――大人のぞみはインストールされた『別の自分』の記憶と経験でどうにか、軍人らしい仕草などができていた。当人は教師ながら、別の自分は職業軍人であるというのは、当然ながら、戸惑いの対象であった。転職を潰された故だが、それも悲哀を感じるものであった――
「別の自分の記憶と経験、か。別の世界線の記憶があるってのは変な感じだよ」
「別ののぞみちゃんは軍人だったの?」
「そう。一度、転職を試みたけど、自分の及ばない次元で駄目だったみたい」
のぞみAはダイ・アナザー・デイ後、転職を試みたが、自分の力の及ばない外野が騒いだおかげで大騒動となり、軍人で居続ける事になった。日本の一官僚にしてみれば、『自分の政治イデオロギー』に従い、扶桑の軍人の転職を邪魔して『してやったり』のつもりだろうが、現地の予備役制度そのものを混乱させ、自分がプリキュア戦士であった事で世論が沸騰したことは予想外であり、そう処理した官僚は国の意向で腹を切る(クビという意味である)事になり、厚生労働省、外務省、文部科学省、防衛省は扶桑の天皇に謝罪する羽目となった。やった理由が個人の政治イデオロギーの発露なので、外務大臣も扶桑の天皇にどう説明すべきかと悩んだだろう。騒動の直後に、その四つの省庁の大臣は責任を負うという体裁で辞任している。
「別の私がいる世界だと、身分保障や保護の観点から、軍人として遇したほうが良かったみたいでね。戦うわけだし。で、また別の世界線の日本がそれを問題にした……。で、もうシッチャカメッチャカ。結局、あたしの転職を『無かった事にする』ことで手打ちになった。皇室が絡んでた案件だったらしいから、問題を起こっていない事にするしか、穏便にカタがつけられなかった。問題起こした方の日本は、別の私が転生した世界の戦艦大和と武蔵に東京を砲撃されるのを恐れたからね」
大和型戦艦の砲撃を受ければ、東京は火の海になる。自分たちが過去に最強を目指して作ったのだから、それは容易に想像できる事だ。
「大和と武蔵って、そこまで強かったの?」
「戦艦としては最大最強を誇ったんだ。たぶん、東京の23区くらいは軽く火の海にできるよ」
「ひええ……」
戦艦の艦砲射撃は地形も変えうる。ドラえもん世界の日本が恐れたのは、その点だ。アイオワやノースカロライナ、サウスダコタ以上の破壊力を持つ大和型が史実の計画通りに勢ぞろいすれば、46cm砲の圧倒的な破壊力で沿岸地域は火の海になる。それは目に見えて明らかであったからだ。
「別の私は、それを避けるための人身御供にされたんだよなぁ。せっかく、内定もらってたのに」
「あれ?朝は卵がけごはん?」
「大学の頃、親からの仕送りとかの関係で、よく食べてたんだ。若かったからできた事だけどね」
大人のぞみは実のところ、22歳を超えた辺りで酒好きになったため、地味に肝臓に負担がかかっていた。アラサーになったので、飲む量を減らしていたが、この出来事を期に『酒を控える』ようになった。別の自分はつきあい程度に飲んでいるが、暴飲はしないので、これ以降は酒を控えるようになるのだ。
「えーと、つまり、別の自分の情報を昔の偉い人の幽霊にインストールされたの?」
「事を円滑に運ぶためだって。仕方ないさ。こうでもないと、あたし自身はプリキュアに戻れなかったからね」
大人のぞみはプリキュアの力を加齢で喪失していたため、今回の機会がなければ、普通に教師として、一生を終えていただろうという自覚はある。だが、事態が事態故、別の自分の身分を借りて、戦場に立っている。かつての仲間達のうち、何人が自分に賛同してくれるかは未知数だ。
「ただ、今回はみんなの現役時代の敵とは、わけが違う。本当の戦争だからね、何人か集まってくれるか……」
