ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第三百九十九話「二つの世界での風景 5」

――ウィッチは戦闘向けの気質を持つ使い魔を持ち、なおかつ、ウィッチ本人の精神的な資質にも戦闘向きかの可否が左右されてしまうため、国家総力戦に不向きな存在と見なされ、ダイ・アナザー・デイを契機に、急激に社会的立場を悪くした。これに歯止めをかけようと、Gウィッチを全面的に押し出そうとする者と、あくまで、突然変異の異物として排除しようとした者が対立した結果、ウィッチ全体の立場を悪くする結果になり、戦争が激しくなることが見込まれた事から、却って志願者が減少するという悪循環に陥り、結局は『あがりを迎えたはずの年齢層を再動員し、超技術で魔力値を全盛期に戻す』方法で数合わせをするのが『士官層を補充する方法』として機能してしまうに至る。仕方がないが、士官はおいそれと補充の効くものではない。ましてや、軍学校卒になれば尚更だ。結果、前者の派閥が『ウィッチの社会的地位の保持』という大義名分を掲げ、後者を圧倒し始める。仕方ないが、国難に何もしないのでは、その場は良くとも、『事後』に社会的に迫害されるもとになるからだ――

 

 

 

 

 

 

――結局、ウィッチに覚醒しても、本人と使い魔の資質によっては、戦闘任務には適応できないため、二極化が進む。そんな中、度重なる具申の成果で、「ルミナスウィッチーズ」が『特務班』扱いで編成される見通しになったが、1940年代の人間では、時代相応のダンスパフォーマンスがせいぜいであるため、そこも司令部を悩ませた。(64Fが21世紀以降の水準のポップミュージックとダンスパフォーマンスを華麗にこなせたため、要求水準が時代に不釣り合いなほどに高くなってしまった)とはいえ、暫定的に『一部隊』としてではなく、あくまで「班」の扱いだが、ルミナスウィッチーズはその特務班の俗称という形で、改めて世に出ることになった。ダイ・アナザー・デイ直後からの『64Fに何でもかんでも押しつけるな』という古参ウィッチ達の度重なる提言がようやく採用されたわけだ。あくまで正式な部隊ではないため、班の人間達の独自行動は禁じられていたが、戦後を見据えた動きも出始めたのである――

 

 

 

 

 

 

――太平洋戦争の反転攻勢は1948年度から構想され続けているが、日本の説得が至難の業であった。何分、積極攻勢が破綻した末に防戦一方になって敗れた世界なので、攻勢に忌避感がある国民性であるからだ。『防衛し続けていれば、いつかは攻撃を諦めてくれるはず……』という楽観論が主流であったが、扶桑国民は反転攻勢をセオリーとして望むため、結局は双方の折衷で、太平洋艦隊の本拠地であるハワイ・真珠湾への攻撃が決議される。ただし、ハワイへの攻撃にしても、いかなる手法で行うのか?という問題があり、補給の難度などの懸念から、議論が進まないのである。ハワイの奪還は太平洋共和国からの要請でもあるが、日本側は戦力の消耗ばかりを気にする。そこで議論が平行線を辿ってしまうのである――

 

 

 

――では、何故、暗闇大使などの敵の大幹部を闇討ちしないか?ヒーロー/ヒロインたるもの、『正々堂々と倒す事』が『仮面の忍者 赤影』、ひいては『月光仮面』のいた時代から脈々と受け継がれている事、たとえ、闇討ちしても、相手が自己再生能力を持つため、生半端な手段は使えない。更に、仮にも善の存在であるなら、そういった手段をなるべく取らないこと。それが、戦いにおける、古来からの原初のルールである――

 

 

「ところでさ、なんで、闇討ちとかしないの?悪の大幹部なら、何も正面切って戦う必要ないよね?」

 

「そりゃ、一度や二度は考えるわよ。だけど、あからさまに、そういう手段は取れないって奴。元から裏稼業してればいいけど、仮にも、あたしらは『正義の味方』よ?正義の味方がそういう後ろめたい手段を取っちゃ、世間の顰蹙を買うのは間違いなしだし、自分の言うことに説得力がなくなる。正義の味方ってのは、意外にあれこれのしがらみも多い商売なのよ」

 

正義の味方も楽ではない。世の中の正義は人それぞれだが、善と悪の境界はやはり存在する。りんAはそれを説明する。

 

「だから、悪の組織の大幹部を暗殺しようってのは、あたしらはやっちゃいけないことに入る。子供の夢は壊さずに、悪を討つ。月光仮面の時代からの暗黙のルールよ」

 

「それ、おじいさん達の時代のヒーローじゃなかった?」

 

