――ウマ娘のアスリートとしての寿命は極めて短い。それはサラブレッド由来のものであった。それを知った現役のウマ娘は『抗う』選択を取り、引退済みの者は全盛期の力を取り戻す事を願った。闘争本能の減退も能力の衰えに絡んでいる事を悟ったゴルシは、自身を含めた複数名にゲッターエネルギーを照射し、種としての闘争本能と生存本能を強引に引き出すという荒業を行った。その結果、オグリキャップ、シンボリルドルフ、タマモクロスらは往時の能力を取り戻し、ナリタブライアンは全盛期に戻った。ブライアンは自身の復活が、宿敵かつ同期のサクラローレルに待ち受ける最大の悲劇『凱旋門賞を前にしての競争能力の喪失による引退』を避けるための手立てだと確信し、運命に抗う選択をした。だが、その前に『闘争心を往時の状態に戻し、体の動かし方をも全盛期のそれに戻す』事が必要であった。――
――のぞみはその『お膳立て』を引き受ける事になり、アオハル杯を走っている。現役時代から年月を経た後の状態を引き継いでいたため、以前の変身時並の運動神経に飛躍していたのが功を奏した。最大の懸念は『音痴』であったが、絶対音感が覚醒めたらしく、(黒江による特訓もあり)ブライアン本人に遜色ない水準に到達していた(トーンは多少は高くなっていたが)。(ブライアンの事情を知らぬ)サクラローレルは昇り龍となった自身の能力が『ブライアンに通じるか』試したくなり、併せの自主トレーニングを名目に、ブライアン(のぞみ)に挑んだ――
(なるほど……これが『サクラローレル』。史実での『94世代』の最終的な最強……。加減して勝てる相手じゃないか!)。
「ブライアンちゃん。私は貴方を超える。貴方を超えて……私は……桜を咲かせる。凱旋門の前に越える……“最強”は陰りのない、本物の“最強”でなくちゃッ!」
宣言するサクラローレル。ブライアンへの重いが強まる一方なのか、傍からは『ヤンデレに片足を突っ込んでいる』としか思えない宣言であった。
(お、重っ!?ブライアンちゃんが引くわけだよ。だけど、史実を考えると、仕方がないか。全盛期がお互いにズレたもんな)
「そうか。だが……私とて、ルドルフの後継ぎを期待された身だ。王者に陰りはないという事を……見せてやろう!!」
と、サクラローレルの想いに応えるべく、のぞみは現在の自身が引き出せる限界まで加速する。ローレルは怪我から立ち直った自身の全てをぶつけ、のぞみはブライアンの願いを叶えるため。お互いに全力を絞り出す。
――これが今のあたしの……ありったけだぁぁぁぁッ!!――
心の中でそう決意し、のぞみは自身にできる最善を尽くした。その気持ちがブライアンの持っている『領域』を発現させた。時代を変え、時代を担うウマ娘のみが達する『極み』を。
――……!!この感覚……そう。これ!!これが私が求めてるもの!!私だって…!!――
サクラローレルは喜びに打ち震えると同時に、最大加速のブライアンに追従せんとする。だが。
(そんな……抜けないッ!?それどころか……!!)
(史実を超えるためだ。悪く思わないでよ、ローレルちゃん)
全盛期のブライアンが『領域』に至った場合、その速力は当代最速であった。その証明であった。能力が熟練しきっていない状態のサクラローレルでは追従が精一杯であり、ローレルはブライアンの背中が離れていくのを肌で感じ、自身の末脚が及ばない事を突きつけられる。
(まだ……届かないの……?まだ…!!)
