ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回と同じ頃の出来事になります。


第四百五十話「夢原のぞみとエアグルーヴ」

――ダイ・アナザー・デイで扶桑海軍の航空艦隊からあらかたの参謀が更迭されてしまったことも、海軍航空隊の権威の衰退の原因であった。事務作業上の都合で『史実で著名な参謀』はそれを免れたが、手腕を評価されたと思うなと言い含められ、参謀が気落ちしてしまう事例があちらこちらで発生していた。また、生え抜きパイロットの多くがダイ・アナザー・デイに参加できなかったり、クーデターで軍を去る事になったため、技能の継承に多大な支障が生じた扶桑海軍。機種がコロコロ変化してしまう嵐の時代になったこともあり、海軍航空の権威はガタ落ちとなった。史実の後期は敗戦の連続であったことも、日本が空軍の育成に熱を上げる一方で、海軍航空に冷淡であった理由であった。エースパイロットがいないというのも低評価の理由であったが、空軍に移籍してしまった者達は公式に『撃墜王』と名乗る事が認められていた者達であるので、海軍航空隊は自らの施策を後悔する事になった。『予算対策と防諜上の理由で存続したに過ぎない』と言われ続け、三年あまり。現場の士気は大きく低下していた――

 

 

 

 

 

――扶桑空軍も空母着艦可能かつ、天測航法が可能な熟練の魔女は『部隊によってはいないため、空母航空隊の任務代行にも限界があった。そのため、米海軍などによるそれらの講義が扶桑の各基地で開かれ、実践も行われた。空母ミッドウェイやその姉妹艦の修繕と改装が1949年に終わるからだ。史実で言う『アングルドデッキの設置とカタパルトの強化』を伴う大規模なものであった。艦名は(自由リベリオンへの将来的な譲渡も視野に入れていたためか)改名はされず、そのままで扶桑の艦籍に加わった。大戦前期型と1930年代設計の翔鶴型では『第四世代以降の大型ジェット戦闘機の運用が不可能』であるため、同艦は空母機動部隊の中核を担う事になった。ミッドウェイ級は空母『信濃』の必要性を否定する材料に用いられたが、造船官らは国産の大型空母を真に望んでおり、扶桑は国産空母の建造を『造船官に仕事を与えるために』行った。とはいえ、大まかには『キティホーク級空母』のコピー品だが、甲板の魔術処理は(修理や艤装品の交換時に手間がかかるため)省略された。(第二世代理論であれば、その必要はないのだが)扶桑空軍はこの頃より、魔女の秘伝の収集と記録を事業として行うようになり、後世における『魔法の体系化』の正式制定に寄与するのだが、それは戦争開始後の中間世代の戦死で、一子相伝の秘伝が失われる悲劇が起こる事が増えたからであるので、世知辛い事情といえる――

 

 

 

 

――結局、扶桑は価値観の『戦後』寄りへの変容を少なからず強いられたが、必要上、軍人への目は史実ほどは冷酷にはならなかった。彼らがいなければ『故郷で死んでいく』権利すら守れないからで、軍人というだけで『名士』扱いされることはなくなっていったが、戦功ある軍人を尊ぶ風潮は残った。華族も『特別なお目溢し』で身分が存続したという事を認識しており、次期当主に現役軍人かつ、魔女である者を選ぶ事が増加していった。ノブリス・オブリージュの意識が史実より根付いているからで、黒田がそうであるように、ノブリス・オブリージュを実践できる人材は華族の間でも尊ばれていた。(とはいえ、元々、黒田の両親は『末端の分家でも、侯爵家に連なるから、どこかの良家の嫁に行けるはず』と、娘からの仕送りを貯金していたのだが、娘が本家の当主を継いだために、その金を継承に当たっての支度金として持たせる羽目となったので、泣くに泣けない状況となったが)華族は新憲法への移行後は『一代華族』が増加していく。名誉階級化の進展で、永世華族の地位を嫌う者が増えたからだ。とはいえ、永世華族も新陳代謝も兼ねて、当代の人間の素行で、名家の爵位が時代によって上下したり、功ある魔女の家柄の『保護』のために、爵位が与えられたりした。ぶっちゃけ言えば『国家の都合』であったが、カールスラントのように『突然、A級の犯罪者のように扱われ、尊厳を傷つけられた』がために、クーデターに加担される』事を防ぐため、言い方は悪いが、地位を与えてうまいこと『飼い殺しにする』ほうが遥かにマシだという判断によるものであった――

 

 

 

 