「そそ。世の中には、商売柄、例外のない事項が必ずある。月光仮面、いや、仮面の忍者 赤影の頃からの正義の味方の暗黙のルールがそれだね」

 

ヒーロー/ヒロインには、最低限のルールが有る。仮面の忍者 赤影や月光仮面などの『古のヒーロー』達の頃から続くもので、友の仇を探す事から生まれたヒーローである『快傑ズバット』も律儀に守っているほどのものだ。

 

「正義なんてのは、時代と個人で変わるもの。だけど、物事の善悪そのものは変わらない。それを証明しなけりゃいけないのさ。と、言っても、悪の大幹部は滅多なことじゃ出て来ないし、有無を言わさずに闇討ちじゃ、正義の味方の沽券に関わるから、大幹部を引きずり出すまで、地道に怪人を倒していくしかない。現役時代からの経験だね」

 

沽券に関わるという表現で、ヒーロー/ヒロインは正々堂々な振る舞いが世間的に求められることを示す芳佳。キュアハッピーであることを考えれば、当然のことだが、現役時代と最もかけ離れている振る舞いでもある。

 

「はい。こちら……何、怪人が?どの組織の……分かりました。こちらで対処します。りんちゃん、仕事だよ」

 

「わかった。あんたは留守番をお願い。怪人を倒してくるから」

 

「私は駄目なの?」

 

「あんたは敵が最重要人物として狙ってるし、こっちと差がありすぎるのよ。それに、留守を守ることも大事な仕事よ?」

 

りんはそう言い終える瞬間には、キュアルージュへ変身を終えていた。緊急時なので、キュアモを介さずに変身したわけだ。芳佳もキュアハッピーに変身を終えており、戦闘態勢だ。

 

「ほんじゃ、休暇取ってる子たちの代わりに、プリキュアらしいことをしてきますか」

 

ドリームBにそう微笑み、ルージュAはハッピーと共に、先程の言葉を実践するため、久方ぶりに戦場に向かう。相手は組織の送り込む怪人。この頃には、彼女も怪人に対抗できる力を手にしていることの表れでもあった。

 

「でも、ハッピー…昔と変わったね」

 

「ま、あたしは『転生』が一回や二回じゃないからね。その分、大人になったって言うのは苦しいかな?」

 

と、嘯いてみせる。角谷杏としての飄々さが表に出ているため、天真爛漫の毛が強く、歴代プリキュア随一のドジっ子であった面影を見出すのは、もはや難しくなっている。

 

「さ、いこっか、ルージュ」

 

『以前』と同じなのは、変身した姿のみである。そんな彼女らを見送るドリームBは寂しい気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――こちらはブライアンとタイシン。ハリケーン号の飛行機能によって、戦闘員の襲撃を逃れ、無事に繁華街についた――

 

「時代は殆ど同じだから、変わりないわね」

 

「違うのは、ウマ娘が存在しない点くらいか。だが、この街は不自然なほど、特異な存在に慣れている」

 

「あんたね、もうちょい気を抜けない?」

 

「普段よりは気は抜いているさ。だが、この姿だしな」

 

キュアドリームの姿であるので、完全には気は抜けないとするブライアン。目つきなどはブライアンのそれになっている、纏う雰囲気もものすごい迫力である。

 

「いきなり愛想良くはできんよ。」

 

とはいえ、低迷期を経たため、以前よりは愛想がよくなったブライアン。

 

「あんた、他人の姿借りてても、肉好きなの隠さないんだ」

 

「精力つけなきゃいかんだろう。それに、次のレースの予定もある」

 

大阪杯はテイオーに譲る気らしいが、秋に備えてのトレーニングを始める気らしいブライアン。

 

「あんたは秋を?」

 

「まぁな。サクラローレルは凱旋門賞に行きたいらしいが、史実を考えると、そのままだと、『フラグが立つ』からな。その前に負かしておいて、その間に極秘裏に措置を受けさせる」

 

「あんたも回りくどいことを」

 

「凱旋門賞はゴルシも、オルフェーヴルも、ディープインパクトも敗れ去った舞台だ。挑むのなら、万全を期す必要がある。奴のためだ。このままで行けば、その前走で競争ウマ娘としての致命傷を負ってしまう未来が待っている。そんなことを、面と向かって言えるか?」

 

「……確かに」

 

ブライアンはサクラローレルの史実の運命を知ったため、彼女の『致命傷』フラグを折ることを考えており、凱旋門賞出走を決意する前に負かすことにしているようで、その事を口にした。名だたる名馬たちが尽く敗れ去り、2020年代に到るまで果たされていない、日本競馬界の悲願である。サクラローレルはそれに挑もうとしたが、史実では、その前に右前脚屈腱不全断裂という再起不能の大怪我で引退を余儀なくされている。

