――扶桑皇国と日本国(その前身の大日本帝国)は似て非なる歴史を辿った。それが分かったのは、史実で信長の死後に落ちぶれた織田家が『魔女の世界』ではそのまま絶頂期の支配力を維持し、そのまま支配体制を確立。豊臣家も(養子を挟みつつも)嫡流が健在である事、幕末の志士『坂本龍馬』も暗殺を免れ、昭和の極初期まで『元老』として君臨していた事が知れ渡ると、織田信長が意外に保守的(幕藩体制)な体制を構築したことへの失望も起こったが、徳川幕府と異なり、武断派をまるごと友好国の傭兵として海外に送り込み、その鬼気迫る恐ろしさで欧州を震え上がらせた経緯の判明は驚かれた。魔女の世界では、天下布武を達成した織田氏は改易を『怪異への対応能力の低下の懸念』により、あまり実行せず、そうなっても『一族にいる魔女が怪異討伐を果たせば、改易を再考してやる』という救済措置を設けていた事、織田氏の支配が緩んだ幕末も、史実のような内乱には至らず、坂本龍馬や勝海舟、西郷隆盛などの主導で穏やかに幕藩体制を終焉させ、近代的な国家体制に移行させたという事実がある。日本と違い、要所々々で穏当な選択が取られつつも、怪異に明智光秀の一派が蹂躙され、本能寺の変が失敗に終わったという要素により、怪異の存在が大きく影響を及ぼしている事が知れ渡ると、『戦争や災害があまり起こらずに、順当に発達してきた』扶桑への嫉妬と『敗北を思い知らせる』という日本の左派の使命感に火をつけたのも事実であった。こうして、日本は扶桑への干渉が個人単位で起こることに悩まされる事になった――
――扶桑の社会にもたらされた変化により、軍人が郷土で名士扱いされなくなり、理由をつけて途中で退職すると、周囲に馬鹿にされる風潮が農村部で生まれてしまったため、扶桑軍は人件費の処理に苦しむようになっていった。とはいえ、日本にも任期制自衛官が存在するし、魔女は軍に残る者は職業軍人に雇用形態を変えるし、引退する者は任期制自衛官のような雇用形態で処理されていたが、定年まで軍にいない者=根性なしの図式が出来上がってしまったため、1940年代半ばに現役軍人であった魔女からは『そのまま定年まで在籍しつつける』者が多く出る。日本に合わせて、公務員の正式な定年を扶桑の常識からは長く設定し直した事により、扶桑軍はこれより『人材の新陳代謝』に苦労すると同時に、『黄金世代』頼りに回帰してしまった現状の緩和に腐心してゆく事になり、それを招いた者たちへは苛烈な罰を与えていき、軍を途中で去った者の受け皿となったMATを代替役として法的に認めるのには、国民の心境の問題から、長い時間を要する事になった――
――扶桑軍は急激に兵器が高度化した事に、兵や将校らの教育が追いつかず、人員不足に拍車をかけていた。陸軍も対戦車火器も戦後水準に飛躍してしまい、一気に成形炸薬弾による無反動砲やロケットランチャーが生産され、配備されたため、倉庫で大量にカールスラントのものの模倣である『五式四十五粍簡易無反動砲』が余る始末であった。だが、当時のリベリオン軍は未だにM4中戦車の使用率が高く、日本側から『ドイツの劣化コピー』と揶揄された同兵器も充分に有効であり、旧式の対戦車火器と地雷しか持たぬ二線級部隊に配備されるに至った。遠征軍は戦後水準の兵器を調達し、運用していたので、日本連邦は一線部隊と二線級部隊との落差が『世界で一番に激しい』と揶揄された。とはいえ、扶桑軍は機甲兵器も多国籍化しており、部隊によっては『生産国がバラバラな車両群』が雑多に使用されている現状であった。これは機甲戦を経験した司令官が着任しているか否かによるところも大きく、ひどい部隊では、未だに八九式や九五式が現役で使用される有様である。ダイ・アナザー・デイの大戦車戦を目の当たりにした者であれば、それらは使用に耐えられなくなっている事を認識しているはずだが、国内の治安維持を気にする者も多いのが現状なのだ――
