ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第五百九十八話「大人のぞみの心、少女のぞみの『ウマ娘生活』」」

――遠征軍はちょうどいい機会をいいことに、兵器の実戦評価を済ませそうとした。コスモタイガーの派生タイプがやたら多くあるのが、その証拠であった。元々、コスモパルサーが次期主力に内定していたが、宇宙での性能を重視した代わりに、大気圏内での性能を軽視しているという批判が大きかったため、軍は早期の更新を(部内の批判により)諦め、コスモタイガーの延命が決まった。それで生まれたモデル達の試験を兼ねていたのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――台湾地域の制空権確保のため、コスモタイガー隊が発進準備に入る。VFはインパクトも大きいので、それを出すまでもない任務では、コスモタイガーが使われる。この頃になると、コスモタイガーの制式カラーは初陣以来の銀色から『機体上面を濃緑色、下面を明灰白色とする』旧日本海軍を思わせるカラーに変更され始めており、新旧カラーが入り混じる時代であった。これはヤマト航空隊が人員の世代交代で変更を行ったためで、他部隊がその武勇に肖る形で変更したためで、そこはかつてのリック・ディアスに似ている。制空任務では、ミサイルはさほど積まなくてもいい。コスモタイガーは機銃火力の高さで名を馳せたので、それで用は足りるのだ――

 

 

 

 

 

――複数の戦艦から150機前後が発進準備に入る。アンドロメダとドレッドノートは20~40機前後を自衛目的で積んでいるので、この時の艦載機は大半がアンドロメダ級の所属であった。元々は月面守備の局地戦闘機として開発されていたものが、連邦全体の艦載機として名を馳せるのは予想外の顛末であった――

 

 

 

 

「まさか、この姿に戻るだけじゃなく、戦闘機パイロットもやることになるなんてね。母さんと親父が聞いたら、ひっくり返るな」

 

大人のぞみは仕事中、プリキュアの姿を保っている。これは職業軍人として鍛えられた体を持つAと違い、彼女は(教職についたため、デスクワークが多かった)加齢で体力が低下していた事の兼ね合いであった。いくら10代後半に若返っても、基礎体力がかなり落ちた事まではカバーできないので、変身していたほうが激務に耐えられると判断してのものだ。

 

「発進する!」

 

コスモタイガーは往年の戦闘機に比すれば、発進時にかかる加速度はだいぶ緩和されている。これは21世紀までより格段に耐G技術とカタパルト技術が上がった事による。また、のぞみ自身が変身しているために、耐性がグンと上がっている事による。のぞみAが日本側に掌返しをされた理由も『優秀な航空兵である』事実の判明による。飛行時間が800時間を超え、既に実績豊富なパイロットであるからだ。

 

「向こうのあたし、コスモタイガーに乗った事あるんだな。体が自然に機体を起動できた」

 

体が自然に機体を動かす態勢を取れる事に苦笑交じりながらも、職務に相応しい振る舞いを見せる。

 

「制空隊は私に続け。対地攻撃隊は機甲師団と兵隊どもを地獄に叩き込め。市街地の爆撃はデリケートだ。ある程度の被害に抑えろ」

 

「了解」

 

と、通信で指示を飛ばす。制空隊は制空パッケージの新コスモタイガーだが、相手が相手なので、陽電子機関砲(57ミリ)が機体下部に増設されている。コスモパイソン用のもので、部品規格が統一された故のオプションだ。

 

「ガンポッド扱いとはいえ、57ミリか……うちの陸軍が試作してた屠龍の改良型を思い出すな。まさか、宇宙時代の戦闘機で採用されるなんてね」

 

「「機銃掃射は最低限に、攻撃は機動兵器にSUMを基本に、集合してる的に爆撃を基本に行う、散開!小隊毎に作戦に移れ!」

 

「了解!」

 

台中はコスモタイガーの速力なら、10分とかからない。巡航より落とした『ドンガメ』飛行でも、21世紀の戦闘機より高速になるからだ。白色彗星帝国は地球の軍隊の機甲師団と違い、対空車両を持たないので、コスモタイガーの攻撃に成す術もない。ただのミサイルの一発で戦車が10両は吹っ飛ぶ有様であった。

 

 

 

 

 

