――カールスラントの歴史家は1949年頃に『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが書類をちゃんと確認してさえいえば、軍事的な覇権を無くすようなことは免れたはず』と言い出した。カールスラントの凋落が決定づけられた1945年には、現場の不祥事が相次いで露呈し、国際連盟の最後の仕事もカールスラントの軍人の不祥事を裁く事であったからだ。カールスラントはドイツ連邦の軍縮の要請に反対していたが、ドイツ側が『不祥事』を理由に、『連邦の意志』として強行した。史実でナチスや東ドイツに本人、ないしはその数代後の子孫が関わったであろう者を公職追放した。ドイツ政府はその政策の誤りを認めるのを、『NATOに指摘される』まで、渋りに渋ったので、以後のカールスラントの凋落を決定づけた。そのため、ミーナはその最たる原因とされたのだ――
――1949年 盛夏――
遠征軍が決戦に向かう頃、魔女の世界では。
「カールスラントの凋落は何故か……。こんな本が市井に出回るほど、急激だったのね。しかも、私の起こした不祥事が決定打になった。気まずいわね」
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ(B)は変装し、新京を散策していた。そういった事に無頓着に近い芳佳たちと違い、ミーナBはきちんと変装している。A世界では、カールスラントの凋落を招いた張本人という烙印を押されているからだ。
「この世界はルミナスウィッチーズが結成されるのが遅かった世界なのね。扶桑が主導権を握った世界だから、かしら」
扶桑に妙な見方を持つミーナだが、それは『当たらずも遠からず』である。扶桑は元々、戦時になると、娯楽よりも戦勝祈願を優先するというような、戦国時代の名残りの風習が残っており、戦時下では娯楽が軽んじられる傾向が強い(昭和期では薄れてきているが、それでも、戦を優先する傾向は強い)からだ。
(扶桑にも、戦えないウィッチくらい、いくらでもいるでしょうに)
A世界の扶桑は『戦えないウィッチ』へ冷淡に見える。しかし、扶桑はダイ・アナザー・デイ以来、いくつかの世界の動乱に関わった影響で、戦闘要員のウィッチが不足しており、十人のうち、三人ほどの割合で出る『戦えないウィッチ』は扶桑軍の上層部を悩ませている。更に、表面化した派閥抗争の影響で、軍の魔女の構成は両極端。MATに中間層が多く移籍してしまい、古参か、新人。この両極端となった戦線も続出していた。
「それで、プリキュアという異能を魔女として宣伝して、異世界からの人手を募ったり、革命騒ぎでズタズタにされたオラーシャからの亡命者、全世界からの義勇兵で賄っている……この世界の美緒が生え抜きの育成の維持を叫ぶはずね」
扶桑は生え抜き育成を1944年以前よりも縮小している。しかし、坂本や若本などが育成枠の維持を主張している。坂本たちには『後輩を自分のイデオロギーの生贄に捧げようとしている』という批判も出ている。だが、現実問題、太平洋戦争が終わり、世界が一時でも平和になれば、熟練の魔女を金で雇うことなどはできなくなるし、各国はカールスラントとオラーシャの惨状を教訓に、そうさせないための規定を作ってくるのは容易に想像できるし、戦争が終われば、軍人の何割かは必ず退役するのが当たり前なのだ。それに、元々、扶桑は突出した英雄を『国家元首たる天皇が認めない限りは存在しない』としてきた集団主義的な風土があった。それが黒江への志賀の反発の要因なのだ。
「ここの私は……恥ずかしいけれど、部隊を乗っ取られると思ってしまったのね。美緒が頼りにする姿を見て……彼女たちは私や美緒が新兵の頃に既に将校だった。頼りにするのは当たり前よね」
ミーナAは書類の不確認という第一のミス、生年月日を見て『戦力外』と見なし、お目付け役と早合点した事、未来世界と既に接触した後でありながら、未来兵器の使用を制限させていた事、整備兵の冷遇の発覚が二回の査問で不利に働いた。特に、冷遇の発覚は、着任前に圭子がアフリカで『ストナーサンシャイン』を放っていた事が伝説となっていた後なので、外交問題になりかけ、昭和天皇がカールスラント皇帝に直電で抗議しようとしたほどである。