ローレルは最後の50mを必死の形相になりつつも走った。領域を発動させた状態のブライアンに置いてけぼりにされないだけのポテンシャルは見せたものの、全盛期の状態のブライアンには『まだ届かない』事を突きつけられる形になった(史実では『落ち目になった状態のブライアンに引導を渡すのだが)。
「……そんな……私だって……全盛期に入りつつあるのに。……どうして?」
「企業機密だ。私がこれまで、さんざ苦しんできたのは知っているだろう?だが、女神サマ達は私に……『もう一つの未来』へ進む権利を与えてくれたようだ」
「もう一つの未来……?」
「そうだ」
のぞみはブライアンの復活をローレルに印象づけるため、『もう一つの未来』という表現を使う形で『ウマ娘世界の因果を超える』事を宣言する。
「私達は不思議なめぐり合わせを持つ種族だが、そのお召星通りになるのに嫌気が差した。因果を超えてこそ、本当に『自分』という存在を確立させられる。そう思うようになった」
「あなたは何をする気なの、ブライアンちゃん!!」
「運命というものがあるなら、それを超えるだけだ」
ローレルはブライアンのただならぬ決意に圧倒され、言葉を失う。
「そのために、後輩達に恥ずかしくないような走りを取り戻し、今一度、王座に返り咲く。それが私の今の生きる目的だ」
「ブライアンちゃん……」
その時のブライアンの微笑みは、今までより優しさが強く出たものであった。ローレルはどこか不思議な感覚であった。猛禽類に例えられるような鋭さを信条としているはずのブライアンが柔和な印象さえ与えるなど。以前のように重い敗北感ではなく、どこか清々しさを感じるくらいであった。
「そうだ、下の妹(ビワタケヒデ)に何か、学園の合格祝いを送ってやりたいんだが、今の私は親父と喧嘩した身でな。お前の名で、実家に送ってくれんか。姉貴の了解は得ている」
「え、ブライアンちゃんの実家に?」
「親父と喧嘩した手前、妹に渡せなくてな……」
「わかった。後で寮の部屋にいっていい?」
「ギムレットに包ませてあるから、持っていってくれ」
「そういう顔、できるんだ」
「私だって、人並みに笑うぞ?」
ローレルからすれば、レースの相手に微笑むというブライアンの行為は始めてであったが、この場にハヤヒデがいたら、感動のあまりに泣いていただろう。ハヤヒデでさえ、ブライアンが屈託なく笑うのを見たのは、何年も前の事だからだ。成長後のブライアンは『闘争こそが本義』と言わんばかりの姿勢が仇となり、周囲と舐め合わないウマ娘という評判が立っていたからだ。のぞみはブライアンのキャラを崩さない範囲であるが、微笑むことでそういった『とっつきにくい印象』を変えようとしている。これはブライアン本人も了承済みだ。ローレルにとっては新しい発見であるが、ブライアンがある意味では、今までの『孤高』、『一匹狼』のポジションをかなぐり捨て、変わろうとする表れでもあった。
――この日、曲がりなりにも、当時に『最盛期に突入しつつある』サクラローレルを練習とはいえ、下した事は『ナリタブライアンは復調しつつある』という評判を立たせるには充分であった。更に往年の名ウマ娘らが持っていた『領域』すら取り戻したとあれば、平均レベルが『オグリやルドルフの時代より遥かに向上した』現代においても、最速級であるのは明らかであったからだ。
――トレセン学園の自由な校風を守るという大義があるためか、どのチームも士気は高かった。チームファーストは(樫本理子のトレーナーとしての才覚もあるが、チームのウマ娘達の才能も高かったのも大きい)順当に一回戦を勝ち抜いた。とはいえ、楽観視のできる状況ではない。当代のエース級の多くが『チームブリュンヒルト』に属しているからだが、その中でも、最盛期の実力を取り戻した引退組は伏兵とされ、各チームのトレーナーを震撼させていた――
「ルドルフやマルゼンが往年の実力を取り戻したのなら、今の現役組で太刀打ちできるのか?」
「ドリームトロフィー組は表向きはどうであれ、一種の興行のようなものと裏で言われていたが……。最盛期の実力が戻ったのならば……。連中は世代交代の波に抗うというのか?前代未聞だぞ」
