ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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四百九十六話の続きです。


第五百七話「キュアスカーレットとキュアエトワールと……2」

――結局、扶桑皇国はそれまでの軍人精神を否定された者たちの相克により、クーデターの後は多くが軍以外の職業に就くという事態に陥っていた。軍人のサラリーマン化の進展は時代の求めであったが、負ければ、未来永劫に渡って、戦犯の烙印を押されることが判明したため、軍を避ける風潮すら生まれてしまったのだ。日本もこの急激な意識の変化に困惑。結局は魔女の雇用維持の観点から、軍への就職の奨励をある程度は容認するしかなかった。64Fへの依存の深さを解消するには、時間をかけて、高練度の魔女部隊を数個づつは有する必要があるからだが、危険思想を理由に中堅層の魔女を追放してしまった影響により、64Fに高練度の魔女の八割が集中した上、その全員が転生者、ないしはその関係者という異例の事態になっていた――

 

 

 

――ヒーローユニオンは21世紀初頭に日本が放出したレスキューポリスや機動刑事ジバンなどの関係備品を回収して回り、2019年にはあらかたのものを回収でき、改修の後は実戦テストとして、64Fにテストさせていた。その内の一つが機動刑事ジバンが現役時代に使用し、事後に彼へ引き渡すのを前提に復元されていた武器の数々であった。64Fに孤軍奮闘していたダイ・アナザー・デイの時期に貸与され、主に元の持ち主を知っている黒江が使用したが、現役時代の武器が破損しやすかったキュアドリームも使用していた――

 

 

――1949年のある日(遠征の前)――

 

「武器庫にあるメカメカしい武器はなんだ?」

 

「ああ、ヒーローユニオンから貸与されてる武器」

 

「ヒーローユニオンから?」

 

「元の持ち主の行方がわからないから、暫定的にうちが預かってるんだって」

 

「で、本当に使ったのか?」

 

「ドリームが使ったよ。なにせ、フルーレは折れやすいしさ」

 

「フルーレはそもそも、本格派の剣じゃなくね?」

 

キュアジェラートがホイップにツッコミを入れる。フルーレはそもそも練習用の剣であり、本格的な武器ではない。実家が資産家であるキュアジェラートはそれを知っていた。

 

「まぁ、キュアフルーレは本当は合体技発動用のアイテムだしね。だから、ドリームがそれと別に使えるフルーレだろうと、よく折られてね。ヒーローユニオンから、よく武器借りてたよ」

 

「そりゃ、フルーレを完全に使いこなしてんの、キューティーハニーくらいだろ」

 

「あの人のは、そういう調整がされてるからね。それに、ハニーさん、高校時代はフェンシングの有力選手だったって」

 

フルーレを剣戟で用いるには、フェンシングの技能が必要である。如月ハニーはそれを高レベルで備えているので、フルーレを戦闘で使えるわけだが、夢原のぞみは有り体に言えば、プリキュア覚醒後における『天性の戦闘センス』だけで乗り切ってきた。それが仇になって、キュアフルーレの破損回数は多かった。黒江曰く、『フルーレでまともに剣戟しようとすんだよ、あいつ』とのこと。また、現役時代は剣戟の回数が『指で数えられる程度であった』ので、敵も味方も達人が揃った戦場では経験不足を露呈したのである。ヒーロー達はそれを鑑み、保有する武器を貸与した。主に貸し出したのは、太陽戦隊サンバルカンが『バルカンスティック』、超獣戦隊ライブマンが『ファルコンセイバー』、光戦隊マスクマンが『マスキートンファーとマスキーブレード』、そして『機動刑事ジバンの遺産』である『マクシミリアン TYPE-3』という武器であり、その内の剣形態の『マクシミリアンソード』であった。

 

「たしか、ダイ・アナザー・デイの時に通りがかりの報道班が撮った写真が……あった」

 

休憩室の本棚にある写真集を開き、キュアジェラートに見せるホイップ。それは、ヒーローユニオンから電送されてきた『マクシミリアン TYPE-3』を実体化させ、『マクシミリアンソード』に変形させた上で縦一文字斬りを決める一瞬を捉えた写真である。日付はヒーローユニオンの協力体制が定まった後のもので、陸戦型の怪異を屠っている。