「特異体質と、卓越した複数の異能を駆使して活躍中の『扶桑最大の英雄』を年齢からの先入観で冷遇した。なにやったのよぉ~!ここの私!!」
ミーナAは黒江達を戦力外と見なしていたが、実際は『世界最強の魔女』とさえ謳われたほどの英傑であったので、問題の発覚は『個人単位で収まるスキャンダル』では済まなかった。(ロンメルが慌てて、司令部から飛んでくるほどの事態であった)カールスラントは瞬く間にマスメディアにより、『人種差別の温床』と書き立てられ、猛バッシングを食らった。こうなると、司令部も事態の火消しのための行動を取らればならず、ダイ・アナザー・デイ後に『更迭した』という旨の発表を扶桑向けにせざるを得なかった。内訳は、昭和天皇は直電を打とうとしたが、当代の侍従がそれを諌め、外務省に通告。外務省は緊急電で、カールスラントの高官と会談中の大使に知らせ、カールスラントの軍と大使を顔面蒼白に陥らせ、ロンメルに調査を指令したのである。扶桑外務省が『これは大使への天皇の勅命であらせられます』とカールスラントに通告すると、カールスラントは『当局は把握していない。現地司令官に査察を行わせるので、陛下には待たれよ、と』と返電。天皇の勅命に、カールスラントの本国の扶桑大使館は大パニック。だが、カールスラント軍側も顔面蒼白であり、ロンメルは皇帝直々に罷免権をも与えられた状態で調査に乗り出し、真相が暴き出されたのである。ミーナAは事の重大さを知った途端に半狂乱となり、ヒステリックな声色で『貴方のせいよ!!』と喚き散らし、坂本に銃口を向けた。この行為がハルトマンにミーナAが見限られる最大のきっかけであり、バルクホルンも失望のまなざしを見せた。ミーナ個人のヒステリックな負の側面が査察で暴き出されたわけである。
「写真週刊誌にこうまで書き立てられるくらい、私は半狂乱になったのね……。美緒は『お前ともあろう者が……』と失望し、エーリカは『汚いものを見る目』で見た。それが却って半狂乱にさせた。エーリカが制圧し、将軍が事実上の罷免を決めた…。ブリタニアの親ウィッチ派の大将の名を出して、私は半狂乱になりながら、501を守ろうとしただけだと喚いた。だけど、厚意を厚意と見れなかったことで、結局は隊そのものを『扶桑の英雄部隊』に取り込まれたってことね…。その時の主要メンバーが現役のままで、人外って言える強さを維持してたなんて、普通は思いもよらないとはいえ、美緒から話を聞いていれば、扶桑の一部隊に隊ごと取り込まれずに『扶桑との合同部隊』っていう体裁が取れたでしょうに…」
軍そのものの評判を地に落としてしまい、ドイツ連邦に人員削減と軍縮の大義名分を与えてしまったのは自分である。ミーナBはフーベルタに『変装しないと、お前は日向を歩けんぞ』と言われた事の意味を、週刊誌の記事を立ち読みすることで知った。当のAは『西住まほ』という日本人として過ごすことで、何食わぬ顔で日常生活を送り、ちゃっかりと扶桑の軍籍を取得しているわけだが、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとしては『病気の発作で職務不能になり、どこかで療養している』というのがカールスラント軍の公式発表だ。
「あの扶桑人の戦車隊の将校が『私の転じた姿』……。そうでもしないと、半世紀くらいの隠棲生活は確実。軍も『別人の人格になって、別の姿になっているから、別人です』ってことで、私の別人格の特技を用いようとしたのね。複雑だわ。自分の醜態が書き立てられているのを、第三者として見るなんて」
変装したミーナBは髪を三つ編みにしていたり、伊達眼鏡をしていたり、服もカールスラントからのおのぼりさんといった感じの野暮ったいものにしている。傍から見れば、ノイエ・カールスラントからやってきた『ちょっと美人の田舎っ子』と言った感じである。
「ルミナスウィッチーズが遅れた要因も……64F……。広報活動でも一流だなんて」