大人になり、それぞれの生活があるので、かつてのオールスターズの全員は集まらないだろうというのは、元から折り込み済みの大人のぞみ。一種の諦感であったが、ラブAが共に戦っている関係で、それを確かめるべく、いくつかのチームのメンバーは海外に在住者になっていたメンバーがいたので、全員が合流次第、日本へ向かっている。だが、合流地点で足止めを食らったりしており、すぐには日本に迎える状況ではなかった。日本国内にいた元・プリキュア戦士たちも、それぞれ就いている仕事を放り出せる立場でもなく、結局は情報収集が精一杯であった。
「りんちゃんを尋ねてきたけど、あまりいい返事は聞けなかったよ」
「……ありがとう。聞いてくれて、ラブちゃん」
「プリキュアの姿で尋ねたから、驚いてたよ。のぞみちゃんがプリキュアに戻った事を教えたら、複雑な顔してた」
「仕方ないよ。この世界だと、戦ってた時期から10年以上経ってる。『今一度、戦ってくれ』って無理強いはできない」
「いいの?」
「かれんさんが加わってくれただけでも、御の字さ。うららは俳優の仕事があるし、こまちさんは小説家だからね」
とはいえ、実際のところ、大人りんはキュアピーチに気まずい表情を見せており、今の生活がうまくいっていないことを旧友に見せたくないのと、昔と同じように、『行動を起こす』勇気が自分には殆ど残っていない事による葛藤があったのだ。しかし、大人のぞみは『守るべきモノ』が明確にあるが故に、本業を放り出してでも、戦いの場に舞い戻った。大人りんには、それが殆どなかった(アクセサリー関連の仕事がうまくいっていないためか)。それがピーチへの曖昧な回答に表れていた。大人のぞみも彼女には無理強いしないつもりだが、当の大人りんは相当に苦しんでいた。親友は地球全体を守るために、命の危険を顧みず、昔と同じように立ち上がったのに、自分は何をしているのか、と。力を一度は持ち、失った身になると、どうしても及び腰になってしまうのだ。のぞみやかれんには『守るべきもの』が明確にあるが故に、プリキュアに容易く戻れたのだろうが、今の自分にはそれがないという自覚があるが故に、昔のように行動が起こせなくなっている。良くも悪くも、成人した故の人間臭さが出ていた。
「今、スカーレットがデリシャスパーティーの子たちと交渉中だよ。うまくいきそうだって」
「よかった」
「皮肉なもんだ。新しい世代が要請に応じ、君に近い世代が拒むとは」
「彼女たちにも生活がありますからね。無理強いはしないつもりですよ」
飛鳥の艦載機隊の隊長(大佐)が向かい合わせの席に座り、話しかけてきた。年齢は40代ほどで、飛行長の任に就いている大佐であった。
「初っ端からこの被害だ。君らの仲間は本当に座視を良しとするのか?」
「多くが力を自然と失ってますから…。戦う術がないんです。元はプリキュアでも、今は市井の人。自分の要請に何人が応えてくれるかは……未知数です」
「プリキュアオールスターズも、この世界では『今は昔』ということか」
「ええ……残念ですが」
仕事では、立場相応の言葉づかいを使いこなせるのも、のぞみの才能であった。Aは上官達の殆どがフランクなので、見る機会は少ないが、大人のぞみは『身分を借りている』自覚があるため、Aより硬めの軍人言葉になっていた。
「国連は今になって、緊急会議を安保が開いたようだが、どうせまとまんだろう。東側諸国は核ミサイルを使おうとするだろう。この時代の核弾頭など、外宇宙用の宇宙戦艦にとっては、線香花火に等しいのに」
彼の言う通り、21世紀型の核兵器は宇宙開拓時代の宇宙戦艦には通用しない。装甲が21世紀の地球にある全ての金属と比較にならない強度を持つからだ。23世紀以降の反応兵器でも『通じない時は通じない』ので、21世紀前半時の科学力による核兵器では、まさに『蟷螂の斧』だ。
「しかし、バラバラに対応していたら……」
「うむ。各個撃破がオチだ。戦闘機や爆撃機であれば、この時代の兵器でも戦えはするが、それに気づくのに、犠牲が生ずるだろうな。小国の一つや二つは滅ぼされるのは覚悟しなければならんだろう」