 

「その前の戦闘でキュアフルーレが折れて、彼らから電送されてきたのがそれ。20世紀の後半にいたロボット刑事のものだったんだって。それを復元したんだって」

 

「20世紀の後半に、こんなエネルギーソードが作れんのかよ!?」

 

「正確には、刀身にエネルギーをまとわせてるのよ。宇宙刑事たちから伝わったメカニズムらしいわよ」

 

「あ、りんさん」

 

「や。ここ最近はのぞみの頼みで、事務方に引っ込んでるから、体が鈍っちゃって。現役時代はスポーツしてたから、性に合わなくてさ」

 

「それでルージュの姿に?」

 

「うん。前の闘いで記憶喪失になったのは不覚だったけど、まさか、あの子がねぇ……」

 

記憶喪失の病歴を気に病んでいるキュアルージュ。記憶の回復後も、のぞみは『戦わせたくない』と言っており、彼女を傷つけたくない故に、自分が無理に戦っている感がある。それはルージュもわかっているが、のぞみのトラウマを呼び覚ましてしまった罪悪感からか、最近は事務仕事に専念していた。

 

「のぞみさん、あの時は正気失いかけてましたからね。だから、はーちゃんたちは強硬手段を取ったんだろうけど」

 

「それで、向こうののぞみを泣かせてんのよねぇ。いくらなんでも、やり過ぎよ」

 

「埒が明かないからって、はーちゃんは」

 

「のぞみはどこの世界でも、ヘソを曲げると、素直になれないって事よ」

 

のぞみBとの交渉が行き詰まり、Aがタウ・リンに敗れた上、友情を否定された事で正気を失いかけたため、ことは達は強硬手段を取った。力づくで連れて行くと宣言し、叩きのめしたのである。

 

「ハーロックから聞いたけれど、彼が最終的に説得したのね?」

 

「ええ。向こうののぞみさんが破れかぶれになったんで、はーちゃんがストナーサンシャインで倒そうとした瞬間に来てくれて。イカ型のアルカディア号は新鮮でしたよ」

 

ホイップから、ピーチのシャイニングフィンガー(放射)を受けても尚も戦う意志を見せたため、フェリーチェは最終手段として、ストナーサンシャインを使おうとしたことがルージュに伝えられた。もし、あと数分でもアルカディア号が遅れていたら、キュアドリームBはストナーサンシャインの閃光に呑まれていただろう。

 

「向こうの皆さん、青ざめてましたよ」

 

「そりゃ、あの高エネルギーを目の当たりにすりゃねぇ……」

 

ストナーサンシャインのエネルギーは集束途中の時点でも、眩い光を発する。B世界のプリキュア5がパニックになったのも当然であった。

 

「たぶん、食らってたら、変身解除は確実だったろうと、やろうとした本人が言ってました」

 

「でしょうねぇ。向こうの私自身に言われたから。殺す気かって」

 

「たぶん、はーちゃんなら」

 

「あの子も恐ろしくなったわね。リョウさんのせいね」

 

ルージュはため息だが、ことはには『やるだろう』という凄みがあった。B世界の美々野くるみは事後に猛抗議したが、朝日奈みらいから『たぶん、やるつもりだったと思うよ』と返され、言葉を失ったという。

 

「マジンガーZEROと組織に心を折られてるから、それで……」

 

「事情は説明した?」

 

「ハーロックと一緒に。のび太さんに同行してましたから。あなたが同じ世界の出身じゃないってのが一番に大変でしたよ」

 

「それは悪いことしたわね。今度の非番、なにか奢るわ」

 

「ありがとうございます」

 

と、バツの悪そうなキュアルージュ。のぞみとはどの次元でも『親友』であるが故に、他のプリキュアからなんら違和感を持たれなかったが、のぞみとりんは別々の世界線からの転生であるというのが真実である。だが、二人の関係が以前の通りである事から、黒江たちでさえ、当初はそれに気づいていなかった。自分がのぞみの『安全ピン』であった事を聞かされたのは、完全に記憶喪失からの回復が確かめられた後の事。

 

「向こうののぞみはたぶん、みんなが揃ってるって思ったからでしょうね」

 

