――日本は思わぬ不祥事を連発し、苦しんでいた。手始めに、扶桑に観光に行ったり、義勇兵になった者たちによる扶桑の軍人たちへの集団リンチ。これは主に佐官級の将校(参謀級)や、憲兵が標的とされ、ごくたまに指導層にも被害が生じた。ひどい例では顔面を潰され、膝の靭帯も切断され、医学的な処置が不可能に陥って、人として再起不能にされた。また、陸軍の軍人というだけで、理不尽な不利益を被らせるという例も多く、日本はその賠償請求に追われた。そのとどめが『のぞみの事件』である。日本側は扶桑との戦争を避けるため、のぞみに涙を呑んでもらうが、その代わりに『軍内で好きにしていい』との文章を扶桑と交わし、一連の改革で不利益を被った元の師範学校生、その入学予定者は『新制教育大学への無条件の在籍と学費免除、就職の確約等で損害補償を行う』とした他、華族の公的な身分の廃止はしないが、いずれ名誉階級化させるという約束を交わすことで、国内の『制度の全てを戦後化させろ』という世論の沈静化と扶桑との戦争の回避の両立を図った――
――扶桑との戦争も辞さずという論調は、意外な事に、日本での左派や警察関係者のほうが意気軒昂であったが、彼らは扶桑の過ごす『時代』しか見ていなかった。自衛隊は『最盛期の連合艦隊に近代武装が備わったのなら、自衛隊は無惨に捻り潰されるのがオチだ』と、その論調に冷ややかであった。近代化改修済みの戦艦大和が寄港してきた際、シルエットは残しつつも、武装はほとんど別物と化している威容に、日本国民は言葉を失った。更に『大和型の後続艦が存在する』事が播磨型のお披露目で判明すると、左派の中でも『扶桑占領論』は急速に萎んだ。超大和型の超重装甲を突破できる武器は自衛隊には存在しない上、航空攻撃も現代のジェット機の時代では、『費用対効果が却って低い』という事実がマスコミに報じられたからである。更に『長門型の時点で、核兵器に耐える』という歴史的事実もあり、実質的に扶桑の新戦艦を撃沈する手段は日本にはない。更に、扶桑のトップレベルの魔女の大半が『強力な異能を、魔法と別に行使できる』ことも論調の息の根を止めた――
――皮肉な事に、日本で漫画やアニメとして存在する『異能』の多くが扶桑で実在することが、日本の一部が抱いた野望を打ち砕いた。日本では、学園都市の『崩壊』で、異能の研究は実質的に停止していた上、生き残りも『負の遺産』と見なして投獄、あるいはあらゆる手段で誅殺していたため、扶桑の異能に対抗する手段は事実上、存在しなかった。その事実をよく認識していた政府はもとより『扶桑に嘆願してでも、事を終わらせる』方針であった。これを『弱腰外交』と攻撃する勢力もいたが、超大和の登場、黒江たちの一騎当千ぶり、プリキュアの実在の証明で霧散した。物理的に『戦後世界の基準で近代化改修済みの超大和型を要する連合艦隊に全力で攻撃されたら、自衛艦隊は一回で組織的抵抗力を喪失する』という軍事的な現実問題が現実問題となるのも効いたのである。むしろ、日本経済を扶桑の活力で起死回生させる』という融和的な論調を台頭させる一助となり、政府のみならず、国民も戦争回避の観点から、それを支持した。日本連邦はそうして『成功した』のである。それが契機となり、日本は(学園都市の遺産を含めての)技術情報を扶桑へ矢継ぎ早に開示した。扶桑はそれを軍事面の近代化に最優先で適応し、歩兵装備の更新などを急いだ。思うようにはいかなかったものの、その試作品は64Fの隊員らによりテストされていた。日本には通告無しのものも多いが、それはMSの武装のダウンサイジング品であったりする場合だ――
