第五百六十三話「防空戦。そして、ようこそ西暦2000年へ」
――蒼莱。なぜ、そんな名前が震電の発展機についたかは定かではない。扶桑は元々、軍用機の旧来の命名規則を改め、固有の愛称を与える方向になっていた。日本連邦発足後は諸事情でまた廃止される(型式名が書類に記されるため)見込みであったが、愛称は必要であるので、妥協的につけられたようなものであった。機体形状は前進翼機かつ、VFのような滑らかなもので、完全に扶桑の在来技術を超えた技術の産物であった――
――ある日の夜――
「先輩、これ……戦闘妖精雪風じゃ?」
「芳佳の旦那が悪ノリしやがった。贅沢コース一直線だ。うちの部隊じゃないと、まともに扱えんぞ……こんなの」
外見通りにグラスコックピット化されているなど、当時としては『ありえない』レベルのデジタル化がなされる一方で、M粒子とXネブラへの対応も済んでいるのか、マニュアル操作が効く作りのようだ。
「推力も可変戦闘機やコスモタイガーと同水準……。同系統のエンジンを積みやがったな」
機体を起動させ、スペック値を表示してみると、明らかに高出力の熱核エンジンを使用していると思われる数値が表示される。元になった小説よりも高性能であった。
「機銃も陽電子機関砲とパルスレーザー?何を相手にする気なんですかね?ガルマン・ガミラスの爆撃機も一撃で死にますって」
「何を想定してんだ、あいつ。とりあえず、離陸すんぞ」
と、オーグメンター(アフターバーナーが一般名称として普及しているので、そう説明しないと、財務省に予算がもらえないという)を吹かし、二機が順番に離陸する。
「ますます、コスモタイガーやVFの世代じみてますって」
「高度10000まで50秒くらいだからな。通常のジェットより遥かに高性能だ。あの世代のエンジンなら、宇宙に行けるからな。たぶん、大規模量産の承認はされんだろう。コストがかかるとか言われんだろうし」
「少数生産はあり得るって事ですか?」
「史実通りの機種をただ量産するだけじゃ、同じことの繰り返しだからな。M粒子があるから、史実のミサイルを打ちっぱなしにする戦法は無理だし、怪異もそのうち、ビームで撃ち落とすか、チャフやフレアをばらまく事を覚えるかもしれん」
既にM粒子が敵味方で使われまくっているため、それに適応した進化を怪異がする可能性もある。現に、一部の怪異は『デュアルコア』持ちに進化し、他戦線の魔女部隊を敗退に追い込んでいる。それらはスーパーロボの力でねじ伏せたが、気軽に使える選択肢ではない。
「そのためですかね?」
「たぶんな。怪異はシベリア地域で確実に進化しているらしいからな。北方戦線の連中が飛鷹と隼鷹を手放さんはずだ。だが、怪異の進化に魔女の装備の強化が追いついていない。最悪、シベリアは放棄だ。核でも再生するから、スーパーロボのパワーで強引に薙ぎ払うしかないが、連中は劣勢を認めんし、俺たちは太平洋から動けん。つまりは詰みだ」
北方の魔女部隊はデュアルコア持ちの大型怪異の集団に敗退を繰り返していながら、それを認めないと述べ、太平洋戦線に全てを賭ける扶桑はシベリアへの反応弾の飽和攻撃すら検討している。日本連邦にとっては『いずれ放棄する』地なためだ。
「で、どうします?」
「実戦テスト代わりだ。休暇前に戦果を挙げておけ」
「了解」
「日本がF-3を共同開発で経費削減するつもりだっていうから、こうしたんだろうが、いくら日本向けにデチューンするったって、マッハ3を軽く出せる機体なんて、本来は21世紀も半ば以降じゃないと無理だしなぁ」
「普通は逆ですよね、立場」