「でも、実際には、かれんさんとこまちさんがいなかった。それを納得させるのが骨でしたよ」

 

「あの子、変に強情なところあんのよ。一年目の時、ココが他の生徒と親しげに話してるのを見て、拗ねた事あるのよ。結局、のぞみの早合点と、ココの気まずさで、仲直りに何日かかかったのよね」

 

「あ、ココから聞いたことあるぜ」

 

「そうなのよ。ハーロックには迷惑かけたかな。わざわざ、アルカディア号まで持ち出してくれて」

 

「ちょうど、二号艦のオーバーホールが終わったからって笑ってました。二号艦の時点でヤマトの10倍の性能らしいですよ」

 

「嘘ぉ!?」

 

ルージュとジェラートが同時に驚く。30世紀の戦闘艦で五指に入る実力を持つアルカディア号と、その700年以上前の軍艦である『ヤマト』では隔絶した性能差がある。例えるなら、ナポレオン戦争時代の装甲艦と第二次大戦最新世代の戦艦を比べるようなものだ。

 

「そりゃ、お前ら。ヤマトは初の光速航行のフネだぞ。30世紀の最新最強の戦闘艦とじゃ、ガレオン船とアイオワ級くらい差がある」

 

「あ、ケイさん」

 

アルカディア号は30世紀における『宇宙最強』の一角。ヤマトと比べること自体がお門違いに近いのだと教える。ヤマトは確かに名艦だが、のちの時代の船とは比較できないと明言する。

 

「大山一族が最高叡智で設計した最高傑作だぞ、アルカディア号は。二号艦は古いと言ってたけどな、全ての点で、ヤマトを遥かに超えるぞ」

 

アルカディア号はその時代の地球連邦軍の艦隊を相手にしても、無傷で勝ち抜けるとまで言われるほどの戦闘力を有する。最も、その時代の地球連邦軍には、ヤマト型の究極である『大ヤマト』がいるので、お互いの力関係は同格である。

 

「その時代のヤマトとは同格だがな」

 

「あれ、ヤマトって途中で沈むだろ?」

 

「ところがどっこいなんだ。初代ヤマトは沈んだけど、サルベージされるんだよ」

 

ヤマトはアルカディア号の歴史データによれば、ディンギル帝国との戦争で犠牲になるが、シンボルの喪失で精神の退廃の懸念を抱いた藤堂平九郎軍令部総長の意向でサルベージされて再就役し、船体が老朽化した頃に今度こそ退役しているという。その後の時代にヤマトの名を継ぐ艦艇が平均で数十年のスパンで生まれていくという。

 

「で、初代を気が遠くなりそうな時間で拡大強化したのが大ヤマト。俗に『グレートヤマト』と呼ばれてるものだ。その頃には地球連邦の正式名変わってるけどな」

 

「え、変わるのかよ」

 

「27世紀か28世紀の頃か?太陽系連邦に変更されたんだが、誰もがしっくりこないから、近隣の宇宙人もその名を使ってないそうだ」

 

アルカディア号の記録は圭子も見たことがあるため、地球連邦の政体が発展し、銀河百年戦争も遠い昔となった時代、惰眠を貪べる時代は突然に終わりを告げる事を知っていた。それがハーロックやエメラルダスを生んだ主原因である。少なくとも、セイレーン連邦が滅ぶことで、数百年の安定期を到来させる事は嬉しいことであるが……。

 

「24世紀から25世紀の第二戦乱期が終わった後に、セイレーン連邦を解体する過程で名前変えるそうよ」

 

「気が遠くなりそうな話だなぁ」

 

「あの世界、ドラえもんの時代が終わる頃からは濃密な歴史すぎんだよ。しかも、23世紀の戦乱期が終わっても、その次の100年には戦争が始まるんだぞ?信じらんねぇぜ」

 

圭子もそこは呆れているが、22世紀以降の未来世界の歴史は戦争と平和と革命のループである。

 

「あ、お前らは本来なら、こういう未来が待ってるはずだったらしいぞ。のび太がある世界のお前らの情報をスネ夫に伝えて、こんな番組企画が通ったらしい」

 

「オトナプリキュアって……」

 

