ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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オムニバス編です。


第六百二十四話「それぞれの道」

――扶桑の『みんなのために』の風潮が色濃かった海軍航空隊は多くのエースが『空気が息苦しい』と述べ、空軍に籍を移したことで一気に窮地に陥った。日本が現存艦隊主義を取った事、雲龍型航空母艦の多くが『空母』の籍から外され、軽空母が一律で退役させられたために、空母艦隊の量が大きく減らされた事が重なり、空母艦隊は張り子の虎であった。日本は超大型空母の数隻は大戦型の大型の四隻分以上の戦力だと説くも、隻数の減少は現場には痛かったのである。この齟齬も空軍が過労気味になる原因であった。結局、場繋ぎでミッドウェイ級が運用される事となり、戦後型への改修を経て、正式に配備された。大戦型は『被弾を前提に設計されているので、前線に置ける』からだった――

 

 

 

 

――超大型空母はキティホーク級の最終艦をベースに建造が始まった。完成すれば、扶桑国産の『超大型空母』となる。また、地球連邦軍の技術提供で電磁カタパルトが搭載されるのも、建造遅延の一因であった。空母の形態が装甲空母から『超大型の少数運用』へ飛躍した故に、扶桑は『宇宙戦艦』や『超弩級航空機』の運用に傾倒していく。地球連邦軍は外宇宙時代を迎え、維持の必要性が相対的に低下した『ガルダ級』のライセンスを扶桑へ与えた。扶桑は空軍の主力軍化を目論んでおり、ガルダ級の保有は宇宙進出を見据えての将来への布石であった。1949年の晩春。南洋の地下工廠で、それは建造開始がなされていた――

 

 

 

 

 

――南洋の秘密工廠――

 

「山本閣下、あれは?」

 

「ガルダ級を奴さんから買ってね。おそらくは一桁台の保有になるだろうが、これまでのような空母の大量保有が不可能となる以上、これらで補うつもりだ。二昔前の空中空母の再来だな」

 

かつて、実際に空中空母は構想されていたが、未来世界の技術はそれを完全な形で実現させた。ジオンのガウ級の比でもないスケールの超弩級航空機で以て。宇宙時代には不要とされたが、宇宙戦艦の大気圏運用は経費もかかるので、航空機の運用は続いている。ペガサス級が主流にならなかった理由も、そこにある。山本五十六はガルダ級に世界を周回させ、地球全体の防空を担わせる構想を地球連邦軍から引き継ぎ、それを魔女の世界で実現させるつもりであった。日本連邦が文字通りに世界の覇者になることの証左であった。当時、各国の軍縮で多くの戦線が有名無実の有様に変貌した一方、軍縮で職にあぶれた『失業軍人』が続出し、社会問題と化していた。特に徴兵で集められ、復員した者に問題が顕著であり、戦争が続いている日本連邦の義勇兵になる者が続出した。日本連邦は人手不足であったので、彼らを受け入れ、戦わせている。問題は陸よりも空であった。空中戦では、M粒子の都合上、遠隔での指揮管制が完全には機能しない都合上、個人練度が物を言う。それは魔女でも、戦闘機でも同じである。

 

「私はそちらでは、軍令に疎かったが、こちらでは否応なしに、ある程度の能力が求められるのでね」

 

「閣下、気にしておいでで?」

 

「気にせずにはいられんよ。戦死したから、戦犯を免れたなどと謗られるのは」

 

山本五十六は史実での評判を気にしており、連合艦隊司令長官退任後は軍政の道に進んだが、いざという時は陣頭指揮も厭わない。その表れであった。日系国家では、とかく陣頭指揮が尊ばれるので、ダイ・アナザー・デイでは問題も起こっている。日本人の(戦いに関しての)気質は他国には理解しがたい面がある。それは異世界の妖精にとっても、同じことだ。

 

「我々は陣頭指揮をとらんと、兵に尊敬もされんからな。それは君等も同じだろう?近頃は芸者で遊べもせんからなぁ……」

 

