ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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オムニバス編です。


第五百五十五話「転生体・夢原のぞみの過ごす2018年のある日…」

――結局、扶桑皇国は異世界からの介入による取り締まりの強化により、農村の地域社会が一挙に崩壊へ向かった。結局、農村が短期間に多くが放棄され、食料品自給率の低下が叫ばれたため、軍工廠は大規模に食料品の生産までを引き受けざるを得なくなった。また、扶桑は伝統的に『戦時中には全ての文化的活動を抑える』風潮が強かったが、日本側の意向でそれを推進していた農村の地主、在郷軍人会の上層部は(理由をつけて)公職追放(1952年に解除)された。農地改革も緩やかに行われたため、1949年には大地主の少なからずが没落し始めた。在郷軍人会は(内政干渉を避けるために)自主的な活動縮小が始まったが、予備役の訓練も引き受けていた関係により、軍に『それ専門の部署が設けられるまで』という条件で教導活動を継続した。40年代末は既に戦時であったが、日本が内地にいる部隊の人員の動員を露骨に渋ったため、部隊の現場で隊員の『一本釣り』が横行してしまった。仕方がなく、日本は『人員不足なら、人事局を通してくれ!ちゃんと手配してやるから!』と扶桑軍に懇願する羽目となった。また、『出征しないから、故郷に胸を張って帰れない』という兵たちの懇願もあり、日本もようやく、陸軍部隊の出征を認めた。(一本釣りは往時のカールスラントで特に行われていた文化であった。グンドュラ・ラルはそれをよくしていたため、出世した後で、本人が却って苦労する羽目になった)内地の防衛体制の刷新は既に兵器の世代交代などで果たされつつあり、魔女の入隊年齢も順当に高年齢化(1945年に一旦は任官されていた世代が再教育を終え、ようやく正式に入隊し始めた)し始めたと判断されたからだ――

 

 

 

 

 

――だが、日本の政治と官僚のもっぱらの関心は『渡航した活動家集団が現地の沖縄で目覚めさせてしまった怪異の破壊活動への損害補償の金額の策定と現地の今後の安全保障の是非』であった。活動家が叫んだ『現地の非武装地帯化』は夢物語であることが那覇市の大損害で証明されてしまった事、軍が那覇市に駐留しないことへの補償金の大きさが日本連邦評議会を悩ませた。それも、魔女の新しい受け皿としてのMATの組織としての急速な成長に大きな役目を果たした。怪異の存在により、怪異を狩る『猟友会』の存在も必要になるなど、日本は左派の暴走により、財政的に手痛い出費を強いられたのである。それに加え、のぞみへの損害補償も上乗せされてしまい、日本政府は官僚の独走に、官房長官がヒステリーを起こす有様であった。扶桑に教育改革を行わせたいのに、教師への転職を志望していたのぞみを『世間知らずの職業軍人』と官僚が罵倒してしまう事態。結局、事態の沈静化のため、のぞみを軍に留め続けさせるしかないことを昭和天皇(戦前の権威がある状態の)に申し開きをせねばならなくなった外務大臣は事前に辞表を提出し、事に臨んだ。下手すれば、義憤に駆られた現地の過激派か、青年将校に暗殺されてしまうからで、昭和天皇(戦前の『大元帥』の権威を持っている状態)を前にしての外務大臣は、扶桑側の役人曰く、ひどく縮こまって見えたという――

 

 

 

 

 

――とはいえ、扶桑側も『のぞみを予備役にしてしまうと、色々と有事の時に手間がかかる』と考える軍高官は多く、ある意味で利害は一致していた。のぞみ本人は知る由もないが、裏では政治的やり取りが相当に交わされており、扶桑側は『貸しを作ってやった』のである。いざとなれば、東京23区を吹き飛ばせるという事を既に明確に示しているからだ。改良された大和型の存在はある意味、日本への海軍力の示威であったのだ。また、のぞみは転生していた以上、世界線の分岐で『TVシリーズとは別の存在になっている』という事は扶桑側が周知に努めた。家と風土の都合で、否応なしに軍務に就いている事も、扶桑は強調した。そのほうが民衆の同情を惹けるからである。実際、のぞみ本人はダイ・アナザー・デイで覚醒した直後、黒江に『あたしは錦ちゃんの存在を乗っ取っちゃっただけで、軍人をし続けるつもりはないんです』と述べており、ハッキリと軍を辞める意志を見せていたからだ。だが、実際は扶桑財界での中島家の立場の悪化、錦の妹で、中島家の末子『中島疾風』の入隊が延ばされた(教育制度の刷新に伴う再教育の実施)ことなども重なり、のぞみは軍を辞めるに辞められなくなっていた。プリキュア戦士のエース格である事を知った扶桑軍の将官(元帥含む)層がその戦力を惜しんだからだが、のぞみは叙勲の際に皇室に直談判し、許可をもらうことで錦の御旗を得、錦の実姉である中島小鷹に転職を仲介してもらい、内定に至っていたのだ。ところが、それを知った日本の文科省のある一官僚が独善的な正義感から暴走を起こし、のぞみを『世間知らずの歩兵あがりなどが、子供の教育などは愚の骨頂!!』と面と向かって罵倒。のぞみは軍人として最大の屈辱を味わい、面談の帰りに圭子に泣きついたのである――

