第三百八十二話「二二世紀からの刺客とは?」
――ドラえもんが持つ道具『ころばし屋』。これはいかなる相手でも、必ず三回は『ど派手に転ばせる』という仕返し用のひみつ道具。未来世界で市販されたものはそんなスペックだが、未来デパートの日本の道具研究所跡地にあった落雷の影響で覚醒めた試作品は未来デパートの誰かが『ひみつ道具コンテスト』に応募するつもりで、いくつかのリミッター機能が削除された恐るべしものだった――
「ノビタダか。何、未来デパートの残務処理局(未来デパートはアナハイム・エレクトロニクスとの合併で、ある時に運営会社としては消滅していたが、ひみつ道具の回収が主な残務として残っており、戦乱期に当たり、地球連邦政府の一部局として発足していた)から?……何、ころばし屋の改造品?」
「そうなんだ。統合戦争の数年前、ある研究員がコンテストに応募するつもりで改造してた個体でね。それが落雷で覚醒めたらしい」
「どこのSF映画だ!それで?」
「おじいさんの時代に向かったよ。その研究員がいたずらで、おじいさんからセワシおじいさんまでのデータをインプットしておいたんだって」
「なぬ!?その研究員、ジャイアンの末裔か?」
「いや、スネ夫さんの末裔だって。たぶん、ノビスケおじいさんのせいだね」
「あいつはかみさんやおふくろに似たからなぁ。原因はわかった。…それで?」
「その改造ころばし屋が21世紀に向かったから、注意してくれ」
「普通のころばし屋で止められないのか?」
「無理だ。スペックが違いすぎる。気をつけてくれ」
「コードはわからんのか、当時の開発コードは」
「『Z』だそうだよ。欠陥を指摘されたんで、量産されなかったが、少数が試作されてる。その一体がひょんなことで覚醒めた」
「分かった。また何かわかったら、連絡してくれ」
ノビタダ(自らの転生体である子孫)からの連絡を受けたのび太は、ころばし屋の派生個体が自分の家族を狙うことに困り果てた。スネ太郎、スネ樹(長男と次男)のどちらかの子孫がちょっとしたいたずら(先祖の遺恨を晴らすためもあるだろうが)で、自分の家族を標的のサンプリングにされたのび太はこの電話の後、即座にスネ夫に抗議。流石にスネ夫も気まずくなり、ころばし屋討伐に協力することになった。
――ころばし屋。それは未来デパートがドラえもんが活動していた時代に市販されていた『いじめられっ子のしかえしグッズ』の事である。昔のギャング映画の殺し屋をデフォルメしたような姿のロボットだが、自らの数十倍もの大きさの相手を『転ばせられる』。子供のしかえしグッズとして市販されているものなので、あくまで『転がす』だけだが、かなりのダメージは与える。それを改造し、大人のしかえしグッズというコンセプトで設計されたが、色んな意味で企業倫理に反しているため、正式な商品化は見送られ、試作品のみが倉庫に眠っていた。だが、それから半世紀以上後の23世紀。統合戦争の被災地を整備した公園の敷地内に倉庫跡地があり、そこへ落雷があり、その電気エネルギーが倉庫跡地(地下部は空襲に耐えて無事だったため、そこで眠っていた)に眠む『彼』を起動させてしまった。なんとも、SF映画じみた話である。その『欠陥品』は武装・能力のいずれも従来のころばし屋より遥かに強力で、ゴルゴ13とのび太レベルの射撃にも対応できる。未来デパート残務処理班はこの個体を『サディスティックなころばし屋』と評し、23世紀で活動を再開したタイムパトロールに対処を依頼したが、たやすく無力化されたという。21世紀へ向かったそのころばし屋とは……――
「何、あぶねぇころばし屋が23世紀から?どういうことだよ、説明しろ!……未来デパートの倉庫跡地から…?…ああ。ああ……そいつは不味いな。特にあたしらには重大な脅威だ……わかった。ミーティングで説明する」
ドラえもん(ボディと人工知能のオーバーホールのため、23世紀のアナハイム・エレクトロニクス社を訪れていた)から連絡を受けたゴルシは、すっかり、野比家になじんでいる様子を見せる。ころばし屋はウマ娘には重大な脅威になる。何故か?全速力で走っているウマ娘は一流の能力値を持つ者なら、時速70キロを超える。そこを転ばせられたら、どうなるか。確実に重傷を負ってしまう。ゴルシは事の重大さを悟り、通常版のころばし屋を時間稼ぎに使えないか思案しつつ、皆へメールで緊急事態と説明するのであった。
