――新京。そこは扶桑が近世以降に大国となる原動力を担った植民地中心都市。既にあらかたの開発は済んでいたが、戦争は再開発のいい大義となった――
「あなた、ジープ動かせるの?」
「戦闘機を動かしてるんだし、この時代にオートマはないよ」
基地からジープを回してもらった調A。ちょうど手隙の個体を回されたので、オリジナルのジープの塗装違いである。
「リベリオンから引き取ったタイプか。ま、どれも同じようなもんか」
この時期には扶桑軍も大量に鹵獲、あるいは自国でノックダウン生産した個体を使うようになっていた。64Fの隊員も運転技術を取得しており、足に使っている。
「戦時中のモデルね。どこの会社の個体かしら」
「それはわかんないね。この世界の日本も使いだしたし」
マリアDは相応に知識があるようだった。翼Dはオートバイにしか興味がないのか、チンプンカンプンなようだ。
「ここからどのくらいかかるんだ?」
「ここから数時間で中心市街です。数百年は開発されてきてるんで、一番に近代化されてますよ」
クリスDはそこが気になるようだった。
「戦時中の日本に、こんな四輪駆動車作れたのかよ?」
「史実と違う経緯辿ったけど、有効性に気づいたの、最近なんですよ。それまではくろがねみたいな小型で済ませてましたし、多くの部隊はドイツのキューベルワーゲンを買ってましたし」
過去の501はキューベルワーゲンを公用車にしていた。幹部層がカールスラントの軍人であった都合もあるが、戦前は扶桑軍全体がカールスラントに傾倒していたからでもある。
「郊外は昭和30年代の日本って感じだな?」
「TVも普及してないし、モータリゼーションも起こってない頃の風景はこんなですよ。中心部は近代化されてきてるけど、末端まではまだまだですよ。人力車が普通に走ってますし」
「スバル360が出てからだものね、日本の大衆車文化は」
「オートバイもあまり見んな」
「この世界、エンジン付きの乗り物の大半は公共交通機関か、金持ちの道楽ですから。長距離航空便だって、払い下げの九七式飛行艇だし」
未来世界との交流で近代化された箇所もあるが、時代相応の箇所は数多く残っている。高級旅客鉄道も戦前のあじあ号が減勢しつつも、まだ現役で走っているように。
「あれはひいおじいさまの遺品の写真で……バカな、あじあ号だとッ!?」
「この世界だと、南洋横断鉄道の豪華列車なんですよ、あれ。私も出張の時に何回か乗ってます」
ジープの車窓から遠目に、高架の線路をあじあ号が華麗に疾走する様子が見えた。南洋は土地が広いので、線路規格が標準軌である。そのため、南洋は鉄道の実験場代わりでもあり、高速鉄道もあじあ号で実験できていたのだ。
「信じられん。史実だと、満州を走っていたと聞いている……」
「中身は土地相応の設備ですよ。常夏だから、暖房は冬でも殆ど使わないし」
「一般客は乗れるの?」
「三等で、他の列車の二等相当ですから、一般人はおいそれとは。乗れるのは華族や資産家の子弟、それと将校以上の軍人ですね。下士官の給与じゃカツカツになりますから」
「あなたは?」
「上官が重役の義妹だから、向こうがまけてくれるんだ。うちの隊の移動手段の一つだし」
「いいの?」
「うちの隊が防衛の要だしね。何より、天皇陛下肝いりのエース部隊だっていう触れ込みを宣伝してるから、向こうが便宜を図ってくれる。それに、公務切符だよ。それに、幹部は貴族院や元老院の議員兼ねてる」
「いいの?」
「ここは日本であって、日本じゃないからね。それでも、日本側に配慮して改革したんだよ、これで」
隊の幹部層は貴族院議員を兼ねていたり、あるいは元老院(枢密院に代わって配置された第三院。貴族院が史実の参議院相当の役目に転じたため)の議員である。
「元老院?」