「だが、逆に言えば、ドリームトロフィーが『功労ウマ娘によるサーカス』という陰口を叩かれないで済む様になるぞ」
「確かに、そういう論評は古くからのものだったからな。上位リーグと言えば聞こえはいいが、功績があるものの、衰えている元のエース級のウマ娘に『走る場を与えるための福祉厚生の仕組み』になっているのも事実だった。だが、タマモクロスやルドルフの走りは……」
本来、世代交代のサイクルが他のスポーツより遥かに早いのが、ウマ娘競争の摂理であったが、それはある意味では理不尽でもあった。『往時の王者も時代が過ぎ去れば……』と見下す風潮すらあったが、ルドルフやマルゼンが最盛期の実力を以て、ドリームトロフィーを蹂躙するという珍事が起こったため、現役組は沈黙せざるを得なかった。現役組は史実の2001年世代が台頭し始め、オペラオーの天下に終止符が打たれた頃だが、引退組(往年のトップ級)が最盛期の実力に戻った場合、アオハル杯の混戦は必至だからだ。トレーナー達は突きつけられた、大いなる謎に挑戦する格好となったのである。
――ウマ娘達の宿命は『最盛期が一年半から数年の間』ということであった。テイエムオペラオーの衰えが急激に起こったのは、前世で衰えを見せた2001年に相当する時期に入っていたからである。アグネスデジタルに下されて以来、精彩を欠いていたオペラオーは自身に衰えが来た事を感じ、苦悩していた。
「君はそこで諦めるのか、オペラオー」
「オグリさん……!」
史実では縁もゆかりもない間柄であったが、ウマ娘世界では、オグリの存在をきっかけに設けられた『追加登録』の恩恵を最初に受けたウマ娘という関係故か、面識があったのだ。
「オペラオー、私と来るか?」
精彩を欠く走りが続き、そのショックでアオハル杯に参加していなかったオペラオーだが、オグリのスカウトに応じる形で、チームブリュンヒルトに合流(全盛期を過ぎたことが確認済みであったため、程なくして処置を受けた。また、そのついでに、当時に全盛期を迎えつつあったメイショウドトウもくっついてきたという)した。つまり、1980年代半ばから20世紀終わりまでのエース級の殆どを有するという陣容となった。
――ある日――
「さて、次の第二回戦だが……メンバーが充実しすぎというのも、困りものだな」
「ですが、メンバーの体調にもよります」
「うむ……。今回は長距離はクリーク、君に任す」
「任せて下さい」
「問題は中距離だ。得意距離である者が多いからな…」
「会長さんよぉ。ここはアタシに任せてくれるかい?」
中距離はオーソドックスな距離である故、メンバーの多くが得意距離にしている。それも悩みどころ。志願したのは、平成三強の一角にして、『大井の最終兵器』との異名を誇った『イナリワン』であった。
「イナリ。やれるのか?」
「アタシには、平成三強の看板を下ろした覚えはねぇよ。近頃のわけぇモンは弛んでる。ここらでヤキを入れてやんねぇとなぁ」
「……これは極道のカチコミじゃないぞ、イナリ」
べらんめぇ口調と生来の気性の荒さもあり、荒くれ者の印象が強いイナリワン。こんな彼女だが、往時はオグリ、クリークと並び称され、一時代を築いた『平成三強』の一角であった。引退後にあたる現在の身長は143cmほどだが、大柄なウマ娘も珍しくない時期には『小さすぎる』くらいである。彼女は『軽自動車にスーパーカーのエンジンを載せた』とも言われるほどの猛烈な加速力が持ち味であり、最盛期には『平成三強』に名を連ねた。
「わかってらぁ。ここらであたしの本気を見せて、ネタ枠から脱却するんだ~!!タマ公の相方扱いはゴメンだぁ~!」
「あ、そこか」
さしものルドルフも呆気にとられる。
「今回はシービーが来るから、ブライアンと私も出るが、どこに来るかはわからん。マイルで来たら、ブライアンに相手を任す。中・長距離なら、相手にとって不足はないんだが」
「お~い、オグリがオペラオーを引っ張ってきたで~。あと、おまけのメイショウドトウも」