山本五十六は明治生まれでは珍しく、プレイボーイ気質であった。また、この時代は例外なく、芸者遊びが社会的な成功者としてのステイタスであったが、『コンプライアンスの大変化』でそれが憚られるようになってしまったため、今度は芸鼓の需要の減少で『なり手が減少し始める』という社会問題になってしまった。日本連邦はこうした『お互いの時代差によるコンプライアンスの差』に苦悩するようになっていく。その大変化の影響は魔女にも及んだのである。結果、日本は魔女を部内で『腫れ物扱い』するしか、当面の対応策がなかったのである。魔女の社会はこうして、結果的に崩壊寸前に陥り、黒江達は『億単位に一人』クラスの『特異体質』である事が扶桑社会に周知されたのが、この時代であったのだ。

 

「魔女の雇用問題もあるからな。君等が騒いだせいで、聖上(天皇)のお手を煩わせることにもなった。日本系国家は『聖上の一声』でなければ、地方の老人達は動かんよ」

 

「まさか、10代のうちしか使えぬなど……」

 

「君等のせいで、我々は多大な被害を人的に被った。それは理解してくれるね?人生が狂った魔女も多いのだよ?」

 

「…ハッ」

 

結局、魔女の根本に関わる『世代交代』の原理は『子供時代の万能感の喪失』とも関わりがあると推測されており、未来世界の超科学でなければ『当座の解決』も不可能であった。その被害を補うには、超科学兵器しか方策がない。山本五十六はガルダ級を見せることでそれを暗に示し、日本側も結果的にそれを容認するのであった。

 

 

 

 

 

――ウマ娘のピークアウトもそうだが、本人は望んでおらず、肉体的に若いうちに起こる理不尽なそれは『魂の因果に縛られた』結果とも言えた。ゲッター線は『因果を断ち切る』側面から求められたと言える。実際、ナリタブライアンはそれに一縷の望みを賭けている。のぞみもゲッターの力で『世界線の分岐で生じたプリキュアとしての終わりの起こり』の可能性を拒絶し、あくまで戦い続ける選択を取っている。それは『10人ライダー』の存在が大きい――

 

 

 

――『10人ライダーは自分の人生をほぼダメにされて、友人や家族とも違う時間を生きることにされたが、それでも、組織と戦い続けている』。この事実は多方面に大きな影響を及ぼした。『使命からの解放』は必ずしも、当人に良い結果をもたらずとは限らないのだ。コージはこの事に苦悩し、のぞみの前に姿を見せるのを躊躇っていた。だが、彼はまだ幸運であるほうだ。やり直すチャンスを(別人として)得られたのだから。結果的にだが、彼はココとして生きている場合、のぞみの生存を地球の平和より優先してしまう傾向があった。それがのぞみの人生を狂わせる世界線を生んでしまった事で、罪の意識に苛まれたわけだ。のぞみも10人ライダーの存在により、戦い続ける事に躊躇いはなくなっている。コージがそれを受け入れたのは、自分自身がサムライトルーパーになったからである。――

 

 

 

 

 

 

 

 

