――扶桑は艦艇の統制された不燃対策がなかった。たとえば、戦艦武蔵は家具の一切を撤去していたが、それがM動乱で問題視され、当時の艦長の責任問題にまで発展。結局はその前の艦長が在任していた時期からいた当直士官が『良かれと思って、それをやったが、その責任を取る』と、自宅で自刃するに至った。海軍で不燃塗料と不燃対策済みの家具の普及が急がれたのは、乗員や艦内の衛生問題も絡んでいたが、こうした関係者の『自刃』が問題のたびに起こったからである。武蔵はこの不祥事を原因に、連合艦隊旗艦に返り咲く事は無くなり、実験艦として用いられる事になった。その代わりになったのが信濃であった。初陣では散々であったが、M動乱で鍛えられた後のダイアナザーデイで真価を発揮。武蔵に代わり、大和の影となった。また、近代化のテストケースでもあったため、信濃がその後の戦艦の追加建造のモデルとなった――
――戦艦信濃。必ずしも望まれて生まれてこなかったが、そういう生まれの戦艦が何故か武運に恵まれる事はある。信濃はM動乱こそ、格上に叩きのめされる羽目になったが、近代化後に真価を発揮した。水戸の竣工まで、連合艦隊の指揮序列の高位を維持し続け、M動乱における殊勲艦として世間にも人気。空母として不幸の極みであった信濃は、戦艦として生まれる事で殊勲艦になれたのである。その代わりに、空母機動部隊は『敗者』のレッテルを貼られる事で意気消沈。結局、日本の行った『航空戦力の一括管理』は空母機動部隊の形骸化を推進させただけであった。これは軍事的には愚策そのものであったが、政治的には喜ばれた。海軍から独自の作戦遂行能力を無くしたからである。流石にこれは弊害が出たため、『統合軍としての作戦行動のためである』と言い訳がなされた。空軍の呉越同舟ぶりが露呈したからであった。粛清人事のし過ぎで人員の質のバラツキが大きくなったからで、それを補うための艦艇の近代化というのが本当のところ。空軍は外聞の都合上、表ざたにされるのは『司令部直属の精鋭部隊』のみだが、一般部隊は呉越同舟状態で、横の連携が取れない区域が普通にあった。信濃が英雄艦とされたのは、そんな事情もあっての事であった――
――魔女の勢力低下は日本が史実の戦訓を持ち込んで『科学力の劣位』を強調したのも一因であった。日本が扶桑の基礎科学力を急激に上げていき、短期間に超長距離レーダーやそれによる索敵網、高性能対潜兵器が実用化され、顕現の確率の低い固有魔法に依存する必要が無くなったためだ。また、平均的技能の空戦魔女は戦闘機と大差ない戦力(魔導師にはある『火力』がない上、教育の簡略化で『接近戦で無力』であることが問題になったのだ。また、ダイ・アナザー・デイで『陸戦魔女』が華々しい活躍を遂げたのに対し、空戦魔女は『P-47』にハンティングされる醜態を晒したばかりか、キュアドリームたちの支援どころか、足を引っ張ってしまうほうが多かったからだ。無論、統合戦闘航空団級の魔女であれば問題はないが、そうでない魔女は『P-47』からは逃れられない。急降下で逃げようとしても、レシプロ機最高級の強度と急降下速度を誇った同機は、魔女の『引き起こし』の瞬間に12.7ミリ機銃(徹甲弾)の弾雨を浴びせられる余裕があるからであった。同機は20ミリ砲を100発当てようとも、まだ飛べるほどの頑強さを誇っており、接近戦がこなせない『平均的な若い魔女』には荷が重い相手であった。キュアドリームらは他チームのプリキュアの技も借りて対応し、同機を退けることが多かったが、そう連射の効く技ではなかったので、ダイ・アナザー・デイ後に特訓が始められ、太平洋戦争までには『目処を立てられる』状態であった――
