――扶桑皇国は結果的に、プリキュアの登場を期に、大正以前からの悪しき慣習を一掃し始めた。同時に、日本の左派は扶桑の実状を身を以て味わう事になった。沖縄で軍の駐留を潰したら、現地の封印を(それと知らずに)壊してしまい、大型怪異を目覚めさせてしまい、那覇市を自分達の手で戦場にしてしまう醜態を晒した。それでいて、自分達は現地の人間の忠告も聞かず、軍を追い出して、いい気になっていたのだから、擁護しようもなかった。現地の那覇市は首里城こそ無事だったが、再開発が潰えたなどの物的・経済的大損害を被るなどの悲劇に直面し、右往左往。MATの初仕事は沖縄県に現れた怪異の討伐となり、主力部隊が討伐に投入された。この騒動は日本の左派(とりわけ、それの強い高齢~中年層)の高慢と偏見を燻り出す形になり、日本は多額の見舞金を供出する羽目に陥った。また、MATの伸長にこの騒動は大きな役目を果たし、同組織は1960年代の初め頃まで『我が世の春』を謳歌する事となった。それに伴い、軍部の魔女は(日本からの異能への差別意識の流入もあって)戦場で花形となる力を量的意味で失い初め、64Fの面々にますます依存するようになる。プリキュア達はこのような政治的な動きにより、魔女達の『居場所を守ってくれ』という願いも否応なしに背負う羽目に陥っていくのである――
――この騒動とジオン残党の日本への襲撃の連続は日本国民の危機意識を目覚めさせ、軍事面を中心に、科学技術の発達を促す。歴史的には、MSを構成する諸技術の研究がこの時に『始まる』事になる。とはいえ、ジオン残党の襲撃をイレギュラーとし、『ガンダムに退治させればいい』とする、後世の地球連邦軍のガンダム信仰の芽とも取れる発言も飛び出し、めちゃくちゃの一言であった。自衛官の暴走を恐れる日本国民は『Gフォースに人員と金はやるから、扶桑軍は軍縮してくれよ!!』という身勝手な主張を押し通そうとしたが、『現地の大混乱』とジオン残党の襲撃という形で否定される形になった。ジオン残党の軍備は自衛隊の装備の多くでは『奇策で撃破可能か?』程度の可能性しかなく、比較的に練度の高い部隊で初めて成し得る奇跡であった。その部隊にいた人員を厄介払いでGフォースに回すなど、『扶桑への義理立て用の部署』として扱われていた。だが、福岡を皮切りに、各地にジオン残党の部隊がまとまった数で襲来。平時編成のため、弾薬や燃料の備蓄量の少ない自衛隊は後手後手に回り、海上保安庁共々、大打撃を被った。特に保安庁はジオン残党に虐殺と言っていいほどのなぶり殺しを食らった管区も存在し、まともに海上安全の維持ができない状態に追いやられていた。保安庁の完全な再建は長い年月を要するとされ、意気消沈。陸自も多くの打撃を物的・政治的に受け、結局はGフォースの増強と『扶桑に軍備を製造させ、それを逆輸入する』という手法で再建する事を推進するしかなかった。日本は長年の財政難が祟り、兵器製造分野は衰退傾向にあったからだ。扶桑の兵器製造のアウトソーシング化を押し進めようとしていた者達はジオン残党の襲撃を恨んだ。扶桑の官制の兵器工場(工廠のこと)の存続に大義名分を与えたからだった。だが、工廠で働く数十万から数百万の人間に雇用を今すぐ手配できるはずはない。戦後直後の日本のように『働き手の需要が余るほどある』状況ではないからだ。その事は彼らも理解できていた。それを創出するため、扶桑本土に敵軍が被害をもたらす事を望んだが、それが傲慢である事は沖縄で証明されている。彼らは進退窮まり、ついに『プリキュアに防衛丸投げ論』すら現れ、当のプリキュア達を呆れさせていた――