 

――これは扶桑に移住する自衛官が増えてきた事への対策も兼ねての扶桑への『憲法改正への圧力』であったが、扶桑の改革派はこれをうまく利用する形で、扶桑皇国憲法の改正を実行に移させた。同時に日本へ『日本も自衛隊の人員を、合同部隊にもっと供出してほしい』という要請を出し、日本もこれを受け入れた。その結果、Gフォースは『自衛隊にとっては、新兵器の実験部隊、扶桑は64Fを好きに動かすための方便として使う』部署として機能するに至った。のび太は成人後、そのスポンサーになり、自分の造る兵器の管理を委託していた――

 

 

 

 

 

 

 

――野比財団の正式な設立は2018年。のび太が30代になり、ノビスケも五歳となった頃にあたる。のび太は骨川家のバックボーンを活用し、資産運用などのための財団の設立に至った。2020年代前半に入ると、Gフォースのスポンサーに名を連ねている。扶桑の大和型戦艦の近代化の資金源の一つになっており、同艦級の艦容が史実と別物に変貌している事への説得力として機能していた。日本側は戦艦の速力で、30ノット超えに強くこだわったが、扶桑の戦艦大和はカールスラントの機関技術で200000hp超えの大馬力を竣工時に実現済みであり、公試運転で29.5ノットを記録していた。だが、それでも『ドンガメ』と言われてしまうのが戦後の一般論である。大和型戦艦の艦型で、安定して『29ノット』を叩き出すには、200000hpもの大馬力が必要である。第二次世界大戦当時、最も安定した機関技術を誇っていたアメリカ合衆国を以てしても、モンタナで28ノットが限界なのだが、日本は戦艦にも韋駄天を求めた。それを実現させるには『未来技術』しか手がなく、扶桑皇国に野比財団は『該当する当局』(地球連邦政府)への仲介や資金提供を行った。その結果、扶桑皇国は大和型戦艦に戦訓を理由にしての『超改装』を施した。それを設計段階から反映させた後継艦も用意されたため、日本は扶桑の戦艦の存廃に口出しできなくなった。あまりに凄すぎる改装だったからだ。むしろ、扶桑の貨幣価値に応じた負担額を掲示できる野比財団のプレゼンテーション能力に注目が集まった。扶桑の負担額は意外に少額であるが、これは未来技術での自動工場に大和型を持ち込み、段階的に強化したためだった。それでも、流石に60口径砲の開発は頓挫しており、55口径で妥協されている。とはいえ、55口径46cm砲は他国のワンランク上の砲に相当する威力であり、『大和型』としては限界まで強化されたと言える。それ以上の砲は新鋭艦を使ったほうが効率がいいのも事実だからだ。――

 

 

 

 

 

――扶桑軍は魔女の社会的地位の維持に気を使っており、プリキュア達も一律で『魔女』として扱っている。これはオラーシャ帝国での内乱を反面教師にしての措置でもあった。同時に、魔女というだけで『対人戦闘訓練』が免除される事も無くなり、1940年代以降は素質の関係で『限られた魔女』が個人的趣向でするのみであった『刀剣での近接戦闘』も復興し始める。ダイ・アナザー・デイでの聖剣の輝きはその道しるべとして機能したわけだ。現れたプリキュア達の内、基礎戦闘能力が最も高い水準を持ち、元から剣型のアイテムを有していた『プリキュア5』の中心戦士であったキュアドリームは必要上、剣を手に取った。臨時で借り受けたモノを含めると、意外に多くを手に持っている。これは本来の『キュアフルーレ』が戦闘向きではない故のことであり、聖剣の媒介としても力不足であった(エクスカリバーを一発撃つと、手元から消えてしまう)ことによる。のぞみはデザリアム戦役で苦戦し、その際に聖剣(の霊格)をアテナより授けられ、以後は『聖剣使い』に加わった。それ以降は変身していなくとも、手刀で鉄板を真っ二つに斬れる。ダイ・アナザー・デイ以降、軍から『剣術の模範たれ』と言われてしまい、大いに困っていたので、聖剣はまさに天の助けであった――

 

 

 

 

――ススキヶ原 自治会館――

 

地域の自治会館で、ウマ娘達は慰問ライブを行っていた。のぞみは『ナリタブライアン』として参加していた。その最中の事であった。

 

「夢原女史、ブライアンから連絡はありましたか?」

 

「今しがたね。別撮りでライブシーンがあったみたいで、あたしの姿で歌ったらしいよ」

 

