――結局、ジオン残党は死に場所を得た多くの有力者がデザリアム戦役で散り、その後に残されてしまった者らも死に場所を求める落ち武者と化した。その多くは組織の尖兵となったが、三割ほどは火星経由でオールズモビルの存在を知り、そこに加入した。ティターンズ残党との呉越同舟的な実態だが、連邦さえ打倒できれば良しとした。新生ネオ・ジオンの時点で、連邦の脱走兵が相当数いたからだ。連邦はロンド・ベルらにそれらを討伐させる腹積もりであるが、デザリアム戦役で本星防衛軍に大打撃を被っていたため、手出しを控えていた。21世紀に現れた残党軍はオールズモビルの配下になり、死に場所を求めて、地球圏を亡霊のようにさまよう『落ち武者』となった者たち。Gフォースは極秘裏に地球連邦製の『リゼル』、『ジェガン』、『ジャベリン』を購入。日本国内のある場所に集積し、管理していた。Gフォースの装備の少なからずは『太平洋戦争期に日本軍が轟天計画用に用意していた秘密基地』で管理されており、そこには鉄人28号の量産を見越した設備が元からあったのだ。――
――ジオン残党の日本各地への襲撃は政府へ衝撃を与えた。M粒子は21世紀型電子回路の機能を低下させる効果があり、MSを擱座させるには奇策が必要であるという事実を公言されることを恐れた官僚と政治家らは『交戦経験のある自衛官を冷遇するよりも、一箇所で管理し、事態に対処させる』という結論に達し、事実上の箝口令を引く代わりに、地球連邦からの装備導入を黙認する事にした。その成果がMSの運用であった。地球連邦はジェイブス/フリーダムへの機種更新を急いでおり、それ以前の機種は民間へ放出する方針であった。とはいえ、数の多いジェガンが主に対象であり、小型機はゲリラ戦での整備性に問題ありと見なされ、避けられる傾向が多いことから、比較的に安定した性能を持つジャベリンがGフォースへ回された。とはいえ、ジャベリンは対艦用ジャベリン以外は平凡な武装しか持たないため、スターク化できるジェガンのほうが好まれたという。小型機が衰退した理由は『新規に武装オプションを制作しなければ、武装の増強が出来ない』というのも含まれている――
――また、あまりに高度化した小型機の構造(MCA構造)はゲリラ活動向けでないと判断され、次第に衰退。以前のムーバブルフレーム構造の改良型へ回帰する。外宇宙戦では質量を武器に変えられる大型機の方が都合がいいのだ。あまりに高密度化した構造では、市井の電子部品での修理がままならないのも、同構造の衰退の理由であった。サナリィはザンスカール帝国と旧クロスボーン・バンガードへの協力と密約の咎を一気に受け、規模縮小と幹部の処罰がなされた影響で、MS開発企業として衰退。結局はアナハイム・エレクトロニクスがMS開発の主導権を握り返すに至る。アナハイム・エレクトロニクスの軍需部門の中興はこうして起こったわけだ。プリキュア達の奇跡の科学的分析も彼らの手で行われ、ミラクルライトをサイコフレームを用いたライトで擬似的に再現してみせた。アナハイム・エレクトロニクスはそれを量産。自力で最強形態へなれないプリキュア達のパワーアップ用に配布された。(一部のプリキュアはミラクルライトを介さずに、自己意思でパワーアップが可能になっているため)それでも、気休め程度にしかならないのが次元世界の恐ろしさだが――
――ゴルシ達が護衛したアルザス級戦艦は入渠予定地に接岸した。50000トン級戦艦の入れるドックはいくらでもあったが、自衛隊や海保、米軍もローテーションの変更を嫌がり、ドックの提供を渋る有様であった。とはいえ、リベリオンの部材での修理が必要であるため、結局は米軍がドックを提供する流れになったという。ガリア海軍は修理後すぐに戦列に加えるつもりだったが、ペリーヌ・クロステルマンがそれを許さず、論争となってしまう。ペリーヌは国土復興と民衆の福利厚生に予算を回させるつもりだったが、ガリアには『軍事力で覇を唱えた歴史がある』。現実問題、海軍に残された戦艦はリシュリューとジャン・バールのみ。しかも、ダイ・アナザー・デイの損傷を回復出来ていない。これは資材不足のためだが、ペリーヌとしては、ダイ・アナザー・デイで『ヤマトファミリー』の威容を目の当たりにしていたこともあり、自前の戦艦戦力の維持に魅力を感じなくなっていた。それよりも『空母の保有』を志向している。これはベアルンがいつまでたっても現役扱いの自国を憂いたためだが、ガリアが建造を構想していた『ジョッフル級航空母艦』(35000トン級)程度では性能不足なのだ――