「俺たちはステージⅡの熱核タービンをいくらでも用意できるからいいが、普通の連中は教育せんと、まともに整備できん。普通のターボファンより難しいところあるしな。ある意味、戦艦のほうが楽かもな、整備。それに、核兵器の自主開発が抑制されて、潜水艦の戦略兵器としての発展も起こるか微妙だから、戦艦は細々と生き続けるからな。日本は予算の無駄だというだろうが、駆逐艦が甲巡相当になってるしな、21世紀には」
実際、戦艦は魔女の世界でも衰退していたが、未来の装備で防空能力が飛躍した事、駆逐艦や巡洋艦では『怪異の攻撃で一撃死する』危険があるが、分厚い装甲に加え、対ビームコーティングやバリア技術の獲得で、一定のビームへの抗堪性を得た事(戦艦や空母の機関出力であれば、バリア装置は稼働可能である)で一定の復興を果たした。だが、その分、余計に高価になり、日本連邦とリベリオン以外の国々では『怪異の脅威度が低くなった』という理由で保有枠を縮小、撤廃する国が大半である。航空機も独自開発を取りやめる国が増えてきている。
「こんな戦闘妖精雪風まんまの航空機見たら、日本の財務省、本気で扶桑が造ったとは思わんだろう」
「確かに。日本はガワは造れるだろうけど、ロマン枠だし、前進翼の可変なんて」
「その代わり、セイバードッグなんて、ガキのおもちゃに見えるぞ。時代相応だがな」
当時の扶桑が対外的に最新鋭と宣伝していた『F-86D』だが、武装が対空ロケット弾のみというのは部内から批判されており、史実のF-86K相当にラインの切り替えがされるなど、早期に無誘導ロケット弾の難点がわかる結果に終わっている。もっとも、F-86Kの採用は繋ぎであり、F-4EJ改とF-15Jが増産されれば『お役御免』の手筈だ。とはいえ、ジェット戦闘機は戦前基準の野戦飛行場が使用できない事が問題視されており、ターボプロップ機がまだまだ現役な理由であった。
「なんであれが?」
「日本の一部が秋水の代替に推したんだよ。場繋ぎにしろって。未知数の国産機より良いって大義名分で。連中からすれば、戦前日本の航空技術は二流だそうだからな」
戦後日本は史実の機体を先取りで作れば、優位を維持できると思っているが、メタ情報は敵も持っているのは同じである。
「敵もメタ情報は持っている。XB-70が来たって、何らおかしくない。史実にはない機種、戦法を使ってきてもいい。ジェット機で、バリバリに巴戦する俺たちが言えた事じゃないがな」
「確かに」
「フィクションの機体云々なら、コスモタイガーの時点で言うべきだな、連中は。……いたぞ。レーダーを撹乱するために、雲に紛れながら、低空を飛んできたようだ」
「護衛機は?」
「敵さんには、長距離を飛行できるジェット戦闘機はまだないはずだ。それに、レシプロを今更出したところで、俺たちの勲章を増やすだけだって、気づいてるだろう。戦略爆撃機の空襲はインパクトがでかい。お前が前世に住んでた街も、B公に一度は焼き尽くされてるように、後々まで生き残りにトラウマを作る。街の付喪神を闇落ちさせるくらいにな。いいか、連中を一機たりとも新京に入れるな」
「了解!」
二人の蒼莱(黒江は機体形状が『戦闘妖精雪風』そのままな事から、別の名で呼ぶようになる)は急降下しての逆落とし戦法で『B-36』に挑んだ。この頃には、同機の高高度性能はあまり意味が無くなっていたため、比較的低空からの侵入に切り替えられつつあったためだ
「おお、でかい。混合動力とはいえ……」
「未来世界のガルダやガウよりは可愛いが、富嶽と同程度の大きさだ。だから、核兵器にかまけていた時期のアメ公には、こいつを大量生産する余力はなかった。だが、この世界には核兵器を喜々として造る理由はないからな。通常爆弾を積みまくって、大戦中と変わらん都市爆撃に使われる。のび太の世界にいたルメイが聞いたら、コーヒーを吹き出すだろうよ」
