――月読調は野比家来訪後は異世界転移で体質が変化したため、シンフォギアを継続的に纏っても、身体的な問題はなんら無くなった。地球連邦軍に入隊後は、何かと危険な任務も多くなったのと、黒江に容姿を貸し出すのが常になったため、太平洋戦争では裏方であった。プリキュア達とは別方面で調査をするようになったため、その偽装のため、黒江がシンフォギアのコピーも含めて使用しているが、本人はそれとは別に本物を使っていた。本人はハルビンへ発つわけだが、その前に面会があった。D世界の風鳴翼とである――
「と、いうわけです」
「しかし、わざわざお前がいることを偽装する必要があるのか?」
「師匠が偽装してくれなきゃ、私はサイン攻めですよ。一応、扶桑で英雄扱いですから」
「こちらの暁が拗ねているが、ギアを普段着代わりに使うとはな……」
「今となっちゃ、仕事着に近いんですよ。別行動を言い渡されてるから。今日はこれから、ハルビンに発ちます」
「ここは中国の地名が使われているのか?」
「明朝が怪異のせいで滅んだ時、華僑の連中が大量に移民したんですよ。コミュニティのまとまりがなかったから、扶桑の統制された移民が来ると、それに飲み込まれていきましたけど」
南洋本島は中国大陸ほどの大きさは無いが、日本列島よりは遥かに広大であった。新島群を含めれば、中国大陸を上回る。新島は暫定的に自由リベリオンが租借地に利用しているが、扶桑が権利を持つ新島もある。ドラえもんが中規模の新島を50ほど作り、そのうちの半数が扶桑領、半数が租借地になっていた。短期間に島が増えたため、南洋の気候は多少なりとも変化しつつあった。この新島の内、暫定的に行政府などが置かれていた最大の島は再統一後にリベリオンへ譲渡され、史実におけるハワイやグワムの役目を担う事になった。この急激な地殻変動により、北リベリオン大陸の先端部は大陸から正式に分離。ハワイは正式に諸島となった。
「そうか。この世界はアメリカと戦争中だが、お前は軍務という事で、フリーパスか」
「ええ。場合によれば、火消しをやります」
「しかし、お前の戦力はどうなのだ?」
「見せたのはさわりですが、あなた達の知る『私』自身とは比較になりません」
調は別の自分自身と比較にならない力を持つ。聖闘士になっているため、プリキュアと同等の戦力と評価されている。転移した時期が早かった事、切歌と長く離れていたために、転移直前のような依存関係は消えている。環境の違い、実年齢が見かけと違う(実年齢は30代相当に加算されている)ことも大きい。
「そちらでは、暁とは?」
「マリアとマムが事を起こした直後に異世界に飛ばされたんですよ。で、帰ってきた時に揉めちゃって。気持ちはわかるんですけどね。ややこしいんですよ、容姿が入れ替わっていたから」
切歌との関係が一時的に悪化し、それがきっかけで野比家に住む事になった事を話す。シンフォギアもその際に持ち込んだため、以後はそれが仕事着のようなものになったとも。
「しかし、ギアを仕事着とは」
「体質が変わったんですよ。それと、法的に縛られなくなったんで、メンテの頻度も延びてます」
シンフォギアは定期的な整備を必要にとるが、未来世界の技術はその頻度を減らす事に成功していた。更に、調自身の体質が聖闘士になり、根本から変化した事で、シンフォギア世界の真理に縛られなくなったため、仕事着代わりに使えるようになったわけだ。更にいえば、シンフォギア世界の住人ではなくなったために法的縛りも無くなっている。
「そちらの私自身には悪いけれど、頼めないんですよ、影武者を。ギアを使える制限時間やら、基礎戦闘力に差があるし」
調Dは史実と変わりないため、単独での戦闘力には見るべきものはない。それがネックであったと明言する。二人で一組として扱うとしても、他のメンバーほどの爆発力がないのも大きかったと。
「確かにな。そちらでは、見かけ以上に実戦経験を積んできたようだし、こちらでは、単独戦闘力が低い水準には違いない」
「ええ。よろしく伝えておいてください。拗ねられてますが」