――爆撃はコスモタイガーの派生モデルの新型『ストライクタイガー』が主力であった。翼の上下に対艦/対地ミサイルを積み込み、任務によっては子弾内蔵の大型ミサイルを携行する新型で、雷撃型に代わる、爆撃任務用の仕様の新型として立案されたものだ。雷撃型は任務専従タイプであったので、未帰還率が高い傾向であったため、戦闘爆撃機タイプとして立案されたという経緯で、本来は次期主力機の計画で立案されたオプション装備をレトロフィットさせたものでもあった。また、ガイアからもたらされた『陽電子機関砲』の技術が採用されたため、アップデートキットが双方の共同で開発された。のぞみの乗ったものはそのアップデートを施されたものであった。

 

「来たぞ、イータⅡの高機動仕様だ。制空隊、高機動モードを全開にしてかかれ!あれはデザリアムのイモムシとはわけが違う!」

 

「了解!」

 

敵も馬鹿ではなく、イータⅡの高機動仕様を増援で送ってきた。その数は30機ほど。その機動力は初期型コスモタイガーを完全に凌駕する水準であり、パイロットも質の良い者が揃えられている。塗装がノーマルより目立つものになっていたり、国の誇りを背負う証か、ガトランティスでは珍しく、識別標識が存在する。初の本格的な空戦が台中の上空で展開されたわけだ。

 

「連中、翼がないくせに、ちょこざいな!!」

 

新コスモタイガーは旧型より機体強度が強化されているのと、機体各部の高機動バーニアの出力を増しているため、以前より無茶な動きをこなせる。のぞみは別世界の自分が培った腕前を信じ、ドッグファイトを敢行する。

 

(これが戦闘機の戦いか…!ケイ先輩が『何時間もジェットコースターに揺られてるみたいなもんだ』って教練してたっけ……。現役時代は自分で飛んでたから、こういう体験ないんだよな)

 

コスモタイガーでの空戦は正真正銘、始めてであったためである。いつもはVFで空戦することが多く、純然たる戦闘機の動きはあまり意識していなかった。

 

(そいや、怪異との戦闘も、最近は自前の翼で飛んじゃうから、こういう戦闘機的な機動は久しぶりだっけ…!)

 

のぞみはプリキュアとして、自前の翼で飛べてしまうのもあり、純然たる戦闘機の動きはあまり考えていなかった。とはいえ、往年の第四世代機のような外見ながらも、第五世代以降の高機動ができるコスモタイガーは、地球産航空機では最高性能に近いため、のぞみの操縦に応え、しっかりとドッグファイトを行ってみせる。

 

「パルスレーザー、いけぇ!」

 

敵機が見せた隙を見逃さず、弾速の早いパルスレーザーをコックピット部を中心に撃ち込み、撃墜する。コスモタイガーは機銃火力の高さに定評があるので、巴戦での火力を評価される。ブラックタイガーでの難点の反省によるものであった。

 

「こちら、第602航空隊。これよりそちらの支援に入る」

 

「頼む!コスモタイガーじゃ、やれる動きに限界があるからな」

 

「了解した。一分持ちこたえろ」

 

と、別働隊から通信が入る。のぞみ達はコスモタイガーの高機動モードを全開にしているが、イータⅡは機敏であり、制空隊を翻弄する。

 

(一分か、やるしかないな、こりゃ!)

 

五機のイータⅡに取り囲まれつつも、コスモタイガーをかなり荒っぽく扱い、機銃掃射を避けまくる。先程の光景で、エース格と認識されたようだ。

 

「こちとら、怪異に取り囲まれたのを突破した経験があるんだ。あんたらのスコアになるのはゴメンだ!」

 

かなり同位体の素体の名残りを感じさせる一言であった。のぞみの転生の素体であった中島錦が荒っぽい戦法を取っていたためだろう。一分を持ちこたえるため、紙一重で攻撃を避ける。敵のフェーザー機関砲の弾速はパルスレーザー以上だが、それも避けきる。

 

「フェーザー砲だって?こっちはガミラス戦で全部降ろしちまったからな。エンジン出力の差となんとかコーティングで弾かれるとかで」

 

フェーザーは地球連邦軍にとっては『前時代の兵装』である。一時は外宇宙用艦艇の主砲を担っていたが、ガミラス艦に非力であったためにショックカノンに取って代わられた。その印象が強いので、戦闘機にも積まれない。

 

「フェーザーはレーザーより気配つかみやすい分、助かる。これが廃れた理由かもな。ガミラス艦は、戦車のなんとかコーティングの類似技術でフェーザーを弾いてたって言うし」

 

ガミラス艦はショックカノンのような性質のエネルギーカノンに脆い傾向があるが、フェーザーとは相性がよく、それが『えいゆう』含む前世代型の外宇宙艦艇をガラクタ扱いしていた理由である。だが、ショックカノンの実用化後はその世代の非力ぶりが嘘のような火力を持つように変わったのである。

