――1949年の盛夏を迎える頃、魔女の世界は日本連邦がその中心になり始めた。欧州は衰退の様相を濃くし、日本連邦が相対的に栄え始めた。扶桑は国土の強靭化と軍備の近代化を両立させるため、財政的にはカツカツの状態であった。日本は『植民地より本土をどうにかしろ』と言い、扶桑は怒鳴り調子で言われたが、扶桑は関東大震災が起こっておらず、代わりに東南海地震が起こった世界なので。どの企業も南洋に主力工場を疎開させている有様。そのため、日本が出資し、関東一帯の再開発を促した。(その際に浅草十二階は日本に買い取られ、耐震補強の末に、日本のある地に移築されたという)扶桑の軍備刷新が遅れているのは、工業力の少なからずを国内のインフラの近代化に費やしているからであった――
――地下秘密工廠は増強され続けつつ、フル稼働状態であった。陸海空宇の装備を生産しつつ、地下都市を築いているのだから。地下都市は表向き『ジオフロントの実験地』として公表されているが、工業区間の70%は軍の工廠であり、そこで各装備が自動工場(ゼントラーディの持っていた自動工場の設備を移設)で生産されている。とはいえ、その多くは前線で消耗されるため、なかなか数の増加には繋がらなかった。既存の製品の多くがダイ・アナザー・デイの際に処分された弊害であった。くろがね四起もその影響で、稼働数はごくわずかに減っており、1949年にはジープ系の車両にほとんどが駆逐されている。扶桑は元々、ジープを基にしての『四式小型四輪起動車』を1944年に開発済みであったが、日本とアメリカの圧力で量産はされず、結局はジープそのものがライセンス生産、ないしは鹵獲品の再利用が推奨され、実行された。くろがねはその煽りで、急激に数が減少。少数が日本に渡り、戦争映画の撮影用に出回った個体以外の行方は釈然としないという結末を迎えた。対して、ジープは1940年代の軍用車両としては最高峰に近いため、扶桑でも瞬く間にキューベルワーゲンを駆逐するほどに人気となり、支給を望む部隊が多かった――
――64Fはその中では最も先進的な装備を有しており、自衛隊の車両を公然と使用している。他部隊にジープが行き渡り始めた中でも際立っての『贅沢』をしていた。警備要員の持つ銃も(歩哨の物以外は)自衛隊の現用品であり、自衛隊との連携を前提にした構築がなされている――
「あの、1940年代にしては……その、オーバーテクノロジーすぎません?」
「宇宙移民時代を迎えた『別の世界』の技術で造られた地下空間だもの。その技術で軍需品を大量生産しているわ。もっとも、前線での消耗のほうが尚も多いけれど」
キュアエトワールが案内された地下工廠。そこはゼントラーディの自動工場を改修し、プログラムを古今東西の地球製兵器のそれに切り替えられた自動工場が休みなく、各種の兵器を生産していく。陸軍の軍用車両とコンバットアーマー、空・海軍の各軍用機(VF、TMS含む)、艦艇……。人の手による細かい仕上げ以外は全自動である。
「相手、この世界のアメリカですもんね」
キュアミラクルも相槌を打つ。
「よく拮抗できているものよね」
リベリオン人も、必ずしも全員がティターンズの傀儡政権に従っているわけではない。それが幸いし、扶桑は均衡を保っている。
「私たちが戦うべき敵は多い。この世界のアメリカ軍はその内の一つよ。彼らは国家の中枢を牛耳った者達に駒にされているだけだけども、打ち払う必要がある」
「この世界の日本がやられますからね。この世界の日本は違う歴史を辿ってきたのに、史実と同じ流れに『矯正』しようとする連中の多いこと……。そもそも、信長が幕府開いてる世界ってのに」
「つまり……ここは織田信長が本能寺の変を免れた世界だと?」