翼Dはその背中を見送りつつ、自分の世界の調自身が『違いの大きさ』に拗ねているのをどうにかしなければならない事にため息をつくのだった。戦闘力の観点から見れば、Dがどんな手段を用いようとも、Aの薄皮一枚にかすり傷もつけられないほどの差がある。小宇宙を発した状態であれば、Dの如何な攻撃もクリスタルウォールが通さない。Dと違い、古代ベルカで剣術を会得し、野比家にいる長い時間で鍛えていたのもあり、その力に差が生じている。
(姿は同じだが、違う道をたどると、こうも違うのか?月読……)
翼Dは調Aが腰に『磁光真空剣の写し』を提げている姿に、平行世界同士の違いを認識する。ギアの機能と関係なしに刀を差しているというのもそうだが、A世界での出自が『かの磁光真空剣を扱える血筋の出』である事を示唆するものでもあった。
――一方、夢原のぞみはTV番組の収録をトウカイテイオーと共にしているのだが、(正規の戦闘訓練を受けた故か)ブライアンの肉体を本人に遜色ないレベルで使いこなせる事に驚かれた――
「現役時代はドジだったから、こうはならなかったよ。今は戦うことで飯を食う身だからさ」
「でもさ、他人の体、それもウマ娘の体を扱えるなんて」
「あの子はいつも緊張してるようだから、体に負担をかけてたんだな。力、全盛期の水準に完全に戻ってるよ」
「ブライアン、本当は臆病な性格だって、ハヤヒデが言ってたっけ。普段の態度は取り繕ってるものに過ぎないっての、信じられなかったけど、そうして見ると、本当だなぁって思うよ」
全盛期のブライアンであれば、世界的にも速いウマ娘であるのは間違いない。その頃の力を取り戻せたのは、入れ替わりで『過度の緊張状態』から肉体が解放された事で『完全なリラックスの状態に置かれた』のも要因の一つである。
「次はなんだろう」
「あれだね」
「ありきたりの軽じゃん」
「まー、原チャリよりは速いからね」
次の検証で用いられるのは『ありきたりの軽自動車』であった。大衆の保有台数の多い車種で、ウマ娘世界でも『多くのトレーナーが持つ車種』であった。
「次はセダン、その次はスポーツカー、最後はスーパーカーだけど、マルゼンのとは形が違うね」
「あれは相当に古典的な車種だよ、テイオーちゃん。この時代からは50年くらい昔のだし」
「え、ほんと?」
「うん。昔、転生前に、うちのじいさまが『若い頃、欲しかった』って聞いてる。まぁ、その頃の日本のサラリーマンの手にいれられる代物じゃなかったけどね」
マルゼンスキーの愛車はカウンタック。戦後の安定期に入っていた頃の日本の少年や青年を釘付けにした『スーパーカー』の代表であった。その頃に青年期であった祖父は『欲しかったが、所詮は高嶺の花であった』と語っていたと、のぞみは語る。(1970年代の水準からすれば)スーパーな性能であったが、後続のスーパーカーと比較すればだが、さほど高い性能ではない。
「デザインはかっこいいけど、性能はその手のモンとしちゃ高くはないよ。先輩に聞いた話だけど」
「え、本当?」
「デザインはかっこいいけど、問題も多くてね。それに、イタ公の製品は芸術品で、実用品じゃないよ」
「え?」
「燃えるんだよ、イタ公の作った高級車って」
高級なスーパーカーは万全の整備がされていない場合、持ち主がちょっと離れているうちに火災を起こす事が多く、日本で度々報じられている。
「まぁ、オーナーの怠慢も多いから、そういうのは。先輩曰く、カウンタックに乗るのは拷問に例えられるって」
「マルゼンが聞いたら落ち込むよー?」
「最新のハイブリッドのに変えたら?」
「お父さんからもらったんだって」
「よく維持できてるねぇ……」
「でも、なんで、国産のスポーツカーの実験に使うつもりの車がハチロクなんだろう」
「ディレクターの趣味じゃない?」
「あれ?漫画みたいに、峠でレースでもさせんの?スカイラインか、ロータリーエンジンの奴とか、いくらでも適任があるのに」
のぞみが訝しがるのも無理はないが、国産のスポーツカーというなら、素人でもわかるような有名な車種がごちゃまんとあるはずである。とはいえ、こうした企画に使うのにうってつけではある。