「枢密院の後継ぎで、史実の貴族院と枢密院の長所の融合で生まれた第三院。有力者で構成されるから、多くは退役した中将以上の軍人」
元老院にも選挙はあるので、この時期に選ばれた議員は1940年代の前半以前から著名であった将官や総理経験者が多い。流石に、岡田啓介や鈴木貫太郎などの長老級は既に引退しているので、その後輩の世代の者たちだ。
「公務だと、車掌室便乗の時も多いよ。五時間くらいでつくけど」
「五時間だって!?長すぎねぇか!?」
「クリス先輩、時代考えてくださいよ。蒸気機関車ですからね、蒸気機関車」
蒸気機関車がまだ余裕で現役を張るのは時代相応だが、外国では既に蒸気機関車での200キロ級の高速運転を可能としており、だいぶ見劣りする速さではあった。扶桑は本土で実現できない故か、関心が薄かったので、高速鉄道の研究は史実と大差ない有様であったのだ。
「でも、戦前にマラード号が走ってなかった?」
「それはイギリスだからだよ。日本は山が多いし、土木技術の限界やら、土地の買収の都合、線路規格の都合とか、軍の装甲列車とかの兼ね合いで、高速鉄道の研究はあまり熱心じゃなかったんだ」
とはいえ、最近は新幹線の情報で自信を持ったらしく、最近はあじあ号(パシナ型)に代わる高速列車を日本から購入している他、新幹線を輸入し、研究を重ねている扶桑。日本は『南洋を走るパシナ型』にいたく感動し、数編成を購入し、動態保存したいという。
「でも、最近は新幹線の情報入ったから、鉄道の開発が活気づいたって。横断鉄道で何種類かの新幹線は試験運行されてるよ」
南洋横断鉄道がこの世界での新幹線の最初のユーザーとなった。パシナの内、初期から走っていた数編成を代替しており、車両ベースは200系となった。これは0系の仕様を見た扶桑の鉄道技術者が満足しなかったからという。(0系は外観はともかく、中身は開発当時に実証済みの技術で構築されており、良くも悪くも『既存技術のチューンナップ』であったため、扶桑の技術者の不評を買ったという)
「しかし、新幹線をよく、1940年代の世界で走らせようと思ったな、この世界のお偉いさんたち」
「別の世界から情報をタダで貰えるんなら、もらったほうが楽ですからね。製造設備なんてのは案外、どうにでもできますし、本土の再開発の方便にも使えますからね。この世界の東京に行った事あるんですけど、関東大震災が起こってないから、下町がゴチャゴチャで。災害に脆いから、再開発で戦後の姿に変える予定ですよ」
扶桑では関東大震災の代わりの大地震が東南海地震であるため、航空産業の中心は名古屋から移りつつある。京浜工業地帯などの史実の工業地帯の整備、東京にある『お化け煙突』で有名な発電所も閉鎖し、取り壊す予定である。
「関東大震災での区画整理がされてないのか、ここの世界の東京は」
「ええ。だから、江戸期の面影が残ったままでして。このままだと、史実の繰り返しになるから、再開発ですよ。何十年がかりで」
関東一円に至る再開発の狼煙が上がったのも、この頃(1949年)。関東一円を戦後日本準拠のメトロポリスに変えること。それが扶桑の戦争を大義名分にしての一大プロジェクト。そのコードネームはバビロン。これは黒江の発案による。
「しかしだ、月読。戦前の町並みを戦後のビル街に変えるなど、できるのか?史実では、焼け野原だったからこそ…」
「数十年はいるでしょうね。史実でも、80年代の終りには飽和状態に近くなりましたからね、東京のビルの数は」
この時点では、東京は旧態依然な町並みも多く残っており、扶桑の首都というには名前負けに近かった。だが、南洋は扶桑の資本が長年に渡って投下された上、頑強な地盤を持つことから、異世界の資本も投下されていき、気がついたら、東京、安土、横浜、神戸をも凌ぐ近代的な都市となっていた。この時点では紛れもなく、新京都市圏こそが『扶桑最大の都市圏』であった。