 

「もうすぐ一分……今日の土産をもらっとくよ!!」

 

包囲の隙をついた急降下に驚いた一機を反転上昇での対進姿勢で仕留め、そのまま突破していく。対進戦は度胸のいるやり方だが、素体の錦が『キ44乗りであった』都合で好んでいた戦い方である。

 

(『キ44』は嫌いじゃなかったんだけどね。最後のご奉公がダイ・アナザー・デイなのは、急な話だったけど。ティターンズがリベリオンを占領しなけりゃ、あたしが担当してた三型の量産が成ったってのに)

 

と、かつての愛機(ストライカーユニット)を思い出し、ちょっと悔しい想いを漏らす。

 

「そいや、この戦法……ダイ・アナザー・デイじゃ避けろって言われてたな。ヤーボやグラマンの掃射の餌食になりたいのかって怒られたっけ」

 

本来、錦は対進戦も行う『大物食い』であった。その気質が配属先の47Fで危惧されたこともあり、テスト畑に回されてしまい、数年はくすぶっていたが、諏訪天姫が実戦に出るので、その護衛で欧州に送られていた。その最中に『夢原のぞみ』として覚醒したのだ。

 

「そいや、あいつとはずいぶん話してないな。まさか、『別人になった』なんて信じないしな。『姉貴』、うまくやってくれよ……」

 

一瞬だけ、中島錦としての独白をする。天姫には『極秘任務中』としか伝えてないが、恐らくは何かは悟っているだろうというカンがあるからだ。また、中島小鷹とは身内としての交流が続いてる事も窺える。

 

(あいつと顔を合わせるわけにもいかないからな、今となっちゃ。すまねぇな、天姫)

 

のぞみは錦時代の記憶も維持しているので、かつての妹分へは『すまない』という他なく、直接会うことも無くなった。時たまの連絡は入れているが、新進気鋭の撃墜王にして、黒江の弟子筋(諏訪姉妹の長姉はちょうど、黒江と智子の間に挟まる世代との事)の夢原のぞみと中島錦が同一人物だという事は隠さなくてはならない。

 

(そいや、先輩達が調べたけど、諏訪の姐さんが501の最初期のメンバーだったらしい?マロリー大将が記録を葬ったからか、写真が残ってないけど。バルクホルンは覚えてないし、エーリカは交流がなかったとかいうし)

 

敵の攻撃をなんとか潜り抜ける内に、気になる事が急に浮かんでくる。501の最初期メンバーのことだ。64Fがその立ち位置を受け継ぐ際に、その残務処理の過程で浮かび上がった最大の謎だ。黒江達は『転生を繰り返してるが、それでもわからん』と漏らしており、転生を以ても、わからないことであったという。それはトレヴァー・マロリー大将が関連書類を自己判断で細断して焼き払っていたためで、連合軍の他の将軍達が彼の本国でのオフィスに殴り込んだ時には、副官が証拠を焼いている最中であったという。また、バルクホルンはその時の記憶がなく、エーリカも交流がなかった。ミーナが自己保身を図った際に、初期のメンバーの写った写真の多くを(錯乱で)破棄してしまったためもあり、初期に誰がいたかは釈然としない状態であった。

 

(先輩達が諸方面からの証言を集めても、せいぜい、姐さんが坂本先輩のカウンターで送り込まれてたことしか確定してない。最初期のメンツは闇に実質は葬られたのかもしれないな)

 

最終時のメンツの加入前の501はどんなメンツだったのか?それは黒江達の力をしても、様々な理由で判明しなかった。バルクホルンが覚えてない事は流石に咎められたが、当時のバルクホルンは人間性を捨てようと躍起になっていたため、その時期のバルクホルンの評価は落ちていたので、実は(戦果さえなければ)放出も検討されていたらしい。また、501が精鋭と真に認識されるのは、未来世界との接触後の事である。ミーナが不祥事を起こさなければ、501が普通に『現在の64Fの立ち位置となっていた』とは、ジョージ・パットン将軍の証言だ。

 

(ワイド島分隊の最初期の連中がそれっぽいって噂だけど、最終時の隊長だった角丸先輩(同隊の解散時の隊長の角丸美佐は錦の士官学校の先輩らしい)は断言を避けてたっけ。黒江先輩がワイド島に聞き取りにいったら、カチコチになってたっていうな。あの先輩、坂本先輩の一期前だから、先輩達を見てたかもな)

 