「80年代前半の車種をどこから持ってきたんだろうな、この番組のディレクター」
「若い頃に走り屋だったとか?」
「それなら、もっと良いマシン持ってくるはずだよ?」
素人目にも、スポーツカーの車種のセレクトがオタクじみているためか、のぞみは疑問だらけなようだ。
「撮影入りまーす」
と、声をかけられる。貸し切った場所でのゼロヨン競争はセダンまでのようであるが、二人としては、軽自動車やセダンタイプの『ありきたりな車』に遅れを取るつもりはなく、その二種との競争は流れ作業的に片付けた。車が加速し始めるまでの僅かなタイムラグを活かす形で勝ったわけだが、当代最強のウマ娘の加速力は並の自動車を相手にしないことの証明でもあった。
「で、次の撮影は……四日後?げ、本当に峠を使うのぉ!?」
ディレクターから説明を受けたテイオーが素っ頓狂な声を出した。直線での加速はスーパーカー以上であると計測できたので、対等な条件に設定し直したいとのことだった。
「私はいいが、こいつは長距離はあまり向かんぞ、いつぞやの天皇賞の春でメジロマックイーンに負けているのは知っていると思ったが…」
「ええ、それは知っています」
のぞみが(ブライアンとしての演技をしつつ)尋ね、トウカイテイオーは長距離の適性が多少落ちる事を伝える。テイオーは史実では、1992年の天皇賞・春でメジロマックイーンに敗れている。のぞみは事前にその事を調べていたため、スタミナが(三度目の骨折からの病み上がりであるのもあるが)落ち気味のテイオーをさり気なく気遣った。なお、撮影場所は翌日に『谷田部のテストコース』に変更され、撮影日は更に延びたのだが。
「距離は有馬記念とほぼ同じ程度に設定します。それなら、テイオーさんのスタミナも持つでしょう」
「まぁ、私も天皇賞は負けているから、縁がないのは、こいつと同じだがな」
「そういえば、あなたも……」
「ああ。サクラ軍団にしてやられたからな」
実際に、ウマ娘のナリタブライアンも天皇賞には縁がないので、嘘はついていない。のぞみにしては、意外に演技を頑張っている。転生後の苦労は無駄ではない証である。
「現役を続けているのは、そのリベンジのためもあるがな」
と、ここでサクラ軍団に触れる事で、史実に近い戦績である事を匂わせる。言い方自体はどことなく落ち着いた感じであるのは、ブライアン自身の精神面の成熟を表現するためだろう。
「撮影許可が降りない場合は、コースの変更を別途、ご連絡します。今日はお疲れ様でした」
「分かった。お疲れ様」
と、この日の撮影場所を離れる。
「撮影許可が降りないって?」
「峠って、今はまず、撮影許可が降りないんだ。たぶん、どこかのテストコースになると思うよ。そのつもりでいて」
「分かった。でも、ボク、3200以上はキツいよ~!」
「スピードを抑えてりゃ、意外に走れるもんさ。それに、直線だけフルスピードで走ればいい。あたしも友達や先輩に付き合って、レースに出た事あるからさ、コツは掴んでるつもり」
「そいや、あーやは趣味で、オートレースやモトクロスレースに出てるんだっけ」
「それと、腐れ縁の戦友(シャーリー/北条響)のこと)がレースに数合わせで出ろって言って、よく連れ出すからね。自然と覚えちゃって」
のぞみは実のところ、騒動の後の戦間期にはそうしたことを暇つぶしでしていた。騒動の後の数年ほどは『年間飛行時間を満たすための連絡飛行』と大学での講義の受講以外に、本当にやることがなかったためである。シャーリーはその間、前職が前職なだけに、積極的にレースに出場しており、本人曰く『大昔からの腐れ縁』ののぞみを付き合わせる事が多かった。これはルッキーニが『クロエ・フォン・アインツベルン』に扮している都合もあった。
「まさか、生身でそれを実践するなんて思ってもみなかったけどね。現役時代は運動部は出禁食らってたからさ、あたし」
のぞみは現役時代(サンクルミエール学園在籍時)は運動部から出禁を食らっていたほどの運動音痴であったが、変身後は第一世代のプリキュアのエース格である上、仮面ライダー並のアクションを見せているという落差がある。