それは国連がまとまりを失い、安全保障理事会も機能不全に陥っている21世紀世界の状況を鑑みての冷静な分析であった。大国でも、アメリカ以外の戦闘機の保有数は400機行けばいい方。大戦や未来世界での戦闘では、それらは一回の空中戦で失われる範囲の数字だ。加えて、この世界では、大国も空中戦の実戦など、20年近く経験がない。おそらく、白色彗星帝国と戦えば、一回で保有機数が尽きるだろう。
「我々がなんとかせねばならんが、敵はワープを使う。我々は空母をあまり防衛に割り振れんからな」
地球連邦軍は度重なる戦乱により、戦術単位で『気軽に使える』純然たる空母を気軽に作れなくなった。その兼ね合いと、ガミラス帝国からの鹵獲データ、宇宙戦艦ヤマトやペガサス級とマクロス級の運用実績により、『戦闘空母』に舵を切った。つまり、大型化と引き換えに、戦艦と空母の兼任が可能な艦を作るというドクトリンだ。ガミラス帝国の戦訓から、戦闘空母の条件を探った地球連邦軍はデザリアムとの戦争の後には『アンドロメダ級の能力と空母の艦載機運用能力を両立させる』という方向になりつつあった。
「その子に艦内を案内させておくように。君たちは当面、この艦で勤務してもらう事になる。時期がくれば、バトルキャリアに赴任するように辞令が降るだろうが、暫定的な措置だ」
「ハッ」
飛鳥と隊列を組むバトルキャリアは『天城』、『雲龍』、『日向』、『伊勢』の四隻。その内の雲龍と天城は白色彗星帝国戦を生き残った数少ない本格的戦闘空母だ。
「大佐、戦闘空母はどうして作られたのですか?」
「度重なる戦争で、本格的空母を多く持てるほど、地球連邦は人的資源の余裕が無くなってな。それでペガサス級やヤマト型などの運用データ、ガミラス帝国から鹵獲した戦闘空母のデータで建造が決まったのだ。今は30隻ほどあるが、大国に比べれば、雀の涙だ」
ガルマン・ガミラスやボラー連邦などの銀河を二分する大国は空母だけでも膨大な保有数を誇るが、地球連邦は星間国家としては23世紀初頭の段階で『駆け出し』であるのと、度重なる内戦のせいで人的資源の損耗が激しく、背伸びしても、バトルキャリアは30隻が今のところの全保有数。その過半数が地球連邦・日本州の管理下にある。全部が波動砲を有しているとは限らないので、波動砲を持つ戦闘空母は更に減る。それでも政治的には抑止力になる。
「試験的に、二次大戦で流行った『装甲空母』タイプも作られている。何分、空母はアンバランスな艦種だ。二次大戦の頃からな」
空母はミッドウェーやマリアナなどの空母戦が証明しているように、防御に回った場合、脆さを露呈する。装甲空母などが考案されたのも、二次大戦前から指摘されていた『脆さ』に由来する。
「実戦になると、空母は脆い。フェーベ航空決戦がそれを改めて証明した。故に『戦艦に空母の能力を持たせる』事になったのだ」
戦闘空母は複数の要因で生まれ、一種の流行になった。かつての航空戦艦と違い、主砲使用の問題などが解決されているため、地球連邦軍の殆どの艦艇は事実上の『航空戦艦』であった。一年戦争の戦訓である。
「確か、資料室に航空決戦の際に、ハミングバード隊が撮っていた記録映像があるはずだ。後で見るといい」
「ありがとうございます」
宇宙戦艦の資料室は下手な街の図書館よりも充実した収蔵数を誇る。これは長期航海が前提であるので、できるだけ多くの資料が娯楽も兼ねて収蔵されるからだ。
「確か、Zプラスの一種でしたね」
「ああ。今でも、可変MSであれほど過激な機体はない」
ハミングバード。ZプラスのC1Bst型の事である。グリプス戦役の際は『ペーパープラン』だが、ガミラス戦役の際に実機が(設計の改良を重ねた上で)量産化され、フェーベ航空決戦などで戦功を残した。VFが量産化されたおかげで、可変機もグリプス戦役当時より量産化の敷居が下がったため、この時点でも量産は続いている。エンジンの強化などで性能は小刻みに向上しているので、地球連邦軍きっての速力をデザリアム戦役時点でも維持している。