――のぞみAは融合もあり、本来の夢は諦め、戦士として生きることとなった。それがある意味で望んだ道だからだが、ある意味、戦士を経験してしまうと、それまで通りの生活は精神的にできなくなるということの実例であった。10人ライダーも多くが改造で泥酔はできなくなっている(生体改造の者はともかく、機械式改造の者は)ので、そこは残念がっている。また、のぞみAはその経験上、若き日に戻りたいと願っていたので、それが叶った後は『変身した姿で過ごす』事が増えていた。ウマ娘として過ごすようになり、半年ほどが経過していた。現役時代は運動神経ダメダメであったはずの彼女だが、プリキュア化と転生を経た後は反射系が鍛えられた(加えて、ニュータイプ能力に覚醒済み)ので、ウマ娘として求められる水準を全て満たしていた。そのため、ウマ娘でいる時間は『束の間の休息』と言えた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その反対に、大人のぞみは白色彗星帝国と戦う日々にどっぷり浸かっており、Aの職務の実質的な代理を務めていた。ある意味、それが大人のぞみの心の穴を埋める役目を果たしていた。また、同位体の記憶の流入現象と1000年女王の暗躍でキュアベリー/蒼乃美希が合流し、有言実行を果たした。歴代プリキュアのおおよそ数割がこうして、戦線に参加する事となった。大人のぞみはキュアドリームに変身しっぱなしであったが、激務であった都合上、そのほうが良かったのである。彗星帝国はあらゆる兵力で宇宙怪獣もかくやの物量であったので、地球連邦軍のパイロット達は昼夜を問わずにスクランブルであったからだ。しかも、本国がとうに滅亡しているはずの残党で。地球連邦軍も無傷ではなく、有人艦も撃沈されるものが生じている。中小型艦艇がその中心で、中にはプリキュア達を庇い、船体を蜂の巣にされる形で撃沈した艦もいた。その事に責任を感じた彼女は、若き日よりも率先して戦いに赴いている。のぞみAが(環境の差もあるが)わりかし気楽に過ごしているのと対照的に、大人のぞみは『守るべき物』を多く背負ってしまった故に、死傷者が増える事を気に病んでおり、それ故に『修羅』となりつつあった。同位体が有し、1000年女王の能力で得た『高度な戦闘能力』もそれを進展させていた。彼女はある時点で、戦士から身を引くはずであったので、それと真逆の結果となったわけだ――

 

 

 

 

――オトナプリキュア世界のココはそれまでの不義理もあり、周囲の反感を買っており、情報の多くをシャットアウトされていた。だが、のぞみが異世界の持ち込んだ宇宙戦争に身を投じた事をナッツとの口論で知り、やめさせようとしていたが、クレオパトラ、卑弥呼。その二大巨塔がそれを阻止した。彼自身、不義理を自覚していた事、プリキュアであった者が『宇宙からの侵略に立ち向かうための鍵である』と諭され、その勝利を祈る事、帰ってきた後に『愛を受け入れる』事を彼女らに約束した。彼女らとの会話で『歴代の1000年女王』の存在とラーメタルの存在も知ったのである――

 

 

 

 

――雪野弥生。またの名をプロメシューム。かつては1000年女王であり、その最期は因果なものとなるという。大人のぞみは羽黒妖から彼女の存在を知り、彼女の『人間』としての遺志を継ぐことを選んでいた。同位体経由で『不死身の身体』を得てしまった故でもあったが、ある意味、プロメシュームが地球人時代に持っていたパーソナリティの間接的後継として選ばれた(つまり、1000年女王となる事)のである――

 

「彼女の体は変容し始めました。同位体と同じ肉体を得るのは時間の問題です」

 

「つまり、あの子は完全に不死身になると?」

 

「ええ。同位体が以前に、私から輸血を受けていたので、それも変容の原因だと思われます。ラーメタル人は地球人と交配できますので、成体に達した地球人の肉体を変容させることは充分にありえます」

 

のぞみAが現役時代の容姿を保っている理由の一つに、『デザリアム戦役でタウ・リンに何度か敗れているが、二度目は念入りに叩かれ、輸血が必要となった。その時に輸血してくれたのが羽黒妖。ラーメタル人か、あるいはその血を持つ者という。その彼女の血がのぞみAの肉体に変容をもたらす原因の一つだと、羽黒妖自身が明言した。

 

「そんな、輸血しただけで!?」

 

「彼女はプリキュアの因子を持っています。その因子がラーメタル人の血から遺伝子情報をある程度読み取ったら?」

 

「なっ……」

 

