――扶桑海軍は短期間で艦艇の自動化を達成したことで人員の整理と組織再編が行われた。連合艦隊は旧式の軽空母がごっそりと退役したことで空母機動部隊の少数精鋭化が進み、主力機の一角にコア・ファイターが食い込む珍事となった。軽空母に雲龍型航空母艦がスライドし、正規空母に新鋭の『瑞龍型』(スーパーキャリア)が収まる予定であった。いつの時代も少数精鋭が日本のお家芸なわけだ。当時は政治家の関心はスーパーキャリアの保有であり、空母機動部隊の稼働率の維持には興味はなかった。それが海軍の不幸であったのである。とはいえ、短期間にF-86系から1970年代以降の機種にワープ進化を果たしたのは褒め称えるべきだろう――
――魔女装備は魔導理論の進化を待たなくてはならぬので、第二世代理論の先行試験が精一杯であった。更に、魔女は(マルセイユの事故以来)ぶっつけ本番を嫌う傾向が強いのもあり、装備更新の遅滞を招いていた。通常兵器が矢継ぎ早に更新されていくため、危機感を持った陸戦装備に重点が置かれており、空戦装備は二の次とされた。64Fでさえ、第二世代理論機の配備が少数に留まっていたのも、その事実の補強となっていた。陸戦装備は空戦装備ほどの制約がないために順調に開発され、既に戦後第一世代戦車相当のユニットが開発されていたが、航空魔法理論は1940年代に主流であった理論では『装着者の負担無しで高速を出せる』条件が整わなかったのである。更に魔導触媒物質の消費量が多くなった事もあり、資源管理の側面で生産数が抑えられたのも、普及の遅延の理由であった。また、時空管理局の魔導師の用いる大規模魔法の使用に耐えられる魔力と回復量を持つ体質の魔女が希少であった事も、魔女の立場低下の一因であった。軍事的に『対人戦で役に立たない』と判定されてしまったからだ――
――この思想の大転換は魔女たちの生き残りを賭けての行動に繋がり、名うての魔女ほど、日本連邦の義勇兵へ志願しての戦功の獲得を目指した。怪異がスーパーロボットの登場で脅威視されなくなった事を理由に、軍縮を始めた軍隊が続出したからである。更に言えば、長年の戦時財政で、国の財政自体が危うくなったのも理由であった。日本連邦は否応なしにそれら『職にあぶれた魔女の受け皿』を求められ、魔女の人的供給をそれで賄うようになっていた。坂本が育成ノウハウの維持を叫び、新規志願の窓口を維持させたのは、その風潮への抵抗であった。当時は扶桑軍で主流であった派閥の力が失われ、高級将校の内、前線指揮能力に優れた者が重宝される一方で、旧来的な官僚軍人の多くが失脚したことで、軍の事務処理能力が大幅に低下。日本自衛隊から多数の出向者を供出させることで、事務処理の遅延に対処するという醜態を晒している。扶桑の戦争が長期化したのは、日本側が防衛に徹しさせたい故に、外征装備の保有に難色を示していたのを『外圧』で変えさせる事が常態化していたからである。装備の刷新による少数精鋭化を好んでいたのも、扶桑軍の苦戦の理由であった。鹵獲品をそのまま使用する風潮も多く生じたため、結局は日本側が新装備の増産を認めるなど、戦中の日本軍を笑えないレベルのグダグダぶりを露呈していた――
――扶桑国民は戦時になると、それ以外に興味が無くなると揶揄されたものの、日本も日本で、多くが国防に無関心であったので、どっこいどっこいであった。どんぐりの背比べとも言われていた。その関係上、自由リベリオンとアメリカ合衆国が双方の調停と仲介を行うという状況となっていた。その関係上、リベリオン/アメリカ文化が扶桑に大規模に伝播し、扶桑国民の思考を少しづつ変え始めるのである。カールスラント/ドイツ文化への思慕がダイ・アナザー・デイでのカールスラントの醜聞で冷めた扶桑が、その代替として縋った外国文化が『リベリオン/アメリカ文化』であったのだ――