黒江は64F結成後にシンフォギア世界から合流した際、501の残務処理の一環で(容姿が変化したままで)ワイド島を訪れた事があり、容姿は変わっていたが、言動から黒江だと判別されたという。角丸美佐大尉は坂本より一期前の魔女にあたるため、初代64Fに一時は籍を置いていた事がある。その縁で黒江を知っていたのである。意外に世間は狭いのだ。

 

(そいや、天姫の奴、45年以降は表立っての活動はしてないようだが…。退役したわけじゃなさそうだけど……直接はもう会えないからな……。ごめん)

 

色々な都合もあり、諏訪天姫との直接の再会はもはや叶わない。それは悲しい事だが、自分は『夢原のぞみ』であり、中島錦ではない。そのことでの最後の『心残り』を同位体に代わる形で口にする。電話での会話が限界だからだろう。とはいえ、のぞみには彼女の残滓とも言える影響は生じており、口調が時たま(のぞみの声色を維持したままで)粗雑になり、『あのヤロウ!!』、『あいつは俺がぶっ殺す!!』と口走る事がある。それは錦が非公式に草薙流古武術の使い手であった事による精神面の影響であった。

 

「それと『あいつ』ともう一度、戦う事になったなら……今度はシャインスパークで、きれいさっぱりぶっ飛ばす。それが心残りかな、プリキュアとしての」

 

大人のぞみは現役時代の最末期のオールスターズ戦で倒された経験があるため、シャインスパークの習得は渡りに船であった。雪辱を果たそうと考えているからだ。おかげで、ZEROにその因果を呼び出され、みらい達が倒される原因になったのだ。

 

「78人もいて、あのザマじゃな。ZEROが因果を探し当てやすかったのは最悪だし……。超越存在なら、空間を支配することで、同じ土俵に立たせればいい。現役時代に気がついてれば……」

 

超越存在を倒すには、空間を支配する事が手っ取り早い。自分たちと同じ土俵に立たせればいいのだ。だが、そんな事は現役時代には知る由もない。ゲッターエネルギーや光子力エネルギーであれば、自分たち本来のエネルギーを寄せ付けないシュプリームであろうと、貫通する。そんな確信があるからだ。

 

「いくら最後に改心したからって、地球を壊し、あたしらを殺したことには変わりはないからな。禊をするにも、報いは受けてもらわんと……大蛇薙で一回焼いてから、シャインスパークが妥当か」

 

シュプリームを後輩らが許しているのは知っているが、一度は冥土に行かされた以上、その意趣返しをしなければ、自分たちの気が収まらない。

 

――あの時に味わった絶望と恐怖を今度はお前に味わせて、いつか必ず……あの借りを返す!――

 

大人のぞみはその事が心の引っかかりとなっていたが、加齢で戦士の座を降りざるを得なくなり、その機会を失ってしまった事を悔しがっていたという本音があるため、シュプリームへ真に雪辱を果たす機会を得られた喜びに打ち震えている。ある意味、他のプリキュアらが次々と倒されていく光景を『悪夢』として記憶し、学生のうちはその悪夢を何度も見てきたため、のぞみAと違い、現役時代に明確な臨死体験をした故か、『もう、誰も死なせるもんか!』と誓っていた。だが、そのための力を失い、ある意味で強い喪失感に苛まれていた。それが今回の事態で覆った。その事への喜びも『別世界の自分自身と同一人物として振る舞う事』に抵抗がない理由であった。また、Aが黒江に修行をつけられた闘技も使用可能な状態だ。

 

――のぞみのコスモタイガーのレーダーに友軍の反応が出たのは、それから間もなくであった。ややあって、VF-19Eの銀翼が見えた。

 

(あれが別世界のあたしも使ったっていう……。先輩に回してもらおうかな)

 

と、今度の任務ではバルキリーを使うことを考えつつ、台中の制空権は取れそうな事に安堵するのであった――

 

 

 

 

 

 

――その頃、のぞみAはナリタブライアンの役回りを演ずる都合、トレセン学園の生徒と接することも多かった。たとえば……――

 

 

 

――ウマ娘世界のある日――

 

「さて、キングヘイロー。お前の釈明を聞こうか?」

 

「……はい」

 

「お前ほどのウマ娘が無断で外出するとはな。それも、海外へだ。お前の母上の事は聞いたな?」

 

「……母はある意味では自業自得ですが、私をレースの世界から遠ざけようと、躍起になっていました。恐らく、母は現役時代に挫折をし、それをずっと……」

 

「一流と言われた者は、自分がそこから滑りおちた事をなかなか認められん。私もそうだったようにな」

 

「ブライアン先輩……」

 