「うっそだぁ。あんなすごいアクションできるのに、運動部が出禁?」
「変身してる時はどうにかなるもんさ。学生ん時は飽きっぽくて、どうにも続かなくてさ。で、運動音痴。それで出禁食らってたんだ。で、プリキュアになった後は身体能力が数倍以上は良くなるし」
A世界ののぞみは成人後もプリキュアであり続けた世界の住人であるためか、普段との落差を強く自覚していた。それ故か、戦い続ける事自体には抵抗がない。他の世界のように、少女期の『いい思い出』という風に割り切れなかったといえばそうなのだが、他の世界と違い、『学生生活を終えても、悪との戦いが続いた』とも取れるので、二足の草鞋を履きながら『戦士であり続いた』故の苦悩があったというべきだろう。
「あたしの世界だと、成人しても戦いが続いてたからね。力を手放すわけにはいかなかったんだ。元の世界でも、成人した後に家庭を持ったけれど、子どもたちと上手く触れ合えなかった。上の子と特にね」
のぞみは出身世界でも家庭を持ったが、シングルマザーであったのと、教職の多忙さが災いし、自分の子どもたちと上手く関係を持てなかったと述懐する。教職の負の側面に苦しめられ、せっかく築いた家庭も、長女が成人後にダークプリキュアになってしまい、のぞみの後を継いだ次女と戦う事が確定した。そこまでで、のぞみ自身の人生は幕切れとなった。その悲惨さは第三者であっても、目を覆いたくなるもの。特に、プリキュアであった者にとって、自分の子がダークプリキュア化し、悪の道に走ってしまった事は痛恨の極みであるのは想像に難くない。
「だからかな。転生しても、軍人になるのに抵抗がなかったの。世の中、夢を叶えても、その後はいいことばかりじゃないからね」
「……確かに。ボクも三冠逃すわ、連勝記録は途切れるわ……。おまけに、クラシック級を棒に振ったからなー。ウマ娘にとっての一年は貴重だからねー」
テイオーも、クラシック級の時期から、それ以前が嘘のように、不運に見舞われ続けたためか、以前ほど人生を楽観的に考えなくなっていた様子を見せた。ルドルフの後を結果的に継いだものの、三冠の箔を得られなかった事は人生最大の痛恨と考えているようである。
「でもさ、それなりに生きていくしかないんだよな。ボクには、カイチョーみたいな『絶対王者』の箔はない。だから、現役に留まって、競技者としての最大ポテンシャルを見せないと、若い子たちはついてこない。君はどうなのさ」
「うん。だから、あたしも軍を辞めなかったんだ。お上のお墨付きがあったから、押し通して、正式に退役することもできたけれど、体の元の持ち主への禊もしたかったのは本当だし、公の場でわがままを言えるほど、ガキでいられない年齢で覚醒したのも確かだしね」
テイオーはトレセン学園を生徒会長として束ねるには、自らの競技者としての実績を積み重ねていくしかない事、のぞみは『わがままが言えるほどに子供ではない年齢、錦が抱えていた『武門の家柄』故の立場、それを乗っ取ったことへの贖罪意識などを抱えている。お互いに苦労が多い立場である故のシンパシーがあったのか、以後、二人は友人関係となっていく。
「あ、ごめん。同僚からメールだ。……北東方面の防衛線は下げるしかないか…。11Fの撤退支援…。敵機は……?っと」
調からのメールが入った。南洋の北東方面は防衛線を下げるしかないという戦況が伝えられた。
「あそこ、11Fの管轄だけど、持ち堪えられないか…。敵機はF3Hだって…?」
調は現地部隊からの情報として、『F3H』が確認されたと伝えてきた。現地を守っていた飛行第11戦隊は事変以来の伝統を持つ精鋭だが、1949年には最盛期の人員の殆どは退役しているものの、一定の練度を維持しているとされていた。その彼女らも、誘導ミサイルを装備するF3Hの猛攻で損害を被り、撤退するしか無くなり、ハルビンは占領されたと見るべきだろう。
「誘導ミサイル装備の機体が出てきたなぁ……。11Fには荷が重いか」
「どうしたの?」
