ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第四百八話「二つの世界での風景 13」

――扶桑海軍は空母機動部隊をM動乱後からは再び重視し始めたが、空母と艦載機の頭数で戦力を考えていたため、ダイ・アナザー・デイ後の再編による縮小と空軍設立を大義名分にしての航空隊の抽出は予想外であり、主力であった基地航空隊は完全に空軍の管轄下に収まった。日本側は航空戦力の一元管理を目論んでいたが、予算上の都合で不可能とされたため、海軍航空隊に残されたのは『形骸化した組織』だけであった。また、ウィッチ世界の通常航空隊は実戦経験が過小すぎたため、ダイ・アナザー・デイの主力は義勇兵が担う有様だった。坂本はそこからの再建に尽力し、四年後には『一部の航空隊は実戦に耐えうる』と評価されるに至った。坂本は海軍航空のレベルを『全盛期の水準に戻す』と意気込み、海軍に残留しつつ、組織再建に尽力していた――

 

 

 

――江藤敏子はダイ・アナザー・デイ後、作戦参謀の首席に近い地位に登りつめたものの、若き日の過ちが原因で、周囲から『元部下の七光りで出世した』と見られており、転生者ながら、辛酸を嘗めていた。当人は公には『事変の時、部下たちは若かったし、転生者ということは知らなかった。当時の慣習に則った教育措置として、部隊の戦果と扱っただけである。事の次第を知っていれば、相応の扱いをした』と弁明している。ダイ・アナザー・デイでは懲罰人事としての『前線指揮』をこなし、生還するなど、本人なりに贖罪を行っているが、『家族と気まずくなった』とぼやいている(江藤の兄や姉が黒江達のファンだったため)。坂本はダイ・アナザー・デイ後は実質的に江藤に仕え、江藤の名誉回復にも尽力している。カールスラントの没落は、坂本が黒江たちや江藤の名誉のために、大戦初期の国際連盟における人種差別などの実状をマスコミに意図的にリークしたことも絡んで、複合的に起こった出来事だった――

 

 

 

 

 

――坂本による一連の『連合国軍の闇』の世間への暴露は、カールスラント軍の国際的な評価を落とす最大の一打となった。人種差別的な言動を『実力試し』に使っていた事(ルーデルなども、過去に智子へ使った手だが、ダイ・アナザー・デイ後に問題になってしまったため、ルーデルは給与を数ヶ月は返納する羽目に陥ったため、ダイ・アナザー・デイの直後にガランドの家に転がり込んだ)、グンドュラ・ラルが人事書類を改竄、あるいは人事部を買収していたことが公になった(本人は『止むに止まれぬ事情で行ったことだ』と弁解しているが、処分は免れなかった)のが、ミーナの冷遇発覚と同時期であった。結局、カールスラントの有力な将校が扶桑軍将校を裏で見下していたとされ、相次いで処分を受けたことは、扶桑人のカールスラントへの不信感を醸成してしまうには充分であった。64Fに在籍していたカールスラント出身者は(扶桑とカールスラントの友好関係の維持のために)太平洋戦争への従軍が半ば義務付けられた。グンドュラ・ラルも視察を名目に扶桑を訪れ、そこで巻き込まれた体を装い、太平洋戦争に参加する。この流れが、ハルトマン達が太平洋戦争に参加するまでの流れであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイ後、陸軍機甲本部はM動乱~ダイ・アナザー・デイの経験を鑑み、『南洋に大型戦車の揚陸・運用は出来ないだろうし、極東地域に回す余裕もない』という戦前の対リベリオン合衆国における楽観論が一挙に吹き飛び、彼等の物量に対抗できる戦闘車両の配備を急務とした。だが、敵の戦闘車両のレベルが戦前の想定の数倍も強力になった事から、61式戦車(自衛隊)のコピー生産が可能になったくらいでは喜べなくなってしまった。そのため、人型機動兵器の中では比較的に簡便な構造の『コンバットアーマー』が陸軍に好まれるようになり、1949年には以前に軽戦車を装備していた部隊に配備され始めていた。重機甲装備を好まない傾向が大きい扶桑陸軍だが、時代の流れでそうせざるを得ないため、インフラ整備が追いつくまでの策として、コンバットアーマーを大々的に配備した。旧来の軽戦車より圧倒的に汎用性があり、使役作業にも使用できる事から、そういった車両の開発が遅れていた扶桑陸軍には救世主であった。そのため、1949年度には、南洋の至る所にコンバットアーマーの姿が見られるようになっていた――

