――グンドュラ・ラルはダイ・アナザー・デイで御坂美琴の転生先であることが判明したものの、自身がそれまで行ってきた裏工作の数々が世間に露見してしまう結果が待っていた。それらを不問に付す代わりに、ガランドの後継ぎとなるという条件を呑み、空軍総監へ出世した。ダイ・アナザー・デイ中にその内示があったものの、実際の就任はカールスラントの混乱がNATO軍に鎮圧された後となった。その頃には、往時の見る影もないほどに、同国空軍は形骸化していた。彼女自身も『張り子の虎に成り下がった』とげんなりするほどの惨状であり、次期戦闘機の件でハルトマンと喧嘩し、数ヶ月は入院する羽目になるなど、これまでの裏工作のツケが回った形の数年を過ごした。とはいえ、ダイ・アナザー・デイでは『御坂美琴』に半ば立ち還った振る舞いをしていたため、おあいこのようなものと見られていた――
――彼女はキュアダイヤモンドとは転生をしていった内の一回で『同じ中学の先輩と後輩』の間柄であった事があるため、お互いの覚醒後は交流を再開しており、扶桑にとっては『数少ないカールスラントとのパイプ』の役目を果たしていた。カールスラントはダイ・アナザー・デイでの不祥事以降、扶桑からの思慕が急速に失われていく事に焦ったが、無政府状態では為す術もなかった。頼みの技術力も未来技術の前には色褪せてしまった中での希望は『優秀な人材』のみ。彼女はカールスラント空軍として『日本連邦のヘッドハンティング』を容認する代わりに、カールスラントの予備役としての名簿は維持するという条件をつけることで、カールスラントの軍高官らを説得。自らを含めての優秀な人材を日本連邦へもたらした。1949年時点では、留守部隊の事実上の陣頭指揮を取っていた――
「私も出る。クフィールの整備は完了しているな?」
「バッチリです」
「よし!」
グンドュラが1942年前後に負った負傷の後遺症は既に(宮藤芳佳の治癒魔法と未来世界の医療技術で)完治していたが、立場上の都合もあり、顔を隠せる『機動兵器での出動』が増えていた。64Fの正式な指揮官ではないが、それに準ずる権限があるため、1949年当時は『正式配備前』の戦闘機の一つであった『クフィール』を使用できたわけだ。同機が史実と違うのは『最初から高度な電子装備を持つ』点で、フランスからは『素直に、うちのミラージュ2000を購入すればいいのに』と愚痴られたが、クフィールの最大の利点は『過酷な環境での動作が保証されている』ところにある。扶桑は『正式量産機は史実の最終型の仕様で生産するが、64F仕様は特別仕様にする』手法で数的不利を補っている。64F仕様は『皮が有名機なだけで、中身は23世紀の新鋭機』と例えられるほどの違いがある。これは64Fの幹部たちを満足させるだけの性能を持たせようとすると、中身を可変戦闘機やコスモタイガーの時代の水準のモノにしないとならないからだ。
「ガリアの連中には悪いが、デルタ翼の先取りだな」
この頃から、64Fの隊長格の専用機にクフィールが加えられた。量産前の飛行性能の確認という名目であったが、武子が同機を好んだ故に決定されたという裏話がある。実際、同機は第三世代ジェット戦闘機の中では比較的にバランスの取れた性能を備えており、敵への優位性は当面の間は覆らない。1949年の当時は戦後第一世代機がようやく普及し始めた国が多数派で、レシプロ機が現役で第一線を張る国も多い。そのため、1949年という段階で第三世代ジェット戦闘機から第四世代ジェット戦闘機へのさらなる切り替えが予定されている扶桑空軍はまさしく『世界最強』と言えた。
「カールスラントの連中は泣いているようだが、これも他国に技術を出し渋った罰だ。数十年ほどは二流国家に成り下がっててもらおう」