二人はミサイルを節約し、機銃(陽電子機関砲とパルスレーザー)を用いて攻撃した。宇宙戦闘機を粉砕できるほどの火力であるので、時代相応の構造しか持たない『B-36』は一瞬で翼がへし折れ、旋回機銃座が吹き飛ぶ最期を遂げる。仮想戦記でありがちな光景だ。
「日本軍出身の義勇兵が見たら、感涙に咽ますね、これ」
「元々、与圧された機体は脆い。B-29も史実を見ると、キ43(隼)に落とされた例もあるんだ。膨らんだ風船に針を刺すのと同じ原理だな。だが、武器の威力を上げる事に日本の政治家は夢中だ。20世紀中の戦略爆撃機を落とすのに、57ミリ砲はいらんよ。有名な仮想戦記にはあったがな」
装弾数(継戦能力)と威力の兼ね合いから、日本連邦は『20ミリ~30ミリ』の機銃を主用している。バルカン砲はあまりの連射速度で『多用できない』という難点を指摘され、魔女の世界では『リボルバーカノン』が特に好まれた。実用上の問題はないため、魔女の世界では併用される形で主流に落ち着くのである。
「それっ!!」
その存在を始めて見る者には『怪鳥』と表現されるB-36だが、『蒼莱』(……と言っても、外観は『戦闘妖精雪風のFFR-41メイヴ』だが)の陽電子機関砲の前には『カトンボ』同然。のぞみ(キュアドリームの状態で操縦)の機が放った一発が命中した個体は瞬時に胴体がまっ二つにへし折れたと思った瞬間に空中爆発で木っ端微塵になる。
「侵略者には死あるのみ。悪いけど、全滅してもらうよ」
史実の日本軍が望みつつも、ついぞ実現し得なかった『超重爆を圧倒する』光景であった。蒼莱は極秘の投入であったものの、その未来的なフォルムは生き残りの敵兵、たまたま防空監視についていた陸軍の兵士らに目撃されており、『地球連邦軍の新鋭機だろう』とされた。実際に『VF-19』に似ていたからだが、漆黒の塗装、垂直尾翼が存在していないなどの明らかな差異があった。とはいえ、明らかに20世紀後半期以降の洗練された機体設計を持つのに変わりはない。
「B-36は元々、自衛用の旋回機銃を減らしていったけど、この世界だと、そんなのはなさそうだな」
史実では作動不良などを理由に、旋回機銃が削減されていったB-36だが、史実と異なり、敵機との交戦が前提の爆撃が前提になっていたので、多少の性能悪化よりも、自衛力の維持が選ばれたのである。実際に太平洋戦線では(M粒子で、あまり迎撃ミサイルの命中率が上がらないせいもあるが)敵機との交戦が多いからである。これは前型のB-29とB-50も同様で、史実より迎撃側の防空力が圧倒的に強力なためであった。
「おっとっと」
のぞみは機体を巧みに操作し、敵の銃座からの弾幕を避けきる。錦の持っていた経験が為せる業でもある。
「かなり無茶効くな。先輩、こいつはかなり使えます」
「一般用はこうはいくまい。デチューンするだろうしな。敵も、魔女が払底したのか、全部が爆装しているようだ」
「ダイアナザーデイで尽きたんですかね」
「元々、外征に回してた腕っこきの大半がこっちについたからな。おまけに、ミサイルにアウトレンジされた魔女部隊も多いからな。人と土地の結びつきが弱い新興の国じゃ、魔女の人材の払底は早い。ましてや、白人至上主義が時代的に強いんだ。ネイティブ・リベリオンの起用はまずないだろう。ティターンズからして、白人至上主義気味だしな」
黒江は機体の機器で敵編隊をスキャンした結果を伝える。ダイアナザーデイ当時には見られた『パラサイトウィッチ』の搭載機はいない。ダイアナザーデイでの戦闘、開戦劈頭の潜水艦狩りで、第一線に送れる質のある人材が払底したらしい。
「506のリベリオン系の連中の再教育も終わる頃だ。……果たして、何人が残るか」
