――黒江達の強さは一ウィッチのそれを超越している。その事実は、事変当時の時点で認識されていた。そのため、事更に当時の将官~佐官級の将校が1945年以降に責任を問われたが、当時の時点でそれを判断しろというのが無理難題である事は明白であったが、スケープゴートは必要であったため、1930年代末に人事部にいた将校や、当時の将官・佐官の少なからずが『当時にまで遡及して』責任を取らされた。扶桑皇国のダイ・アナザー・デイ後の混乱はこの決定への反発で起こったと言っていい。その後の事後処理がお世辞にも上手いと言えなかったことが、太平洋戦争での魔女兵科の人手不足の一因であった――
――カールスラントの悲劇と言える、事実上の無政府状態は『政府の閣僚に至るまでの支配層を(史実でナチスや東ドイツの一員だったからという理由で)排除したら、現地の社会秩序が連鎖的に崩壊した』という経緯で起こった。日本はこの事を反面教師に、扶桑の改革派を支援しつつ、自らの起こした不祥事の後始末をきちんと行うなどの補償を行ったため、異世界間の連邦を上手く機能させたのである。扶桑としても、海洋国家に移行するに従い、ユーラシア大陸の旧領土を重荷と見なし始めていたが、旧住民が生きているうちは『放棄』の二文字は禁句であったので、旧住民の『大人であった世代がいなくなる』1990年代にようやく議論が行なわれる。結果、浦塩の更に奥の旧領は国宝などの回収作業が終わった後に『国際連合への委任統治に移行する』体裁で実質上は返上。以降は南洋島群とハワイ諸島(魔女世界はアニメと違い、ある時期にハワイのある部分が大地震を伴う地殻変動で大陸から分離し、史実通りに諸島となっていた)、台湾を固有の海外領とし、本土のインフラ整備などに注力する事になる。ハワイ諸島は元々、太平洋共和国(ハワイ王国が改組し、日系の移民の影響下に入った国家)の領地だが、1944年後半にティターンズが接収。この時代にはリベリオン本国の領地と化していた。国家首脳と住民の多くは扶桑へ逃れ、国家は日本連邦へ加盟。こうして、太平洋共和国は強大なリベリオンとの単独での対峙を諦め、日本連邦の一員として存続を図る。日本はこうした経緯もあり、扶桑に大陸領の放棄を促す。扶桑も完全な海洋国家化を志向するが、浦塩は堅持する方針となり、扶桑は数十年の年月をかけ、浦塩より西側の領地に残された財産の回収作戦を実行。同地の統治権の国連への移譲はそれから要請することとする。これは元・住民の成人層の生存中は議論が難しいだろうという考えからで、実際に、元住民からは『奪還の請願』が何度も出されているからだ。――
――ダイ・アナザー・デイ以降、近接格闘術の習得は必須事項と扱われる様になった。これはティターンズの超人たちに魔女の部隊がいくつも壊滅させられた教訓によるもの。とはいえ、対人の武道が史実ほど盛んではない上、対人戦闘術の発展は近代以降は停滞していた世界なので、黒江達が『飛び抜けて強い』状態が定着して久しい。とはいえ、黒江も斎藤一や緋村剣心などの超人級の者に比して、『格落ち』だと自覚しているので、魔女の世界では『仲間内以外に相手になれるのがいねぇ』と公言しつつも、研鑽を怠らないのである。その弟子として対外的に扱われている、夢原のぞみは転生先の肉体であった『中島錦』がある程度の剣術と拳法の心得を持っていたという幸運により、転生した当初の時点でも『現役当時より肉体のスペックが格段に高い』状態であった。その状態で変身するので、当然ながら、現役時代より戦闘力は格段に上であるはずだった。だが、その程度の差は『微々たる差』であった。音速や光速の速さを求められるレベルの戦場となったため、『現役時代よりは多少強い』程度ではどうにもならなかったが、そんじょそこらの雑兵よりは強いため、通常形態では『雑魚狩り』専門にされてしまった。大半の魔女は海兵隊所属者でも、その水準にも到達していないので、それが軍部に問題視されたわけだ――