安直なネーミングセンスに呆れるキュアルージュ。のび太が調査の過程で見つけた『戦いから離れ、無事に成人したプリキュアであった者達の世界』の情報をもとに仮定をする事で企画が成立したと、メモ書きにある。

 

「下手にひねるよりはマシじゃね?お前らは現役時代から人気なんだ。現役時代から20年近くが経ってる時代なら、公式でこういう企画も通るってもんだ。言葉を下手にひねり回すよりストレートな方が魔法の効きが良いもんだ!な?」

 

周りを見回す圭子。

 

「お、おう。どう折り合いをつけんだ?オールスターズにバリバリ出てんじゃん、プリキュア5って」

 

「企画中だしな、そこは分からん」

 

 

キュアジェラートは疑問を口にするが、プリキュアの初期世代は露出が減ってきたが、5は人気故か、比較的に出番が多い。後日談をしていいものか?と。

 

「可能性の一つとして考えるべきだな。それと、ファンとしては、平穏な生活をするお前らが見たい心境だろうしな。5は将来の夢がハッキリ提示された最初のチームだし」

 

「夢と現実を折り合いつけてればいいけど。あたしはたぶん、普通に生きてれば、実家を継いだだろうし、うららはアイドルから女優になるだろうし」

 

「それがTVで見たい奴がいるってことだろう。お前らが扶桑に雇われてる事はかなり揉めたんだぞ?日本に通告した時」

 

「のぞみから聞きましたけど、警察の中で喧々諤々だったんですよね?」

 

「それどころか、厚生労働省とかも絡んだんだ。あたしはその通告の係にされたから、日本のお役人のヒスを聞きまくった」

 

ダイ・アナザー・デイ当時、圭子は前線が小康状態のうちに、のぞみらの事で日本に通知をする仕事をした事がある。その任務は相当に忍耐を強いられるものだった事を示唆する。

 

「日本の連中は自分たちの理解が及ばない事柄に直面すると、途端にがなり立てるのが多いんだ。広報部で仕事してた経験がなきゃ、堪忍袋の緒が切れてるぜ」

 

「あたしらの存在自体、向こうからすりゃ、漫画やアニメがそのまま現実化したようなもんだしなぁ」

 

「確かに」

 

「で、シリーズを問わずに軍に入れたことが問題らしくてなぁ」

 

「それだと、シリーズ別で差別になりませんか?」

 

最もなことだが、いちかの言う通り、シリーズ別に待遇を決めるのは差別である。

 

「だから、問題になったんだよ。代が下ると、戦闘向けのプリキュアは減るからな」

 

「それに、ダイ・アナザー・デイからこっち、あたしらって『血で血を洗う』有様だろ?事情はあるにしろ……世間が納得するか?」

 

「戦ってる相手が多いからな。怪異なんてのはお前らからすりゃ『消化試合』だが、ティターンズや組織は強大だ」

 

「……って、言われてもなぁ」

 

「仕方ない。プリキュア5の後からは、一年でチームが変わるからな。その後の事に触れることもなかった。オールスターズはその間に起こったことになるから、その後に送った人生のことが示唆されるのは最近になってからだし、初期世代は謎だった。それで、節目を大義名分にして、企画を通したんだろうよ」

 

圭子はメタ発言を連発する。更に細かいところをいうと、2010年代が半ばを過ぎた頃からは、映像配信サービスの充実などの時代の変化、以前のように『新しいものに飛びつくこと』が全面的に肯定されなくなってきた風潮もあり、最新シリーズが子供たちの間で人気を得られるとは限らなくなった。それがシリーズでも有数の人気作である『5』と『魔法つかい~』を再登板させることに繋がっているのは否めない。

 

「それに、5は初代に代わる『プリキュアの象徴』みたいなところあるからな。実質的に、今まで続くプリキュアの雛形になったし」

 

「そうか、今みたいなチーム型のプリキュアは5からだっけ」

 

「それまでは最高で三人だしねぇ」

 

(正確には、咲と舞には仲間がいたが、闘いが終わった後は平和な暮らしをしているため、その後のオールスターズ戦には従来通りの体制で参戦していた)

 

「シリーズが続くと、古い世代のは埋もれていくのが宿命だったが、シリーズ間の共演が映画で喜ばれるようになって、それが定着すると、他のヒーローのように『TVで共演しないのか』って期待が出た。本編に絡むような活躍がな」