――大人のぞみは連れてこられた、ある場所で『別の自分』の事を聞かされた。教師に転職しようと、ちゃんと軍の所定の手続きをしていたのに、官僚の思想一つで潰された事、その際に『軍隊、それも歩兵上がりの教師など……』と馬鹿にされ(実際は航空部隊のトップエリート)、侮辱された事、実際の所属が航空部隊(扶桑に空軍は1945年の八月まで存在していなかった)、そのトップエリートであることが分かった後は掌を返しての平謝りであった事、大事にしたくないという理由で日本政府が『予備役編入願いはなかった事にしてくれ』と言ってきた事は後輩達をも激昂させ、キュアミラクルやキュアハートは当局に赴き、事務次官に直接抗議するほどであった。日本の当局は当初は取り合わなかったが、彼女らが岡田啓介や鈴木貫太郎などの長老級の重臣、山下奉文大将や今村均大将などの大物軍人を連れてきた事により、話が変わった。彼らは『天皇陛下も憂慮なされている』とし、日本の当局を震え上がらせた。政府も彼らの登場に震撼した。鈴木貫太郎や岡田啓介に至っては『日露戦争の生き残り世代』の人間であり、21世紀の日本の長老級の祖父でもいいくらいの年齢差があったからだ。更に、太平洋戦争以前から指導層にいた世代である。その威力は日本の当局を萎縮させ、政府組織が解決すべき問題にシフトした事を教えられる。
「うーん……」
「のぞみちゃん、担当教科は?」
「国語。小学校の教師になったんだ」
「意外だなぁ。ココの事があるから、中学の教師になるって……」
「うちの両親、共働き夫婦だったからさ。高校の時、親父が『近頃、教師はブラックというじゃないか』って心配したから、比較的に楽っていう小学校の教師になったんだ。通ってた中学の理事長のツテで、その系列校に赴任できた。今年で3年位かな」
「そろそろ、異動があるんじゃない?」
「うん。再来年くらいには。今の教え子を卒業させたら、別の学校に移る辞令が出ると思う」
教師になって数年目の大人のぞみ。背丈もラブよりも多少長身に伸びている他、髪型も年相応かつ立場相応のものにしている。
「そっちの私は軍人って言うけど、どんな格好?」
「こんな感じ。転生した先の時代が古いから、モノクロ写真だけど」
「に、日本陸軍――っ!?」
「うん。ただし、航空科。転生して早い時期に広報の連中の要請で撮った一枚。髪型は昔のままだけどね」
「ん?転生した時、成り代わった人が若かったの?」
「いや、その頃には、もう17歳くらいだったんだけど、前世の姿に戻る時に『現役時代の容姿』になったんだ。だから、戸籍上の年齢が当てにならないくらいに若々しいよ」
「だから、昔の髪型を?」
「その方が、のぞみちゃんってわかるからっていう、上の判断もあるけどね」
のぞみAは現役時代の容姿のままである。大人のぞみと違い、加齢による容姿の変化が起こらなくなったからである。変化が激しいのは身体能力及び戦闘力だ。身体能力は『統合戦闘航空団に配属されるだけの能力を持ち、に草薙流古武術の継承家の次女である』魔女を素体にしたため、のぞみの現役最盛期以上の基礎能力を既に備えていた。頭脳もマルチリンガルな錦のそれを受け継いだため、前世の成人後よりも明晰である。戦闘力は職業軍人としての訓練を積んだ体を得た事から、前世の最盛期よりも向上している。だが、それでも上には上がいたため、さらなる鍛錬が必要だった。
「映像で見せるけど、この先は心臓に来るよ。びっくり要素多すぎだから」
「タブレット、持ってんの?」
「こっちののぞみちゃんの結婚先のお父さんから渡された。その人、政府の裏稼業やってる関係で、付き合いが元からあったんだ。で、のぞみちゃんの結婚で義理のお父さんになってからは、子煩悩でねぇ」
「結婚、かぁ。母親から『そろそろ見合いを……孫を……』って言われちゃう年齢なんだよな、私。20の後半なんてさ、今の時代は未婚率あるのに」
