ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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扶桑皇国の状況説明と、オグリの引退時の功績がもたらす影響に触れる回です。


第四百四十六話「扶桑皇国における時代の流れと、オグリの見せた奇跡の残光」

――扶桑皇国は結局、時代の変化に適応するために魔女至上主義を捨て去った。その痛みはかなりのものになったが、それを経ても、余りあるだけの繁栄を得る。ミサイル装備を施した戦艦群は、他国が数十年かかる進歩を一夜にして成したも同然の科学力の結晶であった。1940年代当時、ミサイルは他国でも開発が進んでいたが、『大きさの割に手数が足りない』という理由で開発が停滞していた。だが、日本連邦がVLSを持ち込み、その有用性を実証した事で、ミサイル兵装は『補助兵装』名目で開発が促進された。そんな時期に、扶桑皇国は早くも、VLSを持つ軍艦を竣工させており、ミサイル時代を到来させていた。また、ミサイルの長所と難点を知り尽くしているため、扶桑も史実ほどはミサイル万能論に泥酔することはない。空母機動部隊の高額化と、潜水艦の発達が史実ほど必要ではない世界である事により、魔女の世界での『戦艦』は生き延びた。ただし、象徴的な役目が主になったため、1960年代以降の各国では、実用艦というより、怪異への移動砲台&日本連邦への軍事的抑止力の体裁での保有であった――

 

 

 

 

 

 

――魔女至上主義とは何か?黒江達が一度目の現役期間を終えて、後方勤務の期間であり、坂本たちのキャリア全盛期の時期に生まれた思想であった。志賀の属する期の魔女達はこの思想と『集団戦闘至上主義』が複合した思想が支配的であった。だが、一定の戦闘力しか発揮しない集団は『突出した個』にすこぶる弱い事は幾多の戦訓が証明している。そのため、ティターンズの『超人たち』の前に蹴散らされ、多くの魔女が再起不能に陥った。極限まで鍛えた肉体はそんじょそこらの異能を蹴散らし得る。プリキュアたちでさえも負傷するような戦であるので、そんじょそこらの魔女は死傷を免れなかった。近代兵器の極度の発達と、純鉄で造られた『対魔女弾』が敵味方全体で使用されたため、シールド頼りの防御が主になっていた魔女達は苦戦を強いられた。更にティターンズの超人達は『拳法家が更に科学的な肉体強化を受けた』者もおり、プリキュア達も大苦戦するほどであった。地上空母の制圧時には、めぼしいプリキュア達は負傷している。包帯姿で記念写真に写った者もいる。(現役時代のキュアハートのように、変身した状態でも『する時はする』のである)その後の戦いでも、能力が並外れて強い者は並の異能を凌駕するので、異能は戦いの選択肢の一つに過ぎないという事実が認知されていった。その中で、空母から魔女が配置転換されるのは当然の流れだった。ジェット戦闘機より小回りは効くが、速度が飛躍した事、エンジンの取り扱いの変化により、これまでとスロットル操作の仕方を変えなくてはならない(急加速にはアフターバーナーが必須だが、1949年当時にはストライカーユニットでは普及しきっていない)ため、取り扱いに難儀する魔女が続出。さらに、ジェット戦闘機の登場で新式の大型正規空母から魔女は配置転換され、一律で強襲揚陸艦、あるいはジェット化に対応できない旧式空母へ配置転換された。これを不当な差別と見なした海軍の魔女達がクーデターを起こし、鎮圧された。魔女至上主義はジェット化による戦場の変化、魔女以外の異能の判明で潰える運命にあったのである――

 

 

 

 

 

 