「高速に入りますよ」
「この時代に高速があるの?」
「ここは都市の実験場代わりでもあるから、建築されていたんだ。土地も広いしね」
南洋高速道路。地球連邦の手で手直しと延伸がなされ、有事にはジェット戦闘機の発着も可能な強度を持つようにされた。ドラケンなどのスウェーデン製戦闘機が採用された理由の一つでもある。作りも戦後日本式のものである。21世紀で普及し始めた自動料金方式ではないが、これはM粒子の影響で、自動料金方式に誤作動の懸念が大きいからである。当時は軍用道路の雰囲気が色濃く、軍用車両しか走っていない。これは戦時であること、自家用車が普及していないこと、時代的に大衆の移動手段として、路面電車が主流であることが理由だ。アウトバーンの模倣と言われているが、実際は有事に戦闘機の発着を可能とするために、予定より頑強に建築したのだ。
「それと、将来的に新幹線に切り替える手筈だって。路線の電化で」
「この世界は情報と技術のチートで、史実より早く進歩しようとしてるの?」
「遅れていることに気づいたから、かもね。魔女に関する研究が優先されてたから」
調の言う通り、魔女の世界(A世界)は貪り食うように、科学技術の吸収を試みている。魔女に関しての従来からの技術理論が頭打ちになり、『人同士の戦争が起こるようになった』という事で『通常科学技術の発達』が促された結果、魔女の世界の技術は急激に進歩した。他国も史実の1944年の夏時点ほどの水準に到達している。扶桑は更にその数十年先の科学技術をモノにしており、F-14の生産に目処をつけている。魔女の世界の国際連合は史実の国連と違い、『人類の生存圏の確保』という大義を掲げているため、固有の実行部隊を持つ。64Fはその一部とされている。
「でもよ、1940年代って、あたしらからすりゃ、100年近くも昔だぞ?技術をそもそも真似できんのか?」
「基礎研究の時間が省ける分、実用化は早いですよ。戦争は普通、数年で平時の20年分の進歩が起きますからね」
「それでも、地上では大八車や人力車が普通に走ってる。時代相応とは言え、遅れてるわね」
「アメリカと一緒にしちゃ、可哀想だって。T型の時点で、誰も彼も乗ってるんだし」
クリスとマリアは車窓から見える風景の格差に感想を述べる。
「月読、ギア姿でよく運転できるな?」
「まぁ、足は変形させてますし、普通の形に」
「気が付かなかったけれど、あなた……背伸びた?」
「気づいてなかったんだ……12、3cm伸びたよ。たぶん、師匠の因子が入ったからかも」
調Aは160cm半ばほどに背丈が成長しており、現役時代ののぞみ(159cm)よりも長身である。調Dが嫉妬しているのは、背丈が12、3cmも違うのも大きいのだ。なお、のぞみも転生後は前世での最終的な背丈になっており、162cmほどに成長している。
「師匠、私の姿を使ってるけど、170cm超えだし、転移してた時も165cmくらいあったから、私もその帳尻合わせで伸びたんだと思う」
「こっちのお前が拗ねてんぞ?」
「いやぁ、自分に拗ねられるの、これで三度目くらいなんですよ。近めの世界に行くと、たいていは一戦交えちゃうし」
「暁との関係が変わっているのが、こちらのお前に受け入れられん理由ではないのか?」
「理解されにくいんですよ。別の世界で長く過ごした分、自分がそれまでしてた事が馬鹿らしくなるってのは」
「あいつとベタベタしなくなったのは、別の世界での経験が根源か?」
「色々ありました。容姿も師匠と入れ替わった状態でしたし、力も持っていた。それで、行った先の国の騎士になれたんですけどね」