――地球連邦軍はそれをパワードスーツへの装備を前提に試作している。とはいえ、軍縮時代に放棄させられたものを一からやり直すので、武装テストすらままならない有様であった。その打開策が『超人揃いの64Fの連中に使わせてみよう』という場当たり的な提案であったが、実際問題、生身でパワードスーツ用の試作品をブンブン振り回せる者らは他にいないので、すぐに採用された――
――地球連邦軍の歩兵部隊は『歩兵用の対戦車兵器』がいったん廃れていた都合と、対戦車兵器自体が一年戦争中の旧式なことから、戦場で思うような成果がでないことも当たり前であった。そのことから、MSの武装のダウンサイジングが行われた。その初期のものが陸戦型ガンダムなどの用いていた『180ミリキャノン』をそのまま歩兵サイズに縮小した試作品であった。これは本来、装甲を軽度ながら有する『パワードスーツ』用に用意されていたが、肝心のスーツの開発が難航したことから、武器庫の肥やしになっていた。それを黒江が見つけ、ブライアンらを護衛する分隊に持たせていた――
――「プリキュア5の世界」――
「おい、あんたら、何を組み立ててる?」
「ゴルシさん、陸戦型ガンダムをご存じで?」
「ああ、一年戦争の頃の陸軍で使われた、先行量産型ガンダムの一種だろ?」
「それが使ってたキャノンのダウンサイジング品ですよ。本来はパワードスーツでの使用が前提のものですが、貴方方の身体能力なら扱えるでしょう」
工兵が組み立てているものは、試作品のキャノン砲であった。形状は陸戦型ガンダムの『180ミリキャノン』そのものである。普通の歩兵ではまず扱える代物ではないが、ウマ娘としての身体能力がプリキュアの体に+された状態の二人であれば、問題なく使用可能である。しかも、二人は純然たる『パワー寄りの身体能力を持つ』ウマ娘ではない(同世代比で高い水準であるものの)のだ。
「まぁ、それはそうだけどよ。対戦車兵器としちゃ原始的だな」
「M粒子の影響で、一度は携帯式の対戦車ミサイルが絶えてしまった影響ですよ。今さら対戦車砲というわけにもいかないし、かといって、埃を被っていた旧式を再利用するにも、改修は必須。それで試作の提案があったそうで」
そんな切実な理由も、ダウンサイジングの一因であった。肝心の本体が難航する一方、武装はどんどん出来上がる。それも一種の矛盾と言えるが、一年戦争で旧来の兵器体系が崩壊した上、軍縮時代に研究が一度は放棄されたことも、軍の再建が進む時代の『足かせ』となっていた。ISなどの存在はそんな情勢の救いと言えるが。それを『完全に模倣できる』ようになるには長い時間が必要であったので、このような策が取られたのだ。
「統括官の故郷よりはマシですがね」
「ああ、ヤツの故郷はまた別の世界だったな」
「ええ。彼女の生まれた日本は『機甲部隊に求められる質が桁違いに上がったせいで、部隊の整備がまるで追いつかないそうですので」
扶桑の機甲行政はM動乱をきっかけに大混乱を来し、陸軍機甲本部は機能不全であった。これは戦後日本人らによって同本部の高官などが根こそぎ更迭され、僻地に飛ばされたこと、その後釜に充てるべき人材が扶桑陸軍にはいなかった事が原因である。結局、この混乱は日本連邦として、自衛隊が指揮下に置くことで解消されるが、求められる性能水準と工作水準の飛躍で、今度は自国生産がままならなくなるという悪循環であった。魔女任せであった機甲戦を自分達がやる事になった途端に『独ソ戦で鍛えられたドイツ軍の残党』と戦う羽目になった不幸も大きかった。これにより、扶桑の機甲構想は根底から崩壊。扶桑には外地があるため、自衛隊の戦車も扶桑の現状にはイマイチ合致しない。そのことから、扶桑はセンチュリオン、コンカラーなどのブリタニア製新世代戦車の購入に踏み切ったのである。
