――大人のぞみは戦士であったためか、同位体がZEROと融合したためか、夢の中でとんでもない存在と邂逅した。地球を人知れずに守ってきた存在にして、歴史上で一国の統治者であった者達『1000年女王』。その歴代の面々であった――
「あなた達は……?」
「私達は遥かな昔より、地球に生涯を捧げてきた者です。我々の姿格好から、あなたにはわかるでしょう」
「あなた達は……そんな……!?」
大人のぞみは驚愕した。眼の前に立つ者達は歴史上で一国を統治していた、あるいはそれに近い立場にあった女性たちであった。古代エジプトは悲劇の女王『クレオパトラ』、古代日本は邪馬台国の女王『卑弥呼』、中国は悲劇の人『楊貴妃』。その三人であった。
「クレオパトラ……卑弥呼……楊貴妃…!?」
「そうです。我々はあなた方に先駆ける形で、地球を守護していました」
クレオパトラは言う。自分たちは地球の文明が黎明期であった頃から、代々地球を守ってきたのだと。とはいえ、生前の一族の行為自体は褒められたものでない楊貴妃(傾国の美女である)も『地球を守護する役目』を背負っていたのか?と質問すると。
「私は『候補』の一人にすぎませんでした。おふた方と違い、国を統治した経験はありません。ですが、クレオパトラ様の配下ではありました」
クレオパトラは史実での死の後も、裏でしばらくは生きながらえていたのか、卑弥呼や楊貴妃らを率いていたという。そして、自分たちは種族としての『地球人』ではない事を告げられる。
「私達は地球人ではありません。時代ごとに、ある星から各国に送り込まれた監察官のような存在です。それも、20世紀まででしたが…」
卑弥呼が言う。伝承の通りに『巫女装束』を纏っており、生前は『シャーマニズム』を体現していたであろうことは容易に分かった。
「20世紀に何があったのですか」
「その時代における、私達の後継者がその運命を終結させたのです」
「どうか、我々の想いを無に還さぬよう……。20世紀の後継者は我が身を犠牲にし、地球を守った。あなた達はそれ以降の時代の地球の守護を担うべき存在なのです」
「なんで、なんで……私たちなんですか!?あなた方は国や民を守るべき立場にあった。ですが、私は……私たちは!!ただの……」
そこで言い淀んでしまう大人のぞみ。自分も、既に責任を背負う立場になっていたからだ。
「貴方はまだ若い。私は一族の過ちを悔い改めるだけの時間を与えられなかった。後世に傾国の美女と言い伝えられているように」
楊貴妃が言う。のぞみもそれは知っている。楊貴妃は時の皇帝『玄宗』を狂わせ、唐の滅亡の道筋を作った元凶だと。
「責任ある立場に立ってしまうと、個人の思いはある程度は封印せねばならない時があります。最も、私と楊貴妃は貴方の知っているような結末でしたが……」
クレオパトラは自嘲気味に答える。史実では二人は悲劇的最期であったとされる。だが、クレオパトラは実際には生存し、その後も一定の影響力をある時期までは行使していたとしか説明しようがない言いようであった。
「私達は肉体をとうに失い、魂だけの存在。ですが、あなたには肉体がある。熱き血の通う体が」
転生の摂理から外れてしまった故に、魂だけの存在となったらしき三人の錚々たる面々。卑弥呼がいう。日本の地(どこかはわからないが)を統治し、その彼女が築いた日本という国の礎を経て、2000年近くを経た日本に生きるのぞみにとっては、気の遠くなるような年月の差がある人物であり、仮にも、一国の統治者であった卑弥呼と、一介の教師でしかない自分とでは釣り合いが取れないともいう。
「私に…私に……何をさせたいんですか、あなた達は!?」
「この世界に危機が迫ってきているのです。我らはそれを知らせるために、涅槃から舞い戻ったのです」
楊貴妃がそう明言する。死後の世界という概念が確かに確立された後の時代の人物(他の二人は生きた時代が文明の黎明期であったという自覚がある故)であったからだ。そして、自分達はのぞみが見ている夢の中の存在ではなく、霊的な力で夢に干渉しているのだともいう。実際に、ドラえもん達は寝息を立てている大人のぞみの枕元には、彼女らの姿があった。ドラえもんとキュアピーチも驚きの光景であった。