ルミナスウィッチーズの結成と活動開始が大きく遅れたのは、64Fの見せるライブパフォーマンスが(21世紀の目から見ても)一級のものであったがためと、世界情勢の急転直下で『一から専門訓練をさせる』必要があるルミナスウィッチーズの結成より、芸能界経験者もいる64Fにやらせたほうが費用対効果が高い。そう判断させるに足るパフォーマンスである。平時の時の64Fはむしろ、曲芸飛行やライブも仕事の内であった。
「そんな事をしていて、有事になったら、戦線の要になるなんて。万能もいいところね」
「……ん、別の世界の陸上レースの中継?」
ミーナBが街頭テレビで見たそれは、ウマ娘世界のドリームシリーズの中継である。他の世界では『陸上レース』と認識されているものの、ウマ娘達が必死に走る様は人々を惹きつけていた。(最も、ウマ娘世界そのものはルドルフの生徒会長勇退に伴う世代交代の波の混乱に見舞われているが)人々が街頭テレビに集まり、声援を送る様は、戦争中の扶桑には何よりの清涼剤であった。
「テレビジョン。この世界じゃ、カラー放送が始まってるの?」
街頭テレビはこの時期、扶桑各地に設置され、賑わいを作るツールであった。扶桑でも放送が始まっており、ウマ娘世界のレースもスポーツ中継の一環で流されていた。扶桑も本格的なテレビ時代の夜明けを迎えたのである。扶桑映画が最盛期に向かっていくのも、ちょうどこの頃。内務省と軍部の検閲が廃され、内容の縛りが無くなったのと、戦争経済で金が余っているからである。また、各世界側で独自にウマ娘のレースにオッズをつけることも行われており、その売上金は扶桑の競走馬生産の土壌整備に回されている。扶桑は『自分達が勝手にしている事』ということで、ウマ娘のレースにオッズを独自につけている。当時は軍部の機械化で軍馬の需要が見込めなくなる頃でもあったので、牧場の軍馬種の生産縮小、競走馬生産への切り替えの援助の資金にその売上金を当てていた。ミーナBが目撃したのは、シンボリルドルフのドリームシリーズであり、ルドルフの強さは異世界の人々をも引き付けていたのだった。
――ナリタブライアンは父と『妹達のトレセン学園への入学の是非と学費』で揉めた挙句に勘当されたため、大学の入学後に野比家に下宿することにした。ドリームの体を借りての従軍は『怪我を治し、下宿先も用意してくれた』ことへの恩返しの一環であり、公にはされない。(報奨金と恩給は表向き、『野比財団と骨川コンツェルンの関連企業とのCM契約金と礼金』として処理される)。ブライアン自身も口外することはない。彼女が戦場でしたことは『キュアドリームのしたこと』であり、『ナリタブライアンのしたこと』ではないのだ――
「アンタには大学に入ったら世話になる。大学部には寮はないんでな」
「それはかまわないよ。部屋はいくらでも空いてるからね。でも、出席日数は大丈夫かい?」
「今年の出席日数は足りている。学業成績も一応は上位だぞ」
「よくサボると、エアグルーヴちゃんは言っていたけど」
「レースの座学は私にはあまり必要なかったからな…。怪我をしてからも、チームメイトと特訓はしていたし、レースの座学よりも、普通の学科のほうを取っていたんだよ。レースはどうにでもなったからな、全盛期の頃から」
ブライアンはのび太にその事を告げた。大学入学後から暮らすことを。
「君への報奨金と恩給は表向き、僕の財団やスネ夫のコンツェルンの傘下企業との長期のCM撮影契約として処理されるし、のぞみちゃんにも口裏合わせを頼んどいた」
「頼む。あんたらには面倒をかけるが、実家を追い出されたんでな」
ブライアンの史実の馬主は実業家であり、建設業を営んでいた。そのため、ウマ娘としての姉妹の実家が酒屋なのは、祖母にあたる馬の生産者が醸造所であったという関係であるからでは?との推測がある。(なお、ハヤヒデは史実ではブライアンと馬主が違う)
「君の実家が酒屋なのは、前世と関連が?」
「ばあさまの馬主が醸造所だった事に由来すると思う。史実での馬主は兄弟で違うしな。それと、実家の屋号は『平和』だが、ゴタゴタを起こしたのは笑えんよ」