大人かれん(こちらもキュアアクアの姿だ)はラーメタル人という異星人の血が地球人の体に変容を起こす可能性に驚く。噂の範疇であるが、メーテルとエメラルダスの父『Dr.バン』は、ラーメタル人と交わったことで『30世紀まで生きながらえていた』雨森始ではないか?という。雨森は星野鉄郎の20世紀時点での先祖らしいので、つまり、鉄郎とメーテルは間接的に血縁関係があるのでは?という推測がなされたほどだ。その噂を考えれば、ありえない話ではない。ましてや、自分たちはプリキュアであったことで『プリキュア因子』が根付いている。それが再活性化したことで、肉体が素で『ラーメタル人寄りの特性』になってきた上、同位体の影響が生じているので、大人のぞみは1000年女王の後継ぎになれると言っていい。ラーメタル自体は30世紀までには衰退しているが、その生き残りや『先祖にラーメタル人がいる』者は各地に散らばっており、その多数派は地球人として存在している。つまり、のぞみが輸血でラーメタル人寄りの体質に変質する可能性はありえるのである。

 

「あり得るのですか?」

 

「充分に。実例もあります。加えて、同位体の影響もある。遠からず、彼女は地球人の摂理から離れた存在となるでしょう。本人もそれは自覚していると思います」

 

「私達は……どうすれば?」

 

「別世界での顛末を鑑みるに、貴方方も同じ領域に入るのが最善かと。同位体が既にそれを達成した以上、貴方方にも道は開かれるでしょう」

 

羽黒妖はかれんにその可能性を示唆する。大人のぞみを孤独にさせないための。それは地球人の摂理からは外れるものだが、オトナプリキュア世界の滅亡を回避するために必要であることでもある。ある意味では残酷であるが、プリキュアの力に永続性が担保されなかった世界線である以上は『平和のために必要な犠牲』とも言えた。大人かれんはこの残酷な現実に悩むこととなる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――アグネスデジタルに敗北を喫したことから、坂を転げ落ちるかのような有様になりつつあったテイエムオペラオー。悪夢にうなされるようになってしまった事から、見かねたフジキセキとオグリキャップの勧めで、ドラえもん世界に赴いた。そこでの検査で『ピークアウト』が起こり始めていることを突きつけられ、意気消沈。しかし、処置を受けた上で、波紋法の修行を始めるという『史実を超える道への扉』を叩く事を選ぶ。2024年の年始時点では、彼女が野比家に滞在していた――

 

 

 

 

――史実でG1七勝の実績を誇りつつも、人気的に劣るところがあったテイエムオペラオー。直前の世代がスペシャルウィークらの代である故の不幸であった。ウマ娘としても『一時は最強であった』が、ピークアウトの始まりで輝きを失い始めていた。その彼女も起死回生を賭けての博打を選び、ドラえもん世界に滞在することとなった――

 

 

 

 

――2024年年始――

 

「まさか、このボクが2024年の年始を別世界で過ごすなんて」

 

「いいんじゃないかい、オペラオー。君は本来なら、ポッケやカフェに引導を渡されるんだ。それに抗ってみるっていうのも」

 

「いいんですか、フジ先輩」

 

「幸い、この世界は私達の世界との時差はほとんどない上、野比氏はタイムマシン持ちだよ?ここで長期療養するのは、休暇のいい機会だよ」

 

フジキセキがお目付け役で同行してきている。オペラオーが先輩と呼ぶ数少ない一人だ。

 

「私は現役時代に悔いはない。だけど、後輩たちには『望む道』を歩みさせたくてね。自分自身、思うようにはいかなかったから、さ」

 

「先輩……」

 

フジは自身が望まれた未来を歩めなかったからか、後輩達にふりかかる因果を超えさせたいという願いを持つようになっていた。そのため、ゴルシと入れ替わりで、野比家に滞在を始めたのである。エンターテイナーとしての才能を活かし、公的な広報業務をこなしている。

 

「ボクはG1を七回勝つ……だけど、それは短い栄光。それを覆す扉を開こうとしている。それが良かったかどうか…」

 

「転生してまで、前と同じ結末はつまらない。そういう考えもある。私も、ドリームトロフィーで一花咲かせるつもりだよ。そのためにトレーニングを始めるつもり」

 