「あなた方が涅槃からわざわざご足労を……お疲れ様です」
「我らは生前に超能力を有していました。この程度の事は容易い事です」
「……ハッ」
畏まる二人。三人は歴史に名を残した人物。楊貴妃に関しては『偉大な大唐帝国を滅びに向かわせた』という悪名で名が残った感が強いが、ドラえもんの世界においては、地球を裏で統治する『1000年女王の候補者』であったため、巷の悪評が嘘のように聡明な人物であった。彼女達は霊だけの存在であるが、裏で地球を見守っており、ハーデスの聖闘士星矢世界での戦死に伴う天界の秩序再編で、地上に降臨できるようになったのだという。卑弥呼が三人の中でもっとも強力な力を持っており、天候を操作できるほどであったという。よく見てみると、三人は伝承通りの服装をしており、卑弥呼はシャーマンとしての、楊貴妃は唐代の宮廷衣装、クレオパトラも後世に残る壁画通りの格好であった。のぞみの夢に干渉しているのは、この世界の人間である『大人のぞみ』を戦士の座に戻し、プリキュアたちを『危機に際しての対抗策』にする事が目的であった。大人のぞみは加齢による立場の変化と心境の変化で、かつてのように『夢や希望』に純真な視線を向けられなくなっていたため、いつしか変身アイテムを喪失していた。それ以降は内心、二度の戦いを経た故に『喪失感』が強く、青春の日々への郷愁を密かに感じていた。大人になっていくにつれ、失っていったモノの大きさを実感していたわけだ。だが、この世界に迫る危機が大きい故に、大人のぞみを戦士に戻す。それが地球を守護していた女王(妃含む)達の選択であった。つまり、争乱が本来の流れよりも大きくなることの表れであった。大人のぞみは強く葛藤しているので、すぐには答えは出せないだろう。だが、彼女らの危惧通り、『オトナプリキュアの世界』の太陽系に迫る大艦隊があった。それは、未来世界では滅亡して久しいはずの白色彗星帝国の艦隊であった。これは行方不明とされていたバルゼー機動艦隊の別働隊であり、空母だけで、600m級が100隻を超えるという陣容であった。21世紀レベルの文明しか持たない地球では、なんら為す術は無い。その事を伝える三人。
「白色彗星帝国の生き残りが…!?」
「時はそれほど残されてはいません。あなた方の軍の高官らにも、事の重大さを伝えてあります」
「決戦ですか」
「ええ。この世界の運命をかけての。敵の船には破滅ミサイルが装備されています」
「は、破滅ミサイル!?」
白色彗星帝国はガルマン・ガミラスやボラー連邦の有する『惑星破壊プロトンミサイル』の元になった『破滅ミサイル』を有していた。彼女らは異星人であったため、彼らの事を知っていたのだ。
「今頃、あなた方の世界の地球連邦軍は艦隊の出撃態勢を急いでいるはずです」
卑弥呼の言う通り、23世紀世界では、彼女らの警告を受けた地球連邦軍の最強の遠征艦隊『太陽系連合艦隊』の出撃態勢に入っていた。レビル将軍の命により、退役が予定されていたアンドロメダ級のみならず、ヤマト型宇宙戦艦も総動員されていた。
――23世紀世界 土星の衛星『タイタン』近く――
「レビル将軍の指令が降った。我が連合艦隊は実戦態勢に入る。目的は白色彗星帝国残党を撃滅することだ!!」
タイタン近くの空域で演習中であった第七艦隊はレビル将軍の指令を受け、直ちに実戦態勢に切り替えを始めた。山南修提督はタイタン基地の司令室から全艦隊へ指令を通達。それを受けた太陽系連合艦隊の全艦(補助艦艇に至るまで)が集結を急いだ。
――太陽系の各空域で演習中であったアンドロメダ級が各基地所属の護衛艦隊を率いて、土星はタイタンへ集結を始める。更に、同艦隊のすべての艦載機、準惑星基地の巡視艦に至るまでが動員をかけられたのだ。これはかの『土星決戦』以来の事であった。当時に就役済みであった全戦闘空母も動員がかけられ、各基地の航空隊が空母艦隊を目指して出発していく。
