ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回は以前に触れた「シンボリルドルフのドリームシリーズ」がメインですが、前半は「魔女の世界」の状況の整理です。


第四百八十話「シンボリルドルフ再び」

――地球連邦政府は平行世界を行き交う力を恒星間航行用機関の応用で手に入れ、メカトピア戦役の後に『さらなる生存圏の獲得』のため、異世界に進出を始めた。その過程で接触した『魔女の世界』にティターンズ残党が流れ着いていた上、ネオ・ジオンが使い捨て(シャアがネオ・ジオンの組織を『終わらせた』デザリアム戦役後は彼らも合流する)目的で援助していたことから、地球連邦政府は介入を実施。しかし、ティターンズはアメリカ相当のリベリオンを手中に収め、そんな未来世界の思惑と情勢などつゆ知らぬ21世紀世界の各国(地球連邦政府にとっての先祖たちにあたる)も介入した事により(結果的に)、魔女の世界は二つの陣営に分かれていった。地球連邦政府(と、21世紀世界の西側陣営)の援助する日本連邦(日本国+扶桑皇国)陣営、ティターンズとジオン残党が手中に収めたリベリオン合衆国(こちらは日本連邦の勃興を阻止しようとする者たちが東西諸国を問わず、肩入れした)陣営。この二つの陣営による『東西冷戦』じみた対立構造が生まれていった――

 

 

 

 

 

 

 

――その流れの犠牲になったのがカールスラントであり、ガリアであり、オラーシャであり、ひいては魔女たちであった。魔女達は日本国が設立した怪異専門組織『MAT』に相次いで加入していったが、軍と違い、本当に怪異関連の事象でしか出動しないことから、魔女の世界が太平洋戦争へ突入すると、一気に魔女の間での対立の根源の一つになった。魔女達の多数派は『私たちは人を殺すために軍に入ったわけではない!!』という思想を強く持っており、それが太平洋戦争へ向かう中での扶桑の魔女兵科の衰退の理由となった。だが、ダイ・アナザー・デイ~太平洋戦争に至るまでに起こった『科学技術の発達』で『魔女不要論が力をつけた。魔女同士での醜悪な罵りあいが扶桑やオラーシャのクーデターで表面化した事が原因であった。加えて、オラーシャは元々、魔女への懐疑・不要論が強い土地柄であり、それが先鋭化した結果、秩序の崩壊による『中世まがいの魔女狩り』も横行した。その事による混乱により、日本連邦へ多くの有力なオラーシャ系魔女が逃れ、太平洋戦争で義勇兵となった。その数はオラーシャが全盛期に抱えていた魔女の有力層の過半数ともされ、日本連邦に魔女の新規育成への情熱を薄れさせた一因にもなった――

 

 

 

 

 

 

――MATは人同士の戦争を忌避する魔女達の駆け込み寺の様相を呈したが、折り悪くも、世界の存亡をかけての太平洋戦争が勃発。魔女という存在の社会的地位の低下を招いた。当時には少数派であった『軍の魔女』(主に将校の地位にいた者たち)は事の重大さを悟り、『魔女が今後も日向を歩けるようにする』という大義の下、死をも辞さない戦いぶりで日本連邦の戦いに寄与していった。その音頭を取った者たちが世界各国で士官の地位にあった古参の魔女達であり、彼女らが精神的な拠り所にしたのが『扶桑海七勇士』の残した伝説であった。それは『突出した英雄を讃えるよりも、みんなで戦うことが尊い』という方針で人材育成に携わってきた者達への『とびっきりの皮肉な結果』であった――

 

 

 

 

