――扶桑の事情は日本側の政治を悩ませている。扶桑の膨大な陸海空軍の軍事力は21世紀基準では巨大すぎるのだが、魔女の世界の扶桑は広大な海外領を戦国期から持っていたため、それを奪還するための戦力を維持していたのである。日本は『南洋と浦潮と台湾は(中華民国が存在しないので、台湾の維持は渋々と認めた)認めるが、広大な大陸領は割に合わない』とし、資源採掘権以外は放棄したかったが、元住民への補償問題も絡んだため、南洋が『旧大陸領を補える』までに成長する時代に『国連の統治に移行する』とし、お茶を濁した。実質的に海洋国家と化したため、陸軍の縮小が図られていたが、太平洋戦争の勃発で『現状維持』に切り替えざるを得なくなり、機甲師団の増加を図り、陸軍全体の機械化を促進させるという妥協策が1947年以降は取られた。だが、機械化の達成はそう易易と達成できるものではなく、M動乱とダイ・アナザー・デイを戦い抜いた師団が優先されたため、北方戦線と紅海戦線には廃棄予定の旧型しか回されず、実質的に現状維持が目的と化した。太平洋戦線こそが国家存亡の是非がかかる戦線であったため、紅海や北方にいた有力師団の引き抜きも実行された――
――Y委員会の会合――
「日本は紅海と北方の部隊を引き抜けという。連中は抑止力というものを理解していない」
「紅海は落ち着いたからいいが、北方はある程度は置いていないと、怪異に対応できん。未来世界のスーパーロボットが警備をしてくれているからこそ、現状維持が出来ているのに」
「魔女はクーデターの失敗後は質が目も当てられんようになった。おまけに数も雀の涙程度。黄金世代におんぶにだっこに回帰してしまった」
「日本は新人を育てるよりも、即戦力の『大人』を使い、新兵器の普及までの人柱にするつもりだ。我が国の伝統を理解しとらんよ」
日本にとっての魔女は『得体の知れない集団』でしかなかったが、宮藤芳佳などがいるため、『501以外は役に立たない』という認識があった。実際、501以外の統合戦闘航空団は怪異の巣を撃滅したという記録がない。スーパーロボットの力で巣を撃滅した上で、ダイ・アナザー・デイに入ったという事実がそれを裏づけてしまった(504は501の前座という認識も強めてしまった)。
「しかし、本来、魔女は世代交代期に入っていたのだぞ。故に中堅が反発した」
「その反発が日本による粛清人事を招いたのだ。501を含めた手練れを集めておいたのが功を奏したよ。おかげで、魔女兵科は死に体だ。野比財団の資金援助で連中の賃金を保証できているに過ぎんし……」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは愚かだった。年上に敬意も払えん女だとはな」
「仕方あるまい。彼女は190機台の撃墜数を記録していた。江藤大佐の措置こそ糾弾されるべきだが、お上のご意向だからな」
「あの当時は当たり前にしていた事だ。当時の佐官には死亡者もいる。江藤君を人身御供のような形で裁くしか、示しがつく方策がなかった。お上のご意向には逆らえんよ」
昭和天皇は軍の人事に相当に介入した。扶桑の憲法では合憲であるが、日本からは攻撃の対象となり、結局は扶桑軍統合参謀本部の命令として、再度の事務処理をせねばならなかった。志賀も『抗命』として槍玉に挙げられそうになったが、『自分の不徳の致すところ』と自主的に謹慎生活を送っており、『軍の退役も考慮に入れている』と語っていたため、教導部隊を定期的に移動する人事を戦中は行い、退役時に恩給を中佐扱いで支給する事になった。志賀は組織への忠誠心に定評があったため、それで首の皮一枚で繋がったわけだ。このように、扶桑の1945年当時の中堅層の魔女は『皇室への忠誠心があるか』でクーデター後の明暗が分かれていったため、農村部から軍の魔女を輩出することはグンと減っていく。供給の回復には、『親の世代がこの時期における親世代の次の時代の生まれになる時代』を待たなければならない。
「カールスラントからは抗議も来ているからな。『彼女は無知だっただけで、話せばわかる人物だ。悪漢のような報道を差し止めてくれ』と」
