――扶桑の航空部隊の将兵は極めて短時間のうちに、超音速ジェット戦闘機に乗る事になった上、緊急事態なので、四の五の言う前に回されてしまった者も多がった。しかし、扶桑軍の将兵はターボプロップ機や初期ジェットにようやく慣れたところであったので、そこに現用機相当のグラスコクピットや再燃焼装置付きの次世代型戦闘機を充てがったところで、すぐには動かせないのは当然であった――
――扶桑は機種のものすごい早さ(扶桑では、たった数年で機種が五回以上も変わるのはありえない事であった)での転換に困惑する声が大きかったが、従来機で『どうにかできる領域』を超えたため、南洋の部隊から優先的に機種転換が進んだ。南洋の部隊は昔気質の部隊も多く、要員が単発機を好んだため、F-2の配備を目指しつつ、場繋ぎでドラケンが回された。目玉であるF-15やF-14は64F、50Fといった精鋭部隊がなし崩し的に受領していた――
「一般隊員の教育途上だってのに、F-14や15を渡されてもなぁ。最低でも数ヶ月は必要だよ、あれ。北東方面に移動するにも、基地の整備がねぇ」
「間に合います?」
「武装を解いたジムⅡを重機代わりにして、突貫作業中だって。日本の政治家は野戦飛行場を軽視するからね、戦後の事を今から言うと、鬼が笑うってのに」
ハルトマンは元々、野戦で築かれた臨時飛行場に慣れていたため、臨時飛行場に贅沢を求めないが、日本の方針として『粗末な宿舎などは非人道的である』とし、きちんとした構造の基地を作ってしまっている日本連邦に苦言を呈した。野戦飛行場は使い捨てる前提で設けるものだからだ。とはいえ、通常型のジェット戦闘機はアスファルト造の滑走路を用いないと運用できないという難点がある。そのため、日本側は(戦後に民間用に転用する前提で)設営している。64F用の基地をもう一個、本当に作るようなものだ。エクソダスを経験しているカールスラントの軍人からすれば馬鹿らしいが、戦後日本の大半の認識はそういうものだ。
「それに、それを自分たちで守れったって……」
「本音、言いますね」
「上には疎まれてるけどね、それで」
ハルトマンは歯に衣着せぬ発言が問題視されている。その一方で、有事にはこれ以上ないほど最高に強いため、ドイツ連邦は『予備役』に正式に入れようとした。有事には役に立っても、平時では危険人物と見なされたからだが、日本連邦にヘッドハンティングされ、本人も永住権を取得した。これに顔面蒼白となったカールスラント空軍はドイツに猛抗議をし、結局は妥協的に『日本連邦への従軍は海外勤務と見なす』という政治決定が下された。ハルトマンを『次世代の俊英』として期待していた古参が多かった事、ハルトマンがいなくなれば、自動的にマルセイユも追従するからで、史実ではお互いに面識がない(史実では、ハルトマンはマルセイユの戦死後に台頭した)が、魔女の世界では同期であった故だ。
「あたし、扶桑に移住するつもりでさ、家も買ったんだけど、上が大慌てで、『海外勤務扱いにするから、非礼を詫びたい』って言ってきた。先輩たちの引き止めの圧力で妥協したらしいんだ。先輩達はあたしをガランドやメルダースの後継ぎにしたがってたみたいだから」
カールスラント軍は人材が枯渇寸前に陥る惨状であったため、44JVやコンドル軍団出身者が部隊ごと日本連邦に移住していくことに、ドイツに抵抗してでも異を唱えた。魔女の世界では、コンドル軍団は戦争犯罪の集団ではなく、怪異との戦闘の先駆者であったからだ。ドイツが『此方側の誤解であった。取り消した栄典の回復の手続きを取り……』と折れたのは、彼女らがゲルニカ爆撃をしていない事が確かめられたからである。このため、連合軍はカールスラント軍の撃墜王を宣伝に使えなくなったとし、扶桑の撃墜王達をその代わりに添えた。それで扶桑国内でもゴタゴタが起こり、結局は魔女兵科そのものが世界的に縮小へ向かう流れとなった。『異能は異能でも、10代のうちしか維持できないのはコストパフォマンスが悪すぎるが、一定の割合で生ずるのはしょうがないこと』という思考に至ったからで、日本連邦に多数がいる『特異体質者』を例外に、実効戦力として見なされなくなり始めた。これは戦役の度に、多数が生ずる『元ウィッチの恩給と年金』が疲弊した各国の財政的圧迫になっていたからだ。日本連邦は超科学の力とゲッター線による国民の体質変化で引退者の再戦力化を容易にしたが、それは例外中の例外である。