――だが、魔女の技能の一つが別の異能に進化する現象も確認されているのも事実。立体的な戦闘を経験し、感覚が研ぎ澄ませられたりする事で、魔女の『三次元空間把握』などの能力はニュータイプ能力へ進化する。武子がこれに当てはまる。進化すれば、元の能力の利点を持ったままで、サイコミュシステムに適応できるようになるが、武子はその能力を指揮と機動兵器の乗りこなしに使っている。サイコミュシステム搭載のガンダムを選んだマルセイユとは別の道を選んだわけである。当然ながら、感覚と反応速度がとんでもなく鋭敏になるため、一般向けのセッティングでは満足できなくなるというのは整備班泣かせだが、個人単位のチューンナップで対応できるので、64Fの機動兵器及びストライカーユニット整備班は熟練の者が選抜され、配属されている。統合飛行隊出身者が属する都合上、整備班は厚遇されており、魔女自ら、機体を整備する場面も多い。64F本隊への配属が狭き門と見なされているのは、幹部が『事変~大戦のどこかで撃墜王となっている手練れ』揃いであり、生き残っている撃墜王の中でも『地球連邦の撃墜王に引けを取らない』と自他ともに認められる者のみが幹部になれるという規則は実際には、64Fの秘密の一つである『幹部の多くが転生者』が銃後に漏れるのを防止するためのものであると同時に、未来ストライカーの管理のためのものである――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――『魔女のクーデター』の阻止は成ったものの、近代兵器の普及と、科学の発達に伴う『魔女信仰の後退』、クーデター首謀者らへの極刑の執行などの心理的圧力が『覚醒休眠期』と重なった結果、扶桑軍の魔女の新陳代謝は一時的に停止同然に陥った。魔女の力そのものは異能と呼べるものだが、本来は時限的な代物であり、農村部にとって、魔女の軍歴は『良家に嫁入りするための箔付け』程度のものでしかなく、『学費無しで高等官になれる』という貧困層にとっての志願にあたってのメリットが消えそうだと噂された事も、志願数減少の原因であった。日本は実際に『統合士官学校では、学費を運営費に充てたい』と希望したのだが、当時の扶桑の内情として、『農村から才ある魔女が出やすい』という特徴が近世以前よりあり、学費の徴収には反対であった。仕方がないが、扶桑は史実の日本帝国よりは裕福だが、農村部の実状は大正時代以前とさほど変化がないからだ。日本は内地の再開発を促進させつつ、伊達侯爵家に制裁を加えた(仙台城の敷地を軍に売った行為を大義名分に、降爵の処分が下された)が、それが農村部の恐怖を呼び起こし、農村部からの志願数減少を招いた。結局、事態を憂慮した天皇の玉音放送で志願数は回復していくが、質の方が目も当てられないほどにピンキリになってしまった。前線勤務に耐えられない魔力量の者が八割を超える年が数年は続いた上、ダイ・アナザー・デイの戦闘で戦傷を負った者の多くが『1947~48年』に相次いで退役したため、魔女兵科の人数は最盛期の1945年年頭と比較しての減少傾向が続いていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

――64Fは世代を超えた最強格の者を意図して集めた結果の産物であるというのは、1945年の結成当時からの上層部の認識であった。源田実を神輿に添え、(源田は青年期の『源田サーカス』などの功績で、魔女に人望がある)実務は各中隊長の合議で方針が決められるというもの。転生者の受け皿として本格的に機能し始めたのは、夢原のぞみの登場からである。それから四年後には『世界最強のエース部隊』という称号をカールスラントの44JVから奪取するに至った。幹部は皆が最低でも50機撃墜を達成し、受勲基準の変更前の金鵄勲章を受賞している事から『金鵄部隊』と渾名されている。カールスラントに過去に存在した『エース部隊』と違うのは、戦士として完成された者が引きめきあって切磋琢磨しているという点で、カールスラントの過去の部隊のように『出身者が転出後に名を挙げた』のとは質が違う。『安定した戦闘力がいつでも発揮できる』という点で願ったり叶ったりであった。扶桑の魔女の多数派であった守旧派は太平洋戦争の激戦と人事粛清で数を減らしていき、1949年度になると、64Fを受け入れ、魔女全体の変革を受け入れる『改革派』が坂本や北郷の後援で台頭。守旧派から主導権を奪取し始めた。――

 

 

 

 

 

 

 

 

――魔女達の意識の変化に到るまでに、太平洋戦線で多くの魔女が戦死せねばならなかった事は真に遺憾である――

 