黒江の力をラーニングした状態で転移した事、次元間の戦争で解体する前のベルカで10年以上を過ごしたため、色々と考えが変わってしまい、元鞘に収まれなくなった。それが出奔の理由の一つである。
「別の世界の戦争を戦ってましたからね。それを無視して、元鞘に収まれなんてのは……辛いものですよ。たとえ、善意であっても」
「平和に馴染めなくなったのか?」
「主を守れませんでしたからね。その負い目がある事が理解されなくて……それで売り言葉に買い言葉で。後で後悔しました。響さんを苦しめる事になりましたから」
「騎士、か。立花にしてみれば、武士道も騎士道も同じようなものだろう。前を向けと発破をかけるつもりだったのだろうな」
「あの子、誰にも相談せずに、自分が正しいと思ったことをやってしまうクセがあるのよね。だから、私たちの世界では、事態が悪化する原因になってしまったのよ。後で話すけれど」
翼とマリアは、響は迂闊なところがあり、親友の小日向未来ですらも怒らしてしまう事があると教える。自分らの世界では、それで事態が悪化したとも示唆する。
「私が出奔する時、未来さんが協力してくれましたからねぇ……。それも長引いた一因で」
「立花は無自覚に地雷を踏みぬくからな。それは共通しているらしいな……」
と、お互いに『迂闊な一言で事態が悪化した』事があることがわかり、三人はため息であった。
「あ、ここからはしばらく地下トンネルです」
「地下?」
「ええ。山を一個切り崩して、上に軍事用の施設を建てたんですけど、その下に道路が通るってんで、地下から抜けるルートになったんですよ。10分くらいで抜けます」
一同を乗せたジープは地下トンネルを走り抜ける。地下トンネルは『防空の都合で退かせられない施設がルートにある』という理由で掘られたわけだが、新京へのアクセスに支障はない。出るところは新京の中心市街の端。そこからは、時代にそぐわないほどに近代化されている。新京は1944年からは異世界との交流の拠点でもあった都合、急速に近代的な都市となり、鉄筋コンクリート造のビルも増えている。軍事関連の建物の大半は地下化された上で、市街地からは離されている。何故か。日本には知られたくないモノ(反応兵器や次元兵器など)の貯蔵庫があるからでもある。
「ところで、あなた。プリキュア達とはいつに知り合ったの?」
「同居してる子が2010年代のプリキュアの一人だったんだ。その流れで、この世界の戦いに加わった時に、あらかたと知り合った。のぞみさんとはそれ以来の戦友なの」
「あの人、見かけは十代の半ばだけども、本当は何歳なの?」
「えーと、戸籍上は22歳くらいのはず。四年前に17歳だったから」
「なんだとッ…!?」
「あの外見で、私より上ですって!?」
「転生者の上、あれこれあって、生物学的な加齢をしないから、そこは、ね?」
のぞみは外見上は現役時代と同様だが、錦から引き継いだ戸籍の上での年齢は二十二歳を迎えている。現役時代(14歳当時)の外見を保っている都合で若く見られるが、実際は既に二十代の『成人』なのだ。
「ノリが良いから、のぞみさん。実際の年齢を言うと驚かれるって言ってるよ」
「それもそうね……でも、あの戦闘能力はなんなの?」
「あの人は歴代でも特に経験が豊富だった上、この世界に転生してから、矢面に立たされてきた。おまけに、スーパーロボットの力を宿したおかげで、大きくパワーアップした。肉体の加齢はそこで完全に止まったんだ。なにせ、神の領域に達したパワーを持つスーパーロボットの成れの果てと融合したからね」
「ゆ、融合ッ!?」
「魂が一つになった。そう表現するしかないね。機械も進化を重ねていくと、自我に目覚めて、魂ができるからね」