「まさか、貴方と一緒に過ごすなんて。ポッケくんが聞いたら」

 

「たぶん、泣くほど悔しがるだろうね。あの子は私を慕ってるから」

 

ジャングルポケットはアオハル杯に登録しているのもそうだが、今が旬の時期である。フジキセキが『休養』に入った事は知らされていても、どこで何をしているのかは知らされていない。

 

「今はブライアンと戦いたがってるからね、あの子。もっとも、三冠のブライアンと、ポッケじゃ、どこまで食らいつけるか」

 

自身が三冠を期待されるほどの実力であったからか、ブライアンとジャングルポケットの間に実力差がある事を悟っていた。ブライアンは全盛期の実力であれば、その代の世界最高のウマ娘であった『ラムタラ』に対抗しえるとまで言われていた。対して、ジャングルポケットは史実では『府中巧者』ではあったが、それ以上には『なれなかった』(子供にトーセンジョーダンがいる)。

 

「フジ先輩は彼女がブライアンさんに勝てる可能性はないと?」

 

「実力に差がありすぎる。食らいつけはするだろうけど、ブライアンは全盛期の力が戻った以上、あのラムタラに対抗できる力を持っている。ポッケは……」

 

ブライアンとでは、その限界ポテンシャルに差があるジャングルポケット。妹分である彼女を冷静に分析した上で、そう評価を下せるあたりはさすがというべきか。また、ブライアンは全盛期のポテンシャルであれば、世界レベルの実力である事も明言される。

 

「あの子の勝つ姿はみたいさ、誰よりも。だけど、こればっかりはね…」

 

ブライアンが王道に戻った以上、タキオン・ポッケ・カフェの世代はブライアンの復活に華を添える引き立て役に成り下がるやも知れない。その危惧を口にする。ポッケが聞いたら、必死で否定するだろうが、伊達に三冠であり、全盛期の実力で歴代屈指とまで謳われたわけではないのだ。

 

「ポッケ君はアオハル杯で挑むつもりですよ?」

 

「試金石にするつもりなんだろうけど‥…どうだろうか」

 

そこまではわからない。わかるのは、明確に意思を持ち、それをプリキュアに託したブライアン。漠然と『最強になりたい、自分のようになりたい』という気持ちで走るジャングルポケットとでは、明確な意志力に差がある。意志力の強さは因果をも超えうる。それはタマモクロス、オグリキャップなどが証明済み。ジャングルポケットはそこまでの境地には達していない。まだ『若い』からだ。

 

「私たちはお互いに『老いた』のかもしれない。だからこそ、後輩の事を気にするし、自分が誰かに引導を渡されるのが怖くなる。なら、老兵は死なずってものを見せてやるまでですよ」

 

ディープインパクト世代が華々しくターフを賑わす時代、オペラオーは『老兵』と言われてもいいことになる。史実と違い、シニア級で斜陽を迎えつつあると言われていた。故に、最後に一花咲かせるという思いを抱くようになった。そのきっかけがアグネスデジタルへの敗戦後なのは、何かの因果だろうか。

 

「覇王には覇王にふさわしい引き際がある。それが証明できるなら、悪魔にも魂を売りますよ」

 

オペラオーは史実を超えたいという願望を持つようになったようだ。その光は全盛期とまったく同じ。彼女は敗北を味わうことで『魂の因果』に気づいたのだろう。

 

「君もやっぱり?」

 

「抗ってみせますよ。因果に。覇王の威光を今一度示し、華々しくターフを去る。それを叶えてみせます」

 

オペラオーは精神的に立ち直り始めたようだ。一時は消えていた瞳のハイライトが復活し、声のトーンも全盛期のそれに戻りつつあった。オペラオーは史実では『全盛期に無敵を誇ったが、その時点では、自身に太刀打ちできるライバルがメイショウドトウしかいなかった』事も一種の悲劇であった。また、98世代が去った直後であったことなども、強さの割に人気が低い理由であった。だが、全盛期を終えた後の落差も激しかった。結果的に、G1勝利記録は彼から遥か後の牝馬であるアーモンドアイまで破られず、ウオッカ、ジェンティルドンナも八勝以上はできなかった。オペラオーはそれに敢えて挑むことで、『花道』を飾った後にターフを去るつもりだと明言する。