山本五十六は日誌にこう書き残したという。実際、『ウィッチ・ハント』と呼ばれる『魔女狩り』は急降下性能に優れていた『P-47』、更にその後継のジェット戦闘機群が『純鉄弾』を用いる方法で、ダイ・アナザー・デイ以降に増加しており、死傷率がアップしてしまっていた。中堅層がダイ・アナザー・デイでの後送や戦死、クーデター後の事後処理で空洞化した原因であり、教育課程の長期化に伴い、『服部静夏が1948年にようやく、正式な新任の将校になる』ほどに次世代の入隊が遅延を重ねたため、扶桑の魔女兵科は『風前の灯』というのが実状であった。だが、45年に兵学校/士官学校/各訓練校に在籍していて、教育課程の変更で統合士官学校に入校し直しになっていた世代が統合士官学校を卒業、任官され出したため、状況の改善がされだした。これは統合士官学校では『未来世界での高卒』相当の学力を持たせるためのカリキュラムが課されたためで、それに親のほうが嫌気が差し、辞めさせられた者も少なからず発生した。だが、正式に任官され、7~10年の実務を経れば、恩給が約束されるなどの福利厚生の充実、実務の引退後も社会的地位を保証されるという『旨味』は何物にも代え難いため、その世代が実質的な『新世代』の第一世代となり、以後の魔女の数的主力を担っていくのである――

 

 

 

 

――侍従武官というポストが新憲法への変革で廃された後、その代わりの最高名誉として正式に定められた『個人戦功の表彰』。皇室の軍事的役割が大きく縮小され、軍も『皇室の軍隊』ではなく、『国家と国民の軍隊』として位置づけられたからである。その一方で、(軍事的な理由が半分だが)形式上、華族は『国家の与える功績への個人・家への名誉』という形で存続した。これは貴族制が残る国々との政治的な兼ね合いや、魔女の安定供給のためであった。エースの称号はこうして、法的には『それまでの最高名誉であったポストの代替、集団主義や軍国主義への傾倒を防ぐために与える名誉』として正式に定められた。ここで問題が起こった。海軍軍令部は1943年、坂本たちの世代の全盛期が終わりに近づいた頃、編隊空戦へ意識を向けるために、個人戦果を公的な記録に記すことを禁じていた。その一方で、名うてと知られた者を統合戦闘航空団に送り込むという『二枚舌ぶり』を発揮していた事が問題視されたのである。海軍航空本部はこの行為への猛批判に激しく狼狽。結局、名うてのウィッチは(海軍航空の堅苦しい空気を嫌って)大半が自主的に新設の空軍に移るに至る。この一連の騒動は『1940年代の政変』として後世に記録される。軍部の勢力図が全く変わる事態に至ったからだ。結局、1946年からの金鵄勲章の受勲者は数年ほど、旧・陸軍航空の出身者が(ダイ・アナザー・デイの戦功で)大半を占める事態に陥った。海軍航空の空気が変わり始めたのは、その頃だ。なお、坂本はアニメで『前線勤務に固執し、芳佳の魔女人生に悪影響を及ぼす』と描かれた上、同位体が『お前のような若造がなぜ隊長だ?ジャク(使えない搭乗員の意味の隠語であり、魔女の世界でも、魔女の間で使われている)め…』と言ったという噂から、菅野との不仲が日本で囁かれてしまい、本人たちが逆に困惑する事態になり、坂本は釈明に追われる羽目になった――

 

 

 

 

 

――全体的に、陸軍航空に事変以来の手練が比較的に残っていた事も、金鵄勲章の受勲の寡占に繋がった。とはいえ、事変~大戦初期からの生き残りの魔女は全体で数が残っておらず、64Fの在籍者が独占的に受勲した回も複数回発生した。のぞみはその中では比較的に『若輩』とされる飛行時間だが、プリキュアとしての功績が授与の理由とされた。また、転職を政治的な身勝手で潰されたことへの補償も兼ねている。そののぞみだが、事件後しばらくは転職を潰されたことへの精神的ショックにより、野比家に身を寄せていたのぞみ。1949年度に入り、南洋で買った土地に邸宅が完成しつつあったが、正式な引っ越しはせず、ウマ娘達と出会った時点でも、野比家に家財道具を残している――