「南洋の北東方面から撤退する事になった。敵は冷戦時代の戦闘機を出してきた。ミサイル装備のね。軍の魔女の殆どは『ミサイルへの対応』なんて習ってないから、大損害出したみたい。連中、チャフとフレアも持ってないから」
「君のいる時代、誘導ミサイルはなかったもんね」
「そうなんだよ。せいぜい、無誘導のロケットがあるくらいだったのが、技術競争で誘導ミサイルだからね。チャフとフレアの標準装備化が必要だなぁ」
この急報は扶桑軍上層部にも通達された。レーダーの妨害にアルミ片が効果がある事は知られていたが、M動乱の前までは机上の理論扱いであった。呉の壊滅とM動乱、ダイ・アナザー・デイでその有効性が示されたが、魔女の部隊の多くはその戦訓を軽視した。そのツケを支払う羽目になったわけだ。F3Hは艦上機であるから、その近くに空母が展開しているのは察しがついた。
「敵も造る機体の取り捨て選択はしてるはずだ……。と、なると、F3Hでミサイルの海軍への普及を図ったな」
F3HはF-4の前身であるが、固定機関砲を持つ設計である。日本連邦もそうだが、機関砲を持つ方が何かと便利に使える。その兼ね合い、ミサイルキャリアーの失敗ぶりの記録、日本連邦特有の政治事情もあり、扶桑のF-4は当初より自衛隊での最終形態『F-4EJ改』として製造されている。リベリオンも諸事情で当初より『F-4E』相当で生産するだろうという予測があり、それは見事に的中している。
「ハルビンは敵の手に落ちたな。ここのところは勝ち戦だったけど、今回は負け戦だなぁ」
「ハルビンって、中国になかった?」
「昔の満州の街だよ。南洋は華僑の移民が多かったから、地名の多くは中国のそれが引き継がれたんだ」
「他の国は何してんのさ」
「ものの役にも立たないよ。ブリタニアも財政難で、まともな空母部隊も持てないと来てる」
ブリタニアはダイ・アナザー・デイ以降、財政難が表面化。植民地の独立こそ起きなかったが、軍備の近代化は財政負担が大きく、ブリタニア海軍の空母部隊は形骸化しつつあった。海軍の規模そのものの縮小、ジェット化による空軍の規模縮小の議論が泥沼化したブリタニアは日本連邦の超大国化を容認する派閥と、大ブリタニア主義者とが抗争になり、ブリタニアは太平洋戦線にほとんど寄与していない有様であった。東洋艦隊も増強が図られたが、空母は旧式化したものが儀礼的に置かれているのみ。既に『ジェット時代』を迎えた中で嘲笑の対象であった。ブリタニアは(空母の近代化に必須の技術はブリタニアが発祥である)も座視しているわけではないが、日本連邦の赤城の喪失への賠償金の負担が大きく、新型の新造に支障をきたしていた。当時はメタ情報で空母自体の大型化の未来が示されたため、その有用性を理解する日本連邦と自由リベリオンが次世代型の整備に邁進していく中、財政難のブリタニア連邦は空母の世代交代に四苦八苦していた。更に、既存空母の殆どがコマンド母艦運用に特化していたため、ダイ・アナザー・デイにも戦力的意味で貢献できない有様であった。
「んじゃ、ほとんど日米戦争じゃん」
「イギリスとドイツが蚊帳の外だし、フランスなんて影も形もないしね。太平洋の覇権争いには」
「どうすんの、君は」
「今の仕事が終わったら、北東方面の火消しに回されるだろうね。ミサイル装備の戦闘機を圧倒できんの、うちの隊だけだから。11戦隊の連中には荷が重いって、具申はしてたんだけどね」
「君も辛辣だねぇ」
「11Fの連中は世代交代してるし、四年前の戦に参加してないからね。ジェット時代の空中戦を知らない。ズブの素人さ」
のぞみにしては辛辣だが、未来世界でチャフやフレアを使いまくる『マイクロミサイル』の雨あられと格闘してきたという自負があるからだろう。
「それに、先輩にバルキリーで空中戦の訓練させられてきたからね。つけ焼刃じゃ落とされるよ」
「あーやって、そういうのはきっちりさせんだねぇ」
「そりゃ、先輩、訓練で流星拳を打ってくるんだもん。マッハ5で」
「過激ぃ…」
「おかげで、変身してなくても、マッハ5くらいは素で見切れるように。先輩は拳のスピードに上限ないんだよ。変身してても、怪我することあるんだ」