 

 

――その日(2018年前後)――

 

「はぁ!?どこのウスラバカだ!待ってろ、日本の農林省のお偉方にお前のファンがいて、綾香の釣り仲間だから、今すぐ知らせる」

 

と、圭子はすぐにスマホで、その農林省の高官に連絡を取り、彼はすぐに行動を起こし、その日のうちに、文科省の上層部に知らせがいった。

 

「ケイさん、今、私の大学の同期の文科省の高官に連絡を取った。彼は目まいを起こしたよ」

 

「文科省に言っとけ。若手の統制をちゃんとしろと!あたしの部下は最大限の侮辱を受けたんだ。外交問題もんだぞ」

 

「彼は寝込むよ。君の部下の夢原のぞみ中尉は……キュアドリームだろう?彼のお孫さんがファンなんだ」

 

「まったく……文科省は?」

 

「スズメバチの巣をつついたような騒ぎだ。昭和帝陛下の勅の紙を『我々に天皇の権威など!!』と破ったそうだ…。間違いなく、大臣、事務次官とその二個下までのポストのクビは確実だな」

 

「扶桑の国家元首の要請が記された紙を破ったんだ。うちの公安が聞いたら、不敬罪でヤツをしょっぴくと息巻くぞ」

 

「わかっているよ。大臣はその場で39度の高熱を出し、事務次官は卒倒だ」

 

「だろうな。総理大臣には?」

 

「私から報告申し上げた。……外交問題は避けられんな……」

 

「予備役制度が混乱したんだ。直に、鈴木と岡田の御老体の知るところになる」

 

「鈴木大将と岡田大将か……海上幕僚長が聞いたら震え上がるな……」

 

「山下大将も直に知ることになる。詫びのもんを今から考えさせろ」

 

「分かった……総理に鈴木と岡田の両海軍大将が会談を申し入れてくると報告申し上げる」

 

「大和が今、旗艦任務引き継ぎの準備で忙しいから、たぶん、それで来ると思う」

 

「大和か……参ったな」

 

「出迎えには、いずも型護衛艦を使えと伝えろ。今の大和はほぼ300mの巨艦だ。並の護衛艦じゃ、自衛隊は赤っ恥をかくぞ」

 

と、圭子は持ち前の口八丁で事の重大さを伝える。圭子も黒江ほどでないが、広報部時代に鍛えたため、交渉術のイロハは持っている。

 

「現場が納得するかな?」

 

「近代化された大和を見れるいい機会だ。現場は首を横にふらねぇよ。ダイ・アナザー・デイに行ってた艦しか、その詳細は知らされてないしな」

 

圭子は同時に、Y委員会に事の次第を伝え、Y委員会は即座に軍令部に『山口多聞連合艦隊新司令長官の初仕事として、日本への交流任務を命ずる』と通達。それに先立って、圭子のもとに送りこまれたのが、艦娘・飛龍であった。そして、彼女の護衛がキュアハートとキュアミラクルの二巨塔であり、三人はのぞみの代理人兼扶桑からの外交使節として、日本の当時の総理大臣と会談を行った。

 

 

 

――赤坂迎賓館――

 

「誠に申し訳ない。こちらからも使節を送るので、くれぐれもそちらの陛下には……」

 

「陛下は大変に怒っておいでです。皇室侮辱罪を適応すべき事案だと述べられております」

 

飛龍は淡々という。それだけに、迫力がある。艦娘自体、軍艦の付喪神のような存在である。ましてや、あのミッドウェーで一矢報いた殊勲の空母・飛龍の化身。総理大臣は見かけとは裏腹の威圧感を感じていた。

 

