ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第五百五十二話「入れ代わりメイクデビュー 3」

――かくして、のぞみAはナリタブライアンとして、『アオハル杯』に出走する事になった。その心の奥底にある『前世で高校生活を心から楽しめなかった』という後悔もあり、のぞみはトレセン学園の自由を守るための『戦い』に参加する事となった。アオハル杯は通常のチームとは異なる編成のチームが組まれるが、事情が事情なので、のぞみは『事情を知る面々』と共にチームを組んだ。当時に有力であった現役の古参層、引退した元エース級の複数がそれに該当した。また、ブライアンは当代三冠ウマ娘の責務として、有馬記念への出走が義務づけられていた。ルドルフは反対しているが、有馬記念への出走を回避する有力ウマ娘が増加し、権威が暴落気味な事を気にする協会の強引な振興策であった。そのため、ディープインパクトやオルフェーヴルはデビュー前の時点で(次代の王者として)、有馬記念への出走を義務づけられてしまった事になる。その兼ね合いと、(のぞみの秘密を守るために)なんと、トレセン学園の有力ウマ娘の数割がブライアンと同じチームに配される事となった――

 

 

 

 

 

――執務室――

 

「と、言うわけでして……」

 

「確かに、ここ最近は有馬の権威が暴落気味だしなぁ。しかたないか」

 

「申し訳ありません……。反対したのですが……」

 

頭を垂れるルドルフ。とはいえ、ブライアン、ルドルフ、テイオー、オグリ、スーパークリークなど。アオハル杯の最初のレースの登録者は大レースの勝利経験者で固められており、完全に理事長代理の『チームファースト』を倒しにかかっていると、学内で話題であった。しかも、能力が完全に全盛期のそれに回帰したと話題の者達であるので、学内では『チームファースト絶許メン』とも呼ばれている。三冠経験者が二人、歴代屈指のスターウマ娘が二人以上もいるからであった。

 

「ん?シービーはどうしたの?」

 

「シービーは『もう一度、君と戦いたい』と言って、別のチームに行ったよ。まぁ、三冠馬が二人もいるんだ、多少は均衡を図らんと…」

 

「そういう次元じゃないっしょ?」

 

「それを言われるとな。しかし、夢原女史、大丈夫ですか?有馬を出走するというのは…」

 

「ブライアンちゃんの立場上、避けられない義務みたいなもんだからね。昔、うちの親父も言ってたもんだ。有馬がジャパンカップの敗者復活戦になってるって」

 

と、のぞみは有馬記念に出走する意志を見せる。

 

「わかりました。全力で我々がサポート致します」

 

「お願い」

 

――こうして、ある意味では『秘密守秘という目的を共有した関係のチーム』が結成された。控えになったメンバーでさえ、メジロマックイーンが含まれるという豪華ぶり(なお、ゴルシは今回は不参加。『プリキュア5の世界』でキュアビートとして戦っているためだ)であった。

 

「ゴールドシップが休学届を出してきてますが……」

 

「ゴルシちゃんは向こうの世界で忙しいからね。ナカヤマフェスタちゃんに送ったそうな」

 

「ええ。その彼女から受け取りました。長引いているようですね?」

 

「あっちこっちで戦だからね。地球連邦軍も主力が出払ってるし」

 

地球連邦軍の主力は『オトナプリキュアの世界』で『第二次土星決戦』へ向けての露払いに入っているなど、白色彗星帝国残党の存在は各所に波紋を呼んでいる。奇しくも、バダンの行動と同期しての登場であったため、彼らが企図したのでは?という憶測も流れている。ともあれ、大人のぞみは白色彗星帝国を倒すためにプリキュアに復帰し、戦闘を繰り広げているが、自分は平和そのものである。

 

「なにはともあれ、あたしは目的を果たすだけさ。肩慣らしに、ステークスに何個か出るよ」

 

「気をつけてください、私のように、腹を下した状態で出て、見事にしてやられたことが……」

 

「えーと、三回の内の一回だっけ?」

 

「ええ」

 

ルドルフは現役時代の数回の敗戦を振り返る。こうして、アオハル杯の準備が始まった。ブライアン(のぞみ)のいるアオハル杯専任チームの名は(のぞみが歴代屈指の戦士であったことから)『チーム・ブリュンヒルト』という大仰な名となった。サブメンバーも歴代屈指のステイヤーたるメジロマックイーン、マイルの王者であったタイキシャトル、平成三強のスーパークリーク、イナリワンなどであり、総合力が最も高いからだ。