「ベースは古いがね」
初期型Zプラスはこの時点で、その次世代型のモノに機種転換が始まっているため、古い型式扱いである。とはいえ、コズミック・イラ世界からすれば、ガンダリウム合金の頑強さは垂涎の的であるため、オーブ首長国連邦軍が購入を打診している。ガンダリウム合金が21世紀からのチタン合金の究極だと判明したので、『既存技術の発達』であるという確証が得られた事、採用メリットの薄れたPS装甲より機体重量を遥かに軽量にできるというメリットが生じたため、発泡金属製のM1やムラサメよりも、ガンダリウム合金のZプラスを採用したほうが生存率が上がるという判断であった。 初期型は今後、輸出目的で生産される。
「でも、なんで結局、TMSが再評価を?」
「リ・ガズィのおかげだ。バックウエポンシステム自体の欠陥が露呈して、パイロットも死ぬ例があってな。結局、普通に可変機を作ったほうがいいってなって、リ・ガズィ自体の量産は凍結されたが、ティターンズ系や初期のZプラスの老朽化で再検討された結果だ」
リ・ガズィはこの頃には、Z系の安価な量産機として、空挺部隊に回されるようになったが、欠陥が指摘されたため、リ・ガズィ・カスタムがその後継・強化機として量産化された。一般機はバイオセンサーなどはオミットされているが、エース用はフルスペックのバイオセンサーを積んでいる。大人のぞみが乗ったのも、指揮官用にセッティングされたリ・ガズィ・カスタムであった。
「任務に応じて、ガンダムXと使い分けろ。Xは使いにくい局面がむしろ多いからな」
「わかりました」
ガンダムXは対コロニーや隕石落としの決戦兵器という体裁が強いため、戦術単位では使いにくい。そのため、足の速いリ・ガズィ・カスタムが戦術単位では、却って使いやすい。彼の言うとおりであった。この後、大人のぞみは組み立てが終わったばかりの新品の個体を自分用にセッティングし、以後の戦闘で使う事になる。(元々、アムロ専用に設計されていた都合上、機体の反応速度が普通の量産機よりだいぶ早めであるため、エースパイロット用になった)
――『オトナプリキュアの世界』に派遣された艦隊の多くは日本行政区に母港がある艦艇で構成されている。これはかつての北米や欧州の港の多くがコロニー落としなどのダメージ、更には親ジオン系勢力やティターンズ系勢力の跳梁跋扈で使用できる状態ではなく、必然的に日本行政区に母港を置く艦艇が増加したからである。さらに言えば、北米行政区はもはや『かつてのアメリカ合衆国とカナダの死骸』と言われるほどに大多数の地域が荒廃しており、複数の地域で『西部開拓時代に逆戻りした』暮らしを強いられているので、日本行政区に軍事上の機能が集中したわけだ。彼らは『現地の国連は各国の意見もまとめられないだろう』と予測しており、自分達が現地で行動する時の方便に国連の名を使った。白色彗星帝国の空母機動部隊のワープ戦法による奇襲は、21世紀の軍隊の想定を遥かに超えていたからだ。実際に、アメリカほどの索敵網を持たぬ国々ほど、被害は大きかった――
――現地の状況は刻一刻と悪化していた。白色彗星帝国の軍備はガミラス帝国よりも強大であった都合、21世紀の小国の空軍力では阻止できるものではなかった。たとえば、南アフリカは(経済低迷で軍が弱っていた事もあり)白色彗星帝国の大編隊の空爆に対応できずに軍そのものが全滅。ケープタウンを始めとする各都市は廃墟と化した。大編隊を集中投入しての猛攻撃であった。地球連邦軍はなんとか撃退できたが、時既に遅しは否めなかった。南アフリカ共和国は事実上、その機能を失った。アフリカでは有数の国家がたった一回の攻撃で実質的に崩壊(国土全体を猛爆され、政府高官などが尽く死に絶えた)し、難民も多く発生したため、アフリカ大陸は早くも、秩序が崩壊の危機を迎えている。大国は疑心暗鬼に陥っていたが、墜落していた爆撃機の残骸が(21世紀時点の科学力では)分析できない金属でできていた事(21世紀の地球のどんなカッターでも切断できない)から、宇宙人の襲来を否応なしに実感した。東側諸国は核兵器での撃滅を目論み、ある日、高高度にいた宇宙船(空母)に高出力の大陸間弾道弾を叩き込んだが、21世紀水準の核兵器の出力では白色彗星帝国の艦艇の装甲はびくともせず、無駄に終わった――
