ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

533 / 787
前回の続きです


第四百七十六話「留守番組の状況 2」

――VFは未来世界では普遍的な兵器であるため、輸出規制も軽い。VF-1EXもその一つ。近代化改修型の最新型であるが、外観は変わっていない。機能的アップデートは重ねていても、だ。プリキュア達の練習機として扱われているが、実戦装備は可能であり、原型機と違い、大気圏内でもスーパーパックが使用可能である。そのため、全機がスーパーパック装備で出撃しており、敵のハイザック部隊はVFの変幻自在の戦術に翻弄され、ドダイごと撃墜されていく――

 

「まさか、三形態に変形するロボットを使うなんて。だけど、これも仕事だから、悪く思わないでね」

 

ハイザックは旧式のチタン合金で装甲が構成されている。ジェガンよりも前の世代のものなので、ジムよりはマシ程度の強度しかないので、VFのガンポッドを防げる道理はない。キュアミントは照準に入ったハイザックへ、ガンポッドと頭部レーザー砲を同時に発射。ハイザックはたまらずドダイごとはたまらず蜂の巣だ。

 

「見かけは旧型でも、中身は最新型っていうのは本当ね。18m級のマシンを蜂の巣だなんて」

 

「こいつは練習機にするのはもったいないくらいですけど。幹部は最新型を乗り回してますからね」

 

「あなたはどうなの、ミラクル」

 

「私は機種転換訓練中ですって。VF-19系か、31系か…」

 

ミラクルはプリキュアの中では最も適応能力に優れており、VF-19の講習を受ける権利を得ている。AVF系以降の機体に乗れる=手練の証のようなものなので、魔法つかいの看板の割に、意外に癖のある機体にも乗れるのである。

 

「自分でも作ってるんですけど、その勉強ですね。マジカルにはラグナメイルありますけど、私は作る必要ありますし」

 

「でも、彼らは連邦軍の一部だったのに、なんで、ザクみたいな外観の機体を持ってるんですか?」

 

「示威効果を狙ったって話だよ、レモネード」

 

VFの反応速度はグリプス戦役当時の量産MSより速いため、その間にも、ドダイから飛び、斬り込もうとした一機がミサイルの直撃でバックパックを損傷し、不時着する。

 

「この世界のアメリカ軍を操ってる割に、未来兵器を小出ししてこない?」

 

「敵は補充が難しいからよ。数年前の戦いで損耗しているし、転移していた戦争博物館のレプリカに武器を持たせてるって話も聞いてるわ。陸戦型ガンダムの目撃もあったらしいけど…」

 

キュアマリンはこの時が初参加であり、相棒のブロッサムが産休であるので、その代打も兼ねている。アフリカ戦線では、一年戦争の時の陸戦型ジムや陸戦型ガンダムの目撃があり、ルナチタニウム合金の装甲は当時の魔女たちのあらゆる攻撃を寄せ付けず、恐れさせたというが、ダイ・アナザー・デイでは目撃されていない。博物館級の機体である事による予備パーツの払底だろうか。

 

 

「他の部隊の手に余るから、早急にお帰り願うわよ。第二次世界大戦のプロペラ機に一年戦争の戦闘機は無理ゲーだし」

 

「確かに。でも、隣は何で戦ったんでしょうね」

 

「烈風の爆撃装備だというけれど、戦術ミスね。せめて、ハチヨクあたりで行ってれば」

 

F-86なら、まだやりようがあるが、烈風で戦うのは『農民が騎馬武者と戦うようなもの』である。ちょっとわかりにくいが、それほどの差があるのである。とはいえ、烈風が生き永らえた理由はマルチロール化であるので、格が違いすぎたと言うべきか。連山の管制機仕様も配備されているので、比較的有力な部隊が前衛に配されていたのだが、MSの力で敗退したのだろう。

 

「これでジェット機の配備、進みますかね」

 

「たぶん。本土の部隊が優先されてるから、F-86がくればいいほうだと思うわ。20ミリ機銃の仕様だから、火力不足はないし」

 

「うちはそれを考えると、ものすごーくゼータクじゃん?」

 

「ええ。普通の戦闘機でも、今はF-14以降の世代が普通に使えるもの。隊長はクフィールに惚れたみたいだけど」

 

「米軍以外の戦闘機を使うと、自衛隊に言われない?」

 

「綾香さんの趣味だろうって、現場は面白がってるらしいわ。クフィールなんて、イスラエルがミラージュをパク……もとい、コピーした機体だから」

 