 

 

 

 

――後日、アオハル杯のチームのサブメンバーを数名ほど募集したところ、アグネスデジタル、ナリタタイシン、マルゼンスキー、ヒシミラクルの四名が加わり、陣容が決まった。ダートもスプリントレースも手抜かりのない陣容となったわけである。クラシック級の旧八大競争に出走し、なおかつ勝利した経験を持つ者が大半であるので、トレセン学園のエース級の数割が集中した事になる。その中では比較的に『凡人』と自負するヒシミラクルにしても、天皇賞・春、菊花賞、宝塚記念の三つに勝ったツワモノであった。後日、壮行会が行われたのだが、生徒会新旧の上層部、八大競争に打ち勝ってきた、『選抜されたツワモノ』達が一堂に介するという、非常に豪華なメンツによる壮行会となったので、メジロ家でそれは行われた――

 

 

「なぁ、ルドルフ。なんだか、ものすごく豪華なメンバーが集まったようだが……」

 

「仕方あるまい。女史の秘密を知っている面々と、口の固そうな者を集めたら、学園のエース級のウマ娘が多くなったんだ、オグリ」

 

オグリはルドルフと学年が比較的に近い事から、チームの事実上のサブリーダーになっている。ルドルフにタメ口が聞けるほどの親しい関係であるからだ。

 

「それにしても、他のチームから苦情が来そうだぜ。八大競争を勝ったウマ娘が何人いるよ?」

 

「確かに、ヒシミラクルにしても、G1を三回勝ったツワモノだからな、イナリワン」

 

ルドルフもそこは苦笑交じりだ。

 

「で、オグリ対策はしてあるのかい?」

 

「メジロ家の力で、とあるレストランチェーン店の関東圏全域の在庫をかき集めてもらった。オグリと言えど、流石に無理だろう?」

 

「笠松のトレセンの食料庫が尽きたって聞いてるぜ?大丈夫かいな」

 

「念のため、東北圏の在庫も確保してある。中央の貯蔵庫が二個満杯になる量だ」

 

「うーん……タマ公曰く、オグリはバキュームみたいだというし…」

 

オグリの胃は底なしで有名であり、周辺のレストランが震え上がるという。後輩のスペシャルウィーク、タイキシャトルと合わせ、トレセンの食欲魔人と恐れられているのが、そのメンツだ。タイシンやルドルフは少食で、人間と大差ない量の食事量でありつつ、G1を勝てるポテンシャルを引き出せる省力タイプだが、その三人は強さに比例し、食事量が尋常ではない。

 

「女史もなかなか食べますね」

 

「ブライアンちゃんが良く食うタイプだったのと、あたしも現役時代は大食で鳴らしてたからさー。不思議と……」

 

大人のぞみは年相応(26歳)の食事量で落ち着いているが、のぞみAは現役時代の若々しい状態に、ブライアンの大食漢ぶりがプラスされたためか、こちらもフードファイターばりの食欲だ。

 

「あんた、三代目のプリキュアだったってゆーけどよ、何人いたんだ?」

 

「前の世界だと、70人前後だったかな?今の世界だと、80人超はいるかもしれない。全員が集まってるわけじゃないし、基本的に現役時代から呼ばれたり、転生で偶発的に力が戻った子が加わってくれてるけど」

 

イナリワンからの質問に、そう答えたのぞみ。のぞみの転生前の世界では、アラモードの後の時代はあまりプリキュアが増えなかったという。その辺りで『平和』が長く続いていたからだという。

 

「時代が進むと、お互いのジェネレーションギャップが大きくなってね。それで、後輩と揉めたことあるんだ。その時の本人でなくても、その子に謝りたいんだけど、どこにいるのか……」

 

のぞみは前世のコミュニティの混乱の原因が自分を中心にした古参と新しい世代の世代対立にあったことを自覚していたようだ。後輩達とは別にキュアエール(野乃はな)に謝りたいと、キュアエトワール(輝木ほまれ)に言ったところ、『はなは許してくれると思いますよ。たとえ、自分自身のことでなくても、その自分が無自覚にあなたを傷つけた事はわかるはずです』と言ってくれたからだ。

 

 

「そいつも困るとは思うけどな。だって、あんたが元いた次元のそいつに謝らないと……」

 

「だが、それは何万分の一の確率だぞ、イナリ。例えるなら、太平洋でメダカを探そうとするようなものだ」

 