扶桑がダイ・アナザー・デイ当時に要求した賠償金と違約金は莫大な金額で、1944年当時のカールスラントの全軍事費の5年分以上に当たる。カールスラントはこれを『高すぎだ!!』と突っぱねようとしたが、空母愛鷹の放置やMe262の技術ライセンス料をきちんと支払ったのに、開示した情報は初期のものというケチぶりは流石に非がありすぎ、評判の低下につながるものだった。扶桑は既に、日本やアメリカ合衆国から膨大な技術情報を手に入れており、カールスラントに新技術を頼る必要は無くなった。このことを知らされたカールスラントは慌て、『Me262の技術ライセンス料は返金するし、開発途上の最新モデルの設計を渡すから!!』とすがりついたが、扶桑は冷たくあしらった。既に、アメリカ合衆国から軍用機の設計を多数得ていたことの通告が自分たちを猿真似と嘲り笑っていた事への報復だった。カールスラントはこの頃に、技術者の流出で『航空兵器の自主開発能力』をほぼ喪失。カールスラントの軍事的栄光の終焉の象徴となった。だが、これまでにカールスラントが一手に担ってきた『連合軍の主力』という立場の代わりを日本連邦は求められる事になった。折しも、本来は世代交代期に入っていた扶桑は『ごく一部の超人に戦果を依存する』有様になってしまった。集団主義が強かった扶桑軍が直面したのが『突出した個が存在しない故に、集団で発揮できる戦闘レベルを凌駕する個人には全くの無力である』という事態であった。21世紀世界でいえば、スポーツの日本代表が大会の度に直面してきたような問題と似ている。
「しかし、閣下。なぜ人材の貸し出しとリユース戦略を?」
「既に移住した者は仕方がないが、我が国には優秀な人材が残っている。国家の立て直しのためには、軍を挙げて傭兵稼業をする必要がある。今となっては、1910年代の水準の軍事力へは戻れまい。予備役含めて、紛争当事国に人材を派遣し、外貨を強引にも稼ぐしか手は残っていない」
グンドュラは国家の立て直しを実質的に担わされた『G機関』の一員であるので、ガランドの方針をそのまま実行する役目を担っていた。日本連邦の信頼を取り戻すためには、自らを含めての『血の献身』が必須条件だと公言する。それが要職にある彼女が日本連邦にいる上で用いる大義名分であった。実際、ロシア連邦がある時に仕掛けた嫌がらせの結果、カールスラントの撃墜王の撃墜数の信用度は大きく低下しており、自分の実力を示すには、前線で戦う以外に手がない。カールスラント出身者の多くは階級や戦歴を問わずに64Fに籍を置き、最前線で戦果を挙げるという手を用いているのは、国策になったからでもあるが、陥れられた自らの名誉を回復させたいという目的もあった。
「さて、出撃だ」
彼女は『古傷』という枷から解放され、更に御坂美琴としての記憶を得たため、ある種の『チート』ができる身の上になった。彼女のように、ドイツ人としての肉体は持てど、精神は日本人と言う者はカールスラント系の覚醒者には意外に多い。その多くが『戦前からの軍歴があるから、今後は逆に冷や飯を食うことになる』経歴の持ち主であるため、扶桑に移住し、エースパイロットとして厚遇される生活を送った方が良いという現実を重視したのである。(ハルトマンとマルセイユという『油の乗っている俊英』ですら、ドイツ連邦共和国は『予備役行き候補』に選定していたため。更に、戦後のドイツ軍に同位体が奉職していた者でも、雀の涙ほどの年金しか保証しなかったため)
――エースパイロットの移住ラッシュに顔面蒼白になったカールスラント軍はドイツ連邦共和国に猛抗議したが、殆どは聞き入れてはもらえなかった。ドイツ連邦共和国が事の重大さを認識した時には、カールスラントの名だたるエースパイロット達の大半は既に日本連邦のヘッドハンティングを受け、移住していた。結局、ドイツ連邦共和国側も折れ、日本連邦への従軍をドイツ領邦連邦としての『連邦軍海外勤務』として位置づけ、(現地情勢に配慮して……という長ったらしい言い訳が並ぶが)ドイツ連邦としての年金と恩給を保証するに至る。だが、その施策は遅きに失した。ハルトマンやマルセイユなどの『お目当ての上級エースパイロット』が日本連邦の永住権を相次いで取得してしまったからだ。グンドュラ・ラルの政治工作は二人のカールスラント軍籍を額面上で維持させる効果しかなかった。カールスラント軍は人材の流出が止まらずに空洞化してしまい、1949年には『腐乱した死体』とまで揶揄される惨状であった。空軍でさえ『単独での作戦行動不能』な有様に陥ったので、陸軍、海軍に至っては『軍隊の体を成していなかった』。日々の目標を奪われた者達はもはや『軍服を着た野盗共』とまで蔑まれていた。NATO軍はその再建に長い年月と手間をかけることになり、日本連邦軍の強化を促すことを選んだ。1949年の初夏の段階では、日本連邦の三軍こそが間違いなく『世界最高峰』の軍隊であった――