「大変ですねぇ」
「扶桑よりきついよ、うちの国のほうが。皇室って共通点もないし、治安維持関連の組織はどこもシッチャカメッチャカで、機能不全だしね」
扶桑は『太平洋戦争が起きていない』世界なので、史実で国家と軍をミスリードした者たちか、戦前に富裕層と見なされた人々さえ排除できればいい日本の人々の追求も途中で満足したのか、トーンが急速に緩み、やがて立ち消えになった。『豊臣と徳川が戦国の覇者にならず、織田家が主導者であり続けた』歴史の判明も大きかった(ただし、海軍は『織田水軍から歴史をカウントするな!』と言われ、その義憤でクーデターを起こしたのが災いし、保有する人材に大ダメージを被った)。ただし、少なからずの高級将校が中枢を追われたのも事実である。その混乱の余韻が残る時代、扶桑軍・将校団の有力者=Y委員会の委員を兼任する64Fの幹部層という図式は色濃かったのだ。また、坂本のような『侍気取りの軍人』は危険人物と見なされ、ある一定以上には出世できなくなる時代でもあったため、軍人の『サラリーマン化』も大きく進んだ。しかしながら、戦前からの勲章と記章だけでは、他国に軽んじられた経緯(ダイ・アナザー・デイ中の大混乱の一因)から、武功章の発行は(金鵄勲章の実務上の代替的に)積極的になされた。ミーナの行った行為が如何に、扶桑軍全体に衝撃を与えたかがわかる。
「元・同僚のせいで、あたしらドイツ軍は血の献身をしないと、周囲に白い目で見られるようになったからね。ゲッターロボにも乗ってみせないといけないんだ」
「まだ尾を引いてるんですか?」
「日本の政治屋連中は戦時中の失敗以降はドイツに冷たいからね。戦前はアホみたいに懐いてたのに」
と、戦前はあらゆる分野でドイツびいきであったのに、戦後は『ドイツにつくと、ろくなことにならない』と言わんばかりの日本系国家の変節に思うところがあるらしいハルトマン。とはいえ、日本での生活を楽しんでいる身なので、国家の姿勢と個人は分けるというあたり、なんだかんだでカールスラント人らしい生真面目さを見せている。
「で、どうするんですか?」
「あたしは休憩したら、こいつの試運転の結果を産休中のお武さんに報告するさ。君らは?」
「私はこの子の気分転換に散歩させてたんですよ」
「ああ、君の後輩の」
「き、キュアフローラ……です」
ものすごく奇妙な光景だ。ハルトマンは1928年(昭和3年)くらいに生を受けている事を考えれば、キュアフローラ(春野はるか。2002年生まれ)は曾孫でいいくらいの年齢差である。本来であれば、会えるかわからないくらいの差だ。
「本名は?」
「春野はるかです」
「なるほどね。いつの生まれ?」
「え?2002年ですけど……」
「うおっ……とうとう2000年代かー……」
「どうかしたんですか?」
「いや、あたし、昭和三年の生まれになるから、2000年代と言われるとさ……」
「私のおばあさんより上ですね」
「そうなるよねー…あ、あはは……」
乾いた笑いが出るハルトマン。昭和三年は1928年であるので、2000年代生まれのはるかの祖母よりも上の世代になるのだ。咲とのぞみがギリギリで孫世代に入る(1988年生まれののび太であれば普通に孫世代だが)くらいの世代なので、プリキュア第三世代の先頭であるはるかはひ孫で通じるほどの年齢差だ。
「なんで、こんな事に?」
「次元世界のミステリー・ゾーンって奴だなぁ」
「フローラにはわかりませんって。せめて、世にも奇妙な物語に……」
「もー、子供扱いしないでよー!ブルームと歳離れてるのはショックだけど……」