64Fは個人単位で機体がバラバラなため、日本連邦の事務方に受けが良くないが、エンジンは基本的に西側諸国系のエンジンの系譜のもの(熱核反応タービンも西側諸国のジェットエンジンが基になっている)なので、整備性は安定している。

 

「でも、バルキリーを使えるってのはどうなのよ」

 

「まぁ、そこはコネがあるってことで。ウルトラメカを作ってるし、のび太さんの世界の日本。その彼らからすれば、バルキリーくらいは」

 

「ゲッターロボは?」

 

「あれはゲッターに適性がないと…。私はあったから、乗れたけれど」

 

ゲッターロボは生半端な訓練の兵士には扱えない。ネオゲッターロボでさえ、ゲットマシン状態の加速の時点で、肉体がグチャグチャになる兵士が続出したのだ。

 

「普通の人には無理ですよ。私たちがこの状態で乗ってでさえ、相応に訓練しないと、合体もできませんからね」

 

プリキュア達が変身した状態で乗ってでさえ、相応の期間の訓練を必要になるケースが多いため、それ無しで乗れた者は神隼人曰く、『見込みがある』とのこと。真ゲッター3(真ベアー号)を基礎訓練だけで扱えた伊賀利少佐は『適性あり』の人物なのだ。

 

「おっと」

 

その間に、ガンポッドでハイザックをぶん殴り、頭部メインカメラを吹き飛ばすキュアマリン機。イメージカラーは青であるが、水色に近い。青のプリキュアの異端児だが、ガイアに転生しており、意外なことに前職は教諭であり、ガイアでは(一応は)真っ当に生きていたらしい。

 

「マリン。なんで、ガイアから移住したの?」

 

「向こうの地球、軍事色が濃くなっちゃったから、教師やってても息苦しくてさ。前世の記憶が戻ったし、転生先の親は別世界のガミラス帝国との戦争で亡くなってるから、いる理由もないし、ちょうど担当してた教え子が卒業したし…」

 

キュアマリンは意外にも、転生先での両親をガイアが遭遇した天災で亡くし、軍事色がガイアで濃くなったことに嫌気が差していたといい、シリアスな理由で移住を決めたことを語る。キュアムーンライトが新見薫として転生を果たしていたことを知ると、そのツテで彼女がアースから呼び寄せた『宇宙戦艦ヤマト』に乗艦し、身一つでアースに移住した。これはガイアが移民星の独立問題で内輪揉めを始めた影響で世相が一気に軍事色に染まっていった事の表れであり、アースと正反対に、地球連邦政府が強権的である事の証である。

 

「アースも戦争続きだけど?」

 

「アースはまだいいじゃん。一般人にできるだけ戦争を感じさせないようにしてる分、マシだよ。向こうの地球は植民星の出身者を露骨に差別するからね。市民が」

 

アースは生存競争を何度も経た上、20世紀から宇宙からの侵略が相次いでいたために場馴れしており、地球連邦政府も人同士の戦争には嫌気が差していた時期さえあるのだ。それに比して、ガイアは火星との戦争の余韻が残っている内にガミラス帝国と戦端を開いてしまい、滅亡寸前に追い込まれていたという、自業自得な側面が大きい。アースの軍事力に嫉妬する一方、重要なはずの兵器のパテントを売り払うなど、どうにも宇宙時代に適応しきれていない節がある。戦いつつも、雑談を可能とするあたり、なんだかんだで、三人は歴戦の勇士であった。

 

「これでラストね!」

 

四機目がキュアミント機に撃墜され、護衛の戦闘機もほぼ全滅した敵はほうほうの体で逃げ帰っていった。三人は近くで不時着していた部隊の隊員らを拾い、隣の戦区にある基地に送り届けた。64Fの担当区の隣は港湾都市の防衛を担当する戦隊の担当だが、装備は些かの非力感があるもので、連山や烈風がある分、まだマシなほうであった。

 

「ここの基地は割にマシなほうだといいますよ」

 

「本当?」

 

「ええ。レシプロでも、新しめのがありますから。うちを宛にしてるから、上の連中は回りの部隊を弾除けにしてるって言われてますよ」

 

送り届けた先の基地は比較的に規模は小さいが、連山の発着が可能な程度の滑走路は備えていた。これは元々、レシプロ機と魔女の相互連携を想定されて整備されていたためらしく、急激な技術革新で現れた『ジェット機』の発着は想定されていない。そのため、ジェット機を使うには滑走路を延長し、その上でジェットストライカー用の促進装置を格納庫に設置しなければならない。

 