「森蘭丸の奮戦で生き延びた世界というべきね。本能寺の変そのものは起きたから。違うのは、信長の死後、信長の息子や孫に代わって、秀吉や家康が強権を奮ったってところ。で、史実より速い段階で近代化していったけど、近代国家の完成は史実通りに明治元年になった世界。で、魔法つかいじゃないと対抗できない怪物がいて、それが歴史上のいくつかの大国を滅ぼしてきた世界。中国もそれに入ってる」
「え!?」
「いくつかの要因がわかってるからね、あの国の場合は」
怪異に滅ぼされた『明』。その要因にはある時代以降の中華帝国の難点がモロに表れてしまったという民族の悲劇があった。1940年代には、歴代の中華帝国の存在は扶桑やモンゴルの過去の記録でしか参照できないため、欧州には存在が知られておらず、マルセイユでさえも『諸葛孔明を知らない』という有様であった。(マルセイユ本人は後に、『滅んだ国家の軍師くらいで、なぜ叱られるんだ!?』と不満を漏らしたが、流石に諸葛孔明を知らないのは色々と不味いのも事実だった)プリキュア達は『自分達の知る歴史では当たり前にある国が、魔女の世界では既に滅んでいる』事に衝撃を受けるのが恒例行事となっているが、キュアエトワールも例外ではない。
「日本は海があったから、無事に20世紀まで存続できた。そして、代々の強力な魔女が混乱を収めてきた。だけど、魔女ありきになってきて、それはそれで問題が起こってきていたところに、違う世界での宇宙戦争で負けた側の軍隊の連中(ティターンズ)が大規模に流れ着いてしまった。その連中がアメリカを抑えてしまった。それを倒すために派遣された『勝った側』の陣営(旧エゥーゴ/カラバ)と、この世界の日本は手を組んだ……」
「でも、なんで戦争に加わる必要があるんですか」
「法律の色々な兼ね合いと、のぞみやみなみ、響……他の子達も……この世界の住民に転生していた関係なのよ。しかも、魔女である都合上、みんな軍人だったから」
「そう。のぞみちゃんなんて、記憶が戻った途端に、昔の姿に戻ったっていうし。だけど、当然、それまでの生活があったから」
「俗に言う転生系みたいなことが現実に起こったんですね?」
「ええ。その関係で、軍隊が身元引受先になっているの。それと、違う世界と交わったことで、この世界も混乱が続いている。特に日本は『史実と同じ目に遭ったほうが繁栄するから』って理由で、敵に情報を売る連中が山のようにいる」
「だから、あたし達みたいなのが重宝されるの。一般の部隊に手柄を立てさせるのは政治家連中が嫌うからね…。この世界の労働人口の多さのおかげで、不況から立ち直ったのに」
扶桑と日本は政治的には連合を組んでいても、一枚岩ではない。特に軍隊は自衛隊の補完ができる程度にまで縮小を図る日本と、将来的な大陸領奪還を目指していた扶桑では相容れない点があり、日本は陸軍から重点的に縮小しようとした。だが、太平洋戦争で『現状維持』をせざるを得なくなったため、兵器の扶桑への輸出を認めた。とは言え、史実戦後がそうであるように、陸軍は予算的に冷遇傾向にあるため、実際の陸戦の重要戦力は多くの場合、64Fの人員であった。日本は少数精鋭を是とするため、64Fの一騎当千ぶりは大歓迎である。扶桑軍は1945年頃からは『如何にして、日本の財務当局を煙に巻くか』に血道を上げている。そのために64Fの存在を用いているのである。
「それで、他の部隊から睨まれたりするからねぇ。日本の財務省は出費ばかり気にするから、うちらを酷使してんだよなぁ……」
64Fはダイ・アナザー・デイをヒーローと連邦軍、日米英の支援で戦い抜いた。だが、それは裏を返せば、他の連合軍の部隊の支援がなかった事の表れであった。当然ながら、クーデター後に『粛清』とまで言われた苛烈な人事が実行されたが、それが却って、64Fに負担がかかる結果となった。左遷を免れた魔女たちが萎縮してしまったからで、個人的に64Fの幹部と親交がある者が幹部である部隊しか支援していなかったので、軍上層部は『扱いにくい』との評価を下し、極秘裏に兵科の解消の検討を進める。それはY委員会も承知しており、兵科章は将来的に『特技章』として使用する事などを詰めている。竹井少将(竹井の祖父)が死した後に速やかに実行し、一定の猶予期間を設けることが協議されている。これは魔女の教育の長期化への完全転換には十年単位の時間を要する事、菅野のように『促成教育で軍に入った世代』が多数派である時代であったからである。