のぞみはZEROと和解、融合した事で、転生者としての能力を完全にした。その代わりに『未来永劫を戦う』宿命を背負わせられたわけだが、本人は心のどこかに『みんなと、いつまでも一緒にいたかった』という未練を持っていたため、それをすんなりと受け入れた。前世での不幸続きを『プリキュアを半分辞めていたから』と考えていたためで、『戦士としてのプリキュア』の側面が強かった世代の業と言えた。
「プリキュアの中でも、ある種の世代の相違ってあるんだよね。のぞみさんはその中でも最初の世代に入るから、代の離れた後輩と世代が違いすぎて、あれこれあったって言ってる。まぁ、完全に縦社会の仮面ライダーよりは緩いけどね。」
プリキュアも世代が離れすぎると、色々と考えが変わってくるため、戦闘向けの思考を持つ最初期の世代の者は何かと、『ジェネレーションギャップ』に遭遇する。比較的に近いはずの相田マナと夢原のぞみの場合でも、マナはラジカセを触ったことがない(親が持っていたのを見たことはある)が、のぞみは現役で使っていた世代であるように。
「仮面ライダーは縦社会なの?」
「殆どのライダーは同じ大学の先輩後輩の関係で、そうでなくても体育会系だから。プリキュアは時代が平成中期以降だから、あまり縦社会じゃないけど、やっぱり、チームの世代での上下関係はあるよ」
「それが人間社会のサガだものね」
「トンネル、長いな」
「この上、軍の防空司令部だからね。この大陸一体の防空を管轄してるから、かなり大規模でね。退かせられないから、地下を掘ったんだ」
「なるほど。お前はどこへ行っていたんだ?」
「昨日、知り合いをあるところに送ってきたんです。その直後に定期便で戻ったんですよ。その人、アル中なんで、荒療治をしようってことになって」
「大変ね。アル中はそう簡単には」
「うん。でも、今ごろはヒーヒー言ってると思う。これまた別の知り合いの荒っぽい空手道場に預けたから」
その通り、なのはは気がついたら、竜馬の空手道場にいて、否応なしに空手の稽古をやらされ、ヒーヒー言っていたりする。竜馬は多少愚痴ったが、実戦空手を是とする流派である都合、門下生は多くないので、なのはのアル中を治すため、荒っぽい稽古をつけると明言した。調はなのはを送り込む仕事を終え、魔女の世界へ帰ってきたというわけである。
「あ、トンネルを出るよ」
トンネルを抜けると、1940年代末にしては洗練された街並みが広がっていた。ビルも建ち並んでおり、1980年代以降の日本の大都市に遜色ない光景である。人々の服装も1970年代位以降の日本のように、洋装をした人々が行き交っていた。
「これが1940年代の街なのか?1980年代後半の日本と遜色ないぞ!?」
「煉瓦造りの建物は再開発で減りましたし、戦時をいいことに、市街地の近代化を進めてますから」
新京の中心部はその端であろうと、21世紀の東京や横浜中心部に遜色ない近代化がされていた。違うのは、一般人が通信機器を持っていない点で、そこで携帯電話やポケベルがない世界だと認識できる程度だ。
「ただ、M粒子の影響で、一般用の通信端末はまだ先ですね。誤作動対策の造り、高価なんですよ。まだ出たての技術で」
「あの粒子は発祥の世界でいつから研究されているのだ?」
「22世紀の後半に発見されました」
「22世紀の後半だと?」
「発表された時は本気にされなくて、コロニー国家が実用化して、軍事利用した時に、大問題になったんです」
「なんでだ?そんくらいで……」
「21世紀以前の仕組みで動く無線通信技術の殆どを無効化してしまうんですよ、あれは」
「本当かよ!」
「ええ。レーダーや長距離無線通信の類は一度死に絶えたって聞いてます。インターネットもパソコン通信の時代にまで退化してしまったとか。それで、独裁政権のコロニー国家が巧みなプロパガンダを仕掛けたものだから、あの世界は戦争続きなんです」