「あんたか。フランスのお嬢ちゃんはどう言ってる?」
「軍隊の性急な再建に絶対反対でな。空母を欲しがってるが、空母は最低でも、65000トンないと、昨今は使い物にならんからな」
黒江との定時連絡で、ペリーヌ・クロステルマンが空母を欲しがっている事を教えられるゴルシ。史実で仏が戦後に整備した空母はいずれも米基準での『中型』であり、しかも、シャルル・ド・ゴール級は一隻のみ。財政的に一隻づつを稼働させるので精一杯なガリアでは、史実のクレマンソー級さえも持て余す可能性が大きい。その事から、ペリーヌも早期導入には反対である。だが、ガリア海軍はロマーニャ海軍の再建が進み、ブリタニア海軍が21世紀世界の援助で空母機動部隊を整備する事を予測しており、危機感を持っていた。その齟齬が、その後のガリア軍の整備に暗い影を落とすのだ。
「ペリーヌは国内のガス抜きに、空母を二隻欲しがってるようだが、昨今は小規模の空母機動部隊の需要はあまりないからな」
「そりゃ、敵がアメリカ相当で、エセックスやミッドウェイ級がわんさか出てくるんじゃな。アメリカ型の空母以外の需要ねぇよなぁ」
日本連邦は『ジェット機を70機搭載できる空母』を志向し、結果的に少数精鋭になるものの、艦載機の質は20世紀末期の水準が見込まれている。しかし、超音速機のノウハウもないガリア海軍では、F-8の運用にも四苦八苦するのが目に見えていた。そこが困りものであった。ガリアは元々、海軍技術でも先進国の一つであったため、艦載戦闘機の外国産化に難色を示す事も予測されているからだ。とはいえ、既に時代はジェット化どころか、超音速機にまで到達している。順当な自国産ジェット艦上機も事欠くガリアは恥を忍んで、運用能力取得を優先すべきだろう。
「まぁ、順当にF-8を買うだろう。ヴェノムは旧態依然としてるからな」
「あんたの世界の仏は英嫌いか?」
当時、ブリタニアは史実で言う、『デ・ハビランド ベノム』を相対的に安価な事から、各国にセールスしており、中小国を中心にヒットしていた。ガリアは元々、高い航空技術を持つ事から、ブリタニア機のこれ以上の導入を反対する声が挙がっていた。(とはいえ、史実ほどは衰退してないものの、ブリタニアに大量の新型軍用機を短時間に生産するほどの力はない)そのため、一足飛びにF-8の導入が決まる見込みであった。
「イギリス嫌いが史実より空軍に多いんだよ。ヴェノムで忍んでくれるかと思ったが、クルーを打診してきやがった」
「おいおいおい、確かそれ……」
「超音速機だ。俺達を仮想敵国にしたんだろうが、ハードル高いぞ。なにせ、向こうの海軍のパイロット連中、単葉機に乗った経験も怪しいもんなのに」
MS406やD.520の配備すら進んでおらず、MB.150も少数があるのみのガリア軍の国産機の有様は扶桑が矢継ぎ早にジェット機を更新してゆく現状を鑑みると、悲惨の極みである。仕方がないが、10年近い技術的停滞の時間は長すぎたのだ。ガリア国産機の中で比較的に新しい『D.520』すら、元来の仮想敵『Bf109』は既に、その最終型さえも退役を初めており、新たなる仮想敵の日本連邦機に比して、あまりに旧式化していた。ガリア海軍に教官を置かなくては、まともにジェット機の運用は出来ないだろう。
「日本の連中は疫病もあって、こっちに興味を無くしたから、好きにできるのはいいんだが、ずいぶんと引っ掻き回したから、国内はまだ混乱してるよ。ガリアに教官くらいはおけるだろうが、参謀本部の許可は出ないだろうよ」
「なんでだ?」