――ダイ・アナザー・デイでの醜聞は当事者の危惧以上に危うい状況で、公表があと数時間でも遅延していた場合、大使館の焼き討ちは確実であった。熱しやすく冷めやすい扶桑国民の気質を垣間見た欧州諸国は『うまく味方にしたほうが良い。怒らせたら、何をされるか……』と考えるようになっていった。カールスラントの内戦の一因が『日本連邦に軍の醜聞を暴かれたから』という認識であったのと、資源小国であるスオムス(フィンランド相当)に(智子の一件を理由に)経済制裁をチラつかせ、資源の供給を絶たれる事を恐れた同国をイエスマン化させたからである。(史実のフィンランドはロシア寄りであった時期が長かったが、魔女の世界のスオムスは早期に独立独歩の志向を持っていた故に、オラーシャに『また飲み込まれる』事を恐れる風潮が強く、戦争の急激な近代化で自国の軍事力が陳腐化してしまったため、超兵器と超人を抱える日本連邦と戦争になれば、『数時間で全てを滅ぼされる』という予測がなされたのも、イエスマン化の理由であった)カールスラントの軍事大国としての終焉と日本連邦(と、その背後の自由リベリオン)の台頭は欧州が世界の盟主であるという事実の崩壊と新たな時代の到来を示していたのだ――
――外交の道具にされた格好の智子。転生者である事もあり、軍に骨を埋めることになった。戦友のエリザベス・F・ビューリングも現役に復帰しており、64Fで轡を並べていた。時勢的に、実績がある魔女ほど、軍を離れることが許容されなくなったためで、日本連邦軍の義勇兵という形で『少佐』の階級を得ていた。(曰く、『軍を離れて、ファッションモデルをしていたら、故郷で爪弾きにされるようになって、ブリタニアに嫌気が差したから』とのことで、ダイ・アナザー・デイで現役に戻ったが、軍籍は日本連邦のものになっている)――
――遠征中のある日――
「ごめんなさい、ビューリング。あなたをあたしの『旅』に付き合わせちゃって」
「構わんさ。ブリタニアにいても、はみ出し者のレッテルを貼られるだけだ。日本連邦で悠々自適に過ごすほうがマシだし、お前の旅路の道連れになるのも悪くないさ」
ビューリングは智子のスオムス時代の戦友では(ハルカを除いて)珍しく、智子が背負った境遇を慮り、そばにいる事を選んでいた。これは智子が『神域に至った故の孤独』と戦っているのをスオムス時代の末期に知った故で、ブリタニア空軍を任期満了で引退した後、日本連邦空軍に再就職していた。対等にモノを言い合える仲であったビューリングが補佐についた事により、智子はスオムス時代と同じ感覚で仕事をこなせるようになっていた。
「それに、お前も面倒を見るのが多いからな」
「ガキの頃からよ。もう慣れたわ」
64Fでは、この二人のように、『元々の所属していた軍隊に囚われない副官』を抱えることは当たり前で、武子が檜大尉、黒江が黒田やのぞみを副官に添えたように、副官が同郷である方がむしろ少なかった。これは幹部層の全員が統合戦闘航空団、ないしは義勇飛行隊の所属経験などを有していた関係である。シャーリーのように、特定の副官がいない場合もあるが、大抵は副官を抱える。扶桑は従卒もあったが、日本連邦の発足後は(士官に特権意識を持たせないために)役職そのものが廃されるはずであったが、現場から多くの異論が吹き出てしまった。日本側は『時代遅れの役職と文化であるので、廃止したい』という意向であったが、作戦指揮担当の士官に世話役としてつけるという内規であったので、実務上の不都合が起こったのだ。代替に副官の職責を拡大させる案などが議論されていたが、扶桑軍は既に大量の佐官・尉官級の将校をクーデター後の粛清人事で喪失していたので、それが務まるかの議論が起こり、その結論が出ぬままで太平洋戦争に突入したのである。その関係上、気心の知れた者を副官とする将校は多かった。智子も、かつての戦友であった、ビューリングを副官とする形にしていた。
「お前……あの時点で、本来の性格を演じていたのか?」
「殆ど地よ。綾香と違って、そこまでの演技は出来ないもの。記憶の封印が解かれるにつれ、前世以前の技能を取り戻していったわ。42年には、その状態になってたわ。スオムスからの離任を断ったのは、わかってたからよ」
「連中が現れ、世界を変えてしまうことを、か」
「ええ。一部の高級将校には情報は流しておいたのだけど、結局は前世と似た流れになったわ。私が501に送り込まれたのは、その意図も含まれていたのよ。だけど、あの子が嫉妬しちゃってね」
「あれほどの将校がな…。信じられんかったよ、お前の話を聞いた時」