 

 

 

――そんな1949年の夏。坂本美緒(A)と会う約束を取り付けていたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ(B)は公園で待ち合わせをしていた――

 

 

――南洋島――

 

「美緒、あなたがブンヤ(マスコミの事を指す隠語)にリークしたのね?」

 

「仕方がない。古い友人の名誉に関わることだ。お前の出世を潰したのは悪かったが、奴等の才を使わずにいることのほうが損失だったんでな」

 

ミーナBは公園で、育休中の坂本Aと会っていた。坂本は髪を下ろし、一般的な女性の服装をしているため、坂本とは気づかれない。(眼帯はしている)

 

「あの力を、私は知らなかったの?」

 

「お前の入隊時期が悪かった上、お前は幼年学校からの生え抜き軍人ではなかったろう?それもお前に不利に働いた」

 

黒江達はミーナの元人格が健在であった時期には、飛行をほとんど止められていた。ただし、飛べば、もれなく戦果を挙げてきた。ミーナは『古い世代のエースと言っても、今どきの実戦は知らないでしょう?』と軽んじていたが、そんな事が続くために『只者ではない』とは気づいていたものの、圭子が本気を見せるまでは『技能維持のための飛行』しか認めていなかった。それが査問で不利な証拠になってしまったのである。圭子が本気を出したことで事の重大さに気づき、自己保身を急いで図ったものの、圭子の配下であったユニ(キュアコスモ)に偽装工作を最初から見抜かれていたために無意味に終わった。

 

「お前は書類をきちんと確認しなかった。その事の言い訳を重ねたところで、扶桑の世論は激昂していたし、上の計画を既に二個も図らずしも潰していたので、弁解の余地は残されていなかったからな。別の問題が別所で発覚したから、ヘルマン・ゲーリング元帥以外にも『罰した証拠』としての『生贄』が必要だったのもある」

 

「だから、こちらの私に敢えて『泥を被らせた』の?」

 

「すまないと思うが、これも我が『大計』のためだ。国の間のわだかまりを無くし、将来的に世界を一つにするためのな」

 

「世界を一つにするって、あなた」

 

「それが実現した世界を見てきたからな。彼等にできたことが、我々にできん道理はないよ」

 

坂本は『地球連邦の樹立による平和』を目指している事を、ミーナBに明言した。既に扶桑主導での平和が将来的に訪れることを見越していた坂本は『この世界の人類社会の存続には、宇宙進出が必要である』との結論に達しており、Y委員会でも、それが採択される見込みであった。

 

「時間をかける。今すぐには無理なことなどは子供でもわかる。幸か不幸か、今の私には時間などは飽きるほどあるからな。世紀をまたいでも、別に構わんさ」

 

「世紀をまたいでもって、あなた……」

 

「我々のような転生者は死を乗り越えてしまったからこその問題も抱えているんでな。その代わりに、自分達で『世紀跨ぎ級の計画』を実行できる。なんとも言えないが、これも神からの報酬なのだろう」

 

坂本Aは転生者となった事に後悔はないが、転生者故の葛藤は相応にあった。物言いに自虐が入っているのは、自分の後の一族郎党が『通常の流れ』では生きれなくなったことへの寂しさがあるからだろう。

 

「人と違う流れを生きる事になった以上は、後代のための地ならしは必要だろう。当面は前世での失敗の罪を償うことが、私のやることだがな。お前には苦しい思いをさせることにはなったが、カールスラントの者たちの鼻をへし折るには必要な事さ」

