――扶桑は空母機動部隊を数的戦力よりも、質的有利を絶対にすることが優先された兼ね合いで出動が控えられた代わりに、欺瞞を兼ねての大艦巨砲主義的プロパガンダを盛んに行った。これにモロに引っかかったのが、ガリアである。日本連邦は空母決戦を正面切って行えるだけの戦力がないため、戦艦の存在を敢えて誇示することで、敵の空母へ向けられる情熱を削ぐ作戦であった。ガリアは仮想敵国を日本連邦とし始めており、早くもドゴーリズムが開始されていた。抑えとなるべきペリーヌ・クロステルマンは微力であった。軍事的権威の凋落はガリア国民には許容しかねるものであるため、ドゴールは次女の治療と引き換えに、連合国とティターンズを天秤にかけるという無謀な行為を推進した。次女は史実では夭折しているため、彼はティターンズの甘言に乗せられ、ダイ・アナザー・デイ中から『ティターンズにつけるようにしておく』準備をしていたが、64Fの一騎当千ぶりがその目論見を図らずも打ち砕くと、一気にドゴーリズムに傾倒していった。ペリーヌ・クロステルマンは祖国の暴走が始まる時期、静養と称し、扶桑へ渡航。そこで紅城トワに肉体を貸し、自身は休眠に入った。暗殺未遂事件が七度もあった故の休養だった――
――ペリーヌ・クロステルマンは国土復興至上主義と揶揄されていたが、国民の娯楽を犠牲にするような性格ではなく、国家の介入を嫌うだけである。だが、ガリアの惨状は国家の援助無しには娯楽の再開もままならないほどであり、殊更に反感を買っていたのも事実。ペリーヌのこの時期の表立った活動は1948年度の『ルミナスウィッチーズ』設立への出資くらいであり、後は散発的に慈善活動を扶桑で行うのが確認されるだけであった。ある時期からはペリーヌ・クロステルマンの同位体がその活動の際に顔出しするようになっていた。Aが人格を変えている都合であった――
――芳佳BとリーネBがその時期に起こした騒動は、ある種の二人の業のようなものであった。だが、その純粋さがエクスウィッチでしかない黒江Bと智子Bを苦しめたのは否めなかった。二人は年齢と自らの経験から、『のうのうとホテル暮らし』の『彼女たちの世界の黒江と智子』を非難したが、B世界の二人は既に往時の力が失われた状態であり、坂本Bは激怒し、二人を叱責。次いで、赤松に土下座したのだが、坂本Bは生きた心地がしなかった――
「誠に申し訳ございません!!」
「うむ…。顔を上げい」
「ありがとうございます……この度は部下がエクスウィッチに非礼を……」
1948年前後のことになるが、次元震で現れた『平行世界のウィッチ』はホテルに匿われていたが、それを不満に思う宮藤、リーネの二人がそれを受け入れている黒江と智子を非難し、大騒動に発展したことがある。その事態を収めるのに、坂本Bはお詫び行脚を実行。智子と黒江が自分の先輩であることも教え、激怒した黒江Aに罰則を選ばせた。リーネが芳佳をかばって、それを受けたため、芳佳Bが激昂。模擬戦という体裁で戦ったが、黒江Aのワンマンショー化。まるで勝負にならなかった。その直後のことであった。
「坊主の力量はあれでわかったじゃろ」
「この世界では現役を続けているとはいえ……こちらでの全盛期以上ですね」
「こちらでは、オールラウンダーに儂が育てたからな。そちらの魔女が5人がかりでも、倒せんだろうな」
赤松が手塩にかけただけはあり、戦闘技量はB世界の芳佳を超越しており、芳佳Bは弄ばれるのみだった。左ひねり込みも読まれており、弾切れを起こした瞬間に、サンダーブレークを打ち込み、とどめに峰打ちの龍槌閃。その間、たったの三分。
「あれで全力ではないと?」
「うむ。模擬戦故、10%も実力はだしとらん。もっとも、儂はその全力をひねるがな」