――しゅんらん 艦橋――
「提督、先程、中国とロシアが大陸間弾道弾を撃ち込みました」
「無駄な事を」
「案の定、撃ち込んだミサイル基地は消し飛びました」
「だろうな。通常兵器のほうが効果が見込めるよ」
核兵器も効果がない宇宙からの侵略者が相手では、国連は無条件降伏も考えるだろうが、白色彗星帝国は殲滅か奴隷の二択しかない。それは日本への攻撃で示されている。反抗の意思がある国々をアメリカ合衆国かどこかがまとめようとするだろうが、上手くいかないだろう。
「夢原少佐の要請には何人が応えたか?」
「彼女らの『復活』に呼応して、世界各地にいた『経験者』達が日本に帰国を始めたようですが、乗り物の給油、ないしは寄港地で足止めを食らっているようです」
「国内にいても、仕事を抜け出せんだろうからな」
「水無月医務少佐の勤務する病院には、医官を送り込んだな?」
「ハッ。彼女を連れて行く大義名分は既に先方に説明してあります」
「ご苦労」
国連の医師団と装う形で、地球連邦軍は現地の日本に医官を送り込んだ。かれんを連れて行くためである。大人かれんは休暇届を出していたが、地球連邦軍が国連軍の名義で彼女を連れて行ったのである。表向きは『被災地支援のために、若い医師が必要であるから』である。大人かれんも、卑弥呼の力で記憶と経験、能力がインストール済みである事から、白色彗星帝国の暴虐を知っており、二つ返事で改めて了承。戦役に従軍の運びとなった。
「足止めを食っているプリキュア経験者は何人だ?」
「今のところ、ドキドキプリキュアの地球出身の四名がハワイに、グアムにハピネスチャージプリキュアの面々が、ハートキャッチはバラバラでして、捜索に時間が」
「桃園少佐が打診した面々はどうか?」
「迷いがあるようですが、春日野中尉、美々野中尉などは応じたようです」
「64Fにいる該当メンバーの了承も得ておくように。予想より時間がかかりそうだな、これは」
この後、山南は大人のぞみ、ラブ、ゆいの三名をしゅんらんに呼び出し、プリキュア達の緊急招集を命じた。しゅんらんにある『VF-31AX』を用いて、迅速に説得に赴くようにと、厳命して。ハワイにいたドキドキの面々の説得を最初に行うことにしたのは、ドキドキチームは変身を現役引退後も維持し、世界の安全保障に貢献しているからであった。大人の姿に戻ったのぞみは現役時代の姿であるラブと共に、マナ、六花などの説得に赴いた。
「ラブちゃん、マナちゃんたちの居場所は?」
「ホノルルの四葉財閥傘下のホテルのスイートルームにいる。どうやら、四葉財閥の力でもチャーター便が手配できてないみたい」
「よし!直接、ハワイに降りるよ」
大人のぞみとラブはしゅんらんにあった同機(アーマードパック装備)でハワイに降下した。現地での服装はのぞみが持ち合わせのスーツ、ラブはドラえもんがあつらえてくれた、学生時代の制服だ。
――ホノルル 某所――
「相田マナさんがこちらに宿泊していると伺いまして…。夢原のぞみと言えば、わかるかと」
ホテルのフロントが該当する部屋に内線をかけてくれる。それから10分ほどで、大人になった相田マナと菱川六花がやってきた。
「のぞみちゃん、ラブちゃん!?どうしたの!?なんでハワイに!?」
「久しぶり。10数年ぶりだね」
大人マナは夢を叶えるため、この世界の政治家の秘書をしていた。六花はそのサポート役をしているようである。この世界では、やはり10年単位で会っていなかったようだ。(のぞみたち初期世代が引退状態にあったためだろう)