――太平洋戦線の戦線が開かれ、数年。日本連邦は超兵器を集中運用することで敵軍の侵攻を抑止していた。コンバットアーマーがそれであった。コンバットアーマーは動力源、その他の伝達機構こそ、宇宙時代の技術で造られたものを使用しているが、その他は21世紀の技術レベルでも充分に保守整備が可能な水準であった。旧態化して久しい軽戦車や騎兵に代わるモノとして、1948年度の末から1949年の夏にかけての短期間で多くの数が配備された。本土でラウンドフェイサーがテストされた後、前線にも回されたが、被弾時の生存性に難がある事も判明。早期に後続の機種に更新されていった。複座型の『ビッグフット』、特異な形状の『ヘイスティ』などがそれだ。MSと毛色は異なるが、人型兵器である事には変わりはないので、ティターンズも驚愕し、太平洋戦線の部隊に無理な侵攻を控えさせるようになった。また、鹵獲したコンバットアーマーを解析し、彼らもコンバットアーマーの量産の道に足を踏み入れていく。扶桑軍はそれを見越しており、ヘイスティのさらなる後継として、のび太がダイ・アナザー・デイで用い、その増加試作機を置いていった『ダグラム』の制式量産化を決意。『DAM』と名付けられた量産コンバットアーマーの第一生産ロットが南洋の秘密工廠でロールアウト。その部隊編成が急がれていた――
――戦艦水戸とキュアミラクルらの駆るマシンの活躍でジョンストン島は抑えた扶桑だが、太平洋の小島を抑えただけであり、同地そのものの戦略的価値は小さかった。むしろ、進出してきた艦隊に壊滅的打撃を与えたほうが価値があった。戦艦水戸はこの戦功で『大和の後継ぎになる新鋭戦艦』という触れ込みで存在が公表された。53cm砲を備えた新鋭艦として。戦艦の能力では完全に上回るがための『余裕』であった。アメリカ系の国家は仮想敵を舐め腐るという特徴があるため、ダイ・アナザー・デイでの一連の海戦で『大口径砲を馬鹿のように積んだ、扶桑新鋭戦艦群』に戦艦部隊が返り討ちにされたという事実は『16インチ砲で妥協してきた』リベリオン海軍にトンカチでぶん殴ったような衝撃を与えた。大和型のネガを潰した新鋭戦艦は海戦の優位を扶桑にもたらした。何せ、46~51cm砲が馬鹿みたいな速度で撃たれる上、21世紀以降の水準による対空装備で『大戦機のレシプロ機を寄せ付けない』防空力を備えているのだから、潜水艦とその対艦装備(そのノウハウ含む)が未発達で、良くて1930年代後半の艦艇と第一次大戦に毛の生えた水雷装備品しかない世界のたいていの戦艦では『歯が立たない』のは自明の理であった。鹵獲した列車砲を対艦戦闘に用いる無茶もなされたが、装弾中の隙が大きすぎて結局は駄目であったリベリオンは『多少の無茶は止むを得ない』とし、『51cm砲搭載の超モンタナ』の開発を急いでいた。これにより、大和型が攻防性能で第一線級と見なされる時代にも、いよいよ終わりが見えてきたことになる。(事実、水戸型五番艦に『大和』の艦名を継承させ、大和を日本に売却する案がある)とはいえ、大和型は比較的に新しい艦型であるので、第一戦隊及び第二戦隊からの配置変えで使い続けることになる見込みであったが。――
――当時は1930年代末頃建造の艦が相次いで旧式化したと判断され、財政的余裕のある国々がその更新に取り組み始めていたが、巡洋艦や戦艦の更新は停滞し、小手先の強化に終始していた。日本連邦は狂ったように、ミサイル、レーダー、ソナー完備の艦艇の増備を進めたため、海軍魔女の役目は加速度的に縮小していった。怪異への対応が通常兵器でも、一定範囲で可能になりつつあったからだ。大型も戦艦の火力でダメなら、64Fの精鋭を呼べば良かった故、生え抜きの海軍魔女は面子丸つぶれであった。当時は坂本が一線を退き、竹井醇子はプリキュアへ転じ、空軍に引き抜かれるなど、人材の流失と世代交代、退役で全体的な質が下がってきていた。