 

「それが君の選んだ道かい?」

 

「ええ。王者は王者らしく……人によっては『有終の美にこだわらなくても…』というでしょうが、そうでなければ、世間は評価してくれない。五体満足で引退する場合は。それが真理ですよ」

 

ある意味、日本人の持つ特有の心理がウマ娘たちのセカンドキャリアへのステップに移行する過程に重大な影響を及ぼしていたと言える。そうでなくても、競馬界隈では、世間的にアイドル扱いであった『ハイセイコー』と『オグリキャップ』以外の者は歴代の三冠馬といえど、数十年後まで覚えられている者は少ない。オペラオーは言わば、『狭間の世代』(黄金世代の去った後は『ディープインパクト』の世代まで注目を浴びないためか)と言える。

 

「でも、この世界は不思議ですね」

 

「裏でヒーローと悪の組織が延々と戦ってるからね。それも、戦国時代の頃から」

 

戦国時代にいた『仮面の忍者 赤影』、江戸期の『変身忍者嵐』、二代の『ライオン丸』以来、日本はヒーローの巣窟であった。それはある時期からは鳴りを潜めていたが、暗黒組織ゴルゴムの登場以後は再び、ヒーローと悪の戦いが盛んになっている。ヒーローユニオンは『ヒーローと悪の戦いが表社会に影響を及ぼす』ようになった時代において、彼らの社会的地位の保証と福利厚生などの確実性の担保を目的に設立されたと言える。

 

「いたんですか」

 

「うん。仮面の忍者 赤影、変身忍者嵐……。世の中が平和になると、確認されなくなったけど、冷戦時代の頃から多くなったんだそうだよ」

 

彼らの遺したものはやがて、科学の発展で『スーパーロボット』にまで至る。それがゲッターエンペラーという『機械仕掛けの神』にまで至るのだ。イルミダスやマゾーンはゲッターエンペラーの目覚めで敗北に追い込まれ、イルミダスに至っては、『ワルキューレの炎』で主星自体が滅ぶのである。

 

「ブライアンさんは『王座に返り咲くため』に?」

 

「うん。私たちはレースと広報以外の事に関わる事は避けなくちゃならない。だから、入れ替わりをして、荒行に打って出た。ある意味、あの子が一番、困難な事に挑戦してるよ。新しい世代の子が台頭してきてるから」

 

ブライアンの全盛期の能力を以ても、新世代の『ディープインパクト』、『オルフェーヴル』(いずれも、後代の三冠達成者)と互角に戦えるかは未知数。それは本人もわかっていることだ(史実で『姪』であるウオッカが一時代を築いた事を鑑みれば、充分に可能性はある)

 

「さて、私は自治会に頼まれた仕事(広報業務の一環)をしてくるから、君は坊やの迎えをしてくれるかい?」

 

「わかりました」

 

普段は目立ちたがりで、傲慢不遜とされるテイエムオペラオーだが、エンターテイナーの先駆者であるフジキセキには敬語で接する。意外だが、彼女も年長者に礼儀正しい一面を持つのである。(フジキセキはこの頃には、史実通りに引退していたが、足の医学的治療と波紋法による内面の治癒で『全盛期の状態』に戻りつつあり、ドリームトロフィーに(いずれ)出場すると公言していた)また、エンターテイナーぶりは健在であり、来訪後はススキヶ原の自治会に頼まれ、マジックショーなどを開いている。こうして、オペラオーはノビスケの迎えにいったわけだ。彼女は富裕層の出ではないが、その宿命に導かれる形でレースの世界に飛び込み、当世代の王者となった。史実では、ジャングルポケットとマンハッタンカフェに引導を渡されるが、彼女はその因果に抗う事を選んだ。これにより、彼女の未来は史実からは離れ始めるのである。わざわざ勝負服で迎えに行くあたり、彼女の目立たがり(彼女は『世代的に、著名とは言いがたい時期の競走馬』という事実を鑑みての事だろう)の気質がよく出ていた。