「カールスラントとしては、自軍の評判に関わるからな。しかし、マスコミの報道に安易に介入すると、日本がうるさい」
「しかし、在留カールスラント人へのヘイトが急激に増大している。急いで対策を取らなければ、取り返しがつかないぞ」
委員たちは頭が痛いところであった。以前のような強硬策は取れないからだ。カールスラントは無政府状態であるので、国家だっての声明はもはや出せない状態にある。結局、アイゼンハワー連合軍総司令官に自ら、軍の公式声明を出してもらい、当事者の処罰の明示、功ある扶桑軍人は相応の扱いになった事の公表をしてもらうことになった。これがカールスラント軍の権威へのとどめとなったわけだ。
「それと、リベリオン軍の扱いは?」
「陸軍と空軍には『血の献身』をしてもらう。それが我が国民を納得させる近道だ。港や基地を提供している対価は払ってもらう」
自由リベリオン軍は扶桑の政治的都合もあり、以後は本格的に扶桑の戦争の一翼を担うことになる。扶桑は変革期にあったが、大正以前の『武器があるなら戦え!』という価値観も未だに根強く残っており、それが自由リベリオンの献身を求める事の根源であった。シャーリーはその手本として祭り上げられることになり、プロパガンダに取り上げられていく。当人がキュアメロディでいる事が多くなるのは『普通の軍務ができなくなる』からで、本人曰く『祭り上げられるのは慣れてるが、露骨すぎんだよ』との事。また、海軍には『雷撃処分の禁止』が通達される(怪異による残骸の再利用の防止の為)など、現場の混乱を招く施策も決められた。また、前線指揮の必要が増えたことで司令官の戦死率が上がることが懸念された事から、軽巡以下の艦艇が艦隊の旗艦になる事は大きく減り、超甲巡や戦艦、空母が旗艦として使い倒されることになる。
――64F基地(南洋本島)――
「……ムーンライト、これはどういう状況なんですか?」
「あなたは今後、この世界で過ごしてもらうことになるわ。それと、この世界で過ごすための便宜上の問題で、今日付で『この世界の日本軍に入隊した』という扱いで処理されるわ。」
「ま、待って下さい!どこがどうして、そんなことになるんですか!?」
「この世界に流れ着いたプリキュアは多いのよ。色々な法的な問題で、軍隊が身元引受をしているのよ。将校として遇されるから、生活面の不自由はないと思うわ。それに、私達でなければ、対処できない敵も多いから」
保護されたキュアエトワールはその日付で、64Fに入隊したという扱いになった。扶桑で過ごすには、その方が『事が楽に運ぶ』からだ。公的機関に属する形で戦うことに抵抗があるようだが、未知の世界では行く宛もない事から、キュアムーンライトに従うことを選んだ。
「でも、私はフィギュアスケートしか経験がないんですけど」
「大丈夫、将校の身分さえ持ってれば、割に自由に過ごせるから。戦いはしなくてはならないけれど」
「そうそう。身分さえ持ってれば、割に自由だよ。まー、下っ端の兵隊の狼藉は止めないといけないけどね」
「ミラクル、ちょっと変わった?」
以前(キュアエトワールはキュアミラクルに会っている)との雰囲気の違いを察したエトワールに、ミラクルは苦笑交じりに答える。
「まー、色々あってね」
「なんで、変身した姿なの、みんな」
「その方が疲れないし、いざって時にすぐに動けるからね。あとは……顔バレしちゃってるからさ、この世界。ほとんど全員」
「……え??」
「話せば長くなるんだ、これが」
と、いうわけで、キュアミラクルからも改めての状況の説明を受けたキュアエトワール。自分がプリキュアとして体験した、これまでの出来事が世界規模でバレ済みな事、プリキュアオールスターズそのものと敵対関係にある巨大な組織が世界を跨って存在する事、その組織はナチス・ドイツの残党が組織し、旧枢軸国軍の構成国軍の残党がそこに合流することでどんどん巨大化していき、冷戦が終わった頃には、かつての社会主義国家が解体される時に解雇された軍人や諜報員が合流し、遂には時代を超えた数々の滅んだ国家の者たちが日本列島を狙うという事態となった事を。