「ラブ、なんで今更、学生時代の制服なんて」
「これには色々事情があって、六花ちゃん。例の宇宙人の襲撃の事で話があるんだけど、いいかな?」
「日本から直接飛んできたから、腹ペコなんだよ、あたしたち」
「あんた達、大人になっても変わんないわね……」
「にゃはは……」
のぞみとラブは苦笑いだ。と、いうことで、四葉ありすの名義で一同が泊まっているスイートルームに案内される。スイートルームには残りの二人がいた。キュアエースの円亜久里はかつての変身に実年齢が追いついた姿に成長しており、二人を感嘆とさせた。
「久しぶり、二人共」
「のぞみさんとラブさん!?どうしてこちらへ!?」
「十数年ぶりですわね……」
「大きくなったね、亜久里ちゃん」
円亜久里は現役時代に小学生だったので、この時代でも、まだ20代前半と若い。姿は現役時代の面影を残しつつも、20代前半の女性らしく成長していた。キュアエースの変身に肉体が追いついたというべきか。
「ほんとだよね、昔はちっこかったのに」
「私も20代ですのよ~!」
二人にからかわれる亜久里。成長しても、最年少であるのは変わらないためだ。
「それで、日本からなぜ、わたしたちにお会いに来られたのですか?」
「例の宇宙人の襲来のことは知ってるね、ありすちゃん」
「え、ええ」
「単刀直入に言うよ。あなたたちに国連から出動要請が出たんだ」
「!!」
「こ、国連……ですって!?」
「そう。あたしたちはその使いとして来たんだ。昔のよしみを期待されてね」
ありすと亜久里の表情が一変する。だが、ラブはプリキュアであるのを公にしたが、のぞみたちはそうであることを秘匿していたはずだ。国連はそれすら把握していたのだろうかと、ありすは考えるが、大人のぞみは畳み掛ける。
「あいつらに対抗できる術があるのは……私達なんだよ、ありすちゃん、亜久里ちゃん」
「待ってください!のぞみ、あなたはもう……プリキュアにはなれないはず!」
「色々あって、能力が戻ったんだよ」
「一応、要請だから拒否しても良い、ある程度は支援されるから、戦うことも出来る、決定権はあなた達に有るからこれ以上は言わないけど私たちは決心した、みんなはどうする?」
ラブも続く。ラブは学生時代と変わらぬ服装であったので、それが余計に効果を出していた。大人マナは瞬時に判断したようであった。
「わかった。あたしは戦うよ。どこからきたかもわかんない宇宙人に、これ以上好き勝手はさせられないから」
「ちょ、マナ!」
「あたしたちはまだ力を持ってる。なんのために残されたか、あたしにはわかるんだ。今がその時なんだよ、六花」
「……わかったわよ!!あたしも戦う!マナを一人にしたら……っていうか、あんた達は昔から血の気多いから……」
「り、六花ちゃ~ん…」
血の気が多いと言われ、しょげる二人。プリキュアオールスターズの切り込み役を自負していたため、のぞみとラブは肩を落とす。
「あらあら。この光景も10数年ぶりですわね」
「ありす、のんきに言っている場合ですの!?」
「「日本に送るだけとかもできるけど、どうする?なんなら戻る間に考えておく?日本まで70分あれば着いちゃうけど?」
「嘘でしょ!?四葉財閥の最新ジェット機でも、ここから日本まで……」
「そうですわ……うちの航空会社で開発したものでも……」
「ところがどっこい、あるんだ」
のぞみとラブは四人に支度をさせるが…。
「待って、のぞみちゃん、ラブちゃん。まこぴー呼ばないと」
「真琴ちゃん、この世界に来てるの?」
「ニュージーランドでライブしてるはずだよ。今日で終わるはずだけど」
「ニュージーランドか……。呼ばれたの?」
「うん。チャリティーコンサートなんだって。首都じゃないから、四葉財閥でもそう簡単には…」
「ちょっと待って。仕事先の人たちに迎えに行ってもらうから。30分もあれば拾えるはず」
