ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第六百三十話「様々な状況 3」

――扶桑皇国は結局、日本との連邦により、戦争の終結のビジョンが抱けなくなった。大昔とは完全に時代が違っている事を思い知らされたからで、結局は太平洋戦争の意趣返しと言わんばかりの『全てを灰燼に帰す』(文化財除き)やり方に落ち着く事になった。史実で大量破壊兵器が二発も使われた事から、昭和天皇も『報復措置での使用はやむなし』とした。日本は反対であったが、アメリカのような『重爆撃機による街の無差別破壊』に忌避感が強い軍部の魔女を黙らせるには、反応兵器の報復措置での使用による恫喝しか手がないのである。五大湖の工業地帯を壊滅させなくては、和平交渉に応じないという悲観論が支配的であったため、大量破壊兵器の登場は既定路線であった――

 

 

 

 

 

 

――日本系国家は天皇を神輿にしての集団指導体制で成り立っていると言える。そのため、近代的な戦争に必要なリーダーシップが決定的に欠けていた。皇室から軍事的権限の大半を実質的に取り上げても、それに不満な将校は大勢いる。魔女の世界では、それは参謀級の将校に多く、皇室はその暴発の防波堤の役目を担っていたからだ。Y委員会が旧体制での枢密院と重臣会議の双方の役目を担ったのは、事変の記憶が色濃い時代であった故の必然であった。元帥が軍の階級として復活したのは、皇室の軍事的権限の縮小に伴う代替措置と『他国の元帥との釣り合いのため』であった。時代錯誤という声が日本から出たが、欧州に元帥がいる事、アイゼンハワーやニミッツが(権威付けのために)元帥(アイゼンハワーは大統領と兼任)になった事から、名誉階級に近い扱いながらも、元帥が定められた。これは実務上の理由として、『自衛隊の幹部が扶桑軍の部隊を指揮する事もありえるが、扶桑には元帥がいるから』という大義名分があり、実際、山本五十六や古賀峯一は元帥と見做されていたからである。この戦争では、(海軍と空軍が主力である事から)統合幕僚長も空自と海自の出身者が充てられている。また、扶桑が戦争状態にあることから、(混乱防止のため)自衛隊の統合司令部の設置と検討中の統合司令官の新設は先送りとされた。そのため、超人であり、双方で高位の階級である黒江の職責は重大なものとされた――

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは扶桑が黒江らによる内部改革の最中かつ、戦争状態にあることからの妥協的な措置であった。日本は既に扶桑の国防構想の多くを潰してしまった(連合艦隊の解消と任務部隊への移行など)格好であったので、恥の上塗りを避けた形になる。海軍は軍備を戦後型に切り替えている最中にあったが、軍事上の理由で、戦艦と重巡が主力装備から外されていないという点が異なる。とはいえ、既に日本式の(水雷突撃特化の)重巡は時代遅れと見做されていた事から、実質的に『デモイン級重巡洋艦を模倣した設計思想に水雷突撃機能を付加させる』方法が取られた。これが伊吹の後継を予定される次期巡洋艦であった。史実では、1940年代の終りには、水雷戦隊の時代はとうに過ぎていたが、魔女の世界では、対潜・対空迎撃網がほぼ完璧になり、空母機動部隊の質的優位が確立されていた事から、扶桑の水雷戦隊は(海戦の優位性を保つ必要があるので)維持されていた。水戸型戦艦の第一生産ロットが出揃っておらず、空母機動部隊が(稼働艦の少数化で)形骸化していた状況では、彼らが戦線を支えていた。伊吹型は『繋ぎ以外の何物でもない』と揶揄されていたが、空母としてよりも、巡洋艦として生まれたほうが活躍するという事態となっていた。これはジェット機の時代に入り、旧来型軽空母が無用の長物と化した現実に即していたため、普通に水上戦闘艦にしたほうがコストパフォマンスが良かったのである。これに空母化を推していた魔女閥は激しく落胆したが、彼女らは既に政治的な力を失いつつあったので、当たり前であった――