 

昭和ライダーがそうだったように、同じシリーズでのヒーロー/ヒロイン同士での援護の描写は子供たちにとっての夢だが、制作側には『現役世代が埋もれてしまう』という懸念がある。(マジンガーZがグレートマジンガーの最終決戦で殊勲を挙げた事と対照的に、剣鉄也が主人公としては報われぬエンドを迎えたことの教訓という)だが、シリーズ間の共演は(子供やシリーズのファンにとっては)嬉しいプレゼントであるのは、昭和ライダーやウルトラマンの事例が証明している。

 

「昭和ライダーじゃお馴染みの展開だが、他は滅多に見ないからな。宇宙刑事でも、本編に絡む客演は一度っきりだし」

 

「オールスターズはどういう扱いなんですか?」

 

「番外編だな。のび太のカミさんが学生時代に集めてたDVDだと、お前らは現役時代の姿で会ってる」

 

「と、なると、本当の年齢の差は知らないってことですか?」

 

「そうなる。初期世代と2010年代後半の世代は一回りも年齢が違う。いちか、あおい。お前らはりんやこまちとは一回り以上下ってことになる」

 

「んじゃ、あたしはこの子達がプリキュアになる頃には?」

 

「若く見ても、20の後半だぞ」

 

「嘘ぉ!?」

 

「アニメのメタ事情だと、70人超えだと、スタジオに入らないって事情だが、実際を考えると、時代が流れすぎたってのも大きい。例えば、2003年に10歳の子供でも、2013年には20、2023年だと、普通に子供がいる年齢になるし」

 

「真面目に考えると、年月は恐ろしいぜ」

 

「2023年はお前ら『アラモード』の現役時代からも5年。五年一昔というが、お前ら、子供には知られてないと思うぞ?」

 

「しょんな~~!?」

 

キュアホイップ(宇佐美いちか)はこれである。

 

「これでも、のび太がガキの頃よりはマシだぞ?旧作を見る手段が増えたぶん。昔はレンタルビデオを借りるとかしないと、旧作を見る機会が少なかったんだし」

 

「レンタルビデオぉ?なんだそれ?」

 

「おいおい、お前らはビデオも知らんのか?」

 

圭子は呆れる。のび太が子供の頃、のび太はレンタルビデオ店に行くこと自体が娯楽であった。玉子とのび助が映画好きであり、ビデオを買うという発想がなかった(1990年代後半での値段は数千円程度)からである。のび太の街は2000年以降は再開発の荒波が少しづつ忍び寄ってきており、ことはが野比家の養子になった2003年の時点で、街の映画館は完全に撤退し、映画を見るには新宿に行く必要が出てきていた。そのため、子供には痛い出費になるので、黒江たちはよく、レンタルビデオを借りてきてやっていたのである。

 

「物心ついた頃にはDVDだったし……」

 

「のぞみ達が聞いたら、泡吹くぞ?」

 

「本当かよ」

 

「予想はしてたが、十年一昔……どころじゃねぇな」

 

「そんなに変わってます?」

 

「生活様式、2000年からの20年で大きく変わったんだよ。お前らがプリキュアしてる頃には、ネット配信も当たり前になってきてるからなー」

 

「なんだか気まずいなぁ」

 

「これぞ、プリキュアの七不思議って奴ね」

 

「七不思議どころじゃないぞ」

 

四人が交わした一連の会話はプリキュアにまつわる謎の深まりを象徴していた。これより後日、キュアホイップは日本で行われたデザートコンクールに出場が叶う。プリキュアで唯一、現役時代と変わらぬ仕事をしている(炊事班であるので)事は称賛された。現役時代からの転移であるので、腕前は発展途上であり、惜しくも入選は逃してしまった。とはいえ、プリキュアとしての能力抜きでも、一定水準のデザートを作れる素質は高く評価された。現役時代からの転移であると断り、自分たちより代が離れた後輩に関してのコメントは差し控えた。

 

 

 

――遠征の直前――

 

「上手くやったニャね」

 

「スタートゥインクルまではわかるけど、それ以降はわかんないしねぇ。つーか、ご飯のプリキュアなんて、驚きだよぉ」

 