「事業がコケると、たいていはヒステリックになって、冷静な判断力を失うもんさ。君たちは姉妹が多いし、父上が亡くなった場合に相続権を主張できる年齢であるのは君と姉上だけ。他の子達はまだ、その年齢じゃない。兄弟姉妹が多い家で相続が起こると、もれなく誰かどうかがゴネて、裁判沙汰になるからね。法的に相続権を公使できる年齢の子供が君たちのみなのは、むしろ幸運だよ」
「私は親父の財産には興味ないから、姉貴に渡す。生活費は自分でどうにかできるしな。G1を既に四回以上は勝っているし、いくら親父でも、借金まではしていないと思うんだ。そういう事は嫌っていたはずだ」
「うーん…。おそらく、君の実家の経営不振は史実の生産主が君の死後に倒産した事の反映じゃないかな」
「そんなとこまで、前世の因果で繋がなくてもいいというのに」
ブライアンは妙なところで、前世と繋がっているところにため息である。
「アンタも今度は出るのか?」
「レイズナーマークⅡの実験も兼ねてね。せっかく、孫の孫のひ孫に用意させたからね」
「遠くないか…?」
「僕の孫の孫の更にひ孫だしね。僕は20世紀~21世紀の人間だし、その子は23世紀の人間。江戸時代初期と現代くらいは離れてるから」
のび太はレイズナーマークⅡのVMAXIMUMの実験も兼ねての出撃になると告げる。孫の孫の曾孫に用意させていた機体を使うのは道楽に近いが、ナイトメアフレーム以上の高機動を誇るマシンを製造させてしまうあたり、財団のアナハイム・エレクトロニクスへの影響力を垣間見せた。
「スーパーロボットは何機出すんだ?」
「人数の関係で二機かな。ゲッターは三人が乗らないとならないし、ストナーサンシャインやシャインスパークの関係で、ね。それでも、最高位に近いけど」
「それだけのマシンが必要ということか?」
「敵もそれなりのマシンは出してくるだろうからね。ティターンズやネオ・ジオン時代の機体のどれかは出してくるだろう。あるいは歴史に埋もれたガンダムタイプか……」
と、のび太が話したあたりで。
――敵機確認!!敵は……ガンダム・ピクシー!!繰り返す……。
基地の放送で敵機の名が言われるのは珍しいが、ガンダムタイプと明確にされる。
「そうか、ガンダム・ピクシー。ティターンズが残存機を接収していたのか!!」
敵が送り込んだ刺客。それは歴史に埋もれたガンダムタイプの一種『ガンダム・ピクシー』であった。
「ガンダム・ピクシーだと?」
「一年戦争の時、連邦陸軍がG-4計画の一環で作った陸戦用のガンダムだよ。陸軍が立場低下を防ぐために何機も作ったけど、多くがあっけなく撃破されてる。公的な記録だと、三機だけどね……」
ガンダム・ピクシーは地球連邦陸軍が一年戦争も末期の頃、全軍を挙げての『G-Ⅳ計画』で生み出したガンダムタイプ。アムロ・レイ用に製造されていたともされるが、想定されていた地上戦は既に終息に向かっていたので、アムロ・レイ用というのは、陸軍のプロパガンダではないか、とされている。アムロ・レイ用のガンダムは当時、既に『アレックス』が開発中だったからだ。当該機は宇宙軍のガンダムタイプと違い、製造機の大半が敗北したり、ジオン残党に奪われている。その事から、連邦陸軍は『公的な記録に残さない前提で、何機も作っていた』説が提唱されている。何機が存在し、どの程度がティターンズに流れ、第2世代MSのフレームを素体にした近代化改修機が作られていたのか?ムーバブルフレームタイプの素体を得たピクシーがどれほどの素早さなのか?それは未知数だ。
「ん!」
窓からの遠目に、警備についていたジェガンがガンダム・ピクシーのビームダガーに刺され、あっけなく倒される様が見えた。
「あれは二号機か!?ビームダガーを使うとは……」
「どういうことだ?」
「ガンダム・ピクシーはアムロさんに回される予定だったんだ。その個体が装備していたのがビームダガー。白兵戦の実験機を兼ねてたらしいからね。一機はネオアメリカコロニーに拾われて、ガンダムマックスターの参考にされて、戦後に返還されたらしいけど」
「哨戒はでくの坊か!?」
「いや、今は大半が機体の整備中だ、君のDXなら、出られるはずだよ!」