「なんですかそれーーー!」
「だーから、1970年代の特撮ヒーロー物みたいな事になってるんだって!しかも、平行世界の私たちが相打ち同然の状態で、やっと撃退したっておまけ付き!」
「え!?」
「連中はある時に、ある世界の私達と戦ったらしいわ。その私達は必死に抵抗したけれど、最後はプリキュアの力を犠牲にせざるを得なかった。それは一つの世界での結果だけども、私たちはその世界で生まれた『宿命と義務』を引き継ぐのよ」
別の自分たちに代わって、その仇を自分たちが討つのもそうだが、自分たちがプリキュアであることを望む声がどこかにあるのなら、その声に応える義務があると、キュアムーンライトはいう。また、別の自分たちはあまりの激戦で戦死者も多数生じ、戦いの後に繋がりを断ってしまった者もいたというので、自分たちはその轍を踏まないように『強くならねばならない』と。
「昭和の時代みたいな事だろうけど、子供たちの夢は壊せないでしょ?」
「夢…ですか?」
「うん。それと、子供たちの願いだね」
プリキュアはそれらを背負う存在であり、それは違うことを許されない『誓い』であると、キュアミラクルも続く。
「祝福と呪いは紙一重なんですよ、皆さん。それをわかってるんですか!?」
「ええ。あなたが元・フィギュアスケート選手であり、競技で伸び悩んでいた事も知っているわ。悪いけれど、挫折や後悔は誰でも、どこかどうかでするわ。私にも後悔している出来事はあるから。あなたもそれが何なのか、知っているでしょう?」
「え、ええ……。」
後悔と挫折を引きずり続けた結果、精神が破綻寸前に陥ったキュアドリームのように、なにかかしらの折り合いをつけられずにいるままで戦えば、どこかで破綻を来す。だが、そこから立ち直れるかは(周りのアシストや、きっかけがあれど)自分の心の強さ次第なのだ。
「祝福を呪いに変えてしまう、ないしはその逆も当人の心持ち次第。あなたが恋した者は呪いを祝福に変えることを望んでいた。そうじゃないかしら、ほまれ?」
「ずるいですよ、ゆりさん……。それを引き合いに出すなんて」
輝木ほまれはのぞみと似た状況にあった。ハリハム・ハリー(人間態)に初恋をしていた。それは月影ゆり(キュアムーンライト)も知っていた。故に、「祝福」と「呪い」の関係性を話の引き合いに出した。ほまれ(キュアエトワール)は(どの時間軸からの転移かは不明だが、片思いであることを自覚している事から、戦いの中期以降の時間軸であろう)は『ずるい』と言ったが、それは月影ゆりは『自分の恋の行く末』を知っている事を察したからで、泣きそうな表情を見せる。
「彼はあなたが前を向くことを望んだ。どういう形であれ、ね。なら、あなた自身で、この先の道を選びなさい。持ってしまった『呪い』を『祝福』に変えるためにも、彼の想いを無駄にしないためにも」
ゆりは現役時代にパートナーを失ってしまった故に、仲間には割に厳しく接する。それは全プリキュアでも『年長である』故の務めでもある。ほまれは『振り向いてくれなかったとしてもいい。……彼と共有した時間と思い出は嘘じゃないから』と、自分の戦う理由に心中で踏ん切りをつけ、『HUGっと』では初の参戦となり、同日中に『中尉』に任ぜられた。
――1949年。ガリア、カールスラント。欧州の二大国が衰退してしまった結果、欧州はロマーニャとブリタニアが突出することになった。それを良しとしない者たちはその他の国を支援するが、魔女の存在の都合、通常の科学技術を思うようには発展させられなかった。日本連邦はこうして、軍事・科学分野で魔女の世界のNo.1に登り詰めていく。カールスラントが内乱でその力を失い、ガリアは国土復興派と軍事優先派の争いが顕著になり、国家内のまとまりを失うためだ。ブリタニアは相対的な限界が顕になり、グローリアスウィッチーズの失態が知れ渡ってしまったため、魔女大国としての面目も潰れてしまった(王族直属の魔女部隊という触れ込みであり、統合戦闘飛行隊の奔りであったため)。そのため、魔女にかける情熱は薄れてしまい、予算も大きく削減された(軍全体の近代化を名目にして)。