期待の新星であった宮藤芳佳も『海軍航空の同調圧力』を嫌い、空軍に移籍する(プリキュアへ覚醒したのも大きいが)など、海軍航空隊の事変後第一世代の魔女たちの『集団主義』的風潮の負の側面が組織をガタガタにしてしまったことが白日の下に晒されつつあり、その代表格と見なされていた志賀は『事の責任を取る』ために『軍を辞める』つもりであったが、慰留を受け、戦役中は留まる事になった。その彼女の『償い』の象徴が彼女が私的に確保していた格納庫に秘匿された、修復途上の『震電ストライカー』であった。宮藤芳佳から『父親の遺産を奪ってしまった』という罪悪感に駆られた志賀はクーデターの後、震電の修復に私財を投じていた。クーデターの際に焼損を免れた部分と別の試作機のパーツを組み合わせ、修復を行っていた。外装はまだなされていないが、魔導エンジンも宮藤芳佳の使用を前提にしての『マ43特エンジン』を修復し、再搭載しており、志賀なりの償いが表れていた――
――そんな海軍魔女の窮状と裏腹に、空軍は旭日の栄光を味わっていた。組織設立からまもなく五年を迎える空軍は扶桑の航空作戦を一手に引き受ける存在として認知され始めており、その予算も次第に増えてきていた。だが、内情はけして褒められたものではなく、部隊ごとに前身組織時代の相克を引きずっており、横の連携が取れない(手柄争いになる)有様であった。64Fを補助できているのが、『幹部が個人的に64F幹部と面識のある部隊』のみである点で、海軍基地航空隊と陸軍飛行隊の時代の対立を未だに引きずっているのが丸見えであった。坂本が前世と違い、海軍航空隊への帰属意識を持たず、空軍の仲介役と自負しているのは、そういう背景があるからであった。また、ダイアナザーデイでのび太が何度か用いた『ダグラム』が採用された他、持ち込まれた『ビックEガン』は魔女やプリキュア用の武器として採用され、対戦車ライフルに代わる、大火力の供給源としての生産が開始された――
――日本 市ヶ谷台――
「いくら、物量で勝てないからと、反地球が売っぱらったパテントを使って『コンバットアーマー』とビックEガンを採用しちまうとは」
「財務の連中は奴さんの軍事予算を、こっちの年金とかの予算に多く回したいんだよ。だから、扶桑の軍備の保有枠を政治で決めようとしてんのさ。内政干渉だぞ?」
「総理は?」
「つっぱねたらしいが、財務は『福利厚生の改善の財源確保』を大義名分に迫っている。プリキュアのお嬢ちゃん達におんぶにだっこじゃ、扶桑の陸軍の連中が面子丸つぶれだというのに」
「やれやれ。財務は自分らの規律を優先するからな。世間から嫌われんだよ、ああいう連中は」
防衛官僚らは防衛省内のある会議で、このような会話を交わしていた。防衛省は日本連邦体制下でも、相変わらず財務省にいびられていた。だが、未来からのジオン残党の襲来で事態が一変。実質の抗争状態となっていた。
「Gフォースに手が出せんからと、ジオン残党の襲撃でボコボコな我々を目の敵にしてくるとは。戦力が回復しきっていない九州の部隊に死ねと?」
「俺がそれを迫ったら、連中は『そんなつもりで言ってない』と言い訳しかせん。統括官の独走を恐れるあまりに、通常部隊の復旧をおざなりにするとはな」
「扶桑が負担してくれているから、我々は防衛予算をあまり増額せんで済んどるというのに。GフォースにMSも配備させるぞ」
「いいのか?」
「動力は核融合炉だが、数百年後の技術で造られた代物だ。統括官が私的に持っているのだから、せっかくだ。配備させよう」