45年以降の『魔女の世界』の問題の一つに『魔女は対人戦闘をサボタージュする』という点がある。元々、中世以前の時代にはあったことだが、世界情勢が固まった史実の『普仏戦争』が終わった後は『絵空事』扱いであり、世界大戦もそう見られていた。だが、ティターンズがリベリオンを力で抑え、各地を脅かす時代になると、世界大戦が現実化。既に魔女らの意識に『戦争=怪異との戦い』という意識が根付いていたため、ダイアナザーデイでサボタージュが起こったわけだ。その意識を薄めるため、『異世界との交流』を名目に、腕っこきの少なからずを未来世界に送り込み、現地の動乱に関わさせることで、意識の変革を図った。だが、ダイアナザーデイでは、それ以外の魔女部隊も動員するしかなかった。それがダイアナザーデイの長期化を招いたわけだ。
「あれ以来、艦娘やあたしらが前面に出てますからねぇ。あの時、陸戦しか働いてない気がしましたよ」
「陸戦の連中は現実を見れてたからな。なにせ、M4どころか、最後のほうは初期型のパットンやジャクソン、チャーフィーとドンパチしてたからな。パットンに至っては、魔力で強化されたはずのアハトアハトを軽く弾いたと、戦車隊のあの子(シャーロット・リューダー)が言ってた」
「嘘ぉ」
「たぶん、魔力を無効化させるコーティングを施してたんだろう。避弾経始も考えれば、パットンなら、アハトアハトを充分に弾ける。初期型なら、な」
元々、M46の素体であった『M26重戦車』はティーガーⅠを想定して開発されていた。同車の『8.8cm56口径KwK36L/56』(56口径88ミリ砲)を想定された戦闘距離で耐えるように設計されていたため、M26の時点で(初期型の)アハトアハトで装甲を撃ち抜くのは至難の業であった。アハトアハトで撃ち抜くなら、改良型の8.8cm KwK43 L/71(71口径88ミリ砲)が必須であった。しかし、当時のカールスラントはドイツの介入で同砲の生産ラインが止められており、連合軍の突き上げで生産の再開が決まるグダグダぶりを露呈した。(ドイツ側は『より優れたロイヤル・オードナンス L7を生産させるつもりだったもん』といいわけをぶちかまし、連合軍の顰蹙を買った)
「だから、ケーニッヒの砲が必要だったんだがな。ドイツが止めやがってた。だから、ブリタニアに急いで『ロイヤル・オードナンス L7』を用意させたわけだ。最も、旧来のストライカーで扱える代物じゃないが」
最も、ドイツ側には『独自規格を廃し、NATO規格に置き換えるため』という大義名分があったのだが、戦場の実情をあまりに顧みない急進的政策が仇になり、結局、ドイツが狙った『日本連邦の二匹目のドジョウ』は失敗し、NATOが(やむなく)軍政を行う羽目に陥る原因の一つとなった。ドイツの身勝手で、カールスラントはダイアナザーデイで肝心要の活躍どころを失い、現地に残留していた僅かな精鋭のみが活躍したという有様であった。そういう話ができるくらいの余裕が二人にはあった。仮想戦記のようだが、二人ほど修羅場を潜っていれば、爆撃機の掃討は片手間仕事に近いのである。
「先輩、ミサイルは?」
「八発だから、無駄遣いはできんぞ。なるべく機銃で始末しろ。陽電子機関砲なんて、めったに使えん代物だしな」
「なんでなんです?」
「量産されれば、コストの問題でオミットされるからだ。代替は普通のバルカンだろうな」
「コストですか」
「軍用の兵器は量産しようとすると、大抵の凝ったギミックは採用されんのが毎度なんだ。モビルスーツの時代になろうとも、だ。たとえば、紫電の基になった強風。あれなんて、試作段階では『二重反転プロペラ』だった」
生産時には時代遅れになった『強風』だが、南洋では独自に『二重反転プロペラ』に差し戻した仕様の機体が存在し、史実の強風よりも高性能を発揮しており、新規生産の再開も期待されたが、日本の意向で『残存機の改装』程度で留められたという。
「最も、プロペラを差し戻したら好評だったってんで、事後承諾で採用されたがな」