「白色彗星帝国の残党は自分達の母国がヤマトとテレサに滅ぼされたのを知らん。転移した先の世界の地球の科学力では為す術もない。大陸間弾道弾も、彼らにしてみれば、線香花火も同然だ。なんとしても、現地の地球を守るのだ!」
……と、いうレビル将軍の指令により、反応弾、次元兵器の使用も許可が降り、太陽系連合艦隊はその総力を以て、白色彗星帝国残党を迎え撃つ事になった。白色彗星帝国残党の総戦力は戦艦が300、巡洋艦以下が無数、空母は400隻以上という強大なもの。これはバルゼーと並び称された『ナグモー』提督の率いる第二機動艦隊。白色彗星帝国最強の空母機動部隊であり、太陽系連合艦隊の有に倍する規模であった。質で優越するようになった地球連邦軍とはいえ、自らに倍する規模の艦隊との決戦のため、地球に敵艦が到達する可能性を鑑み、空間騎兵隊も多くが動員されていく。クレオパトラ達はその光景を大人のぞみに見せている。母国の滅亡を知らず、地球に迫る白色彗星帝国の大艦隊の威容。それを無償で迎え撃たんと、颯爽と地球圏の各地から出撃していく地球連邦軍の名だたる宇宙戦艦たち。その中には、かの宇宙戦艦ヤマト、超時空戦艦まほろば、ラ號といったヤマト型宇宙戦艦も含まれていた――
――大人のぞみは『宇宙からの侵略者相手では、手出しのしようがない!』と反論したが、万が一、白色彗星帝国の残党が地球に到達した場合、地球の全文明圏は悲惨な有様に陥る。地球連邦軍とて、全部は防ぎきれないのは目に見えている。21世紀の国連の軍事力では、まったく歯が立たないのは当たり前の恒星間航行時代に達した人類の軍事力がその総力を以て、事に当たらなくてはならぬ程の敵。それは宇宙戦争を意味する。その戦禍が自分のいる地球に及んだ場合、守りたかったすべては無に帰す。自分の家族はもちろん、世界全体も。この時代(2020年代)になると、かつてのプリキュア戦士たちの多くは、往時からの加齢で力が失われたり、各々の事情と理由で、戦いと決別している。だが、必要とされている時に戦うのが、戦士であった者の責務である。死人かつ、古代~中世に生きていた女王達が魂だけの状態で現世に現れ、侵略者の脅威を説いているのに、生者である自分が座していていいのか?その気持ちと、戦いから離れて、15年近くを経たのに、往年と同様に戦えるのか?という恐怖心が戦っていた。だが、宇宙空間を驀進する巨大な宇宙艦隊が自分の守ってきた地球を蹂躙するなど、あってはならない。別の世界の地球の軍隊がこの世界の国連に知られることなく、決戦を挑もうとしているのに、自分は座して見ていることしかできないのか。それが大人のぞみを苦悩させた。
「私は……力を失いました。だけど、教え子が自分たちに非がないのに、戦禍に倒れるのは……プリキュアの名がすたります!!」
教え子たちを戦禍から守りたい。それが彼女を戦士に立ち還らせる選択に駆り立てた原動力であった。卑弥呼が(生前がそうであったように)祈りを捧げると、大人のぞみは若返りを果たした上で、キュアドリームに変身していた。これは現実世界でも同様で、卑弥呼の超能力の為せる業であった。
「別世界の同位体の記憶と能力があなたになだれ込み、あなたを戦士に立ち還らせたのです」
「若返らせた上で、ですか?」
「プリキュアのアカシックレコードにアクセスし、貴方の最盛期の肉体を呼び出し、具現化させたのです。正規の方法ではありませんが、やむを得ません」
卑弥呼の力を以てすれば、プリキュアのアカシックレコードに直接介入し、変身者であった者に能力を戻すことは容易かった。楊貴妃やクレオパトラでは不可能なので、巫女も兼任していたが故の能力が卑弥呼にはあるという証明であった。
「同位体の記憶と能力がおまけされている(ZEROとの融合を果たしたAのこと)ようですので、それも貴方に与えておきました。それで彼らの協力を仰げるでしょう」
と、卑弥呼は自分にできる範囲でのプレゼントを与えた。それが終わると、彼女らは微笑みながら、姿を消す。そこで目が覚める。
(彼女らの想いに応え、地球を守るために戦うこと。それが……!)
