――ころばし屋Zへとりあえずは痛撃を与えた二人。のび太親子と合流し、事故現場に献花し、犠牲者の冥福を祈ったが、その時には午前様になってしまった。そのため、二人は帰ると、すぐにプリキュアの変身を解き、風呂に入った後に床についた。
――その翌日――
「ふぁぁ……。体は他人のに変わってるってのに、いつもの時間に目が覚めるって……染み付いた習慣は恐ろしいわね」
タイシンは体が他人のものになっていようと、習慣となっている起床時間は変わらない事にある種の恐ろしさを覚えつつ、顔を洗いにいく。
「おう」
「ゴルシ、あんたも?」
「習慣は変えられねぇからな」
「ブライアンは?」
「飯を食ってるよ」
「で、アンタはどうすんの?」
「そうだな、有馬にするよ。ドンナの奴にやられたから、お返しをしてやるぜ」
ジェンティルドンナ。ゴルシの同期で、トリプルティアラの当代達成者である。ゴルシが『女扱いしない』女傑であり、ヒシアマゾンの後継者と名高い。
「あたしがあいつを抜けば、あいつももう数年は現役で走るはずだ。トリプルティアラってのはそういうもんだ。もっとも、あれは一種の呪いでもあるがな」
ゴルシ(黒川エレンの体を借りている)は、歴代の『トリプルティアラ』達成者は達成後に低迷したままで引退するジンクスがあることをタイシン(花海ことはの体を借りている)に教える。メジロラモーヌ、アパパネなどの歴代の達成者は達成後に低迷に苦しんでいった事から、一種の『呪い』じみた称号となってしまった『トリプルティアラ』。それを打破するための存在が『ジェンティルドンナ』であるため、ゴルシと同等以上の実力を誇るのは当然なのだ。
「呪い?」
「メジロラモーヌ、アパパネ…。そいつらは達成した後に勝てなくなったからな。その呪いを打破するために現れたのが、ドンナの奴だ。あたしと互角以上の末脚で、それでいて、歴代の達成者で随一のパワーを誇る。多分、オルフェーヴルの奴以上だな」
歴代のトリプルティアラのウマ娘で随一の実力を持ち、『呪い』に打ち勝つ事が約束されている、現状唯一のウマ娘。彼女のさらなる後継者と目される『アーモンドアイ』が『史上最強クラスのウマ娘』の称号を手にすることは確実である事を考えると、彼女とアーモンドアイが正真正銘の『女帝』と言えるだろう。(その更に次代の達成者となるであろう『デアリングタクト』の入学も判明している)
「エアグルーヴは『親族』がこれから続々と名を馳せるだろうから安心だろうが、トリプルティアラはクラシック三冠よりも『色々と大変な』称号だからな。後輩にいいたいのは、称号にあまり固執しないのも、道の一つだと思うってことさ」
ゴルシは称号は持たないが、G1を六勝し、既にオグリキャップやトウカイテイオーよりも『実力で格上』と言われる立場である。しかしながら、史実での引退時は『燃え尽きていた』と評されることは気にしていたらしく、全盛期の実力を保った状態で引退するという野望を抱いている様子を見せた。また、元々、子供好きであるなど、面倒見が良いため、意外にプリキュア生活を満喫中である。その一方で、意外に周囲に気を配り、タイシンの心を開かせるなど、『扱いの難しいウマ娘の面倒を見る係』の役目を自認している節がある。親友のジャスタウェイ曰く、『ゴルシはノリがいいんだよ』とのこと。
「あんた、その体をしばらく使うつもり?」
「まーな。元の体は結構疲れが溜まってたから、レース以外のことをやらせて、骨休みさせる。基本はヒトだから、酸素カプセルとか使えるのはいいんだがな」
ウマ娘も、馬族の特徴が現れている以外の基本的な肉体の特徴はヒト属に準ずるため、酸素カプセルなどの疲労回復の方法は有効である。ただし、馬族のガンと呼ばれる屈腱炎と繋靭帯炎が起こり、その後遺症が起これば、日常生活にも支障を来すなど、生物学的に不可解な事実もある。ゴルシの肉体も相当に疲労が溜まっていたため、レースから解放し、負担のかかる部分の疲労回復を狙っていた。
「で、あの通達の影響は?」
「ビコーペガサスの奴が意気消沈で、成績が落ち込んだらしい。仕方ないから、タキオンとの連名で仮面ライダーとスーパー戦隊に頼み込んで、変身を見せてもらうことにしたよ。あと、アグネスデジタルもコミケで難儀してっから、アタシの名義を使えって言っといた」