――出撃したグンドュラ。カールスラントからの移住者で固められた中隊『魔弾隊』を率いての出撃だった。機種はクフィールで固められている。これは同機の性能が評価されていた事もあるが、元々、デルタ翼の飛行機はカールスラントでよく研究されており、クフィールは言わば、『その研究の成果』といえるという理屈からである。同時期にガリアもミラージュⅢの研究に躍起になっていたが、統一国家としての活動が再開したばかりの同国には荷が重く、非合法活動に走る有様であった。ペリーヌは自国民からの軍事的復興の突き上げに抵抗しきれず、リシュリュー級の復旧工事の予算を通した。これはリシュリュー級が同国の象徴となっていたからであるが、軍事的意義は既に失われている。ペリーヌはこれに抵抗を続けるが、流石に国民からの嘆願が殺到し、1950年以降の復旧工事を認めるに至る。ペリーヌは『リシュリューをわざわざ復旧するより、より新型を造るべき』という持論を持っていたが、艦艇の研究が停滞していたガリアには『アルザス級よりも強大な艦艇の研究は骨の折れる仕事』であった――
「閣下、ガリアは何故、議会が紛糾しているのです?」
「あの国は欧州で一番に偉い国は自分らと思いこんでいるのだ。だから、日本の大和に伍する戦艦を欲しがっているそうだ」
「馬鹿な、欧州に46cm砲を量産できる余力など」
「ガリアは戦前、アルザス用の43cm砲を試作していた。高初速という触れ込みだが……」
ガリアは実のところ、戦前の段階で『43cm砲』を完成させていた。仮想敵はもちろん、大和型戦艦である。諜報で得た大和型戦艦の重要部の最厚部である『450ミリの舷側装甲を撃ち抜ける』という触れ込みであった。だが、実際の大和型戦艦は素材そのものが桁違いの金属に変えられており、ガリアの既存技術では相手にもならないのは言うまでもない。
「43cm砲?時代相応の技術レベルなら有用ですが……」
「日本連邦が未来技術たる、硬化テクタイト板と超合金ニューZで大和型を強化した事は連中は知らん。宇宙戦艦の装甲を第二次世界大戦中の武器で破壊しようなどと……蟷螂の斧だよ」
ルナチタニウム合金からコスモナイト系の金属へ宇宙戦艦の使用資材が完全に入れ替わった時代が23世紀にあたる。コスモナイトは土星の衛星群などで鉱脈が確認された鉱物で、それを合金として加工すれば、ルナチタニウム合金よりも遥かに高性能の合金となる。宇宙戦艦ヤマトなどの波動エネルギー駆動の宇宙戦艦には必須の金属素材である。日本にとっては『戦艦を引退させるための無理難題』のつもりだった『単艦で敵の絶対的な制空権下の状況から生還すること』をあっさりと達成してしまった。更に、各種の超兵器を備えたため、メカゴジラに匹敵する火力と判定された。そのため、ガリアがいくら『できる範囲で努力したところで、大和型戦艦に伍す戦闘力は持てない』のである。それを指して『蟷螂の斧』なのだ。
「扶桑の新造艦は宇宙戦艦の機能を?」
「極秘事項だが、ゲッター合金を用いた変形機構を備えている。日本にバレたら大事だ。ガンシップと嘘をついて、その予算で宇宙戦艦を揃えてきたからな」