――扶桑はM動乱から向こう、戦局を一握りの超人が左右する状況が続いている。仕方がないが、日系国家は人的資源が他国に比して少ない上、史実戦後の倫理観では『大勢の戦死』は政治問題になる。その結果、小数精鋭の傾向がますます『是』とされていったのである。魔女は異能である分、その傾向が他の兵科より顕著に表れた。雁淵孝美でさえ、魔女としては『戦闘力に不安あり』と判定されたため、海軍系の魔女から不満が大いに出た。だが、比較対象であった黒江達が素で『絶対魔眼発動状態の孝美がカスに見える』ほどの強さを誇るため、文句のつけようがなかった。(魔女としても、普通に歴代で十指に入る腕を誇る)だが、問題が多いのも事実。個人の固有技能があまりに多すぎるのである。会得に『ある一定の壁を突破しなければならない』が、その壁が常人には厚すぎるのだ。とはいえ、その領域に達している場合であれば、逆に敷居が低くなる。プリキュア達はその能力自体が異能なので『殻を破った』場合は、代の違うプリキュアの技を任意で使い分けが可能となり、まったく関連がない存在の技も使えるようになる。そのため、日本連邦の国民は『魔女は口だけは達者で、戦果を出してこない』と認識するに至った。その認識を覆すために、第二世代宮藤理論は開発された。大火力偏重の装備となったのは、戦況によるものでもある――
――魔女世界でも存在した『飛鷹型航空母艦』は魔女閥が手元から手放す事がなかったため、1948年度に退役が決まるまで、竣工時の姿のままで北方で運用され、日本で疫病が出た時には、病院船にも用いられた。現役の継続のためにさらなる改装も模索されたが、サイズと出自の都合で最終的に断念され、隼鷹は日本へ買い取られた。飛鷹型を空母とするのにあたり、戦前に定められた法律が廃され、軽空母群は任務につかずに退役と扱われたため、飛鷹型を手放さなかったのは当然であった。だが、竣工時から改装が出来なかったため、空母としては数年で陳腐化してしまい、1948年に退役させざるを得なかった。想定された艦上機が早々に退役し、大型化した新型機に代替わりし、ついにはジェット戦闘機に変わりつつあるからだ。両艦の代替に用いられたのが、鹵獲したミッドウェイ級で、扶桑での運用にあたり、アングルドデッキ装備の最終形態に改装されている。そのため、空母に求められる性能水準が飛躍してしまう形になった。それに基づくと、本来はミッドウェイ級でも不足気味であるのだが、1940年代では最有力の空母なので『史実の最終形態をベースにして改装する』形で運用が行われる。そのため、扶桑海軍空母機動部隊はその編成がなかなか定まらず、1949年当時においても、完全な形での実働はできていなかった――
――それと時を同じくして、カールスラントと同じく、オラーシャ帝国は史実通りに革命が起こり、崩壊寸前になったものの、かろうじてNATO軍が革命軍を殲滅したことで国体の維持に成功したが、皇帝が人間不信に陥って、王宮の自室に引きこもってしまったため、以後は立憲君主制に舵を切っていく。また、革命軍が軍の将校を殺して回っていたことで軍部は機能不全に陥り、ウクライナの独立で魔女の供給を断たれたこともあり、ウクライナと係争状態に堕ち、以後は国際連盟(後、国際連合)からも脱退したために国力の衰退が加速。1960年代に皇帝のさらなる代替わりが起こるまで、同国は暗黒時代となる。日本連邦はその二カ国の代わりの軍事的貢献を強いられる形になったため、軍事予算の規模を据え置かなければならず、財務官僚らはちょっとしたきっかけで衰退した両国に恨み節であった――
――遠征軍は仮面ライダー三号にきりきり舞いさせられた格好であり、重要戦力であるプリキュア達の多くを負傷させられるに至った。そのため、戦力の立て直しを焦っていた。そして、敵の機甲戦力に打撃を与える事がどうしても必要になり、ドリームに召還がかかったのである――
「どうせ、ドラえもんの道具で直すんだろ?多少の被害は出るが……試したい技がある。砲兵をいちいち潰してたら、日が暮れちまうからな」
ブライアンはキュアドリームが(入れ替わった時点)持つ技を問題なく使用できることから、ストナーサンシャインの使用に踏み切った。ストナーサンシャインはその圧倒的破壊力に目がいきがちだが、実は効果対象と範囲を絞れるという特徴を備えている。それがゲッターエネルギーを用いた浄化に重宝されている理由だ。
「ストナーサンシャインか?わかってると思うが、感情をこめろよ」
「分かっている」
