身のこなしで、『幼少期の経験』だけでは説明のつかない『熟練した斬撃』を連続して繰り出していく。ハヤヒデの話では、自主的に『何処か』に通っているとの事だが。

 

「速い……全盛期の頃の全速を完全に……!」

 

サイレンススズカには能力で及ばないが、オークスの覇者であるエアグルーヴが見ても、ブライアン(キュアドリームの体を借りている)の踏み込みの力、そのトップスピードは全盛期のそれに戻っていると判断するに十分な光景であった。

 

『奥義・光刃閃ッ!!』

 

最後に居合の要領で、操縦席のある中央モジュールのみを機体から切り離す。重機が外観からして、そうしやすいレイアウトだったのもあるが、その周辺の構造材を上手い具合に叩き斬り、操縦席周辺のみを切り落とすというのは、彼女の剣技が『素人のレベルではない』ことを妙実に示している。反撃の間も与えずに連続した斬撃を繰り出せるということは、どこかで武術を習い続けていることの証だった。

 

 

 

「お前……その剣技、どこで……?」

 

「ウチの親父の知り合いに、ガキの頃から習っていたものだ。精神鍛錬にいいとか言われてな。気がついたら、かなりの段位になっていた。本当は居合は『抜かずに勝つ』ものだが、それは武道としての心得だからな」

 

ブライアンは現代的な武道の心得と、生き残るための非常時の対応は区別して考えているようである。武道の心得は大事だが、危機に陥った時は話は別であるという事だ。実際、居合の達人とされた幕末の大老『井伊直弼』は桜田門外の変での際に、襲撃に応戦しようにも、最初に銃で体を撃ち抜かれ、まともに動けぬ状態に陥った末に死を遂げているという。

 

「お前、武道の心得を蔑んでいるのか?」

 

「違う。場を弁えているだけさ。せっかくの術を腐らせておくほど、私はカタブツじゃない。火急の危機には『かかる火の粉は払う』だけだ」

 

実際、武道と武術を分けて考える考えはあるし、有事に武道の心得など通用しないのも事実だ。

 

「カタブツ過ぎても、良いことはないぞ。うちの姉貴のように、イレギュラーな出来事が起こった後に動揺した事も、屈腱炎発症の原因だからな」

 

「お前、やはり……」

 

「……なんとでも言え。ここに戻る時、姉貴は……一発殴ってきた」

 

屈腱炎は精神的要因でも発症する。ハヤヒデは(史実の因子があるにしろ)テイオーとの競り合いからの敗戦で精神的に動揺したことで、脚に負担をかけるトレーニングをしてしまい、発病を早めたのである。ウマ娘世界の医療技術では、屈腱炎と繋靭帯炎の完治は実質的に不可能であることはエアグルーヴも知っている。故に、ブライアンはなりふり構わなくなったとも取れる態度だ。その一方で、精神的動揺で、競走寿命を縮めた姉と口論になり、姉の態度に納得がいかなかったため、派手にぶん殴ってきた(それを聞いたウイニングチケットは大いに青ざめ、タイシンは腰を抜かす羽目に陥った)ことを明言する。

 

「な、なぐっ…!?」

 

さすがのエアグルーヴも動揺するが、ブライアンの表情に哀しみが混じった事から、ブライアンも根底では『姉を慕う妹』であり、幼少の頃からの約束を破ってしまった姉への怒りと哀しみがごちゃごちゃになった勢いでやってしまったのだと察した。普段は無頼漢でも、姉とレースが絡むと感情的になる弱さが残っているのだと。エアグルーヴはそんなブライアンの様子に、かける言葉もなかった。

 

 

 

 

 

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