「どんくらいだ?」
「多砲塔戦車が持て囃されていた水準から、一気に戦後の105ミリ砲戦車の水準に。ですので、現地は更迭の嵐で、軍行政が機能不全だそうです」
扶桑の軍行政は陸軍と海軍が機能不全に等しいため、現場判断の効く空軍が戦線を支えていることは同盟諸国の物笑いの種にされているらしい。これは日本人の独善的な『人事の大鉈』が原因である。結局、混乱は日本の予想以上に広がり、参謀業務すら『64F頼り』という有様に陥った。これは日本人が狙い撃ちで参謀達を集団リンチし、人として再起不能にする事例が続出したからで、その不祥事の尻拭いを64Fの幹部に押しつけたのである。また、参謀へのマイナスイメージの浸透から、『閑職』と見なされてしまうことも増えてしまったため、自衛隊での幕僚教育を終えている者はとかく重宝された。前線指揮官として有能でも、後方指揮で無能な例もあるので、扶桑軍は『戦術で戦略を崩壊させる』しか方策が見いだせず、兵器を異常発達させ、敵軍に極大の損害を負わせるしか手がないという状況が扶桑の戦況なのだ。
「そのしわ寄せがあんたらにも来てるってことか」
「おかげで、我々もてんやわんやですよ」
地球連邦軍は扶桑の機甲戦力の不足を補うため、戦力を扶桑に貸し出さなくてはならなくなった。そのため、(国連名義で)過去の日本に抗議する事態となっている。日本は『政府としての方針は……』と、(未来の自分達とは知らず)ひたすら言い訳する羽目となった。自衛隊の秘匿兵器をGフォースに回したのは、その詫び代わりであった。軍部を激しく縛り付けたら、扶桑の戦争遂行能力に支障を来たしたのは予想外であった。結局、『陸軍と海軍から単独での作戦遂行能力を剥奪したら、軍隊そのものの組織だっての作戦行動自体が困難になった』という惨状。地球連邦軍の援助なくば、まともな軍事行動も取れないという。
「連中の高級将校や現場の士官の古株の少なからずは『自分らは天皇の軍隊だ』って考えていますからね。そういう輩が問題を起こすので、日本が人事の大鉈を無理に奮ったら、今度は現場を統括する人材がいない有様で。結局、我々がインフラの負担を強いられているのです」
扶桑軍は後方業務関連のインフラが立ち遅れていた軍隊であるため、装備が戦後型に刷新されたこと、人事面で粛清が行われたことで、それが一気に露見。結局、正面装備の更新よりも、インフラ更新に資金がかけられたものの、太平洋戦争開戦にはまったく間に合わず。固定翼機用の飛行場を増やそうとしたら、(当時は飛行艇の民間転用が盛んであったため)民間から反対が生じる、二式大艇の後継機の非武装化の提案(対潜哨戒・救難特化)が通らないなど、日本側の思惑が拒絶されることも多くなった。M動乱とダイ・アナザー・デイでのショックにより、機甲戦力の強化になりふり構わなくなっていた事はある意味、日本の商機であったが、日本側の先入観と遅々たる企業側の動きで事実上逃すなど、戦後日本の負の側面がクローズアップされる結果となった。このように、センチュリオンとコンカラーの導入は扶桑の独断であった。南洋での使用を前提にしていると説明し、実際にそうされている。本土の守りはM41が担っているが、これは本土のインフラが『戦後型戦車の運用にまだ適さない』レベルであったからである。M41は扶桑では、インフラレベルの都合から、本土の守り手として配備されているが、前線では鹵獲品が出回っている。このように、中央の機能不全をいいことに、現場は『現地調達の武器』を員数外の装備として用いているのだ。
「M粒子でスタンドオフ兵器が廃れたからと、前時代の対戦車ライフルが砲に変わっただけの武器をパワードスーツに持たせようとするとはな。全く、MSのような『完全な機動兵器』に持たせろというんだ」