赤松の戦闘技能は白銀聖闘士ながら、最高位の黄金に匹敵するとまで讃えられる脅威のもので、歴代プリキュアらを一瞬で数十人ほど倒せる実力を誇る。それは初期世代の三羽烏であっても例外ではなく、パワーアップ後ののぞみをして『大先輩と互角に戦えるのは、若松大先輩くらいなもの』と言わしめている。扶桑で正真正銘の最強は彼女。それは事変以前からの常識である。
「そちらでは、30の大台に乗られて久しいはずでは……?」
「ガハハ。年齢など、今の儂らには戸籍の上での話よ」
大笑する赤松。後に、仮面ライダー三号とも対等の実力を誇ることが判明し、本郷猛をして『彼女が男なら、首領がホッパータイプの素体にしただろう』と言わしめるのである。扶桑最強の称号は伊達ではないのだ。
「事変以前から最強と言われて久しい。とはいえ、北郷閣下の従卒の経験もある。貴様とも当然、こちらでは入隊以前に面識があった」
「先生の従卒なら、子供の時の私と会っているでしょうし……」
「閣下のことは知っておるな?」
「ハッ。あのような猫のような奔放な振る舞い……良いのですか?」
「閣下は普段、伽藍じめなのだ。あれくらいは多目に見てやれ。別名も使っているしの」
北郷はプリキュア覚醒後は『琴爪ゆかり』としての活動と『北郷章香としての活動』は線引しており、この時点では琴爪ゆかりとしての活動のほうが多い。坂本Bは大いに困惑しているが、琴爪ゆかりとしての自由奔放な振る舞いは転生先の『柵の多さ』の表れでもあるが、キュアマカロンの姿で北郷としての軍人然とした言動も取るため、その二面性で実のところ、64Fの副収入の『ブロマイド販売』の2割弱を占めている。相方のキュアショコラがいないことを残念がってもいるので、剣城あきらが恋しいらしい。
「別名とは」
「前世での名だ。輪廻転生の内、前世で偉大な功績がある人間の中からごく偶に生ずる『前世での記憶持ち』。閣下はその一人なのだ」
「大先輩。元の601空から催促ですよ」
「おお、忘れとった。雷電のエンジンを回すように、整備班に言え。。601のいる基地までなら、15分で飛べる」
のぞみが赤松に重要事を伝える。教導の時間らしい。
「夢原くん。少佐の君が伝令のような事を?」
「この部隊じゃ、少佐なんて下っ端ですよ」
この時は陸軍時代の軍服の上にフライトジャケットを羽織った服装だったのぞみ。髪形は現役時代と同様のままだ。
「この世界では、軍装の上にフライトジャケットなのか?」
「陸軍の軍服、日本に評判悪いんですよ、坂本先輩。日本からは『日本に来たら、フライトジャケット着てくれ』って言われるくらいには」
これはのぞみの一件を含め、大日本帝国陸軍と同意匠の軍服を着用した扶桑軍人が日本でトラブルに巻き込まれたケースが頻発したためで、のぞみの一件の際に『陸軍の士官だというから、歩兵だと思った。航空科のエリートなんて…』と件の官僚が上層部に問い詰められた際に漏らしたというので、陸軍航空科出身の者はフライトジャケット着用が義務となった。扶桑空軍設立後は日本連邦空軍の一翼を担うためか、航空胸章などがわかりやすいものに変更され、新制服は航空自衛隊と同型の予定だ。軍服を見てみると、ダイ・アナザー・デイ従軍記章(金)、デザリアム戦役従軍記章の略綬がついており、否応なしにエリートであることを示している。
「それほど略綬をつけていて、トラブルに?」
「士官学校卒のエリートだってんで、トラブルに巻き込まれたんで、事後に増えたのもあります。なにせ、歩兵科と勘違いされたんで……」
「馬鹿な、航空胸章をつけていて……」
「向こうの小役人に、軍隊の細かいところなんてわかりませんからね」
「のぞみはそれでえらい目にあったのさ、少佐」
「シャーリー?その姿は…」
「ああ。前世での姿の一つを取ってんだ。あたしゃ有名人だぜ、少佐?」