64Fが一部隊で抱えるには『多すぎる』艦隊を持つのは、デザリアム戦役での『パルチザン』の保有装備の多くを引き継いでいるためで、宇宙戦艦を動かすための人員はデザリアム戦役で得たツテで賄っている。なお、播磨型、三笠型、敷島型の三つの新世代艦は宇宙戦艦としての機能を隠し持つ事がここで明言された。扶桑はラ級の規格でその三つを建造。小型化された波動エンジンを隠し持つ。これは24世紀以降の技術で小型化されたもので、プラズマエネルギーを波動エネルギーを複合させる仕組みの第二世代型波動エンジンである。23世紀初頭当時の波動エンジンより基礎出力が高出力でありつつ、波動砲も安定して撃てるのである。24世紀に入ると、その世代の波動エンジンは普遍化しているので、その次の世代が『波動モノポール機関』である。ゲッター合金による変形機構を部分的に有し、普段は姿を偽装している事が判明する。
「オーバーテクノロジーてんこ盛りというわけですか」
「野比氏の仲介だ。彼がキャプテン・ハーロックやクイーンエメラルダスから得た技術を我々に提供したのだ。そうでなければ、昭和24年の段階で、超音速戦闘機を末端まで配備する計画は立てられん」
グンドュラは副官に明言した。のび太の仲介で宇宙二大海賊(なお、ハーロックは軍の大佐であった過去を持つ)から、この世界は先進技術を得たと。扶桑の自動工場はその時代の技術でゼントラーディの自動工場を改修したものとも。
「とはいえ、各軍需産業の要望も叶えんとならんし、21世紀世界の日本は軍が工廠を持つことを気に入らんときている」
「なぜですか?」
「民間へのアウトソーシングを過剰に信奉しているからだ。その行き着く先はアナハイム・エレクトロニクスの死の商人ぶりなんだがね」
アナハイム・エレクトロニクスの死の商人ぶりを目の当たりにした扶桑は軍工廠の完全な廃止を取りやめ、自動工場を工廠として維持する事にした。21世紀日本へは『有事における自給自足体制の維持のため』と説明している。なお、アナハイム・エレクトロニクスは23世紀時点では、サナリィの台頭で権勢に衰えが見え始めたかに見えたが、そのサナリィが不祥事で規模縮小となったために、MS開発部門が中興。ビスト財団が解体へ向かったため、野比財団がそれに取って代わり、デザリアム戦役の後は野比財団がアナハイム・エレクトロニクスを統制している。
「どれにもデメリットはありますからね」
「そうだ。ドイツは自分たちに合わさせようとしたから、我が国の掌握に失敗し、NATOからも針の筵になったのだ。NATOだって、アルゼンチンに相当する地域に軍政を引きたくないのだからな」
カールスラントは実質的に崩壊したも同然の有様で、NATOの軍政下に置かれている。欧州の旧・統治地域の取り扱いでも揉めているため、カールスラントは戦前の姿に戻れないという悲観論が大勢を占め始めている。カールスラントは怪異によって、欧州から追い出されたため、ドイツの的外れな指摘などで『せっかく築いた基盤を壊された』。魔女世界にとっては、その代わりが日本連邦なのだ。
「しかし、日本連邦も苦しみを背負いますよ」
「ああ。魔女の世代交代が科学の発展などの要因で遅滞するからな。軍の入隊年齢の高年齢化を扶桑の農村部は嫌うからな。なーにがが花嫁修業の代わりなんだか」
扶桑の農村部の地主などは魔女となった者の軍生活を『花嫁修業』としか見なしておらず、この時期に『軍入隊年齢の高年齢化』に激しく反対した。だが、兵器の高度化が加速していき、尋常小学校卒の学歴しかない者は『兵器の扱いを教えるのも一手間』と、現場から嫌われだしたという事実により、渋々ながらも高学歴にするしかないと認める。学費の問題もあり、日本連邦は当面の間は『軍学校の学費は領収しない』と表明せざるを得なかった。農村部と都市部の貧富の格差が大きかった時代なので、想定された学費を払えるのは『その土地の地主のみ』という試算が出たからで、日本連邦の財務部門はこの事実に頭を抱えた。軍入隊のハードルの上昇により、魔女の世代交代が遅滞してしまった扶桑は『黄金世代におんぶにだっこ』な有様に回帰してしまうわけだ。坂本が必死に運動を起こし、新規育成にこだわっているのは『自分たちが隠居する時代』に備えさせるという側面も持つ。日本連邦・財務部門は扶桑の農村部の『軍学校の学費徴収への猛反対』ぶりに困惑。新規入隊を(面倒ごとを避けるために)抑制させる。