 

 

 

 

 

――とはいえ、テイエムオペラオーはその界隈では有名であっても、世間にはあまり知られていない(競馬への注目度が下がった時期に活躍した故に)。そのため、彼女がかつて『一時代を築いた競走馬』の転生体であるとは思わないだろう。オペラオークラスのウマ娘ならば、単独で『超大型ダンプカーの突進を阻止できる』ほどの力を持つが、それを発揮できる機会はなかなかない。もっとも、側溝にはまったトラックを起こすなどの場面では需要があるが。こうして、オペラオーがノビスケらの通う小学校に足を踏み入れる。

 

「ん、今日はオペラオーねぇちゃんか。ねぇちゃん、レースに勝ってる回数は歴代トップタイだっていうけど」

 

教室の窓越しに、オペラオーの姿を視認したノビスケはそうつぶやく。芝レースで歴代トップタイの実績を持つ事は知っていたが、この時代においては、一般人は覚えていない場合が多い。ウオッカでさえ、一般人に対する知名度は低いので、狭間の世代であるオペラオーはなおさらだ。もっとも、当人は覇王オーラで目立ちまくりだが。ノビスケは小三の時点で体育は『5』だが、それ以外は二~三をうろちょろする成績であった。父がほぼ全てで二~一(成績の完全な向上は高校から)であった同時期よりはマシである。ただし、素行が品行方正であった父と違い、ノビスケは昔ながらのガキ大将の最後の生き残りのような存在である。とはいえ、ジャイアンのような暴君ではない。2020年代に『わんぱく』で許されているのは、2020年代には絶滅危惧種の健康優良児である事、ガキ大将の存在が代々許容される土地柄である事も大きいだろう。

 

「そいや、ねーちゃんたちの本気、どんくらいだろう。人間とは比べ物にならないって言ってるけど」

 

その事から、ウマ娘の本気をレース以外で見たことはない事がわかる。母親が他の世界と異なり、公安職についている故か、あまり母親と触れ合っていない。普通はグレそうなものだが、土地柄と友人たちのおかげもあり、道を踏み外していない。成績は中の下だが、歴代の野比家男子ではマシなほうである。

 

「ねーちゃん達、元の馬の年代を考えると、時代がバラバラなんだよな。ルドルフねーちゃんなんて、パパが生まれるより前の時代の馬が前世のようだし」

 

ルドルフは現役時代が80年代半ばの頃であったので、若い競馬ファンにとっては『歴史上の存在』であった。それはルドルフ自身が気にしている事だ。オグリキャップが現役時代の頃の社会現象の名残りを多分に残すのに対し、ルドルフは本やネットのページ上の記録にその名を留めるのみ。ブライアンが『ブラリアンの存在』などで記憶に残るのとは対照的である。現役時代の人気はむしろ低い部類であったのも災いした。ルドルフ本人もこれに大層落ち込んでいる。エアグルーヴの血統がサンデーサイレンスと交わったために、繁栄を謳歌していたのも、地味に効いている。

 

(栄枯必衰というけど、ねーちゃんたちの血統、殆どがサンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービンの血に駆逐されてるしなぁ。ブライアンズタイムは先細りだよな、ブライアンねーちゃんが夭折してる上、マヤノねーちゃんも子供がなぁ)

 

その前の世代の『ノーザンテースト』の系統を含めた旧来の血統の多くは淘汰され、その三つの種牡馬の血を持つ者が20世紀末からのトレンドとなり、キングカメハメハ、クロフネなどがそこに割って入っている事は、21世紀も20年を超えれば、調べれば、子供でもわかる事だ。その史実を知った上で、運命に抗おうと奮起したのがブライアンだ。