――これは日本も鹵獲運用を推奨する『M24チャーフィー軽戦車』や『M41ウォーカー・ブルドッグ軽戦車』は『九七式中戦車』よりも大型の車体を持ち、扶桑の騎兵閥から『どこが軽戦車だ!』と反発されていたからで、日本の防衛省は『声だけは大きい』彼らの扱いに難儀した。とはいえ、敵の主力戦車も戦後式の『M46』(リベリオン本国では『シャイアン』との愛称で採用)やそれ以降の車両に確実に転換が始まっており、扶桑陸軍は機甲兵器の急激な進歩に目を回していた。とはいえ、M41軽戦車にしても、国産車両を推す軍内の技術者の派閥の猛反対でコピーが難航しているため、カールスラントの放出したパンターとティーガー系の車両が重宝(南洋方面に限るが)されていた――
――皮肉な事に、カールスラントで採用が取りやめられたそれら戦車の派生バリエーションの数々は扶桑陸軍に採用され、扶桑の戦線を支えていた。メーカーが試作車と設計図を提供し、扶桑はそれに小改良を加え、生産すれば良かったためだ。日本も現場の機甲兵器の不足は認識していたので、『場繋ぎの消耗品』としての使用は止めなかった。そのため、南洋の工場でそれらのバリエーションが量産され、扶桑で不足する機甲戦力を補っていた。日本側は『本土に回すかと思った』と延べ、南洋島が大陸規模の領地であることの証明となった。これは他の戦線への供給の是非で機甲本部の会議が揉めていて、とても速やかな戦車の新規生産での補充は不可能であったからで、南洋は工廠が地下にもあるので、そこであらかたのバリエーションを生産させ、評価試験の名目で使おうとなったのだ。そのため、カールスラント陸軍の義勇兵らはその教導に駆り出され、教育に精を出していた。その中でも大物であるハインツ・グデーリアンも教壇に立ち、講義を開講。機甲部隊の指揮官の必須科目となった。グデーリアンは本来、カールスラント陸軍の統帥をしているべき人材だが、『戦中の高官』であっただけで、ドイツ連邦は予備役に編入させようとしたので、彼は裏技で扶桑陸軍に協力。扶桑陸軍の機甲部隊の育ての親になった。彼とロンメルは扶桑陸軍の機甲部隊を鍛え、陸自の第七師団の演習をお忍びで視察もするなど、とかく厚遇された。機甲戦の第一人者であったためだ。彼とロンメルの義勇兵化はカールスラントには涙、扶桑にとっては機甲戦時代の最良の教師を得たことになる――
――敵軍は物量に優るが、大和型と超大和型で構成される打撃艦隊を正面突破できる力はない。それが扶桑軍の海軍力の証ということで、扶桑海軍は『魔女の世界最強の海軍』という称号を暫定的に得ている。陸軍のお粗末さとの落差が大きいが、海軍も空母機動部隊の再編が遅れており、内情は似たようなものであった。64Fはそんな内情を悟らせないための魅せ部隊の役目も担わされていたわけだが、プリキュア達の多くは軍務の教育途上にあり、全員をすぐに動員できるわけでもなかった。一部の教育の済んだプリキュアの負担が大きい事は承知していたが、多くが現役時代からそのまま転移してきたので、メンタル面が現役時代そのままであり、血で血を洗う戦線へのそのままの参加が周囲から懸念された者も多い。そんな内情もあり、ドリームなどの『戦闘力の高い戦士』に休息が取らせられないという問題を抱えており、ナリタブライアンの出した要請は『渡りに船』であった。ブライアンは史実の競走馬としてはだが、臆病な性格で知られており、黒江たちもその事を知るが故に懸念していた。だが、ウマ娘としてのブライアンはそれを克服して久しく、狼のような獰猛さを備えていた――
「ブライアンちゃん…でいいかな?なんだか、狼みたいっていうか……」
「黒江さんには挨拶したが、まるで、斎藤一みたいだと言われたよ」