――ころばし屋の脅威は『どんな存在でも、転がせられる』という点で、ある時(2002年前後)に、のび太とドラえもんが試しに『実物ミニチュア百科』で取り出した模型サイズの『エヴァンゲリオン』(三体)で試したところ、何と『フィールド』を無視して転ばしたのである。他にも、全長130mはあるマシーン兵器(シズラー白の残存個体)の本物で試したところ、見事に転倒させた。しかも、市販されていた個体が、である。ある意味では『子供のこづかいでも雇えるゴルゴ13』に等しい。それを改造した個体は如何程のものか。ある意味、小さなターミネーターと言える……――
――ひょんなことで騒動の予感が伝えられたススキヶ原だが、2020年代を迎え、再開発も一段落。のび太らの子も小学三年になろうとしていた頃。ススキヶ原は扶桑空軍が払い下げたレシプロ戦闘機で武装し、野盗化したカールスラント軍崩れの集団と自衛のための空戦を行っていた。自警団はカールスラント軍崩れの野盗や、学園都市崩れに対抗するために、住民が立ち上げたもので、学園都市を離れた『成人した能力者』も属している。日本警察は基本的に学園都市周辺の治安維持に無関心という『治安維持組織にあるまじき姿勢』を取っており、自警団はそれが顕著となった頃、自主的に結成された。幹部にダイ・アナザー・デイで戦功を立てた義勇兵がおり、その彼が元から資産家であったこともあり、扶桑空軍払い下げの戦闘機を購入。表向きは航空ショー用のアトラクション機、その実態は戦闘機のままという『法の網目を扶桑という隠れ蓑で潜っている』のである。機種は扶桑で数の多い『五式戦闘機』と『紫電改』、『雷電』が主であった――
「このドイツ軍崩れめ!」
この日も自警団が学園都市に流れ着いた『カールスラント軍を追放された軍人』たちの送り込む『Bf109』と空戦を繰り広げていたが、史実ほど鍛えられていない彼等では、ダイ・アナザー・デイをくぐり抜けた猛者が多数、属する自警団に劣勢となるのは自明の理である。ドイツ機の運動性能(一撃離脱戦法が主体であるが、横の運動性能もないわけではない)は巴戦に半ば特化していた日本機には及ぶべくもないのと、ウィッチ世界の戦闘機は防弾板を外し、運動性能を上げていたのが仇になり、7.7ミリ弾程度で、すぐに胴体がへし折れる有様。扶桑機は史実通りに防弾と火力を強化していたのが功を奏し、喪失機は無し。これはリベリオン軍とシーソーゲームを繰り広げる都合上、防弾を強化しなければならなかったためで、カールスラント軍がBf109を生産中止にした理由の一つでもあった。
「各機、敵は練度が低い。カモにしてやれ。日本人を舐め腐った報いを受けさせろ!」
と、リーダー(ダイ・アナザー・デイ従軍者。元・大日本帝国陸軍の航空兵)が指示を飛ばし、自身も五式戦闘機の20ミリ機銃でメッサーシュミットを叩き落す。他の機体は彼の指示通りに動き、敵を落とす。ダイ・アナザー・デイの従軍経験者が乗っているからだ。
「低空での格闘なら、こっちに分がある!各機は横方向の運動戦に持ち込め!火力じゃ敵わんから、照準をつけさせるなよ」
ドイツ機は横方向の格闘には強くないため、それに特化した進化を辿った日本機へは意外な『脆さ』を露呈。自警団は紫電改、五式戦といった機体を操り、(カールスラント軍崩れ側の経験不足もあり)戦果を挙げていった。メッサーシュミット側は態勢を立て直し始めるが、低空でのドッグファイトで無類の強さを持つ日本機が得意なテリトリーでの行動に徹したことも優位の理由であった。その模様は後日にニュースとして報じられるのであった。