ブルームに子供扱いされて拗ねるフローラ。お姫様っぽいコスチュームだが、現役時代は13~14歳なので、意外に精神的にはあどけなさが残っている。
「そそ、教えてあげたら?」
「そうですね。そろそろ頃合いかな」
「え、え?何、なんなの?」
「実はのぞみちゃん、今、体と心を別々に分けてんだ。ドラえもんの道具で」
「……は?」
と、とこに。
「誰か、ぼくのこと呼んだ~?」
ピンクのどこでもドアがいきなり出現し、ドアが開く。すると、ドラえもんが姿を見せた。
「あれ、新顔の子がいるね?」
「ああ、あたしの後輩ー」
この頃には、ブルームもすっかりドラえもんと顔なじみになったようで、このように普通に会話するのだが。
「ね、ね、ブルーム。夢じゃないよね?ほ、本物の……」
「失礼だなぁ。正真正銘のドラえもんですよ、ぼくは。あ、もしかして、声が変わった後のぼくしか知らない世代の子かな?この声に聞き覚えがないって事は…。」
「うん。2002年生まれだってさ」
「うわぁ~…。わっかいなぁ」
ブルームの紹介に『わっかいなぁ』と、親父っぽく返すドラえもん。のび太成人後に別れた後の時間軸のドラえもんであるので、統合戦争までの僅かな期間を過ごしていた頃の彼であるので、のび太少年期よりおじさん臭さを見せるが、往時同様のどら声は健在だ。
「そのどら声……そのデフォルメされてる体……昔のドラえもんだぁ」
「昔とは失礼な。ぼく自身は現役のつもりだよ」
妙なところで、プライドが高いところがあるドラえもん。アニメキャラとしては2005年に引退済みのボイスをしているせいであるが、その可愛めのどら声に反して、意外と毒舌で現実主義なロボである。
「ほら、あたしの現役時代に世代交代したじゃん」
「そりゃそうなんだけど」
「で、なんできたの?」
「キュアムーンライトに戦況を伝えに戻ったんだ。のぞみちゃんの体は貸し出し中だから、状況を確認したいんだって」
「ゆりさんも仕事するねぇ」
「まー、あの人、素体が『ガイア』の軍人だしね」
キュアムーンライト/月影ゆりはガイア(反地球)における『新見薫』を素体に転生した都合、覚醒時の肉体年齢は28歳になる。それまではガイアでの地球連邦防衛軍の軍人として働いていたが、プリキュアの記憶が覚醒した後はアースに移住している。そこには新美薫の同位体がいるため、『月影ゆり』の名義で暮らし、経歴(ヤマト乗艦の経験)を買われる形でアースの連邦軍籍を得ている。
「ゆりさん、いるの?」
「いるよ。最近は何かと忙しくて、基地にいないけど」
「彼女、最年長に近いから、外部との交渉や折衝が仕事になってる。カウンセリングの資格も持ってるから、最近は引っ張りだこでね。のぞみちゃんもそれを受けてる」
ドラえもんも説明する。キュアムーンライトこと、月影ゆりは様々な才能を持つ才媛だが、最近はカウンセラーもしているので、多忙を極めている。のぞみはデザリアム戦役で急転直下の状況であったことから、その時期から精神面の傷を癒やすためのカウンセリングを受けている。その一環で、のぞみのモニタリングを頼まれているのだと、ドラえもんはいう。身体はそれまでと変わりないようでも、変身能力をアイテム無しで行使できる、ZEROの持っていた魔神パワーのすべてを体への負担なしに行使でき、マジンガーとゲッターの技を普通に放つなど、普通に考えて『ぶっ飛びすぎ』な変化を遂げている。モニタリングはその変化がどういうものかを確認するためのものであった。それは他人が入れ替わっている状態であろうと、有効である事も含めて。ZEROが融合したのは魂魄よりも上の次元、つまり存在そのものではないのか?というものである。ムーンライトはそれも調査の対象にしていた。