こうして、日本連邦に熟練の魔女が集まっていく流れが決定づけられ、魔女の研究が(時空管理局と地球連邦軍の助力で)最も進んだ日本連邦で厚遇される方が『割に合う』とされたのだ。この流れに上手く乗った日本連邦は、前線の魔女の多くを義勇兵で賄うことになる。そんな状況で坂本が危惧したのは『完全新規での育成ノウハウの喪失』である。魔女兵科の運命を察していた坂本であるが、義勇兵で賄うことで『一からの育成ノウハウの喪失』が起こることを恐れており、生え抜きの育成数の減少はあれど、生え抜きの育成の門戸を閉ざす事はさせなかった。それが後々に高く評価されることになるのだ――
――坂本は1946年頃より、魔法の世界的な体系化に情熱を傾けるようになった。それまでは『個々の国の記録にある分類』をバラバラに使っており、雁淵ひかりのような『分類しにくいニッチな固有魔法』持ちが現れた時に低評価に繋がっていたからだ。それから数年後には以前よりは細かな分類表が出来上がり、全部隊で使用を開始していた。転生者/転移者の持つ異能は国民向けには『魔法の一種』としている扶桑だが、かなり無理があった。だが、そうでないと、扶桑の国民が理解できないのである――
――ミーナBは許されている範囲での訓練飛行と調べものの毎日であった。その調べ物も佳境に入っていた――
「この世界の私は……1944年以降の激しい状況の変化、特に未来技術の流入で魔女の『聖域』すら変化してしまう様についていけなかった。この子らの登場を知っていたら……一生、病院行きだったかもしれないわね…」
ミーナAの幸運は、プリキュアの登場と入れ違いに表舞台から去った事だろう。プリキュアの登場と騒動が重なれば、軍籍の完全剥奪、更にその上の軍籍抹消もあり得たのだ。
「そうならなかったのは幸運なのか?」
「軍に残れたようだから、幸運といえば幸運よ。他は降格と飛行資格のしばしの停止で済んだようだから」
「異能と超科学の登場で、これまでの認識が消し飛んだ世界か……。一部の人員に過剰な期待をかけることに繋がったというのは……」
「人同士の戦争への回帰が『英雄の存在を望んだ』と思うわ。扶桑がそれで軍閥抗争になって、その代償が人手不足。ますます一騎当千の強者への依存が強まったようよ」
「皮肉なものだな。英雄の去った後を想定したら、戦争が怪異とのもので無くなったために、英雄を求めるようになるとは」
「絶対と思っていた摂理がたやすく覆されるなんて、思ってもみなかったんでしょう。1945年時点の中堅は特に。彼女らは『英雄の去った後を想定した教育の申し子』だったようだから」
ミーナBは扶桑軍の政策が戦争の根本が覆されることで裏目に出、軍閥の抗争で魔女の人手不足が目も当てられない有様になったことを『イレギュラー』と評する。ナポレオン三世の時代が去った後の魔女は『対人戦争への従軍』を基本的に考えておらず、それが守旧派と改革派の抗争を招き、扶桑の魔女覚醒の休眠期に入った不幸、軍への忌避感の増加も重なっての人手不足の結果となった。坂本Aは『今はいい。戦争で熟練の魔女が世界中にいるのだから。私が心配しているのは、世界全体が平和になった後、しばらくした後の時代のことだ』と公言しており、『平和が長くなれば、政府も有事に迅速に対応できなくなるし、軍隊も思考の柔軟性が失われる』とし、64Fの編成の恒久化をダイ・アナザー・デイ中に具申。ダイ・アナザー・デイ後は正式に『常設部隊』へ移行させるなど、有事即応を第一にしての施策の旗振り役となった。だが、それが自分達の直後の世代の魔女の反発を招き、望まない形で派閥抗争の当事者となった。
「少佐はそれで派閥抗争の当事者になったのか」
「ええ。64Fの存在自体が、私が頓挫させた『教官派遣計画』の代替も兼ねていたから、世界の名うての多くを集めた。それで、64は美緒のすぐ下の代の魔女から敵視されるようになったそうでね。自分達に旨味がないからと、編成の恒久化に反対した。だけど、ダイ・アナザー・デイの孤軍奮闘、未来世界での功績で既定路線になったことで、ついに暴発した。その結果、プリキュア達とごく少数の超人に依存する体制になってしまった。魔女兵科は10年も持たないでしょうね」