――自警団はあくまで、住人の有志の集まりであるため、従軍経験のある者が他を引っ張るという組織図である。警察が動かず、自衛隊の正規部隊の出動には高いハードルがある現状、カールスラント軍崩れに対応するには、それしか手がなかった。いわゆる緊急避難という奴だ。航空装備は『航空ショー』の名目で集めた。扶桑から輸入した後も武装は取り外さず、自警団活動の本格化とともに、扶桑から融通した弾薬を使用している。ススキヶ原という特殊な地だからこそ、黙認されている節があった。カールスラントが日本連邦に低姿勢になっていった理由は、『装備を持ち出した軍隊崩れが日本の街を空襲する』からである。カールスラントの混乱はNATO軍政下でも続いたため、軍隊崩れが持ち出した装備が相当数に登った事もあり、カールスラントの軍事的零落は避けられなかった。過去に「He111」と「Me262」をカールスラント軍部が直接的な輸出を拒んだことがスキャンダルとして報じられたため、カールスラント軍部は面子丸潰れになり、それも近代化名目での縮小傾向が続く理由となった。結局は相当数の航空機が軍隊崩れの手で持ち出され、彼らが組織の傘下として、日本へのテロ行為に加担。こうして、日本連邦は航空自警団の存在を黙認せざるを得なくなった――
――結局、これらの空戦の報を聞いたメッサーシュミット博士は史実通りに『可能な限り小型の機体に大出力のエンジンを付ければ、その機体は自ずと名機になる』という持論が技術進歩で否定され、重戦闘機が跳梁跋扈する(ジェット戦闘機に至っては、レシプロ時代の双発爆撃機以上のサイズである)有様になったのに衝撃を受け、意気消沈。カールスラントの混乱で事実上、仕事を失った事もあり、結局は史実通りに不遇の晩年を過ごす事になった。対照的にタンク技師は(ウィッチであったため、史実より遥かに若い)HF-24が一定の成功を収めた事もあり、悠々自適な人生となり、日本連邦の軍需産業で技術顧問としての地位を持つに至る。カールスラント航空産業は軍用機の主流が米軍機か、その派生設計に統合されていくに従い、装備の殆どの自主開発能力を喪失する結末を迎えるが、陸戦装備は対照的に存在感を示し続けていく。それがドイツ軍需産業の運命である。皮肉なことに、『組織』も戦闘爆撃機として『Fw190』のほうを多用している事も、メッサーシュミットBf109の消尽の運命であった。これは皮肉な事に、Bf109の設計年度の古さが理由で、カールスラント軍も1945年度のうちに新規での生産を止めている。とはいえ、連合軍の主力機の一つであったため、アフターサービスは続けられ、完全退役は1960年代半ば(史実でのスペイン軍のライセンス生産品である『HA-1112-M1L』の退役年度)になったという。日本機に横方向の格闘戦で後れを取る事が多かったが、縦方向の運動戦なら優位なはずだったのに、とメッサーシュミット博士は後年に述懐しており、そこも同機の数奇な運命を象徴していた――
――そんなススキヶ原に混乱をもたらす存在がタイムリープしてきたのは、そんな日の夜であった。のび太とその一族をターゲットとして認識した『ころばし屋』の改造個体。個体名をつけるなら、ころばし屋Z。彼の目の前を横切った、あるミニバンがその餌食になり、手に持つピストルでミニバンを吹き飛ばし、ミニバンが吹き飛ばされた先の家の塀が派手に壊れ、ミニバンの運転者は絶命し、巻き添えを食らった家は大火災となる。ノビスケとブライアンが翌日の散歩から帰宅し、TVをつけると。
「本日未明頃、東京都練馬区ススキヶ原の西地区でミニバンが住宅に突っ込み……あ、新たな情報です。付近を飛行中だった、新聞社のヘリコプターが墜落し……」
TV局はてんやわんやなようだった。ススキヶ原で次々と大事件が起こっているからだ。
「ブライアン、帰ったか」
「騒々しいぞ、ゴルシ」
「緊急呼集だ。来い」
「呼集だと?」
ブライアンはゴルシに呼ばれ、生徒会の新旧関係者が集まる場に呼ばれる。そこには、トウショウボーイ以下の三世代(テイオー世代までの)の生徒会の幹部の多くが一堂に会していた。
「ご先輩方まで……何の集まりなのですか?」
「ウマ娘にとって、大変に危険な敵が現れたという情報が現れたという情報が舞い込んだのだ、ブライアン君」