「奴は歌唱力に優れていますから。これで、あなたの同位体は『プリキュアである』ことで、周囲に嘘をつかなくて良くなりました」

 

「現役の頃はそれで大変だったからなぁ。ある意味じゃ、楽になったって言えるかも」

 

「あなたご自身が助けに行かれた事は?」

 

「前に数回ね。ぶーたれられたよ。力の差が大きすぎるから。こっちは死線をもっと超えてきた後の状態なんだから、差がついて当たり前さ」

 

楽屋に様子を見に来たエアグルーヴにそう漏らすのぞみ。ブライアンの体を借りている状態だが、表情はのぞみ本来の柔らかいものであるため、ブライアンの獰猛さは感じられない。慰問イベントなので、ブライアン本来の威圧感を出されても困るのだが。

 

「さっき、サクラローレルちゃんから電話が来た時は焦ったよー。咄嗟に誤魔化したけど……愛が重すぎ」

 

のぞみは転生先の肉体の記憶のおかげで、荒い口調を使えるため、咄嗟にそれで誤魔化したが、苦言を呈さずにはいられなかったと語る。

 

「申し訳ありません。ローレルには、メールにしろと言っておいたはずなのですが…」

 

「ヤンデレかと思ったよ、一瞬」

 

「奴はブライアンに執着があるので……。普段は良い奴なのです」

 

のぞみをして『ヤンデレ』という単語が出るあたり、サクラローレルはある意味で『こじらせている』事がわかる。サクラローレルの史実を思えば、わからないわけではない。ブライアンと同期でありながら、怪我で全盛期の到来が遅れ、サクラローレルが怪我を乗り越え、ターフで活躍した時期には、ブライアンは全盛期の実力を失っていた。更に言えば、サクラローレルの全盛期におけるライバルは一世代下のマヤノトップガンやマーベラスサンデーであったりする。

 

「うーん。のび太くんのお父さんからそれとなく、知識を聞いといて良かったよ。実馬の経歴さえわかれば、誤差があっても、話をだいたい合わせられるから」

 

「ローレルはブライアンと戦いたいと常々…。しかし、お互いのピークがズレてしまった事もあり、これまで対戦した事は」

 

「史実とズレが生じたと?」

 

「そういうことです」

 

エアグルーヴもそう肯定する。エアグルーヴ自身もウマ娘としてはブライアンと同期になるが、実馬はブライアンの二世代下にあたるというズレが生じている。最も、オグリやルドルフとブライアン/エアグルーヴの両者が同じ時代の同じ学園で『学生』として生きている時点で『時代を超えている』と言える。

 

「前世での生まれはあまり宛にはできませんが、大まかな流れの理解には使えます。似たような出来事は起きているので。……オグリ先輩とタマモ先輩による軽微な歴史改変はありましたが」

 

「ブライアンちゃんは記憶の覚醒で、『落日』に逆らう選択を取ったからね。オグリさんに憧れてたっていうのは?」

 

「初耳でした。一言も言わないので」

 

「同じ『怪物』だからかもね」

 

「それだけでしょうか?」

 

「オグリさんは有終の美を飾ったから、かも。前走が見るも無惨な有様でも、ね。前走が惨敗なのに、有終の美を飾った途端、英雄扱いだって、昔、私の親父もボヤいてたし」

 

オグリは史実でも、ウマ娘としても、引退直前のレース戦績は全盛期から想像もできないほど悪化していた。だが、引退レースで新世代(たとえば、当時に若手だったメジロライアン)をねじ伏せる勝利を収め、有終の美を飾ってみせた。ブライアンはウマ娘としてはだが、その場にいたのである。最も、年齢的に『親に連れられて来ていた小学生』であるが。その時に、メタ情報を持つオグリがブライアンを見つけ、記念撮影をしてくれたのである。のぞみは前世で父の勉(作家)から、ある時にオグリキャップの話を聞いていたことを思い出した。のぞみも転生後に気づいたが、自分の父は1990年の有馬記念の時に大学生であった年齢層なので、中山競馬場に行っていても不思議ではなかったのだ。自分が生まれてからは賭け事はしなくなったと言っていたが、結婚前には『付き合いで賭け事を嗜んでいた』とも漏らしていたので、オグリキャップの引退をリアルタイムで見ていたのだろう。

 

「引退が決まった途端に踏ん切りがつき、全盛期に近い能力を一時的に取り戻す事例は過去、いくらでも存在しています。無論、我々の世代においても、です。オグリ先輩はその最たる例です。ですが、ブライアンはなぜ?」