――プリキュア達が結果的に大車輪の活躍をした事で、扶桑の予備士官が被った損害への賠償の進捗状況がニュースに取り上げられた。自分達に非があるのは明らかであったからである。のぞみは教職に就こうとしていた(扶桑の法律では『軍籍が残っている状態で就けた』ため)が、日本側の独断で話を潰された。その事を理由に、扶桑が日本に侵攻する事を恐れた『時の政権』はのぞみを『予備役願いを出していない』とし、『召集中』のままでするよう、扶桑に懇願した。この対応は予備士官達全員に適応された。辻褄を合わせるためだ。日本側の意向もあり、その多くは口封じを兼ねての最前線勤務にされたわけだが、その見返りに、日本側は秘中の秘としていた『戦後型戦車の設計図を提供し、ライセンス生産を認可した』。双方に『外国製戦車がこのまま主流を占めるのはけしからん』という声がありつつも、戦後型の西側諸国の戦車は米独の戦車の影響が大きい事実との兼ね合いがあったためだ。装甲戦闘車両の近代化は必須であるが、カールスラント製戦車が合法的に入手できなくなった(生産中止)故に、リベリオン製を主体にしなければならなかったのも、カールスラントの軍需品への需要を減らす結果となった。とはいえ、放出された装甲戦闘車両は日本連邦の南洋方面軍の貴重な戦力となったのも事実であった。日本連邦にとっては『敵であり、味方である』という複雑な様相を呈したドイツ軍系装甲戦闘車両だが、戦後型米軍戦車などが回されていない部隊にとっては貴重な戦力であり、64F基地の警備担当の部隊も使用していた。のぞみへの賠償金の巨額化を少しでも抑えるための日本側の政治決定であった。この一連の出来事の発端となった文部科学省と厚生労働省は、プリキュアの出現に恨み節であったのは言うまでもない。だが、逆に言えば、有事の際の召集人数を抑えられることでもあるので、財務省はむしろ歓迎した。プリキュアは一騎当千。何の訓練も受けていない成人男性を徴兵、もしくは志願兵をそれなりの期間の訓練で兵士に仕立て上げるより、彼女らに正規の戦闘訓練を受けさせ、戦闘力を補強し、南斗聖拳やないしはそれ以上の拳法を使う相手への対策とする。それが連合軍統合参謀本部が64Fに命じた指令であった。つまり、人外級の相手は今後、64Fに相手をさせるという意思表示であった――
――日本連邦化の恩恵は映画業界にも及んだ。扶桑軍が協力し、旧型になったレシプロ機を飛ばしてくれたり、改装前、もしくは売却した旧型空母を航行させてくれたので、ど迫力の映像が撮影できるのだ。ジェット戦闘機への入れ替えで、要らなくなったレシプロ戦闘機や爆撃機の最後のご奉公は『銀幕の中でスターになる』事であった。日本帝国軍の塗装に塗り替えられた扶桑軍機は、扶桑の資金提供と撮影協力で作られた戦争映画で『最後の輝き』を見せた。扶桑の零戦はダイ・アナザー・デイで数を減らし、戦後の稼働数は大きく減っていたが、撮影用の空母に並べられるだけの数は残っていたからだ。扶桑の零戦は既に多くが五二型以降の型式になっていたが、本物の零戦が飛んでいるだけでも奇跡である。そもそも、扶桑にとっては『ダイ・アナザー・デイでの需要増に答えるための場繋ぎで量産させられた派生バリエーション』である後期型零戦にはなんら執着はない。故に、残った個体は積極的に売却された。日本にとっては悲運の型式であろうと、扶桑にとっては『本来は不要であるのに、無理に作らされた型式』でしかないからだ。とはいえ、零戦はダイ・アナザー・デイでは既に旧式扱いであり、九六式艦戦共々、ダイ・アナザー・デイの直後に軍役から退役しているのも事実であった。紫電改や烈風も初期型はその一年後に一線を退いており、第二の人生を銀幕のスターとして過ごしていった。折しも、終戦から80年の節目になりつつあった日本が扶桑の軍役から退いたそれらを買い付けていったため、半分は武装を解除しての輸入であったが、少なからずはススキヶ原の自警団がそのまま使用した。カールスラント軍崩れ程度のテロリストなら、紫電改と烈風で充分にお釣りがくるからだ――