トウショウボーイはそれだけいい、着席を促す。マルゼンスキーも、ルドルフを一時は補佐していた都合上、同席していた。そこでもたらされた『ころばし屋』の情報。ウマ娘は通常の人間と違い、遥かに走行速度が速く、アクシデントで転倒してしまうと、重大事故に繋がる。処置を受けていない者も多いため、ころばし屋討伐に参加する者は『処置を受け、肉体が強化された者に限る』という事が通達される。三世代の生徒会メンバーは全員が『範を示す』という意義が重要視され、参加が義務づけられた。
「待ってください、エアグルーヴは受けていませんが?」
「受けてもらったよ。彼女の今後を鑑みて、な」
「今後とは?」
「お前らが受けたものの種明かしは聞いた。なら、同じ土俵に立たねばならんと思ったまでだ。それに、お前らは無茶をするからな」
「テイオーが次期生徒会長に収まり、私も留任が決まったんで、気が変わったか?」
「そういうわけではないが、お前やテイオーが未来を見据えている以上、私も同じ視座に立たねば意味がない。お前たちが踏ん張るのなら、私もそうするまでだ」
「……なるほどな」
本心は能力の衰えが始まり、(往時のサクラチヨノオー曰く『自分から何かが欠けていく感覚』とのこと)自分を慕う『メジロドーベル』の前でこれ以上は無様を晒したくない一方、自分から何かが『櫛の歯が欠けるように無くなり始めた』感覚が大きくなり始めたため、トゥインクルシリーズから身を退くことも視野に入れ始めるを得ないことに心の中で泣いていたため、もう一花咲かせたいという願いを叶えるために、措置を受けたというのが本当のところ。ブライアンはそれを見抜いていた。その上で、意味ありげに微笑むに留めた。エアグルーヴもブライアンの考えを悟り、苦笑交じりの表情で返した。
「さて、始めよう」
トウショウボーイの一声で、事のあらましがプロジェクター投影で図が表示される。ころばし屋の内部構造などだ。(ドラえもん提供)
「野比氏の一族がサンプリングで登録されていたのが仇になり、そのロボットは蘇った。元々はひみつ道具の社内コンテストに応募するための試作品であったそうだ。原型はころばし屋という『いじめられっ子用のしかえしグッス』で、まぁ、よくも悪くも子供の使う玩具といった体裁のものだったが、それを改造し、遥かに強力なものに仕立て上げてしまったとのことだ」
それは別のドラえもん世界でも『ころばし屋Z』と呼ばれていた代物だが、この世界では正式な製品ではなく、未来デパートに勤務していたスネ夫の曾孫の一人が、ころばし屋をベースに改造を施したワンオフの試作品である点が異なる。標的のサンプリングに野比一族が登録されていたあたり、スネ夫の曾孫の一人は祖父であるスネ太郎、もしくはスネ樹を慕うあまりに、ガキ大将的立場であったノビスケとその子孫達へのしかえしを考えていた。仕事半分、私怨半分で制作したが、骨川家特有の凝り性からか、もはや『ころばし屋』とは呼べない凶悪なマシンに変貌。その危険性を指摘された彼はコンテストへの応募はせど、(当然ながら不採用)不採用通知後は不用品倉庫にしまわれる形で封印された。その倉庫の地上部は統合戦争の際の空襲で消失したが、地下部は空襲に耐えて無傷。数十年後の落雷のエネルギーで起動したそれは野比家への刺客となった。
「なぜ、サンプリングに登録されていた標的が野比氏の一族なのです」
「製作者が動作確認のために登録していた仮のデータだろうと、未来デパートの残務整理局は言ってきている。彼等も戦争で欠落も多いデータバンクから必死に見つけてくれたとのことで、それ以上はわからん」
「10円を入れないと作動しないはずなのに、どうして、作動したの?」
「落雷のエネルギーは凄まじいものだ。おそらく何らかの原因でエネルギーが内部に伝わり、そのエネルギーを浴びることで、機械のスイッチが入ったのではないかとのことだ。製品版のころばし屋と違い、なぶるように攻撃する、標的外であろうが、情け容赦なく病院送りにする『サイコパス』のような性質を持つそうだ。野比氏の能力を分析した上で、相応の反応速度も持つ。我々でも、対応できるかどうか」