 

「史実の後半生が哀れだからだよ、エアグルーヴちゃん」

 

「どういうことですか」

 

「調べればわかることだから、教えるよ。ブライアンちゃんは……悲運の三冠馬って語り継がれてるんだ」

 

「悲運……とは?」

 

「現役後半は輝きを失った有り様だった上、種牡馬として成功する前に逝ったからさ」

 

シンザンの後を継いだ三代の三冠馬……シービー、ルドルフ、ブライアンは現役競走馬としては最高レベルの名誉を手に入れたものの、種牡馬としては成功と言い難い結果で終わっている。ルドルフはトウカイテイオーの後が続かず、ブライアンに至っては直系が絶えている。シービーも孫世代が出ずに血統が絶えている。ブライアンは子世代さえも満足に残さないうちに、病気で早世してしまった。サンデーサイレンス旋風に飲み込まれ、絶えた血統は多いが、歴代三冠馬の血統でも例外ではない。かろうじて、21世紀にルドルフのラインが存続している程度だ。

 

「ブライアンちゃんが長生きしてれば、子供や孫に夢を託してたんだろうけど、生まれた子供達は競走馬として不出来でね」

 

ブライアンの記録に残っている子供達はG1レースを勝っていない。その上、さらなる子孫を繋げた娘達もあまり記録に残っていない。それも負い目となっているのだろう。親類のタニノギムレットがウオッカを輩出したことを考えれば、ブライアンが長命を保てば、ウオッカのような優秀な子孫が出た可能性も夢物語ではないだろう。

 

「長生きできてれば、ウオッカちゃんみたいな子が出たんだろうけど、運命は残酷だったんだ。残せた子は二世代。しかも、子供は出来がいいとは……ねぇ」

 

ブライアン本人は当代最強であったが、その能力が子に受け継がれずじまいだった事も不幸であった。競走馬に限らず『優秀な親から優秀な子が出るとは限らない』が、ブライアンはそれもひっくるめての責任を取るため、前世を超えることを選んだのだ。

 

「日本は外国の血が入ってる馬が強いって言われて、もうずいぶん経つ。あなたの血統も例外じゃないよ」

 

「……確かに」

 

エアグルーヴは祖先に外国人がいる。それは自身も知っている。エアグルーヴの成功で、エアグルーヴのラインはG1馬を代々にわたって輩出する名門になった。古くはマルゼンスキーがクラシック戦線を走れず、その代のクラシック馬達が尽く『マルゼンスキーの敗者復活』と揶揄され、マルゼンスキーの早期引退でリベンジの機会を失った後、彼ら自身が引退しても、低評価がついて回ったように、日本の競馬/ウマ娘競争は外国出身、あるいはその血筋を持つ馬に蹂躙されるケースが多い。国産馬はそもそも、軍馬としての使用が長かったため、サラブレッドは輸入と混血で増えていったという経緯があり、1940年代半ば(第二次世界大戦敗戦まで)までの競馬は軍馬の選抜としての側面が強かった。そこから切り替えて数十年ほどで、けして速くない国産馬がレース用に洗練された血統を持つ外国産馬に蹂躙されていくのは当然の結果である。マルゼンスキー世代の悲劇は有名だが、サンデーサイレンス登場後、そのライバルであった種牡馬のうち、ブライアンズタイムの血統は(ナリタブライアンの早世もあって)次第に衰退していった。G1馬はコンスタントに出したが、その更に子(孫)の世代が駄馬となるケースが続出したからで、サンデーサイレンスの血統は子、孫世代に至るまで大成功する率が良好であったため、2000年代後半以降は『日本の競走馬のエリート血統』として定着している。

 

「日本は昔から、舶来コンプレックスがあるからね。知り合いで、競馬やってる人たちは惜しんでるよ。80年代の血統の多くが絶えたって」

 

「なんとも複雑です、そう言われると」

 

「仕方ないよ。競馬の世界は『強い子孫が連続して出た血統』が栄えるっていうし。昔は下剋上が好まれたっていうけど」

 

オグリキャップやイナリワンの時代が終わった後、地方から中央に移籍し、そこで活躍した馬は減少していった。また、オグリキャップのように下剋上する馬も見なくなった。(地方籍のままで中央のレースに名を刻んだ者もいるが)

 

「ところで、ブライアンはどういう曲を?」

 

「時間がないから、自分の持ち歌にしたみたい。……上手いね」

 