――志賀少佐はその流れに翻弄された『事変後第一世代の魔女』の代表格として、歴史に名を残してしまう事になった。それと対照的に、新世代の英雄として、名を刻んだのが『夢原のぞみ/キュアドリーム』であった。転生にあたっての素体が『扶桑生え抜きの職業軍人の魔女』であった偶然もあり、のぞみはダイ・アナザー・デイを戦いぬいた。その功績を高く評価した扶桑皇室のお墨付きにより、教師への転職が内定していたが、日本の横槍で潰された。日本の官僚たちは『国家元首としての天皇』の顔に泥を塗ってしまう事になったことを知った途端に、ある者は自己保身のために『我関せず』でしらを切り、ある者は扶桑の教育制度を前時代的で、軍国主義だと口汚く罵り、ある者は仲間へ責任のなすりつけをしあうなど、日本はまさに扶桑に赤っ恥を晒してしまう事になった。よりによって、官僚たちが転職話を潰した将校が『プリキュアである上、歴代トップ級の人気者。加えて、ダイ・アナザー・デイの英雄である』ことを知った日本政府は外交・内政の大問題になることを悟り、顔面蒼白。扶桑への人事介入で有頂天になっていた各官庁を叱責し、のぞみへの損害補償を保証させるよう、官庁に確約させた。のぞみはこの一件の結果、軍を抜ける事を諦めざるを得なかったが、プリキュアであることが武器になり、世論が味方となる形で『多額の損害補償金と上級将校への出世の道』(戦中の任官の魔女は戦役終了か、途中での退役が普通であるため、上級将校にする規定はあれど、慣例として、扶桑では、その殆どが大尉止まりで、佐官以上になるのは少数派であった)を得る事になった。それは『とことん戦ってもらう』という、日本側が『矛を収めるために提示した条件』を呑んだ事も意味する。それに見合う地位を与える事になった日本側は扶桑と同意を交わし、彼女をすぐに少佐に任じ、1950年の年明けと同時に中佐へ昇進させる手筈を取った。日本側はダイ・アナザー・デイで起こった混乱の責任を感じており、のぞみの昇進と多額の補償金はその禊の一環でもあった――

 

 

 

 

 

 

――のぞみの早期昇進には左派から反対の声が大きかったが、扶桑の皇室が裁可を出していた案件を官僚が独善的に潰したというのは、扶桑が日本に攻め込む大義名分に使いかねないと危惧された事、『史実の最盛期の日本軍の全軍以上の物量と開戦時の兵員が健在な国家総力戦前提の軍隊は冷戦後の人材難に悩む自衛隊では、とても対応できない』と、防衛大臣が国会で明言した事で沈静化した。経済産業相も『扶桑の力なくば、日本は沈没するのを待つタイタニックのようなもの』と表現し、日本が本来たどるはずの道を示唆したので、扶桑の富で経済が復興したにすぎないことは衆目の知るところになった。それ以後は、日本連邦軍の実行部隊としての顔を持った『Gフォース』に防衛予算が割かれるようになり、『扶桑へ誠意を見せる』事に日本側が心血を注ぐようになるというのは、扶桑の政治的勝利であった。次いで、のぞみの補佐という形で、ダイ・アナザー・デイ後期参戦の後輩たちが佐官に任ぜられた。なお、シャーリーは元から『本国帰還の暁には、少佐になる』という確約があったため、1950年には大佐になることが決まっている。プリキュア達は『戦闘行為を法的に合法とするために』軍に入れられたようなものなので、軍での階級は気にしない者が多かったが、軍階級が高めであるおかげで、年長の扶桑人の尊敬を得られたのも事実である。士官というのは、軍での『選抜されたエリート』であることは知られているため、戦後日本と違い、新米の少尉でさえも、『名士』と扱われてきた。戦後の自衛隊より遥かに、軍での階級が社会的に重く見られているのである。のぞみに高圧的に接した彼のいう『たかが、士官学校卒』ではないのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本側の失態は『陸軍軍人』というだけで、官僚がのぞみを見下したことだろう。航空部隊所属のパイロットである(官僚は日本軍が解散の時まで、組織としての空軍を持たなかったのを知らなかった)事を信じなかった)事を信じず、歩兵部隊の士官だと決めてかかった対応だろう。日本側は彼を抗議を受けた即日に更迭したが、結局は扶桑に『借りを作ってしまう』形になり、関係する官庁に総理大臣の叱責が飛んだという。結局、総理大臣の判断で、大臣らは扶桑の天皇に自らの不手際を謝罪する羽目となり、扶桑へのけじめとして、防衛・教育・雇用関連の官庁のナンバー3の官僚までが自主退職するに至った。この異例の事態は官僚の高慢の象徴とされ、一大スキャンダルとなった。『プリキュアが教師への転職を諦めざるを得なかった』というのは『政権を傾けかねない事案』である。日本政府はのぞみに『文科省内部の意見や、組合との兼ね合いで、夢原大尉(当時)を教諭にさせることはできないが、軍学校の教官の資格を与えるから、それで勘弁してくれないか』と提案。のぞみの代理で、当局との交渉にあたった朝日奈みらいは『ふざけているんですか?』と半ギレ。日本側は『大尉や、あなたの心情は察するにあまりあるが……こちらとしても……』と返した。日本でも、扶桑軍人の転職に規制を入れようとした左派勢力が逆に追求される立場になったが、世論も若年層と老齢層の対立の様相を呈し、泥沼化しつつあったので、日本は早期解決のため、のぞみに敢えて『涙を呑んでもらう』ことにしたのだ。