「日本の政治屋がガリアの軍事強国としての復興を望んでないからさ。だが、ブリタニアは他国を育てるほど、お人好しじゃない。フランスはフランスで、同位国のガリアを利用するつもりだしな。その関係か、ガリアの大統領がおかしな動きをしてるってタレコミがあってな。かなり長い調査になるだろうから、今は波風を立てたくないってヤツだ」
「軍の都合と政治の都合は違うからな」
「その関係で、ガリアへの援助は小規模になりそうだ。将来的に仮想敵として見られるだろうから、日本は育てたくはないんだろう。だが、フランスに恩を立てておきゃ、今後の外交交渉に使えると思ったんだろう」
「フランスがそんなタマか?」
「せいぜい、金づるとしか見てないだろうな。そんなんだから、統合戦争で叩き潰されんだ」
ゴルシも言うように、フランスは自分がライバルと認めた国以外は見下す傾向が強い。統合戦争でそれが仇となり、日本連邦に屈することになる未来が待ち受けているのである。
「それっていつだ?」
「統合戦争の後期だから、150年以内の未来だ。その後に、一年戦争でパリが消し飛ぶ」
「信じないだろうな」
「日本連邦は知ってるさ。だから、それとなく、エッフェル塔のレプリカを他の街に造るように唆してる。美術品は俺達が極秘裏に、本物を確保しとく事にした。街ごと沈むから、パリ市内は安全じゃないしな、コロニーの残骸の落下の災害は」
「野比財団に渡すのか?」
「ああ。ひみつ道具でコピーを取った上でな」
「ビスト財団の大元は?」
「21世紀の前半には影も形もないな。サイアム・ビストも生まれてねぇしな」
黒江のいう通り、サイアム・ビストは統合戦争初期のゴタゴタを利用する形で栄達し、財団を興すので、21世紀の序盤には影も形もない。その先祖が中東で暮らしているはずである。
「すると、何か?あの財団は6、70年で大きく?」
「ああ。アナハイム・エレクトロニクスの創業一族と姻戚関係になってな。だが、野比財団が目の上のたんこぶでな。マーサ・カーバイン・ビストは野比財団を倒そうとしてたってわけだ」
「で、ラプラス戦役のゴタゴタを利用して、野比財団が?」
「ビスト財団の息の根を止めた。サイアム・ビストも、財団の解体を望んでいた。表向きは合併だが、事実上は吸収だな」
野比財団はマーサ・カーバイン・ビストが逮捕されたのを合図に、ビスト財団を『密約』に従い、解体した。これは生前のセワシがサイアム・ビストを説得し、極秘裏に交わしていたもので、その密約の日付は統合戦争の前期頃。つまり、ビスト家の子や孫達の知らない内に、財団の解体は取り交わされた約束事になっていたわけだ。ビスト財団のノウハウは野比財団に引き継がれ、ビスト家は財団の経営権を喪失。以後の時代を『資産家の一族』という体裁で生きる事になる。
「で、野比財団はどうすんだ?」
「アナハイム・エレクトロニクスとサナリィの株は抑えてあるそうだ。サナリィは今後、ザンスカール戦争の咎で罰金が待ってるから、野比財団の言いなりになるだろう」
「つまり、のび太の鶴の一声で、地球連邦一の企業群が動くことになるのか」
「そういうことだけど、艦艇部門は弱いぞ?」
「あ、他の会社がシェア持ってんだっけ?」
「アーガマ、アイリッシュとネェル・アーガマくらいだな、採用されたの」
アナハイム・エレクトロニクスはMSでは地球圏のシェアを寡占しているが、艦艇部門は災難続きで上手くいかず、アイリッシュ級が量産された程度である。ヴィックウェリントン社がシェアの多くを担っており、同社がラー・カイラム級を生み出したこともあって、アナハイム・エレクトロニクスは艦艇部門には消極的である。アルビオンの教訓からだろう。
「南部大重工業が波動エンジン艦の製造担当だから、艦艇は競争激しいんだ。ネルガル重工っていう新興のメーカーが進出してきたが、火星の遺跡の産物は恒星間文明じゃないっぽいしな」
「この世界の火星、超古代文明あったのかよ」
「遺跡を遺してたから、その解析も進められてたんだけど、波動エンジンが手に入って、ワープ技術が安定したから、停滞してたんだと」