 

 

 

 

 

「そうなんですか、あなたがまだ転居されていないのは……」

 

「旦那と相談して、正式な引っ越しは戦争が落ち着いた後にしようってことにしたんだ。お互いに、何かと忙しい身だから」

 

のぞみはナリタブライアンの体を借りている状態で、学園に(ドリームシリーズへの出走のために)戻っていたシンボリルドルフと電話で話していた。のぞみはここのところの連勤の休養を兼ねて、長期の休養を取ったが、遠征の戦況が(仮面ライダー三号の奇襲に伴う負傷者の続出)で切迫したため、呼び戻しがかかる事態に陥った。だが、書類上の申請され、認可済みの休暇日数の消費はまだまだであった。ナリタブライアンはそこにねじ込む形で『キュアドリーム』として参戦。のぞみは『ナリタブライアン』として、トークイベントや競馬中継の特別ゲストなどをこなす日々を送っていた。

 

「あなたは温和な喋り方でしょう?こちらで不満を漏らしている者がいまして……」

 

「誰?」

 

「サクラローレルです」

 

「あ~、ブライアンちゃんに愛が重そうな台詞を言ってるっていう子?」

 

「ええ。公の仕事だから、言動を抑えるように言い含めていると、エアグルーヴを介して伝えていますが……」

 

「あなたが皇帝らしさを保つのを望んでる子もいるってゆーじゃん?」

 

「それは私の親類である、シリウスシンボリです。若気の至りで、粋がっていた事を彼女の現役時代に言った事を今は後悔していますよ」

 

シリウスシンボリはルドルフより現役期間が長く、その晩年期はオグリキャップとタマモクロスの現役全盛期の最初の頃にかかっている。シリウスシンボリは現役の最盛期に日本ダービーを制した。だが、彼女は『領域』に到達することのなかった世代のウマ娘であったという悲劇を抱えていた。遠征を終えて帰国した頃には『タマモクロスとオグリキャップの全盛期』が始まりつつあり、才覚の差がモロに生じ、その二人の昇龍ぶりに歯が立たぬまま、ターフをひっそりと去った。ルドルフはその頃にはそう考えていたとはいえ、シリウスを見限るような言動をした事を後悔していたのだ。

 

「若気の至りって言っても、シリウスちゃんは許してくれないと思うよ?」

 

「わかっています。始末は自分でつけるつもりです。そのために、シリウスを今度のレースに誘ってあります。その場で彼女に見せます。私が『不死鳥』のように蘇った様を」

 

「往年の『皇帝』の復活を?」

 

「ええ。今度のドリームシリーズは新制度への移行直前の開催と言うこともあり、あまり注目はされていません。ですが、私がそれを覆します。皇帝として」

 

ルドルフは処置を受けた後の『領域を発動できる』身でドリームシリーズ(旧)の歴史の掉尾を飾るつもりであった。全盛期のルドルフは当代最強のウマ娘そのものであり、シンザンの息女『ミホシンザン』とミスターシービーから『王者の座』を奪取し、『世界のシンボリ』とさえ謳われた。同期と先輩の二人のウマ娘に不覚を取ったケースや、怪我を発症し、引退に追い込まれたレース以外は無敗を誇る。その威光を再び轟かせるつもりなのだ。

 

「新世代が往年の英雄を超えるってのは、漫画やアニメじゃよくある事だけど、実際は逆なんだよね。アインシュタインやガリレオを後世の人が超えたか?超えてないんだよね。それに、宇宙人からの贈り物だしさ、未来世界の文明の根幹になった技術も」

 

「戦争やスポーツの技術は年月とともに良くなりますが、ある時代の人間が偉大だと言われ続けているのは、それなりの理由があります。2010年代最強の牝馬三冠馬が一発で顕彰馬にならなかった理由も、私やオペラオー、ブライアンの走りを覚えている古株の者が投票しなかったことも影響していそうですしね」