――紫電改と烈風はダイ・アナザー・デイでその真の実力を見せた。太平洋戦争帰りの日本兵の経歴を持つ者が主に搭乗した幸運、扶桑の工作精度が史実の戦後の水準に届いていた事、燃料も100オクタン価以上のものが使えた事などの要因で、史実同様に苦杯を舐めるような事態は起こらず、むしろ、F4Uはカモ、F8Fとも互角に渡り合った。ただし、日本側が懸念した『扶桑軍の生え抜きパイロットの飛行時間が少なすぎる』という指摘は太平洋戦争に至るまでの禍根を残した。とはいえ、太平洋戦争で飛行時間が爆発的に増大し、今度は要員の過労が問題になった。そのため、各部隊は交代要員を育成、確保する必要に迫られた。だが、既にジェット戦闘機が主流となる時代となり、レシプロ機のように、すぐに動かせるわけではなくなった。F-86がその次の世代の戦闘機の登場後も、しばらくは現役を張ったのは、その動かしやすさによるものであった。64Fも交代要員の確保に四苦八苦していたのは言うまでもないように、ジェット戦闘機のパイロットを育てるのは手間のかかるものであった。レシプロからジェットへの転換期はどこも同じような苦労を強いられていたのである――
――比較的順調に新鋭機への転換が進む扶桑でさえ、ジェット機への機種転換に苦労を強いられていたように、他国は空母機動部隊の保有すら放棄していった。カールスラントは扶桑に賠償金を支払うため、空母機動部隊の保有を諦めかけたが、開戦前に教育を受けた要員が軍に残っていたため、その圧力で鹵獲艦の修繕という形に落ち着いた。地政学的に必要になったからだ。とはいえ、扶桑からの購入艦を返却した代償は大きく、カールスラント海軍の外洋海軍への再生は半ば諦められている。レシプロ艦載機の運用ノウハウさえないのだから。それがある扶桑とブリタニアでさえ、艦上機の世代交代による空母の大型・少数精鋭化に困惑し、軽空母の計画が立ち消えになり、大型空母に統一されたのだが、戦闘艦艇そのものの世代交代に直面し、ブリタニアは財政破綻と軍備近代化を天秤にかける有様であった。扶桑はこうした他国の窮状による『国際連合の要請』で『軍縮を差止めされた』わけである。だが、空母機動部隊も空母そのものの世代交代で規模の縮小を強いられており、戦前期から規模を維持できたのが『戦艦部隊』であったという皮肉な結果となった。それは日本がF8Fベアキャットを異常に恐れたが故に行わせた『艦上機の迅速な世代交代』が招いた事態であった。戦艦は大和をベースに改良すれば事が済む上、日本も活用の予算を承諾してくれるからだが、大和を量産するつもりがなかった扶桑にとっては『目論見が大いに狂う』出来事であった。モンタナや各国の未成戦艦の存在は扶桑を愕然とさせるものであり、それが扶桑の国民を大艦巨砲主義に走らせた。『近代兵器の装備には艦の大型化が必須』という史実もそれを後押しした。『ミサイル兵器が怪異には決定打にならない』という事実が、大艦巨砲主義の亡霊とまで揶揄された戦艦を生きながらえさせたのである――
――結局、ミサイルの高性能化が進展していく事が財政を圧迫し、M粒子の軍事利用で必中にはならなくなる』という事がメタ情報で判明していった結果、多くの国で『ミサイル偏重の艦の計画が立ち消えになる。その代わりに『巡洋艦をベースに、戦艦に近い攻撃力、旧来型を上回る生存性を持たせる』というVLSの技術を前提にしての『各国共通規格の巡洋艦』が模索される。これは独自色の強い戦艦より規格統一が容易であるとされたからだ。問題は艦砲の規格であった。対地射撃の火力確保のために『8インチ砲』が望ましいとされたが、戦後型の艦砲は非装甲の軽量な自動砲であり、設計の参考にならなかった。皮肉な事に、地球連邦軍の宇宙巡洋艦のショックカノン砲塔が設計の参考にされ、その規格で統一される。その関係上、巡洋艦以上の艦砲は『三連装砲』が標準化するのである。ミサイルが史実のような地位を得られず、水雷装備も対潜装備の必須化で排除できなかったため、各国の設計陣は『却って、設計の制限(一定の万能性が必須であるため)が増した』と愚痴るのである。当時は各国で艦艇のコンパクト化が模索されていたが、結局はそれが『近代兵器の装備に不適格』とされる原因となり、結果として、連合海軍の海軍力整備に多大な悪影響を及ぼしていく。長引く戦乱で『魔女の世界』全体に厭戦の風潮が生じたのもあり、日本連邦は次第に『世界最大規模の海軍』に変貌していく。ブリタニア海軍が相対的にだが、次第に衰えていくからである――