火星にはジオンの落ち武者が多数落ち延びているため、地球連邦も扱いに困っており、可変戦闘機も独自の進化を遂げている。遺跡の分析が停滞した理由は、火星にジオンとティターンズの落ち武者が多数たどり着き、そこで争いを起こしていた事、現地の地球連邦軍はジオンやティターンズに対抗できるほどの規模ではなかったである。それ故、火星の情勢は混沌としているという。
「なるほどな。今、ブライアンが仕事の終了の申し渡しをしてるところだが、今の状態、まんざらでもなさそうだぞ」
「あいつ、プリキュア相当のアニメを見た世代か?」
「わかんねぇ。あいつ、私生活はあまり話さないほうなんだよ」
ゴルシは意外そうな感じであったが、ブライアンはプリキュアと入れ替わっている状態を受け入れているようだと伝えた。この入れ替わりは『協会からの通達』の穴を突くための一時的な措置であるが、怪我で低迷していた彼女に何らかの変化をもたらしたようだ。
「分かることはある。サクラローレルの事を気にしてんだ」
「サクラローレル?サクラ軍団の最後のエースと言われる?」
黒江もその名は知っている。ブライアンに引導を渡した同期の天皇賞馬で、史実では凱旋門賞を前にして、ターフを去った悲運の日本馬、サクラ軍団最後のエース。
「そうだ。あいつはブライアンの再起を願っている。自分が倒すために。ブライアンはその因果を超えたいから、今回の出来事に乗っかったんだと思う。」
「奴は、自分の能力が全盛期より衰えた自覚が?」
「恐らくな」
ゴルシは視覚していた。ブライアンに絡みつく『史実の因果』という糸を。ブライアンも前世での記憶を宿し、その光景を見たからこそ、なりふり構わずの措置に踏み切ったのだろうという推測も立てていた。
「おまけに、ディープのオジキとオルフェが入学してきたから、協会も世代交代をせっついて来てたんだろう。ブライアンはああ見えて、ナイーブなとこがあるからな」
「どういう事だ?」
「あいつの姉貴のことだよ」
ブライアンは姉のことになると、途端に弱さを見せる。ゴルシはその事を近くで見てきたからか、ハヤヒデの引退の翻意の説得をテイオーに促すなど、お膳立てをしてきている。
「やはり、荒れたか」
「のび太んちの家の壁に穴が空いたぜ。直したけど」
「他人の体になってんって自覚あるのか?」
「あいつ、意外にパニクるんだよ。たぶん、子供ん時の名残りだと思うが、三日前、ぬいぐるみを隠したら……泣かれた」
「…嘘だろ??」
黒江もびっくりだが、ブライアンは子供の頃の名残りか、実はぬいぐるみを抱いてないと、眠れないという弱点があり、また、寝ぼけ眼の状態だと、普段の無頼ぶりはどこへやらのかわいい言動になる。これは寮での同室で、史実での異母弟に当たるタニノギムレットも知らない。
「それがマジなんだよ。タニノギムレットも腰抜かしてたぜ。たぶん、元々の臆病さが形を変えて出ているんだろう。鼻テープとぬいぐるみが奴のルーティンなんだと思う」
「シャドーロールの怪物も一皮抜けば、かわいいもんだな」
「まぁ、怪物の二つ名を継いだって点もだが、意外に可愛いのは、オグリさんの後継かもな」
ブライアンはいつしか、シンボリルドルフのような王者の後継ぎではなく、前世でのナリタブラリアンがそうであったように、先代の怪物『オグリキャップ』の後継と見做されている。アイドルホースとしての後継として。
「未だに引き合いに出されるもんな、1990年の有馬は……」
「ハイセイコーさんは実際の成績よりも、地方の出って出自と歌が後世に残ってるが、オグリさんは文字通りにアイドルだったからな」
オグリキャップはタマモクロスとスーパークリークが面倒を見ている通り、引退後は生活力がない点が問題になっている。レースに復帰させたのは、半ばフードファイターになっていたからだったりしている。
「そっちはまだかかりそうか?」
「イタリアの海底軍艦を引きずり出さないといけないからな。」
「イタリア?持ってたのかよ」