アグネスデジタルは『重度のオタク』なのだが、通達に『衆目のイメージを崩すな』とあった事から、大混乱。そこにゴルシが助け舟を出したのである。(アグネスデジタルは『ダートと芝の双方で当代最強クラスを誇る実力者』というイメージがあるため)それほどにゴルシの自由奔放さのネームバリューは大きいのだ。(ゴルシであれば、コミケ参加も許されるため)
「あんた、意外にネームバリュー効くのね」
「ジョーダンの奴も難儀してっからな。ギャル系イベに出にくくなったとか。文句も出てるから、緩和案も出されたんだそうな」
「モチベーションに影響出ちゃえばねぇ」
「多分、新協会長の判断で、一定範囲は緩和されるだろう。プライベートまで縛る形になってるからな。ジャス(ジャスタウェイのこと)には連絡は入れてある。アオハル杯っての準備も始まった。キングの奴はそれまでに、イギリスで捕まえる事になった。現地の協会や警察、軍隊、宗教関係も抱き込んで、な」
キングヘイローは母が欧州や米国で名を馳せたウマ娘であり、顔が各方面に効く。それを突いたシンザンは彼女の母親(現在は精神療養病棟に入院中)の現況をこれ以上発表しない代わりに、キングヘイローがイギリスにいるのなら、そこで捕まえ、極秘裏に帰国させるという取引を結んだ日本のウマ娘競争協会。宗教関係にも手を伸ばし、睡眠薬を使って連行、帰国させる(アグネスタキオン調合の睡眠薬。特別な胃袋持ちのオグリには効かないが、通常レベルのウマ娘には効く)。という策略が採用された。キングヘイローもまさか、日本でこれほどの大事になっているとは思うまい。
「凶悪犯並みの体制じゃないの」
「しかたねーだろ。アメリカで捕まえるのが後手後手でダメだったんだから。それに、G1級ウマ娘に一服盛るのは難しいんだぞ」
睡眠薬を飲み物に入れて盛る方法は、ウマ娘相手では効果は薄い。種としての特徴に、『人間以上の毒耐性』がある。これは『病気がちな体質』とされるナリタタイシンであっても変わらない。
「一服盛るって、アンタ」
「タキオンの調合した睡眠薬だ。オグリさん以外なら、たちどころに効くらしい。学園はテイオーの最初の実績にしようと、アオハル杯の開催に力を入れ始めてる。キングの奴はここ数週間で本当に捕まえるしかないって事だ」
「アオハル杯……80年代以前に行われてたって言うチーム戦?それを今更?」
「まぁ、テイオーへの世代交代を示す絶好の機会なのは間違いない。普段のチームとは別の編成が組まれる。お前の個人トレーナーも多忙になるだろうから、誰かに補助トレーナーを頼んどく」
「普段のチームとは別だし、個人の出走はまた別枠だからね…。さて、あいつのお手並み拝見……ってところか」
テイオー政権への世代交代後初の行事。それがアオハル杯というチーム戦で、80年代を最後に行われなくなったものを復活させたという。タイシンはころばし屋Zの活動をしばらくは制限させられた事に安堵しつつも、テイオーの手腕ぶりを値踏みするのだった。
――こちらはブライアン。入れ替わったのがキュアドリームであったため、何かと多忙であったが、元から父親の意向で護身術を身に着けていた事、ドリームの肉体がブライアンの『要求に応えられる』事により、素のパワーは本人を上回った。双方の能力の相乗効果で、素でミルキィローズを上回るパワーを発揮していた――
「ふんっ!!」
ブライアンは拳を叩きつけ、地面を大きく凹ませる。相対する学園都市製大型パワードスーツは足場を崩され、大きくよろめく。その隙を突き、足を掴み、ジャイアントスイングでぶん投げる。
「よしっ!!」
ドリームの身につけていた能力をゴルシの協力で把握していたブライアンは跳躍し、必殺技の体勢に入る。空中で大の字になって、その場で回転しながら、電気エネルギーをチャージする。電気がやがて『超電子』に昇華し、赤い稲妻が空に奔る。
『超電!!稲妻キィィッーーク!!』
要するに、超電子の稲妻を纏った飛び蹴りであるのだが、脚に纏わせたエネルギーの破壊力は下手なスーパーロボットの必殺技を凌駕する。その速度もまさに稲妻。命中すると、パワードスーツの上半身と下半身を泣き別れにするほどのパワーを見せた(通常のプリキュアのパワーを遥かに超えている)。
「なるほど、これがコイツの得たという『超電子』のパワーか。瞬間的に電気属性のエネルギーを超強化するというが、タマさんの領分かな、これは」