「身内同士で骨肉の争いをしてしまうのを世間に晒してしまった以上は、兵科としての魔女は消えたほうがいいのかもしれんな。我々も身につまされるよ」
坂本Bが軍上層部の粛清という結論に達するのに対し、こちらは真っ当な結論であった。これは坂本はたいていの場合、扶桑海事変での軍閥抗争を12歳の時に見てしまい、師の北郷に艦隊が重傷を負わせたことを憎んでいるからで、坂本Bは『A世界の軍事力で連合艦隊の司令部と参謀本部を消し飛ばし、自分は自刃する』という道筋を既に構想済みであった。それを胸に秘めつつ、『何事もない』ように振る舞う。無駄に高い演技力であった。
「怪異の研究が行われるのはいいわ。美緒は若い頃に、上層部が前線を無視して、政争に走っていたのを恨んでいるのよ。この世界ではそれに自分から加わったようだけど、私たちの知る……美緒は暴走してしまうかもしれない」
「まさか」
「充分にありえることよ。探りを入れてみて。元の世界に戻った後、美緒は……上層部を殺戮してでも、魔女を守ろうとするでしょうから」
ミーナBもその可能性に気づいたようである。ただし、実際の坂本Bが目論んでいるのは『怪異の研究を阻止する事』が主目的であった。A世界では『普通に兵器を発達させたら、怪異に対応できるようになった』のが坂本Bが『愚かな上層部の弑逆』に走った理由なのだ。
「この世界の兵器は私達の世界にあるものより何世代も進んでいるわ。美緒はそれで……」
「それと、この世界の超人達の力もな」
「ええ……」
「でもさ、少佐、羨ましがってたよ?空母のこと」
「この世界の空母は有に300mを超える巨艦だからな。我々の世界の空母は260mもあれば、充分に大きいと言われるというのに……。グラーフ・ツェッペリンを無理して買ったのが……正直、バカらしいくらいだぞ」
「リベリオンのこの世界の新鋭空母は280m。しかし、扶桑最新の量産タイプの戦艦は350m。馬鹿げてるよ……大きさが」
「そもそも、51cm砲はカールスラントでも戦前に検討されていたわ。だけど、砲弾の製造量やそもそも、それに耐える船体がカールスラント本土のドックじゃ、たとえ拡充しても、建造が無理だったから、変更されたはず。この世界の扶桑はどうやって……」
「元は400mが検討されていたのよ」
「あなたは?」
「広瀬世羅・バルナック。……そうね。階級は大佐よ、本当は」
「た、大佐!?何故、階級を詐称しているので?」
「詐称しているわけじゃないわ。源田司令が佐官級の独占という内外の中傷が多いのに配慮しての措置でね」
セラは『紅海の魔女』との二つ名を誇った手練であり、圭子の小学校の後輩、黒田の同期かつ、戦友に当たる。紅海戦線で黒田とスコア争いを演じ、母親が外国人、父親が陸軍高官というオリエンタルな混血の出自の士官である。階級を偽っているのは『源田実の政治的な配慮によるもの』であり、本来は既に大佐である事を伝える。
「だから、大尉と公称を?」
「そのほうが一般人は納得するのよね。扶桑じゃ、佐官級のエースは少ないのよ。だから、伏せられたのよ」
扶桑は下士官~尉官にエースが多い。昇進速度が遅かった関係であったが、佐官級が指揮官級であるのは知れ渡っていたので、64Fは(各世代のエースを集めた都合もあるが)佐官級が明らかに多いので、扶桑の一般人にも、紙上で疑義を呈されていた。そのため、セラの本当の階級は意図して伏せられた。(一時は隊長代理であった事も含めて)
「あなたが隊長代理であった事も含めて、ですか?」
「参謀本部の一部の独走でもあるから。私は隊長の指示で、留守部隊の様子を確認しに戻ったのよ。あなた達に手伝ってもらう事もあるから」
「??」
B世界の三人は首を傾げる。セラは三人を連れて行く道中で説明していく。三人を連れ、映画撮影所へ連れて行くと告げて。TVが普及していないこの時代、ニュース映画が盛んであり、そのための欺瞞と『カールスラントの顔を立たせる』ことを兼ねていた。カールスラントはこうしたニュース映画で復権を目論んでおり、こうした動員は国家間で同意済みの事項であった。