ストナーサンシャインはこの時期になると、キュアドリームも会得していた。エターニティ形態への覚醒で会得し、以降は『隠し玉』的に使う技になっている。精神が入れ替わった状態でも、プリキュアは技の使用に支障を来す事はない(フレッシュプリキュアの時代に確認された事項)ため、ゲッターエネルギーの本領を発揮するのに必要な『感情』をゴルシからアドバイスされたブライアンは、キュアドリーム(シャイニング形態)として、空中へ飛び上がり、『溜め』に入る。
「ぐおおおおおっ!!」
『ゲッターエネルギーを圧縮し、前に包むように構えた両手の中に集束させ、エネルギー弾を作る』。この時の姿は実にかっこよく、圧倒的な力の象徴のように扱われている。よく知られているのは真ゲッター1の技としてであるが、実のところ、それ以降に開発されていく高性能のゲッターであれば『系統を問わず使用可能』という、意外に敷居の低い技である。
『ストナァァァァァァ・サァァァァンシャァァァァイン!!』
ブライアンのシャウトは(声などはキュアドリームのそれであるが)現在の流竜馬よりも、若かりし頃(ゲッターに乗って年数の経っていない頃)の彼を思わせた。天使のような柔和な印象の強い『シャイニングドリーム』の姿で、それと相反する激しさを持つ『ストナーサンシャイン』を撃つというインパクトは大きい。inブライアンの場合、ストナーサンシャインのエネルギーを貯める際に『紫のオーラを発する』ので、ブライアン本人の固有技能(領域)とリンクし、ストナーサンシャインの力を増幅させていた。そして、辺り一面の建物の被害を最小限に留めつつ、潜んでいた敵だけを消滅させる。
「一応、怪人に備えて、トマホークとマシンガンは持っとくぞ。出始めたんだろ?」
「ああ。あいにく、7人ライダーは飛行能力は持たないから、そこを突いてきた。V3のは滑空飛行で、完全な飛行能力じゃないしな」
「だから、飛行怪人を飛ばせないようにして、倒してたのか?」
「ジャンプで同じ高度に上がった一瞬で攻撃するか、マシンから飛んで、一撃加えるか。仮面ライダー達は飛行怪人相手に、一敗地に塗れた回数が多めなんだと」
仮面ライダーたちが苦手とする怪人の筆頭は飛行能力がある者たちである。仮面ライダーV3は特に飛行能力持ちと相性が良くなく、デストロンのツバサ軍団相手に、一敗地に塗れてしまった事は有名だ。V3は滑空能力を持つが、初期段階の重力低減装置では、滞空時間の延長などにしか役に立たなかったので、必然的に不完全な飛行能力とならざるを得なかったため、現役時代に役立つことはなかった。完全な飛行能力持ちの昭和ライダーはスカイライダーのみであるので、ブライアンはキュアドリームの飛行形態かつ上位形態の一つ『シャイニングドリーム』でそれら怪人に備えた。案の定、ストナーサンシャインの閃光に惹かれたのか、ゲバコンドル、ドクガンダーなどの飛行能力持ちのショッカー怪人が現れる。彼らは時空魔方陣で再生された個体だが、生前の知能を持った状態である。これは作戦の都合であったが、『知能を持たない怪人はケモノ同然の存在でしかない』という戦訓を組織が理解したから……かは定かではない。
「来たな、化け物共め」
ブライアンはショッカー怪人たちと空戦に入る。ショッカー怪人は初期の仮面ライダーを上回る身体能力を備えた個体も結構いたはずだが、素体の差と脳改造による柔軟性の差が響き、あえなく倒された者が多い。また、多少の装甲の差をダブルキックで覆してくるため、ライダーと互角に戦える怪人は『ライダーキックの威力を反らせるか、それに耐える』能力を備える場合が多かった。ブライアンはそれらの事項を予め聞いておいたため、敷島博士特製の特殊弾を装填したゲッターマシンガンと真ゲッタートマホーク(真ゲッターや真ゲッタードラゴンと同型のハルバードタイプ)を手持ちの武器にしていた。
「はぁぁっ!」
ゲバコンドルをゲッタートマホークで一刀両断し、ムササビードルはゲッターマシンガンで蜂の巣にする。敷島博士特製の弾丸はショッカー怪人程度なら余裕で蜂の巣にできるようだ。エネルギー源である体内の小型原子炉の爆発により、空中で果てるムササビードル。残るドクガンダーは意外に粘り、空中でドッグファイトに入る。
「死ねぇ!!」
ドクガンダーはテンプレな台詞とともに、指先に備えている小型ミサイルを乱射する。ブライアンは空中を『蹴って』反転しつつ、バレルロールでミサイルを回避する。そして、どの上方から蹴りで一撃を加えた後にそのまま『草薙の炎』で焼き尽くす。
「食らえぇっ!」