 

「その辺、チェックしてたんだ」

 

「ははっ……恥ずかしながら」

 

ルドルフは勉強熱心である。自身の前世でもある競走馬関連の情報(自身の死後も含む)もチェックしていたらしい。

 

「そっちはこれからだっけ?」

 

「ええ。まもなくなので、またの定時連絡の際に吉報をお届けできれば」

 

と、ルドルフはレースが間近になると告げ、連絡を終える。普段は四字熟語を用いた言い回しをするが、この時はのぞみに配慮した(のぞみは教諭の経験があるが、四字熟語は詳しくない)。

 

 

――ルドルフのいる、レース場の控室――

 

「ルナちゃん、準備はいい?」

 

「準備は万端ですよ、グラス先輩」

 

控え室に様子を見に来たグリーングラス(TTGの『G』。ルドルフは新人~若手時代に彼女に面倒を見てもらっていた)にそう応えるルドルフ。かつての名残りで、彼女からは幼名の『ルナ』で呼ばれることがある。(この時のドリームシリーズは制度移行への過渡的な時期に開催されたため、現役当時の勝負服での参加が認められた初のドリームシリーズとなった)すでにルドルフの現役当時のトレーナーは学園を去っていたため、表舞台に戻った『TTGの三人』が実質的にその役目を担っている。

 

「来てるわよ?シリウスちゃん」

 

「やはり。なんやかんや言われましたが、誘った甲斐があるというものです」

 

ルドルフは往年の『皇帝』に立ち還った姿を見せる。長年、生徒会長として『トレセン学園の顔役』をしていたが故に、意外に現役時代の勇姿は若い世代には知られていない。(後輩であるトウカイテイオー、BNWの世代も怪我や病気でターフを去り始め、ブライアン世代も盛りを過ぎ始めた時期では仕方がないが)ルドルフは自身の復活を大衆の面前で示すつもりなのだ。

 

「では、行って参ります」

 

「マルゼンちゃんがよろしくって言ってたわよ~」

 

「マルゼンらしいですね」

 

ルドルフは控室を出、パドックに向かう。ウマ娘のいる世界では、競馬の持つ『賭け事』の側面はないが、アイドル的な側面が色濃い。これはハマノパレードなどの悲劇を経た後に、ハイセイコーの残した功績を称える意味で始まり、以後の時代に定着した。なお、マルゼンスキーはTTGの三人の直後の世代の筆頭であり、現役当時から面識があるので、グリーングラスと特に親しい仲(逆にテンポイントには頭が上がらないらしい)であるという。ルドルフが昔年の皇帝として、パドックに向かう姿を見送るグリーングラス。ルドルフにとって、高揚感のあるパドックへの移動は久方ぶりである。その背中からは、若干ながら嬉しそうなルドルフの様子が垣間見える。自身も『後輩』の復活に嬉しそうなグリーングラスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その頃、のぞみはナリタブライアンをなんとか演じていた。現役当時と違い、錦としての言動も取れる事が幸いし、ブライアンを違和感なく演じられた――

 

「ふ~、声にドスを効かせるの、大変だなぁ」

 

「お疲れ様です、夢原女史」

 

「ブライアンちゃんって、ああいう感じなの?」

 

「ええ。奴は元来、一匹狼ですから。いるでしょう、組織にいても『はみ出す』者が。それがブライアンの姿です」

 

エアグルーヴが飲み物を差し入れし、手渡す。トークイベントの合間の休憩時間での事だ。

 

「ですが、ビワハヤヒデの話では、下の妹達ができてからは落ち着いてきたそうです」

 

「そういえば、そんな事言ってたっけ」

 