ミーナの嫉妬は結果的に源田実や山本五十六の本来の戦略構想を潰してしまい、上層部に転生者の一括管理の場を設ける必要性を痛感させた。ミーナは査問の場で『その構想を知らせてくれていれば、三人にそれ相応の待遇の用意ができたのに』と釈明したが、保身目的のいいわけと認識され、処分がそのまま正式に決定した(人格の変貌で軽くはなったが)。ミーナに完全に非があったからである。
「あの子は私達が往時の戦闘力を持ったままなのを認識していなかった。圭子がロンメル将軍達を説得して、戦場で暴れ出した時、事の重大さを認識したわ。顔面蒼白だったというわよ」
「だろうな。上の世代の与太話と思っていた伝説の張本人が往時と変わらぬパワーを奮うというのは、魔女の常識ではありえん事だったからな。しかも、赴任前にアフリカ戦線をしばらく安定させた功労者だったのなら……。扶桑の歴代最高の逸材を送って、あの待遇では……」
ミーナは人格が元のものであった最後の時期、精神的平静がまったく失われ、友人にもヒステリックに当たり散らすという醜態を晒していた。ハルトマンには見放され、坂本にも失望されたほどの狂乱ぶりであった。バルクホルンの事後の考察ではあるが、『部隊を乗っ取られることを恐れていた上、坂本が自分よりも、三人に信を置いている状況を受け入れられずに狂乱したのでは?』という考察が当事者によってなされている。それ故に、常に冷静沈着な『西住まほ』の人格が隊の人望を集めるのは当たり前であった。
「なぜ、中佐はあんな待遇を?」
「あたしたちの書類上の年齢…でしょうね。普通は戦えるとは思わないでしょうし。でも、事変の七勇士の伝説は聞かされていたはずでしょうに」
事変の七勇士の筆頭格であった三人は特別な存在。その認識は上層部の間では生き続けていたが、現場からはすっかり失われていた。それもミーナの悲運を助長した。坂本は査問の前までは、ミーナを擁護しつつも、三人の顔を立てようとしていたが、ミーナの無知により、全ては徒労に終わった。それが智子の視点から語られた。結局、64Fが統合戦闘航空団そのものに取って代わる形になり、本来予定された面々の代わりをプリキュア達が勤めた。本来は生き残っていた各統合戦闘航空団の面々を柔軟に運用する手筈であったのは言うまでもないが、プリキュア達が一騎当千の強者であった事から、そのほうが良かったと言われたのである。実際に、各統合戦闘航空団の構成員は供出国の都合と負傷で、64Fを早期に去っていた。のぞみたちの覚醒は『その隙間をばっちり埋める形になった』のである。
「あの子達の登場で、日本連邦の覇権が決まったのは、欧州へのいい意趣返しになったわ。地球連邦の物資支援はあれど、あの子達が頑張ってくれたから、地球連邦の増援が到着するまでの時間を稼げた」
「それがガリアの目論見を崩壊させたわけか」
「ええ。あの大統領の予定だと、私達の奮戦虚しく、戦線は崩壊。それを自分の指揮で立て直し、ガリアにナポレオン時代の栄光を合法的に蘇らせる…。誇大妄想もいいところの計画よ。あの人は確かに、それなりの将校ではあるけど、ナポレオンほどの才覚はない。あくまで、ペタン達よりはマシ程度の範疇……カリスマ性は認めるけどね」
智子の口から、ダイ・アナザー・デイ後に露見したガリアの極秘計画のことが明かされる。智子をして『誇大妄想』と言わしめた、シャルル・ド・ゴールのガリアを『守る』計画。ある意味、金属資源が大量に失われたガリアが戦前通りの大国として振る舞うためには、欧州に確固たる地位を再び持つことだと結論した事は正しい側面もあった。だが、当の自国にそれを成し得る軍事力と生産力がなかったという現実を無視した点で『荒唐無稽」と言わざるを得なかった。実際には、64Fがド・ゴールの予測よりも遥かに強大な力で戦線を支え、地球連邦の増援が到着し、その超兵器でリベリオン軍を撤退に追いこんでいくことになり、その流れを主導した日本連邦が以後の世界の命運を握ることになった。
「お前たちが呼び寄せた彼らの超兵器は……私達の常識からは隔絶したものがあった。その力を生んだ要因は戦争……複雑だったよ」
「そうでなきゃ、あの地獄みたいな世界で、人類の生存圏は維持できないわ。スーパーロボットはいわゆる、機械仕掛けの神に等しいもの」