と、いう風に、Gフォースの重装備化はなし崩し的に進展。日本の野党が気がついた時には、ジェガンやジャベリンといったMS群がまとまった数で配備されていた。また、自衛隊とアメリカ軍に提供されたデストロイドが歴史的には『それ自体を生み出す母体』になるなど、歴史的な帳尻合わせも起こっていた。背景として、学園都市が解体前に有していた超兵器群がブラックマーケットに流れてしまっており、MSやデストロイド、コンバットアーマーはそれらへの対抗策としての保有であった。野党も学園都市の超兵器には『自衛隊の通常兵器では歯が立たない』事は認知していたため、結局は妥協した。ジャベリンは配備数は戦乱で減少していたのと、後継機の『ジェイブス』の登場で払い下げが始まっており、Gフォースに配備されたのは、軍縮期に倉庫に入れられたまま放置されていたのを再整備した個体で、核融合炉を当初の物より世代の進んだものにしているなどの修繕が施されている。
――日本の文科省が起こした一連の混乱は結局、軍の士官の職場の一つであった『軍事教練』の職場を奪うだけでなく、彼らの転職にも差し支えが生じる始末となった。結局、日本の文科省は『扶桑の軍事教練を廃するとは言ったが、ここまで大事になるとは思ってなかった』との声明を発表。軍事教練や魔女の発掘のために学校に派遣されていた士官の多くはなし崩し的に前線勤務にされ、激戦で戦死していく。魔女の発掘のために派遣されていた元・魔女の女性将校も多く、突発的に出現する魔女の取り扱いに難儀した日本は手に負えないと判断し、魔女の専門課程を設ける事を決め、魔女への差別意識を根付かせないために、結局は多額の費用を費やすのだった。また、異能自体は日本にも多数が存在するため、軍事的に有用であるのも事実であり、『中世の魔女狩りのような惨劇を起こすより、怪異などの脅威への盾として利用する。日本政府と官僚はこの結論に達し、『給金はやるから、ちゃんとやることは果たせ』という暗喩とともに、魔女らにそれまで通りの給金を払い続ける事にしたのだ。(名誉が伴うとは言っていないが)――
――結局、野党は傷痍軍人への問題も(旧軍人の大半が死に絶える21世紀になり、自然消滅しかかっていたのを)蒸し返した形になり、『日本連邦の軍人はかつての軍人とは別扱いになり、福利厚生の財源も扶桑の管理下にあるので、日本が口を挟む問題ではない』という政府回答が世間的に支持された。野党は『進駐軍は戦後、軍事援護を停止したはずだ。我々が彼らを養う言われはない』と息巻いたが、自衛隊がジオン残党との戦闘で負傷者を多数出していた事、旧軍の傷痍軍人は主権回復後に軍人恩給の対象になっている事、扶桑の傷痍軍人への援助の財源は扶桑の予算から捻出されるとの政府説明は極小数になっていた傷痍軍人の生き残りや、ジオン残党との戦闘で負傷した自衛官から支持された。左派はこの立て続けの大チョンボで『日本連邦の運営へのイチャモン』をつけられる状況では無くなっていった。更に、同じ『枢軸国』であったドイツがカールスラントの体制を無理に君主制から共和制に転換させようとした結果、カールスラントが内戦に陥ったからであった。――
――カールスラントの内戦そのものはNATOと地球連邦軍の介入で早期に終結したものの、皇室親衛隊の儀仗部隊への転換と皇室の政治権限の議会への移譲(委任という体裁)で混乱が生じ、混乱に乗じて、組織が師団ごと引き抜いたり、軍団ごとマフィア化する者も生じ、結局は余計にカールスラント軍の空洞化を引き起こすのみであった。建造中であった戦艦は空母への改装が決まるも、既に戦艦としての部品が納入済みであり、カールスラント空軍に『洋上での作戦能力がない』事の判明もあり、ここでもお互いに揉めてしまう。カールスラントはこうした混乱続きで、完全に軍事的・政治的な権威、物理的な軍事力を喪失、短期間で『二流国家』に転落してしまう。再建も『西ドイツ程度の国力と軍事力に制限する』と第三者によって決められ、戦艦ビスマルクとティルピッツの売却までも検討される有様であった。