 

「だから、敢えて次の予定を公言し、奴を誘い込み、負かす。そうすれば、いくらでもやりようはある」

 

「考えたわね」

 

「これしか、奴のフランス行きを阻止し得る方法がなくてな」

 

ブライアンは野比家での療養とトレーニングで徐々にだが、全盛期のキレを取り戻しつつあった。全盛期のブライアンは『暴力的』な強さを誇っていた。ウマ娘として本来は『ピークを過ぎたとされる年齢』だが、処置で全盛期の力が戻りつつあるため、史実では叶わなかった、『復活』を声高らかにアピールしている。ローレルを運命から救うために。

 

「ローレルに気ぃ使ってるわね」

 

「借りがあるからな。前世では、『引導を渡された』も同然だ。だから、前世の記憶が蘇った以上、その借りを返すのが筋だ」

 

ブライアンは前世では、三冠馬かしらぬ走りしかできずに、競争生活の晩年を過ごすしかなかった。その悔恨からか、『復活』に血眼になっている側面がある。歴代で最も悲劇的な三冠馬と言われている(ブライアンは近年の三冠馬で唯一、後継種牡馬も残せなかった上、自身も早世している)事が堪えているらしい。

 

「気にしてんの?前世での評判」

 

「せずにはいられん。歴代三冠で最も悲劇的と言われてみろ。それを変えたくなるのが人情だ」

 

はっきりと、ウマ娘としては運命を超える事を口にする。

 

「こいつは引退してだいぶ経つらしいが、注目されるな」

 

「そりゃ、歴代随一の人気がある上、この世界じゃ、戦争の英雄らしいから」

 

それはダイ・アナザー・デイのことであり、その中で自身よりも強大な南斗聖拳の使い手たちに挑んだことは高く評価されている。当時の実力では、南斗紅鶴拳の伝承者を退けるだけで精一杯だったが、その奥義の伝衝烈波にひるまず、捨て身の拳を見舞った勇気が讃えられたわけだ。折しも、ダイ・アナザー・デイの戦いの情報開示が客演映画の公開時期と重なったため、扶桑皇国は金鵄勲章の授与を公表。軍人勲章なため、日本側からは辞退の圧力もあった。(代替に瑞宝章を与えるべしとの声もあった)しかし、扶桑側の心情に配慮するという体裁で引き下がり、当初の予定通りに授与された。黒江達がミーナに冷遇された経緯が重く見られたのだ。(ミーナの処分と同時期、グンドュラ・ラルも過去の書類改竄による強引な物資調達と人材確保が正式に咎められ、長期の謹慎処分を受けており、本人は『そうでないと、あんたらは物資や人を寄越さないだろ!』と憤慨している。そのこともあり、空軍総監就任後まもなく、謹慎処分を受ける異例の事態となったが、これは太平洋戦線へ向けて、アリバイ作りを兼ねた偽装も兼ねていた)結果、のぞみは(素体が扶桑軍人なため)ウィッチの世代間闘争の中心にいると見做された黒江達に代わる形で、ダイ・アナザー・デイの英雄とされた。そのほうが(当時の)中堅世代も納得したからだ。

 

 

「半分は政治的な理由らしいがな」

 

「仕方がないでしょ。その世界じゃ、魔力は有限的なものだもの。永続的に持ってるのがいれば、社会的に疎んじられる。突然変異とかいってね。だから、その子(キュアドリーム)が対立の中心にいないからって、祭り上げたらしいわよ」

 

ダイ・アナザー・デイは64Fが早くも、戦局の中心的役割を果たした戦役だが、中堅世代と古参世代のウィッチの対立が顕現化し、孤軍奮闘を強いられた戦でもある。その対立軸から外れていると見做されたキュアドリームが第一の英雄とされた。また、技術軽視を咎められ、強引に多くの兵科将校が左遷させられていったため、64Fの技術チートを容認し、技術重視の姿勢を対外的にアピールするしかなかったが、それを活用した英雄がどうしても必要であったという世知辛い事情もあった。(ウルスラが疎んじられた背景には、そういった軍の政治的事情が絡んでいた)

 

「軍隊は民主主義の国だと、政治家のご機嫌取りが上手いほど、上にいきやすい。武人気取りは嫌われる。それは平時でのことだ。有事には逆に『英雄』が求められる。現金なようだが、いつの時代もそれは同じだ」

 

「あんた、妙に詳しいわね…」

 