キュアハートに言われ、苦笑交じりのブライアン(体はキュアドリーム)。第一印象として、『緋村剣心のいる世界の斎藤一に似ている』と評されたようで、満更でもない様子である。ゴルシはプリキュアの体を借りていても、自分らしさを端々に見せているが、ブライアンは前世の自分が嘘のような獰猛さを見せており、新選組の隊士のような鋭さを見せている。プリキュアの体を借りていても、だ。
「あんたらの仲間から、刀も借りてある。牙突…とか言ったな?それもできるだろう。コイツ、裏でこっそり特訓をしていたようだ」
のぞみの記憶を見たことで、非番の時に、黒江が記録していた『牙突』の詳細を読み、こっそり特訓していた事を話す。
「牙突かぁ。その世代じゃないけど、ありす(キュアロゼッタ)のお兄さんが真似してるのは見たことあるよ。まさか、実際にある世界があるなんて思ってもみなかったよ」
M60のハッチから見を乗りだし、双眼鏡で辺りを見回しながら、キュアハートが言う。のぞみはマナより実際の年齢が七歳ほど上であるので、るろうに剣心が流行っていた頃の名残りは知っている世代である。ちょうど実写映画が公開された時期に20代の一歩手前であるため、実写映画と漫画は見た事がある。マナは2010年代以降に10代を迎えているので、るろうに剣心は実写映画しか知らない。その差もあり、のぞみは牙突の習得に熱心だったのだ。
「実写映画しか見たことなくてね、るろうに剣心。物心ついた頃には、漫画もとうに終わってたし」
「コイツはキュアルージュ…だったか?の薦めで映画を見て、そこからハマったらしい。で、コイツの前世の一時期に牙突のモーションを真似しようとしてたらしい。まぁ、当時は無理だったらしいが」
「のぞみちゃんらしいなぁ。まぁ、今は剣術を扱えるから、できるって確信があったんだろうなぁ。現役時代からフルーレを使ってたし」
のぞみは現役時代に剣戟の経験がある、数少ないプリキュアであるが、それはフルーレであり、日本刀で行うような『切り合い』向けの剣ではない。
「しかし、フルーレは刀身が細いはずだ。切り合いには向かんぞ?」
「あたしらのはエネルギーを実体化させる剣だから、普通は折れないんだ。まぁ、転生後はバカスカへし折られて、のぞみちゃん、凹んでたけど」
「あの世界は刀剣に使われる金属がオカシイからな…。液体金属で剣そのものを変形させられるのはおかしい。ウチの姉貴(ビワハヤヒデ)に聞いたら、『現代の科学理論では机上の空論だ』と言われたぞ」
「斬艦刀は『斬馬刀を最新の技術で再現しよう』とかゆーおかしなプロジェクトで生まれた代物なんだ。黒江さんが被験者にならなければ、軍も受注生産に持っていかなかったくらい、ニッチなプロジェクトなんだって」
キュアハートの説明の通り、斬艦刀はそのようなコンセプトで開発予算がついた武器だが、本来はスーパーロボット用の武装を想定してのプロジェクトであった。ちょうど、メカトピア戦役の際、戦線に参加したはいいが、持ってきた軍刀の補充が効かないことに困っていた黒江が真田志郎のコネで、プロジェクトに参加したことで『人間サイズで作ってみよう』という流れになり、魔女用の近接戦闘武器の制作に移行。黒江がその頃から使うのは、その時期の制作の個体だ。二振り目は一振り目を一時的に使用していた黒田のために造られ、黒田に与えられた改良型。その技術はスピンオフされ、調の持つ『磁光真空剣・鏡月』(磁光真空剣の写し)のバード星での制作にも使用された。この頃には三振り目がのぞみのために用意されつつあった。のぞみはそのつなぎとして、夫から『烈火剣』と『剛烈剣』を借りている。プロパガンダでの撮影では、黒江と黒田からその都度、借りていたのである。
「のぞみちゃん向けの斬艦刀、今年の隊予算で調達したらしいんだよね。黒江さんが予算の都合をつけてくれたとかで。多分、自分の予備も兼ねてるんじゃないかなぁ」
「本当に戦艦を切れるのか?」
「うん。ダイ・アナザー・デイの後半だったか、黒江さんがヴェネチア側の持ってたリットリオ級戦艦をさ、グレートタイフーンでぶっ飛ばした後、見事に真っ二つにたたっ斬ったよ。綺麗さっぱり」