「よし、さっそく出番か!」
「なるべく、敵は壊さないようにね」
「……注文が多いな」
と、愚痴りつつも、緊急事態なため、ピクシーとの一騎打ちに臨んだブライアン。自分は『この場にはいない』ので、キュアドリームとして戦う事になる。注文の多さに愚痴りつつも、先程、黒江から渡されたGコンを持っていく。DXはピクシーとは対極に位置する特性の機体だ。ボクサーで言えば、ヘビー級とライト級ほどの差がある。
――格納庫――
「緊急事態だ、出すぞ!!」
「エンジンは念のために温めておいたが、こいつは今までのガンダムとも桁違いだ。振り回されないようにな」
「分かった。ハッチを閉めるぞ!」
ブライアンはのぞみの体の記憶を探り、ダブルエックスを起動させる。Gコンを規定の位置に差し込み、そのまま前に押す。ツインアイが点灯し、出撃時の自動起動動作でラックからライフルを取り出し、自動的にシールドが装着される。
「まさか、プリキュアの立場になるのみならず、ガンダムでドンパチすることになるとはな。……ソードでゴリ押しするしかないな」
のぞみの肉体の記憶が閲覧できるとはいえ、MSは初めてのブライアンが操縦できるほどに、ダブルエックスの操作性は(ガンダムとしては異例なほど)素直であった。ガンダムタイプといえば、ニュータイプ想定のピーキーな特性が当たり前であったからだ。
「火器はあまり使えんな。ルナチタニウム合金とは言え、向こうは軽装甲だ。あまり壊せ……おっ!?」
ピクシーが持ち前の瞬発力で接近する。ダガーを振りかざし、一気呵成に切り裂こうとするが、ブライアンはそれをとっさに避け、ケリを胴体に入れる。
「妖精の名を持つのは伊達ではないということかっ……」
ハイパービームソードを機体に持たせ、白兵戦の態勢を取る。レースとやることは90度以上は違うが、機械越しに武道をするような感覚である。
「標準的な全天周囲モニターとリニアシートじゃないのは、良かったかもしれん。乗っている感覚があるからな…」
ガンダムX系はインターフェースはアナザーガンダム寄りであるので、全天周囲モニターとリニアシートは採用されていない。これはリニアシートの製造費の高騰もあるが、ゲリラ戦における修理の大変さが問題になったからである。それはアナハイム・エレクトロニクスでもかなり議論になったが、想定任務が想定任務であるので、リニアシートよりは旧世代の技術だが、デラーズ紛争までのパネルモニター式の改良型(リニアシート採用後は減っていたが、全天周囲モニターより堅実な技術であるので、その改良は続いている)が採用されている。
「いくか!!」
ダブルエックスはサテライトキャノンが最大の特徴だが、機体の素性は白兵戦用のガンダムの最新型であるため、実は意外に俊敏なのだ。ブライアンはモニターの表示に気をつけながら、ハイパービームソードでビームダガーとやり合う。サテライトシステムの高出力の恩恵で、ソードはダガーの刃を一瞬で弾き飛ばし、ダブルエックスは肩口にソードの刃先を当てる。ピクシーの肩部アーマーがソードのパワーで溶けていく。一年戦争当時のガンダムのビーム・サーベルより遥かに出力が大きいので、触れただけでも、旧来型のルナチタニウム合金は大きく溶解するのだ。加えて、その次の瞬間、胸のブレストランチャーも当てたため、ピクシーは大きくひるみ、人間のように、片腕から潤滑油かなにかを流し、無事なほうの腕で肩を抑えるような仕草を見せた。
「えらく人間くさい動きだな。まぁ、そうしてくれたほうがわかりやすいが」
リアルロボットは『ダメージが入っているかわかりにくい』という特徴もあるが、OSの進歩もあり、四肢にダメージを受けた場合の動作に人間味が出てきていた。特に、ダガーによる斬り裂き戦法が主力のピクシーにとって、腕へのダメージは戦力半減に繋がる。
「悪いな、パワーはこちらのほうが上なんだよ!」
怯んだピクシーを掴み、そのまま、操縦桿とペダルをうまく使い、のぞみの記憶にある『大雪山おろし』を再現する。大雪山おろしは本来、『自分の体を中心に回転して振り回し、遠心力をかけてから上方向に投げ飛ばす』ので、リアルロボットでも『高性能なマシーン』であれば再現可能である。