 

 

 

 

 

 

 

――日本式の軍艦の設計自体が否定された扶桑では、若手~中堅の造船官の自刃が相次いだ。これは水雷攻撃と防御技術、対潜技術の停滞を招いた責任があったからで、M動乱の大損害に自責の念を抱いた者達が相次いで自刃した。このショックにパニックになった艦政本部は、それまで多用されていた『カールスラント式のダメージコントロール技術』を見限り、戦後日米の技術を祖とするダメージコントロール技術を採用するようになった。その関係で、カールスラントの造船技術が時代遅れとなった事は衆目に知れ渡る事になった他、扶桑海軍の軍艦の設計思想が様変わりするきっかけとして機能した。日本連邦体制では、軍の人的損害が大きければ、政治的に叩かれるので、必然的に防御重視にならざるをえないのだ。同時に、火力重視の傾向も強まったため、巡洋艦以上の艦艇は連装四基以上の砲塔を有する事が絶対条件とされた。これは主な仮想敵が重火力で鳴らす、モンタナ級戦艦とデモイン級巡洋艦になったからであり、必然的に大型化は避けられなかった。水戸型が350mを超えた理由も『浸水への耐久性に余裕を持たせろ』という至上命令によるもの。日本側にはそう説明されていた。それをうなづけるように、扶桑が竣工させていった新世代戦艦は『大和の強化型』であった。既に八八艦隊型以前の戦艦は時代遅れとされ、退役。もしくは別用途へ転用されており、大和以降の新世代での統一は理に適っていた。空母や強襲揚陸艦の数を持てない日本連邦は水上艦艇と潜水艦の質を『追いつけないほど』強化するしか、消耗戦必至の戦場を戦い抜く方策はなかった。また、通商破壊防止の観点から、対潜網が21世紀水準で整備されていった。これが日本連邦の超大国化に大きな役目を果たすのである。また、史実の米軍が度々起こした『現場判断での輸送船撃沈』を即座に非難する準備を進めた。また、史実で日本を追い込んだ『飢餓作戦』の意趣返しも並行して進められたが、全ての資源が豊富に産出される北米大陸には効果が薄いという指摘がなされた(海上封鎖以外の効果が見込めない上、北米は日本列島の比ではなく広い)。更に言えば、魔女の世界では、史実通りのパナマ運河は存在していないので、史実ほど大西洋艦隊の回航を恐れる必要はなかった。つまり、扶桑軍はとんでもなく強大とはいえ、太平洋艦隊を無力化すればいいのだ――

 

 

 

 

 

 

 

――超甲巡は予てから『予算の無駄遣い』と揶揄されていたが、既存の重巡はデモイン級重巡洋艦に無力であると流布され、扶桑の国民がパニックを起こしたため、結局は上部構造物の配置とデザインを大和型以降の戦艦と統一することで日本が妥協し、外観を大和型戦艦に合わせる改装と、その設計図による建造が続いた。これは欺瞞のためと、水上機を搭載する必要が失せた(同時に、魔女を戦艦や巡洋艦から発進させる意義も薄れたことでもある)からである。魔女も強襲揚陸艦にのみ搭乗する事とされた事から、水上戦闘艦のカタパルトは撤去されていった。同時に、ヘリコプターが水上機に取って代わった事は日本連邦の対潜網を戦後の水準に飛躍させた。この革新は道半ばであったが、潜水艦技術が大戦前期にも到達していないうちに、1980年代以降の対潜技術を使うようになったことで、日本連邦は他国の潜水艦隊を実質的に無力化した。この優位性を背景に、日本連邦は空母機動部隊と水上打撃艦の近代化に邁進しているのである――

 

 

 

 

 