「私たちは常に前線に送られる関係で、使う道具に特権を持つ代わりに、ありとあらゆる場で成果を挙げることが求められてるのよ。だから、乗り物も普通に使うわ」
「うん。色々とアレだけど」
YF-29が並んでいるところで立ち止まる一行。幹部の専用機である。既に『ほぼ同等の性能になった』とされるVF-31AXが開発されていたが、『形状が好みではない』という事もあり、YF-29のさらなる改良と増強がなされた64F。その結果、ある意味、⊿小隊やS.M.Sよりも豪華となった。これはフォールドクォーツが大量に貯蔵されている惑星が銀河連邦内で複数が発見され、増産が以前より楽になった事による。地球本星ではVF-19が『今度こそ』普及しており、前進翼のほうがデルタ翼より予備パーツの調達が容易であるという事情も大きい。
「流れ着いた連中の元いた世界で普及してる兵器の一つ『可変戦闘機』。昔のロボットアニメの奴をそのまま作ったようなものだけど、私たちはその中の最高峰を使える権利がある。のぞみは資格を取ってるわ」
「えぇーーーー!?うっそぉ!?」
「転生して、違う人物として生きてた時に、軍でテストパイロットしてたんだって。昔の姿に戻った後もその技能が残ってるから、こんなのを動かせるんだって」
「響やラブも資格を取ったわ。まぁ、この部隊、一応は空軍の部隊だから、戦闘要員はパイロット資格必須なのよ」
「前に言ってた……教師にならなかったんですか、のぞみさんは?」
「なろうとはしてたよ。予備役になって。だけど、日本のある官僚の独善と暴走で話を潰されてね。国際問題になりかけたんだ。で、日本が提示してきたのが『軍で出世させて、補償金も出すけど、正規の教師には出来ない』って奴だよ。で、呑む代わりに補償金を吹っかけたってわけ。プリキュアだから、相場の倍以上の金額にしろって言ってやったよ。忙しいドリームの代わりに、文科省やら外務省、厚労省に怒鳴り込んだよ」
キュアミラクルはその事件の際に、日本の厚生労働省と文部科学省、外務省にドリームの代理で怒鳴り込んだと注釈を入れる。プリキュアがものすごい剣幕で怒鳴り込んだ事は前代未聞の事態であり、その三つの官庁を大慌てさせた。その際に日本の当局側が恐る恐る提示した案が『今回の件を大事にしたくないから、軍で出世させて、補償金も出すけど、正規の教師には出来ないよ』というもので、当然、キュアドリームは難色を示したが、当局側は『職業軍人がそのまま正規の教職になるというのは……』とぶっちゃけた。文部科学省の内の反対意見、組合その他との兼ね合いもあるだろうが、戦前の頃は軍人がその階級を有したままで教職につくことは当たり前であった(東郷平八郎元帥や乃木希典大将など)ので、扶桑に戦後の価値観を押し付けるのは間違っていた。だが、既に扶桑の文部省に強く圧力をかけた以上、引っ込みがつかないので、キュアドリームには涙を呑んでもらうが、軍の中で好きにさせるというのが日本の当局の妥協点であった。結局、『希望金額の補償金の支給と教官資格を得る代わりに、前線で戦果を挙げる』という条件で折り合いが付き、そのための資材調達に口は挟まないとも明記されたため、地球連邦軍でも精鋭にのみ配備される機材が与えられたのである。
「その事件、結局は大事になって、昭和天皇に日本の三人の大臣が謝る事態になった。似て非なる国に、自分達の論理を押しつけるのは高慢だからね。で、うちの極めつけがここ」
「せ、戦艦大和ぉ!?」
ドックで整備中の海底軍艦轟天号。艦首にドリルがつく以外は戦艦大和であるので、キュアエトワールはあまりの衝撃に固まる。