 

「やりすぎじゃ?私のミスなら、私一人が負えばいい話じゃない?」

 

「ところが、芋づる式に他の不祥事がバレてな。ヘルマン・ゲーリング元帥の進退にも関わってきたんだ。最終的には、お前だけの問題ではなくなっていた。グンドュラたちも連座的に処分されたが、軍需産業もものすごい罰金を支払うことになった」

 

一連の騒動は結局、カールスラントの名声を地に落とす事になり、カールスラント国家がものすごい金額の賠償金を支払うことになった。そのことで経済が傾いたことに対処できず、政権は崩壊。皇室も亡命してしまったため、カールスラントは無政府状態に陥った。軍事的主導権も失われ、大本の責任はヘルマン・ゲーリング元帥の一派に集約されたものの、グンドュラの裏工作やミーナの書類不確認は『それはそれ』で罰せられ、扶桑がその後の連合国の主導権を握るきっかけとなった。

 

「その割に、グンドュラは出世したように見えるけど?」

 

「しばらくは事実上の無給だったよ。メルダース大佐が失脚した代わりに据えられただけで、内乱で有名無実化してるから、以前ほどの権威もないぞ」

 

グンドュラ・ラルはガランド引退後の後釜に収まったものの、内乱でカールスラント空軍は有名無実化しているため、扶桑にいても問題はない。頼みの技術力も、日本連邦の未来技術の導入で色褪せてしまったことで、他国への売り込みも絶望的と、超ハードモードと言わんばかりの有様だ。

 

「私たちの国が何をしたというの?」

 

「こちらを田舎者扱いした。その報いだ。外交関係を絶たなかっただけでも、慈悲深いと思うよ」

 

「何十年の懲罰になるのよ」

 

「50年はいるな。賠償金の減額はされるが、これまでの高慢ちきは許されん。今後は私達の靴を舌で舐める日々だな」

 

坂本Aはいささか乱暴であるものの、カールスラントの凋落ぶりを『靴を舌でなめる』と表現した。実際、カールスラントは避難地のノイエ地域の治安さえ維持できないレベルの有様となり、NATOの軍政下にある。

 

「あなた達は何が目的なの?」

 

「神を気取るつもりはないが、秩序の守り手にはなるつもりだよ。実際に、違う世界には紀元前から脈々と存在するからな」

 

「秩序の……守り手」

 

「政治屋どもが無知で、世界を滅ぼせる兵器を玩具感覚で見ていることも多いからな。民主主義の代議士はそういうもんだが」

 

「あなた、議会制民主主義が嫌いなようね」

 

「現役時代に振り回されれば、な」

 

坂本は元から、ガリア共和国の醜聞を見てきたためか、民主共和制や議会制民主主義そのものは好いていない様子を見せた。だが、その一方で、昔ながらの帝政は時代遅れであることも認識してもいる。

 

「共和主義は腐敗が横行すれば、悪政の温床になる。だが、帝政も奸臣が愚鈍な皇帝を利用すれば、簡単に悪政になる。故に、議会制が最も安全牌なのだろうな」

 

坂本は衆愚政治を嫌う傾向が強いが、友人が議会制民主主義の擁護者(自衛隊に属する者はその傾向が強い)である事から、公には口にしていないともいった。坂本はガリアと扶桑海事変で民主主義と軍部の暴走の2つを目にしたため、皇室の調停機能を期待しているらしい。

 

「あなた」

 

「事変で軍部の暴走を、ガリアで衆愚政治の在り様を見れば、ため息がでるよ。故に、元老院の設立を認めさせたのだ」

 

扶桑は(ウィッチや皇族の安定のために)華族が新憲法下でも法的身分として存続したため、議会が二院制から三院制に変わった。元老院は廃止された元帥府の役目も引き継いでいるため、議員の少なからずは軍の将官経験者である。指名制で国民投票で罷免が決まることになったが、この時点では、山本五十六や堀悌吉などの著名な将官経験者が議員である。首相、省庁、皇室、軍部の中から議員を国民投票で決めるが、戦時下であるが故、パワーバランスは軍部出身者が優位であった。