ブライアンの姿だが、平時のおとぼけな表情ののぞみ。有事には歴代プリキュアでも有数の戦士としての顔を見せるが、普段は現役当時とさほど変わらない(所々は進歩しているが)振る舞いである。そのため、現在のブライアンが絶対に見せないであろう、ギャグ漫画的なコミカルな表情をしまくる。のぞみが成り代わっている時は表情が(普段と比較して)どことなく穏やかであり、優しい姉貴分といった雰囲気である。インタビューアなどからは好評なのだが、ブライアンの過激派ファンに等しいほどの愛着を持つサクラローレルは不満を漏らしており、エアグルーヴは窘めている。

 

「ブライアンは新人~全盛期の頃は一匹狼で通っていましたから、その頃の振る舞いに惚れた者も多く、サクラローレルはその筆頭と言えます。あれは普段はいいヤツなのですが」

 

エアグルーヴは時たま、サクラローレルの見せる『ブライアンへの思いの重さ』には引いているようだ。とはいえ、ブライアンも『自身が怪我で衰えた後も全盛期と同じ気力を見せろと言うのは……』と困っていたこともある。怪我で弱気になっていた一時期のことだが、ブライアン本人も手を焼いていたのは事実だ。

 

「女に惚れられる女ってのは、凛々しいからね。現役当時から心当たりがあるよ」

 

苦笑混じりに語るのぞみ。同じチームのかれんやりん、後輩の明堂院いつき(キュアサンシャイン)、剣城あきら(キュアショコラ)の例を知っているからである。

 

「そういう理想像は本人の実像から離れていくから、本人が苦労するものだよ。あたしは何度か経験があるからね。ブライアンちゃんはそういうの気にしない質だと思ったけど、人並みに気にするんだ?」

 

「成績が低迷しだし、姉がテイオーに敗れた後にナーバスになった時期があるのです。といっても、最近のことです。貴方方とテイオー、マックイーンが接触した直後の事ですから。ブライアンは貴方方の技術を用い、自らに待ち受ける何かを越えようとしています」

 

「運命だろうな、たぶん」

 

「運命?」

 

「会長さんも公にはしていないけれど、あなた達の前世に関わってくる事でもある。ゴルシちゃんは理解しているよ」

 

「ゴールドシップは何を理解していると言うのです」

 

「あなた達の魂に刻まれた因果……運命みたいなものは超えられるってことだよ」

 

ゴルシは既に、魂と因果の関係を理解し、その突破を主目的に行動を起こしている事をエアグルーヴに伝えたのぞみ。自身も前世とは別の道を往くつもりであり、軍に残ったのは『それ』も関係しているのだと。

 

「変えられるものは変えられる。オグリキャップちゃんがタマモクロスちゃんの運命を変えるのを望んだように」

 

「事後報告は受けましたが、俄には信じがたいですな……」

 

「タイムマシンを使って、その時代の自分と入れ替わる形で改変したんだ。二人の心残りを果たすために。タマモちゃんが抱いてた、オグリちゃんへの負い目も関係するようだけど」

 

「負い目…ですか?」

 

エアグルーヴの世代は知らないが、元々、タマモクロスは恩師が危篤(奇跡的に持ち直すが)状態に陥った事、自身の脚がもはや『これ以上はレースに耐えられない状態になっている』事を悟った事が引退の理由であった。引退後、その日の記憶が飛ぶほどにオグリを傷つけたことの判明により、タマモクロスは強く罪悪感を抱いた。互いの引退後はルームメイトの間柄となっていたためか、タマモクロスはその償いをなにかかしらの形でできないか、予てより探っており、最終的に未来世界のタイムマシンをその手段として使い、自身のレース生活を『延命』させ、『オグリと同時期に引退し、お互いに有終の美を飾った』という風に『改変』したのである。

 

「最も、禁じ手に近い手段だから、こっちも薦めなかった。だけど、タマモちゃんが強く頼んできてね。ゴルシちゃんに言って、その手伝いをしてもらう形になったんだ」

 

「やはり……」

 