――結局、カールスラントは部内の反対で遅滞していた『エースパイロットによる、エースパイロットのための部隊』の結成のお株を扶桑に奪われたばかりか、政変で予定人員の90パーが日本連邦に移住するという衝撃的な有様で1946年以降の時代を迎えた。元々はガランドの退役願いの件でゲーリングが皇帝からの信頼を失うのを恐れた末に、彼女の提案を呑んで構想された部隊が『第44戦闘団』であった。だが、同部隊はジェットストライカー/戦闘機の実験部隊として実働していたものを改組する事にされていたので、現場が猛反対。改組が遅れていたのである。その最中にクーデターによる政変が起き、予定された人員は機材ごと、日本連邦に半ば亡命してしまった。コンドル軍団の名誉剥奪が取り沙汰された結果でもあった。ドイツは事の間違いを知らされ、すぐに名誉剥奪施策の撤回を行おうとしたが、現地のクーデターの誘発を招くだけであった。結果、カールスラント空軍が長年かけて育成してきた熟練者は根こそぎ日本連邦にヘッドハンティングされる形になり、日本連邦で『その後の軍生活』を送ったエースパイロット達。実質的に日本連邦空軍を最強とした立役者は『カールスラント空軍を理不尽な理由で追われた魔女たち』であった――

 

 

 

 

 

 

 

――この損失はカールスラントの軍事的権威と優位性を無に帰すに充分すぎるものであった。その戦犯と見做されたのが、ウルスラ・ハルトマン(44JVの改組に技術者として反対であったため)であった。彼女自身は日本に留学していたので、直接的な非難は免れたが、部内で針の筵であった。帰還後は吾郎技師の助手として働くことで生活し、華々しく活躍する姉と違い、日陰者の人生を送っていた。とはいえ、1949年に妊娠し、産休に入るなど、未来への布石となる出来事を確かに経ており、魔女の革新の結果となりえる要素を備えていた。彼女は『堅物』であったものの、情勢の変化と『魔女の生き残り』のために全力を尽くしているのも事実であった。カールスラントのためではなく、人類全体のために。ある意味、魔女出身の『航空エンジニア』での第二の成功例になりうる成長イベントを経験中と言える――

 

 

 

 

 

 

――史実の行いを理由に、日本人から責められた者はブリタニアにも数多い。ダイ・アナザー・デイ当時の国王であった『ジョージ6世』とて例外ではない。彼が史実より早く退位した理由の一つは『そっちの世界でした事を責められても……』と追い詰められた事であった。それは史実で父王に倣い、大戦で敵対した日本の天皇に授与したガーター勲章を褫奪したが、日本の皇室が戦後も存続したため、英国自身が困った事になったことで、彼としては『知ったことじゃないが、自分のしたことだから、その責任を取れと言われる』と憔悴。早期退位の一因となった。ブリタニアは植民地を失えば、ただの小国に戻る危険が史実以上に大きな『民族存続』のリスクであったので、日本連邦に頭を垂れる身に落ちぶれていった。同時に、マウントバッテン卿も史実の日本人への敵対意識を叩かれた上、史実での哀れな死に様(爆破テロでの爆死)を知ったことで精神不安定に陥るなど、なんとも哀れな流れとなった。ブリタニア軍も『世界で最も権威のある軍隊』の姿に陰りが生じてしまったばかりか、財政難で加速度的に軍縮が進んだため、日本連邦の一強時代の訪れを確実にしてしまう。日本人の正義感の暴走が、結果的に扶桑の超大国化を促進させたのである。こうして、ブリタニアはエリザベス二世の治世が史実よりも早い段階で始まった。史実通りに衰退期に入っていたが、日本連邦の力を背景に、欧州の盟主の地位は辛うじて保った。有力国のガリアがズタボロ、カールスラントが国家存亡の危機にあったからだ。(魔女の世界では、ポーランド国家そのものが成立していないので、該当地域の独立の目論見も早期に潰えた)それがブリタニアに課せられた最後の責務であった――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイの戦いは現実味の無さがあった。歴代のプリキュアが参戦していたからだが、比較的に武闘派の世代が参戦していた事、変身者の大半が連合軍の軍籍を持つ事が通知されたので、事務手続きは滞りなかったが、別のところで問題となった。姿が現役時代のままであったからだ。とはいえ、現地の法的に成人扱いであったので、扶桑が押し通す形となった。のぞみはその流れで、(『夢原のぞみ』としては)プライベートもあったものではなかったので、キュアドリームの姿を平時も取ることで、逆説的にプライベートを守る方法を取った。そんな生活を続けたため、パワーアップ形態が生まれる下地ができたのである――