「任務、ご苦労。君達の機体は我が隊の整備班の手に余るので、その場に置いたままだが、了承してくれたまえ」

 

「ハッ」

 

基地の司令官がやってきて、社交儀礼的な挨拶を交わす。

 

 

 

64Fの整備班は在籍者の殆どがデザリアム戦役でのパルチザンの整備班の経験を持つために、未来兵器であろうが、余裕で整備ができるが、他の部隊はそうではない。そのため、64Fの極天隊は整備講習も行っている。史実の日本軍がそうであったように、整備力の低下でパイロットの死亡者が増えていったからだ。この時代、自家用車すら普及しておらず、その整備工場が各地にあるわけでもないので、エンジニア志望は多いが、メカニックが不足しているという有様であった。兵器が加速度的に高度化したので、中等教育も怪しい学歴が大半の兵士たちに高度な電子工学や機械工学を仕込む事の難しさが浮き彫りになった。また、多くの現場将校を日本側が『戦バカ』として排除した結果、今度は『上層部が現場の統制を取れない』事態に発展。64Fへ過度に依存する状況となった。そのため、多くの『書類上の編成だけが残っていた』魔女部隊がこの時期に『通常兵器の部隊』に改組されていった。空戦分野では特に顕著であり、第二世代理論の普及の遅れもあって、凡百の空戦魔女は戦争に関わる事そのものが減っていった――

 

 

 

 

――64Fの超人/一騎当千ぶりが報道されるという事は1940年代半ばまでの扶桑軍の『皆が英雄』という教育方針に反していたが、内輪もめで醜態を散々に晒していたため、42年(坂本らの全盛期)までの方針に一挙に回帰した。1949年の魔女の多数派はMATに属する者で、軍に残る魔女は『戦バカ』というレッテルを世間的に貼られる始末だったからだ。カールスラントに裏で『田舎者』と差別されていた事の発覚もあってか、世間は絶対的な英雄を求めた。それが64Fの面々を英雄として報道する事として具現化した。64Fは世代交代という壁を乗り越えて存在する『古今東西の撃墜王の巣窟』という事実は、恋い焦がれた技術立国の『カールスラントに裏切られていた』事に傷ついた扶桑には、何よりの精神的な慰めであったのだ――

 

 

 

 

 

 

 

――カールスラントは不祥事の相次ぐ発覚で評判が地に落ち、ドイツの強権的介入により、国家そのものが崩壊寸前に陥っていた。日本連邦の『恐るべし報復措置』で保有技術を尽く時代遅れにされ、経済的にも再起不能寸前、技術者は海外に流出していったからだ。そんな絶望の状況で始めた事は『人材派遣サービス』。長年の戦乱で人員の質が高いからこその発想であった。『日本連邦へ移住した熟練の魔女を日本連邦で戦わせることを認める』代わりに、カールスラントに人材派遣サービス代を払う事。その取り決めを発端に、1949年にはカールスラントの正式な国家事業になり、日本連邦に移住したカールスラント軍の魔女達も含めて、人材派遣サービスに組み込んだ。これはカールスラント軍の中枢を担うとされてきた俊英がドイツの介入に抗しえない事に失望し、日本連邦へ寄ってかかって移住していったため、戦争終結後に軍隊の立て直しに関わせるために、カールスラント軍籍を強引に維持させたというのが正確なところ。だが、永住権を既に取得していた者たちに関しては、任意となった。日本連邦とのいざこざの発端たる『ヘルマン・ゲーリング』は既に失脚したが、国自体に『高給取り』となったトップエースを養えるほどの財政的余裕はないからだ。国そのものが消滅寸前に陥ってからの立て直しは長い年月を要する。グンドュラ・ラルがなし崩し的に三軍の総司令官を務めるのは、最も統制が残っていたカールスラントの軍隊が空軍だったからである――

 

 

 

 

 

 

 

――1949年になると、カールスラントの再建も始まり、失業軍人達の再就職のための公共事業として、戦艦ビスマルクとティルピッツの近代化改修と修繕が行われた。ビスマルクの艦長であった『エルンスト・リンデマン』大佐は艦娘の存在の発覚で、艦長の地位を一夜で追われたが、『自分の考えを述べただけで、艦娘の存在の否定ではないのだ……』と(かなり苦しいが)釈明することで海軍には留まれたため、同事業の監督官に任じられた。ビスマルクは本来、『次世代の本格的な戦艦までの繋ぎ』目的の軍艦であったが、国家が崩壊寸前に陥ったため、実用性よりも『象徴』としての運用に移行。『ショールームの軍艦』と揶揄されていた。上位艦種のはずのH級は『鹵獲艦の修理』で済まされた上、既に超大和型戦艦が現れ、肝心要の火力が完膚なきまでに陳腐化していたビスマルク級は、純軍事的に色褪せた存在でしかなかった――