 

「元老院?」

 

「重要法案や戦時の計画策定のための審議機関として作らせた。日本という別世界の同位国は反対しまくったが、こちらは華族がいるし、軍部もあるからな」

 

「なんだ、こんなところにいたんですか」

 

「黒田か。迎えに来たのか?」

 

「そちらのミーナさんの定期検診があるんで、芳佳から探すように」

 

「そうか。ご苦労」

 

「宮藤さんが医務の責任者なの?」

 

「空軍の医務大佐になるよ、直に。こちらでは英雄だからな」

 

「中佐をお連れしていいですか?坂本さん」

 

「構わんよ。私はそこのスーパーに買い物がある。娘と旦那が腹を空かせる頃だろうからな」

 

「また、会える?」

 

「今度は仕事で会うと思うぞ」

 

坂本AとミーナBはこうして別れた。坂本は子育て中であり、育休を取っている。以前と違い、若手が育ってきたため、坂本が育休を取れる余裕ができたのだ。

 

「それじゃ、黒田。ちゃんと送ってやれ」

 

「わかってまっせ。……『先輩』(士官学校卒の年度が坂本のほうが早いため、その意味では『先輩』である)それ、スカイラインのGT-Rですよね」

 

「ああ、骨川氏の薦めで買ったんだ。南洋なら、充分に転がせるからな」

 

坂本にしてはハイカラな車だが、スネ夫の薦めで買ったとのこと。1940年代にはオーバーなくらいに目立つデザインだ。

 

「日本車は質がいいからな。フレデリカさんからはポルシェを薦められたが、あいにく、私は黒江や加東ほどは詳しくないからな」

 

「バリバリのスポーティタイプですね」

 

「旦那にも使わせているからな。黒江からは、カタいが、面白みは薄いなと言われてる」

 

「先輩は遊び重視ですからね」

 

「これが異世界の車?」

 

「本当なら、私たちが年寄りにならんと拝めんから、すごい幸運だぞ、お前」

 

「そうなの?」

 

「少なくとも50年経たないと、このデザインに到達しないですから。本当は」

 

1930年代の小型車が普通に軍用で走る時代に、スカイラインGT-Rを持ち込むなど、異世界交流を活用し、愛車自慢の坂本。ミーナBも『とんでもなくハイカラなデザイン』なためか、話に加わり、説明に聞き入るのだった。

 

 

 

 

 

 

――2022年。ナリタブライアンはキュアドリームの体を借り、CM撮影に臨んでいた。人員募集の告知CMだが、扶桑が戦争状態になったため、日本の政治家は難色を示していたが、人員募集は普通に必要なため、扶桑の統合参謀本部の責任で撮影は行われた。骨川家所有の『海辺の別荘』で――

 

この日は快晴であり、強い日差しが照りつけていたが、それがシャイニングドリーム(キュアドリームの多段変身形態で、第一強化形態)の持つ背中の羽を強調させ、神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 

「カーット!!」

 

監督の声が響く。夏の日差しを受け、微笑むという構図だが、夏の青空と純白のコスチュームというコントラストもピタリであった。

 

「こんな感じでいいのか?」

 

「バッチリだよー。後はナレーションを吹き替えすれば、形になるよ」

 

「ずいぶん簡単だな」

 

「君たちが元の姿で、走りながら撮影するよりは遥かに楽だと思うよ」

 

「確かにな」

 

ブライアンは元の世界でのCM撮影には『自分達の走りを撮影する』仕事もあるので、それを指摘され、頷く。

 

「しかし、プリキュアというのは、こんな事もするのか?」

 

「彼女達は広告塔でもあるからね。子供の夢を守って、悪人と戦うのはハードワークだっていうよ」

 

「ガキ共の夢は守らないといかんからな。妹が何人かいるから、わかる」

 

「ああ、いたね。確か……」

 