「奴の意外な特技です。我々は歌唱訓練も課されますが、ブライアンはサボるくせに、そのようなところは天才なのです」

 

ブライアンはその場の即興で、自分の持ち歌の一つ『シャドーロールの誓い』をキュアドリームの姿で歌ったらしく、のぞみへ送った動画付きのメールにその様子が録音されていた。エアグルーヴは『ブライアンは練習をサボる問題児であるのに、いざ本番だと、プロ級のパフォーマンスを見せる』と述べ、手を焼いているとボヤいた。エアグルーヴにしては珍しいが、ブライアンの無頼漢ぶりに振り回されてきた事がわかる。

 

「あ、別のメールだ。……こりゃ大事だ」

 

「どうしました?」

 

「悪の組織が刺客を送り込んできたよ」

 

「あなた方の『敵』ですか」

 

「うん。漁夫の利ってやつ。……ハカイダー?人造人間キカイダーの宿敵だった奴か……大物を雇ったな」

 

そのメールはのび太からのもので、組織がススキヶ原へ『ハカイダー』を送り込んだ事が記されていた。

 

「ハカイダー?」

 

「五十年くらい前に、悪の科学者が人造人間キカイダーを倒すために作った『悪のロボット』だよ。ものすごい事に、人間の脳みそが頭に収まってるんだって」

 

「……は?」

 

「これだよ。1972年当時の写真だけど」

 

のぞみはのび太から送られてきた画像データをエアグルーヴに見せる。1972年当時に撮影されたハカイダーの勇姿だ。

 

「その当時に……こんな二足歩行のアンドロイドを造れたというのですか?」

 

「悪の組織は基本的に、市井に出回っている科学よりも、最低でも数十年は先を行くって話だからね…。ナチスの研究していた、多くのオーバーテクノロジーが闇に流れた結果だって」

 

1970年代という時代は『コンピュータは8ビット以下の能力で、出力されたデータの読み取りにも、相応の専門知識が必要であった』。それはエアグルーヴも知っている。現代につながる形のコンピュータが出現したのさえ、1980年代のことだ。

 

「信じられません。70年代といえば、極大規模集積回路も開発されていないはず……」

 

70年代は電子技術の基礎が固まった時代であるが、80年代に現れる『パーソナルコンピュータ』の内部回路のような性能を備えた集積回路は(概念としてはあっても)実用段階には達していない。人造人間キカイダーやハカイダー、ビジンダーのような『人造人間』など、とても作れるはずがない。だが、現にキカイダーやハカイダー、ビジンダーはいる。

 

「悪の組織はもう使ってたそうだよ。1950年代の時点でね。だから、キカイダー達も時代ごとに、内部構造をたやすくアップデートできた。悔しいけれど、悪の組織のほうが迅速に動けるんだよ、有事の時は」

 

悪の組織はトップダウン方式の組織図なため、基本的に行動が早い。一方、ヒーロー側は『未然に阻止する』という方法が取れないため、基本的に被害が確認されないと、正式には動けない。『秩序を守る側』というのは、意外に法のしがらみや類似の官庁の妨害もあるのだ。

 

「だから、秘密戦隊ゴレンジャーの上部組織は奇襲で壊滅させられた。あたしたちの『ヒーローユニオン』はその教訓で、警備会社って形にしたんだって。日本政府は事後承諾を認めてんだけど、警察庁が出しゃばってね。特警ウインスペクターや特救指令ソルブレインを解散させたの、どこのどいつだっての」

 

 

のぞみはヒーローユニオンの活動に口出しはせど、手助けもせずにススキヶ原の治安を自警団やヒーローユニオンにほとんど丸投げ状態の警察庁をなじった。内部に革新政党の支持者が多かった時期に、レスキューポリスを解散させたら、大災害や疫病に迅速に対応できる部署がほとんどなくなるという自業自得の結果として表れた。既に技術者も資料もなく、再結成は絶望的であるのに、自分たちの対応が後手後手だと非難してくるのだから。

 

「溜まってますね」

 

「ヒーローってのも楽な商売じゃないよ。まぁ、正体隠さないでいい分、現役時代よりは楽になったけどね。ハカイダー……強敵だな」

 

現役時代から幾星霜の月日を経ている状態ののぞみAは、この数年、『大人の世界の縄張り争い』はいざしらず、有事に『こんなはずじゃなかった』といういいわけがましい台詞が飛び交う日本連邦の評議会の有様を詰りたい気持ちなようだ。

 

「とりあえず、後でヒーローユニオンの首脳陣に指示を仰ぐよ。今はあなた達の仕事をこなさないと」

 