「陛下には待たれよ、と。それと、件の彼については既に、こちらでも処罰を検討している。一両日中には文科省に判断を出させる。それと、夢原のぞみ中尉……」

 

「大尉になられました」

 

「……失礼。彼女の受けた侮辱への損害補償は私の一命にかけても実行する」

 

「加東閣下は訴訟も辞さないと述べられておりますが」

 

「なんとかそれは……」

 

「一両日中には、戦艦大和で『岡田啓介』大将と『鈴木貫太郎』大将が参られます。それまでにはご回答を願います」

 

「あいわかった……」

 

「連邦の発展のための交渉は別途、彼らが担当いたします。私は陛下の特使としての役目を仰せつかっておりますので」

 

「昭和帝陛下には、準備が整い次第、私めの使節団がお詫びに見えるとお伝えを」

 

この会談は日本連邦の公的な交渉の第一号であったが、なんとも不名誉な有様であった。本来、日本側は21世紀世界の技術力で精神的優位に立つつもりであったが、扶桑は更に別の世界(実は同一世界の未来だが)の技術支援を受けていたからだ。この会談そのものは表向き、連邦運用のすり合わせとされており、大っぴらにされていたが、『見かけは10代のあどけない少女が皇室と連合艦隊司令長官の特使であり、かつての軍艦の付喪神である』事実は世界各国を驚愕させた。飛龍は史実の記憶も持ちつつ、艦娘部隊の空母でもあるので、実戦にちゃんと参加済みである。飛龍が選ばれたのは、単に山口多聞の秘書だからである。その護衛がキュアミラクルとキュアハートであるのも、日本のネットが大騒ぎであった。

 

――その日の午後6時――

 

「あれ、みらいお姉ちゃん。今日はこの仕事だったんだ」

 

「あたしの代理人も兼ねてる。先輩が『偶には後輩を頼ってやれ』って」

 

「みらいちゃんは生き返ってから間もないからね。始めての大仕事だよ」

 

「でも、のび太くん、みらいちゃんはリコちゃんとモフルンがいないと……」

 

「朝に変身したのさ。リコちゃんも今日は仕事だから」

 

当時、幼稚園卒園も近いノビスケとのび太親子、のぞみが居間で食事を取っていた。のぞみは黒江からの命令でキュアドリームの姿を保っている。

 

「でも、多元世界なんて、思ってもみなかったよ」

 

「だろうね。あ。綾香さん、来年からは少し暇ができるっていうから、同人誌即売会にでるって、えーと、駆逐艦の……なんてったっけ…」

 

黒江は秋雲に誘われ、いつからか、彼女の同人誌に寄稿するようになっていた。だが、2018年までは多忙で、同人誌即売会に参加できなかったらしい。その次の年には行ける目処が立ったらしい。

 

「え、先輩、同人活動を?」

 

「その子に誘われたんだってさ。2016年頃から寄稿してるっていうから。君、年始にも帰りづらいんだろ?来年は行ってみたら?」

 

「考えておくよ。先輩には一つ言いたいんだ」

 

「ああ、あの大決戦のこと」

 

「おかげで、えりかにドン引きされたじゃん~!!」

 

「どんまい。あれ、珍しいね。キュアマリンは呼び捨てなんだ」

 

「前世の大学の教育学部で一緒になってさ。えりかは二歳くらい下だったし」

 

「もしかして、お姉ちゃん。レポートとか……」

 

「……うん。実は卒論も……」

 

「アチャ~」

 

当時は幼稚園児のノビスケに引かれ、しゅんとなるのぞみ。前世での事だが、大学の卒論の期限をど忘れしており、同じ学部の後輩でもある来海えりか(キュアマリン)に手伝わせた事を告白する。

 

「おねえちゃん……」

 

「あ、あの時は家を出たり、就活で忙しかっただけだから……」

 

キュアドリームの姿で必死に言い訳するのはシュールだが、ある意味では、のぞみが成人後に望んでいた団欒の光景であった。多くの場合、のぞみは成人後は一人暮らしを始め、家庭を作っても、こうした笑顔あふれる光景は(自身の多忙さもあって)為し得なかったからだろう。

 

(いつ以来だろう。こんな団欒を味わえたのは……)

 

のび太はダイ・アナザー・デイ後はしずかが公安警察の任務で家を開けるようになったため、否応なしに主夫になった。だが、自身は料理ができないので、調やみらいに料理を頼むか、『レンジで冷凍食品をチン』であった。二人も日本連邦の樹立後は忙しく、ことはも各方面を駆けずり回るようになったため、のび太が『レンジでチンする』比率が上がっていたが、のぞみがそれを見かね、料理を宣言したが、現役時代を知るりんがのび太に進言し、料理を止められていた(現役時代はお粥すら焦がしていたためだろう)ので、この日はカップ麺であった。