電気属性の力は、その手の異名を誇ったタマモクロスにこそ似合う。そう感じているブライアンだが、使わない手はないことは自覚しているようである。
「残りの連中には黙ってもらうか。……ムゥン!!」
ブライアンが姿を借りているキュアドリームは通常フォームの姿であるが、空中元素固定能力で背中にゲッターアークと同型のゲッターウイングを出現させ、それを展開し、周囲へ放電する。
「サンダァァァァ・ボンッバァァァッ!!」
超電子エネルギーの放電であるため、単純な出力はゲッターアークのそれをも上回る。学園都市製の大型パワードスーツの生命維持装置の恩恵で、辛うじて搭乗者は生存するだろうが、機体は超が二個つくほどの高圧電流のパワーで粉砕される。
「やれやれ。私だ。こちらのチンピラ共は黙らせた。ルドルフ、そちらはどうだ?」
「こちらも直に終わる。少々派手にやらせてもらうよ」
「あまり羽目を外すと、エアグルーヴの奴にどやされるぞ?」
「ころばし屋との決戦へ、いい予行演習になる。ここは大目に見てもらいたいな」
「アンタ、ハメ外したいのか」
「まぁね。会長職にある時は、あまり羽目を外せなかったからな」
「嘘つけ」
ブライアンは呆れる。生徒会で修学旅行先の下見に行った時など、本人が自覚してないだけで、意外に羽目を外しているからだ。
「これは手厳しいな。さて、伊達に『皇帝』と呼ばれていたわけではないところは見せよう!」
ルドルフはキュアハートの姿を借りているが、やっていることはプリキュア本来の役割からもかけ離れている。競走馬時代は荒々しい一面も持っていたルドルフが使った技が……。
「トールハンマァァァ・ブレェェカァァッ!!」
カイザーブレードを伝導体代わりにし、サンダーブレークの10倍以上の威力の高圧電流をぶつける『トールハンマーブレーカー』。何気に『敵と判断した者にかける慈悲は殆ど持ち合わせていない』という意思の表れであった。命までは奪わないことがせめてもの情けだろう。
「悪いが……立ち塞がるのなら、倒すのみだ」
二人の使った電気技は『エネルギーを収束させて炸裂させる』類のものなので、見かけほどの被害はもたらさない。
「エアグルーヴか?仕事は終わったよ。北端のブロック(裏山の裏側)にGフォースの担当部署の出動を要請してくれ」
「分かりました。ですが、派手にやってくれましたね、会長」
「なぁに、決戦の前のいい予行演習にはなったさ。アオハル杯の前に、憂いは無くしておきたいからね」
2020年代に入ると、こうした大型パワードスーツによるテロは後を絶たなかった。能力開発が行われなくなって久しいため、新規に能力者が現ることは無くなった。だが、兵器開発などの部署は都市の統治機構の解体まで稼働していたため、都市に取り残され、国に厄介者扱いされた元・学生や暗部部隊の生き残りらが近隣エリアを荒らすことが増えてしまった。銀河連邦が日本政府を動かす形での統治を試みているが、上手くいっていない。ススキヶ原などの学園都市の近隣エリアはチンピラやゴロツキと化した学園都市の在住者が暴れる場になっており、パワードスーツなどの重装備が出てくると、警察は見て見ぬふりとなる。故に、自警団が結成されたが、限界はあるので、常人以上の能力を持つ者にすがるしかない。ルドルフは偶々に町内会の自治会の嘆きのやりとりを聞き、自警活動への協力を約束したのだが、その翌日のタイミングで『お触れ』が協会から出てしまった。まさに最悪のタイミングである。窮したルドルフであったが、アグネスタキオンとゴルシの『ウルトラC』なアイデアで、プリキュアとの『体の入れ替わり』となったのである。つまり、ルドルフ達は『自治会館などでウマ娘にふさわしい慰問活動をしている』という絶対的なアリバイがあることになる上、『街で戦っているのは、プリキュアである』という物的証拠も残るのだ。副次効果で、双方の能力が同時に発動することで、その脚力が倍化するというオマケがついたため、キックの破壊力は通常のプリキュアの比ではない。
「事後処理は彼等(Gフォース)に任せよう。ブライアン、引き上げるぞ」
「分かった」
二人がこの日に撃破した大型パワードスーツは学園都市の往時でも、滅多に出回っていなかった高級品であった。だが、プリキュアの体と能力を使いこなした二人の敵ではなかった(半分は違うが)。ある意味、プリキュアといえど、現役時代とまったく同じ能力のままでは『対策を立てられる』という事の証明ともなった(仮面ライダー達も対策を何度も立てられ、苦戦している記録がある)。