黒江が『大物食い』である事が再認識されたその出来事。グレートタイフーンとの合わせ技とはいえ、イタリア最新最大の戦艦を真っ二つにたたっ斬ったのである。本人曰く、『聖剣の力と魔力を上乗せしたがな』とのことだが、リットリオ級を一刀両断したというインパクトはすごく、それを目の当たりにしたキュアメロディ(シャーリー)は『ありえねーーー!』と絶叫したという。
「あの人、テストの時に、廃棄されたマゼラン級とサラミス級を武器のスペックで同時に斬ったくらいの手練だから、あんま参考にならないとは思うよ?おまけに聖剣持ちだし」
黒江は山羊座の聖闘士でもあるが、素で示現流の免許皆伝の腕前であり、元から智子よりも剣技に優れる。るろうに剣心の世界では、飛天御剣流やそれと戦える者たちの前に霞んだものの、下手な元・剣客より強いことには変わりはない。そんな彼女が斬艦刀を持てば、下手な艦艇は一刀両断できるのだ。
「こいつもわかってはいるようだが、憧れていたようだぞ。士官学校の教諭が武勇伝を語ってるのを聞いている記憶が結構出てくる」
「素体の子は黒江さんが活躍してた時代に入隊した世代のようだからね」
のぞみの転生の素体となった『中島錦』は黒江が事変で活躍した頃に魔女になり、扶桑海の閃光というプロパガンダ映画が入隊の動機であった最初の世代であった。彼女の代の教官は七勇士の同期やその先輩達であり、彼女らを通し、黒江らの武勇伝を直接聞かされた世代にあたる。ミーナとは対照的に、七勇士が実在のエース集団であると認識していた人物であったものの、生真面目な人物であり、更に504出身の『外様』であり、ミーナの方針に口を挟むような人物ではなかった。しかし、どこかで後ろめたい気持ちはあり、その後ろめたい気持ちが、のぞみの覚醒の枷を外すきっかけの一つだったのかもしれない。覚醒後は人格がのぞみに統合されたものの、覚醒前の名残りとして、黒江達を『先輩』と呼ぶ癖が残った。実際に、錦は黒江たちと士官学校の先輩後輩関係であるので、違和感はなく、黒江たちも指摘されるまで気づかないほどに自然に行っていた。
「しかし、あのガキ……菅野とか言ったな。ツインターボみたいだったぞ」
「ああ、大逃げするけど、いつもバテてる青髪の…」
「人に突っかかるのは、何人か心当たりがある。妹にもいるからな、すぐ下に」
ツインターボ。チーム・カノープスのウマ娘で、テイオーにいつも突っかかっていることや、レースの最後でバテていることで有名である。ブライアンは呼び捨てだが、実は競走馬としては先輩にあたる。菅野は見かけがチビ(成長しても、150cm前半)であり、錦が健在であった時期には『上官』であったのもあり、ダイ・アナザー・デイで黒江一門に加わったのぞみに突っかかっており、その度に孝美に窘められているので、ブライアンはツインターボと同じものを感じたらしい。菅野はのぞみには(素体の関係で)先輩風を吹かせられない(錦と菅野は同年齢だが、志願した年が違う)ため、ブライアンには吹かせようとしたが、そういう手合に慣れているブライアンにあしらわれた事がわかる。菅野は『ブルドッグ』だが、ブライアンの獰猛さは『元・競走馬』からぬものである。その上、ブライアンは既に『三冠ウマ娘』となった王者なのだ。
「ああいう手合は実力を見せれば、すぐに大人しくなる。私自身がデビューしたての頃にそうだったからわかる。舐められたくないだけだ」
「犬みたいだね、菅野さん」
「あいつはブルドッグの渾名だそうだが、ああいう手合のは分かりやすくて助かる。ウチの学園には変な連中(ステイゴールド一門など)が多いからな、それよりはな」