「目が覚めたようだね」
「……うん。二人共、協力してくれる?」
「どうやら、僕たちの知ってる君の記憶が宿ったようだね。連合艦隊司令部に繋いである。事情はお三方が説明してあるよ」
大人のぞみは卑弥呼の図らいで、のぞみAの能力と記憶を得た状態となっていた。キュアドリームの姿になっており、のぞみAとの外見的な差異はなくなっている。
「山南提督ですか?ロンド・ベルの夢原のぞみ少佐です。提督にご協力を頂きたく……」
為すべき事を見いだせれば、のぞみはどの世界でも行動が早い。地球連邦軍の協力を得るため、連邦軍の士官である『別世界の自分』の存在を使う。本人が知ったら腰を抜かすだろうが、自分も『夢原のぞみ』なのだから、嘘はついていない。そういう理屈で、連邦軍、ひいては扶桑空軍の将校である別世界の自分を大いに利用したわけだ。
(宇宙艦隊に蹂躙されるのは、まっぴらゴメンだよ。悪いけど、別世界の私……。会えたら、いくらでも謝るから、今はあなたの身分を使わせてもらうよ!)
のぞみAとして振る舞い、山南修の協力を取り付ける大人のぞみ。なんともずるい感じがするため、気が咎めるらしいが、相手は白色彗星帝国の生き残りたる大艦隊。なりふり構ってはいられないのだ。彼女をそうさせるほど、白色彗星帝国の残党は既に転移座標であるアルデバランを離れ、太陽系に進路を取っていた。アンドロメダ銀河からの遠征中の事故であった故、彼ら自身も転移に気がついていない。ガトランティスはそういう点は意外にずさんな国家であった。地球連邦軍も先行して転移していた嚮導駆逐艦『時雨』の長距離観測でそれを確認。彼らの艦隊は鈍足の輸送船団を含むため、艦隊速度は19宇宙ノットと、恒星間航行艦隊としては極めて鈍足の速さであった。一方、地球連邦軍は高速戦艦や空母が竣工してきた時期であるため、艦隊速度は31宇宙ノット。23世紀世界の艦隊速度として『極めて高速』の部類に入る。
「わかりました。ドラえもんくんにコスモタイガーを借ります。お三方はこの世界にいるプリキュア経験者を説得しにいくでしょうが、戦争ですからね。全員は了承しないでしょう。ですか、彼女らを責めないでください」
「うむ。それは了解している。ドラえもん君が新コスモタイガーを持っとるはずだ。今、嚮導駆逐艦にスキャンさせた、この世界の経験者達の座標をドラえもんくんの端末に送る」
「ありがとうございます」
大人のぞみはメダルーザ級を始めとする白色彗星帝国の大艦隊の威容に、大事な何かを守るため、別世界の自分の身分を借りて、白色彗星帝国と戦う覚悟を決めたようだった。
「……怖くないかい?」
「怖いよ。そっちの私と違って、根っからの職業軍人じゃないからね。だけど、宇宙のどこの馬の骨とも知れない宇宙艦隊に蹂躙されて黙ってるんじゃ、女がすたる!」
ドラえもんはコスモタイガーをポケットから出す前に、そう問う。大人のぞみは蹂躙されて黙ってられるほど、自分は『できた人間ではない』と明言した。自分は教え子や友たち、家族を侵略者の魔の手から守りたいだけだと明言する。
「この世界を守れるのなら……悪魔とでも手を結ぶ。大事な誰かが傷ついて……どうする事もできないのは……どこの世界でも御免だよ」
「君はどこの世界でも、優しいんだね」
「のび太君ほどじゃないよ。私は……中学出てからは、みんなと連絡取ってなかったからね」