 

 

 

 

 

 

――既に、世界の趨勢は42cm~46cm砲装備の大型重戦艦に向かっていたが、重装備を持つ軍艦の維持費の捻出の問題がのしかかり、実際に建造にこぎつけた例はごく少数であった。ブリタニアは旧式装備の売却と処分と引き換えに、『クイーン・エリザベス』(Ⅱ)級をキングジョージⅤ世級の代替として整備、ロマーニャは旧式艦の解体と処分で得られた資金で『インペロ級』を整備。1949年までに戦隊を組める数を建造出来たのは、この二カ国のみ。他の国は戦時賠償や復興との兼ね合いで、建造計画が棚上げされた。日本連邦は戦艦保有数を減らし、空母や潜水艦を増やす意見が多かったが、魔女の世界における状況(回転運動を行う弾丸のほうがロケット弾より怪異へ有効であるなどの理由)から、結局は史実の最盛期における連合艦隊と同数の維持が採択された。それと引き換えに、紀伊型戦艦と加賀型が戦艦籍から外された。既に戦艦としての能力が陳腐化し、近代化改修をしても、第一線級の能力は五年と保てないと判断されたからだ。大和型を範とする重戦艦は財政屋からは嫌われ者だが、結局は敵が『重装備の戦艦を量産したから』という理由で、それらが量産に入り、大和型が一種のスタンダードと化する時代になったため、相対的に『安上がり』と見なされるという異例の事態となった。自動化で乗員が削減され、交代要員込みでも、史実の最終時よりかなり少ない事も、戦艦の運用継続の理由となった。(むしろ、イージス艦が大型化し、かつての重巡クラスの大きさに達していた事も、それらを束ねる旗艦の存在に大義名分を与えた)――

 

 

 

 

 

 

 

――歴代のプリキュア達の内、筆頭格と見なされていた夢原のぞみ(キュアドリーム)はウマ娘『ナリタブライアン』と体を入れ替え、彼女らの仕事である『チャリティーイベント』に出演していた。中島錦のキャラを演ずる必要があった事により、自然と鍛えられた演技力は相当なもので、ブライアンの無頼漢ぶりを表現できていた――

 

「引退する気は毛頭ない。新入生に見込みのある奴も出てきているんでな」

 

ブライアンは接触した時間軸の時点で不調に陥っており、史実での競技生活での『致命傷』は免れることになったが、肉体そのものの超科学での『修復』無しには『最盛期の力』を取り戻す事は叶わなかった。のぞみはエアグルーヴから『ディープインパクト』と『オルフェーヴル』(いずれも、史実で平成後期に三冠馬となる英傑)のことを聞いていたため、ブライアン本人からもヒアリングした上で、インタビューに応えていた。

 

「協会から、そいつらが育つのを見届けてからにしてくれと言われているんでな。姉貴の果たせなかった夢も果たしたいから、当分は現役だな、ハハッ」

 

ブライアン本人も(史実の記憶の覚醒で)かなり態度が温和になっているのを反映させた振る舞いだ。サクラローレルはブライアンに『獰猛なケモノ』であってほしいらしいが、ブライアン本人も『今はそんな態度は取れんよ』とぼやいており、全盛期に無頼を気取っていたことで『怪我をした後の振る舞いに不満を持たれるのは大いに困ること』である。

 

「ローレルは私をライバルと見てくれている。それは嬉しいんだが、全盛期の頃の振る舞いをしてくれと言ってもな…。あの時とは心境も変わったし、私も自分の力に溺れていたところがあるのは事実だから、大人になったと思ってくれよ、ローレル」

 

と、ブライアン本人の要望により、サクラローレルにそれとなく、釘を差してやるのぞみ。ブライアンは全盛期、無頼な態度で知られていたが、不調に陥った後は『もがき苦しむかのように、周囲とのつながりを求める』ように変化しており、周囲への態度は元から大きく軟化していた。

 

「歌はリクエストに応える形だな?えーと……神奈川県のM.Tさんからのリクエストか」

 

イベントで応募され、抽選で選ばれたハガキを読み上げる。そのリクエストのハガキには『New Frontier』と『エンジェルボイス』とあり、かなりのFireBomberファンなようであった。のぞみも上官である黒江が基地のジュークボックスで『死ぬほど』かけていたことから、その歌詞をバッチリ覚えており、歌うのは容易だった。