「しかし、プリキュア対策は立てていたようだな」
「装甲強度は上げているようだが、この時代の素材強度は底が見えているからな。ガンダリウム合金や超合金があるわけではない分、こちらとしては気が楽だよ」
未来世界の装甲素材は21世紀中までと比較にならないほど頑強になっているため、プリキュアの現役時代の能力では『破壊が不可能なもの』も多い。ルドルフはそれを鑑み、こう言ったわけだ。
「漫画の中の話だと思っていたがな。無重力状態で金属を精錬すると、飛躍的に強度が上がると言う話は」
ブライアンの言う通り、従来の常識の延長線に位置する金属であるガンダリウムでさえ、世代交代を重ねることで、似た名の特殊金属『ガンダニュウム合金』に比肩する強度を獲得するなど、戦乱期であるのを加味しても、短期間に技術が飛躍している。また、マジンガーの超合金も『超合金ニューZ』が性能的に陳腐化しつつあるため、その更に上位の『超合金ゴッドZ』が開発された。宇宙というフィールドを手に入れることで、既存の金属であっても、20世紀中には考えられない強度を持つに至るのは、宇宙という領域の特殊性によるものだろう。
「それほど、宇宙進出というのは、地球人を次のステージに導くのだろうな」
さすがのルドルフも、入れ替わり中はダジャレは控えているようで、真面目に〆る。
「度重なる侵略がゲッターエンペラーの誕生に繋がるというが?」
「仕方あるまい。地球を離れれば、地球などは単なる『人類発祥の地』以外の価値を見いだせなくなる星だ。だが、21世紀以前の人間からすれば、それはけしからん事だ。地球を単なる資源採掘地に変えようとする者は、元の同胞であろうが、情け容赦なく潰す。それがアースノイドの意思だろう」
「スペースノイドは気に入らん発想だぞ?」
「スペースノイドにも言い分はあるだろうが、地面に足をつけなければ、生物は生きてゆけないというだろう?移民星が多数生まれている時代に、スペースコロニーにこだわる意味はないよ。コロニーは人の手がなければ、すぐにガラクタになる程度のものだ。異星に行ける技術ができれば、移民星に宇宙移民の主軸が移るのは当然さ」
ジオンの存在が希薄化していき、ついにはアナーキズムかつ破滅主義の男に利用され、破滅した経緯は移民星の増加で『宇宙移民の代表』を気取る事』ができなくなり始めたことで起こった。宇宙怪獣や異星人などの脅威があり、惑星破壊プロトンミサイルをかつての『大陸間弾道ミサイル』のような扱いで保有する大国との戦争が長く続いたため、地球は敵対者に情け容赦しなくなっていき、ついには、アンドロメダ流国やイルミダスとの生存競争で『皇帝』が目覚めるのだ。
「だから、人類が地球を捨てられるとすれば、主星である太陽が年老いて、赤色巨星化する時代だよ。それまでには、まだ数十億年単位の時間がある。昔、何かで読んだが、文明は一万年で循環するそうだから、その理屈でいえば、それまでには、地球人類は新天地を見つけられてるだろう」
ルドルフは地球人が母星を捨てる決意が真につく時代は『太陽系が太陽の死に伴って滅亡する時』だろうと結論づけたようだ。
「長いな」
「我々の想像だもしない時間さ。人から見れば、果てしなく長い。それまでには、なんとかなっていればいいんだが…」
ルドルフはそうまとめたが、23世紀になっても、地域国家時代の対立が尾を引いている現実がある上、地球連邦政府が出来ても、そこから『あてもないのに』自立したがる者たちが出てくる。それは歴史の循環と言える事例だが、ジオンは『宇宙時代のアメリカ合衆国』になり損ねた。非ジオン系のコロニーまで虐殺し、敗戦寸前にそれら全てをジオン消滅の道連れにしようとした。キシリア・ザビがそれを画策したことが白日の下に晒されたデザリアム戦役は、ネオ・ジオンの終わりを対外的に示す機会であった。だが、それでも敗北を認めない者はティターンズ残党に拾われ、そのティターンズも、裏でナチス残党の組織の援助を受けている事の調べが進んでいる。自分達には直接的な関わり合いはないものの、それらの争いを意識せずにはいられない。
「アンタは考えすぎだ。生真面目すぎんだよ」
「君はずいぶんと世俗じみてきたな、ブライアン?」