 

「はひぃ~……。まさか、変身した状態でラーメンすするなんて、思ってもみなかった」

 

「転生で生じた、思わぬ場面って奴さ。前世で、君は成人後もプリキュアだったが、ある時に体がその負担に耐えられなくなった。君は特に、バリバリ戦うタイプだったからね。だが、今は肉体が往時のものに名実ともに若返っているし、小宇宙に目覚めれば、体の無茶が更に効くようになるよ」

 

「うーん。喜んでいいのか…」

 

「少なくとも、加齢が進むにつれ、以前のように長くは戦えなくなるのを感じていくよりは幸せじゃないかい?」

 

「大人になって、プリキュアを辞めてる世界もあるのかなぁ?」

 

「どこかにあると思う。でも、君はなにかかしらの理由で戦わざるを得なくなる。そういう運命だと思うよ、ぼくは」

 

「黒江先輩もそうなの?」

 

「綾香さんとは長い付き合いだけど、あの人は色々な事があった結果、力を求めた。君はそれを最初から持ってるんだ。あの人が望んでも、少なくとも、手に入れるのに数十年分以上の月日がかかったものを。力を持った者の宿命だよ、戦う事は。逃げるのを許されない。僕も……ガキの頃からそうだったからね」

 

のび太は戦うべき時に命を張れる。かつての少年時代はしずかのために、絶望的な鉄人兵団との戦いの先頭に立ち、その他のいくつもの冒険でも、戦闘では中心人物であった。

 

「アフリカのジャングルに行った時なんて、電光丸で敵の隊長を倒したしね。かなり苦労したけど」

 

「パパの自慢らしいんだ。それと、別の銀河の星に行った時のこと、おねえちゃんに話したら」

 

「お、そうか。君には話してなかったね。食事の席の肴に聞いてくれるね」

 

「うん」

 

のび太はかつての武勇伝を語る事は少ないが、この時は前置きした上で話した。のぞみ相手には始めてだからだろう。シャーリー(北条響/キュアメロディ)が前世の愚痴を零しまくっているようなものだ。彼女の場合は愚痴が過ぎることが多いが、のび太はその点は何故か上手く、老人が子供達に『自分の子供~青年時代の話を聞かせる』ような語り口で語った。のび太が明確に銃で危機を乗り越えるようになった初の冒険であった『コーヤコーヤの冒険』を。その経験があったからこそ、早打ちに自信ができ、大人になった後にも役に立っていると。

 

「その星はどこにあるのか、23世紀になってもわかんないらしくね。でも、そこでの冒険は一生物の経験だった。その銀河で一番強いならず者を僕が倒したからね、銃での決闘で」

 

「それがのび太君の?」

 

「それと、ドラえもんのタイムマシンで西部開拓の頃のある街に行って、その街を守ったこともあった。それで、僕は銃を自分の手足のように使えるようにするように訓練したんだ」

 

野比一族は代々、射的(おそらく、元が狩人であったためか)の才能が受け継がれており、のび太はその才能が突然変異か、隔世遺伝で強く現れたのだろう。のび太がすごいのは、自分の才能だけで、ゴルゴと同等の遠距離の見越し射撃をこなせる(おおよそ数km)だろう。

 

「あ、話に入る前に言っとくけど、君もそのうち、綾香さん達に鍛えられ続けたら、聖闘士級の戦闘力になると思うよ」

 

「まっさか~」

 

と、その時は黒江たちに訓練でのされまくっているせいか、のび太のこの言葉をそうやって流すのだが、ここから数年の後に、本当に聖闘士級の戦闘力を得ていくのである。なお、のぞみへの賠償が確定したのは、ここから約一年後の事。日本連邦評議会で決まっても、『たかだか下級将校に払うべき金額ではない!!』と日本の国会が揉めたからだが、日本政府は『それで、プリキュア戦士でも指折りのエース格を日本の安全保障に関わらせられるのなら、そんな金など安いものだ』と考えていた。更に週刊誌の報道の結果、世論はのぞみに同情的であったので、野党も意見をトーンダウンせざるを得なかった。完全に自分たちの支持者による大失態であったからだ。また、扶桑が件の官僚へ不敬罪の適応をちらつかせ始め、彼を扶桑の公安に逮捕させ、扶桑の法で裁くことを示唆した事から、日本政府は騒乱を恐れ、彼への処分を急いだのである。彼の懲戒処分自体は即日で決まったが、圭子が『部下を侮辱された』と、訴訟をちらつかせていたので、スキャンダルの長期化を恐れた日本政府が圭子に『訴訟を取りやめる』ように要請したため、ここでまた揉めてしまい、日本政府は圭子にも多額の示談金を支払う羽目となったのである。