そのため、魔女の世界の『強風』は最後の機体が軍役を終えたのが、1952年(1949年の三年後)と、意外に長命であった。これは水上機の需要減で『倉庫で埃を被っていた』機体が飛行隊単位であり、それらが既存部隊の補充機の役目を果たした事、試作段階で搭載された二重反転プロペラに差し戻した事により、史実より高性能を出せたからであった。
「敵さんの無線を聞いてみるぞ」
敵の使う周波数に無線のチャンネルを合わせると。
――あの黒い機体、なんだ!?レーダーに反応しない!!――
――弾幕を張れ、張るんだ!!――
――すごく速いぞ!!銃塔の旋回が追いつかない!!――
史実では、亜音速ジェット機にも脅威であった弾幕(当時最高の火器管制装置で実現した)であるが、超音速どころではない直線速度と(ジェット機として)驚異的な旋回半径の小ささなどを併せ持つ蒼莱には通じない。弾幕の間隙を突かれ、陽電子機関砲で機体をへし折られ、その場で炎上しながら、落ちていく。(機体にマグネシウム合金が使われていたので、燃えるのだ)
「史実では、ミグも落とせたらしいが、あいにく、ミグ15とも器が違うぜ!」
「二人共、B公はどう?」
「武子、産休に入るって?」
「ええ。直にね。次の作戦の最中になっちゃいそうだから。それでだけど、状況を伝えるわ」
武子は身重の状態ながら、管制室で指揮を取っていた。武子曰く、この日の定期便は大規模である事、50Fなども迎撃に出た事が伝えられる。
「大規模ですね」
「B‐36の在庫整理でもしてるのかしらね。たぶん、47の生産が軌道に乗ったんでしょう」
「ストラトジェットに切り替えるためか。まぁ、ありえるだろう」
「護衛機がないにしろ、在庫整理で出したとしか思えないのよね。史実の生産数と合致するわ」
「やれやれ。他の連中は?」
「てんやわんやよ。50F以外は泡くって出撃しようとしたから、離陸をしくって、事故が起こったそうな」
「暗闇で錯覚したな?夜間飛行技能がないヤツが出るからだと言っとけ」
とはいえ、概ねの迎撃行動は成功しており、B-36は各地で撃墜されてきている。
「あー、それと、のぞみ。戦闘の後に言おうかと思ったけれど、骨川コンツェルンから急ぎの伝言よ」
「???」
「今度、彼らがスポンサーになるアニメでも、あなたを結婚させていいかって、本人に許可もらいたいと」
「た、隊長!!戦闘の最中に言う事ですかぁ!?」
「私も言ったのだけど、先方が会議の途中だからって、本人の承諾を得たいと」
「出しといてくださいよぉ!も~!!なんで、そういうのをいちいち……」
「2020年代はそういう時代なのよ。理解なさい」
のぞみは赤面せずにはいられないが、2020年代はそういう方面が厳しい時代なのだ。それはさしおき、戦況は扶桑軍の防空軍の奮戦もあり、迎撃戦は優勢を維持していた。
「防空軍にうちの存在を知らしめるためにも、あと30機くらいは塵にしなさい。その機なら、軽いものでしょう?」
「た、たいちょ~!」
「これで武功章でも貰えば、あなたの休暇も通りやすくなるから、我慢なさいな。その代わり、食堂の連中にサービスするようにと、口添えしといてあげるわ」
「あ、ありがとうございます!」
それは本当だ。日本の軍隊では、直近の手柄が休暇の取得の可否に影響することが偶にあるのだ。武士の時代の名残りだろう。ましてや、重要な戦を控える前であれば。
「でも、あなた。良かったじゃないの。これで『現役時代から何年か経った後にはくっつく』世界線が主流になるだろうから」
「あのぉ、そうなると、私……王妃ですよ??」
「ミルクはその場合、立憲君主制に転換させたいようだから、いいんじゃないの?」
「え~~!?」