追撃の蹴りを媒介に草薙の炎に炎に包まれたドクガンダーは墜落していき、空中で燃え尽きる。のぞみ本人と違い、ブライアンは炎との相性がいいため、草薙流古武術を完全に使いこなしている。そのため、キュアドリームへの印象がプリキュア達の間で『違う』理由の一つと言える。
「やれやれ。タイシンの奴が言っていた波紋を使えるようになれば、怪我も怖くはないんだがな」
「コイツらも特訓はしてるが、まだ追いついてないそうだ。波紋は使えれば、色々なメリットあるから、元の体の治癒力の補助に使えるんだけど」
「まぁ、せいぜい、こっちもこいつらの体を使ってやろう。そうでないと、割に合わんしな」
「一応、歌うシーンは編集で入れるそうだから、覚悟しとけ」
「本当か?」
「あたしは音痴だし、ラブリーは当分、医務室から出られなさそうだから。それに、メロディはナイトメアフレーム乗りになってるから、暇がね」
「仕方ない。歌はこっちの持ち歌にさせてもらうと伝えておけ。既成の曲はモノにするには慣れがいるが、そんな暇ないだろう?」
「確かに。司令部に伝えておくよ」
「即興のライブでも構わんよ。コイツと、この世界の『夢原のぞみ』は別の存在だろう?だから、キュアレモネードの春日野うららが素の姿でライブをした後、あるいは前でも良いぞ」
「うららちゃんが前座みたいになっちゃうよ、あなたの歌唱力だと」
「そうか?」
キョトンとするブライアンだが、その歌唱力はかなり高く、移籍前のチームリギル、移籍後のチームスピカを見回しても、歴代トップクラスの歌唱力を誇る。春日野うららは2008年時点で『売出し中のアイドル』。舞台女優であった母(既に他界)からの遺伝で、歌唱力もそれなりに備えているのだが、歌手としての本式の訓練は(女優業も兼業しているためか)さほど受けていない。対して、ブライアンはウイニングライブにも力を入れているトレセン学園による正規の訓練を受けている上、同世代のウマ娘でトップレベルの歌唱力を素で持っている。そのため、キュアハートもツッコむ。
「コイツの歌唱力は同世代でトップレベルだからな。キュアレモネードにわりいよ。場の空気を変えられるし、こいつは」
ゴルシもこのコメントだ。体が入れ替わっても、歌唱力自体は変わらないため、ブライアンは場を支配できるほどのサウンドエナジーを叩き出せる。オグリキャップ、ナリタタイシンも歌唱力はかなり高く、トレセン学園の訓練密度の高さを間接的に証明している。
「逆に聞くが、元の持ち主の『コイツ』はなぜ音痴なんだ?」
「うーん。ギターは弾けるって、昔に自慢してたから、音感はあると思うんだよねぇ…」
「音感あっても、音痴なやつは音痴だぜ」
「ゴルシ、身も蓋もないことを」
とはいえ、のぞみ本人は(メディア露出の機会が増えたのもあって)改善に努めているのだが、元が元なだけに、そう簡単なことではない。
「しかし、そこまでやるのか?徹底してるな」
「街全体を封鎖してるから、とことん通さないと不味いって、敵も味方も思ってるんだろうね」
「あたしもギターで参加する予定だ。こいつの姿を借りてる以上は」
「お前なぁ……」
「ねぇ、一つ良い。どっちが先輩なの?」
「一応、私だ。こいつの代はレースのデビューが完全に自己申告性になったから、バラバラにデビューしているんでな」
ブライアンの世代はレースのデビューそのものはゴルシより早いのだが、バラバラにデビューし始めた世代であるため、主要な者が出揃うまで、クラシック期への扱い変更が躊躇われた世代でもある。(それでも、怪我の連続であったサクラローレルが檜舞台に上がる頃には、ブライアンたちはシニア級を迎えていた)そのためか、サクラローレルは同世代の出世頭であったブライアンに引導を渡すことで、自分の存在を証明しようとしている。
「同期に、私にやたら絡んでくる奴がいてな。気持ちはわかるんだが、表現方法が怖くてな…。一緒にレースに出たら、叩きのめすつもりだが……」
「ああ、サクラローレルって子でしょ?話は聞いてるよ」
「第三者のアンタに聞いていいか?奴は何なんだ?」
「うーん。なんとも…」