 

(ルドルフねーちゃんは引退して、ずいぶんだって言ってたな。だけど、その欲求は消えてはいない。俺は見た…。ねーちゃんの顔を)

 

ノビスケの独白をうなづけるように、ルドルフは同じ頃、アオハル杯を利用する形でトレーニングに勤しんでおり、完全に往時のカンを取り戻し、『皇帝、未だ死せず』と意気軒昂であった。ある意味、三大種牡馬が日本競馬を席巻する前の時代における、最後の絶対王者であったかもしれない存在。ルドルフも、テイオーとの関係の深さ(史実での実子)を最近は意識せずにはいられないのか、テイオーを後継に添えたりしていたが、皇帝とまで言われた強さを再び見せたい。ルドルフはそんな欲求を抱くようになってきた。ディープインパクトの時代になろうと、『ルドルフの絶頂期の力であれば、ディープインパクトに勝てる』とさえ言われるほどに信頼を寄せられている。ルドルフ本人はこの評価に『時代が違う』と謙遜しつつも、まんざらでもない表情を見せていた。とはいえ、三冠を取ろうと、古馬戦線で名を馳せようとも、早期に引退することに疑問が出始めている2020年代。

 

(年寄り連中はオグリやハイセイコーみたいな野武士が出るのを期待してるけど、今はもう、そういう時代じゃないんだよな。強い馬の早期引退に疑問が出る事もあるから。オグリねーちゃんも六歳で引退したろ、確か)

 

令和の老人世代は『ハイセイコーとオグリキャップ』の幻影を未だに追っているとも言える発言をする事も多い。ノビスケは祖父(のび助)がオグリキャップを引き合いに出し、21世紀の強豪馬の早期引退を嘆いていた事、『強い馬は有終の美を飾ってこそ』とも語っていたことを思い出した。そんな事はルドルフやブライアン、ゴルシもだが、史実ではなし得ていない。ある意味、オグリキャップの見せた奇跡の功罪と言えるので、オグリキャップ本人もかなり気まずそうにしていた。だが、ある意味で『希望』である事には違いはない。ノビスケはそう結論づけ、考えごとを止める。

 

 

 

――その時、終業チャイムが鳴り、ホール・ルームがお開きになると――

 

「ハッハッハ、ノビスケ君、迎えに来たよ」

 

「オペラオーねーちゃん」

 

教室から児童らが出ていくところで、オペラオーの登場と相成った。勝負服で現れたり、オペラオー本人のオーラの相乗効果で、かなり目立っていた。

 

「あの、あなたは?」

 

「怪しい者ではありません。野比くんを迎えに来た者です。ナリタタイシン先輩やナリタブライアン先輩の後輩です」

 

テイエムオペラオーの現役時代の栄光からは、既に23年以上が経過していたので、ノビスケの担任(のび太の担任教諭の実子)教諭はピンとこなかったようだが、その眼光で『名うての者』とは感じ取ったようだった。

 

「あの方たちの…。そうですか、その後輩の方ですか……。その目……名うての者とお見受けしました」

 

「お恥ずかしい話ですが、ボクは世紀末の頃に『世紀末覇王』と謳われた競走馬の生まれ変わりでして」

 

「子供の頃に父から聞いたような覚えが…。あなたがその?」

 

「ええ。テイエムオペラオーと申します」

 

テイエムオペラオーは世紀末世代の王者であった。次代に引導を渡されはせど、全盛期の頃の能力は『その時点での日本最強』を謳われていたほど。つまりは一時代を築いた張本人。それまで、『衰えに悩んでいた』ことなど微塵も感じさせない『覇王』としての堂々たる振る舞い。それこそが、テイエムオペラオーの精神力が戻りつつある証拠。ノビスケは彼女のこの振る舞いに圧倒され、言葉もなかった。担任教諭もオペラオーのオーラに完全に呑まれている。これがオペラオーを覇王足らしめた要素の一つであった。

 

 

 

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