「叔父貴の一人に自衛隊の隊員がいてな。さて、スーパーマーケットの駐車場にコイツを止めるぞ」

 

「駐車代金を節約したいの?」

 

「有料駐車場は高いだろ」

 

「あんた、唸るほど持ってんでしょうに」

 

「親父の経営する酒屋に仕送りしてるんだぞ、一応」

 

「そいや、あんたんとこ、酒屋だっけ」

 

ブライアンの実家は運送業と酒屋を兼ねているため、運営資金はあるに越したことはない。姉妹の賞金のかなりを仕送りに割いているが、ハヤヒデの引退表明で、ブライアンが稼がなくてはならなくなった。それも現役継続の理由の一つである。

 

「親父が投機的な投資しやがるから、おふくろは冷や冷やものでな。姉貴が引退する分を、私が補わないとならん。私と姉貴だけならいいが、まだ下に三人もいるからな…」

 

ブライアンは父親が投機的に投資するのを冷ややかに見ており、下の姉妹らを食わせるという現実的な理由も現役継続の理由の一つだと、タイシンに告げる。

 

「あんたらのおじさん、ギャンブラーの毛あるからね」

 

「姉貴も早まったことを。テイオーに一泡吹かせてから引退すればいいものを…。処置を受けているなら、怪我は完治しているはずだ」

 

「たぶん、あれが自分の最高の走りだって実感があったからじゃない?だから、テイオーが自分の計算を精神力で覆したのが信じられなくて、限界を悟っちゃった。あいつの考えそうなことよ」

 

「……難儀な姉貴だよ、まったく」

 

ブライアンは父や姉に複雑な思いを抱いているようだ。なんとも言えない表情なあたり、ビワハヤヒデの引退を翻意させたい本音があることがわかる。

 

「あんた、ショックを受けると、意外に引きずるのね?」

 

「姉貴を追い抜くために走ってきたからな。それを他者にやられるのは複雑なんだ。いくらそれが、前世でルドルフの子供だったテイオーであっても」

 

「センチメンタルしてんじゃないの」

 

「私だって、人並みにセンチメンタルするんだぞ、失礼な」

 

些か時代がかった表現だが、傷心らしいブライアン。幼少期は引っ込み思案で泣き虫であった名残りか、ショックな事は意外に引きずるらしい。

 

「あんた、子供の頃の性質が形を変えて、今でもあるのね」

 

「それが本質だからな。親父に言われたんだよ、それを強さに変えろと。いつだったか…」

 

ブライアンは元来は引っ込み思案で気弱であったが、いつしか無頼じみた気質に変貌していた。それには父親の叱咤が絡んでいる事を教える。

 

「でもさ、その体、使いこなせんの?」

 

「能力は聞いといた。アニメから更にパワーアップしているようだから、それに絡んだものはゴルシに見させられた」

 

ブライアンはこの時点でのキュアドリームの能力を把握している。草薙流古武術を含めた全能力の映像をゴルシに見させられたようで、地獄のロードだった事を示唆する。

 

「さて、どうする?」

 

「買い物はしないと。あんた、守ってよね」

 

「お前になんかあると、チケットの奴にどやされるからな。そのために入れ替わったんだ」

 

ブライアンは照れ隠しにそう言う。タイシンの持ってきたフライトジャケットに袖を通し、羽織る。扶桑軍は米軍式のものを採用し、軍用機のジェット化の進んだ1949年では、4割強ほどの普及率にあった。普段着代わりに着用する者も現れているが、海軍出身の古参からは『リベリオンかぶれ』と快くは思われていない。とはいえ、扶桑軍が史実の日本軍と異なる点を強調するために、着用が強く推奨されているのも事実である。

 

「プリキュアのコスチュームと、軍用のフライトジャケットはアンバランスね」

 

「そういうもんだ。だが、これ見よがしにコスチュームで動くわけにもいかんからな」

 

とはいえ、フライトジャケットも64F仕様であり、同隊のエンブレムなどが貼られているため、それはそれで目立つ。日本で市販されていないものであるため、同隊の関係者であることは(自衛官などであれば)推察できる。アメリカ軍では、第二次世界大戦の頃からある文化である。皮肉な事に、フライトジャケットの着用が改革のシンボル扱いになるくらい、扶桑軍にある英国軍/独軍風の既存の慣習は日本側主導で排除され始めている証である。代わりに米空軍を範にした文化が栄えていくわけだが、これに不快感を持つ海軍系の航空部隊はかなりあり、この不満と遺恨が太平洋戦争に至るまで、参謀本部が全部隊の統率に支障を来す原因となっていた。だが、海軍航空の伝統は『史実での山本五十六の死の際の護衛であったパイロットたちへの懲罰的人事の記録』もあり、忌むべきものと判定されていくのだ。