 

 

 

 

 

 

――最も、リベリオン(史実でのアメリカ)の史実における戦後直後の統治での高慢な振る舞いの情報が流れ、リベリオン軍人への理不尽な暴行行為が横行していた時期であったので、アメリカが扶桑と揉める事を恐れたのも大きかった。更に言えば、日本のごく一部のフィクサー層は扶桑が『ラ號』のコピーをしている事、更には『宇宙戦艦ヤマトよりも強力な』アンドロメダ級戦略指揮戦艦の供与を受け始めた(つまるところは波動砲だ)事を知っていたので、『扶桑が激昂した場合、アメリカ合衆国の中枢が波動砲で地殻ごと消し飛ぶ』光景が現実味を帯びるため、扶桑をなだめるのが最善と判断したのであるが――

 

 

 

 

 

――なぜ、日本の中に、反扶桑的風潮があったのか?理由はいくつかあった――

 

 

・扶桑が織田信長の天下統一により、大航海時代を迎え、明朝と李氏朝鮮の滅亡で『アジア唯一の近代工業国家』の称号を持つ事。

 

・自分たちは長年の低迷で国が斜陽であったのに、扶桑は昭和中期以前の『エネルギッシュさ』で繁栄を謳歌していた事。

 

・敗戦で失った外地とは地域が一致しないが、台湾を領有しており、戦前の支配階級であった旧華族(公家と元の大名など)が健在である状況ながらも、民主国家として振る舞っている事。

 

・戦前の軍部の上層部の同位体が健在であり、なおかつ、戦前における各界の重鎮が権力の座にいる事。

 

・坂本龍馬が昭和初期まで生存していた事

 

日本の大衆は『織田信長が天下統一し、坂本龍馬が元老の一人であったのなら、大日本帝国とは極めて似ているが、別の国である』と考える者が大半であったが、一部には『戦前の軍部の上層部がいるのなら、理由をつけて免職・謹慎させ、軍の規模を必要最小限に抑える。華族階級は解体し、真に民主社会に変革させる』事に使命感を感じるという内政干渉に疑問を持たない者がおり、その者たちは各省庁にも多く存在した。だが、のぞみへの理不尽な仕打ちと、扶桑の沖縄で封印されていた大型怪異を復活させ、那覇市に大損害をもたらしたことが彼らの命とりであった。日本政府はこの二つの不祥事を契機に、省庁の官僚へ『仕事に思想信条を持ち込むな』という通達を発し、のぞみの一件の二の舞いを避けようとした。日本国民も6割強が(改装なった大和型戦艦という証拠があったので)扶桑と戦争になれば、自国は容易く植民地になる』という危機感を抱いていた。軍事的にも、『第二次世界大戦以前の通常兵器による総力戦想定の軍隊を持つ国に、戦後日本はあまりに防衛力が脆弱である』という現実があったからだ。この不祥事は日本政府には恐怖の代名詞となり、扶桑は『日本の鼻っ柱をへし折ってやった』という事で、日本の役人たちが扶桑の役人や要人、軍人などに『所詮は敗者』と偉ぶる事はなくなり、扶桑は外交が『やりやすくなった』。とはいえ、日本国民の軍事へのアレルギー意識だけはどうにもならないので、日本と扶桑は『防衛力増強』にあの手この手を用いるのである。

 

 

 

 

――結局、のぞみに損害の補償が正式になされたのは、事務手続きの都合か、2020年代に入った後であった。のぞみとコージは得られた賠償金で、南洋の住宅地の一角を購入したのだが、今度は戦争が激しくなり、防空司令部から『入居は終戦まで待ってくれ』と言われる始末であり、のぞみはそんな防空司令部の体たらくに憤ったが、扶桑空軍は黎明期であり、各部隊の前身組織時代の対立を引きずるところも多く、実態は呉越同舟に近かったのも事実である。防空司令部もその地域にいる防空部隊は前身組織時代の対立を引きずっており、陸海出身者の縄張り争いの様相を呈し、本来の任務を果たしていない有様であった事に頭を痛めていたのだ。その兼ね合い上、のぞみは引っ越しをしばらく諦める事になり、野比家への下宿は続く事になったが、1948年度に正式に結婚。芳佳(星空みゆき/キュアハッピー)と同時に所帯持ちになった――