キュアコスモがデザートコンクールを終えたキュアホイップを迎えに来た。ちゃっかり自分もアピールしてきたりする。

 

「これで、うちへの募金も増えるだろうし、ものはやりようニャ」

 

「でも今後、誰が来るかなぁ」

 

「どうだろう。次元境界線が不安定化してるから、数人は巻き込まれたと思う。この間はキュアフローラとソードだったから、そろそろHUGっとから一人は来そうだにゃ」

 

「キュアショコラに来てほしいんだよね。ゆかりさん、あきらさんがいないから、寂しがってて」

 

「さー。それは神様に聞いてみない事には」

 

キュアコスモの予測通り、やってきたのは『HUGっと』のキュアエトワールであった。エトワールは新京にプリキュアの姿で転移してきており、キュアムーンライト、キュアスカーレットらが迎えに行き、彼女はそこでさっそく、スカーレットとコンビを組む形で、調査任務についたのである。

 

 

 

 

 

――新京――

 

「でも、のぞみさんとうちのはなとの間に何が?」

 

のぞみが頑なに口を閉ざしている『前世での対立』の真相。それを話題に出したスカーレットであったが、エトワールはそことは違う次元からの来訪者であった。

 

「わかりません。頑なに口を閉ざしていて。ただ、断片的な情報では、あの方には許せない何かを倒すか否かだったようなのです」

 

「のぞみさんは何が……あんなに仲良さそうだったのに」

 

「わかりません。その事は今までにやってきた全員から聞き取り調査をしても、まったく…」

 

キュアスカーレットはため息だが、のぞみのいた次元で何が起こったのか。情報をまとめると、成人後に不幸が立て続けに起こった世界線としか言えないもので、のぞみ自身も戦士でいることでしか自分の存在意義を見いだせなくなっていた。ただし、キュアマリンのみはその世界にいた事を明確にしているが、多くを語ってはいない。先輩と後輩のお互いの名誉に関わる事、のぞみの成人後における境遇の急変に同情していた事、のぞみが不倶戴天の敵と認識していた敵が蘇り、何らかの残虐行為を働き、のぞみの家族の誰かを瀕死に追いやったことがきっかけであるとだけ告げていたと。

 

「……家族の誰かを?」

 

「ええ。子供か、あるいは父母のどちらかか……マリンも口が重くて。あの方をして、口が重いという事は……」

 

スカーレットとエトワールはジャンヌの運転する自動車の後部座席に座っていた。車は新京中心部から第三の都市『ハイラル』につながる自動車道路に入ったところである。

 

 

「のぞみが和解を選ばないという事は……おそらく、あの方が現役中に『許さない』と宣言した数人の敵のいずれか。推測するに……」

 

「うちは敵を完全に倒すプリキュアじゃなかったからなぁ…」

 

エトワールは何かを察した。その敵は野乃はなの純真さが通じず、尚且つ、のぞみにとっては『自分の手で倒したかった』と思うほどの仇敵であったのだと。その認識の相違がこじれを呼び、ついにはプリキュアの世代間対立に発展した。そう考えるのが自然だ。こじれたものは決着をつけない事には、どうにもならない。のぞみが前世で辿った顛末が『自分の築いた家庭でも幸せになれず、戦士としての自分も否定された末の病死』である事を考えるに、その機会が訪れなかったことになる。

 

「のぞみさんが軍人として生活するのがまんざらじゃないのは……」

 

「前世で志望した職についても、必ずしも幸せとは言えなかった事も関係あるでしょう。と、いっても、夢は捨てきれなかった」

 

のぞみは転生後、扶桑で予備役に退き、普段は教職、有事には軍に復帰する『予備士官』としての生活に魅力を感じていた。スカーレットにもその旨を告げ、スカーレットはその背中を押したという経緯がある。扶桑の軍人は多かれ少なかれ、その道を選ぶ者が多く、1943年時点で、かなりの人数の士官がその進路に進んでいた。扶桑では『軍出身者が現役時代の階級を有したままで教職につく事は合法』であったからだ。

 

「予備士官という制度があるのですが、この世界の日本はその制度を利用する形ですが、教職をしつつ、有事に軍に復帰するということが合法だった。しかし……」

 