ジオンの暴虐と傲慢が明らかとなってきたのはつい最近の事で、独裁政権が生まれやすくしてしまった罪がサイド3にはある。また、情報化社会を死に絶えさせることで、ジオンに都合のいい世論を作りだせるようにしたのは、サイド3の科学者と社会学者の罪である。しずかはメカトピア戦争の終戦の式典で『独裁政権を生み出しやすくしたのが、サイド3の地球への罪だ』とはっきり断罪した。それがジオニストの怒りを買う事は明らかであった。しかし、ジオンの傲慢がのび太の持つ漫画という形で明らかとなり、その頃には、ギレン・ザビの再来を防ごうとした技術者たちが第三世代の遠距離通信として、タキオン通信技術を実用化したため、フォールド通信のネガが無くなった。野比家はその技術者らに多額の援助を行い、情報インフラの復活に尽力した。セワシの次男の家族がブリティッシュ作戦で全滅してからは基本的に『基本はリベラル、しかしながら反ジオンである』の姿勢であるからだ。
「何故、その国は地球から独立しようとしたの?」
「選民思想と意識がそのコロニー郡に蔓延って、それで親連邦派のコロニー群を核兵器や毒ガスで始末してしまった。自分達に与しない連中は同胞じゃないと言ってね」
とはいえ、ジオンが保護するのは『自分らに恭順した者』のみ。それ以外の者は皆殺しを躊躇なく選ぶ思考回路なため、地球連邦内部の過激派に力を与える大義名分に利用されたのも事実であり、ジオンはその後の反連邦勢力の雛形となった。同時に、タウ・リンのような双方を滅ぼそうとする破滅主義とアナーキズムを兼ねた思想のテロリストを生むことになった。
「多分、コロニーは自給自足できないって研究を真に受けたんじゃないかな。別の国家はコロニーが自給自足できてたし(バード星)。それで、資源がある地球や月を欲した。まぁ、月を爆破して、みんな死ねーって計画を末期には立ててたけどね」
月爆破計画はギレン・ザビやキシリア・ザビが死ぬ直前までに検討していたプランだが、月が砕ければ、重力バランスが崩れ、すべてのコロニーがお陀仏になるという当たり前のことを指摘されたため、さすがのギレン・ザビもお蔵入りさせた。だが、この検討書がギレン派に持ち出され、それをヌーベルエゥーゴに利用されたというわけだ。
「あと15分くらいで目的地だよ」
「どこにいくの?」
「師匠の代理で、軍の工廠の確認をして、司令部に機材補充の申請。結構、やること多いんだ。見学者って事は伝えてあるから、皆はIDカードを首から下げて」
一同に指示を飛ばす。調自身は既にプロパガンダで存在が周知されているため、ギア姿でそのままフリーパスである。
「お前はそのままかよ」
「軍が数年前からプロパガンダに起用して、軍内に顔が知られてるんですよ、私。魔法使えますし」
「お前の世界のあたしらもそうか?」
「こちらでの先輩たちもギア姿なら、フリーパスですよ。功労者ですから」
シンフォギア世界(A)の装者らはダイ・アナザー・デイで相応に貢献したことで、扶桑から勲章をもらっている。軍の関係者ではないが、実質は公務員であるので、瑞宝章が授与されている。そのため、ギア姿は知られており、年長者の二人は代表で昭和天皇に拝謁する名誉に預かっていたりする。
「ここから軍事区域に入ります」
新京のある程度まとまった地域は軍事用になっている。その更に奥深くには反応兵器や次元兵器の貯蔵庫がある。そうでなくても、未来兵器などの製造施設があるので、日本側の関係者には見せられないものが多い。
「ん!?」
クリスが声を上げる。さっそく飛び込んできたのは、扶桑がMSの世代別の構造を学ぶために購入し、講習目的で使われている『RX-78-3』と、『RX-178』の二機のガンダムタイプである。地球連邦軍ではとうに退役し、博物館入りが決定していたが、MSの製造をしたい扶桑が購入し、扶桑が自前でMSを作る時のための資産にしたという。