バンッとドアを開け、タマモクロスが駆け込んできて、吉報を伝える。
「でかした!これで盤石だ」
「タマ公、オグリがオペラオーを引っ張ってきたって?どういう組み合わせだい」
今はテイオーが主になった生徒会長室だが、やはり、ルドルフが椅子に座るとしっくりくるのは皆、同じようだ。
「ああ、オグリンがオペラオーに『追加登録』を勧めたんや。その関係らしいで」
「な~るほど」
「問題はシービーがどこに来るか。シービーとも久しぶりだが……」
「会長でもおわかりになられないと?」
「シービーは自由人なのさ」
と、現役時代からミスターシービーの自由人ぶりに手を焼いているらしいルドルフ。
「でもよ、うちのチーム、周りから文句来そうだよな」
「平成三強はもちろん、二代の三冠、ルドルフの愛弟子、メジロの正統な継承者……。各時代のエース級が名を連ねているからな」
「メジロなら、なんで、ラモーヌを誘わなかったんだい」
「彼女には別の仕事を頼んでいるからだよ、イナリ」
「あー…。例のキングヘイロー?」
「そうだ。拝み倒してやっとだ……」
「ルドルフもラモーヌは弱点やから」
「ラモーヌに会うと、緊張させられるんだ」
ルドルフがメジロ家で最も恐れるのが、メジロ家の現時点での筆頭格であるメジロラモーヌである。現時点でのルドルフに唯一、強く出られるウマ娘であり、ルドルフはかなり『依頼』に難儀したらしい。
「やれやれ」
「とりあえずだ、頼むぞ、イナリ」
「おう、引き受けた~!」
「あらあら、イナリちゃんったら」
――こうして、次戦のメンバーは暫定的に決まった。夕方、第二戦の予定メンバー割が学園の掲示板に張り出された。多くの生徒が『こりゃダメだわ』、『相手も可哀想に。平成三強を繰り出してきたぜ』という諦めの声が大半であった。往時にターフを支配した猛者らが力を合わせて走る。それだけでも、並のウマ娘は怖気づくのだ――
「おうおう。平成三強がなんだ。この俺が倒してやらぁ!」
と、鼻息が荒いのは、史実における2001年世代(タキオン、カフェ、デジタルらの世代)におけるダービーウマ娘『ジャングルポケット』であった。流石に当代の雄であるだけあり、闘志を燃やしているようである。
「ずいぶんと威勢がいい小僧だな?」
「アンタか、ブライアンさん」
「日本ダービーを勝ったそうだが?」
「なんだ、オレのダービーはフロック(まぐれ)だっていいてぇのか?」
「……フッ」
「何がおかしーんだ!?」
「口は達者だな。だが、実際はどうかな?」
「タキオンがいなくなったから、ダービーを取れたって、そう言いてぇのか!?」
と、ジャングルポケット、愛称はポッケ……は沸点が短いらしく、皆の見ている前で、ブライアンへ蹴りを繰り出すが……。
「まったく……。チンピラみたいな事をするんじゃない」
ジャングルポケットの繰り出す蹴りを同じような蹴りで相殺する。
「な……ん……だと……!?お、オレの蹴りを……!?」
自信があったらしく、ショックを受けるポッケ。
「文句があるなら、ターフの上で白黒をつけろ。私は逃げも隠れもせんぞ」
「んなに言うなら、数日後の模擬レースでやってやんよ!!アオハル杯のレースなんて、まってられっか!」
……完全にヒートアップのポッケだが。
「こらこら、ポッケ。騒ぎを起こすんじゃないよ」
「ふ、フジさん……!」
と、フジキセキが呼ばれてきた途端に『スンと落ち着く』。フジキセキを慕っているからである。
「フジ、この小僧をとっとっと抑えろ。若い連中が怯えてるだろ」
「いやぁ、ゴメンゴメン。私も今、呼ばれてきたばかりでね」
フジキセキの手前、怒りを抑えているポッケだが、小僧扱いは納得いかないようだ。
「ぐぬぬぬ……」
「んじゃ、ブライアン。ポッケの言った、数日後の模擬レースに応じてくれるね?」
「その小僧にも言ったが、私は逃げも隠れもせん」
「それじゃ、この場は解散だね」
と、フジキセキが仲裁し、その場を収める。実のところ、フジキセキも事情は知らされているので、咄嗟にアドリブで合わせたわけだ。それからしばらくして。
――食堂――
「大変でしたね。よく、ポッケの蹴りに合わせられましたね?」