だが、地政学的に一定範囲の再建は必須になったので、結局は戦艦を六隻ほど抑止力として維持することが許容された。だが、所詮はビスマルク級とその改善型。モンタナ級とその改良型の前には見劣りする陣容でしかなかった。こうした屈辱もカールスラントの混乱が続く要因であった。日本連邦と違い、合理性重視なため、無理に現地を共和制に変えようとしてしまったドイツの大失態であった。カールスラントはこの内戦の後遺症に苦しみ続け、21世紀を迎えても、物理的にかつてのような大国には戻れずじまいであったという――
――日本連邦は相対的意味で魔女の世界での超大国へ変貌を始める。軍事力が温存され、扶桑本土は無傷だったからだ。とはいえ、日本側が石油の枯渇を異常に恐れ、各地の石油資源を狂ったように買い集めたが、軍事用の蒸気タービンや航空用レシプロエンジンは既に減少に転じ、潤滑油も21世紀日本から大量に良質なものが入るため、わざわざ、各地からの高オクタン価ガソリンを備蓄せずとも良かったのである。扶桑はモータリゼーション時代を迎えていなかったので、一般家庭での石油消費量が予想より少なかったのだ。むしろ、戦争を契機に、扶桑が高度経済成長期に入り、大衆車が開発されようかという時代に入るのである。また、日本が扶桑に『戦争は片手間仕事であるので、文化的活動を抑止すべきではない』と指導したが、扶桑は武士の時代の名残りが濃く、有事には『国民の文化的生活を犠牲にする』気質であったため、都会と地方での落差に愕然となり、過激思想に走る地方出身の青年将校も多かった。結局、21世紀日本の過去がそうであるように、交通網が整備されたら、田舎が却って衰退する『ストロー現象』がこれより現実問題となっていくわけである。また、伊達本家が『仙台城の土地を軍部に売却しようとした咎』で爵位を降格させられると、城を財産としてまだ保有していた元大名の一族達に大混乱が起こった。結局、『世界遺産』の保護条約が『魔女の世界』にも適応される運びになり、伊達本家は伯爵への降格と罰金だけで済んだが、当主が政治的責任を取らされ、(史実にはいない元・魔女の軍人へ)交代する事になる。カールスラントのエディタ・ノイマン大佐が最終的に退役に追い込まれたのに比べれば、まだマシな処分であった。また、1949年には、史実の二次大戦時の提督や将軍達は『本来は退官を迎えていく』年齢層になるが、戦時である故に定年への勤続年数の加算が停止されている都合上、指揮を執っている。自衛官出身者では、陸戦と空戦はともかく、戦艦や巡洋艦を含めた上での古式ゆかしい海戦の指揮をすぐには執れないからだ――
――真なる『神の領域』。阿頼耶識(エイトセンシズ)、その先の虚無(ナインセンシズ)も超えた『テンテンシズ』の存在が明らかとなり、神域に至った者が最終的に到達する領域であると確定した。のぞみAはデザリアム戦役での『融合』で、黒江と智子は『大決戦』でその領域の扉を開いた。その際に黒江が披露した闘技の由来がバラバラである事に、ある時、夏木りんは(ツッコミ担当として)ツッコんでいた。
――1949年 魔女の世界 ある日の64戦隊基地――
「あのぉ、大決戦の映像見たんですけど、あなた、かなりはっちゃけてますね……」
「元々、自分たちでなろうって思ってたくらいだったからな。で、ちょうどいい機会だったんで」
「思いきりキレてるじゃないですか。のぞみが困惑してましたよ」
「わりぃわりぃ」
「大正生まれにしては、ノリいいですよね……」
「軍隊は元々、ハイカラなところだぞ」
しかし、本気でキレたことで、プリキュア達に『デーモン族に情け容赦は不要』というのが認識されたのである。ただし、その場にいたキュアブラックやキュアマリンに思いきり怖がられたが、戦いが苛烈なものであるかが理解されたのである。