「下の妹たちが大きくなってきたからな。姉貴はお袋の代わりにならないといけなくなるし、私も気楽に構えていられなくなってきたんだよ。親父が年食ってきて、家業を継いでくれとうるさくてな…。知ったことじゃないし、姉貴に任せりゃいいと思うが、親父は私の天性のカンを欲しがってる。妹たちにも、姉貴にもないとぬかしやがる。それは妹たちへの冒涜だ」
ブライアンは下の妹達は才能がないと断じ、学費を出さないと言い出した父親を軽蔑したようである。ブライアンは妹達の才能の無さは感づいていたが、それなりに走ればいいと考えていた。だが、ビワタケヒデなどの妹達には投資する価値はないと口にし、ブライアンは父親を病院送りにしたくなったが、堪えた。家業が上手くいかなくなり始め、ハヤヒデが挫折したことで、姉妹対決の夢が破れたことは知っているからだ。それが(二人の姉に比して)凡愚な下の娘たちへの態度の変化につながってしまったのだろう。
「君は家業をどうする気だ?」
「姉貴に任せる。姉貴は脚は治ったが、見切りをつけたみたいだからな。最後に私と勝負する事の最終的な手筈を整えてもらってるそうだ」
「やはり、テイオーのあの有馬が彼女の心をへし折ったのか」
「そうだろうな」
「だが、それでタイシンとチケットは納得すまい?」
「うむ。タイシンには言ったが、すごい剣幕でな。あいつも意外に激情家だぞ」
「そうか…」
ブライアンは帰途の最中、ここ数週間のうちに色々と起こった実家回りの出来事を知り、一部は当事者であったためか、ルドルフに愚痴をこぼす。ブライアンはそんな実家回りの出来事で、父親を軽蔑したくなったからか、姉に代わって、自分が下の妹達を護るという意識を強めているようだ。
「あまり気負うなよ、ブライアン」
「ああ。分かってるさ。『妹』であるアンタには分かるだろう?」
「ああ。兄弟姉妹が多いと、それはそれで苦労を背負い込むものさ…。それはメジロ家も同じだろう」
「あそこは今はいいが、将来……」
「…ああ」
メジロはメジロブライトを最後の輝きに、時代の流れに飲み込まれていき、ついには冠名が消滅してしまう。マックイーンも『前世の記憶』に目覚めたのなら、とうに気づいているだろうが、ルドルフとブライアンはこの場で口に出すのを憚かった。ウマ娘世界のメジロ家がそうなるとは限らないからだ。とはいえ、ドーベルとブライトの次の代の雄がいないことには変わりはない。それはマックイーンも分かっているだろう。
「奴はゴルシやオルフェーヴルを遺し、その血を後世へ残したが、私たちの世界ではどうなるんだろうな」
「それはわからんよ。だが、タマモとオグリは史実を超えるという選択を選び、それを成した。私には既にその資格はないが、君やテイオー達にはそれが『まだ』ある。羨ましく思うよ」
ルドルフは立場上、歴史改変はしないと決めているようだが、後輩達のそれは許容しているようだ。そして、自身の寂しい引退の際の経緯とその悔恨からか、後輩かつ、三冠の後継者であるブライアンには『花道を飾らせたい』ようだ。
「アンタにしては、殊勝な物言いだな」
「君には味わってほしくないからさ。身内と疎遠になる寂しさと、栄冠と裏腹の去りようを」
ルドルフはシリウスシンボリと疎遠になり、現役時代は王者であったが故に、同期からも半ば孤立していたからか、切磋琢磨する関係にある者たちが周囲にいるブライアンを羨ましく思っているようだった。シービー以来、三冠という栄冠を手にした者の最後は寂しいものである事が続いている。
「ディープインパクト、オルフェーヴルは花道を飾れる事は運命づけられている。だが、君は?」
「確かに、前世じゃ『悲運の三冠馬』と言われたもんだ。だが、今は今だ。切り拓くまでさ。それがサクラローレルへの手向けとなる」
ブライアンは前世で、凱旋門賞という『夢』を前にして散ってしまった『桜花』を今度は花開かせたいという気持ちと、前世を超える事を目標とする純粋な欲求とのせめぎあいが心の中で起こっているようであった。
「サクラローレルもそれを聞けば、本望だろう」
「ああ。今度こそは蘇ってみせるさ。不死鳥は炎の中から羽ばたくというだろう?」
「……そうだな」
ルドルフは微笑む。ブライアンの成長を感じたからだろう。不死鳥のように、再び灰の中羽ばたこうとする『当代の三冠ウマ娘』の背中に鳳凰を見たのだ。
――不死鳥は炎の中から蘇る――
ルドルフはこの日の日誌に、そう書き記したという……。