 

 

『扶桑と戦争をしたら、日本国は間違いなく倒れるだろう』

 

時の総理大臣の抱いた危惧も大きかったが、『戦功を挙げた軍人をぞんざいに扱った国家がどうなったか』は未来に至るまでの地球の歴史が証明している事から、『功をちゃんと功として扱う』ことを国民に提示する事、扶桑を見下す者に厳罰を科す事で、扶桑を『見下す者』達への見せしめにしたのである――

 

 

 

 

 

 

 

――こうした政治、経済、情勢の混乱により、魔女の世界は打撃を被った。すぐには補填不能な損害であるので、未来兵器の導入は現地部隊の意向として推進されていった。魔女と言っても、ダイ・アナザー・デイ以降の主力である世代は『対人訓練が省略されている』ため、対人戦闘では『普通の人間には勝てても、達人には勝てない』ことが常態。さらに達人級になると、生身で兵器を破壊できる者もいる。そのため、曲がりなりにも、それに素で対抗できるプリキュア達は矢面に立たされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――有能なカールスラント空軍将校として知られた『エディタ・ノイマン』の突然の失脚は世界に衝撃を与えた。彼女は『戦前のドイツ人』という属性も災いしたか、日本の大衆の怒りを買い、政治問題を磯れたカールスラント政府により、理不尽に現職からの解任と左遷、階級の降格をさせられ、『人類の遺産を一考だにしない女』というレッテルを張られた。マルセイユの弁護で、どうにか軍籍剥奪は免れたが、罵倒に耐えかね、鬱病を発症。1947年~1948年までの間に退役した。政府のお情けで、大佐として退役したものの、数年は人目を避ける生活を送った。その後、1948年の冬に機械関係の企業を起業。その事業で成功を収め、1950年代以降はカールスラントきっての企業家として名を馳せる。軍人としての功績は『マルセイユを育て上げた人』という事が語り継がれたものの、個人としての武功は忘れ去られることとなったが、本人が『それが自分の罪と罰なら、受け入れる』と語り、マルセイユが従う上官としてのポジションも圭子に譲ったことを明言した。個人として飛ぶことは続け、飛行クラブの会長になるなどの生活を送ったという。だが、ガランドやノイマンを始めとする『戦前から軍歴を持つ熟練者』の多くが軍を去ったカールスラント軍は練度の低下が『目も当てられない』ほどに起こり始めており、義勇兵となったトップエース達の活躍で、従来からのブランドを保っている状態であった――

 

 

 

 

 

 

 

――こちらはウマ娘世界――

 

かくして、ナリタブライアンとシンボリルドルフが裏で動き、『神のウマ娘』と呼ばれたかの英傑『シンザン』を自らの味方につけることで、ドリームシリーズの改革は端緒についた。ルドルフは現役時代の名声に疑問を持つ後輩(ルドルフの全盛期に幼稚園児以下だった)世代が台頭し始めていることに際し、ドリームシリーズを利用し、往時の実力の健在をアピールすることにした。

 

「ルドルフ。ここからが正念場だぞ」

 

「わかってるよ、カイチョー」

 

トウショウボーイ(ルドルフの新人当時の生徒会長。引退後は協会の理事である)が控え室にやってくる。協会理事らしいスーツ姿のトウショウボーイ。対して、ルドルフは(ドリームシリーズの規則改定により)往時の勝負服である。

 

「久しぶりに見たが、大きくなったな」

 

「グラス先輩(グリーングラスのこと)と同じこと言わないでよ」

 

「スマンスマン」

 

「今回からは往時の勝負服での出走が認められた。現役時代からスタミナが落ちている者のことが考慮され、今回は東京レース場(他の世界での東京競馬場)になった。お前が苦戦した時より条件は遥かにいい。ハッキリいって、良馬場だ。今の時点の実力を試すには、絶好の機会だぞ」

 

「うん。見てて。昔みたいに勝ってくるよ」

 

