――ウマ娘につきもののピークアウトによる衰え。それは運命の強制力によるものでもあった。ゲッターエネルギーはそれに抗う(史実の運命を超える)力をもたらした。ブライアンの復活、かつての名ウマ娘達が突如としてピーク当時の能力を取り戻すという現象は対外的には奇跡と見做されていた。だが、実際にはゲッターエネルギーを浴び、『因果を超える』力を得た故の『運命の強制力からの解放』であった――
――かくして行われた学園全体での模擬レースでは、当代の雄を引退組がぶっちぎる光景があちらこちらで起こっていた。チームブリュンヒルトのウマ娘達は既に、トゥインクルシリーズを引退した世代のウマ娘のほうが多いはずが、計測されるラップタイムが、それぞれの現役時代の全盛期と同等、あるいはそれ以上の速さになっており、トレーナーの全員を驚愕させていた――
「久しぶりだ、ぶっちぎるぜ!!」
イナリワンはこの日、朝一番の模擬レースに出場。往年の『猛烈な加速』を以て、メジロの新星にして、メジロブライトの従妹にあたる『メジロベイリー』(史実では、メジロ最後のG1馬であった。メジロベイリーを最後に、メジロ牧場は解体までの期間、次代のG1馬を輩出できずに終焉を迎えた)を『置き去り』にする。仮にも当代のG1ウマ娘、それも名門の出のウマ娘を『置き去り』にできる事実が、彼女が平成三強の一角である事、紛れもなく、『時代を担ったウマ娘』である事実を雄弁に物語っていた。
「見たか!!平成三強は伊達じゃねぇぜぃ!!」
久方ぶりの勝利に酔うイナリ。別のレースでは。
「久しぶりだ、派手にやろう」
と、オグリがこれまた『平成三強』に相応しい走りで凡百の現役ウマ娘をぶち抜き、平成三強の健在ぶりをアピールした。そして。
「久しぶりですけど……本気を出します!」
スーパークリーク。平成三強の最後の一人であったが、繋靭帯炎により引退を余儀なくされた。平成三強で唯一、年度代表ウマ娘などに無縁に終わったのも事実だ。だが、天皇賞を秋春連覇するなど、その実力は確か。下手な現役よりまだまだ速い(治療の後に走りを再開したので、今のところは往時の『60%』のスタミナしかないため、クリークにしては珍しく、早めの勝負に出たのである)。
「平成三強も往時の速度に戻っている。……こりゃ……現役組の面目が立たんな……」
トレーナーの誰かがボソッと呟いたように、当時は史実で言う『01世代』の台頭とその前の世代の落日の最中でありつつ、史実では遥かに後の世代である『キタサンブラック』の世代が近い内のデビューを控えているという状況であった。平成三強は後輩の新・三強と言われた『BNW』が『ビワハヤヒデの一強では?』と言われていたのに対し、三人の全員が一時代を築くほどの強さでターフを支配したからこその渾名であった。(ただし、種牡馬としては、かのサンデーサイレンスに尽くが敗れ、血脈はほとんど後世に残っていないが)ウマ娘世界では、依然として『強者』であり続けているからだ。そして。
「おお、ナリタブライアンだ。最近は復調してきているというが……」
「ロウソクが燃え尽きる前の閃光じゃないのか?そういうものはよくあるというが」
観戦するトレーナー達の心無い言葉が聞こえてくるが、のぞみは気にしない。ブライアンに『もう一つの未来』をもたらし、ひいてはサクラローレルを史実の悲劇から救うため。これも『希望』を司るプリキュアとしての仕事。のぞみはそう考え、全力で午前中の模擬レースを遂行した。結果は……。
「……フ。悪いな、こちらはこれ以上の醜態を見せられんのでな」
ブライアンの圧倒的勝利。新たにこさえられた第二の勝負服のお披露目を兼ねての勝利であった。第二の勝負服を作るという事は、ウマ娘のキャリアが絶頂期にあり、同時に『折り返し』にさしかかることを暗黙のうちに示すもの。表向きはどうであれ、だ。ブライアンの場合は、協会にクビにされたトレーナーが残した『最後の置き土産』であった。無頼という従来の雰囲気は薄れ、妖艶な印象が強まったといえる、紫色を基調にした色彩の新勝負服。模擬レースに使うにはもったいない印象もあるが、ともかくも、ブライアンの変化を示す格好の材料であった。そして、そのお膳立てに協力したのが、アグネスタキオンとジャングルポケットの同期である『マンハッタンカフェ』である。
「ご苦労さまです」
「すまんな、協力させて」
「タキオンさんに聞きたいことがあって、電話したんですが、まさか、そのようなことになっているとは」
「…ああ。」
「タキオンさんの薦めで、私もチームに加入することになりました」
「よろしく頼む」
なぜ、彼女が加入することになったのか?それは彼女は霊感が強く(おそらくは史実での実父のサンデーサイレンスが守護霊だと思われる)、守護霊を視認できるほどであったため、ひょんなことから、ブライアンの体を動かす魂が『ブライアン本人のものではない』事を知ってしまい、アグネスタキオンに伝えたところ、事情を説明され、そのままチームに加入する流れになったのだ。以後、カフェは『若手』(この当時に現役真っ盛りであった)として、アオハル杯に加わることになる。
――午前中の模擬レースの後の生徒会室――