そう。それはのぞみの自己満足に過ぎない。だが、のぞみは前世の自分がきっかけで起こった出来事に精神的なケリをつけたいのだ。

 

「わかってるさ。自己満足だってのは。だけど、これにケリをつけておかないと、二度目の人生を本当の意味で歩めないような気がしてね……」

 

「女史…」

 

「いつかはしなければならないことだからね。今ならわかりあえる。そんな気がするよ」

 

前世と現世は自分の置かれている状況も違うし、現世の自分であれば、はなたちの世代の考えに理解が及ぶ。そんな変化があったのを、キュアエトワールは認めてくれたのだ。はなの親友であった、ほまれがそう言ってくれたことは、肩の荷が下りる思いであった。とはいえ、キュアエールがどこにいるのか、エトワールも知らない上、転移に巻き込まれたのは、彼女のみであったらしいのだ。

 

「希望を見出したようですね」

 

「ニュータイプになったせいかな?そんな気がしてるんだ。ニュータイプだって、過去に何人も殺し合いしてるけど、人ってのは知られたくないものはあるものだからね」

 

カミーユ・ビダンとハマーン・カーン、パプティマス・シロッコのように、根本から相容れない者はニュータイプ同士でも殺し合いに発展する。また、アムロとシャアのように、互いを良く理解していながら、戦場で対峙する例もあるため、ニュータイプ論はジオンの衰退と共に勢いを失くしている。また、のぞみ自身、親友であるりんを記憶喪失に追い込んだ『ヌーベルエゥーゴ』の構成員には一切の情け容赦をしなかったので、ニュータイプと言われても、自分自身、その力を特別だと思ってはいない。フラッシュシステムに適合したのも、単なる偶然。そう解釈している。

 

「ニュータイプってのは、カンが良く効く程度だけど、戦場では特に有効に働くから、戦争に利用されてきた。連邦もジオンも似たようなことしてきたし、あたし自身、親友を記憶喪失にしたテロ組織の連中には容赦しなかったから、褒められたことじゃないさ」

 

のぞみもヌーベルエゥーゴだけは『万死に値する』と考えていた。それ関連で罰則を食らったことも多い。制止されてなければ、捕虜を殴り殺していただろう事態も経験している。そのため、ジオンのニュータイプ論の反証であると、自嘲もしている。

 

「だから、そこが昔から変わったって言われるところかもね。だけど、優しさよりも、烈火のような激しさが大事な時ってのは来るもんだって思ったよ」

 

タウ・リンはのぞみに言った。

 

――運命を自らの手で変えることは可能か否か。お嬢ちゃんは神を信じるか?俺は神も、運命も信じん!!信ずるのは、己の目的に対する執念のみだ!!――

 

……と。かつて、最愛の姉を理不尽に失い、属していた軍隊にも切り捨てられたアナーキストがたどり着いたその生き様。ある種の清々しさすら感ずる、その肥大化したエゴ。のぞみはそれにこう返した。

 

 

――神は天に在りて、世は事も無し、神はあっても現世に係わる訳でなし、ただお天道様は見てるし因果は応報する、その執念が正しいか間違ってるか拳で聞いてやる!!――

 

兇弾から見知らぬ少女が庇って倒れ、悲しみと怒りで変身しながら、そう返した。そして、グラン・ジオングが倒される一瞬、『どうせなら、宇宙(そら)で……』という辞世の句らしき言葉が聞こえ、のぞみは思わず、こう吐き捨てた。

 

――あんたに……宇宙(そら)で死ぬ資格なんて、あるもんか……――

 

と。敵組織のボスと和解した実績のあるのぞみをして、そう吐き捨てられた時点で、彼はある意味で歴史に名を残した。『キュアドリームが明確に殺意を抱き、その死を願われた男』として。

 

「殺意を誰かに持ったのは、後にも先にも、そのテロ組織の首魁に対してだけだった。現役時代に恋人を傷つけた怪人に対しても、大事な友だち(ダークドリーム)を殺した相手にも、そこまでには至らなかったからね」

 

のぞみ自身、りんを傷つけ、記憶を奪い去った者へ憎悪と殺意が沸き立ったのは、生まれて始めてであった。その激情が理性で抑えられる類の感情ではなかったことも。ダークドリームの死の時よりも『頭がグシャグシャにされた』感覚があった。りんの存在はそれほどの大きさだったのだと、事後に認識した。

 

「人間、許せない事は何度か経験するもんだけど、それを腹の中に飲み込んで生きていく。たぶん、それが大人になってくってことなんだろうね」

 