―― 一方、ナリタブライアンはキュアドリームの姿を借り、先行して降り立ったのをいいことに、仮面ライダー四号と死闘を展開していた。仮面ライダー四号の加速装置についていける加速を見せ、同じ世界に『入門』し、剣戟を見せていた(四号は『この世で最も強靭な超合金ニューZα製の剣』と打ち合える特殊合金の電磁ナイフを使っている)。――
「でぃぃや!!」
ブライアンはプリキュアとしての仕事に実は乗り気ではなかったが、バダンの脅威を目の当たりにしてからは(本職の感覚を取り戻すための荒療治も兼ねているが)、本腰を入れてかかっている。元々、武道の心得があったのも幸いであったが、転生後のキュアドリームは職業軍人としての戦闘訓練をきっちりと受けており、体の反応速度もプリキュアとして現役であった頃の最盛期よりも鋭敏になっていた。その相乗効果で、ブライアンの要求に体が応えられるわけだ。そして。
「ムゥン!!」
四号の蹴りを躱し、その足を掴んで態勢を崩させ、全体重をかける勢いで地面に叩きつける。のぞみはこうした戦法は心得ていないが、ブライアンは生徒会役員としての仕事の一環で『不審者の取り押さえ』をしてきている。警備員はいるにはいるが、形式的なものに近い。人間相手ではまだいいが、不良ウマ娘相手では役に立たないからである。そのため、生徒会役員はある程度の腕っぷしが要求されている。トレセン学園は現時点で大学部まである上、高度な学園自治を約束されているのと引き換えに、変人や奇人の奇行を止める役目も与えられている。その兼ね合いで『腕っぷし』がある程度は必要な上、当代最強クラスのウマ娘が必要なのだが、ルドルフはブライアンとエアグルーヴの入学までは一人で切り盛りしていた。ルドルフの補佐に足る人材がマルゼンスキーしかおらず、シービーは気質的に柄ではないし、ライバル格のカツラギエースも生徒会には興味がなかったからだ。ルドルフにスカウトされ、副会長の地位を与えられたブライアンだが、意外にそうした事はきっちりこなしていたため、四号と渡り合えるわけだ。
「ほう。なら、これはどうだ?」
「ん!……遠隔操作であんたのビークルを呼び出したか。それも子機ごとか」
「俺と戦いながら、スカイサイクロン軍団の相手はできまいよ」
「そいつはどうかな?」
のぞみ本人はヒロインとしての正々堂々さをある程度は守る(闇落ちしかけであった時期でも)が、入れ替わっているブライアンは『丁か半か』の勝負の世界で生きてきたため、取る戦法に明らかな違いがある。それがこれであった。
「三冠アームガン!!」
「何ぃっ!?」
「悪いが、あんたのお遊びに付き合ってる暇はないんだ」
ブライアンはここで、出撃前に敷島博士が『造る直前まで、昔の逆転イッパツマンを見ておったのよ』という理由で送ってきた『試作型ビーム・ライフル』(説明書に書かれていた名前は『三冠アームガン』であり、『逆転イッパツマン』からインスピレーションを得たのが丸わかりな武器である)を召喚する。形状はかつての『ゲルググ』が採用していたビーム・ライフルに似ており、ストックが付いている仕様であった。線図の一部を参考にしたのだろう。違うのは、ゲルググが片手打ちでは命中率が下がる(ゲルググの量産機では、終戦間近になるにつれ、製造工程に不備が生じ、機体と照準システムのマッチングの精度にバラツキが見られ、微妙に照準自体がずれていたモノもあったという)データがあるのに対し、このライフルは(ビーム・ライフルは反動がある)反動もわずかであり、プリキュアの腕力であれば、ほとんど無いも同然の範囲内である。威力も敷島博士の技術がものをいったのか、地球連邦軍の制式戦闘機の機銃でも、なかなか傷を与えられない『スカイサイクロン』の量産機が一撃で爆散するほどの威力を見せる。