「大・雪・山おろーーーし!!」
おそらく、これが『ガンダムによる大雪山おろし』の初の例であろう。パイロットを気絶させるために、かなり高速で振り回し、遠心力を強くかけたため、ピクシーはそのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。如何にピクシーの対G装備が凄くとも、大雪山おろしの起こす遠心力はゲッターチーム級の耐久力がなければ、気絶を免れない。パイロットはおそらくは想定外のことと『リニアシートでもカバーできない衝撃や遠心力』で昏倒したのだろう。思わせぶりにしては、ピクシーの結末は思いっきりのあっさりであったが、大雪山おろしの起こす力はマシーンが何であれ、凄まじい。生前の巴武蔵はこの技で熊を何頭も仕留め、爬虫人類に引導を渡してきた。ブライアンはのぞみが神隼人や流竜馬からの口伝と、車弁慶からのレクチャーを受けた記憶で『やってみた』だけだが、スーパーロボより華奢な構造と非力(あくまで、スーパーロボット比だが)なリアルロボットでも、大雪山おろしが行えるようになった証明だろう。
「私だ。ガンダム・ピクシーは大雪山おろしでのした。回収を頼む」
「お前、もうちょいスマートにしろよ。回収はいいが、直すのに一苦労だぞ?」
「……知るか」
と、返事を返す。
「調べてみる。コックピットのハッチ開放機能は生きてるだろう」
ブライアンはDXから降り、倒れているガンダム・ピクシーのコックピットに取り付き、コックピットのメンテナンススイッチを使い、ハッチを強制開放する。すると。
「……驚いたな。ティターンズのノーマルスーツを着込んでるが、コスモ・バビロニアの紋章をつけてるぞ」
「なぬ?ティターンズとコスモ・バビロニア?そいつ、ティターンズの崩壊後にコスモ・バビロニアに流れたクチだな。いるんだとよ、ティターンズ崩壊後にブッホ・コンツェルンに拾われて、コスモ・バビロニアに入って……そこも崩壊すると…ってやつ」
この頃になると、メカトピア戦役終戦の式典でのジオンやコスモ・バビロニアなどの『連邦に抗いつつも、結局は大量虐殺を行った』組織の大義名分などを否定するしずかの演説の効果もあり、ジオン残党も、コスモ・バビロニア残党も次第に求心力を失い、霧散しつつあった。また、地球連邦の厳しい査察もあり、ブッホ・コンツェルンも残った幹部の逮捕で解体へ向かっていた。本格的な宇宙開拓時代の訪れで、スペースコロニーに地球人そのものがこだわらなくなった事、コスモ貴族主義もジオニズムも、過激な地球至上主義も結局は否定され、組織の興亡が繰り返されたからだ。それら組織に属していた人間は霧散集合を繰り返したため、元のティターンズ兵がコスモ・バビロニア軍に入る事も珍しくなく、そこから『組織』に流れたティターンズ系のコスモ・バビロニアの部隊もいる。その事から、ピクシーは機体ごと持ち込まれ、所属を二度は変えた事になる。
「節操ないな」
「負けた軍隊の構成員ってのは、そういうもんだ。ドイツ軍なんて、バダン作って、ずっと世界征服のために暗躍してきたんだ。日本軍だって、佐官以下は自衛隊に多くが再就職してるが、何割かは残党化して、バダンに与した。負けりゃ、自分たちの行いは否定される上、悪漢の烙印が押される。だから、ナチスの残党がその後の時代の組織の残党を吸収していったんだ」
バダンはナチ、旧日本軍、旧イタリア王国軍の元構成員(第二次世界大戦の枢軸国の人間)を最高幹部に、その下に東ドイツ、旧ソ連邦出身者を置くという人員構成のようで、ジオンがいつしか『旧ダイクン派>旧ザビ派>元ギガノス/ティターンズ/コスモ・バビロニア兵など』のヒエラルキーに変貌したのと似た道を辿っている。そのため、『負けた側の残党組織は、昔から寄り合い所帯になりがち』と言える。
「回収機を回す。お前は念のため、周囲をダブルエックスで見回ってくれ」
「了解。どうすんだ、このガンダム」
「陸軍が作って、ティターンズが接収していたとはいえ、ガンダムだ。博物館に入れる事になる。今となっちゃ貴重な機体だからな」