「この世界の軍艦と別の世界の技術が組み合わさった最高傑作。海底軍艦・轟天号よ」
「ど、ドリルがついた戦艦大和じゃないですかぁ!?」
と、真っ当なツッコミを入れるキュアエトワール。とはいえ、これはまだ序の口である。ここからが64Fの裏の顔である『宇宙部隊』の真骨頂であった。
「う、宇宙戦艦だらけじゃないですかぁ!?」
クラップ級、カイラム級、D級にA級。地球連邦軍の現用艦艇の多くが並んでいる。ペガサス級もアルビオンタイプが数隻ほど鎮座している。ティターンズが発足当初に接収していたアルビオンの姉妹艦だろうか。グレイファントムタイプが無いのは、デラーズ紛争当時に『欠陥』が露呈し、増産が止まったからだろう。ペガサス級の最終型であるアルビオンはワンオフと思われていたが、実は記録にないだけで、ティターンズが極秘に姉妹艦を抑えていたのである。実戦に使われず、ペガサス級そのものの減勢の時代を迎えた時に発掘され、近代化改修の後に64Fに与えられた。そのため、かつてのアルビオンと違い、主砲や機銃などはカイラム級/クラップ級以降の世代の規格品に変わっている。艦名もついていない名無しの権兵衛であるが、ペガサス級に相応しい名が検討されている。
「うちの部隊の秘密がこれ。宇宙艦隊なのよ、実態は。それも波動エンジン装備のね」
「は、波動エンジン!?あの大昔のSF漫画の!?」
波動エンジンも小型化が進み、内惑星巡航艦にも搭載できるようになったため、デザリアム戦役後にはカイラム級~ペガサス級までの重要な艦種の艦艇に近代化として搭載され初めている。波動エンジンの強大な出力に耐えるため、船の構造も作り変えがされているため、同じなのは外観のみという船も多い。アルビオンタイプもそれで、主砲と副砲はD級以降に採用され、巡洋艦用のショックカノン砲塔になっている。エンジンは雷撃戦用の高速巡洋艦用のものを二基に換装され、以前より遥かに機敏な機動を取れる。ジオン艦艇へは圧倒的な優位性となる。
「これらを使うことは滅多にないけれど、敵にも宇宙艦隊があるから、抑止力としても機能してるわ。それに、火力支援に有効だから」
64Fの持つ武力は抑止力的な側面も大きいが、宇宙艦隊の存在をちらつかせ、ティターンズ本隊の動きを抑止するのに有効であった。ティターンズの艦艇は多くの場合、サラミス改やアレキサンドリア、マゼラン改と、地球連邦軍では既に置き換えの進む旧式艦であるからだ。更に言えば、デラーズ紛争直後の連邦軍は空母が不足しており、ペガサス級もティターンズは数隻しか持たぬ有様であったという。そのため、旧式のサラミスやマゼランを使い回すしかなく、アレキサンドリアの大半はコロニーレーザーで戦没済みであったので、残党はシンパから艦艇の融通を受けるという窮状にあり、ティターンズ系艦艇の横流しが警戒されている。とはいえ、ティターンズ系の艦艇はマイナスイメージから、現存数は限られており、ドゴス・ギアの(記録にない)同型艦の有無が調査されている。
「まぁ、滅多にあるものでもないわ。次の区間にいくわよ」
「次はなんですか?」
「そうね。スーパーロボット置き場…とでもいうべきかしら」
「す、スーパーロボットぉ!?」
「さっきから、!?つきぱなしだよ、ほまれちゃん」
「状況に頭がついていけなく…」
「あ、次の区間には、あたしの自作中のロボも置いてるから」
キュアミラクルはサラッと言う。
「え……みらい、魔法つかいだよね?」
「魔法つかいだからって、呪文でどうにかできない事もあるからね。この世界に来てから、プログラミングとか、メカの設計をかじったんだ。宇宙戦艦ヤマトの真田技師長に教わってね」