「姿を自由に変えられるのか」
「ああ。これだと、紅月カレンってゆーハーフの扶桑人って事にしてる。ちゃんと偽装の軍籍もあるぜ」
紅月カレンはシャーリーの変化の一つである。シャーリーの最も烈しやすい側面を強める姿であるので、黒江曰く『余計にガサツだぜ』との事。
「怪人二十面相じゃあるまいし、お前らは姿を変えすぎだ」
「しかたねーって。プリキュアになっても有名人、魔女としても有名人じゃ、どこにプライベートがあるよ。あたしゃ、顔が普通に世間に割れてんだぜ?」
シャーリーが姿を変える理由は『有名人すぎて、逆にプライベートがない』からであるが、日本では『紅月カレン』も有名なのだが、シャーリーのオートバイ好きを自然に出せる変化の一つでもある。
「お前、そちらでもオートバイを?」
「ああ。プリキュアになってもしてるぜ。先輩とマン島のレースの常連さ」
シャーリーはオートレースに平時は傾倒しており、最近はスピード狂であると判明したキュアピーチと組んでいると話す。
「シャーリーは本格的ですからね。あたしなんて、移動用に使ってるくらいで……」
「お前たち、車は運転せんのか?」
「車が大型になっちゃったんで、教習終わんないと。なにせ、くろがねが赤ん坊に見える大きさですからね」
扶桑の全軍はくろがねからジープ以降の四輪駆動車に切り替えを行っているが、いかんせん全軍が切り替えの対象な上、キューベルワーゲンに慣れた者もいたので、移動用の車の切り替えも大変である。機材の優遇措置を受ける64でさえ、講習中である。なお、黒江は自衛隊で使っていたため、早くも乗り回していたりする。
「先輩が乗り回してるジープだって、くろがねの比じゃないでしょ?」
「くろがねも四輪駆動だぞ?純粋に移動用なだけだ。あれは贅沢だぞ」
「キューベルワーゲンが生産中止になったから、ジープの一族にするしかなかったんですよ」
「そちらでは?」
「ええ。パニックでしたよ。いきなりの通告でしたし」
「とはいえ、バルクホルンらが持ち込んだのを使い倒したぜ。博物館に寄贈したけど」
「しかし、モータリゼーションか」
「そういう時代さ。騎兵の時代でもないしな。あんたも大変だったよ。親父さんが村田銃を送ってきたって困ってたぜ」
「父が?」
「ああ。愚痴ってたぜ?こんな古いの、送られてもなーって」
「祖父の遺品だと思うんだが、自動小銃もあるというのに、村田銃はな…」
「あたしなんて、ルッキーニに文句言われてさ。流石に怒ったぜ」
「あの子、胸が縮んでるーって愚痴ってたっけ」
「助けてもらって、目覚めた第一声がそれだぞ?あんときゃなぁ」
「いつのことだ?」
「あたしがプリキュアに戻った初陣の時さ。記憶が戻って変身したはいいけど、転生したてでパワーが思うように出せなくてさ」
「そうそう。それであたしが加勢して、怪異を倒したんですよ」
「あたしが現役の頃の必殺技、ピンじゃ出せなくてさ。こいつと即興で撃ったんだ。そのすぐ後の二体目はケイさんが始末したけど」
「ルッキーニは胸にしか目がいかんのか??」
「あたしも怒ったけど、あいつ、あたしだってわかったら泣いてさ。ケイさんに叱られて余計に泣いて…」
「奴はお前に母性を求めているが、それは同じか」
「ケイさん、そっちだと、ぽわぽわ系の姐さんだろ?こっちじゃキ◯ガイでよ。ルッキーニが怖がってさ」
「入れ墨に、あられもない格好、作業ズボン(Gパン)を崩した格好。あれが本当に最先端のファッションか?」
「先輩、あれはホットパンツですよ」
「何がなんだかわからん」
「そりゃ仕方ねぇよ。数十年も先取りのファッションだぜ?」
圭子の服装は普段がそれであるため、軍人にとても見えない。家族からもはしたないと言われまくっているが、一部の魔女からはモードの最先端と評価されている。