ブライアンは射手を引き受けたものの、大昔の対戦車ライフルより大仰な代物を目視照準で撃てと言われた事は愚痴りたいようだ。
「まぁ、昔の対戦車ライフルのビック版と思えばいいんだろうが……来たぞ」
進撃してきた『パンターA型』へブライアンはそれを撃つ。サイズ的に、戦車に致命傷を与えるような武器ではないが、中の搭乗員にダメージを与えるのが主目的である。残党軍の戦闘車両は残党化した時点の技術で作られているため、(当然ながら)戦後に判明し、取り入れられた『知見と戦訓』は持っていないことがある。バダンは第二次世界大戦の敗戦国の残党軍であるため、所々で技術に穴がある。この場合もそうであった。
「弾種はなんだ」
「粘着榴弾です。残党相手かつ、鹵獲狙いなら充分でしょう」
「サイズ的に、徹甲弾より、榴弾や粘着榴弾のほうが使う機会は多そうだからか。……さて、どうだ?」
発砲音とマズルフラッシュもサイズ相応だが、原型が比較的に消炎傾向の炸薬を用いていたのも丁寧に再現したらしく、意外と静かである。パンターはちょうど、車体の機銃(第二次世界大戦中の戦車は対歩兵用の機銃を車体に搭載する場合があった)がある箇所を綺麗さっぱりとぶち抜かれ、内部での炸裂で乗員が死傷したのか、沈黙する。
「……当たりどころが良かったとはいえ、パンターほどの戦車を一撃で沈黙させられるとはな」
「戦車は乗員が死んでしまえば、ただの鉄の箱に過ぎませんからね。それはこちらも同じですが。連中も流石に、粘着榴弾が炸裂したショックで、内部の部品か、装甲板の破片が飛び回れば、死ぬでしょう」
「どうだ?」
「内部の連中は今ので死んだみたいですね。後で戦車回収車を呼びます」
戦車を検分した数人の兵士が報告する。それを確認すると、一同は進軍を再開する。上空では、メッサーシュミットBf109(後期型)とスカイライダーが空中戦を展開する様子が見える。昭和ライダーで『完全な飛行能力』を持つのは、彼とゼクロスのみである。
『スカァーーーイキィィーーーック!!』
スカイライダーがオーバーシュートしたBf109へスカイキックを放ち、胴体をまっ二つに裂く形で撃破する。それを確認する一同。
「ヒュウ。さすがに、スカイの名前を持つだけあんな」
「彼は重力低減装置で空を飛んでいるそうです。宇宙空間でも戦えるらしいですが、真価を出すには、大空が一番だそうで」
「おそらくは歴代ライダーになかった飛行能力の実証目的で設計されてたんだろうな、あのボディ」
「ええ。ですが、ビークルを与えるほうがコストが安いと見たそうですよ、組織は」
仮面ライダー、とりわけ昭和の彼らのボディは組織が最高幹部候補用に設計していた場合が多めである。その関係上、地球連邦軍が組織との戦争で鹵獲した文書にそのことが書かれている場合があり、この時期には、既に周知の事実であった。
「なるほどな……。私だ。スカイライダーの援護にスカイハイヤーを寄越した?……わかった。私らの地上援護はしてくれるんだろうな?」
――対地攻撃装備のが数機、対空で二機。ウルトラ防衛チームのメカのレプリカだが、下手なレシプロを出すよりマシだ。それに、日本型レシプロとドイツ機の交戦データはこちらにはないからな。なら、ジェットで駆逐する――
「あんたらの世界では、実験もしてないのか?」
――陸海軍航空隊の実験部隊がそういう仕事を嫌がってたんだよ。だから、解体されちまうんだよ、連中。おかげで、実戦部隊の俺等にしわ寄せが来たんだ――
ブライアンはのぞみAの能力の一つであるテレパシーで黒江と会話する。必要に応じて用いる『妨害されない』情報伝達手段として。これは精神が他人と入れ替わっていても、問題なく使える能力である。