ルドルフはトウショウボーイの前では、ルナと呼ばれていた時期の天真爛漫な振る舞いに戻る。とはいえ、ドリームシリーズの改革のため、相当に『駆け引き』を行い、自身の後継ぎの三冠ウマ娘であるブライアンに『ダーティーな取引』をさせるように仕向けるなど、会長時代にはやれなかった『汚いやり口』を使ったのも事実。ブライアンを事実上は利用したような形だが、それはブライアンも承知の上であった。ブライアン曰く、『これが大人の世界って奴なんだろうな』とのことで、『ルドルフにも、個人としての願いを叶える権利がある』事は(自身が完全には、ルドルフの『競技者』としての後継ぎになれなかったこともあって)わかっている。苦楽を共にした仲であるのは当然だが、ルドルフがこれまで『個を押し殺してきた』ことを知っているが故に、ルドルフの思惑に敢えて乗っかり、ルドルフの思惑通りに、事を運んでやる。それがブライアンなりの『生徒会長してのルドルフ』への餞別であった。ルドルフがトウショウボーイに見送られ、控え室を後にすると。

 

「その格好は久しぶりだな。えぇ、皇帝サマ?」

 

「シリウスか」

 

「てめぇ、ナリタのガキを動かして、何を企んでるんだ?言ってみろ」

 

パドックに通じる通路で、同じシンボリ一族であり、幼馴染でもある『シリウスシンボリ』が待ち構えていた。年齢はルドルフと同年代であるので、三冠とは言え、後輩のブライアンを『ガキ』と表現する。無頼なことで知られるブライアンがここ最近は積極的に生徒会副会長としての職権を駆使し、協会の世代交代した執行部と会談を重ねている事に疑問を抱いていた。ブライアンを顎で使えるのは、更に上役であったルドルフだけ。シリウスのルームメイトはゴルシの親友の一人『ナカヤマフェスタ』。加えて、シリウスはルドルフの親類にして、幼馴染。行動を読めるのだ。

 

「君には隠し事は無理なようだな、シリウス」

 

「相変わらず、思わせぶりな口を聞きやがって。何故だ、何故、皆が往年の勝負服を着れるように取り計らった?単なるテコ入れのためじゃねぇだろ?」

 

「それは真剣勝負を望んでいるからだよ、シリウス。君のみならず、皆とのね」

 

「相変わらず、ぬけむけと綺麗事抜かしやがって!私たちはテメェの復権のための道具じゃねぇんだぞ!!」

 

「ああ。そうさ。君には言わなくてはならない。現役時代の怪我のことや……オグリの現役時代に、君を見限るような言葉を口にしたのは……すまない。すまないと思っている」

 

「なんだと!?今更、今更……!!すまないの一言だけで済むと思ってんのか!?」

 

声を荒らげ、ルドルフの胸ぐらを掴み上げるシリウス。現役最盛期の頃の約束を破ってしまった事、オグリとタマモクロスの台頭と重なったため、精彩を欠いた晩年期の頃に伝え聞いた一言への怒り。幼馴染である故に、公の場では抑えていた私人としての感情が一気に爆発したためか、シリウスは悲しみと怒りが入り交じった表情(泣きながらも怒っている)であった。

 

「昔に犯した過ちの帳尻は……自分の手でつける。そのために……!」

 

「……どういうことだ!?ルドルフ、私にわかるように説明しろ!!!」

 

「私がこの勝負服に、再び袖を通した理由を……これからお見せしよう。皇帝と呼ばれた者としての……最強と言われたなりの矜持を」

 

「今更、昔のままの力を出せるとでも……」

 

「……それはどうかな?」

 

「何……!?」

 

「私を殴りたいなら、好きにしてくれ。だが、それはこのレースが終わった後にしろ。私は逃げも隠れもしない」

 

皇帝らしい威厳に溢れつつも、若き日に犯した過ちや、現在進行形で後輩たち(ブライアンからは賛同を得てはいるが)を個人の思惑のために利用している事への悔恨を滲ませた一言を発する。ルドルフ自身も『今更、個人としての幸福を追求していいのか』と悩んだが、会長職を離れた以上は、個人としての幸せを追求していいのだ。

 

「レースを引退し、会長職を離れようと、公のために働けというのは……容易いことではないよ」

 

公のために私を押し殺してきたルドルフ。歴代の生徒会長経験者の通る道であるが、生徒会長として、公の幸福を追求してきたが、すべての役目を終えた後も(大学卒業後は)協会の理事職が決定事項のように扱われているのも、個人としては地味に辛いらしい。

 

「もっともらしいことを……!」

 

「今も言っただろう、レースが終わったら、好きにしろと」

 

『皇帝』であった頃の威厳たっぷりの声色と態度に完全に切り替わったルドルフ。シリウスは久方ぶりの感覚に『ゾクッ』とし、思わず胸ぐらを離す。

 