「すぐ下にタケヒデがいるんだが、まだ小学生だ」

 

ビワタケヒデ。ブライアンの妹である。ウマ娘世界では小学生くらいなので、姉たちとは歳が離れている。ブライアンはタケヒデを可愛がっているが、自分と姉ほどの才能はない事を即座に見抜いてしまっているという。

 

「だがな。メタ情報がある分、どうしてやったらいいのか。あいつには私と姉貴のような才能はないんだ…」

 

「やらせてやればいいさ。君たちの妹なら、ある一定のところまではいけるだろうし、大番狂わせだってありえる」

 

「そうか?」

 

「君がそうだろう?信じてやりな。その姿、妹さんに見せてやれば?」

 

「そうしたいのは山々なんだが、学内にヤバい奴がいるんだ」

 

「誰だい?」

 

「カワカミプリンセス」

 

「キングヘイローの娘の?」

 

「何、娘なのか?」

 

「こちらの世界では」

 

監督に飲み物を渡しにきたスタッフが教えてくれた。カワカミプリンセスはキングヘイローの子だと。ブライアンは副会長としての苦労談を話す。ウマ娘世界では、カワカミプリンセスは一般家庭の出で、一族から突然変異的に出たウマ娘であること。幼少期にプリキュア相当のアニメ『プリファイ』に激ハマりし、体をずっと鍛え続けたため、ウマ娘としても異常な筋力を持ってしまった。

 

「なんか、ギャグ漫画にありがちな展開ですね」

 

「あいつがやらかす度に施設が壊れるから、生徒会としては洒落にならんよ。エアグルーヴが、何か壊れる度に叱りに走るほどだ。実績があるから、施設課も強く言えないとボヤいている」

 

ブライアンも、カワカミプリンセスのパワーには手を焼いているのは言うまでもない。カワカミプリンセスは二冠を達成する実力派であるので、あまり大事にもできないと、施設課はボヤいているという。

 

「そりゃ、二冠達成する実力派ですからね。原因は?」

 

「鍛えすぎたからだと。私達の世界でのウマ娘用の施設は普通より頑丈に出来てるんだが、それをぶち壊してくるんだぞ?生徒会としても対処に一苦労だ」

 

「今度から、君ならなんとかできるんじゃないか?」

 

「……そうか、そうだよな」

 

ブライアンはプリキュアの体を使うことで、護身術に自信がつき始めている。また、かなりパワーもついた(自主トレを続けているため)と自負している。

 

「あなた達は運動能力は仮面ライダー並ですからね」

 

「持久力は個人差があるがな。ただし、ばんえいウマ娘は途方もないパワーがあるというが」

 

ウマ娘は21世紀時点では、他の世界におけるばんえい競馬や障害競走などを走るウマ娘がいる。大昔には軍馬相当の仕事をしていたウマ娘もいたが、第二次世界大戦を境に姿を消している(奇しくも、日本産の軍馬が絶えた時期と一致する)。

 

「軍馬相当の存在は?」

 

「第二次世界大戦まではいたそうだ。だが、第二次世界大戦が終わると、歴史の檜舞台から姿を消した。外国じゃまだいるそうだが、日本には残っておらん」

 

ウマ娘の中でも、日本産の軍馬の魂を持つ者はウマ娘世界における第二次世界大戦で歴史の表舞台から姿を消したとされる。

 

「戦後は競走馬の魂を持つウマ娘が主流になったが、それも古の血筋を持つウマ娘は時代とともに淘汰され、今は80~90年代の競走馬の魂を持つウマ娘が多い。直に、ディープインパクトの血縁のウマ娘が増えていくだろうさ」

 

「時の流れだね」

 

「せいぜい抗ってやるさ。それが『親父』――ブライアンズタイム――への鎮魂になるだろう」

 

ブライアンは前世での父親への弔いの意思もあるらしく、現役を続ける理由の一つに挙げた。

 

「ブライアン、今度は私の番のようだ」

 

「上手くやれよ?」

 