朝日奈みらいは転生後、暇つぶしにロボットアニメを見ていく内に、メカに興味が湧き、真田志郎に教えを請い、地球連邦工科大学の講義を受け、気がついたら、アナハイム高専に一発合格できるほどの知識を得ていた。更に(トチローの先祖である)大山敏郎技師(真田志郎の同期で、ファントム・F・ハーロックの親友であった技師の末裔でもある)にレクチャーを受け、武器の資材は敷島博士から調達するという豪華絢爛ぶりである。この時点では工科大に主席入学し、早くも将来有望と評価されるに至っている。その副産物で魔法の演算能力も上がっている。
「この子、主席入学よ」
「し、主席ぃ!?」
「昔は母親の仕事の手伝いがあったから、国際科だったけど、今は好きにできるし、博士課程取れれば、給料も良くなるからね」
転生/転移後に改めて、大卒の資格を取ろうとするプリキュアは多い。統合士官学校の時点で短大卒の扱いだが、四年制大学の資格を志向するプリキュアは多い。佐官になる見込みがある者も多いため、多分に箔付けの面があったが、博士課程は扶桑では黎明期であったため、地球連邦の大学院に入る事になる。みらいの場合はロボの制作をするために工学博士号を取得するようなものだが、真田志郎の許可をもらい、64Fの持つ兵器の改良プランを既に出している。
「うーん……私はスポーツ選手だったからなぁ」
「大丈夫、のぞみちゃんもパイロット資格取れたし、ラブちゃんも取得したよ」
「なにで練習したの?」
「何、ちゃんとした練習機だよ」
そこはきちんとしているため、ドラえもんに頼んで、自衛隊の練習機をコピーしてもらったという。連絡用の機材は旧式化した紫電改なども用いているという。
「上は余ってたプロペラ機を練習機に格下げしたかったようだけど、操縦訓練の都合もあって、自衛隊と同じものになったわ。あなたも乗る事になるわ」
「みんなやってるんですか?」
「アラモードの子らを除いてね」
キュアムーンライトも続く。プリキュア達の適性確認も兼ねているのだが、転生先で既に要員であった者は『実戦機で練習した後に、ローテーションに復帰』という手法を取っている。のぞみやシャーリーなどはこれになる。意外に乗り物が得意なプリキュアは多いが、逆に、乗り物がダメな例もある。キュアパッションがこれだ。
「わたし、居候先でロボットアニメにハマっちゃってさ。モフルンもびっくりでね」
「魔法つかいがロボットアニメって……」
引き気味のエトワール。だが、人間、どこでどうなるかはわからない。のぞみが魔女とプリキュアを兼任し、ガンダムXのパイロットになったように。
「……あ、黒江さんからメールだ。なんだろう。え、えーーーー!ゆ、ゆりさん!!見ました!?」
「見たわ。また、新しい転生ね。まさか……」
「どうしたんですか?」
怪訝そうに二人に尋ねるエトワール。
「うちの部隊にいる子が新しい能力に目覚めたみたいなのよね。隊長が確認するそうだけど」
「その子、元はまた別の世界の魔法つかいだったんだけど、それとは違う力みたくて」
それは遠征先で『高次物質化能力』…、ある世界の言い方で『HIME』と『乙HIME』と呼ばれた能力に目覚めたティアナ・ランスターのことである。黒江曰く、空中元素固定能力を覚えさせて、その能力を使っていた頃の容姿を取らせるとのこと。アルター能力の近縁種なのだろうか?と黒江は考えているようだ。
「あ、次のメールだ。時空管理局への気遣いもあるから、パットン大将を動かすと」
「ホイホイと軍籍を偽装するわねぇ。まぁ、姿を変えるのだから、仕方ないけれど」
ティアナ・ランスターはこの頃には時空管理局の籍も復活しており、執務官の資格を得られた最後の局員となっていた。その能力を使えば、空戦能力があるので、時空管理局の顔を立てる必要が出たとも。
「あ、その本人からもメールだ。添付ファイル付きだ。珍しいな」
ティアナ本人からもメールが届いた。先のメールから半日後の撮影という写真が添付されている。ティアナ本来の容姿と違い、黒江本来の姿のようにショートボブの髪形、2000年代の萌えキャラのようなアホ毛、圭子からもらったマフラー、ティアナ本来の気難しそうな顔つきではなく、包容力にあふれてそうな雰囲気を醸し出していた。