ブライアンはサクラローレルの『愛』の重さに戦慄を感じているのか、ローレルの言葉に引いている様子を窺わせた。最も、ローレルとしては『自分の積年の思いの発露』なのだが、ブライアンにとっては『今までに経験のない何か』なので、『得体の知れない何か』として認識しているようだった。前世の記憶も作用しているのか、ローレルを怖がっているようであった。無頼として知られるブライアンが『怖がっている』ことを隠さないあたり、ローレルの執着じみた言動は『ブライアンの心の奥底にあるもの』を刺激してしまっているのがわかる。とはいえ、レースでは叩きのめしてやると言ってはいるため、心底から怖がっているわけではないらしい。
「マヤノも言ってたが、愛が重いんだよ、あいつは。奴が頭角を現した時には、お前、シニア級だろ」
「そうだが……勘弁してくれ」
頭を抱えるブライアン。ローレルは『普段は温厚だが、自分が絡むと、途端に荒馬になる』ことを知っているため、ゴルシの言葉にそう返す。だが、一つのことは理解していた。ローレルは自分の存在証明のために、三冠の肩書を背負う自分を倒したいと。
「だが、奴は私を倒して、自分の存在を証明したいというのは、前世の記憶でわかる。そのせいで、私は『悲運の三冠馬』などと後世に呼ばれることになった。その運命に抗うには、奴を倒す必要がある。怪物と一度は呼ばれた者として、こちらにも意地というモノがある」
ブライアンはサクラローレルを『全盛期の能力と現時点の精神力を使って、逆にねじ伏せる』事を実行することで、前世の因果を超えんとしていた。オグリとタマモが逆行を実行した後では、ブライアンはオグリキャップの現役時代を子供の頃(小学校在籍時)に見ていたことになり、オグリキャップの最後の有馬記念で『勇気をもらった』立場だった。ブライアンは(オグリキャップらの逆行後において)は『ルドルフの後継』を期待されつつ、本人は『オグリキャップの後継』を目指していたのである。故に、三冠の冠に傷がつくと揶揄されつつも、めげずにいられたという経緯がある。
「そうか、お前。オグリさんのあの有馬を見てたな?」
「親父にせがんでな…。オグリさんの引退レースだからって、ケチな親父もその時はレース場に連れていってくれたんだ」
「色々とタイムパラドックスを起こすような事したんだな、オグリさん」
「後で本人から聞き出した。だけど、ガキの頃は本当に嬉しかったのは事実だ。実家に写真を飾ってある」
オグリキャップは実のところ、引退レースの際に、子供時代のブライアンと会っており、(タマモクロスの計らいもあり)記念撮影をしてやっていた。立ち会ったタマモクロス曰く、『チビの頃のブライアンはかわいかったで~』との事で、オグリも(心中は不思議な感覚であったらしい)眼の前の子供が後々に『ルドルフの後継ぎを期待されるほどの逸材となる』ことに不思議な感覚を覚えていたと吐露している。ブライアンは覚えている。オグリが前走で惨敗し、『オグリキャップの時代は終わった』と言われてしまうほどになっていても、その下馬評を覆し、有終の美を飾ってみせたことへの疑問を幼心ながらにぶつけ、オグリは『どんな困難が待っていようと、けして諦めないことだ』と返してくれたことを。
「オグリさんのことは今でも尊敬している。たとえ、それがあの人が過去を変える過程で生じた、ほんの些細な出来事であろうとな」
ブライアンは(図らずしも)オグリが現役時代に背負っていた『怪物』の二つ名を継いだ者として、(現役時代の立場は全く異なるが)オグリキャップを(その出来事もあって)目標にし、精神的な意味での師と仰いでいるようだった。ルドルフがテイオーとツルマルキヨシの目標となったように。世間的には、オグリキャップの後継は同じ芦毛のウマ娘である『メジロマックイーン』であるが、ブライアンにとっては、全く違うのである。テイオーの事を近頃は邪険にしなくなったのは、『ルドルフの後継ぎにならんとし、そして挫折する』様が、前世の自分に似ていたことに気づいたのもある。
「……それなら、オグリさんも、タマさんも喜んでるだろうさ」
ゴルシは優しい目をブライアンに向けた。ブライアンが(自分も協力した改変の後は)人当たりがグンと良くなったが、そこには、テイオーにとってのルドルフと同様の邂逅が絡んでいる事が分かったからだろう。オグリとタマモが打算ありで動いたとしても、尊敬の念は揺るがないと。オグリとタマモがブライアンを入学直後から『大物になる』とし、目をかけていることの理由は不明であるが、そういう事情なら、全てに納得がいく。ゴルシは『改変後に生じた人間関係の微妙かつ、些細な変化』の謎が解けたようで、ちょっと嬉しいようだった。