エアグルーヴはこの時、のぞみから聞かされる形で『オグリとタマモの経歴に抱いた違和感』の正体を知った。タマモクロスの願った事は『オグリキャップへの償い』。タマモクロスは(引退レースでオグリキャップを言葉で傷つけたことへの罪悪感を(ずっと後に知った事もあり)引きずっており、その償いをする場を求めていた。歴史改変は禁じ手に近いが、タマモクロスは『オグリに償いたいんや!』という思いで選択した。オグリキャップの引退後、学園に残った『オグリ世代』は多くはないが、タマモクロスの早期引退がオグリのキャリアに少なくない影響を及ぼした事を認めている。タマモクロスは引退からずっと後に、その事を『ひょんなこと』で知ってしまい、その罪悪感に苛まれるようになっていた。同時に、そのことへの償いの機会の訪れを願っていた。タイムマシンはまさに『渡りに船』だったのだと。オグリもそれに乗っかったため、二人の成績は改変前より良くなっていた。また、ナリタブライアンがキャリア初期~全盛期に『ウイニングライブの持ち歌』にしていた『シャドーロールの誓い』が『オグリキャップが歌った事のある出典不明の楽曲をナリタブライアンがデビュー後に引き継いだ』という出自に変化し、オグリが歌唱した音源は高値で取引されているということになっていた。

 

「オグリ先輩は……歌いたがったんでしょうか」

 

「たぶんね。チームの後輩が歌うはずの曲だし、自分が歌っても、バチは当たらないって思ったんだろうなぁ。あの二人は怪物の二つ名を持ってたっていう共通点あるし」

 

オグリキャップがそう考えたのかは定かではないが、ウイニングライブの曲には『世代を跨いで歌い継がれる事がある』。オグリキャップは改変時に『シャドーロールの誓い』をとっさに歌い、まだ見ぬ後輩へのエールとその経歴に敬意を示し、トウカイテイオーはそのオグリキャップの持ち歌として作られていたが、本人は一回しか歌唱しなかったという『unbreakable』を歌う形で、チームのエースの座を継承した事の証とした。ただし、このことで『誰かの心意気や立ち位置などを継承した』と示す事はかなりの誤解を招くため、テイオーの場合はルドルフにかなりのショックを与え、ルドルフがしばらく『拗ねてしまった』。ルドルフとしては自身の『SEVEN』を継承してもらいたかったからだが、テイオーも、ルドルフ自身にも『後継者になること』を期待されつつも、そうなれなかったという負い目、挫折を味わいつつも、最後には笑った』というオグリキャップのキャリアを希望の光とした故の敬意がそうさせたのである。テイオーはオグリの辿った道を知ることで心に希望を抱い続けられ、オグリもテイオーを(チームの先輩として)叱咤激励し、体の治療として、未来世界の技術にすがる事を了承するなど、ルドルフが立場的にできなくなっていた事を事実上は代行した。

 

「テイオーがオグリ先輩と話すことが多くなった理由はわかりますか?」

 

「周囲に見放されかけても、引退する場を華々しく飾ったって経歴があるのも大きいと思うよ」

 

「やはり……」

 

引退レースで有終の美を飾る事。どんな名馬であろうが、それを首尾よく成し得た馬はけして多くはない。オグリキャップは平成の極初期に前走が11位という成績ながら、最後の最後に奇跡のような煌きを見せつけ、ターフを去った。その奇跡は年号が令和に移り変わった後の時代にまで『神はいる。そう思った』という言葉と共に語り継がれている。テイオーが自身の本来の運命を知りつつも、運命を覆すという意志を持てたのは、チームの偉大な先輩であるオグリキャップが『下馬評をひっくり返し、スターウマ娘本来の姿に立ち還った上で、ターフを去った』奇跡を見せてくれたからである。

 

「ルドルフちゃんとしては複雑だろうけど、のび太くんのお父さんが言ってた『1990年の有馬記念の奇跡』はその後の時代の『落ち目になったスターホースにとっての一縷の希望』になったのは誰にも否定できないことだよ」

 

オグリキャップのような劇的な引退劇はそうできるものではない。ルドルフもブライアンも史実ではなし得なかったことである。故に、オグリキャップの存在に不滅の輝きをもたらした。エアグルーヴば事の次第を理解することで、オグリキャップが『三女神に愛されたウマ娘』であった事を実感するのだった。

 

 

 

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