「大変だねぇ、そっちだと」
大人のぞみは未だに未婚である(学生時代に結ばれぬ恋を経験した故か)。そのため、両親から『孫の顔を見せろ』と愚痴られると漏らし、親が年老い始めた故の苦悩も抱えている事を明確にする。
「そっちの私に言っといて。教師はやりがいがあるけど、大変だって」
「それがねぇ……なんて言おうか……」
バツの悪そうなキュアピーチ。
「どうしたの?」
「それが問題だったんだ、こっちだと」
「ど、どういうこと!?」
「それを今から見せるから。仕事の相方が調査で出てて、今夜は戻らないっていうから、時間はあるから」
それはゴルシが協力して編集した『のぞみAの転生前(断片的だが)からの軌跡を再現・軍の記録映像から引用・編集した動画であった。大人のぞみには衝撃が大きい映像がてんこ盛りであった。まず、転生前に、何らかの原因(詳しい理由は不明だが)で野乃はな/キュアエールと対立してしまい、プリキュアの世代間闘争を招いてしまった事、それを遠因に、プリキュアのコミュニティが機能不全に陥った事、その隙を『どこかの世界からやってきた巨悪』に突かれ、プリキュア戦士達は各個撃破されていったという事、その巨悪との長い戦闘の果てに生き残ったのは、自分を含めた少数のみ。なぎさとほのかがその戦いで力を失い、戦線を退かざるを得なかった事、自分はその責任を負う形で長い間、戦士として戦い続けた事、だが、その戦いの後は凶事が続き、チームメンバーは自分より先に病死、自分も実子が闇の戦士になってしまったのが原因で心臓病になり、最後は止めようとした矢先に死の床についた事が再現映像であるが、描写される。あまりにショッキングな映像故か、大人のぞみの顔は青ざめていた。その後に『魔女の世界』に転生し、そのまま軍人になった経緯や、プリキュアとして、周囲からちやほやされることが『前世での心の傷を紛らわしていた』事が戦友達のインタビューで示唆される。転機となった『南斗鳳凰拳への無惨な敗北』、隊の上官たちが明かす『プリキュア以外の強力な異能』、南斗鳳凰拳などに対抗するため、その門戸を叩いた事、転生先での戦いを潜り抜けた後、教師への転職を皇室に願い出る場面……。
「教師に転職しようとしたんだね、良かった…」
「そうでもないよ。ここからがもっと波乱万丈なんだよ」
と、ピーチはいう。皇室のお墨付きを得て、意気揚々と転職しようとした。転生先の世界では合法であったが、そこと国交があり、連邦を組む『21世紀の日本』の厚生労働省や文部科学省の官僚たちが独断で話を潰したのである。『軍人上がりの教諭など……』という独善のために。この独善は日本政府にも寝耳に水で、のぞみ一人で済む問題では無いことは目に見えていた事から、その二つの官庁は総理大臣による叱責を受ける事になった。案の定、予備士官達の転職に多大な支障が生じてしまったからだ。結局、外交スキャンダルに発展するのを強く恐れた日本政府が『なかった事』にする事(件の官僚たちに全責任を負わせ、あくまで『一官僚の独断による暴走』とする事で、組織全体の責任を免れようとした)で強引に幕引きを図り、不利益を被った予備士官らを全員、最前線の勤務にするなど、史実戦中の陸軍を笑えないレベルの『口封じ』を行った。日本政府は彼らに救済を天皇に嘆願され、国際問題になるのを恐れており、まとめて最前線で合法的に死なせる事にしたのだ。任務中に死んだのなら、問題は無いからだ。のぞみの救済だけで、多大な財政的負担になっていたからである。実際、多くの予備士官が1949年の上半期までに戦死していたが、扶桑への負い目から、日本政府は扶桑の了解を取り付けて予備役制度の再編を行い、『軍を辞めてから数年は再就職に一定の制限が生ずる。なお、在籍中でも、やむなき理由での副業は認める』という文面を明記した。これは魔女の軍人は現役引退後にすぐに転職、あるいは結婚が暗黙のルールとして存在していたからだ。社会を変革しようにも、農村部から大反発が起こるのが目に見えていたため、農村部を納得させるだけの一文が必要だったからだ。とはいえ、農村部は都会の人々の食事の洋化や学童教育の浸透などが原因で、その役目を変化させつつあり、政治的影響力は縮小へ向かっていたので、政治的な配慮に留まった――