ガンダム・ピクシーはこの後、程なくして、パイロットごと、ジムトレーナーの後継機扱いで重機として扱われている『ジムⅡ』に回収されていった。
「しかし、あいつのあの加速。ブースター無しであの踏み込み……レースの参考にできるかもしれん」
元々、ブライアンは『差し』の戦法で一時代を築いた。だが、あまりに急激に加速することで下半身に負担をかけすぎたのが、史実での股関節炎の発症原因なので、下半身を鍛え直した上で、戦法を『差し』から『先行』に切り替える事を模索していた。だが、それでもスパートは必要なので、スパートのかけ方も全盛期からは変える必要があるだろう。
「別のことをしていて、レースに使えることを見つけるとはな」
ガンダム・ピクシーの踏み込みは参考になったようで、ブライアンはその後、ルドルフを彷彿とさせる戦法も用いるようになり、シニア級に王者として君臨する。サクラローレルはブライアンが脚を痛めていたことは知っていたのと、ブライアンに理想を見る事をエアグルーヴに諌められ、『ブライアンが全盛期の輝きを取り戻してくれればいい』旨の発言をしている。ブライアン自身、全盛期の自分を理想と見るサクラローレルの発言が辛い時期があったためだ。
「三冠ウマ娘としての……か。協会も無茶を言う。ローレルには悪いが、凱旋門は数年先延ばしにさせるしかないな」
ブライアンは史実の記憶を得たため、サクラローレルの身を案じている一面がある。史実では、凱旋門賞の前哨戦で競走馬としての致命傷を負い、安楽死寸前であったのは、ブライアンも知っている。ウマ娘としてのサクラローレルも『怪我しやすい』体質であるため、凱旋門賞をすぐに目指すと、史実同様の運命が待ち構えていると察していた。
「そのためには、私が王座に返り咲くしかないな。マーベラスも、マヤノも、アマさん(ヒシアマゾン)も蹴散らして…。ヤツに塩は送りたくはないが、史実の運命は残酷すぎるからな…」
それがブライアンなりのローレルへの手向けである。自分も凱旋門賞には興味があるものの、オルフェーヴルやディープインパクトをしても勝てない事がわかっているので、足踏みしてしまう。
「引退までには、凱旋門賞に挑戦してみろよ。オルフェーヴルくらいの結果は残せるんじゃないか?」
「オルフェーヴルのガキは私と似た成績だからな…。史実だと。私の再来と言われそうなものだが」
「あー、あいつ、カレンチャンの舎弟だぞ」
「何?カレンの舎弟だと?」
「その辺はマジだ。ゴルシに聞いてみろ。それと、スペシャルウィークとグラスワンダーは史実だと、スペシャルウィークが一方的に嫌っていたって聞いてる」
「本当か?グラスが聞いたら、寝込むな」
スペシャルウィークは史実の記憶が覚醒すれば、グラスワンダーとの関係が気まずくなるという憶測がある。スペシャルウィークは年老いてきた頃には、現役時代が嘘のように気性が荒くなり、グラスワンダーに負けた事を根に持っていたとされる。そのため、ゴルシは『前世の記憶が目覚めると気まずくなる可能性があるな、スペとグラス』と評している。
「スペシャルウィークも気まずくなるぞ。親父の血が目覚めたのかわからんが、歳をとった後は喧嘩を売りまくるようになってたらしいしな。ルドルフやお前みたいに、種牡馬になっても、スマートだったのは珍しいんだと」
「そうか…。まぁ、サンデーサイレンスは異常なほどに高確率で子孫が優秀だからな…。種牡馬としちゃ、逆立ちしたって勝てんよ」
ブライアンは競走馬としては一流だが、産駒が走らなかったため、種牡馬としては(夭折もあり)三流とされている。その自覚はあるようで、史実の父を負かせたサンデーサイレンスの種牡馬としての才能は羨ましく思えるらしい。
「お前、女体化してる状態でそれをいうか?」
「それ言ったら、アンタ(黒江)だってそうだろ?お互い様だ」
と、ブライアンはメタいところを突く。とはいえ、同位体、ないしは前世で姓が違っていたという自覚があるのは、ブライアンと黒江でお互い様であるのも事実。
「しかし、お前もこれから大変だぞ。史実の情報持ちってことは……」