「そりゃ、普通に考えりゃねぇ」
テイオーは学業優秀であるので、速度とパワーは比例する事を知っている。マッハ5のパンチは普通に『大車輪ロケットパンチ』より強力である。
「マジンガーのロケットパンチより速いのが打たれるから、始めのうちは怖かったよ。プリキュア状態で『見えない』んだよ?パンチが」
「ふえー……」
「おまけに、先輩達が本気になったら、仮面ライダーでないと見きれない『光の速さ』だよ?視覚が宛になんないって、チビるよ」
「君、もしかして、訓練の時……」
「脚が折れて、廃棄予定の双発輸送機が木っ端微塵になった時に……恥ずかしながら……」
のぞみは訓練で『ちびった』事があり、観戦中の圭子に『ションベンくらい行っとけ』と呆れられた事がある。
「ケイって、アウトローっぽい人だよね。元から?」
「いーや、新人時代は普通の魔女だったんだよ。それが覚醒したら、ネジが三本か四本抜けてるようなガンクレイジーになったんだ。転生して初めて会った時、本当に冷や汗かいたよ…」
のぞみは転生してからは黒江の部下であるが、圭子にも使われる立場であったので、圭子に挨拶したら『どう見ても、カタギじゃない!!』と思ったと告白する。
「あの人、ゴルシと気が合うようだけど」
「ぶっ飛んでる同士で気が合うんだよ、きっと」
「君もたいがいだって」
圭子は覚醒後の異名が物騒であり、参謀となっている、元上官の江藤からも『扶桑の狂気』と評されているなど、恐ろしい逸話に事欠かない。その一方で、扶桑の海外勤務者にベレッタ社の拳銃を流行らすなど、青年将校文化の先導者の一面もあり、腹心の真美は『姉様はネジが元から外れてるんだ』と意に介さず、のぞみにそう声をかけている。真美は1940年代の基準でも小柄な体格であるが、覚醒した後の圭子の動きについてこれる俊英であり、飛行学校の期も錦より数年は上であるなど、幹部扱いである。
「少佐だけど、中間管理職だからね、あたし。上がごちゃまんと超人、後輩のプリキュア連中をある程度はまとめないといけないし。リーダーっての、現役時代は嫌いな言葉だったんだけどな」
「仕事する立場になると、それが必要だってわかるよ。ボクも生徒会長に指名されちゃうとね…」
管理職というのは辛いものである。仕事をするには、剛腕でまとめるのも必要な時がある。部下の失敗の責任を取らなくてはならないこともあるが、社会生活を送る上で必要な立場である。それを補佐できる人材も得難い。圭子にとっての真美、黒江にとっての黒田のように。
「そそ、智子とは?」
「あの人は三羽烏で一番にへっぽこだから、普段」
「うちのキングヘイローみたいなもんか。あの子、どこに行ったんだろう。アメリカから出た形跡はないんだけどなぁ」
テイオーの口から、メジロ家やシンボリ家などの名家のツテも使ってのキングヘイロー捜索は行き詰まりを見せてきたらしい事がわかる。
「キングヘイローちゃんの母親の事の報道は?」
「君と入れ替わる前に、ブライアンがシンザンと取引して、報道管制を引いたよ。ブライアンがやるなんて、思ってもみなかった」
「ダーティーな仕事だから、テイオーちゃんにやらせたくなかったんじゃない?」
「ぬ~!ボクだって、いつまでも子供じゃないのに~!」
「それに、裏取引には見返りも必要だからね」
ブライアンは自身の復活の約束をちらつかせ、オルフェーヴルやディープインパクトの台頭まで『当代の三冠ウマ娘』としての責務を果たすというのを条件に、シンザンを動かした。シンザンは神のウマ娘と謳われたため、その威圧感は後輩のメジロアサマやスピードシンボリの比ではない。既に老齢だが、容姿にさほどの衰えもなく、目測で30代に見えるほどの美貌を保つ。ブライアンだからこそ、シンザンと話ができたのだ。
「それに、シンザンって、戦後初の三冠だよね。なのに、メジロマックイーンちゃんのおばあさんより若い外見なんだろうねぇ……?」
「ブライアンの送ってきた写真見ても、とても老齢に見えないよねぇ…」