スーパーロボットの存在を『機械仕掛けの神』に例え、偶像崇拝すらされるものだと、ビューリングに教える智子。古くはバウワンコ王国の巨神像がそうであったように、スーパーロボットは往々にして、偶像崇拝の対象になる。だが、大まかには『兵器の一種』である以上、その性能の陳腐化がいつかは起こる。それを見越しての後継機や強化型の開発も必要であった。マジンガーZへのグレートマジンガー、ゲッターロボに対するゲッターロボGのように。それが未来世界を救う原動力であったのだと。
「科学が希望を産み出す事もあれば、絶望も産み出す。惑星破壊プロトンミサイルや、遊星爆弾がそれよ」
「星も破壊する兵器が量産されているのをシャルル・ド・ゴールが聞いたら、泡を吹くだろうな」
「波動砲はこっちの手元にある。ド・ゴールが核兵器を手に入れて居丈高に振る舞えば、心を砕くために、拡散波動砲でパリを消し飛ばすって脅す手筈よ」
「いいのか?」
「核兵器なんて、宇宙時代には『閃光花火』も同然の玩具よ。地球連邦軍も、『より強い』反応兵器を使っても無駄だったことは多かったから、波動砲とその派生を量産したのよ」
波動砲も無敵ではない。それは拡散波動砲の悲運で証明されている。光子魚雷も同様である。とはいえ、それを持たない者達への抑止力にはなる。コズミック・イラ世界のファンデーション王国が独立後に大人しかった理由もそれだ。コズミック・イラ歴の世界での二度の大戦での拡散波動砲やマクロスキャノン、光子魚雷の強大さは同世界の文明では、発射後の対処すら困難な代物であったからだ。度重なる戦争で『思考と逆の行動を取れるパイロット』が精鋭部隊に多かった地球連邦軍の機動部隊への対応が難しい上、スーパーロボットの力を『何を当てても傷すらつかない』という宣伝で大げさに報道させていた事は彼らの行動の抑止になっていた。
「別世界の一つに、彼らは方面軍を置いてるけれど、超兵器は二、三個でも存在を誇示してれば、野心を持つ者の行動を抑止する。ゲッター真ドラゴン(龍型)はまさにそれよ」
デザリアム戦役で鹵獲されたゲッター真ドラゴンは戦役後、ネイサーの手で修復と改造が施された後、コズミック・イラ世界に抑止力として置かれた。惑星を一撃で破壊する超兵器として。全長6.5㎞の巨体、その巨体が幾何学的機動で乱れ飛ぶという光景は、敵には悪夢であろう。また、合成鋼Gの装甲はコズミック・イラ世界の兵器のほとんどを寄せ付けないため、それも敵味方に恐れられる理由だ。二人の言う通り、科学は時として、神を人工的に生み出しうる。ダイ・アナザー・デイで証明されたことであった。
――海底軍艦・インペロが曳航され、移動されていく最中のこと――
「久しぶりだな、三号」
「ほう、あの時の娘か。容姿は変えているようだが、生命反応と気配でわかったぞ」
「あの時のリターンマッチをさせてもらうぞ」
「そんな事、俺にはどうでもいいことだがな。まぁ、いい。つきあってやろう」
仮面ライダー三号。黒井響一郎と黒江が戦っていた。以前と違い、黒江の戦闘力が飛躍した事もあり、互角の攻防となった。
「ふ、あれからの長い時間で、特訓を重ねたようだな」
「お前、世界線の違いの記憶を?」
「俺は本来、存在せんはずの改造人間だ。そんなことは些細なことにすぎん」
本来、三号の存在は『仮面ライダー』という存在の正史にはない。それ故に、異なる世界線の記憶をデフォルトで持つようであった。
「ライトニングプラズマ!!」
黒江はライトニングプラズマを繰り出すが、三号はなんと、光速すらも見切るという芸当を披露してみせる。
「かの方の器として作られたこの体、光速などは容易に見切れるぞ」
三号は自分がZXと別口で『大首領の器』になるべく改造されたと明言し、ライトニングプラズマを軽くいなし、超光速のライダーパンチで黒江を吹き飛ばす。さすがの黒江も防御が間に合わず、大ダメージを負ってしまう。
「ぐ、グホ……。おかげで、昼飯をゲぼっちまったぞ……」
「俺のパンチを食らって、その程度で済むとはな。相当に肉体を鍛えたようだな。褒めてやろう」
三号の戦闘力は、黄金聖闘士となった黒江にもほとんど動じない。明らかに(1973年という改造時期にしては)異常な戦闘力であった。
「さて……遊びは終わりだ」
「クロックアップ。やはり出来たのか!ならばっ!」