「でも、なぎささんや、その世界にいたつぼみとえりか、連邦軍の人たちの犠牲に耐えられたと思います?」
「どうだろうな。かれんとこまちはあれで決意を固めたと言っているが、かなり堪えてたはずだ。自分たちを庇って、石化されたり、串刺しにされたり、蜂の巣にされるわ、自爆するわ……おまけに、複数の宇宙艦艇が盾になって沈んだり、戦闘機が特攻したんだからな。しかも、パイロットが敬礼するのが見えてた。ありゃ、普通の中坊には耐えられん光景だよ」
「……なぎささんやその世界のつぼみは?」
「たぶん、つぼみが一番堪えてたはずだ。戦えてたのが奇跡みたいなもんだ。あいつは歴代でも、特に戦士向きの性格じゃないからな……」
プリキュア達には残酷な光景も次々と起こった大決戦。最終的には地球連邦軍の三個宇宙艦隊(アンドロメダ級が三隻参戦したことでもある)と、30世紀からの使者である『Gヤマト』が馳せ参じたが、地球連邦軍も相応の犠牲を払っている。百鬼帝国、ミケーネ帝国、バダン、デーモン族の連合軍はそれほどの戦力を持っていたのである。
「あの世界にいたプリキュアたちは、組織の怪人はもちろん、鬼どもやデーモン族と戦うには、色んな意味で不足してる点が多すぎた。だから、俺と智子が憎まれ役をしてでも、先頭に立った。ヒーロー達だけを戦わせちゃ、お前らの看板倒れだからな」
「ありとあらゆる武器と技を使ったんですね」
「デーモン族に、普通の倫理観なんて通じないからな。だが、あの世界にいたつぼみ、あの後は戦いから退いているかもしれん。あの子には辛すぎたからな」
後の調査の結果、その世界にいた花咲つぼみは史実通りに役目を全うした事が判明する。また、彼女のラインで、輝木ほまれに『ヒーロー達の存在』が伝えられていたのである。ほまれは半信半疑(つぼみは大先輩であるので、ほまれは顔を立てていた)であったが、参戦後にテラーマクロと一戦を交えたことで、確信に至ったと言っている。
「どういうラインでエトワールに……ほまれに伝わったんだ?繋がりが見えん」
「たぶん、あの子の代の時に、二回くらいオールスターズ戦があったから、その時に伝わったんだと思います。その戦いにいたの、あたし自身じゃないし、なんとも言えませんけど」
「しかし、お前ら、派生世界が多いぞ?」
「あたしもわけわかんないですって。あたしとのぞみも別々の世界の出身だし」
「そうだったな。てっとり早く理解させるためとはいえ、サイコフレームで未来世界の歴史を見せたのも参戦の理由だって、かれんとこまちは言ってたな」
「あんな血みどろの歴史を見ちゃったら、ぬくぬくと平和に浸かるわけにはいかなくなりますよ」
――地球は人間のエゴ全部を飲み込めやしない!――
――人間の知恵はそんなものだって、乗り越えられる!――
――ならば今すぐ愚民ども全てに英知を授けてみせろ!――
奇しくも、シャア・アズナブルが第二次ネオ・ジオン戦争でアムロと言い合いになった際の問答は『どこかの世界』でプリキュア5が最後に戦う事になる敵と言うことが似ていた。そして。
――あたしは世界に絶望しちゃいない!戦争続きの世界だからこそ、世界に人の心の光を見せないとならないんだよ!!――
タウ・リンとの最後の戦闘に臨む際、のぞみはそう口にし、彼に啖呵を切った。サイコフレームの起こした奇跡か、のぞみはデザリアム戦役中にはニュータイプに覚醒を遂げており、上官のアムロがそうであったように、度重なる戦争を経て、宇宙開拓時代になっても、内戦続きの地球に見切りをつけず、人の可能性を信じたようである。現役時代から、のぞみは前向きに物事を見れるのが長所であったが、ニュータイプとなったことで、希望と愛を信じず、自分以外のすべてを利己的に利用してきたタウ・リンを許せず、彼と、彼の思想に同調した者達に一切の情け容赦を見せなかったのは、タウ・リンが言うなれば、『人の姿をした悪魔』(デーモン族であれば、かなり高位のデーモンになれただろう)であったからだろう。