 

「さて、その辺をぶらつくぞ。数時間したら、このスーパーで買い物はしなければならんがな」

 

この時にブライアンが(キュアドリームの姿で)フライトジャケットを着用して、街をぶらついたことが、結果的に扶桑軍の寛容性のアピールとなるわけである。また、ブライアンはブライアンで、弓矢の心得があるため、それが思わぬ形で役立つ事になる。

 

「そいや、あんた、昔、流鏑馬してたの?」

 

「おふくろに習わせられてたんだよ。ルドルフよりは本式に習ってるつもりだが?」

 

「ハヤヒデがそんな事をメールに書いててさ」

 

「姉貴もしょうもない事を覚えてるな…。ガキの頃のことだぞ」

 

「あんた、意外にやってんのね」

 

「親父とおふくろが心配性だったんだよ。それで習わせられた。ウマ娘だからといって、武道と無縁じゃないからな?」

 

「ヤエノ先輩も武術してたし、意外にしてんのね」

 

「精神の鍛錬にいいとかで、元・会長(トウショウボーイ)もしていたそうだ。ゴルシのように、元から図太い奴は稀だよ」

 

ゴールドシップの精神力を高く評価しているブライアン。ルドルフ、オグリ、エアグルーヴも『ターフの上で泣いたことがある』が、ゴールドシップはそれがない。大負けすることも多いが、気分が乗れば、かなり上位の実力者である。そのため、怪我をした直後に怯えを感じた自らを恥じているらしいブライアン。

 

「あんた、ゴルシが羨ましいの?」

 

「前に、怪我をした時に『また怪我をするんじゃないか?』と考えてしまった事がある。表立っては、感覚のズレを低迷の言い訳にしていたが、実際には怯えていただけだ…。だから、今となっては、奴の図太さが欲しい」

 

ブライアンは持ち歌の『シャドーロールの誓い』の歌詞が示すように、無頼のように振る舞ってていても、心のどこかに子供時代のような『弱さ』が残っている。それを乗り越える心の強さを得るために、処置を受けた上での『療養』を選んだ。それがシャドーロールの怪物と呼ばれた前世の名残りであり、『運命を超えたい』と願う一人の少女としての顔であった。

 

「あ、あの、キュアドリームさん……ですよね?」

 

「ああ、そうだ。今はプライベートの休暇中でな…」

 

通りがかりの女子大生のペアに声をかけられるブライアン。ちゃんとキュアドリームとして応対するが、口調その他は(本人がめんどいためもあるが)ブライアン本来の粗野なものだ。だが、キュアドリームの現在の職業が職業であるため、色々とポジティブに解釈されたのか、引くどころか、のろけ声を上げる。

 

(さっそくきたじゃん。……ふーん。ブライアンにしては、頑張ってんじゃん)

 

口調その他は直しようがないが、『職業柄、ボーイッシュに振る舞っている』と解釈されたようで、キュアドリーム(中身はブライアン)にのろける女子大生のペア。それを傍目から楽しむタイシン。

 

(……そうか。シリウスの奴、こういう純真な学生を『のろけさせて』ファンを獲得しているのか。……夢は壊せんから、当たり障りなく、切り抜けるか)

 

ブライアンは独白しつつも、自分のできる範囲でファンに応対する。とはいえ、シリウスシンボリが如何にして、自分に心酔する者を増やしているのかという疑問の回答が得られたようで、晴れ晴れしい一面を感じた。また、写真撮影やサインに応じてやるなど、意外に親切丁寧に応対するところを見せる。(本質的には、夢原のぞみに負けず劣らずに優しいため)

 

(あんた、意外に優しいじゃん)

 

(お前が素直じゃないだけだぞ?)

 

(ち、ちょっ…!?)

 

写真撮影の頼みに応じ、できる範囲でポーズも決めてやるなど、意外にファンに親切丁寧かつ、真摯に対応するブライアン。タイシンが無愛想にするのは『照れ隠し』を兼ねていることも見抜いているようだ。ブライアンは低迷期にどん底を味わったため、自分が誰かの夢を背負っていることを自覚している。更に、『自分が負ける事で、誰かが泣いてしまうこと』を実感したのか、全盛期が嘘のように人当たりが良くなっているし、表情にも『穏やかさ』が出ている。それは『前世の記憶』(競走馬としての日々の記憶)の覚醒と、ウマ娘としての低迷の相乗効果で生まれた『穏やかな心』の発露であると言えた。

 

 

 

 

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