 

 

 

 

 

――そんな生活で平素の運動神経も活性化されており、それが入れ替わりでウマ娘の体のポテンシャルを発揮できた理由である。さて、そんな日々を見てみよう。

 

 

 

 

――ドラえもんとのび太の存在のおかげで、レース能力の喪失という最悪の事態を免れたメジロマックイーンとトウカイテイオーだが、年齢的に『ピークアウト』が迫ってきていたという別の問題もあった。史実のロールプレイも同然の状態であった事に気づいた彼女はそれに抗う事を決意し、足の治療が済んだ後、波紋法の特訓を始めた。この効果は絶大であり、トウカイテイオーとメジロマックイーンに今一度の『最盛期』をもたらした。波紋法がピークアウトの訪れを抑止したためである。波紋法は生命エネルギーの増大を起こす。練度によって、その精度に差はあるが、肉体の老化を大きく遅らせ、身体能力を飛躍的に高める。ゴルシたちはこれに加え、ナノマシンによる医学的治療とゲッターエネルギーによる闘争本能の増大を組み合わせたのである――

 

 

 

 

――波紋法は自己治癒力も増大させるので、ウマ娘にとっては、人間以上に恩恵がある。競走ウマ娘のガンと言われる肉体的な病もどうにかできるからだ。ゴルシは自分の一存で、現時点の有力ウマ娘たち、生徒会の新旧メンバーらにそれらを施した。また、有望な新人(入学間もない者含む)にも将来的に施す案が承認されていた――

 

 

 

 

 

――さて、ハルウララとニシノフラワーが絡まれた事件だが、各時代の代表格がチンピラウマ娘を成敗すると思いきや、旧時代のエース級がその中に混ざっているという事態となり、思わぬ方向に話が進み、新旧のエース級がぶつかりあう事態となった。史実の運命に呑まれた後であったのが要因か、彼女らの能力は最盛期のそれが保たれており、現役組も一筋縄ではいかなかった。ジャングルポケットは入学前と違い、整備されたレース場に体が慣れていたせいか、河川敷に足が対応しきれず、本来のポテンシャルを出しきれない(実馬が府中競馬場以外では、一回しか勝てなかった事の反映か)現役組としては、恥もいいところな走りをしてしまった。

 

「チクショウ!!なんつーザマだ!!」

 

「小僧、次は任せろ」

 

「ブライアンさん……すまねぇ」

 

「何、雑魚どもはどうでもいい。目標はテンメイさんだ。あの人をぶちぬけば、ルーラーさんなどが出る。」

 

「相手は天皇賞ウマ娘だぜ?」

 

「私を誰だと思っている?」

 

ブライアンはこの時期には、後輩に『優しくなった』と言われるようになっていた。人当たりが良くなり、温和になったと評判である。これに不満を持つのは、全盛期のブライアンに『脳を焼かれた』サクラローレル位であった。とはいえ、ブライアンも『無頼を気取る』立場ではいられない年齢であるのは理解もしているので、複雑だという。かくして、テンメイと闘ったわけだが。

 

「ほう。さすがは現役の三冠。衰えたと言われても、この瞬発力か」

 