ブライアンは菅野を、ツインターボやビコーペガサス、シンコウウインディなどと同列に見ているようであった。その三人は『子供っぽい性格』を持ち、ツインターボは『オツムが残念』、シンコウウインディはいたずら大好き』であるので、生徒会としても、手綱を引くのに一苦労で、ビコーペガサスが最も素直である。そのことからか、菅野は『ツインターボとシンコウウインディを足して割ったような奴』と判断されたようだ(とはいえ、菅野も1949年の段階では、戸籍上は18歳になっているのだが)。
「おいおい、ブライアン。そりゃひでーって。ステイの親父を筆頭に、ぶっ飛んでるのが多いのは認めるが……」
「お前の親父の一門は変人が多すぎだ」
ステイゴールド自体もそうだが、変な馬が多いのが、ステイゴールドの一門の特徴である。その割に、前世の厩舎での関係が原因で、カレンチャンに頭が上がらないオルフェーヴルもいる。(異名が金色の暴君であったオルフェーヴルだが、厩舎のボスであったカレンチャンの舎弟であったので、それがウマ娘になっても変わらなかった)
「オルフェーヴルはなんで、カレンチャンにヘコヘコしてんだろう?」
「ゴルシ、お前としたことが知らんのか?カレンチャンはオルフェーヴルのいた厩舎のボスだぞ」
「…あ~あ……なるへそ、あいつ、カレンの舎弟だったのか」
ウマ娘としてはスケバン風の容貌であり、レースではブチギレ気味のオルフェーヴルだが、カレンチャンには挨拶を欠かさず、姉御と呼ぶのだが、前世での関係が由来なのだ。
「カレンの奴、ロードカナロアも子分だろ、確か」
「そうのはずだ」
「あいつ、意外にパシリがいるのな」
「厩舎のボスだから、当然だろ?ルドルフも前世ではそうだったと言うぞ」
カレンチャンはウマ娘としてはかわいい路線だが、前世から引き継いだ何かがあるらしく、意外に女王様であり、あのロードカナロアを従え、オルフェーヴルを恐れさせている。また、意外にドスの利いた声も出せるらしく、オルフェーヴルはその声を聞くと戦意喪失するという。そのことから、前世でボスであったため、その要素を引き継いでいると囁かれている。オルフェーヴルが恐れおののき、ロードカナロアが下僕同然に振る舞っているからだ。
「馬の世界も大変なんだね」
「そりゃそうだ。厩舎でハブにされるとだな、死ぬ可能性もあるくらいだ。ゴールドシチーって先輩はだな、厩舎での関係がうまく行かないで、他の連中に蹴られて安楽死が前世だし、そうして死んだ奴は他にもいるくらいだ」
厩舎のボスになったか、専用の厩舎があった馬は平穏な余生を送れるが、エアシャカールやゴールドシチーのように、不幸な最期を辿った例は存在する。ゴルシはボスに喧嘩を売るタイプであったのと、すぐにグループを形成したので、厩舎で地位を得ていたという。(現在はキュアビートの体を借りているが、中身がゴルシなため、目つきや雰囲気でかなり本人と差がある)
「さて、どうだ?敵は」
「いたよ。敵の……珍しい。Ⅳ号のJ型だ。斥候かな」
「射程はこっちが上だろ?」
「射程に直に入るから待って」
M60の砲塔が稼働し、仰角を合わせる。そして、数分した後に砲が吠える。双眼鏡越しに、敵のⅣ号戦車J型の砲塔がぶっ飛び、ど派手に炎上するのが見えた。戦後型の戦車の砲弾を浴びれば、大戦前期型の戦車などはひとたまりもないのである。
「命中。Ⅳ号は珍しいな。パンターに取っ替えてあると思ったんだけど」
Ⅳ号戦車は、カールスラントでは現役で稼働中の戦車である。パンターの大半が売り払われたがため、治安維持のために倉庫から持ち出されたのである。カールスラントにレオパルト1の生産を代行させる案が頓挫し、自らにも大きな政治的ダメージを負ったドイツはパンターの生産再開を渋々と認めた。現地の治安が崩壊し、NATO軍の軍政が引かれた事で針の筵になったからだ。そんなわけで、Ⅳ号戦車は(カールスラントの当初の予定に反し)1950年代後半まで現役であり続ける事になり、パンターはカールスラントよりも扶桑で運用実績を重ね、史実通りのバリエーションで扶桑が生産する事になる。当時にリベリオンが前線で運用していた戦闘車両の多くはインフラと訓練、兵站の都合もあり、大半が戦中型の戦闘車両で、パンターに小改良を加えれば、その大半に優位を持てるのには変わりはないからだ。