この抑制はおおよそ三年以上続き、その間に学制改革が敢行されたり、軍と学校教育の関係が断ち切られた結果、軍への大規模な魔女の自発的入隊が見込めなくなった。その結果、黄金世代への依存が継続するに至る。しかし、怪異の脅威は変化しないため、学校の部活動での退治が(魔女文化の保護のために)了承されたり、部活動で成果を挙げれば、怪異の狩猟免許を容易に得られるようになるなどの施策が容認された。1947年以降は怪異退治の部活動で成果を挙げ、軍学校への推薦枠を勝ち取るという道が魔女の立身出世の道として確立される。社会が落ち着くにつれ、軍学校を普通に受験することも再開するものの、その数は往時に比すると少なかった。軍人という立場に対しての庶民にとってのステータスが消失したと見做されたからだ。
「日本はあれこれと規定を定めたがるが、扶桑は将校に関しては、一定の自由が認められていたからな。それで色々と妥協している。古い将校たちの軍装品とかな」
防衛省が困ったのが、扶桑の古株の将校たちの持つ軍装品である。元々、将校は軍装品を自前で揃えるのが一種の文化であったため、今更、支給品に統一されても…と抗議したのだ。日本側は『軍国主義の象徴』ということで排除しようとしたが、扶桑は『既成の洋服を安価で買う』という文化がまだ根づいていないため、結局は『1945年8月までに下士官以上に任官されていた者に限り、自主的に購入した軍装品の使用を認める』という妥協的な規定が設けられた。
「それと、海軍の軍令承行令も廃止されたんで、正規の将校がビクビクするようになったと文句が出ている。現場で古参の特務士官出身者が偉ぶるようになって、正規将校が馬鹿にされていると。それは日本も想定外だったらしい」
「まぁ、扶桑海軍はブリタニア海軍が手本でしたからね。どうすると?」
「仕方がないので、別のルールを作るそうだ。戦後の日本人はルールを破ることを異常に嫌うから、仕方がないというが……」
軍令承行令の廃止は史実で弊害と指摘されていた『軍医中将が砲術、水雷等担当の兵科少尉候補生に服従せねばならない』ことの防止と説明されているが、実際のところは『扶桑の非戦闘兵科の尉官が国際協力の現場で下士官扱いされる』ことの阻止が目的である。たとえば、ミーナは人格の変容直前、日本からの抗議に『軍令承行令でそうなっているというから、宮藤芳佳の扱いを曹長としている』としたが、事態を却って悪化させてしまった。ミーナの実質的な更迭は『軍令承行令の存在そのものが国際協力の場での誤解と曲解を招いているが故の改正』の原因となった故のカールスラントへの扶桑の報復であった。
「日本人を怒らすなよ?あらゆる手段で逆襲してくるから、こちらの考えで対処するな。連中を上手い具合におだてて扱うのが上手いやり方だ」
「沸点がわからん上に、突然に切れますからね、連中は……しかも、資源を出し渋ると、それを必要としない新技術を作ってしまう……扱いにくいったら」
日本系の国家はド根性であらゆる災厄に打ち勝ってきたため、カールスラントや自由リベリオンもその『ド根性』を恐れている。特にカールスラントは『怒らせてしまったがために、国家が分解寸前に追い詰められた』。これが後世のカールスラント国民にその時の高官世代が『阿呆』扱いされる原因である。(その原因の多くはヘルマン・ゲーリングのケチくさい策謀だが)
「愚痴っても始まらん。ラ級の購入にはこぎつけた。海軍の暇を囲っていた連中も雇い入れた。艦名はこれから考える。フリードリヒ・デア・グローセは使えんからな…」
それはニューレインボープランで用意されていた『H級を素体した量産型のラ級戦艦』のことで、カールスラント空軍が起死回生をかけて購入(分割払い)したものだ。量産型の一隻なので、ワンオフの『フリードリヒ・デア・グローセ』より性能は落ちる。とはいえ、H級の一隻をベースにしたため、性能は良好。カールスラント海軍が購入予定だったが、その前に国家が無政府状態に陥ったために有耶無耶になっていた。その個体をG機関が引き取り、空軍の戦闘母艦として就役させる見通しになった。これは宇宙刑事の超次元戦闘母艦と同じ発想である。