「え、なんで?」
「その官僚、軍人上がりは軍国主義の権化だって宣ってね。みらいちゃんや上官の薦めで、会話を録音してたから、逆襲ができたんだ」
「どこの業界でも、そういう対策は必須かぁ……」
「録音した会話はマスコミに垂れ込んだよ。写真週刊誌は特に食いついてくれてね。で、極めつけは『プリキュア5の中心戦士である』事。これで政府が動いた。示談にね」
「呑んだの?」
「まさか。告訴する準備があるし、会見でお涙頂戴をするって脅したよ。で、望む資格は全部無条件で与えるし、大佐までの早期昇進を約束するってのが日本側の出した示談の最終条件。で、それに給与と手当の倍額への増額、授与予定の勲章の等級引き上げをねじ込んで手打ち。それが軍に残る条件。日本政府も異世界の同位国に負担を強いた負い目があるから、了承した。それで軍に残る事になったんだ」
大まかな状況説明だが、のぞみAの転職は実質的に国家の組織が了承せず、『無かった事になった』事、皇室が認めた案件を潰した事による報復と軍部の暴走を恐れた日本側は扶桑に矢継ぎ早に五輪と万博を開かせ、国民の目を自分達から逸らさせ、アメリカに懇願し、大量の兵器製造権を斡旋した。だが、近代的なマスプロダクション的な概念が導入されて比較的に日が浅い(史実の大日本帝国よりは圧倒的にマシだが)扶桑の末端にまで品質管理の概念を根付かせるのには時間を要するため、一騎当千の強者に暴れてもらい、その時間を稼ぐ。のぞみはその役にうってつけの人材であったのだ。
「で、その間にパワーアップが段階的に起こってね」
キュアピーチが次に見せた映像には、転生直後は大人のぞみの若かりし頃と同一のスペックであったはずののぞみAが段階的にパワーアップを重ね、現役時代の最強形態であったシャイニングドリームへの自力変身、その更に上の形態への覚醒など、戦士としては自分よりも高みに登った事が大雑把にだが、説明が入る。武器も現役時代のものではなく、歴代のスーパーロボットの武装を模した武器を使用し、極め技も現役時代のものではない。
『ストナァァァ・サァァンシャイィィンッ!』
「な、なにこれぇーーー!?」
のぞみAが自己意志で初めて、ストナーサンシャインを放った際の記録映像だが、シャイニング形態の翼で爆風を防ぐなど、技の威力を知っているようであった。
「なにこれ、なにこれ!?光弾を作って、打ち出して……!?」
「もっとすごいのが続くよ」
「え!?」
『ゲッタァァァ・シャイィィンッ!!』
漆黒の輝きに包まれ、コスチュームをも黒く染める。そして。慣性の法則無視の超高速飛行からの。
『ズワルト・シャイィィィンスパァァァク!!』
赤と黒の高エネルギー弾が打ち出され、相手を木っ端微塵に消し飛ばす。その際の『自分』のコスチュームは完全に黒に染まっていた。一瞬だが、表情も見えた。完全に『殺ってやる』という激しいもので、自分の記憶では、二回しか記憶にない。
「うぇえええ!?これが私!?」
「そうなんだよ。ものすごいっしょ。で、極めつけが……」
「月ぃ!?ぇ……なんで、みらいちゃんと!?」