「だが、今は……現役時代に『立ち返る』だけだ」

 

改めて、パドックに向かうルドルフ。現役時代と変わらぬ威厳を漂わせ、ドリーズシリーズを『引退ウマ娘がおまんまを食うための興行』から『文字通りのトゥインクルシリーズの上位リーグ』へ変えるために。そのために、ルドルフは現役時の最盛期の頃の力を欲し、超科学の力で取り戻した。そして、その頃に至っていた『境地』も。加齢によるパフォーマンスの衰えはヒトよりも早い(内面から来る)傾向があるウマ娘。怪我や酷使による『脚が駄目になる』ケースも多く、正史でのタマモクロスは脚の急激な消耗と酷使による『肉体そのものへのダメージ』が許容量を超えてしまった事を悟り、早期引退を決意している。ルドルフも現役晩年期の海外遠征で、競争者として致命傷を負い、引退せざるを得なかった。それは誰もが知っている。

 

「……おい!!どういうことだ!?お前の脚は……『ルドルフ』!!」

 

「皇帝は未だ健在……そういうことだ」

 

思わず名前を呼ぶほどに、シリウスは動揺してしまっていた。ルドルフの背中から漂う雰囲気はまさしく、往年の皇帝そのものであったからだ。

 

 

 

 

 

 

――かくして、レースは開始された。出走したウマ娘たちはいずれも、往時にG1級のレースを走り抜いてきた者たち。ルドルフの先代の三冠ウマ娘であった『ミスターシービ』ーこそ不在であったが、その同期のカツラギエース、シリウスの同期の『ミホシンザン』などもおり、想定より豪華な顔ぶれであった――

 

「……往くか」

 

ルドルフは往年の日本ダービーと同様の『追い込み』戦法を取った。先行型の走りを得意とするとされたルドルフが追い込みをするのは『稀』であったが、ルドルフは本来、いかなる戦法も取れる『変幻自在』の脚質を誇った。ルドルフを破ったのは、全盛期のカツラギエース、その彼女らの先輩であった『ギャロップダイナ』の二人のみ。

 

(……こ、この感覚……!嘘だろ……!?)

 

第四コーナーを先頭で周りつつあった『カツラギエース』は背筋に冷たいものを感じた。そして、かつて味わったことのある感覚を思い出し、内心でギョッとした。

 

(ルドルフ……だと!?ば、馬鹿な?!あいつには……あの時の力は……ないはず……。)

 

「今……再び……私は道を切り開く!!」

 

ルドルフは『取り戻した』絶頂期の能力をフル活用。スパートと同時に『領域』も発動させる。現役時代は、『領域』の意識的な発動は彼女と言えども不可能であった。だが、後輩のオグリキャップ、タマモクロス、イナリワンの三名が領域の意識的な発動を習得するに至っており、ルドルフは彼女らにそのコツを聞いており、そのコツの習得に時間をかけていた。その成果を発揮したのだ。その加速度は凄まじく、現役最盛期のベストタイムをも更新する勢いであった。

 

「……嘘だろ……お前、まさか……!?」

 

往時よりも磨きのかかった『追い込み』に、カツラギエースは戦慄する。

 

「く、クソォォォ!!」

 

カツラギエースは再加速をかけようとするが、能力が減退して久しいためか、今以上のスピードは不可能であった。だが、ルドルフは『競争者として、油が乗っていた』時期の突出した能力を取り戻しており、明らかに加速が違う。更に、領域を発動した状態であり、『雷をその身に纏い、緑のオーラを発する』という、最盛期の再来というべき状態であった。

 

(あの力だ……あの力を……私は…!!)

 

瞬く間に、追い込んできたルドルフに抜かれたシリウスシンボリだが、ここに至り、精神が極限まで研ぎ澄まされた結果か、長年のルドルフへの屈折した感情が爆発したか、現役時代には到達しなかったはずの『領域』の扉を開いた。

 

「おおぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……ようやく『来てくれた』ようだな」

 

――こ、これは!!シリウスシンボリが猛然と加速している!!しかし、ルドルフに追いつけるのか!?――

 

実況中継のアナウンサーも息を呑む。だが。

 

――ミホシンザン!!ミホシンザンもあがって来ている!しかし、いっぱいいっぱいか!?――

 