「何、まだ衰えたつもりはありませんよ、先輩」

 

と、相手がマルゼンスキーの同期であるため、敬語を使う。そんなブライアンのからくりを知る者は苦笑交じりだ。本来は年上にも敬語は滅多に使わないからである。だが、のぞみが入れ替わった後は(気質がブライアン本人より穏やかである故に)以前よりとっつきやすくなり、目上を立てる(ブライアンは本来、目上でも『立てる事』はしない)など、人間的には遥かに評価(大人達に)されていた。ブライアンはレースを引退した後の事を心配されていたが、ブライアン自身は(元から)現役をできるだけ続けるつもりであった。そのすれ違いが、この世界での親からの勘当の原因となった(後に、父から家を継いだビワハヤヒデが正式に勘当を解くが、それは当分は先のこと)。

 

 

「雑魚どもは置いてけぼりですが?」

 

「彼女らは数合わせだ。それしかこなせんよ。君等の前ではな」

 

テンメイの取り巻きのチンピラ達は早くも、二人に追従できずに置いてけぼりを食っていた。世代は違えど、G1級のウマ娘同士の対決となれば、チンピラなどは置いてけぼりを食うのである。曲がりなりにも、テンメイは『初のティアラ路線のウマ娘による天皇賞制覇』を起こしたトウメイの嫡子。世が世なら、自身も引退後に悠々自適な暮らしができたはずである。彼女の不幸は『同時代にマルゼンスキーがいた事』。これに尽きる(史実では、天皇賞を勝ったのを最後に中方で勝てず、自身も母より先に亡くなるなどの不幸に見舞われた)。

 

 

――最後の直線。テンメイは往年の天皇賞ウマ娘に恥じない走りを見せた。マルゼンスキーという『レベルが違う』存在のせいで『見劣りする』と言われがちだが、仮にもG1級のウマ娘であったので、ストレートの伸びは凡百のウマ娘とは比較にならない。八大競走の覇者は伊達ではないのだ――

 

 

「この伸び……衰えたと聞いていたが…!?」

 

「小僧、見通しが甘いな」

 

テンメイはブライアンに食らいつける実力を保っていた。ギャラリー達は一様に釘付けになっている。かつてのG1ウマ娘とはいえ、現役引退から久しいはずのテンメイが現役最強レベルの実力を保つブライアンに食らいつけるのは、それまでの常識を疑う光景だからだ。

 

「面白い、私が最強と言われた所以をお見せしましょう」

 

「小僧、まさか貴様!?」

 

「そのまさかですよ」

 

ブライアンが領域を発動する。必要な条件が整ったのだ。マルゼンスキーが現役時に無双を誇った理由は単純な能力以外に、『限界を突破できるだけの心の炎』を持つか。これこそが『時代を担うウマ娘』となった証である。要はバトル漫画でいう『能力の一時的な強化』をレースで行うようなものであるが、史実での一流の中の一流(時代を担うレベル)のみに許される境地である。ブライアンはそれを失いつつあったが、措置と波紋法の二重の方法で完全に取り戻していた。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

ブライアンの追い込み加速はテンメイをして、『言葉を失う』ほどのものであった。

 

 

(技術的には自分やマルゼンスキーには劣るが、基礎的な能力という点では、絶頂期の頃の『小僧』……シンボリルドルフをも上回るやもしれぬ!!)