「あたしもこの時代からは最先端ですよ、私服。教師になるつもりだったんで、揃えてたし」
プリキュア達は生きた時代のセンスで服装を選ぶので、のぞみでさえ、1940年代からすれば『最先端』である。監修はモデル経験のあるキュアベリー/蒼乃美希で、彼女がコーディネートを担当している。
「美希に選んでもらってたくせに」
「だってぇ~。あたしじゃ、平凡になっちゃうし」
これはウマ娘たちも同様で、モデル兼業のゴールドシチー、ギャル生活満喫中のダイタクヘリオス、トーセンジョーダン、名家の出であるメジロパーマーなどが知られている。プリキュア達は芸能活動経験者が複数人いるため、バリエーションは豊富になるが、それでも現役時代は駆け出しといっていい立ち位置なので、ウマ娘達が助け船を出す局面も多い。
「お前たち、服装をそんなに気にするのか?」
「そりゃ、看板背負ってますからね。先輩はそういうの、縁がないでしょ?」
「ぐぬぬ……」
坂本は私服をほとんど持たず、軍服で過ごすことが大半である。それは共通なようだ。
「それはそうだが……」
「時代的に和装っぽいしな、少佐」
「お前らなぁ……同じ階級になったからと……洋服くらい着たことあるぞ!」
「おおう…」
坂本Bは主張するが、いささか子供っぽい。とはいえ、1945年時点で少佐の坂本と、1947年以降に昇進した二人は微妙に差がある。なお、シャーリーはB世界でも大尉である。のぞみは素体となった錦は中尉だ。
「君は中島中尉の立ち位置を継いだそうだが、それでも私が先任だぞ?」
「ええ。それはわかってますよ。それはそれで大変ですよ?天姫にどう説明したらいいのか。別人になってますし」
「君はしたのか?」
「姉貴の薦めで。小一時間は泣かれましたよ。記憶はあっても、生物学的には別人に変貌してるんですから」
「それはそうだ」
「姉貴、妹、天姫には口止めをしました。肉体的には別人ですし、親類一同の全員に知られたら、コトですから。ウチはこの世界だと、古武術を継承するんで…」
「管野中尉に放った、あの炎か」
「ええ。あれがあたしの実家の継承する古武術です。直枝くらいのガキなら、イチコロです」
「こいつ、炎を使うからなー。おかげで、あたしが霞んじまった」
当時、B世界の魔女達はこうした騒動を起こすのが常であった。仕方がないが、単に魔女であるだけでは力になれない&同胞同士の戦いという状況下では、多くの場合の魔女は役には立たない。同位体の状況も異なるからだ。人同士の殺し合いに変貌した戦場では、世代的に拒否反応を起こす者もいる。坂本は比較的に差異が少ない。
「すまんな。お前らに若い者が迷惑をかけて。あいつらは戸惑ってるのもあると思うんだ。怪異が殆ど出なくなり、戦う相手は同胞だ。魔女はナポレオン三世の時以降はそういった状況になかったからな。お前たちを罵倒したくなるのも理解できんわけではない。だが、そうしなければ、この世界に魔女の居場所はない。そのジレンマは若い者にはわからんよ」
この時の坂本Bの言葉の通り、魔女は1945年以降、急激な技術革新に魔導技術の発達が追いつかなくなり、その軍事的メリットの縮小と共に、扱いに困る事例が続出した。魔導師寄りの体質を持つ日本の義勇魔女らが活躍しだしたこともあり、魔導研究は変わらずに続くが、第二世代宮藤理論の熟成に時間を要したことで少数精鋭化が進展する。その流れも『兵科解消』へのはずみとなった。また、ルミナスウィッチーズの結成が四年ほどずれた理由は『64Fが21世紀水準のライブパフォーマンスをこなせるから』というもの。ラインダンスなどは21世紀の目からすれば『ありきたりすぎる』ために、上層部も『非戦闘要員の魔女にわざわざ専門訓練を積ませる必要があるのか?』と疑問を持ったためである。自由リベリオンのグレイス・メイトランド・スチュワード少佐はこれに強く反論したが、扶桑が間もなく太平洋戦争に突入してしまったために、扶桑の戦局に落ち着きが見られるまで、ルミナスウィッチーズの議論は不可能であった。64Fがブレイクダンスまで軽くこなせたため、ポップやロックが存在しない時代の魔女に『一からその訓練を受けさせる』事の経費や必要時間が問題視されたからだ。