と、アニメという形で自身が幸せになる世界線が新たに生まれるのを聞かされたためか、無線の声が弾んでいる。のぞみとコージは前世では『種の違いなどを鑑みて、別れるしかない』とお互いに結論づけた結果、のぞみのその後が暗転し、コージはそれを泣いて悔いたいうので、二人の今際の際の強い後悔が転生に繋がったのは間違いないだろう。コージは唯一、のぞみと同じ世界線の記憶を持つからである。そして、満たされぬままに年老いたのぞみが望んだモノの一つが『14歳であった日々への回帰』であったことも。それを思うと、なんとも言えなくなるが、本人がそれを望んだ以上、他人に口を挟む権利はない。その結果、本人が転生後に幸せになっているのなら。武子はそう思うのだった。
「あー、武子。吾郎に言っとけ。『お前はいつから、戦闘妖精雪風のファンになった?』ってよ」
「わかってるわ。でも、日本の国産機推しの派閥が打診してきたらしいわよ、それのF-Xへの立候補」
「は?マジ??」
21世紀の自衛隊が蒼莱の開発チームに次期『F-X』(F-2戦闘機の後継を決める計画)の候補に立候補を薦めてきたということも伝えられ、黒江は思わず、そう返してしまった。黒江と言えど、寝耳に水だからだろう。
「詳しくは彼から聞いて」
「……わかった。あんにゃろ、オレに知らせろっての」
戦いつつも、吾郎技師へ愚痴りたくなった黒江であった。
――その日の戦闘は扶桑防空本部が鼻高々となるほどの大戦果という形で幕を閉じた。のぞみは戦闘での戦果と新鋭機の操縦ぶりが評価され、新京に行幸してきた昭和天皇直々に武功章を授与される名誉に預かり、軍上層部も皇室の意向とあれば、と、休暇を特別に認めた。かくして、休暇への外堀が埋まったのぞみは、上官である黒江の意向で『変身を維持したまま』で西暦2000年での休暇となった。
――西暦2000年 のび太が11~12歳の頃――
「いらっしゃい、久しぶりだね。大人のぼくから連絡は受けてるよ」
少年のび太を見るのは、ダイ・アナザー・デイ以来なので、妙な感覚ののぞみ。
「うーん。直前まで大人ののび太くんと電話してたから、変な感覚~!」
「単に時間軸が違う本人同士だし、気にしないでいいよ。今日は宿題、たんまり出てるんだよなぁ。悪いけど、机を使うよ」
「あ、ゴメン。すぐ降りるよ。はーちゃんは?」
「うちのママに言われて、商店街のスーパーにさ、キュアフェリーチェの姿で買い物」
「え、修行っての、この頃からしてたの!?」
「うん。まぁ、調ちゃんもギア姿で買い物させてるしさ、ママ」
ここで、のぞみはのび太の年月による差を感じ取った。11歳前後であるこの時代、両親を『パパ』『ママ』と呼んでいるが、成人後は『親父』『お袋』という風に変遷しているからである。普段接する『大人のび太』と違い、少年のび太は年相応にあどけなさを残す『少年』そのものだ。ただし、二人の『妹』ができたからか、以前より『宿題に立ち向かうよう』ことが増えている。そこは『成長した』と言えよう。
「のびちゃ……あら、お客様?」
「あ、はーちゃんが言ってた、学校の先輩。はーちゃんがうちを下宿先に薦めたんだって。食費は心配しないでいい。ガランドさんの運営する会社の口座から振り込まれるから」
「あら、あの方の会社の?」
「そうなんだ。名前は……」
「ゆ、夢原のぞみです。はーちゃんは私の後輩なんです、こ、こんななり(プリキュアの姿)ですけど……お、お世話になりますっ」
と、ことはとのび太が事前に2000年当時(38歳当時)の玉子(のび太の実母。のび太成人後は隠居の身だが、この当時はバリバリであった)に話をしておいたらしい。ことはもかなりアバウトだが、戦士としての先輩とは説明できない(2000年には、プリキュアは一人も存在していない)故、『学校の先輩』という風に伝えたのである。
(うっわ~!!めっちゃッッ……恥っずっっ!)