「のぞみはどうして、ニュータイプに?」
「宇宙で戦い、サイコフレームに触れたことで覚醒めた…。そうとしか解釈しようがない。今や、あいつ、ビットモビルスーツもフィン・ファンネルも動かせるからな……。今度、量産型ニューに乗せてみる」
「なんか、どっぷりと軍人に浸かってますね」
「あいつ、教師やるチャンスを潰されたからな。それで軍人のままになった。外野はとやかく言うが、自分たちの仲間の暴走で、あいつの転職の機会を潰したんだからな。どうせ、有事に戦争に行くとかほざいてな」
そう。予備役になれば、平時は別の職に就く。召集をされるのは予備役を必要とする時のみ。日本人の大半はそれを忘れて久しいため、のぞみの転職を強引に潰した。だが、それは扶桑の予備役制度を混乱させる行為でしかない。結局、日本は多額の損害補償金を予備役志望の軍人に支払う事になるので、踏んだり蹴ったりであった。
「差別じゃないですか」
「そうだ。予備役の軍人への差別だ。それで外交問題になったから、日本の連中は騒動に巻き込まれた連中を前線送りにしてるんだ。戦中と思考回路変わってねぇ……」
「まったく……」
「日本政府も泣いてるぞ。世界が違うだけの同じ民族なのに、こうも問題が起こるのか、ってな」
「なんで、日本は扶桑に一致した態度が取れないんですか?」
「何もかも上手くいった世界の日本って言えるからだよ。植民地経営も、資源獲得も上手く行ってるしな。それと陸軍が総力戦に耐えうる規模だから、嫉妬してるし、陸軍の反乱を恐れてんだ。それで、うちの陸軍を陸自の予備部隊として再編しようという論調まで出る始末だ。まったく、1940年代の頃の大正生まれをなんだと思ってやがる」
黒江、智子、圭子らは1940年代に20代の世代(大正生まれ)である。のぞみやりんからすれば、曾祖母でいいくらいの差がある(1945年の時点で22歳を超えるため)。そのため、反乱予備群と青年将校を見なす風潮のある日本に苦言を呈する扶桑の提督や将軍も多い。仕方がないが、日本は1930年代の青年将校による、二度のクーデター事件を忘れられないのである。
「溜まってますねぇ」
「元は陸軍の航空隊だったからな。お前らが入る頃に空軍の独立の音頭を取った身だぞ?日本の連中は『日本陸軍』ってだけで、強烈にアレルギー反応を起こしやがる」
そこまで言い、黒江は基地の休憩室の自動販売機でコーラを買う。
「お前も、シャイニング形態になれるはずだ。のぞみがパワーアップした時に、ZEROが『プリキュア5の基礎スペックを上方修正してやった』と言ってた」
「因果を書き換えられる機械神の心遣いですか?」
「そう取っていいとの事だ」
コーラを飲み干しつつ、黒江は明言した。
「お前らもいつまでも『キュアブラックとキュアホワイトにおんぶにだっこ』じゃいられんだろう?」
「ええ。あの二人にいつまでも頼ってちゃ、プリキュアの名折れですから。それで、話ってのは」
「のぞみだが……ナインどころか、テンセンシズに到達してた」
「……は?」
「俺だって、まだ信じられんよ。ナインセンシズを超えた先にある最後の感覚。のぞみはZEROとの融合で超光速に届いている。もっとも、戦闘時のみだがな。で、あいつに授けられた聖剣だが、草薙、布都御魂、天叢雲剣の三つがエクスカリバーに合わさってやがる。もはや『エクスカムイ』とも呼ぶべき状態だ」
「日本神話の宝剣の力を…?」