「今回の事で、お前の家庭は危うく崩壊するところだった。母上は偉大なウマ娘だったが……お前とのこじれた仲を見るに、母上はお前をちゃんと見ていたのか?」

 

「それは確かです。ですが……、会う度に『自分の要求に達していないが、娘はこれしかいないのだから……』と言わんばかりの接し方で……」

 

「お前に期待しているのか、そうではないのか、わからんな……」

 

「ええ……。小さな頃は……そうではなかったのに……」

 

(この子の母親が『史実の両親』が統合された存在なら……恐らくは日本の歴代ウマ娘のどれもが見劣りするほどの成績を残したはず。多分、自分と比べられるから、娘を突き放したんだろう。だけど、それは子供の反発を招く『悪手』になる……あたしがそうだったように……)

 

のぞみAはキングヘイローの母親が『史実のキングヘイローの両親』のどちらか。あるいはその統合である可能性を考えていた。キングヘイローの言葉から、母親が『同じ道に行かせないために、敢えて憎まれ役を演じた』であろう可能性、彼女の血が受け継がれていた故に、キングヘイローが『G1に上位で食い込める』ポテンシャルを秘めていた事で、双方のすれ違いが大きくなっていった。その事を夫に知られたばかりか、娘が失踪騒動を起こしたために、母娘の対立が世間に知られ、『娘の努力を認めない毒親』との誹謗中傷を浴びまくり、娘をないがしろにしたと激怒した夫に三行半を突きつけられたことがとどめとなり、精神のバランスを崩した。結果、名誉、地位、信頼。その全てを喪失して、精神病院に入れられたという。

 

「母は自分と同じ道をいかないで欲しかったと思います。ですが、私はそれを選んだ。宿命を……運命を……、先輩は信じますか?」

 

「昔からいうだろう。蛙の子は蛙の子、ウマ娘の子はウマ娘と。私の背中を見て、下の妹は入学を決めた。姉貴や私のような才能がなくても、だ。それは必然なんだ、キングヘイロー。だが、運命は覆すものだ。故に、私はそれで、親父と袂を分かった。わかるな?」

 

「……はい」

 

キングヘイローがそれを知ったのは、帰国後の事。ブライアンはウマ娘の摂理であるはずの『ピークアウト』に抗おうとしている。故に、父親と袂を分かち、下宿先(野比家)に荷物を移し始めたということも、ビワハヤヒデから聞かされていた。

 

「なぜ、あなたは……世界の摂理に?」

 

「知らない内に、別世界の自分にあたる存在のロールプレイをやらされている事に気付いたからだ。ゴルシが最初に気づいたがな。それが気に入らんだけだ。親父も家業を継げと喚き散らしてな。それで……」

 

「売り言葉に買い言葉、ですか」

 

「そういうことだ。下の妹たちが泣いたんで、親父も流石に会うことは認めたがな」

 

「あなたにも、妹さんがいたんですか……?」

 

「おふくろがポコポコ生んだんだよ、私の後も」

 

のぞみAは黒江の特訓の成果で、『そこそこ』(黒江の談)の演技力を得ていたため、キングヘイローが気づかないくらいには、ナリタブライアンにうまく扮している。体は本人そのもの。宿す魂が入れ替わっているだけ。能力値も本人のそれである(ただし、走り方が違う)ので、ごく親しい者か、超一流のウマ娘でもない限り、違和感を感じない。現役時代の部活追い出され王からすれば、隔世の感がある演技であったが、発する言葉自体はブライアン本人の思いでもある。

 

「雰囲気変わりました……?」

 

「下の妹もこの学園に入ってくるからな。いつまでも、無頼気取りではいられんよ」

 

感じられる雰囲気に柔和なものが生じている事に気がついたキングヘイローに、そういうことでごまかすのぞみA。とはいえ、ブライアン自体が不振を要因とするものの、周囲に溶け込もうと努力をしている事は周知の事実であったので、キングヘイローはその一言で納得したようであった。

 

「私も……妹の前で無様な有様は見せられんからな。そのためには走るしかない」

 

その微笑みはブライアン本人のそれより優しい雰囲気を醸し出していた。のぞみが生来持つ包容力由来のもので、タマモクロスやスーパークリークに通ずる類のものだ。ブライアンのこの『変化』は事情を知らぬ者達を大いに狼狽えさせ、ブライアンの従姉妹であるナリタタイシンは『あんた、ブライアンオタクをこじらせてる、サクラローレルに気をつけな』と延べ、暗に『サクラローレル対策をしろ』と忠告するのであった。

 

 

 

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