「飛行実験部と横須賀航空隊だったな?仕事でもボイコットしたか?」
――話せば長い。俺等がティターンズや組織と戦い出した頃、上は連中に『仮想敵国になりそうな国の機材の性能を調べろ』と下令したが、所属してた魔女の中堅が反対して、そういう仕事をサボタージュしたんだよ。仕方がないから、地球連邦軍にコンピュータでシミュレーションをしてもらったが、現場は現場で、せっかくのマニュアルを受け取らなくてな。それで、俺達だけで、どうにかこうにかしなくちゃならない事態が頻発した。他の部隊は米軍の高性能レシプロ機やジェットに駆逐されていった――
黒江は実はシンフォギア世界からの帰還の直後、古巣の部隊や部署にあれこれ働きかけたが、(その当時には既に)往時の彼女を知る者は双方の部隊の現場におらず、鬱陶しく扱われるのみであった。辛うじて、往時の彼女を知る者が幹部層にいた部隊の協力は取り付けたが、魔女たちやパイロットの協力を取り付けるのは(自力)では困難な事に直面。ツテを使い、山本五十六や源田実、山下奉文などの重鎮達に連絡を取り、彼らの直接指令という形を取った。魔女たちはこれも反故にしたが、ダイ・アナザー・デイの戦況が激しくなった頃にサボタージュが露見。天皇自らが至上指令の勅を出す事態へ発展。結局のところ、魔女たちも最高権力者かつ、国家の主である天皇には逆らえなかったわけで、これに青くなったため、掌返しで戦線に参加した部隊は多かった。だが、その頃にはティターンズはシールドを無視できる『純鉄の弾丸』による魔女狩りを始めており、尽くが後送の憂き目に遭った。黒江たちはその対策をしていた事で、それを免れたのである。
――ヤーボやシコルスキーはロケット弾を雨あられのように撃ってくるわ、重砲と重戦車と重機関銃が槍襖のような弾幕を展開するわ……それで俺達が死ぬような目に遭いながら、必死にデータを集めた。お上が怒ったことで、俺達に協力はしない部隊はいなくなったが、前線の魔女は俺達以外にいなくなった。あの二つはそんな時に惰眠を貪ってた。その懲罰の意味もあったんだよ。批判も大きかったしな――
「話に聞いたが、日本が前線送りにする気持ちもわかる」
――ドイツよりはマシだ。あいつらは90万近くいた親衛隊を武装親衛隊と同一視して、クビにしておきながら、何の面倒も見なかったからな。結局、ウチの世界のドイツは内戦で国の体もなさなくなった――
扶桑のテスト部隊は世間の顰蹙を買った結果、昭和天皇の意向で一切が廃され、人員は懲罰的に前線送りにされた。だが、そのしわ寄せは64Fの負担増加に繋がった。同時期、カールスラント軍が(ドイツによる戦後基準の規範への改定強要で)モラルの崩壊を引き起こした(史実で武装親衛隊所属であったり、味方を脅した経歴を持つ者がドイツ人に集団リンチされ、家族もろともに惨たらしく死亡する例も続出した)ので、扶桑軍は以後の戦線で死兵となることが連合国全体から求められた。だが、扶桑在来の兵士や将校の大半は昭和初期以降の日本軍のそれのように『ナショナリズム』を強調した教育は施されていないため、前線で戦わすには、精神面の不安が大きく、『元の日本軍出身者をタイムふろしきで最盛期まで若返らせて、義勇兵として働かせる』という案が採択された。彼らは1990年代末~2020年代の時点で『ヨボヨボの老人』であったので、家族に(ヨボヨボぶりから)疎んじられる者も多く、そんな辛い家庭環境からの脱出の意味もあり、彼らはダイ・アナザー・デイ後も扶桑で軍人を続けた。日本への通達は『集められた』後にされた。陸戦兵器の廃棄を強要され、ダイ・アナザー・デイが長期化した教訓であった(日本側としては、元から自衛隊の『旧式兵器』のライセンスをいずれ与えるつもりであったのだが、扶桑は国家総力戦前提の軍であった都合で、兵器と弾薬の必要数が多かったのが予想外となった)。日本側はダイ・アナザー・デイの戦線を扶桑単独で支える羽目となった事へ言い訳を重ねるばかりであった。その姿勢が扶桑の現場の不信を招いたわけだ(その結果、横須賀航空隊が不祥事を起こす)のだ。