――翌、1949年。ルミナスウィッチーズは紆余曲折の末、史実より四年遅れで許可され、活動を開始した。扶桑での活動は(扶桑国民がピリピリしていたため)控えられ、それ以外の国を回ることになったが、前途多難であった。北極近くの艦隊を慰問で訪れた際に、士気低下を狙うティターンズ\ネオ・ジオン残党連合が襲撃。護衛部隊は手もなくひねられ、彼女たちに魔手が迫った時、現地に交代で派遣されていたスーパーロボット『闘将ダイモス』が駆けつけ、『烈風正拳突き』で撃退するという出来事があったからだ。ダイモスの活躍で艦隊は守られたが、北方戦線の数少ないエース部隊があっさり半壊に追い込まれるなど、未来兵器の驚異もまざまざと見せつけられる結果であった。そのため、彼女たちに強力な護衛が必要になるという事態にも陥った。地球連邦軍も時節の都合上、エース部隊はロンド・ベルとその支援部隊などに減っていたが、育成の必要を感じていたので、空軍の優良部隊を護衛に提供した。ダイ・アナザー・デイ後、ティターンズが直接的に手を出した数少ないケースだが、闘将ダイモスに手もなくひねられる結果であった。それはいいのだが、『極秘にされていたはずのルミナスウィッチーズの移動が何故、敵に漏れていた』のか。連合軍はこの疑問を調べ始めるが、諜報部員が不自然なほどに次から次に消されるため、ついに英霊たるジャンヌに調査を依頼。プリキュア達に彼女が接触したのは、その任務のためである――
――ジオン共和国とネオ・ジオンの解体により、軍の将兵は地球連邦軍になし崩し的に編入された。経歴が元連邦の脱走兵という者も多かったが、腕っこきの不足により、黙認された。復員する兵も多かったが、任官からの期間が短く、恩給の対象にならない兵も多く、そういう経歴の兵隊は連邦軍に移籍していった。残党といっても、もはや、ザビ家を盲信していた世代の将校達は少数派であった。当時に若かった世代の者でさえも、平均で30代後半にさしかかる時代であったデザリアム戦役直後の段階では、地球圏の残党は幹部の高齢化による自然消滅が現実問題となっており、最後の大バクチに打って出るしかなかったのである。それでも納得できないのが、第一次ネオ・ジオン戦争~二次戦争の世代である若手であり、ティターンズ残党との呉越同舟すら容認し、なおも抵抗を続けた。ティターンズ残党はその彼らと同盟を結ぶことで、ダイ・アナザー・デイの損害を補填したのである――
――遠征軍の戦いが佳境に入りつつあった頃、こちらも新たな戦いとなっていた。ころばし屋が活動を再開したからだ。
「ええい、クソっ!!」
ナリタタイシンはオープンクラスのレースで足慣らしを行い、トレーナーの方針で次のレースまで間を空けることになり、野比家に戻っている途中であったが、ころばし屋の襲撃を受けていた。命がかかっているからか、タイシンの脚は皐月賞の時以上のキレを見せていた。潜在能力が解放されたのだ。目からは光が漏れており、潜在能力が開放された証だ。
「あたしだけど、今、ガチでやばい事になってる!!救援寄越して!」
タイシンはころばし屋の執拗な攻撃を避けながら、野比家に向かっていたが、ころばし屋が周囲の被害を顧みない攻撃に移ったため、タイシンはそれを食い止めるため、裏道の路地にわざと入ったが、それを読まれた。タイシンは追い詰められつつあったわけだ。
「数分で着きますから、あと数分は持ちこたえてください!」