と、精神的には成人しているため、ハチャメチャに恥ずかしいのぞみ(キュアドリーム)だが、玉子は既に耐性がついており、普通に応対をした後、夕ご飯を作りに、台所へと去っていった。
(うわぁーーーー!恥ずかしいよぉ~~!でも、はーちゃんと調ちゃんいるからか、あっさり済んじゃった……いいのかなぁ)
ふと、見回してみると。2000年当時の野比家の二階の間取りが目に入ってきた。マンションの時代の広々さが嘘のように、2000年当時としては古めの作り(昭和中期から後期に建てられた住宅の作り)の家であった。実はのび太が小学校のうちまでは『借家』であり、地主の代替わりの際に買い取ったが、ほどなくして『街全体の再開発』の予定地になってしまい、のび太が高校生~大学生の頃に『新・野比家』になるマンションに引っ越す事になる。
「あ、そっか。のぞみちゃんはこの時代のうちは始めてだったね。狭いけど、見て回って」
(狭いだって?都内にこのくらいの邸宅を持てるってのは、かなり恵まれてるほうだって…。でも、いずれは再開発で立ち退くんだっけ?)
野比家はいつの時代も『東京都練馬区月見台・ススキヶ原』の地に居を構えている。明治期の先祖『のび吉』(ハレー彗星の飛来の際に10歳ほど)の頃には、旧野比家の位置に居を構えていたが、その頃から借家であったかは定かではない。家賃を時たま、値上げするものの、基本的には鷹揚な家主であったようで、野比家に家を何回(明治~昭和戦後期)か建て直す事を許している。おそらくは家主の家が代替わりする際に相続税などの問題が面倒くさくなり、長年の付き合いである野比家に買い取らせたのだろうが、区の再開発構想の真っ只中(区営の大公園の用地に入っていた)にあったため、2004年前後に立ち退きの問題が生じ、そこから数年は揉めた後に引っ越すのだろう。
(そう考えると、なんだか貴重な……って、えーーー!!)
「の、の、のび太くん……な、何?この階段の角度……」
「あー、それ?うち、結構古い作りだからね。階段の角度がきついんだ。ぼくなんて、よく階段を踏み外してるよ」
のぞみはマンション暮らしのほうが長い(前世での実家も高層マンションのかなり高い階にあった)ため、野比家(元祖)のきつい角度の階段(手すり無し!!)に度肝を抜かれる。キュアドリームになっていても、足が思わずすくむような急角度だ。
「はーちゃんの魔法で、かなり助かってるよ。足腰は鍛えられるけどね……」
「あのさ……これ、踏み外さない?」
「日常茶飯事」
「あ、やっぱり…あたしも自信ないなぁ……」
「その姿で、かい?」
「うち、ずっとマンションの高層階に住んでたからさ。あ、アハハ……」
一軒家の時代の野比家は階段が意外に長く、手すりがない。さらに、昭和中期頃の作りであるためか、階段の角度も急。少年期ののび太は階段を踏み外し、下までずり落ちることもしょっちゅうであった。ことはがいれば、魔法で助けたりするそうな。調も登り降りには意外に苦労している(ギア姿でいるほうが多いため)そうな。のぞみは前世を通して、こうした古めの住宅の急角度の階段に遭遇した事はなかったからか、キュアドリームの姿なのに、足がすくんだようだ。
「手すりもないなんて……よく大丈夫だね……?」
「ママなんて、掃除機持って、登り降りしてるよ。ぼくも、踏み外すのは五回に一回だし」
「いやいやいや、十分に多いって!?……ふ、ふへぇ~……で、でも、こ、こんなとこでビクついてちゃ、お、お、女がすたる……」
手すり無しの急角度の階段は経験がないためか、語尾が震えるほど怖がっているのが、まるわかりののぞみ。普段はプリキュアのエース格として鳴らす彼女も、思わぬ『強敵』(角度のある階段)に初っ端から苦戦するのであった。