「パーツを完成させたんだろうさ。まぁ、素体はリットリオだから、安心してる」
黒江はリットリオ級を三下扱いである。怪異への打撃力も不足してきてるので、普通に旧式化の進行が進んでいるのも事実である。何気に辛辣だが、イタリア戦艦は世界レベルで見ると、実際の実力としてはかなり下の方であるという評もある。これは当時のイタリアの限界でもあり、アウトレンジ戦法を追求しつつ、基礎打撃力をひたすら上げてきた日本とは土俵の違いもあるが、かなり相性が悪い。その事を踏まえ、多少は楽観的に構えられているようだ。
「お前さんにしては、珍しいな」
「これがドイツやフランス艦なら侮れんが、イタ公の船だぜ?スペック出せんのかって気持ちだ」
冷静に考えて、イタリアの工業能力でラ級戦艦の能力を引き出せるのかという疑問があるのも事実だ。実際、戦艦ローマはフリッツXの直撃で轟沈している。艦娘のリットリオやローマが聞いたら、憤慨は間違いなしだが、その認識こそ、太平洋の大海原に漕ぎ出している日本と、地中海限定であった(二次大戦当時の)イタリアとの差だった。
「うーん、それはともかくも、プロの軍人のあんたが言うのなら……」
「戦後は良い製品を作るが、戦中の代物じゃな。まぁ、戦ってみなけりゃわからんが、あまり悲観する必要はないって事だ。気は楽だよ、幾分かはな」
ゴルシも拍子抜けという感じだが、イタリアという国への認識がどういうものか、どこの世界でも同じだとわかり、ちょっと微妙な気持ちにさせられるゴルシだった。
――その頃、入れ替わって、自治会館で慰問ライブ中ののぞみは、タブレットに送られてきた『変身したコスチュームの上から、フライトジャケットを着込む姿の『キュアドリーム』に驚天動地であった――
「うぇええええーー!?変身した上で、フライトジャケットぉ!?」
「そりゃ、変身した格好で街はぶらつきにくいしのぉ。まぁ、ぶらつきにくいなりに、ブライアンが工夫しおったんやろ」
「タマさん、冷静ですね……」
「オグリやイナリの面倒を見とるし、今更、何人増えても動じへんで。実家にチビ達おるし」
タマモクロスには何人もの妹と弟がおり、その面倒を見てきた。元々は貧乏だったが、父の必死の努力、タマモクロス自身の現役時代の収入により、引退後の現在は『そこそこの暮らし』を謳歌するに至った。貧乏癖は抜けなかったが、逆にそれが現役時代の人気の理由の一つとなっていた。そのため、ルドルフの発案で『入れ替わった側』の面倒を見ており、ブライアンの体に入っている『夢原のぞみ』を勇気づける。
「普段はあんな敵と戦っとるのに、それ以外はからっきしなのかいな」
「そりゃ、戦闘はプロですよ?そうですけど、こういうライブはあまりぃ…。ダンス部も、演劇部も三日で追い出されたし」
「……三日やと?この21世紀の世の中に?」
「はい」
「……あかん、こりゃ本物やー……」
のぞみは特訓で歌唱力は改善したが、戦闘以外の分野の多くのパフォーマンスはかなりの改善の余地がある。その事を現役時代の部活の追い出されぶりで表現したが、あまりの凄さに、さすがのタマモクロスも閉口する。とはいえ、やらねばならないのも事実。
「ちょい待ちぃや。後輩のフジキセキを呼ぶで」
タマモクロスは後輩のフジキセキ(実はタマモクロス、なりは小さいが、ルドルフに次ぐ古株である)に連絡を取り、大急ぎで来てもらう。付け焼き刃でもなんでも、ある程度はダンスらしい動きが出来なくてはならないからだ。
「後輩の子(ラブのこと)はダンス経験者なんですけど、あたしは現役ん時、普段の運動はダメダメで」
「その姿でしょげられても、反応に困るで~…」
と、タマモクロスも調子が狂うようだ。仕方ないが、のぞみが借りている姿はナリタブライアンだからだ。とはいえ、絶対に本人がしないであろう、ギャグ顔が見られるという事実に、彼女の姉であるビワハヤヒデを興奮させ、密かに写真を取ってほしいと頼まれてもいる。タマモクロスはそんな頼みを引き受けざるを得なくなったわけで、(この場にはいないが)悪ノリ気味のルドルフとハヤヒデに愚痴りたい気持ちだった。