「野郎は待ってくれなさそうだから、急いで!!」
キュアフェリーチェからの通信にそう返しつつ、鋭いコーナリングを見せつける。下手なレースの時のコーナリングよりキレがよかったため、無我夢中になっているのがよく分かる。
「うおおおおっ!!」
路地を曲がり、ころばし屋を撒こうとするも、ころばし屋は先読みしており、タイシンの前方からバズーカを撃ち込む。タイシンはすんでのところで跳躍し、衝撃波の難を逃れる。着地の瞬間を狙おうとしたころばし屋であったが……。
『斬・魔・光!!』
ゲッタービームの一種だが、貫通力を強化し、更に浄化作用を加えたのが『斬魔光』である。フェリーチェは元々、浄化能力を持っていたので、得意とした。タイシンを発見すると、とっさに放ち、タイシンの危機を救う。
「タイシンさん、そこを曲がれば、うちが見えます!」
「よしっ!って、あんた、朝のパン食いながら来たの!?」
「食べてる途中だったんです。それで」
なんと、フェリーチェは片手がパンで塞がっていた。それにも関わず、片手で斬魔光を撃ったあたり、練度の高さを窺わせる。
『合わせ風車!!』
アンダースローで連結済みの刀をぶん投げ、ころばし屋の胴体を寸断するが……なんと、ナノマテリアルによる再生能力で胴体と下半身を結合してしまう。
「再生した!?」
さしものフェリーチェもこれには驚愕する。そして、ころばし屋は瞬時に代わりの火器を取り出し、二人に放った。それは極小ブラックホールを発生させるものであった。
「!!」
「な……ぶ、ブラックホール!?」
「嘘でしょ!?」
二人は出現したブラックホールに呑まれまいと抵抗する。フェリーチェも飛行能力を最大限に強めて抵抗するが、吸引力はそれを上回り、フェリーチェはあっさりと地上に引きずり落とされてしまう。
「そんな!?飛べない…っ!?」
「あたしの手を掴んで!気を緩めたら吸い込まれるよ!!」
「す、すみません!」
フェリーチェをタイシンは引っ張る。こういう場面での牽引力はプリキュアも上回るようだ。だが、吸引力はものすごく、近くに停めてあったオンボロのワーゲンが吸い込まれていく。二人も踏ん張っているが、ジリジリと吸い込まれそうになる。
「すごい吸引力ですっ…!」
「SFじゃ、こういうマイクロブラックホールは効果にタイムリミットがあるはず……持ちこたえるしか……!」
その予測通り、二人を吸い込もうとするブラックホールは時間経過で消え始める。
「あ、力が……!」
「思った通り!で、こういうエネルギーを使うのは……!」
タイシンはとっさに、フェリーチェから『スタームルガー・スーパーレッドホーク』を受け取り、44マグナム弾を三発連続で見舞う。早朝で、周囲に誰もいない状況だった故のお返しである。ダブルアクションの回転式拳銃はトリガーを連続で引くのにそれなりの握力がいる上、マグナム弾を撃つには反動に耐える必要があるが、ウマ娘であるタイシンが撃つにあたっては。何ら問題はない。片手で撃つのは、ウマ娘の肉体の強靭さの表れである。
「手応えありっ!!」
ころばし屋は火器を破壊され、更に頭部を弾丸に軽くえぐられ、大ダメージを負う。ころばし屋は不利を悟ったか、周囲に悟られぬよう、煙幕で撤退する。今回はタイシンとフェリーチェの連携の勝利だった。
「……た、たすかった…」
安心のあまり、その場にへたり込む二人。
「タイシーン、ことは~!」
「チケット、おっそい!こっちは命からがらだっての……」
「チケゾーさん、安心したら、体の力が……」
「あ、あわわ~!た、大変だ~!」
様子を見に来たウイニングチケットの前で、ヘナヘナと地面にへたれこむ二人。ウイニングチケットはその様子に青くなり、慌てて駆け寄っていく。早朝のランニングに出たのか、ジャージ姿であった。