「ああ、扶桑の技術屋が勉強のために買ったガンダムですね」
「買ったのかよ!?」
「まぁ、いつか……ってことで買ったんですよ。構造の解析と動かすシステムの勉強で。今は背伸びして、ノックダウン生産ですからね」
「オーバーテクノロジーに頼らないと、戦争を戦えんというのか」
「相手はアメリカですから。しかも、未来世界の過激派の援助込み。おまけに世界征服企んでる危ない連中も与してるもんだから、こっちもオーバーテクノロジー大バンザイですよ」
翼も驚く。G3ガンダムが頭上をフライパスし、マークⅡが走っているからだ。技術者達は大いに学んでいると言っていい。戦車に代わる花形兵器の一つであるからだ
「ここです。迎えが来てますね」
「お迎えに上がりました、中尉」
「ウルスラさん、髪、ボサボサですよ」
「最近はマニュアルを読んでいますから」
留学帰りのウルスラ・ハルトマンが一同を迎えた。転生者ながら、思考に柔軟性がないため、姉と上官の手であちらこちらに行かせられており、1949年の春には魔弾隊の整備班に属している。
「どうですか、最近は」
「姉に言われて、あちらこちらに行かせられまして。やっと腰を落ち着けました」
ウルスラはエーリカの一卵性の双子なので、容貌は眼鏡を除けば瓜二つ。柔軟性がないと指摘され、あちらこちらに行かせられてきたので、階級は中尉のままだ。
「大尉になれそうですか?」
「魔導誘導弾の功績でなれそうです」
自虐気味だが、姉はとうに大佐になっているのに、自分は一向に出世しなかったからだ。魔導誘導弾の実用化に貢献したため、大尉へ昇進する目処がついたらしい。少女期は前線勤務だったが、ある時期からは技術士官に転向した。だが、発想に柔軟性がないという欠点があったので、なかなか出世の糸口が掴めず、ダイ・アナザー・デイ当時に関わっていた『Me262』、『Me163』、空対空ミサイル『X-4』のプロジェクトが中止された時は自暴自棄に陥り、姉に当たり散らす有様であった。そのうちの『X-4』は開発資産が扶桑に持ち込まれ、噴龍の開発チームと合流。それらを時空管理局の技術で21世紀のミサイルに近づけたタイプが採用され、ブラッシュアップの末に1947年末に量産開始となった。262は実戦にごく僅かな期間に供された後に、自家用機として、武装撤去型が作られ、アクロバット練習機や自家用機として販売。ドイツマニアにバカ売れ。クーデター後のカールスラント製品で最初に売れた製品となった。
「あなたは?」
「ウルスラ・ハルトマン。カールスラント空軍中尉ですが、技術部に出向していますので、今は完全に技術屋ですね」
一同に挨拶をするウルスラ。軍服の上に白衣を着込んでおり、日本の関係者とも合う都合、下着も着用している。
「閣下が確認したいというものの確認ですが、こちらです」
案内され、ある格納庫に入る。すると。
「これはゼータガンダム?」
「ゼッツー?リゼルの要素を取り入れたんですね」
「ええ。これはZの後継機の一つである『ゼッツー』。リゼルの大元になったガンダムですね。リゼルからの逆スピンオフで、バックパックを換装しています」
「逆だよ、リゼルがコレ(ZⅡ)を参考に作られてるの」
「姉さま、来ておられたんですね」
「や。用があったしね。ZⅡは増産された時に、リゼルのテスト代わりに、いろんな仕様のバックパックが試作されたんだって。大気圏内装備はリゼルから持ち込みだけど」
「規格合ったんですね」
「アナハイムの製造だし、TMSの規格はゼータ系なら、ZZ以外は同じだよ」
「や、調」
「エーリカさん、来てたんですね」
「22をオーバーホールに出したから、代わりの機体をもらいに来たんだ。妹はカチコチの技術屋でね。あたしも案内に加わるよ。今日は機体の受領以外に用はないし」