「はぁ!?ニュージーランドって南半球よ!?いくら国連って言っても……」
「できるんだよ、六花ちゃん。海兵隊の連中に空挺降下してもらうから」
「か、海兵隊!?」
「あ、のぞみちゃん。『荒潮』から連絡。直近の二時間は安心していいって」
「わかった」
「あ、あんた……教師志望だったわよね……?」
「まぁ、色々あって、今は国連軍にいるんだ。国連の極秘要請で」
「あたしもそうなんだ。プリキュア戦士ってんで、やたらと高い階級で取り立てられてね」
ラブも話を合わせる。嘘ではない部分があるからだ。
「お二人共、階級は何ですか?」
「少佐」
「……何の冗談?」
「本当なんだって、六花ちゃん」
「プリキュアの能力とか全部知られてて、その上でのスカウト受けた~問題は無いよ、一応」
「国連にそんな能力あった??」
「緊急時だし、あなた達は現役っしょ?」
「そ、それはそうだけど」
「あたしは一応、アラサーなんだけど」
「そ、そうだけど、あなた、教師畑でしょ?指揮官教育とか受けたの!?」
「即興で受けた。元々、あたしは次席みたいなもんだったし」
「なぎささんは指示には向いてなかったからねぇ」
マナがそれは同意した。オールスターズ華やかりき頃の序列はなぎさが指示のできない質であったため、咲が事実上は首席、のぞみが次席にあった。マナは第四席ほどの序列であった。これは花咲つぼみや星空みゆき、愛乃めぐみなどがリーダーシップ向けでないからだ。
「なぎささん、突撃に全振りだもの。若い時、なぎささんの指示がわかんなくて、えらい目に遭ったんだ」
「同じく…。咲ちゃんのほうが向いてたよねぇ」
と、のぞみとラブはお互いの苦い経験を引き合いに出し、なぎさの思考能力の実態を口にする。これは二人の共通した体験であった。
「あんたら、何気に酷いこといってない?」
「なぎささんはほのかさんがいないと、あんこがないたいやきみたいなんだもん。つぼみちゃんに会えたら、聞いてみて。いたから、その場に」
二人がハモる。それは二人が共に戦った一戦でのことである。なぎさは突っ込めば強いが、物事を考えるのは不得手である。二人はそれぞれ、転生前にほのかにその事で泣きついたらしく、ほのかに慰められたらしい。
「あんたらも似たようなもんでしょうに」
「あたしらはチームだから、あそこまではねぇ」
六花の鋭いツッコミ。なぎさが聞けば、間違いなくしょげかえるだろう。直近の二人の後輩に愚痴られたとあれば…。
「と、そうも言ってられない。先に日本に向かうよ。荷物を持ったね?」
「のぞみちゃん、空港は機能不全だよ?」
「問題ないよ。駐車場に垂直離着陸機を置いてあるから」
「肝心な時の判断の速さに助けられた事も有るから、あたしらもあんまり強くは言えないかな?なぎささんの事」
「って、あんた、いつの間に垂直離着陸機の操縦なんて!?」
「話せば長いんだって」
六花はツッコみ続きで息も絶え絶えだ。
「垂直離着陸機って、ハリアーみたいな?」
「古いって、マナちゃん」
「ゴメンゴメン。有名なの、それじゃん?」
エレベーターで一階に行き、ありすが手続きを行う。一同が目にしたのは……。
「なにこれーーーー!?」
「えーと、のぞみちゃん、これ……ガウォークだよね…?」
「うん。カプセルの扉開けるから、乗って」
「すごぉ~い。操縦できるんだ~!」
「覚えれば簡単だよ?」
「あんた、手慣れた風に起動させてるけど、本業は教師でしょ…?」
「この戦いが終わったら、アメリカでセスナの免許でも取るよ」
「聞きたいの、そこじゃなくて」
そう問答をしている間に、ありすが手続きを終え、駆け足でコンテナに乗り込む。コンテナは多少大型だが、人員輸送用のものなので、頑丈に作られている。
「みんな乗った?んじゃ、日本にかっ飛ぶよ!」
「あんた、ドジ踏まないでよ」
「なーに、今の能力なら、事業用アクロバット飛行士の免許も多分取れるよ。視力も若い時から変わんなくて、2.0だしね」