それが一変したのが、日本連邦体制への移行後の事。日本側は軍と民間の関係を強引に断ち切り、戦後日本と同様の体制にする意志があり、防衛省や厚生労働省の官僚たちが主導し、予備士官制度を実質的に有名無実化させてしまった。制服組の『予備自衛官制度のようなもの』との説明も馬耳東風な彼らは『扶桑で教職への転職が内定していた』士官達の転職を強引に潰し、彼ら予備士官を見下す言動を繰り返した。のぞみはその被害者の筆頭と言えるものであった。ダイ・アナザー・デイの英雄である事から、扶桑の高官達が矢継ぎ早に懸念を表明し、日本を訪れる事態となったのは記憶に新しい。

 

「日本の左派勢力が周囲の諌めを意に介さず、強引に扶桑の法令を捻じ曲げたのですよ。それで陸海空の数十万が路頭に迷う有様。のぞみはプリキュアであることが幸いし、すぐに補償がされましたが……」

 

「予備自衛官の召集にも響くことなので、その際に開かれていた日本の国会は大荒れ。左派が扶桑への損害補償を渋るのを、表敬訪問中の扶桑の高官(吉田茂)が一喝する事態に」

 

この一喝は吉田茂の威光の健在を示すものであり、彼の伝説に華を添えた。吉田茂への批判もあったが、のぞみへの侮辱の問題への昭和天皇の懸念を彼が伝えた事で議場は沈黙した。日本側にも、予備自衛官の離職率の急激な上昇などの悪影響が生じてしまうことになった。のぞみがプリキュア5の中心戦士でありながら、扶桑皇国の士官であることも広く報道されたので、左派は論点ずらしを行っていく。のぞみは全面的に被害者であり、折角の転職を潰された事、官僚に侮辱された歴然たる事実からも、日本側は立つ瀬がなかったからだ。圭子が週刊誌に流した内容からも、職業差別意識が見え見えであった。農林水産大臣も(孫がプリキュアの大ファンらしい)その官僚の職業差別意識を公然と糾弾し、防衛省も厚生労働省の官僚教育を疑問視するなど、日本政府内の内紛となった。

 

「その結果、のぞみは軍に残る事になり、佐官に出世したのです。日本政府もそれが解決策となる事を容認したので……」

 

「グダグダですね……」

 

「日本は戦後、防衛に無関心な輩が多いですから」

 

「私よりはマシですよ。ヴァロワ朝に火炙りにされて、生き返ってみたら、聖女扱いですからね」

 

ジャンヌはルナマリアとの融合のせいか、生前よりだいぶ世俗に染まっている。生前に尽くした相手である『フランス』への忠誠心は(当然ながら)ほとんど無くなっていた。転生後は『英霊』であった時期の思考からも脱却し、生者としてのそれに戻っている。言動はルナマリアとジャンヌとしての生前の中間になっており、『オルタ』っぽい荒い言動もするなど、生者としての生活を満喫中だ。また、見かけは19歳前後(死亡時の年齢)だが、既にシン・アスカと入籍済みの既婚者だ。(故に、薬指には結婚指輪が光っている)

 

「別物判定されません?」

 

「黄泉がえり自体は西洋でもないわけではありませんが。ガリアからは色々と言われましたが、元の英霊ですが、今は一人の生者に戻っていますから」

 

そのあたりの判断は折り合いをつけてもらうしかないとするジャンヌ。私服姿なので、本当に一介の大学生にしか見えない。ダイ・アナザー・デイでは思いっきり目立っており、宝具『我が神はここにありて』でティターンズの誇る巨大兵器のメガ粒子砲の一斉射撃を跳ね返す、掲げられたその旗で、連合軍将兵が奮起するなどの活躍を見せている。

 

「とはいえ、ネームバリューの都合で、ガリアからは評議員の誘いもありまして。断りました。転生先では軍人ですけど」

 

苦笑交じりのジャンヌ。ルナマリアが素体なので、この時点では地球連邦軍の将校であり、尚且つパイロットであるが、生前が生前なので、『今度こそは』と地球連邦大学に通う大学生でもある。なお、公には『ルナマリア・ジャンヌ・ホーク』という名で通しており、ルナマリアの存在を存分に活用している。ルナマリアが素体であるので、ガンダムタイプの経験もあるが、本人曰く『コズミック・イラはパネル式モニターだから、全天周囲モニターとリニアシートに慣れるのに手間取った』とのこと。