キュアミラクルと自分(キュアドリーム)の大喧嘩。しかも、ミラクルは最強フォームでの全力で攻撃しているが、自分は小揺らぎもせずにオーラを滾らせ、逆に何かの超常的な攻撃(ギャラクシアンエクスプロージョン)で吹き飛ばす。ミラクルは激しく、月面に叩きつけられるが、反撃を返す。
「な、な……なにこれ~~!?」
と、大人のぞみは大パニックなのだが。
「あ、家に帰ってないから、りんちゃんから電話だ……」
と、大人のぞみが鳴り始めた電話がりんからのものと確認すると。ピーチが代わりに電話に出て……。
「あ、りんちゃん?久しぶり。あたしだよ、桃園ラブ」
「え、あんた……ラブ!?なんで、あんたがのぞみと一緒にいんのよ!?」
「細かい事情は後で説明するから。すごく久しぶりだから、のぞみちゃん、勢いよく飲んで、それで『潰れて』さ。今夜はあたしが取ったビジネスホテルで寝かすよ」
「あんた、のぞみを介抱してたの?」
「ベロンベロンに酔っ払ってるから、家に帰せなくてさ。今夜はあたしが面倒見るから」
「わかったけど、何飲んだのよ」
「アルコール度数高いの飲んじゃったんだよ、グイッと……」
「のぞみったら……」
「のぞみちゃんの職場にはさ、朝になったら、病欠って連絡しておくよ。二日酔いは確実だし」
「頼むわ。10数年ぶりの会話がこれなんて」
「まぁ、人間、色々あるって。んじゃ、のぞみちゃんのスマホ借りてるから……」
と、大人りんとの会話をその場の機転と演技力で乗り切る。伊達に、前世で芸能活動をしていただけのことはあった。
「ラーブちゃ~ん?」
「ゴメンゴメン。とっさに思いついた方便がそれしかなくてさ」
「そりゃ、年相応にビールとか飲むけどさ~!」
大人のぞみは(とっさの方便とはいえ)キュアピーチに『酔っ払って、前後不覚になった』ということにされたので、学生時代と変わらないふくれっ面を見せる。
「それなら、あたしだってそうさ。仕事のつきあいで必要なことじゃん、飲みニケーションって」
「え、見かけは昔のままじゃん」
「見かけはね。転生して数年も立ちゃ、便宜的に作ってもらった戸籍の年齢も20代に入る。それで嗜み程度に飲むようになったんだ」
飲みニケーションは、扶桑では特に重要であった。1940年代当時の政府や軍部の高官は根こそぎ呑兵衛であったので、プリキュア達も転生先の素体になった人物の年齢に『転生してからの時間経過』を加味すると、20代に入り始める頃なので、式典でのポーズや上層部との折衝に必要なことから、『嗜み程度でもいいから、飲める者は飲んでおけ』という通達が出され、1949年の頃には、のぞみやラブなどが法的に『飲酒可能』な年齢になる計算である。
「だから、ビールが?」
「仕事中だから、ノンアルさ。今住んでる世界にはないから、別の世界に行った時に買い込んでるんだよね」
と、ここで『仕事』の裏事情を明かされる大人のぞみ。更に。
「ほら、食事」
「……あのさ、これ、でっかい大根だよね?」
「真ん中を持って、上を『パカッと』開けてみ」
「?大根になんで、そん……な、なにこれ!?大根の中にかつ丼が!?」
大人のぞみがびっくり仰天なのも無理はないが、それは64Fが野戦食として重宝している『畑のレストラン』であった。64Fはドラえもんの協力で、この道具を野戦食として備蓄しており、キュアピーチもいくつかを持ち込んできていたのである。
「あれ?これ……子供の頃に何処かで……」
「それはぼくの道具だからだよ、のぞみちゃん」
「あー、追加品を届けに来てくれたんだ」
「ああ。君、あんまり金を用意していかなかったろ?武子さんが怒ってたよ?」
「隊長ったら、変に堅物なんだから」
「はい、この世界でも使える小切手。それと、食料品はそこらに置いとくよ」
「はーい」
「ら、ラブちゃん、その子……もしかして、もしかして!?」
「やぁ。この世界だと、普通に大人になってんだね。ぼく、ドラえもんです」