黒江も負けじと、クロックアップを行う。クロックアップは『タキオン粒子を操って起こす現象』であるので、それを操る術さえ持てれば、生身でも可能である。三号と黒江は『加速した世界』で戦いを続ける。周りはほぼ静止しているが、彼らは超高速で戦っている。
「はぁっ!!」
二人の蹴りがぶつかりあい、衝撃波が散る。そして、小細工無しでの徒手空拳が乱れ飛ぶ。
「あんた、なぜ姿を見せた?」
「お前がどれほど腕を上げたか、体で確かめたくなった。それだけだ」
三号の変身者『黒井響一郎』の人間態の容姿は40代前半ほどである。彼が青年期の姿を取らず、壮年期の外見を好んでいるのか?それは改造された時期、彼は既に世帯者であったが、組織が彼を勧誘するため、妻子を殺していたからである。彼はそれを知らないか、引き返せないと思っているかは定かではない。四号は完全な邪悪だが、黒井響一郎は往時の人間性を保っている。それが彼の立場の特別さを引き立てていた。
クロックアップが終わり、蓄積したダメージで黒江は血反吐を吐き、膝をつく。三号は仮面のクラッシャー部に血の滲みはあるものの、目に見えてのダメージはない。
「なるほど。お前の努力を認めてやる。だが、まだまだだ。もっと経験を積め。俺とお前に、物理的な時間などは関係なかろう?俺は逃げも隠れもせん。いつでも相手をしてやる」
三号はどこか優しげな『忠告』をして、去っていく。敵ながらも、心に爽やかな風を吹かせて。
「クソ、なんてザマだ…。だけど、あいつ…。以前と違う気がする……なんでだ?」
それは黒井の心境の変化でもあった。以前の世界線から記憶と能力を引き継いでまで、自分とのリターンマッチを挑んできた事は、黒井響一郎には意外なできごとであり、亡き子が無事に成長できていれば……という心境に至ったのだろう。それは彼が一時でも『父親』であったからだろう。黒江は不思議そうにな表情をしつつも、負傷した体を引きずるようにして、駐屯地に戻っていく。だが、その心は不思議と晴れ晴れしていた。リターンマッチには判定負けしたものの、善戦できたことで、以前の『惨めな自分』に真に踏ん切りをつけられた事も大きかった。とはいえ、黄金聖闘士になってからは初の大怪我であるので、智子に叱られるのを覚悟するのであった。
――そして……――
「ほう。それがあんた本来の進化か?」
「あなたは……?」
「言ったろ?別のあんたの体を借りている者さ」
エターニティドリーム形態の姿で、ドリームキュアグレースの姿ののぞみBと正式な対面を果たしたナリタブライアン。互いに『二つの世界におけるキュアドリームの最強形態』だが、後者は『ヒーリングっど・プリキュア』のパワーが変身に必要である事、前者はキュアドリーム単独での最強形態であった『シャイニングドリーム』のさらなる強化形態である点が異なる。なお、ブライアンの入れ替わりは『鼻にテーピングテープを貼っているか』で容易に判別可能である。
「私はナリタブライアン。まどろっこしい説明はあそこにいる奴から聞いてくれ」
「えーーー!?」
「性にあわんのだ、細々とした説明は」
肉体は同一人物のそれであるが、パーソナリティの差により、のぞみBは現役時代の声色そのものだが、ブライアンのパーソナリティが反映されているのぞみAの肉体が発する声は大人のぞみと現役時代との中間ほどと言えるもので、キュアドリームとして決める際の声をベースに、更にちょっとトーンを低くしたような雰囲気であった。言及され、ちょっとうれしそうなのは、ブライアンのお目付け役であるゴルシである
「戦いが落ちついたから、あんたと話しておけと、アイツがいったんでな」
「ああ、あの人……。そっちの私の上官だっていう」
「そうだ。あんた自身の分も挨拶しろとの言付けなんでな」
ブライアンは『かったるい』と言いたげだが、生徒会の副会長である故に、意外とこういう挨拶はきちんとするのである。よく見てみると、眉毛がキリッとしていたり、纏う雰囲気も自分のような『かっこよさの中に母性などを内包するもの』ではなく、全面的に獰猛さを感じさせるもの。それに、昔の不良漫画の番長のような『バンカラさ』をアクセントにしたような雰囲気であった。のぞみBは『自分自身の肉体だというのに、そんな雰囲気の違いに圧倒されるのだった。