「あんた、歳はいくつだ?」
「え、あたし?二十二」
「なにーーーー!?ど、どうなってやがる!?」
「色々あんの、色々。詳しくはその子から聞きな」
と、軽く流す。エーリカもこの頃には二十二歳。バルクホルンは二十三歳を迎えており、今までならば『とうに引退する年齢』である。坂本は二十四歳、圭子に至っては三十路に突入している。
「ケイなんて、あの振る舞いで三十路だし、年齢はあまり気にしない方がいいよ」
「あたしの世界に、千年を若いままで生きた錬金術師がいたけど、あんたらが言うか?」
クリスのツッコミにもこれだ。
「うちらは転生者だしね。年齢はあまり気にしなくなったよ。肉体の歳はある一定のところで食わなくなったから。心はそうじゃないけどね」
「それは……そうか」
「転生者には、転生したなりの苦労があるからね。前世の記憶持ちってのもそうだけど、他人の体を乗っ取っちゃったケースも有るし。のぞみなんて、それで居づらくなったってんで、のび太んちにしばらく厄介になってたし」
「でしょうね」
「姉さま、ご注文の機体は用意しています」
「んじゃ行こっか。あーやも言ってたし」
エーリカが受領する機体はすぐ近くの航空機用のハンガーに駐機されていた。VF-31AX。地球連邦軍の新鋭機で、デザリアム戦役後にロールアウトした最新の可変戦闘機である。22乗りであったエーリカ用に調達された個体であり、YF-29とほぼ同等の性能を獲得した機体である。とある世界では、緊急事態に際し製造されたが、未来世界では『VF-31の実戦仕様をエースパイロット向けに改良する』プロジェクトで正式に生み出された。そのため、増産前提で生産ラインが用意されている。
「わーお。31のカイロスを魔改造したんだ」
「カラーリングは姉さまのそれまでの機体の塗装に合わせています。細かな調整はお任せします。」
「搬入は?」
「一両日中には。輸送便が手配できれば」
書類にサインし、受領手続きを済ますエーリカ。31は前進翼とクロースカップルドデルタ翼の二通りのモデルがあるが、これは後者をベースに製造されている。VF-22乗りであったエーリカの操作感覚に適応するだろうと見積もられている。
「こんなオーバーテクノロジー満載のやつを使わねぇと、アメリカに立ち向かえねぇのか?」
「いくら、この世界の日本が史実よりうんと工業力があるったって、人的資源は限られてるし、政治屋は人的被害を嫌う。おまけに、異世界との交流で、軍隊は金食い虫扱いされるようになったから、こういうチートで一騎当千するのが勧められてんだ。普通の勝負じゃ、どの国もアメリカに太刀打ちできないからね」
エーリカのぶっちゃけは真実だ。リベリオンの工業力は多くのマイナス要素を加味しても、扶桑とブリタニアの工業力をプラスしたものよりも上である。故に、物量と人的資源の差を埋めるために『チート上等!!』となったのが今の日本連邦なのだ。実際、飛行機の製造能力は史実の日英を合算してさえ、アメリカの半分にもいかないほどの差があった。故に、未来技術を使いまくることで、差を少しでも埋めるしかないのだ。
「だから、異端技術であろうが、未来技術であろうが、この世界の日本は使うと?」
「四の五の言っていられないよ。日本がやられたら、この世界は連中の思うがままさ。だから、チートと言われようとも、技術の先取りで優位性を持っていかないとならない。言わば、防波堤なんだ、この世界の日本は」
翼からの質問にそう答えたエーリカ。その横でウルスラが苦笑いだが、かつて、それに反対していたからだ。あちらこちらに留学した後は認識を改めていたが、かつての自分の青臭さを再認識させられる思いらしい。エーリカも大佐ともなると、高級将校らしくなったのが窺えた。