「嘘ぉぉぉーーーーー!?」
大人のぞみは『普通に自分と知り合いな風に、ドラえもんが話しかけてきた』ことに驚き、顎が外れそうな勢いで驚く。正真正銘、猫型ロボットのドラえもんだ。
「ら、ら、ラブちゃん、ど、ど、ど……」
「おちついて、ろれつ回ってない」
呂律が回らないと言われるほどの驚きであった。正真正銘の『動くドラえもん』が現れたのだから、当然であった。いきなりの大物に頭がパニックになり、目がグルグル状態の大人のぞみ。四捨五入では30になる年齢の大人になっても、その根幹は10代半ばであった往時と変わっていないのがわかる。
「ああ、こっちでののぞみちゃんの法的後見人の一人だよ、ドラえもんは」
「のび太君が成人後に成功した後は仕事仲間でもあるからね。彼、君の養父になるんだ。ラブちゃんから聞いてるね?」
「!?それじゃ、そっちの私の養父って!?」
「そう。君もよく知っている、野比のび太君さ。それに、君の後輩に花海ことはって子がいるだろ?その子、のび太くんの義理の妹になってるよ」
「はーちゃんがぁ!?……ど、どーなってんのぉ!?」
「あ、普通の反応だ」
「こっちだと、いちかちゃんの口癖が感染ってるからねぇ」
「えーーーーー!?情報が津波みたいだよぉぉ~!」
「少しづつ説明していくから。ね、ドラえもん」
「ああ。ちょうど、ぼくも来たばかりだしね」
津波のような情報の嵐、ドラえもんの登場に、学生時代と変わりない狼狽えを見せる大人のぞみ。一歳上の水無月かれんが勤務医になっているという情報から、のぞみも(若く見積もっても)30代が間近に迫る年齢になっている事がわかる。また、宇佐美いちかの影響により、のぞみAに彼女の特徴的な口癖が伝染した事が明確になる。
「大人になると、君も一端の雰囲気出るんだねぇ」
「失礼なー!これでも、20代の後半なんだからー!」
「こっちだと、若い時のままだからさ、つい、ね」
「むーーー!確かに、そっちじゃ若い頃の姿だろうけど……」
「あ、ラブちゃん。広報部の要請で撮った、例のMC。今し方に完成したみたいだから、見てくれる?」
「ちょうどいいから、のぞみちゃんにも見せる?」
「そうだね、今の状況を理解してもらえるだろうし」
「?」
ドラえもんが自分のタブレットと繋げた大画面モニターに映し出されたのは、のぞみA(キュアドリーム)と精神を入れ替えたナリタブライアンの協力で撮影され、完成を見たミュージック・クリップだった。曲は彼女(ナリタブライアン)がデビュー当初~全盛期に使っていたライブ曲『シャドーロールの誓い』であった。彼女本来の体ではないので、ナリタブライアンが本来持つハスキーボイスよりはだいぶ高い声(ただし、ブライアンのデビュー当初の頃の声色に近いと、ビワハヤヒデの談)であるが、音感はあるものの、音痴であるのぞみ本来の歌声がぶっ飛ぶ勢いの歌唱力と、プロ級のダンス力(ブライアンは全盛期、ライブでダンスをする機会が多かった。)を見せつけるキュアドリームの姿があった。
「あ、完全にキャパオーバーみたい……」
大人のぞみには、これが一番の衝撃だったようで、完全にキャパオーバーの有様で、口から魂が抜けそうな勢いで茫然自失であった。「シャドーロールの誓い」を高らかに歌い上げていくキュアドリーム(過去に自分が変身していたプリキュア戦士)に、大人のぞみは『月までぶっ飛ぶ』衝撃を受け、完全にキャパオーバー。茫然自失とは、この事だ。
「だろうねぇ」
ドラえもんは意外に冷静だ。その一方で、春日野うららの仕事を手づだった経験から、自分の歌唱力のなさを残念がっていたからか、若き日の願望が叶ったような心境なようで、衝撃を受けつつも、大人のぞみは最後には、微笑む様子を見せるのだった。