「戦いで飯を食ってる身だからね、こっちは。あれくらいは余裕さ。あの子、ヤンキーみたいだったけど?」
ブライアン(のぞみ)はポッケの事を聞くため、フジキセキを食事に誘った。フジキセキはポッケについての情報を教える。
「あの子は元々、野良レースで鳴らしてたんです。ある日、私に喧嘩をふっかけてきまして」
「それで、返り討ちに?」
「ええ。私は元々、三冠を目指すつもりでしたから。野良レースの覇者くらいは軽く。それで、私に懐いたんですよ。それで、学園に入りたいと言い出したので、私が後見人に」
「なるほど」
「喧嘩っ早いのが難点ですけど、性根は素直ですよ」
「なるほどねぇ」
「事情はヒシアマから聞きました。ブライアンのためのお膳立てですか?」
「それが、あの子が私に持ちかけた交換条件だったんだ。私も色々な事情があったから、互いの利害の一致って奴だよ」
「その割に楽しんでますね?」
「自分があなたくらいだった頃は……心にどこか『引っかかり』があったんだ。それで、心から満喫できたわけじゃなかった。いわゆる心残りってヤツだよ。それもあるからさ」
ブライアン(のぞみ)は今回のできごとに至った経緯を大まかにフジキセキに話す。のぞみは前世での心残りを晴らすためもあり、トレセン学園に潜り込んだ事を。
「心残り、ですか」
「そう。本当はトレーナーとして潜り込む手もあったけど、あたし、T大行けるような頭ないからねー。今の職場で将校やれてるけど、ほとんど現場の叩き上げだしさ」
のぞみ自身は努力で教師になり、素体になった錦も現場の叩き上げで将校に任ぜられたため、『職場の先輩のような生え抜きのエリートではない』と明言する。
「仕方がないですよ。うちのトレーナーの採用枠は、T大に入れる人でも落ちるくらいの難度ですから。地方でなって、中央の免許を取る手もあるけど、それなりに地方で実績ある人でも、時間がかかりますし」
「それで、多少なりとも強引な事になったわけ。でも、どこで聞きつけたんだろう。シリウスちゃん」
「シリウス先輩はあれで意外に可愛いところあるんですよ。普段は荒くれ者を気取ってるところあるけど、面倒見はいいし」
「へ~~」
シリウスはルドルフの幼なじみであるが、実は学年は同じ、デビューは一年遅れであった。さらに、ルドルフの全盛期、共に海外遠征を夢見ていたが、ルドルフが怪我をしてしまったことでご破算となった。それがひねくれ者になる最大の原因であった。ルドルフが全盛期に戻りたがった最大の理由は『シリウスに孤独な戦いを強いた』ことへの償いであった。シリウスは本当はかつての幼なじみの関係に戻りたいが、色々なしがらみや不満などで『できなくなっている』自分に嫌気が差していたのだ。引退後はなおさらだった。その一方で、荒くれ者を装い続けるのにも疲れていたのだろう。
「会長が生徒会を辞めるって明確に言った時、シリウス先輩、すごく取り乱しまして。会長が言ってました。あそこまで取り乱すシリウスを見たのは、いつ以来だろうって」
「だろうね」
シリウスは自身の知らぬところで、ルドルフが『キングヘイロー事件の責任を取る』という理由で生徒会を去る事を決めた際の取り乱しようを話される。その際の取り乱しようはこっそりと見ていたナカヤマフェスタ曰く、『ガキみてぇに、シリウスが会長に怒鳴りまくって、終いにゃ、泣き出しやがってなぁ。ビデオを録っときゃ良かったぜ』というほどのものだったという。幼なじみに対しては、包み隠さない『本当の気持ち』を顕にするあたり、彼女もやはり、年ごろの少女なのだ。
「……おい……。」
「噂をすれば、なんとやら、だね」
「私も混ぜろ。ルドルフの交わした約束は守ってやるよ」
「座りな。あなたの目的はわかってる」
いつの間にか、シリウス本人がやってきたが、現役時代に複数の悪の組織と渡り合い、転生後も修羅場を潜ってきたことによる胆力により、のぞみはシリウスの発した怒気を意に介さず、軽くあしらってみせる。同席する形になったフジキセキはあのシリウスをあしらえるほどの胆力に内心で、強く感心するのだった。