大人のぞみは別世界の自分の記憶と経験がインストールされたおかげか、コスモタイガーのコックピット配置を瞬時に理解し、エンジンに火を入れる。
「君、最初はどこに行く気だい!?」
「この街で一番大きい総合病院。かれんさん、この世界だと、そこの勤務医なんだ」
「と、言うことは……」
「女に年齢聞くのはタブーだって、貴方んとこの私に言われなかった?殺されるよ?」
「な~に、うちの妹で慣れてるさ」
「あ、ドラミちゃん……」
「そういう事。このタイプのコスモタイガーなら、大病院の屋上くらいのスペースに着陸できるよ」
「未来の世界って、そんなに進んでんの?」
「元々、艦載機だもの、こいつ」
と、後部座席に座るドラえもん。通常はレーダー担当士官の席だ。コスモタイガーは三座型の後継として、複座型が製造されていた。三座型が撃墜された場合の要員の損耗率が高かった反省によるものだ。機体の塗装は空自のF-2のような洋上迷彩で、日本管区に回されるはずであった個体であるのがわかる。
「それじゃ、行くよっ!」
大人のぞみは別世界の自分の記憶を信じ、コスモタイガーを動かす。23世紀世界での遠征艦隊のスタンダードな戦闘機なので、覚えやすい計器配置になっている。時刻は既に次の日の朝になっていたため、キャノピーに陽光が反射している。
「うーん。この戦いが終わったら、わたしも自家用機の免許取ろうかなぁ」
「あ、君、こっちだと、あらかたの資格得てるよ」
「え、本当?」
「ゲリラ戦の時期があったから、半分以上は実戦講習だったけどね」
「笑えないなぁ、それ」
「色々と宝の持ち腐れになるから、車とか買えば?」
「うち、マンションなんだよねぇ。高層マンションの上階でさ。私が生まれる頃に、親父が買って…。置けるスペース……それ以前に運転免許取ろうっと…」
「あ、取ってないんだ、ここだと」
「必要なかったしね、ここだと」
大人のぞみは運転免許証を保有していない。必要がなかったためだ。(私立学校に就職したので、分校に異動にならない限りは、自家用車は必要ではなかった)対して、Aは任務の必要上、あらかたの乗り物の資格を取得済みだ。
「そっちだと、何の免許を?」
「ゲリラ戦の時に、船舶免許も取った。必要だったしね。潜水艦で敵の背後を突いたりする任務でモーターボートとか動かす必要があったから」
「えぇ!?」
「ナチスへのパルチザンみたいな事してたから、異星人の上陸部隊相手に。潜水艦も動かせるはずだよ」
「スパイ映画じゃないんだから…」
「状況が状況だったからね。君、自動二輪でも取って、250か400くらいの排気量のオートバイでも買ったら?」
「月給じゃ無理だよ。消費税上がってんだよ?」
「大丈夫、この戦いが終われば、恩賞出るから」
と、やけに世知辛い会話をしつつ、二人はこっそりとコスモタイガーを病院の屋上に着陸させ、道具で中に入る。ドラえもんは偽装した外見を活用し、水無月かれんが病院にいるかどうかを受付で訪ねてみる。
「今日は出勤日だって。でも、重大な事を忘れてた」
「うん。この姿だもんなぁ。パニクるよ、かれんさん」
大人のぞみは今になって気がついた。記憶と経験をインストールされる過程で、プリキュアに変身したままなのだ。
「しかも、若返るんだもの。あ、学校に欠勤言ってくれたかな、ピーチ」