「なんでよ!?」
「いやぁ、別の世界の軍人さんと経験が共有されちゃったからさ……。その人がエースパイロットだったもんだから…」
それは別世界の自分自身だ。別世界の自分はフラッシュシステムにも適性があるエースパイロットである。その自分自身の全てを1000年女王であった卑弥呼の手で移植されたのである。
「はぁ!?説明になってないわよー!」
「それが別の次元のあたし自身だったら?」
「…!?ど、どういうことよ!?」
「空気層の上を滑るからちょっと跳ねるかもしれないからベルトだけはしっかりしといて」
「「空気層の上って宇宙を飛ぶの!?」
「宇宙飛ばないと時間かかるから」
「聞いてないわよ!」
「言ってなかった?」
「聞いてない!」
「ブースター追加したら20光年くらい飛べるし、軽いもんさ」
「うっそ……」
そこで悶絶する六花。
「のぞみちゃん、宇宙って、これ、まさか本物!?」
「その最新型」
マナがそれに気づく。少なくとも、『初代バルキリー』を知っていたようだ。
「さ、最新型って……」
「たぶん、マナちゃんが知ってる奴からは四~五世代は進んでると思う」
のぞみは機体のエンジンを起動させ、高度を上げていく。
「か、型式は?」
「VF-31」
「さ、31!?」
大人マナは初代を知っていたが、他は知らなかったようだ。ダイアナザーデイの頃、別の自分も黒江に見せられて、同じような事を言った記憶があるので、クスッとする。
(別のあたしも……先輩にドヤ顔で見せられたっけ。あの時は『エクスカリバー』だったな。先輩、あれを気に入ってたっけ)
別の自分は黒江にドヤられたのを期に、テストパイロットであった素体の性分が疼いたのか、バルキリーの訓練を即座に志願した。その自分の記憶が今、この場にいる自分の力になっている。
(なんだかんだで、別のあたし、先輩のツテで、エクスカリバーとデュランダルに乗せてもらえたんだよね。マナちゃんに後でドヤッてみよう…)
のぞみAも黒江のツテで、バルキリーの最高位機種に搭乗経験があった。AはMS乗りが本分だが、時と場合でVFにも乗る。大人のぞみは別世界の自分が搭乗した経験があるバルキリーがいずれも『一般部隊では絶対に乗れない』最高位機種である事を知った。特に、YF-29はイサム・ダイソンとヤン・ノイマン技師と親交がなければ、経験不足ののぞみが乗る機会はなかった。素体から引き継いだ素質はあれど、自分がそれを発揮させられるか未知数であった時期、黒江は乗せてくれたのだ。その体験が別の自分を本格的に飛行機乗りにした理由だろうと、大人のぞみは思った。飛行機乗りは魅力に取り憑かれると、一生そうだという。歴史上の有名な飛行士の逸話は自分も知っているからだ。
(『向こう』のあたし……時代的に、あのアメリア・イアハートを知ってたのかな?)
有名な女性飛行士の伝説がふと頭をよぎる。のぞみAのいる時代を考えれば、そう昔の人物ではないだろう。大人のぞみはVF-31を操縦しつつ、別世界に生きる自分が飛ぶ理由を考察していく。なぜ、別世界の自分は飛行機乗りになったのだろうか、と。それには、23世紀世界で指折りの『飛行機バカ』とその親友たる天才エンジニアの存在があり、その二人と親交がある上官の誘いが絡んでいる。自分は会わないかもしれないが、別の自分が姉のように慕う人物であるのなら、話をしてみたい。大人のぞみはそう想いを馳せた。
(……向こうのあたし……若いままなのは羨ましいなぁ……。こっちはお肌の曲がり角なのに)
やはり、別の自分が持つ若さが羨ましいくらいには歳を取った自覚があるらしいので、そこが歳を食っている点だろうか。それでも、2022年時点で28歳前後になるので、世間的には青二才と言われる若さだが。2020年代を迎え、いよいよ30代が眼前に迫ると、流石に意識せずにいられないのか、別の自分の若さが羨ましい本心も覗かせるのだった。