その傍らには、世話役のハイセイコーが控えている様子も写っている。ルドルフやオグリですらも目通りが叶わなかった『ウマ娘界初のアイドルにして、怪物』。こちらもさほど容姿に衰えはなく、現役時代にターフを湧かした頃の面影を残す。オグリキャップが立場上の後継ぎだが、実子にカツラノハイセイコがいる。
「あなた達は能力が外見より先に?」
「うん。肉体の衰えも揺り戻しみたいに来るんだ。サクラチヨノオー先輩はそれで引退をするしかなかったんだ。ダービーを取った事で『使命が終わった』みたいに」
オグリ世代はテイオー世代がシニア級(古馬戦線)に突入した時代には全員が引退済みだが、ウマ娘の宿命や因果を示す絶好のサンプルでもあった。サクラチヨノオーの悲運は史実通りであるが、それを知った事がゴルシが決意を固める理由となった。
「それを破りたいのかも、二人は。あなたもでしょう?」
「うん。運命を超えたい。だから、そのためにはゲッターでもなんでも、魂を賭けるさ」
ゲッター線はプリキュアのみならず、ウマ娘にも『運命を超えんとする』闘争心を呼び覚ます。テイオーもまた、運命を破るための扉を開こうとしていた。
「ゲッターに受け入れられるには、なんでもいい。戦う意志が必要なんだ。他を犠牲にしてでも、生き残るくらいのね。あなた達の闘争心なら、ゲッターは答えてくれるよ」
ゲッター線は闘争本能を引き出す。それは進化の過程で生ずる淘汰を引き起こそうとも、貪欲に戦おうとする意志を尊ぶ本質を表している。なお、ゲッター線は放射性物質でもあるので、ゲッター炉でお湯を沸かせば、それだけでゲッターエネルギーを帯びた温泉となる。ゲッター1ほどの出力のゲッター炉があれば、充分に効用のある温泉となる。効用は『肉体の治癒力増進、疲労回復、眠気ざましなど』で、早乙女博士が晩年に考えていた『平和利用』の一環だったという。
「でも、ゲッター炉でお湯を沸かすなんて、危ない気が……」
「な~に、早乙女博士が晩年に考えてたくらいには安全だよ。ゲッターエネルギーが本領出すのには、真ゲッタークラスの炉心が必要だし」
「え、でも、オーバーロードしたら、浅間山の周囲数百mはクレーターだよね」
「あれは自爆目的で設計上限超えのパワーを出した上で爆発させたからだよ。ゲッター1クラスの炉心はむしろ安全だよ」
この使用法は神隼人が司令官転向時に負った傷の治癒目的が始まりであり、オーバーロードしないくらいの圧力でゲッター炉を稼働させる事で、強力な効用の温泉になることがわかったのだ。ネイサーの温泉は実はこの仕様であり、一文字號は『なんつーあぶねー温泉だ!』とぼやいている。
「湯船の底に炉心置く訳でも無いし、気にしなくても大丈夫。ラドン温泉とかと同じ感覚だよ」
「いいの、ゲッター温泉なんて」
「戦闘ロボ作るのは、本当は早乙女博士も嫌がったからね。ある意味じゃ、本当に平和なエネルギー利用だよ」
ネイサーを興した後も、神隼人がゲッターパイロットでいられたりしたもの、ゲッター線の温泉の効能である。(最近はプロフェッサーランドウの軍勢の攻撃で、鼻に大きなキズを作ってしまったが)
「うーん…。入ってみようかなぁ」
「んじゃ、今夜、のび太くんちの共同風呂とは別の通路で案内するよ。データ取りの段階だし、ゲッター線が医学的に何をもたらすかは未知数だから」
それはプロフェッサー・ランドウも若かりし頃に研究していたものだったが、彼はミュータントを作ることに傾倒、固執したために学会から追放された。早乙女博士がしようとしていた事は謎になったが、ニュータイプとは違う形での『種の変革』を目指していたのでは?と、橘博士は推測している。ゲッター線研究は隼人が戦闘面、橘博士が学術面を引き継いでおり、生物学などが橘博士の本来の専門だという。
――こうして、のぞみはその日、遠征中ののび太に連絡を入れた上で、テイオーに試しにゲッター風呂に浸かってもらい、自身も入れ替わっている身で入った。その過程で、ブライアンとのぞみが入れ替わっている事を知ったマヤノトップガンは大いに喜び、ブライアンが普段はしてくれない事をここぞとばかりに、あれこれ頼みまくったという。