「メールが来た。風邪が酷くなってのびたことにしたって」
「分かった。あーあ、面倒だなぁ、出勤する時」
二人はちゃんとマスクを着用している。ドラえもんがそうさせたのである。時代的にうるさいだろうと予測したからだ。
「さて、どうするか」
「……やばい、ドキドキしてきた」
「僕に任せて。上手くやるから」
と、着ぐるみ越しにウインクしたドラえもんはわざわざ病院で初診受付を済まし、かれんの診察を受けられるようにした。日本に来た仏からの観光客を装って。そして、その順番がやってきた。
「失礼します」
ぬけぬけと、具合の悪くなった観光客を演し、水無月かれんの診察室に入るドラえもん。そこまでは『数いる観光客の患者』と見ていた大人かれんだが……。
「し、失礼しま~す……」
「ああ、友人にここまで連れてきてもらったんですよ。動けなくなってしまって…」
と、適当に言い繕うドラえもん。その『友人』という声の主が誰であるかを理解した大人かれんはあまりの衝撃に言葉を失う。
「そ、そんな……嘘でしょ……どうして……!?」
「お久しぶりです、かれんさん」
「……ドリーム……!?」
大人かれんにとっては信じられない光景であった。そこにいたのは、往年そのままのキュアドリームだったからだ。
「あ、あ、あなた!!どうして!?それに……!?」
「私にもわけ分かんないんですよぉ!!なんか若返ってるし、『なれてる』し……」
そう。かれんが立派に大人になっているように、のぞみもこの時期には成人して何年も経つはずである。だが、目の前のドリームは『どこから見ても』現役時代そのままの姿である。大人かれんはいきなり混乱の渦に巻き込まれてしまったのだ。
「とにかく、この人の診療を済ませたら、あなたを診てみるわ。……信じられない。昔、つぼみ(花咲つぼみ)から話は聞いていたけど……」
この世界でも、後輩チームとの共闘はあったようであり、花咲つぼみの祖母が若かりし頃にプリキュア戦士であった事を知っていたかれん。
「私だって聞きたいですよぉ。せっかくいい塩梅に大人になったのに~!」
と、もっともらしい事を言ってみせる大人のぞみ。半分は本音だ。
「昨日、りんが言っていたけど、あなた、ラブと久しぶりに会って、酔い潰れたそうね?」
「そうなんですよぉ。つい、勢いよく度数の高いの飲んじゃって」
「それが…、どこがどうして、そうなってるのよぉ!?」
「勘弁してくださいよ、酔い潰れてたから、夜の記憶が飛んじゃってて……」
「それだけで説明がつくと?」
「ひえ~ん!勘弁してくださいーー!本当に覚えてないんですって…。あたた……」
さすがのかれんも、この状況では語気が思わず強まる。ドリームはタジタジだ。
「僕が説明します。この子を引き取ったのは僕なんです」
「うぅ、ごめんなさい~」
「な~に、構わないさ」
と、ドラえもんが咄嗟の機転で助け船を出し、会話を進める。かれんはその瞬間にハッとなる。この男性は『のぞみがプリキュアであるのを知っている』のだろうか?ひいては自分もかつてはそうであった事を。流れ的につい口に出してしまったが、この男性は全てを知っているように思えた。『診療』は長引きそうである。ここに、ドラえもんや歴史上の女傑たちが、大人のぞみを乗せる形で始まった『プリキュアオールスターズ集結作戦』が開始された。