「旧型だろ、二次大戦の時点で」
「大戦前の基礎設計だもの。途中で技術革新が起こったから、殊更に旧型扱いされるけど、日本軍に比べれば、ずっとマシだよ」
「そりゃな」
キュアハートは転生先で黒森峰女学園・戦車道部の次期部長の地位にあるため、Ⅳ号に関してはそのような扱いである。とはいえ、パンターも、更に高次元の攻防力を誇るM26がそのまま量産され、大戦中に配備が間に合っていれば、M4中戦車に対するチハのように、一方的に撃破されていただろうという予測もある。
「敵も地味に改良はしてるから、Ⅳ号は斥候部隊に回されてるんだろうな。火力はともかくも、防御力は雀の涙に成り下がってるからね、大戦中に」
「ん、あれは?」
「流星だ。驚いた。まだ飛んでるんだ」
Ⅳ号を手始めに撃破した一同の上空を、艦上攻撃機『流星』が通過した。翼にパイロンを増設し、防弾装備を予定通りに備えた最終型で、国産機を推す派閥の後押しで救済的に生産されたものだ。この頃には大半の部隊で(史実では、レシプロ時代の艦上攻撃機の中で最高性能を誇った)『A-1』が使用されていたが、国産の艦上攻撃機の血脈を守ろうとした派閥の後押しで、流星も改良と生産が細々とだが、続いていた。扶桑は軽量化のために防弾を殆ど省いた設計で生産していたが、部隊配備の直前でストップがかかり、史実より強力な発動機と強力な防弾装備と運動性能を兼ね備えた機体にせよという至上指令が下り、仕様変更の連続に、主務設計者の『尾崎紀男』技師は『いい加減にしろ!』とヒステリーを起こしたという。とはいえ、国産機閥の後押しもあり、ダイ・アナザー・デイに量産機の試験配備にはこぎ着け、A-1ほどではないが、天山以前の機体とは隔絶した性能を誇る機体となった。雷撃も急降下爆撃も廃れつつあるが、その能力を備えた最後の純国産機であるため、少なからずの艦攻経験者から好まれた。消えていく双方の攻撃に対応する能力を備え、各部にパイロンを増設すれば、扶桑純国産の機体では最高の対地攻撃力を持てたからだ。遠征軍は偵察や対地攻撃用の機材として少数を持ち込んでおり、その個体が通過したのだ。
「流星?純国産の中で最後の艦攻の?」
「扶桑は直に、アメリカのA-1を採用したから、天山を使ってた部隊向けの少数生産になったけどね。史実より数百は多いと思うよ」
「日本の艦爆と艦攻はまともな防弾装備ないもんな。せいぜい、消化装備と質の悪い防弾ガラスだ」
「うん。史実のマリアナでバカスカ落とされた原因だから、扶桑の当局は大慌てだったみたい。で、慌てて、A-1のマネしたけど……」
「便座積んで、マジに飛んだ飛行機に勝てるわきゃねーわな」
ゴルシはなぜか、A-1攻撃機の有名な逸話を知っているようだった。おそらくは個人的な趣味によるものだろう。扶桑も同機をダイ・アナザー・デイでの実質的な主力艦攻として運用し、雷撃と急降下爆撃が廃れてきてからは、ロケット弾やミサイル、ガンポッドを積んだ『対地攻撃装備』が考案され、運用されている。(1940年代に台頭した対艦ミサイルは雷撃に代わる『対艦攻撃の要』とされているが、史実通りの炸薬量では、史実より防弾・防水対策の強められた戦艦には効かない(細かい装備品は壊せるが)。そのため、日本も(予算の制約などの理由で)対艦ミサイルの大量配備を扶桑に行わせる事は断念させ、新造艦に装備させる事を進めている。)
「扶桑の艦攻乗りが飛ばしてんだろうね。近いうちに、扶桑もジェット化を済ますから」
「最後のご奉公ってやつか?」
「結構、扶桑じゃ多くてね。戦前の人たちには堪えるかもねぇ、戦後の兵器の多くはアメリカで造られたやつのライセンス生産品だし」