「それで、あんたらが矢面に?」
――陸軍の人数が多いからだ。だが、うちは1938年までの事変で打撃を被っててな。頭数はあるが、練度は高くないんだ。人数が四分の一にも満たない陸上自衛隊のほうが強いくらいの悲惨さだ――
実際、この動乱での生え抜きの扶桑軍兵は少ない。黒江たちや、のぞみを除けば、あとは自由リベリオンの将兵が半数以上。少数の自衛隊員、四割ほどは地球連邦軍の将兵がいる。
「その割に、あんたらしか動いてなくないか」
――俺等に日本の政治が仕事を押し付けたんだよ。本土の部隊を出征させたくないからと、外地にいた俺等に有事即応の仕事に加えて、忍者の末裔の仕事だった『汚れ仕事』もさせてんだ。そのおかげで、うちの部隊は大世帯だよ。忍者の末裔を集めて、秘伝の維持を担当してた部隊を解体しやがったから、うちがそれも引き受けなきゃならなくなった――
飛行戦隊は基本的にパイロット、整備要員を含め、意外に大世帯である。また、指揮官先頭の伝統の強さにより、留守部隊であっても、一定の練度が求められたため、64Fの練度はこの時点で最強と評されている。後方任務の軽視が揶揄されているが、扶桑は織田家の武士団がそのまま近代国家軍に転じた歴史があるので、名の通った高練度の将校を後方任務に就かせていると、周りからのいじめにあう。黒江がそうであったように。そんな風土なので、黒江へのいじめの発覚後は『高練度兵は後方で遊ばせるより、前線で戦わせ、限界まで使い倒したほうがいい』という暗黙の掟が生まれた。実際、教官任務に向かない者がエースパイロットである事が多いからだ。その是正を日本は試みているが、宮藤のような者がエースパイロットである場合があるので、結局、64Fを完全な精鋭部隊として運用したほうがコストパフォマンスがいいとされ、他の部隊とは別格の扱いにする代わりに、『汚れ仕事(暗殺など)もさせる』という了解が取られた。扶桑では、忍者であった一族の秘伝の伝承の意味から、暗殺などの非合法的な仕事を引き受けていた魔女の部隊がいたが、その部隊が(クーデター後の組織再編を大義名分に、日本が忍者を『時代遅れ』とし、組織を廃したため)解体させため、その人員の身元引き受けを押し付けられた。忍者の末裔を近代国家のスパイとしての養成機関である『中野学校』に入れ直す手間が惜しまれたからでもある。その影響で、黒江達は扶桑独自の忍術も身につける事になった。
「で、あんたらは暗殺やスパイまでこなす『何でも屋』にさせられたって事か」
――日本がろくに調べずに、うちの軍隊の組織形態を自衛隊に合わせさせようとしたからだ。で、スパイ機関も無理に統廃合されたおかげで、人員が呉越同舟の有様。そのせいで元々の諜報ネットワークも崩壊してな。それで、超人の俺等に『暗殺も含めた諜報の仕事』もさせるようになった。おかげで、この動乱が起こった時、部隊を分割せにゃならなくなったぜ――
64Fは機能不全に陥った各部署の仕事も押し付けられたため、書類上の編成が変更され、『特別編成航空軍』とされた。これは非合法的な仕事をさせるのだからと、特権を許容する空気があったからである。日本側には『災害派遣を含めた有事への即応のため』と説明されている。本土の部隊がほとんど災害派遣専用のようになっているためだが、流石に外地部隊の玉砕も起こった以上は出征もやむなしであった。