「なに、CM撮影は慣れているさ」

 

微笑むルドルフ。ルドルフはキュアハートの体を借りているが、意外に親和性は高いようで、キュアハートの体はルドルフの要求によく応えている。彼女が今度は撮影に入った。

 

「彼女が……あのシンボリルドルフ?」

 

「中身はな。婆さんのスピードシンボリにあこがれて、レースの世界に入ったそうな」

 

「そうなんだ」

 

「まぁ、いくら偉大な競走馬の魂が入ってろうと、きっかけがなければ、レースの世界には関わらんからな。ルドルフの場合は、偉大なばーさまのおかげだ。姉貴達は大成してないそうだからな」

 

ブライアンはルドルフの先輩たちから、シンボリ一族はスピードシンボリ(ルドルフの祖母)の引退後、なかなか大成するものが現れず、ルドルフが後継者になる幸運で中興したことを聞いていたので、それを語る。

 

「ただ、そのルドルフも後が恵まれず、外様(分家筋)のシンボリクリスエスまで現れんからな。そこが時の残酷さだろう。……ん?あんた、指示飛ばさなくていいのか?」

 

「ああ、ルドルフさんの撮影は別の班が担当するんだ」

 

「そうか、別バージョンということか」

 

合点がいったブライアン。以前ほどは他人と距離を置かず、立場相応の振る舞いができるようになっている。これは『無頼を気取っていた』代償を、シニア級突入時にまとめて支払う羽目になったための心境の変化であるが、ブライアンなりの『他人に頼りたい』というアクションでもあった。故に、全盛期から考えられないほどに協調性が増している。

 

「君は全盛期には、一人を好んだそうだね」

 

「全盛期はな。あの頃は青かったから、それ相応に自惚れていた。だが、シニア級に入ってから『現実』を突きつけられた。感覚のズレ、肉体的には治癒しているはずの体が思うように動かない……。そんな状況だったから、今回の事を起爆剤にしたかったんだよ」

 

「これからどうするつもりだい」

 

「しばらくは現役に留まるさ。前世の心残りもあるからな。ディープやハーツクライ達がいずれは未来を創るだろうが、姉貴から託されたものを受け継ぎ、王者に返り咲くことが今の目標だ」

 

それこそがブライアンの本音だった。既にアスリートとしての全盛期を過ぎたと見なされていたからこそ、それを覆し、『健在』をアピールすることの意義を見出した。

 

「サニーやブラリアンへ今度こそは報いたいんでな。あいつらが頑張ってくれたからこそ、私の後世での名声があるように思えるからな。三冠というものは……時代が変われば、人々から忘れ去られてしまう『儚い夢』だからな」

 

ブライアンはサニーブライアン(史実では縁筋にあたる)やナリタブラリアン(史実では自分に肖って、TV番組でつけられた芸名である。ウマ娘世界では『遠縁の親戚』らしい)への感謝を口にすると同時に、ディープやオルフェーヴルなどの『サンデーサイレンス系三冠馬』が脚光を浴び、自分は過去の存在として忘れ去られていった経緯から、三冠の栄光を『儚い夢』と表現する。どこか自虐的なのは、自分やルドルフは種牡馬として成功したとは言い難いのに対し、ディープインパクトやオルフェーヴルはちゃんと成果を残した(とはいえ、ルドルフは後継者を残せただけ、ブライアンよりはマシである)ことへのコンプレックスもあることも見え隠れしている。

 

「まぁ、『こいつ』(キュアドリーム)の姿で言う事でもないがな」

 

ブライアンはブライアンなりに、史実の自分に精神的意味で決着をつけるべく、以前は取らなかった行動を積極的に取るように努めているようだった。姉のビワハヤヒデすらも気づいていない『ブライアンの内面』。それは周囲に見限られることへの恐怖、台頭する後輩たちへの対抗心。それらが複雑に絡み合う中での希望。それが『一度は栄光を失った』彼女が取り戻そうと奮闘するものだ…。

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