「ああ。これから増えていくだろうから、あんたらと同じで、コミュニティを持つ必要がある。ルドルフも、テイオーとツヨシを自分の子って認識を持ったようだしな…」
ブライアンは史実の情報を持った状態のウマ娘のコミュニティを作る必要を持つ必要を感じている。同時に、その情報を使い、『前世と違う未来』を切り開くか、『引退後の心の拠り所』を得るか。ルドルフは後者だろう。
「ルドルフは協会の理事の椅子がいずれ待っているが、本人は走りたがってるからな。どうする?」
「シンザンを動かして、規則を改訂させたらどうだ?神のウマ娘のいう事なら、社会的に文句は出んよ」
シンザンの影響力は社会的に大きいため、彼女は積極的な発言は避けてきた。スペシャルウィークがシニア級を経ないで、ドリームシリーズに行った際に、それに苦言を呈したのは、実のところは彼女自身の意志ではない。シニア級まで走っても、社会的に評価されなかった世代のウマ娘達の怨嗟や嘆きの声を代弁しただけだ。『公平性の担保のため』である。
「シンザンさんか。かの方がどれだけ宛になるか」
「少なくとも、メジロ家よりも権威があるから、部外者も言うことを聞くはずだ。戦後初の三冠馬だしな。子孫はパッとしなかったが。それに、古馬になった後の成績は未だにトップだ。ルドルフやディープでも達成していないぞ」
シンザンが伝説となったのは、古馬になった後の成績が後代の三冠馬よりも優れていた(ルドルフよりも)からである。さらに、とんでもないハンデを背負った状態で五冠を達成したというのは、未だに後輩のすべてが達成していない。直系の子孫は絶えたが、歴史に名を刻んだのは事実だ。
「あんた、よく知ってるな」
「調べたんだよ」
シンザンはルドルフに血統が『時代遅れ』という烙印を押されたが、そのルドルフもテイオーがターフを去った後に、サンデーサイレンスによって同じような目に遭った。ディープインパクトの先代にあたるブライアンもだが、サンデーサイレンス旋風に歴代の三冠馬の血統は尽くが蹴散らされた。古馬時代に成績が低下した三冠馬は多いが、シンザンは強さを維持したままで引退できた。それがシンザンの持つ唯一性だ。
「シンザンを動かせるだけの材料を集めろ。孫のマイシンザンやスーパーシンザンの方面からも攻めろ。協会は公平性を大義名分にするからな、オグリの現役時代もそうだったように。だが、シンザン、TTG、マルゼンスキーの時代から、突出した強さを認める風潮も出てきている。いつしか、凱旋門にいく夢が出来たからな。2020年代になっても、実現していない夢だがな」
スペシャルウィークたちの時代から海外遠征で勝つことが具体化し、凱旋門にいく夢が『夢物語』ではなくなった。そして、ディープインパクトなどが挑戦してきた。ブライアンは『全盛期の成績を維持できていれば、海外遠征もあり得た』と考えており、前世の悔いを夢に変えるチャンスを狙っている。
「わかった。それと、ゴルシに伝えろ。私が海外遠征を考えていると」
「いいのか?」
「挑戦は現役の最後にするがな」
ブライアンはローレルを史実の運命から救うため、代わりに自分が海外遠征を行う意志を固めた。ローレルを運命から救うには、『直接対決で史実を覆す』のが最善策だと考えているようだ。
「ローレルとそのトレーナーには悪いが、私と奴の史実を覆すには、私が奴を上回るしかない。やつは今が『遅れてきた全盛期』だからな」
それがブライアンなりのローレルへの返礼である。そして、運命を超えるには、ローレルを倒すしかないというのが結論であった。しかし、今のままでローレルが海外遠征をすれば、凱旋門は愚か、前哨戦のフォワ賞で『競争者としての致命傷を負う』という『洒落にならない結果』になる。
「ヤツはサクラ軍団最後の雄。それにふさわしい、ちゃんとした花道を用意してやりたい」
ブライアンは史実の情報を得た後は前世の記憶も蘇ったらしく、メジロやサクラの辿った運命を憂いている節も覗かせた。故に、サクラローレルには『払った犠牲に見合う花道』を見せたいらしい。それがブライアンなりのローレルへの競技者としての思いやりであり、自分ができる範囲での手向けであった。