 

 

『♪Bran New Day 今がその時さ~戻れない昨日を捨てたなら、見えない明日も忘れろ~』

 

時間の都合もあり、最後のサビに入るところからであるが、『NEW FRONTIER』のメロディが始まる。元々、絶対音感があったのと、黒江によるトレーニングを数年続けている事により、現役時代より大きく歌唱力が改善され、(ブライアンの肉体のナチュラルにハスキーな声質もあって)、ウマ娘達に引けをとらないレベルに達していた。

 

『♪It's NEW FRONTIER~そうさ、オレならここにいるさ~鐘を打ち鳴らせ Woo Woo~It's NEW FRONTIER~そうさ、胸に勇気を灯せよ~おまえだけの夢を――……』

 

舞台袖で曲を聞いているエアグルーヴも感心するほど、ブライアン本人にかなり似ている歌い方であった。

 

 

「さて……次の曲が終われば、私か。あの曲を歌うのは久しぶりだな。ここのところはスズカの台頭もあって、ウイニングライブの先頭に立てていないからな…」

 

エアグルーヴは独白する。彼女はクラシック期には女帝の名を取るほどの活躍を見せたが、シニア期に入ると、生徒会の仕事の多忙、一期下だが、親友であるサイレンススズカの覚醒による台頭もあり、レースで勝つ事が減っていたため、持ち歌を歌う機会は減っていた。

 

(私も大学部への進学が見え始める年頃だ……。全盛期を過ぎたつもりはないが、年齢的には曲がり角と思われてもいい頃。そんな時に『子孫らの存在』を知らされるとはな。喜んでいいのかはわからんが……)

 

エアグルーヴの血は21世紀に入っても栄え、孫のドゥラメンテ、その子であるスターズオンアースなどが知られている。エアグルーヴ本人としては複雑な心境であるが、曾孫まで血が繋がっている(どんな功労馬であろうと、血が絶える事はままある)事は嬉しいことである。華麗なる一族と言われるのは気恥ずかしい上、史実での子である『アドマイヤグルーヴ』は自分の世界では『妹』として生まれてくる。そのため、その通りに家系図が紡がれるかは未知数であると言っていい。しかし、ブライアンが遭遇した『前世の記憶の覚醒』はエアグルーヴへは部分的にしか起こっていない。故に、ブライアンと違い、馬としての自分が『ウマ娘の自分』と同一の存在という認識には至っていない。(なお、ルドルフは既にその領域に達しており、テイオーを『自分の子』として見るようになっている)

 

(妙な感覚だが、自分の一族が褒められるのは……こそばゆいな。それにしても、ベロちゃんはやめてほしい……)

 

エアグルーヴは(競走馬が存命時の)当時の関係者などからは『ベロちゃん』と呼ばれており、甘えん坊であったとされていたり、『ギャル』なる渾名も持っていた。この逸話がエアグルーヴがウマ娘となった後に表れし『何かのタガが外れると、途端にトーセンジョーダンやゴールドシチーもかくやのギャルになる』という『本人も自覚が半分以上ない深層心理』の由来になったと思われる。本人は『今はウマ娘なのだから、ベロちゃんはやめてほしい』と思っているが、母親のダイナカール曰く、『あの子は実は甘えん坊なのよ』と漏らしていたりする。

 

(一曲目が終わったか。次は『エンジェルボイス』というものだったな)

 

その曲はしんみりする曲調であるが、のぞみは好きな曲であったらしく、かなり本気で歌っていた。通なファンはアコースティックバージョンを好むという曲だが、のぞみのがんばりもあり、かなり盛り上がっている。

 

(さて、久しぶりに初心へ帰るか……)

 

彼女の歌う曲は『EMPRESS GAME』。彼女のキャリアがまさに絶頂の時期に作曲されたもので、オークスでの勝利以降に歌っている。最近はライブの曲が協会の意向で決まっていたので、歌う機会が減っていたものだ。(これはブライアンの『シャドーロールの誓い』と同様だ)

 

(この世界で……私とお母様の子孫が栄えている意味……私達が走った足跡はどんな形であれ、残るということだろう。それがどんなモノか、この目で見定める!)

 

エアグルーヴはある考えに達し、ステージに立つ心構えを整える。それが『女帝』とまで謳われた彼女なりの『別世界で華麗なる一族と形容されている事』への回答であり、今、この場での覚悟であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。