のぞみは少女から大人になる時に、少女の頃に大事にしていた何かを『卒業せねばならなかった』ことが多かったことから、意外に心の奥底に深い傷を抱えている。世界線によっては『プリキュアであったこと』を過去のことと割り切らざるを得なくなり、鬱屈とした気持ちを持ったまま過ごしていくため、デザリアム戦役でその『脆さ』を見事に露呈してしまう醜態を晒した。そんなデザリアム戦役は『優しさよりも激しさが大事な時は来るもの』と学ぶ絶好の機会であったと言える。

 

「あなたたちも、後悔の一つや二つはあると思う。だけど、その後悔を力に変えられる機会は訪れる。それをモノにできるかは、貴方達自身次第だよ」

 

と、事情を知るチームメイト達に言う。彼女らも『もう二度としたくない後悔』をなにかかしら背負っていたため、のぞみの言葉に胸を打たれたようだ。

 

「確かに、私達にも、心残りはあるもの。だから、こうして、走ることを続けているわ。私もその一人ね」

 

マルゼンスキーは日本ダービーを当時の事情で走れず、先輩であるTTGとの対決を期待されつつも、自身の足の『爆弾』が爆発してしまったために、早期に引退を余儀なくされていた。今は怪我は完治しているが、その解消できない心残りが彼女を走らせていると言っていい。

 

「だから、大きなレースを走れる機会を与えてくれた女神様には感謝しないと」

 

「女神?」

 

「我々、現在的なウマ娘という種の始祖である三人の女神様です。あなたの知る『サラブレッドの三大始祖』に当たる存在です。現在のウマ娘の全ては、彼女らの血を何処かで継いでいると言っていいでしょう」

 

エアグルーヴが説明する。ウマ娘達の間では『三女神』と信仰される、『現在のウマ娘の祖だとされる過去のウマ娘』がおり、レースに関わるウマ娘達の間で篤く信仰されていること、現代に生きるウマ娘の全員は先祖の何処かで、その三人の誰かどうかの血を継いでいると。

 

「サラブレッドの三大始祖相当の存在ってことかな?」

 

「そう思って頂いて結構です。それ以前にも、ウマ娘自体はいたようなのですが、詳しくは不明でして」

 

古代エジプトに似た存在がいたと言われるなど、種自体はかなり古くからいたようであるウマ娘だが、現代的なウマ娘の歴史はその三人が始まりとされる。のぞみも、以前に転生先での叔父や、上官である黒江から講釈を垂れられた(叔父が騎兵出身であったことから)事があることで、『三大始祖』の事はうろ覚えであるが、覚えがあった。それに相当し、現代のウマ娘全ての祖であった事から、後世において、篤く信仰されているのだろう。

 

「世界でも、日本が最も信仰が篤い国のようでして」

 

「日本はよろずの神々って概念が根付いてる国だから。三女神の伝説も外国発でありながら、自然に受け入れられたんだろうね」

 

三女神の伝説がもっとも根付いた国が日本であるのは、その土地柄も関係しているのだろう。それはウマ娘達も思っている。

 

「んじゃ……学園の平和と自由を守るために……かんぱぁ~い!」

 

と、普段のノリで乾杯の音頭を取るのぞみだが、扮しているブライアンのキャラではないため、少なからずが『新鮮だ』と言わんばかりの表情である。だが、チームはその事情を知る者が大半なので、さほど気に留められない。また、チームメンバーは途中で追加加入が認められているため、シリウスシンボリはその枠組を利用し、チームに途中加入するつもりだったりする。(最初から『ルドルフと同じ釜の飯は食えない』という意地の張り合いであるが)

 

『乾杯~~!!』

 

一堂は乾杯するが、やけに明るく、天真爛漫な雰囲気でブライアンが音頭を取ったためか、若干、戸惑い混じりである。その最たる例がアグネスデジタルである。彼女は『ズキュゥゥゥン!!』という効果音が似合う勢いのリアクション。盛大に鼻血が吹き出ていた。

 

(あ……。デジたん……生きててよかった~!!まさか、中身が違うのはわかっちゃいるけれど、ブライアンさんの明るい雰囲気と声色が聞けるなんて……!!)