「だな。飛行機やミサイル、バズーカにしても、外国の作ったものを買ってるか、製造権を得て作ったものが主流だ。地球連邦の時代にもっとごちゃ混ぜになるから、気持ちはわかるがね」
「お……下がって!!」
M60の砲塔に何かが命中し、弾かれる。M60の砲塔は最大で178mmの厚さを持つため、大戦中の標準的な対戦車砲の砲弾くらいは容易に弾く。M60を発見した『7.5cm PaK41』対戦車砲によるものだろう。
「ふう。対戦車砲の砲弾だね。この距離だと……7.5cm PaK41かな」
「75ミリ砲か?よく弾けたな、その戦車」
ブライアンが言う。キュアハートはそれに頷く。
「ま、戦後の避弾経始が入った設計だからね。戦中の代物を弾けなかったら、米軍の面子が丸つぶれだよ」
戦後第二世代の戦車であるM60は避弾経始を考慮した設計。装甲は『複合装甲』以前の世代の装甲技術理論によるものであるので、現用の兵器からすれば旧型だが、第二次世界大戦の代物に比すれば進歩したものである。元はM48と新世代の間の繋ぎとしての役目を背負わされていたが、結果的に『70年代と80年代の米軍の主力戦車となった』ので、戦中の対戦車砲は(砲塔の正面などに当たれば)弾けて当たり前である。
「榴弾を使って、対戦車砲を潰すよ。今、装填させてる」
「弾は足りるのか?」
「普通の榴弾は減らしてるんだよね。後は独自開発の粘着榴弾と徹甲弾、多目的対戦車榴弾」
任務の都合で、対戦車用の弾を多く積み込んでいるらしく、普通の榴弾は少ない。歩兵へ撃つ必要はあまりないだろうというのが、戦車管理担当の『Gフォース』の将校。
「護衛もそうなのか?」
「我々は戦車の探索と撃破を命じられてますからね」
護衛のM48の一両の車長がハッチを開けて、姿を見せる。ヤークトティーガーとヤークトパンターの護衛をおびき出して、撃破するのが目的だと説明する。ヤークトティーガーといえども、車体側面は80ミリしかない。その状況を作り出して、うまく撃破したいのだが、それには、回り込める回廊にヤークトティーガーをおびき寄せる必要がある。強化された装甲はプリキュアのパンチにもびくともしない強度を持つことから、ある程度は強化されただろうとされる。
「私の借りている『コイツ』(キュアドリーム)の技で敵を惹きつけられんか?」
「いいんですか?」
「ある程度はそういう想定なのだろう?街をあまり壊さなきゃいいのなら、いい手がある」
ブライアンはここで、腕をキュアドリームの持つ『空中元素固定能力』でゲッターポセイドンの頭部の形をした送風機に変化させ、レザー部分を高速回転させる。
『ゲッタァァァ・ダブルサイクロン!!』
意外に良い発声であるので、ゴルシも感心した顔を見せた。
その暴風に敵の兵士や高射砲、対戦車砲が飲み込まれ、一気に巻き上げる。
『ゴッドサンダー!!』
そこにゴッド・マジンガー由来の『ゴッドサンダー』を打ち込む。グレートのサンダーブレークと違い、雷そのものを直接浴びせる技であり、サンダーブレークより効果範囲や威力に優れる。無論、プリキュア由来の技でないので、浄化効果はない。この場合は組織の構成員、しかも武装親衛隊の出身者が相手なので、情け容赦は必要ない。
「ここにいるのは、悪名高い武装SSだろう?それなら、後腐れのないようにしてやろう!」
キュアドリームのコスチュームのリボンが変形し、マジンエンペラーGやグレートマジンガーと似た形状の放熱板になり、超高熱を発する。そして、ゴッドサンダーで焼き残った目標が空中に浮いているうちに、超高熱線を浴びせる。
『グレェ―トブラスタァァァ!!』
グレートブラスター。ファイヤーブラスター同様、ブラスターの名を持つ技であり、ブレストバーンの発展型である。ブライアンはそれで完全にとどめを刺す。意外に決まっているのだが、ゴルシは『絶対に練習してきたぞ』と独白するのだった。