のぞみは楽屋の時計をチェックし、自分(ナリタブライアン)の出番に備える。特訓で絶対音感を活かせるようになったので、歌唱力に問題は無くなっている。曲目は主催者がFireBomberのファンだったのか、『ANGEL VOICE』、『NEW FRONTIER』が要請されている。

 

「大丈夫ですか?」

 

「黒江先輩の特訓を数年は受けてきたし、先輩が好きで、基地のジュークボックスでかけてたの聞いてきたからね。歌詞は覚えてる」

 

ここで、黒江が『幹部特権』で基地の休憩室でかけるジュークボックスの曲目の少なからずを23世紀では『本物』が存在し、大人気であるロックバンド『FireBomber』のものにしている事が語られる。のぞみもロックは嫌いではないので、前世での特技であった『エアギター』で『DYNAMITE EXPLOSION』などにチャレンジし、その動画を21世紀のネットにUPし、そこそこの再生数を稼ぎ、小遣い稼ぎにしていた。それらの成果を発揮する時だと意気込む。ブライアン自身、競走者としての全盛期を過ぎてからは『炎』をテーマにした楽曲『BLAZE』を発表しているので、あながち、炎に縁がないわけではない。

 

「あたしが終わったら、次はあなただよ」

 

「では、こちらも準備に入ります。しかし……まさか、自分の曾孫が存在する時代とは……」

 

エアグルーヴの血統は21世紀に入っても繁栄している。エアグルーヴの末裔にあたる『タイトルホルダー』や『スターズオンアース』の活躍が記憶に新しい。華麗なる一族とも通称されるため、その礎を築いた本人の生まれ変わりの身(ということになる)としては、なんともいえないらしいエアグルーヴ。

 

「スネ夫さんに口聞いてもらって、曾孫たちと対面する?あなたほどのウマ娘なら、関係者が大喜びだよ」

 

「その……心の準備が…」

 

さしもの『女帝』も自分の曾孫達(馬)に会うのは気恥ずかしさがあるらしい。ブライアンがコントレイルの引退式に現れてからというものの、関係者は大揺れであったが、転生して『意思の疎通ができるようになった』という事に大喜びな往時の名馬の関係者は多い。エアグルーヴはウマ娘としては『史実より好成績をマークしている』ので、喜んだファンも多い。そのため、子孫に会わせてやりたいという声も出ているほどだ。

 

「ブライアンと違って、私は全ての記憶があるわけではありませんし、その……」

 

エアグルーヴには『ベロちゃん』や『ギャル』などの愛称が関係者の間で知られており、エアグルーヴ(馬)は意外に甘えん坊であった。ウマ娘としてのエアグルーヴは毅然としつつも、凛とした態度の『女帝』で通っているが、実のところはスイッチが入れば、『ベロちゃん』との愛称通りのギャルに変貌する。担当トレーナー曰く、『色々あって、酒に酔った事があるんだが、なにかのタガが外れたか、トーセンジョーダンやダイタクヘリオスもかくやのギャルになってた』との証言がある。(本人は認めないが)

 

「でも、あなたがいた証はハッキリと残ってるってことだよ」

 

「……」

 

エアグルーヴはそこは複雑な心境だった。ルドルフやブライアンを差し置いて、自分の血統が大いに栄えているというのは、正直なところ、エアグルーヴとしては手放しで喜べないのである。とはいえ、マルゼンスキーの同期らの『悲劇』に比べ、ルドルフやブライアンは子孫ないしは『近親』がどこかかしらで活躍していたので、遥かにマシである。

 

 

「喜んでいいのでしょうか」

 

「仕方がないよ。90年代以前の名馬の血統はサンデーサイレンス旋風に飲み込まれていったほうが多いんだから。ルドルフちゃんやブライアンちゃんは子孫、ないしは近親がいるから、まだマシなほうだよ」

 

のぞみのいうように、それらの内、例えば、メジロマックイーンは牝系は大いに栄えているが、牡系はほとんど残っていない事で有名である。のぞみは前世の教師時代、職場の年長の教諭たちとの話題を作るため、競馬中継を見たり、競馬ゲームをしてみたりしたと語り、エアグルーヴの心中にあるものの氷解を狙っていた。その関係で今回の出来事で呼ばれたとも教えた。エアグルーヴは副会長という立場に身を置くための気苦労もあり、気負いすぎていた。のぞみはそれを楽にさせようとしたのだ。

 

 

 

 

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