「……あのマッドサイエンティストのジジイめ、開発力は本物だな。ああいうのが意外な発明をするのが世の常だが……」
ブライアン(姿はキュアドリーム)は自分の撃ったライフルの威力に一瞬、呆気にとられる。だが、すぐに気を取り直し、四号が遠隔操作で操る戦闘機『量産型スカイサイクロン』を撃ち落としていく。スカイサイクロンは『A-1攻撃機』をモデルに開発されたビークルであるため、本式の戦闘機と違い、加速力や上昇力などで『戦闘機として純粋に設計された機種に劣る』面がある。更に言えば、対地掃射などを主任務の想定にしていた都合、『機体が重い』。そこをブライアンは突いたのだった。
「あら…よっと!」
三冠アームガンを駆使し、入れ替わり先であるのぞみ本人以上の腕前を見せ、量産型スカイサイクロンを一機、また一機と撃墜していく。
「ぬぬ……味な真似を……!」
ブライアンは元々、縁日の射的を得意としていた。走りながら矢を射れる技量もあるので、当然ながら、射撃技能は水準以上。見越し射撃技能も備えているのか、スカイサイクロンが機体を引き起こす時の一瞬を突く技巧も見せる。
「あんたの玩具なんぞ、暇つぶしにもならん。続きといかせてもらう」
「!!」
四号の加速装置が冷却時間に入った隙を突き、ブライアンは『流星拳』を放つ。ドリームがこの時点で得ている技の中では『小手調べ』程度のものだが、マッハに達する速度を持つ。加速装置が再起動される前のクールタイムを突くには充分なものだ。
「!!」
四号は100発の乱打である『流星拳』を食らい、吹っ飛ばされる。だが、胸のコンバータラング(ホッパー型改造人間の多くが備える、胸のプロテクター)がダメージをかなり減らしたようで、何事もなかったように、四号は立ち上がる。
「ククク……蚊が刺したか?」
挑発する四号だが、次いで放たれたブライアンの拳は次第に加速していき、ついには彼の複眼でも処理できない速度(光速)に到達する。
「ば、馬鹿な……私のこの目で……処理できんというのか!?」
「当たり前だ。光の速さなんだ。お前の複眼では処理できん!」
ブライアンはそう言い、この技の元々の持ち主にオマージュを捧げる口上で〆る。
「あんたも聞いたろう?獅子の咆哮を」
ライトニングプラズマを電撃付きで放ち終える。四号は空中でめった打ちにされ、最後に雷が彼を貫く。
「ぐ、ぐおおおお…っ!」
コンバータラングの一部が焼け焦げ、自己再生を行っているのか、ラングから煙が出ている。(役目を終えたナノマテリアルが装甲表面で蒸発していることを示している)。ダメージを負っているのは確かである。
「あんたの玩具に仲間は足止めさせられているようだが、そう長くはかからんだろう。三号の居場所を吐かせてやる。強引にな」
ブライアンはドリームが教わったとされる技の内、『スカーレットニードル』を撃つ態勢に入る。爪が鋭利な形状に変形し、少なくとも四発を『スカーレットニードル・クワットロ』(四発同時に打ち込む応用技。ミロの先代に当たる者が用いていた)として撃てるようにする。如何に脳改造が施されたとしても、痛覚などは(判断力を鈍らせないためか)そのままである場合、スカーレットニードルは効果を発揮する。
「受けてみるか?スコーピオンの一突きを!!」
ミロは生前にスカーレットニードルを『スコーピオンの牙』と評したが、スコーピオンは刺す動物であるため、このほうが正しい言い方である。ブライアンは四号に肉薄し、すれ違いざまに突き刺す。
「スカーレットニードル!!」
残心の際に技名をばっちり呼称するあたり、意外にノリがいい側面があるブライアン。のぞみの記憶を垣間見るうちに、黒田が特訓でこれを躊躇なく、5~6発を打ち込む記憶に青ざめたというが、敵には慈悲はないと言わんばかりの使用法である。戦いは白熱を極めていた。