 

「大学にも本当に通っています。生前が農夫の子で、当然ながら無学だったので。それで火炙りにされたのもあって」

 

「ずいぶん、サラッといいますね……」

 

「昔のことですから。ヴァロワ朝もブルボン王朝も滅んで久しいですし」

 

ジャンヌはヴァロワ朝時代を生きたので、21世紀からは500年以上も昔の存在だ。だが、英霊として過ごした長い時のうちに、フランス革命以降の血塗られた歴史を知ったためか、そのあたりは割り切ったらしい。

 

「今は23世紀世界の日本で暮らしています。生前の柵から離れられますから、気楽ですよ?」

 

「あなた、後の世での評価をどう…?」

 

「評価など、時勢によっても変わりますから、気にしたら負けですよ。マリー・アントワネットやコルシカの小男のように」

 

「こ、小男……」

 

ジャンヌの時代には、コルシカはイタリア領であったが、彼女が生きた時代から300年後にフランス領に転じている。ジャンヌはフランス本土の出身であるので、コルシカ出身のナポレオンは田舎者である。また、肖像画での勇ましい姿が有名だが、実際は(当時の欧州の基準で)背丈が小さかった事は周知の事実である。その代わりか、軍事的には『数百年に一度の天才』と謳われるほどの手腕を持っていたこともジャンヌは知っている。アントワネットが後世、『悲劇の王女』という冠名を背負ったように、ナポレオンは戦争に満ちた生涯から、色々と渾名が多い。

 

「ナポレオンはフランスを戦争に誘いましたからね。私としても、そこは複雑なのです」

 

王朝が華やかりき頃を生きたジャンヌにとって、王朝を滅ぼした民衆が祀り上げた末に帝位を選んだナポレオンは好ましく思えない人物であるようだった。

 

「あの、色々あるんですね?」

 

「あるんですよ、英霊になると……」

 

キュアエトワールの質問に、多少はぼかしつつも、自身が死後に辿った道の事を示唆するジャンヌ。ナポレオン戦争のこともあり、ナポレオンの事は好いてはいないが、フランスを一大帝国にまで成長させた軍事的手腕は認めているためだろう。また、『いつかどこか』でアストルフォ(男性時代)のチ◯コを見てしまう事態に陥ってしまい、情けなく悲鳴を挙げた事があり、それを根に持っていたりする。

 

「では、次のサービスエリアで休憩を取りましょう。まだまだ長いですからね」

 

扶桑は南洋で有料自動車道路の実験を行っている。1949年時点では既にパーキングエリア、サービスエリアも開設されていたが、戦時下では、事実上は軍向けのサービスとなっていた。とはいえ、富裕層が中心であるが、一般人の利用がない訳では無い。

 

「1949年に、そんなのがもうあるんですか?」

 

「扶桑は戦前から実験をしてましたよ」

 

ジャンヌはそれを教える。高速道路は日本でのそれと異なり、戦時下での航空機やストライカーの発着のための実験場も兼ねていたため、南洋では1930年代から建設中であった。主要区間の開通はダイ・アナザー・デイの後になったが、それは道路のアスファルトをジェットエンジン基準で直す必要があったからである。日本と違い、国防の必要上から、国が管理しているので、大規模工事も鶴の一声で可能だからだ。扶桑は南洋で一通りの高速道路の実験を済ませ、本土にも高速道路を作り始める。地下化を前提にした計画が立てられ、日本よりだいぶ先進的な作りになる見込みである。これは扶桑では『日本が夢想した100m道路』が国の意向で作れるからで、扶桑本土に高速道路が開通した暁には、史実とは違う姿になるだろう。日本が夢見た『自由に国作りができる広大な土地』が扶桑にはある。日本の人々の嫉妬心は『南洋という都合のいい植民地を持ち、尚且つ、戦争で失われたすべてがある』ことに由来する。そんな考えを肯定したくなるほどに『時代先取りの光景』であった。なお、途中から、キュアコスモもちゃっかり合流していたりする。

 

 

 

 

 

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