「で、骨折はどうだ?」
――そろそろ骨はくっついてるだろうが、医学的に確認した上で、リハビリをしないとならんからな。あと一週間は無理だ。これでも、普通より数倍早いぞ。その気になれば、波紋で治せるが、かれんに止められてんだ――
西洋医学的に、波紋での治療は体に負担をかける事が確認されているので、水無月かれんに止められていると話す黒江。とはいえ、数か所の骨折が一週間ほどで完治する時点で充分に超人である。
――お前も、ナノマシンが本当の体の治癒能力を強化しているし、波紋で重傷も治せるから、これからは思う存分に走れるはずだ。前世の分もな――
「他の連中の処置はどうだ?」
――ああ、希望者は多くてな。平成三強やタイシン、チケット、シービー……――
「ん、シービーが来たのか?」
――ああ、のび太の話だと、昨日の定期便でシリウス、ラモーヌの二人を伴って、やってきたらしい。ものすごいメンツだな――
「ラモーヌだと?シービーが上手く乗せたか、アルダンの足の治癒のためか……」
――ラモーヌ、高校生だよな?一応――
「ああ。あの雰囲気で、年嵩に思われるからな。知らなければ、どう見ても『20そこそこの妙齢』に見られると、ルドルフに嘆いてた記憶がある。ラモーヌは晩期に速力の衰えはあったが、それ以外は五体満足のはずだ。目的は妹の足のことだろう。メジロアルダンのな」
ラモーヌは三冠トライアルを全勝した上で、トリプルティアラを達成したが、その直後に能力の急激な衰えが起き、三冠達成後は公式なレースを勝っていない。そのことでの『心残り』があるのは間違いなかった。とはいえ、それはさほど気にしていない素振りであったので、おそらくは『ガラスの脚』と言われ、実際にその体質に起因し、本来のポテンシャルを発揮する機会にあまり恵まれなかった実妹の『メジロアルダン』の体質改善が目的だろうと、ブライアンは目星をつける。
――メジロアルダンか…。オグリの引退レースにもいたな、そういえば。史実だと弟だぞ、アルダン――
「ルドルフがそれを聞いて、ひっくり返ってたぞ。ヤツはラモーヌにオドオドしているところがあるからな」
――史実の交配相手だが……尻に敷かれてそうだな、その様子だと――
ルドルフはラモーヌに対しては、意外にも圧されているようで、ブライアンから見ると『尻に敷かれている』ようにしか見えないらしい。また、史実ではルドルフとラモーヌは子を成したが、その子である『メジロリベーラ』は良血(当時としては)の両親の才を受け継げず、なおかつ虚弱体質となってしまい、競走馬としては早々に見切りをつけられてしまっている。
「リベーラの事を知れば、ラモーヌも『仇討ち』に燃えるだろう。本人は口には出さんだろうが、おそらくは……」
ブライアンの予測は的中していた。ルドルフが後日に語るが、自分の子であったメジロリベーラ(史実での自分の娘)の顛末を知り、よほど悔しかったか、唇を噛み、不機嫌な表情になっていたという。そして、さすがのルドルフも史実での交配相手であったメジロラモーヌの『尻に敷かれている』事が判明する。そして、ラモーヌ本人も、たまたま、息子にお歳暮の余りを配りにきた、のび太の母『玉子』に(ラモーヌの妖艶な雰囲気により)『20代後半の成人女性』と間違えられ、流石に落ち込んでしまったと、ミスターシービーから語られる。シンボリの両巨塔も対応に腐心する『メジロの女傑』も、流石に堪えたようだと、シービーは語ったという。
――こうして、進軍の最中、ブライアンはテレパシーの会話で気を紛らわすのだった。