 

それがテンメイの抱いた思いであった。絶頂期の頃のルドルフをも上回ると感じさせるトップスピードとその到達速度は『その能力だけで三冠の栄誉に輝いた』というブライアンの評判を裏付けていた。紫色の光を体から、『鬼火』のようなものを片目から発しつつ、テンメイを突き放していくブライアン(のぞみ)。

 

 

――のぞみはこの頃になると、ブライアンの肉体を魂に馴染ませており、領域の発動にも支障ないくらいに成長していた。天皇賞・春という大レースが、その残りのピースを埋めたのである。加えて、ナリタタイシンから受け継いだ『鬼火』(極限まで鍛えたウマ娘に宿る『炎』の発露のビジョン)と合わせての二重の豪脚を発露させた事により、ブライアンの全盛期の名声に恥じない走りを実現したのである。運動神経が(プリキュアにならない限り)ズブと言う外なかったのぞみにとって、ウマ娘という『アスリートとして、人間以上の境地にある』存在として過ごす時間は『現役時代とまったく違う視点で、あらゆるスポーツに励める』時間であった――

 

 

その嬉しさは自然と顔に出ており、テンメイには『これが…時代を作った者の証……か…』と写り、テンメイの心にあった『現役時代の無念』を持っていく『清々しさ』となっていく。テンメイからは『背中に羽が生えたようなビジョンも映っていたが、これはのぞみが本来は『超プリキュア』であり、入れ替わった時期には『射手座の黄金聖闘士の資格を得ている故のもの』というタネだが、全盛期のトウショウボーイが見せていた『領域』のビジョンに(偶然ながら)酷似していた事から、ある種の達成感をテンメイに与えたのだ。

 

 

 

「うぉーーーー!なんだあれ!!かっけぇーーーー!!」

 

ジャングルポケットは後輩のウオッカと精神構造がとてもよく似ている。憧れの人がいる&その人の意志を引き継いで、事を成す運命にある共通点がある。ただし、ポッケの場合はライバル視していたアグネスタキオンがドロップアウトしたことのショックで『精神の奥底で恐怖心を持ってしまった』ため、本来のポテンシャルを出せきれないというデバフがかかっている。それに責任を感じていた事から、タキオンはゲッター線とナノマテリアル研究にのめり込んだ。ジャングルポケット(ポッケ)への罪滅ぼしをしたかった。それがタキオンの本心であった。『研究』というのは、マッドサイエンティストとしての周囲への体裁を装うための方便。ゴルシとカフェのみがその本心を知っている。

 

「あれがブライアンさんが取り戻したモノです、ポッケさん」

 

「カフェ、お前……あの人が今の時点で……?」

 

「紛うことなく返り咲いた。そういって差し支えはないかと……」

 

世界線によって、互いの関係性が変化するのが『01世代』(史実の2001年頃にクラシック期であった競走馬の世代)のウマ娘たちだが、ドラえもん達と接触した世界線では、カフェの人当たりが良かったり、タキオンが同期にフランクに接していたためか、黄金世代のスペシャルウィークとその同期達と同レベルの気安い関係にあった。この世界線では、テイエムオペラオーを先にアグネスデジタルに倒されたりするなど、見せ場のフラグが潰されてしまっている感の否めない立場にあったポッケ。そのためか、史実より弱気になっているらしく……。

 

「カフェ……。オレは……なれるのか?フジさんや……あの人のように…」

 

らしくないが、ポッケの本心からの言葉であった。ブライアンの取り戻した力はそれほどのもの。握りしめる拳が小刻みに震える事からも、圧倒的な力の差を本能で感じ取ったことが窺える。

 

「あなたには……その資格がある。タキオンさんは……そう言っています」

 

「タキオンが……オレを……!?」

 

「ええ…。憧れる心は道しるべになる。ブライアンさんには、それがオグリ先輩だったと聞いています」

 

ゴルシが最初に試みた歴史改変の結果、オグリはブライアンの師という立ち位置になっている。タキオンたちの代が入学した頃には、その立ち位置は『周知の事実』であった。孤高や無頼の印象が強いブライアンも、オグリの言う事は素直に聞く。それは自分にとってのフジキセキだろうか。そう顔に書いてあるポッケ。

 

「ポッケさん、自分にとってのフジ先輩のようなものか?…と顔に書いてありますよ」

 

「なっ、なんで……」

 