「それを我が魔弾隊の母艦に?」
「ガランド閣下の思し召しだ。私はそれを実行する駒にすぎん。今頃はご令嬢(クイント・ナカジマの事)とお孫さん(スバル・ナカジマ)と一緒に、艦名の候補の書類とにらめっこしてるだろうさ」
ガランドはこの頃には、表向きはミッドチルダに移住し、義理の娘とその子らと共に暮らしているが、後輩らへの影響力を維持し続けており、G機関を切り盛りしている他、ミッドチルダに出先機関の事務所を立ち上げている途中であった。カールスラント軍の元・将軍という立場は時空管理局との交渉に大いに役立ち、彼女に巨万の富をもたらしていた。義理の孫であるスバル・ナカジマが時空管理局の俊英として名を馳せており、高町なのはの部下であった経験を持つのも、時空管理局との交渉に役立ったとは、ガランドの談。この頃にはM動乱で捕虜となったナンバーズの内、更生を選んだ者が刑期を終えており、ガランドが引き取ったため、家を増築したという。
――此方はガランド。ミッドチルダに移住し、隠居の身といいつつも、年齢は24歳と若く、既に処置も受けており、戦士としての能力は維持している。彼女は魔女史上で最も若齢で将官になっていたが、コンドル軍団在籍の軍歴が災いし、祖国を離れるを得なくなった。義理の娘が元々、ミッドチルダの人間である事から、ミッドチルダへ移住。ナカジマ家の長に収まった。ゲンヤ・ナカジマは困惑したのは言うまでもない。『亡くなったはずの妻がロリ化して生きていて、別世界で養子縁組先になった女性を連れてきた』からだ。自分は既に壮年で、直に老境にさしかかるのに、自分より遥かに若い女性が『義母』で、妻は少女に戻っていたという状況は時空管理局の魔導師と言えど、前代未聞であった。――
「ばーちゃん、ヴィヴィオの様子を見に行ってくるよ~」
「ああ、なのは君の息女か。土産の一つでも買って行きなさい」
ガランドは24歳ながら、元・将軍であった故の老成の表れか、スバル・ナカジマらを可愛がる『良い祖母』になっていた。スバルはガランドの秘書になっていたため、救助隊に復帰はしておらず、ここのところはG機関を切り盛りしていた。その関係で、ダイ・アナザー・デイには参加していない。なのはとの関係は史実ほどは盲信しておらず、むしろ、『酒飲みの私生活だめんず』ということで、面倒を見る側に回っていた。ヴィヴィオの面倒も時たま見ており、なのはは(史実より生活態度がだいぶ崩れたため)頭が逆に上がらないという。一方、ヴィヴィオは義母が精神的打撃で自暴自棄な生活をするようになったためか、史実よりも遥かに精神的成熟が早かった。そのためか、早い段階でインターミドルの格闘大会に傾倒。自身のオリジナルの守護騎士の経験を持つ調との出会いで『遺伝子的な意味での出自』も意識するようになっている。
「ヴィヴィオ、初等科の三年になるんだっけ。史実より早くにインターミドルやりたいって言ってるんだよなぁ。いくらフェイトさんが優勝経験者だからっていってもなぁ……」
この頃になると、ヴィヴィオも8歳を迎え、インターミドルに向けての体作りを始めていた。なのはは心配したが、フェイトのほうは賛成であった。とはいえ、『自分の真似はするな』と言い含めている。
「あれ、調?今日はこっちに?」
「なのはさんの様子を見に来たんです。あの事件からこの方、呑んべえに堕ちましたからねぇ」
「フェイトさんの管理で持ってるようなもんだしねぇ、あれじゃ」
なのはは史実とは違った事件で評価を落としたが、時空管理局の教育が間違っていた事の実例になってしまうため、戦功は立てているが、部内では窓際族になってしまった感が否めない現状。『エリートは挫折に弱かった』と士官学校の同期にも揶揄されており、客寄せパンダのような扱いに堕ちている。『八神はやて少将の温情と戦功で『佐官の地位にある』とは、教導隊内での陰口だ。とはいえ、魔導師として貴重なエース級であるのは変わりないため、最近はロンド・ベル仕様の連邦軍軍服で勤務している。(呑んべえとなるほど素行が悪くなったので、制服での勤務を避けろという通告のため)