 

 

 

 

――S☆Sの来訪と変身システムの変容も転移によるものであった。元々、プリキュア戦士は『加齢による心境の変化を要因に、変身を失う訳では無い』という研究もあるが、1949年度に発見された『オトナプリキュアの世界』ではそれを反証するような事になっていたので、正直なところ、謎だらけであった。とはいえ、のぞみは地球連邦政府の名だたる学者達が真面目に『プリキュアの変身の謎』についての議論を重ねていたのをつゆ知らず、野比家で2010年代(のぞみは本来、その時代に青年期を迎えているはずである)の暮らしをキュアドリームの姿で満喫していた。これは他のプリキュアも同様であったが、のぞみの場合は『転生した後は職業軍人』であり、扶桑陸軍の軍服(旧・日本陸軍のものと同じ意匠である)でうろつくわけにもいかない(実際に黒江がトラブルに巻き込まれた事があるため)だろうという事情があった。現役時代とは違うことを示すため、日本側で運転免許証(自動車免許と二輪免許)を2018年の秋頃に取得。黒江からオートバイ(250ccのオーソドックスなもの)を譲られ、それを乗り回すようになっていた。ススキヶ原は東京都内の住宅地ながら、インターチェンジも備えているなど、意外に交通の便は良く、扶桑では既に運転可能な戸籍年齢であったのもあり、近隣をツーリングするようになっていた。なお、のぞみは当初、(前世で運転経験がなかったため)スクーターか原動機付自転車(原チャリ)の購入を考えていたそうだが、黒江が『変身した状態なのに、のってるのが原チャリじゃ、カッコつかないぞ』と気を効かせ、保有するオートバイで最もオーソドックスなものを譲った(保守整備等は黒江がする)のである――

 

 

――2018年の暮れ頃――

 

「まさか、オートバイに乗るなんてね。側車付き(陸王。軍の制式名『九七式側車付自動二輪車』)のなら、軍でいくらでも乗ったんだけど、側車無しの単車は初めてだなぁ」

 

――ススキヶ原の周辺を走るだけでも、ストレス解消になるぞ、乗ってみろ――

 

「先輩に上手く乗せられた感はあるけど、これはこれでいいかも……」

 

と、単車も悪くないと思うのぞみ。実際、桃園ラブや北条響などは既にオートバイを相応に乗り回し、オートレースにも参加している。のぞみは彼女らと多少異なり、現役時代とは打って変わって、サーフィンが得意になっているので、それが趣味になっていた。

 

「あたしの現役時代より夏の期間が伸びてる時代だから、夏になったら、これで江ノ島あたりまで走ってみっかな」

 

キュアドリームの姿ながら、ちゃんとメットは被っているのぞみ。黒江やシャーリー、ラブはガンガン行く『飛ばし屋』だが、のぞみは一応、安全運転派である。

 

(そいや、シャーリーとラブちゃんは飛ばし屋なんだよなぁ。ラブちゃん、ゴーカートでも飛ばしてたって、いつか、つぼみちゃんがぼやいてるっけ)

 

花咲つぼみ(現世ではアリシア・テスタロッサ)は現役時代、ラブ達と共闘した際、ラブが遊園地のゴーカートを飛ばしていたとぼやいていた。その時に酔ったらしい。

 

「ん?あれはGフォースの……コスモタイガーだ。大っぴらに飛ぶようになったんだ」

 

Gフォース所属のコスモタイガーⅡが街の上空を飛んでいた。飛行訓練だろう。23世紀の戦闘機はエンジンの静粛性も高いので(隠密行動にも使う都合上)、21世紀の戦闘機と違い、騒音問題は発生しにくい。

 

「多元世界……か。たしかに、その中には変身ができなくなった自分もいそうだけど、20代で年増扱いは勘弁被る。ただでさえ、17で年増扱いされだす職場にいたから……」

 

と、オトナプリキュア世界の自分を予見するかのような言葉を発しつつ、自動販売機で缶ジュースを買い、飲み干しつつも、頭上を通過するコスモタイガーを仰ぎ見、年代を考えればのどかな風景が広がる練馬区の一角にて、『魔女の世界に転生した夢原のぞみ』の2018年は暮れようとしていた。

 

 

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