トウショウボーイは表情を曇らせる。ころばし屋に徹底的に手が加えられた『それ』はもはや『デフォルメされた外見のターミネーター』に等しい『危険なロボット』だとも説明する。想定されたのが成人後ののび太の全盛期(青年期)の能力に追いつく事なので、通常のころばし屋では対応が困難。また、全盛期ののび太の早撃ちに対応するため、マグネットコーティングの先駆的な処理が施されているなど、『無駄に凝った作り』となっている。ホモ・サピエンス(ヒト)より多くの面で優れた能力を持つウマ娘でも『初見で対応するのは難しいと断言する。
「馬鹿な、そんな事が」
「くれぐれも、遭遇したら、奴に走行コースを読まれるな。代々、射撃が得意な野比一族の人々へのしかえしを想定している以上、生半端な速度での切り返しなどは『見越し射撃』で当てられてしまうだろう。強力な空気大砲(銃、バズーカ砲型)を持つとされるので、足を狙われないように注意しろ。また、事情を知らぬ一般人を巻きこむことは絶対に避けろ」
映像付きで解説される、ころばし屋シリーズの脅威。製品版のころばし屋はあくまで開発用途に則った武器になっており、100円で取り消しもできるなどのフェイルセーフ機能があるが、試作品であった『ころばし屋Z』にはその機能がオミットされていた。(残されていたプレゼン時の説明では『製品化の暁には、フェイルセーフ機能を付与する』とされていたというが)のび太に対抗するために高スペックが与えられているそれに遭遇した場合、『奇策で以て対応すべし』という場当たり的な対応が未来デパートの残務整理局(アナハイム・エレクトロニクスとの合併後も残る、旧法人としての残務整理専門の部局)から推奨されるなど、未来デパートからして『テキトー』感が否めない。それは統合戦争の後の時代に残された『ひみつ道具』の資料は断片的で、未来デパートでさえ『全製品は把握できていない』からだ。
「どうして、そんなことになって、問題にならないのさ」
「企業倫理はどうなんだといいたくなるが、未来デパートを含めた『ひみつ道具関連企業』には隠蔽体質があったようなのだ」
「隠蔽ぇ?」
「野比氏の残した記録によれば、彼が子供の頃に多額の買い物をしたが、その中に欠陥製品があったという理由で、口止めと引き換えに、商品の代金を請求しなかった事例があったようでな。ひみつ道具時代のコンプライアンスはどうなっているんだ、まったく…」
テイオーの疑問ももっともだが、未来デパートとその競合の数社には、騒動で閉鎖された研究所もかなり存在した。未来デパートもガラパ星で生物の実験を行っていた過去がある。ドラえもんの行きつけのデパートの一つ『22世紀デパート』など、誤配は当たり前、『最高速で走っていると、フレームが負荷に耐えられずに分解する自転車を間違って売りつけた挙句に、口外しないことを条件に料金を請求しないという『企業倫理はどうなってんの?』と言わざるを得ないような負の側面がある。これは過度な市場競争が原因であったため、23世紀でアナハイム・エレクトロニクスの軍需含めての多角経営が許される理由にもなっているなどの影響が残った他、ジオンが軍事テクノロジーを発達させていた一方、生活関連テクノロジーの多くは意図して、20世紀末の時点まで退化させていた事の根源にもなっているなど、思想面にもかなり影響が残ったわけだ。
「元は暮らしを便利にするために生まれていって、人工知能の発達を恐れた西洋諸国の手で葬られた『時代』の遺物が牙を抜くとは…」
エアグルーヴはそう評した。ひみつ道具時代は日本主導の技術進歩で訪れ、統合戦争で終焉を迎えたため、技術進歩による便利さを求めつつも、技術進歩が『何か』を踏み越えてしまう事を異常に恐れた人々が抱いたエゴの表れ。そのように感じたのだ。だが、忘れていけないのは『元々は人を幸せにする』目的で生み出されていったという事。ジオンは文明の利器が当たり前となることの罪ばかりをクローズアップし、過度の便利さを悪と断じたが、しずかはその思想を『思い上がった者の発想よ。それを考えた人々の想いをまるで考えてない』と切り捨てている。ひみつ道具時代の光と影。その象徴が未来デパートかもしれない。