「でも、なんで軍服で勤務なのさ?」
「素行が悪くなった状態で、制服でぶらつかれたら、品位を疑われるっていう意見が地上本部から出たんです。最も、動乱で局員の信頼は地に落ちましたけど」
珍しく、地球連邦軍の軍服姿の調。ミッドチルダで仕事もしてきたからだろう。スバルも久々に時空管理局の制服姿だ。時空管理局は地球連邦の統制下で再建が始まったばかり。軍備も魔導師に依存する動乱以前とは決別するためか、地球連邦軍製の兵器がライセンス生産されている。
「あれ…ネモ?地球連邦軍が払い下げたの?」
「意外に残ってますからね、ネモは」
エゥーゴ時代のMSである『ネモ』。時空管理局が動力部以外を組み立て直し、魔導炉で代替する形で使用され出したらしい。これはアナハイムの工場に残っていた同機がミッドチルダへの輸出用のMSで第一号になったためだ。量産型第二世代MSの奔りである旧型だが、各部がユニット化されているので、時空管理局の手に負えると判断されたのだ。
「てっきり、ジェガンになるかと思ったよ
「ジェガンはまだ現用機ですからね。ジム系とはいえ、第二世代量産MSの集大成です、まだ早いですって」
「そなの?」
「間にネロとジムⅢが入ります。ジェガンはそれらの統合型ですから」
二人が遠目に見た、『街を行軍するネモ』。原型と異なる塗装パターンである。地上本部に回された個体らしく、肩とシールドのエンブレムは地上本部のものだ。
「ネモは扱いやすいんですよ。私も訓練で乗った事あるんですが、ゲリラ運用が開発目標だったんで、ジム系の中でも簡単に動かせるんです」
「ジェガンより?」
「ジェガンは反応速度が調整次第で変わるんですよ。うちみたいな部隊だと、制御系を『吊るし』から相当にチューンしてますね」
ジェガンは一般兵士の搭乗を想定しているので、精鋭部隊のモノは制御系をチューンしていると語られる。それが普通のジェガンと『精鋭のジェガン』の動きが違う理由である。反応がデフォルトで『マイルドに設定されている』ので、腕に覚えがあるパイロットが『吊るしのジェガン』に乗ると、鈍いと感じる。だが、一般部隊に手広く配備する目的で開発されたジェガンに『エース機と同等の機敏な反応』をデフォルトで求めるのも酷である。ネモのほうが操縦系で好評なのは、ジオン系の技術が操縦系に使用されていたからで、操縦系に連邦系の技術が主に使われているジェガンはその点で、ギラ・ドーガに劣ると新鋭機時代に評されたのは有名な話。
「動力は?」
「同等の出力を出せる魔導炉に取っ替えたそうです。ミッドチルダの兵器は魔導炉で動きますから、現地で使うには、その方がいいそうで」
「なのはさんの機体のテストの結果?」
「ええ。数ヶ月前の魔導炉のテストが良好でしたからね。アリシアさんが史実で死んだ原因ですが、あれは実験段階のものを無理にテストさせた結果ですから」
時空管理局はアリシア・テスタロッサの史実の死因を知り、魔導炉の安定性と安全性の向上に多額の予算を費やした。MSを駆動させられ、なおかつ『核融合炉と同等の出力が担保されたモデル』の登場はM動乱をきっかけに促された。これは時空管理局なりのささやかな地球連邦への『抵抗』であった。管理局はお情けで存続したが、実際には地球連邦の植民地も同然。だが、体制が形だけでも存続できたことだけでも『儲けもの』。そう考える者はミッドチルダ人の多数を占めていたが、せめてもの誇りは守りたい。その考えが新型魔導炉の開発を完了させたと言っていい。それを冷めた目で見る、はやてやスバル。ある種の時空管理局による技術面でのささやかな『抵抗』であるが、魔導炉は艦艇などで実績があるが、機動兵器となると話は変わる。安定した性能で量産できるのか?という観点から、両者は性能に関しての謳い文句よりも、製造体制を不安がっている。アリシアは史実では『無理な実験で生じた汚染に巻き込まれて即死した』のだから。調はそれに触れ、スバルも同意する表情を見せたのだった。