「ヤツには素質があったらしい。聖剣の中でも最高位のそれらがエクスカリバーをパワーアップさせた。もはや、それで斬れないのはギャグ補正がかかってるヤツか、シリアスキャラなら異能生存体、物理的には超合金ニューZαの系譜の超合金だけだ」
「つまり、あの子が手刀を奮ったら?」
「伝説の神獣もイチコロって事だ。下手な下級神なら、一刀で物理的な肉体が斬り裂かれるくらいのパワーだ。おそらくはZEROのせいだな」
黒江はZEROの最終時の『神としての位がかなり高位』になっていた事による恩恵、ZEROが日本で生まれたという出自により、エクスカリバーに天叢雲剣、布都御魂、草薙の三神剣の力を宿させたのだろうという。
「逆に言えば、こうでもしないと、『キュアブラックとホワイトに並び立てない』と判断していたって事だろう。盛りに盛ってるんだぞ、ZEROのヤツ」
「だからって、黄金聖闘士と同等以上の力を?」
「修行はさせているが、ZEROが基礎能力値を盛ったんだろう。あいつはそういう奴だ。精神構造が中二病な中坊に近いんだよ。普段は超然ぶってるが。ま、それは俺たちも似たようなもんかな。悪ノリするしよ」
「仕事はしてるんだし、羽目は外してもいい。そう考えてますよね」
「ケイはそう思ってるな。多分」
自嘲も入っているが、黒江はそう自分を客観視する。
「でも、やっぱり……ブラックとホワイトの存在って偉大なのかな」
「お前らの始まりになった二人だからな。だが、あいつらに安易に頼ると、お前らがヘイトを買うぞ。そうならないように強くなれ。のぞみはお前に戦ってほしくないと言ってたが……」
「あの子……辛かったんですよ。たぶん。小さい子供の頃から付き合いが続いてる友達は……どこの世界でも、あたしだけですし」
「だから、デザリアム戦役で?」
「あたしの推測ですけどね。だけど、周りに頼るのも大事なんですよ?後輩もいるし、職場の上司でもいい。最も、あたしものぞみも、転生前は『上司には相談し辛い環境』でしたけど。でも、一般市民にちゃんと、キュアルージュって呼んでもらえたのは嬉しかったなぁ」
「お前らはある種の信仰を、現役時代の様子が『アニメとして存在する世界』で集めてるからな。だから、神域に到達する敷居が俺たちより低いんだろう。のぞみも特にだ」
「それで聖剣を?」
「あいつは力を欲してたからな。だから、聖域に連れて行った時に女神に懇願したんだ。俺は紹介しただけだ」
「それが……今や『神代三剣』を持つ者……か」
「俺の先代の山羊座も、涅槃で腰を抜かしてるだろうよ」
のぞみは『聖闘士』でないのに関わず、聖剣を賜った。それはのぞみの過酷な運命を慮った城戸沙織が前教皇(シオン)の了承を得て、正式に授与した、四振り目の聖剣である。黒江と調は正規の修行で聖剣を授与されているが、のぞみは『プリキュア戦士』としての宿命により授与された『特例』である。山羊座の聖闘士が代々受け継いだものは紫龍が持つ都合上、新たな聖剣が与えられる事になった。それを神代三剣の力を同時に行使できるほどに研ぎ澄ましたのは、のぞみが初の事例となってしまったわけで、正統な山羊座の後継者としては悔しいらしい。
「何、俺もその領域に到達してみせる。正規の山羊座なんだぞ」
「でも、なんで、あの子が山羊座の適性と属性を?」
「それは俺にもわからん。現役時代の誕生日は天蝎宮(スコーピオン)に当たる日付けだろ?」
「そのはず……あの子の世界だと、違うのかしら…?」
何故、夢原のぞみに『山羊座の聖闘士の闘技』への適性があったのか?それはりんにもわからない。だが、はっきりしているのは、のぞみの欲した『何者からも大事な誰かを守れる力』のイメージが聖剣であったことだった。聖剣は持った者次第で『どのような剣にもなる』が、のぞみは『神代の三つの神剣』を望んだのだろうか?大いなる謎であった。