「あなたはわかりやすいもの、ポッケちゃん」

 

「ま、マルゼンさん……」

 

「次は私の番よ。同期に久しぶりに見せる時が来たわ。鍛え直した脚を…ね」

 

「あんた、中距離以上いけんの?」

 

「足が駄目にならなければ、有馬記念に出るつもりだったもの。適性はある。現役時代の個人トレーナーもそう言っていたわ」

 

マルゼンスキーは短距離からマイルが主戦場であったが、適性自体はオールマイティーであった。転生前に『有馬記念への出場を熱望され、前世代のエース格『TTG』に勝てるという願いを抱かれていた』事、史実の父が英国の三冠馬のニジンスキーであったことが由来であろう。ウマ娘としてのほぼオールマイティーな脚質は彼の遺産だろうか。ウマ娘としても『時代の壁』に弾かれたが、結果として同期を奈落の底に陥れた。彼女がカウンタックとすれば、他の同期はスバル360。それほどの実力差があったのだ。

 

「ゾクッとする走りを見せつけてあげる。幸運よ、ポッケちゃん。アタシの全盛期の頃の力を見れるんだから、ね」

 

いつものおどけた態度のようだが、本気で怒っているためか、言葉に気迫が漲っていた。同期の運命を暗転させたという逸話は偽りではない。マルゼンスキーは後輩のためにも、久方ぶりに絶頂期のポテンシャルを以て、今一度の勝利を掴み取るつもりだ。

 

「マルゼンさん……」

 

バブリーな時代に取り残されたような言動などが笑いを誘うマルゼンだが、久方ぶりに『勝負師』としての顔を見せた。漲る赤いオーラは、マルゼンが絶頂期に見せていた『絶望的な速さ』の証。

 

「二位と差をつけすぎると、公開処刑になってしまうので……」

 

「分かってるわ。現役時代、そう言われた事あるもの」

 

マンハッタンカフェから注意を受け、マルゼンは頷く。公開処刑が今回の目的ではないからだ。とはいえ、チンピラにとっては充分に公開処刑ものであるのには変わりない。

 

「あら、マルゼン。充分に公開処刑になってると思うのだけど?」

 

「ラモーヌちゃん。今回はどうして?

 

「どんな理由で後輩を侮辱したか。彼女らがどんなつまらない顔か。それが見たくなっただけよ」

 

「素直じゃないわね」

 

メジロラモーヌはルドルフも萎縮するほどの威圧感を常に周囲に放つ事から、『超弩級に気難しいウマ娘』いう評判が立つほどの人物である。だが、実際は意外に鷹揚である。プライドがエベレスト並に高く、掴みどころのない言動をしているだけで、意外に他者に寛容なところも多い。理由をつけて、この一件に関わっている事からも、意外と後輩に優しいらしい。

 

 

「すげえ……マルゼンさんなら、ラモーヌさんとサシで話せるんだ。会長さん(ルドルフのこと)もブルってるのに…」

 

「ポッケちゃん、やめてさしあげて」

 

「す、スンマセン…」

 

平静を装うメジロラモーヌだが、内心では地味に衝撃を受けていたりする。

 

「あら、面白い子ね、マルゼン」

 

「でしょう?フジちゃんのお気に入りよ」

 

「そう、フジの……。」

 

(マルゼンさん、これ……褒めてんスかね……)

 

(気に入られたってことよ)

 

淡白なようだが、顔はわずかに微笑んでいたメジロラモーヌ。ポッケはマルゼンに耳打ちして、ラモーヌの心中のほどを聞いてみる。マルゼンはその内容を教えてやる。ラモーヌはこの言動が原因で、ルドルフにも畏れられているのは事実。だが、意外と(自分の見込んだ者には)鷹揚さを見せる。往年のトリプルティアラ達成者故の孤高さ、王者であった者に必要な鷹揚さを兼ね備えた者。それが彼女であった。

 

 

 

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