ドリームシリーズを単なる興行と考えていた誰もが固唾を呑んで、勝負の行方を見守っていた。ミホシンザン(シンザンの継承者であるウマ娘。テイオーが生徒会長を継ぐ頃には、既に協会の幹部になっており、学園を去っていた)、カツラギエース、シリウスシンボリ、ルドルフの同期であり、一時はライバルを目された『ビゼンニシキ』(史実でのダイタクヘリオスの父。ウマ娘の世界では、ヘリオスをギャルにした張本人だという)などがルドルフと競り合う。

 

 

「ルドルフ、お前……どうして……お前の脚は…!!」

 

「……ああ。だが、運命の悪戯か、三女神は私にもう一度、チャンスを与えてくださったようでな」

 

「何……!」

 

「皇帝は死せず。その事を……見せてやろうッ!!」

 

カツラギエースをその一言と共に差し切り、往年の日本ダービー同様に『凱旋』するルドルフ。カツラギエースは領域を初めて発動させたシリウスシンボリと同着になり、往年の実力は健在であるところを見せつけた。

 

――皇帝の見事なる帰還だぁーーーー!!シンボリルドルフの悲運の引退から幾星霜。しかし!!ルドルフに陰りなし!!ルドルフに陰りなし!!皇帝に威光に陰りなし!!――

 

アナウンサーの興奮しきった声がルドルフの威光の健在ぶりを示す。『ルドルフ』、『皇帝』を連呼しまくっている様子からも、ルドルフの独擅場であったようである。ちなみに、解説のゲストはちゃんとカツラギエースとシリウスシンボリ、ミホシンザンの奮戦に触れ、ルドルフの独擅場とすることに異を唱えたという。

 

 

「はぁ……はぁ………あの感覚が……あいつらの至っていた……」

 

シリウスシンボリは引退後のレースで『領域』に至るという、なんとも皮肉な結果となった。だが、当人の顔は『長年の屈折した感情が霧散したかのように』晴れやかであった。

 

「そうかよ、そういうことか……ハ、ハハッ……」

 

ターフの芝に倒れ込み、長年の屈折した感情が消えてゆくのを感じたのか、楽しそうに微笑うシリウス。

 

「君も『扉を開けた』ようだな」

 

「……遅すぎんだよ。とうに引退した身だぞ」

 

「だが、レースとの縁が消えたわけではない。これからも走る機会はある」

 

「これでテメェとの差は縮んだ。今の私はすこぶるご機嫌だ」

 

「そのような君を見れたのは……いつ以来かな?」

 

「るせぇ」

 

ルドルフはレースの余韻冷めやらぬようで、領域の発動が続いていた。そのためか、『雷を纏ったオーラ』がまだ出ている。シリウスはオグリ、タマモなどが見ていた『世界』に踏み込めた事、ルドルフと同じ領域に立てた喜びからか、いつものようなアウトローじみた態度は見せず、往年の幼馴染に立ち戻っていた。その様子を観客席から嬉しそうに見つめるは、今回は出走を見送った『ミスターシービー』。

 

「ふふ、これで少しは二人の仲が改善されるかな」

 

『報告ありがとうね、シービーちゃん』

 

「なに、従姉さん(トウショウボーイ。史実でのミスターシービーの父である)によろしく言っといて、マルゼン。久しぶりにエースの全力も見れたけどね」

 

ドラえもん世界で特訓中のマルゼンスキーにルドルフの出走したドリームシリーズの様子を電話で報告するミスターシービー。全力を出し切り、なんとかルドルフに食らいついた、同期かつ戦友のカツラギエースへ、観客席からサムズアップをしつつ。

 

「ルドルフのあの力……気になるねぇ。教えてくれない?」

 

『ゴルシちゃんに連絡取れる?あの子が教えてくれるわ』

 

「ゴルシの差し金?わかった、後で連絡入れとくよ」

 

ミスターシービーも、ルドルフが領域を久しぶりに発動させたことで闘志が再燃したのか、マルゼンに疑問をぶつけ、ゴルシに連絡を取れと返され、シービーはなんとなくだが、ゴルシが自分の従姉であるトウショウボーイを抱き込んでいる事を察した。

 

 

 

 

――ウマ娘界きっての自由児であるゴールドシップ。ミスターシービーも束縛を嫌うが、三冠達成者としての柵には縛られてしまうため、ゴールドシップの自由さに憧れていたりするが、彼女もとうとう動き出す。トウショウボーイ一門の正統な後継者であり、ルドルフに先立って、三冠を達成した者として。その動きがゴルシの計算の内かは定かでない――

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