――日本の政治家は扶桑が『武装で生存権を勝ち得た』国家であることに怯え、その牙を抜こうとしたが、結局はその武力を利用する方向にシフトチェンジ。日本国単体は『斜陽を迎えた国家』だが、国家が感知していないモノは21世紀時点でも世界最高レベルを保っている。ヒーローたちやヒロインたちもそれである。プリキュア達はダンスもこなせるため、ウマ娘たちによるコーチングでより完璧に仕上げる事になり、通信講座でそれが行われている。日本が『ルミナスウィッチーズ』計画に消極的であったのは、軍内で窓際族である魔女達に『時代相応のダンスを一から仕込むよりも、アマチュアの範疇とはいえ、相応のパフォーマンスを持つ(21世紀最新のダンスができる)プリキュアをプロ級にまで引き上げたほうが効率的では?』と判断し、意図的に予算をルミナスウィッチーズの再結成に割かなかったことで証明されているが、現場の強い要望で1947年度から予算が通るようになり、二年後の時点では、ルミナスウィッチーズは『曲技飛行隊』に格上げとなり、活動を開始していた。だが、戦中の扶桑では社会の空気的に、ルミナスウィッチーズの活動が難しいため、実際に『戦場で一級の働きを示す』者が芸能活動を兼業する分には文句が出ない扶桑の風潮を鑑みての措置が取られた。遠征軍のプリキュアがミュージックビデオなどを撮影されているのは、その一環でもあった――
――キュアドリームは世間への露出が多くなされた『初期のプリキュア』であったためか、遠征軍の主力とされ、副次的にミュージックビデオも撮影される見通しであったが、変身者の夢原のぞみは『音痴』(絶対音感持ちなので、エアギターはできるのだが)であった。その事実に頭を抱えた遠征軍だが、ウマ娘のナリタブライアンが(自分の大望を果たす目的で)彼女と精神を入れ替えた事を『これ幸い!!』と言わんばかりに、ナリタブライアンに協力を要請。ブライアンはこれを(自分のわがままを聞いてくれた礼として)受け入れ、自身の持ち歌『シャドーロールの誓い』、『BLAZE』を歌い、ミュージックビデオが撮影された。使ったフォームは『シャドーロールの誓い』が通常フォーム、『BLAZE』が(のぞみAの)最強形態『エターニティドリーム』であった。――
――その動画は防衛省も噛んでいたため、ある週末に動画サイトで『扶桑国防省公認』という謳い文句で公開された。現役時代は音痴で知られたキュアドリームが見事に歌い上げている様は、古参のプリキュアファンのみならず、後輩のプリキュア達をも驚愕させた。ただし、既にウマ娘世界との交流ができていたため、歌い方で『ナリタブライアンがドラえもんの道具で入れ替わっている』ことに気づく『コアな音楽マニア』もいた。扶桑の一般人(とりわけ、中高年層)の持つ『力のある者はすべからず、各分野の先頭に立つべき』という価値観のせいで『戦闘能力はともかく、芸能分野では素人である夢原のぞみにやらせた』という批判もあったが、日本連邦軍の志願数増加の思惑は成功を収めた。動画はシリーズであると予告されたため、話題を呼んだ。楽曲やダンスがウマ娘世界でのものだった事から、ウマ娘たちが絡んでいるのは明らかである事は周知の事実となった。協力クレジットにも『トレセン学園』の正式名称が載せられていたからだ。もう一つは『BLAZE』での『シャイニングドリームをより滑らかにしたような姿の新フォーム』のお披露目であった。『5』の活動初期の頃の力の象徴であった蝶モチーフのゆったりとしたデザインのコスチュームである『ドリームキュアグレース』と違い、『自前の最強形態であったシャイニングドリームをより発展させた』姿である『エターニティドリーム』は『独自性を保っている』と評価された。シャイニングの方向性を極めた滑らかさを持ち、天馬座と射手座。双方の神聖衣を思わせる『神々しく、滑らかな形の翼』もアクセントとなる『新フォーム』は話題を呼ぶわけだが、その謎を日本側に提示し、上手くプリキュア関連の話題を呼ぶことこそ、扶桑国防省の狙いであった――