 

事情を知っていて、この有様なので、知らなければ、その場に倒れていた自信があるアグネスデジタル。彼女は同人活動をしているようなレベルのオタクである。だが、それでいて、芝とダートの双方で最強クラスの実力を誇っている『エースウマ娘』の顔も持つなど、多方面の才能を誇る。ルドルフもレースでの実力を高く評価しており、今回の一件では、ダート担当として指名したという。

 

「おい、デジタル。大丈夫か?鼻血が出ているぞ?」

 

「あ、エアグルーヴしゃん……すみません……」

 

と、エアグルーヴに鼻の穴にティッシュを入れてもらうデジタル。本人としては尊死ものだが、エアグルーヴの手前、気力で理性を保つ。とはいえ、理性が飛びかけているためか、『しゃん』としかいえていない。

 

「すみません、皆さん。デジタルの具合が良くなく……」

 

「エアグルーヴ先輩、ご心配には及びませんわ」

 

事態を把握したメジロマックイーンが手を軽く叩くと。

 

「お呼びでしょうか、お嬢様」

 

白衣を着た壮年の男性がやってきた。その男性はメジロマックイーン、ひいてはメジロ家の主治医である。

 

「主治医、デジタルさんの具合がよくありませんの」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

と、彼はデジタルをその場で診察すると……

 

「疲労によるふらつきのようですな。どうぞ、処置室へ」

 

「あ、ちょ……ま」

 

と、アグネスデジタルが言いかけるが、診察を聞いたエアグルーヴは。

 

「……馬鹿者!!貴様、疲れているのなら、なぜ……何故!!私や会長に言わんのだッ!!」

 

「エアグル……さ……」

 

と、アグネスデジタルをそのまま抱きかかえ、主治医につきそう形で、メジロ家の屋敷に連れていった。相当に狼狽しているようで、慌てた表情であった。

 

「あ~。アグネスデジタルも大変だねぇ~……」

 

事情を悟ったトウカイテイオーは苦笑交じりにいう。テイオーはデジタルのオタクぶりをマヤノトップガンから聞いていたらしい。

 

「テイオーちゃん、それ、どゆこと?」

 

「実はさ~~」

 

テイオーはのぞみ(体はブライアン)に耳打ちする。のぞみはそれで事情を悟った。

 

「な~るほどねぇ。こりゃ大変だ~…」

 

こうして、エアグルーヴが大慌てで処置室に担ぎ込んでしまったため、本当に『後に引けなくなった』アグネスデジタルだが、同人活動で疲労していたのは事実であるのと、本当に心配そうな顔を見せるエアグルーヴに萌えたためか、主治医の為すがままになる。

 

「先生、アグネスデジタルは……」

 

「過労です。念のため、点滴をしておきますが、養生すればすぐに元気になりますので、ご安心ください」

 

「ありがとうございます……」

 

深々と主治医に頭を下げるエアグルーヴ。さすがの彼女も狼狽してしまったためか、息が若干ながらも上がっていた。

 

「馬鹿者……無茶しおって……!」

 

「……すみません」

 

エアグルーヴの泣きそうな顔に、さすがのアグネスデジタルも神妙な顔になり、自らの不明を詫びる。あまりの衝撃と不意打ちなためか、デジタルは言葉を失う。

 

「いいか、二度とこんな真似はしてくれるな……。……頼む……デジタル」

 

「……エアグルーヴさん」

 

泣きそうになりつつも、必死に涙をこらえる姿は、アグネスデジタルも見たことのないもの。エアグルーヴは幼い頃、自分の妹の誰かが目の前で大怪我をしてしまったことを思い出したらしく、らしくないほどに涙目だ。

 

「……エアグルーヴさん……あたし……」

 

「何も言うな。今はゆっくり休め。皆には私が説明する」

 

その時、デジタルの手に一筋の雫が落ちた。

 

「大丈夫です、エアグルーヴさん。あたしはどこにも行きませんから…」

 

「わ、わかっている……!」

 

と、デジタルはとっさに思いついた、自画自賛ものの小粋な台詞回しでエアグルーヴを宥める。エアグルーヴは涙を制服の袖で拭いつつも、らしくないほど狼狽した自分が恥ずかしくなったらしく、赤面している。しかし、その表情は柔和なものであり、副会長、または『オークス覇者:ダイナカールの令嬢』という色眼鏡を外した『エアグルーヴというウマ娘』は本当に優しい少女であることが窺え、アグネスデジタルは心の中で『生きててよかった!!』とサムズアップしたい心境であったのは言うまでもないが、エアグルーヴへ向けた笑顔は嘘偽りのない、心からのものであり、エアグルーヴは安堵もあったのか、涙をこらえきれない様子を見せつつも、デジタルへ微笑んだ…。

 

 

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