「えーと、前世の姿を取る事になって、日本名を名乗ることになったそうですね」
「新しい名前は?」
「前世で名乗っていたっていう『鴇羽舞衣』を使うそうです」
服は扶桑陸軍時代の巫女装束だが、そこから変身して、シンフォギアのようなものをまとうとも書いている。それが新しい能力で、属性は炎という。
「炎使い、多くなりましたねぇ」
「ええ。逆に氷使いがいないわ」
「ダイヤモンドしか……」
「ビューティーがいないから、そこは仕方ないわ。それに、ダイヤモンドダストとオーロラエクスキューションで事足りるのも事実だから」
プリキュアの多くは聖か光属性であるので、水属性は少ない。更に氷属性であると、ダイヤモンドとビューティーの二名しかいない。とはいえ、高度に鍛えれば、ダイヤモンドダストとオーロラエクスキューションを撃てるので、それで事足りるのも事実だ。
「炎使いが多いって?」
「ドリームが炎使いになってる関係もあるのよ。あの子、転生先の家が日本神話に由来を持つ古武術の宗家で……炎を使うのよ」
「……は??」
キュアドリームが前世と決定的に違う点。それは転生した先が草薙流古武術を継承する宗家のような位置づけにあった点であり、素体の中島錦は長姉に代わって、次期継承者候補であったことだ。パワーアップ後のキービジュアルは『青い炎』であり、強大な炎を扱える証となっている。キュアエトワールは耳を疑うが、ドリームが変わったと言える最大の特徴がその炎なのだ。
「プリキュアと関係ないような……」
「変身した姿で奮うのだから、プリキュアの力も同然よ。りんを守るために選んだ力だもの、それは。この世界での草薙の剣の真実でもあるらしいわ」
「じゃ……のぞみさんは……りんさんを守るために、ヤマタノオロチを祓った力を手に入れたんですか…?」
「そうなるわ。焔と雷こそ、草薙の剣の真実。この世界ではそうなっているわ」
「どうして、また……」
「長くなるわね、これを話すと。のぞみの前世にも関係してくるから」
のぞみが何故、草薙流古武術の継承を選んだのか?りん(キュアルージュ)が前線に出るのを嫌がるのか?その事の答えは前世の不幸由来のトラウマにあったし、デザリアム戦役での非道のテロ集団『ヌーベルエゥーゴ』の活動とも関係してくる。そして……。
「どういうことですか?」
「あの子は後半生に不幸が重なった世界線の出なのよ」
のぞみが荒れ狂い、肥大化した憎悪を見せたデザリアム戦役。その出来事の根源に触れる必要がある。そう、キュアムーンライトは告げる。そして、それはHUGっと組であるエトワールには複雑であろう出来事であるとも……。真剣な顔になるムーンライトに、思わず何も言えなくなるエトワールであった。のぞみが求め、継承を選んだ草薙流古武術の存在についても説明がなされる。何故、天叢雲剣の伝説と矛盾する『焔』の属性を持つのか?そして、ヤマタノオロチを断ち、その後に武術が二つに分かれた事も。それこそが魔女の世界最大の謎だと。草薙流古武術とは?そして、のぞみが荒れ狂ってしまった理由が夏木りんの身に起こってしまった出来事であり、彼女はのぞみとも別の世界から現れた存在である事も伝えられた。のぞみはそのことで悩んでいたのだと。りんも、自分はのぞみの知る自分ではないことに苦悩しており、お互いに気づかいあっていたのだと。流れ的に、のぞみが狂ってしまう事のきっかけを察するエトワール。その引き金を引いた存在こそがテロ組織なのだと…。
(テロ組織を潰したってことだよね?立ちふさがる者は倒すのみ…か。はなが聞いたら、なんていうんだろう)
とはいえ、非道な行いをするテロ組織に慈悲はかけるべきではないのも事実である。はながその場にいれば、自分達のやろうとしている事の善悪の相克に悩むだろうと考えるエトワール(ほまれ)。だが、世界はけして、優しい事ばかりではないのだ。フィギュアスケート選手時代の自分がそうであったように。エトワールはそう考えた。