「マンハッタンカフェ、君が私達に呼ばれた意味はわかるね?」
「……はい、会長」
「今はテイオーに譲ったんだがね」
「す、すみません」
「構わんよ。実権限を譲ったに過ぎんからな」
「昔の中国の乾隆帝や、鎌倉期の後白河法皇じゃあるまいし」
「これは手厳しいな」
テイオーはまだ若いので、ルドルフが院政を引いているような状態であることが示される。また、生徒会執行部もメンバーの半分近くがテイオー/マックイーン世代に入れ替わっているため、ナイスネイチャやメジロマックイーンの姿もある。
「『彼女』の事はアグネスタキオンから聞いたね?」
「はい。信じがたいのですが……」
「君にも協力してほしい、マンハッタンカフェ」
「タキオンさんの事も気になりますし、ポッケさんが『この方』に喧嘩を売るのを見ましたから…。そのつもりです」
と、タキオンにストップをかける役が誰もいないのが気になったか、ルドルフの頼みを聞き入れ、チーム入りを明言するマンハッタンカフェ。ますます、当代のエース級が増えるチームブリュンヒルト。
「あたしの本名は夢原のぞみ。タキオンちゃんから、事情は聞いてるね?」
「ええ、だいたいは。ややこしい事をしましたね」
「それが、ブライアンちゃんの出した交換条件だからね」
「あなたの走りですが、人間のそれが出ていますよ」
「わかってるんだけど、なかなかね」
「それを直せば、真にその体のポテンシャルを100%引き出せると思います。最盛期のブライアンさんなら、モンジューやラムタラに対抗しえるポテンシャルを持ってましたから」
ウマ娘と人間は走り方に微妙な差異がある。更にその限界速度も差がある。人間のトップアスリートの歴代トップで時速45キロだが、ウマ娘はヒトと極めて近似の肉体構造ながら、オープンクラスの実力しかなくとも、有に50キロに達する。一時代を築けるレベルのエース級では、個人差によるが、瞬間的には100キロを超えるという。(プリキュアでも、そこまでの速度は出せないので、運動能力は完全に『ヒト』を超えていると言える。)ただし、能力が絶頂期に達した場合の能力値の持続時間は人間のほうが遥かに長い。ウマ娘の『サラブレッドの特徴を持つ』故の『アスリートとしての短命さ』であった。
「我々はタキオンに命じ、アスリートとしての短命さを打破するための研究を始めさせた。更に言えば、運命の強制力に抗うための研究でもある。タキオン自身がそれを痛感しているはずだからね」
アグネスタキオンは運命の強制力の作用で、三冠を期待されつつも、それをやむなく諦めている。運命の強制力の存在を知った故に、タキオンはゲッター線にのめりこみつつある。それを知った者達は『タキオンに正気を保たせる』ため、マンハッタンカフェとジャングルポケットの存在に期待しているわけだ。
「タキオンさんは……どうして?」
「気づいてしまったのさ。多くのウマ娘にのしかかる『運命の強制力』の大きさに。誰かが介入しない限り、それは否応なしにふりかかる。だが、本人の意志力が強ければ、それに抗う権利を得られる。もっと早く気づけていれば……」
ルドルフはシリウスとの仲がこじれた一件もあり、運命の強制力に怒りを感じている節を匂わせている。故に、自身の現役時代に悔いはないとしつつも、自分の後輩達には『自分が課された運命を超えてほしい』と願い始めた。ゲッター線はその力をもたらしつつある。オグリとタマモが最初のジャパンカップで『日本勢に勝利をもたらした』ように。
「だが、オグリとタマモはそれをなし得た」
「どういうことです…?」
「ゴールドシップが件の彼らの力を借り、歴史改変を試みたのだ。結果は二人の願う範囲でだが、成功した」
ルドルフはゴールドシップが歴史改変を試みたところ、大まかな経緯はわずかに変化したのみだが、細かなところが大きく変わったのだと話す。
「ブライアンがオグリを慕っているという状況はその産物だ。最も、偶然の産物らしいが」
「……あのお二方には悔いが?」
「私と違い、オグリとタマモは悔いが多い現役生活だったからな。割を食った者もいるが、どこかで釣り合い取りはなされているだろう。歴史はそういうものなのだろうな」
「それでは?」
「うむ。ゴールドシップのおかげで、図らずも、我々は『運命の強制力』に抗える可能性が実証された。今後は志願があれば、他のウマ娘達でも試す予定だ」
「いいのですか?」
「向こうの世界で言う、競走馬のロールプレイを知らず知らずの内にさせられていたと分かれば、是非がでも変えたいできごとはある。特にアグネスタキオンのような境遇だとね」
「……確かに」
「君も、その事は感づいていたはずだ。だが、それも運命と諦めていたのだろう?」
「……はい」
マンハッタンカフェの表情が変わる。今の今まで『運命の強制力には抗えない』と思っていた節があるからだろう。
「だが、それとて絶対ではない事は証明された。我々はあくまで、極秘裏にだが、試みを続けていく。マンハッタンカフェ。君も巻き込ませてもらうよ」
「構いません。私にも『夢』があるので」
カフェも実のところ、競争者として叶えたい夢を抱いていたが、悪夢にも近いビジョンをある時に見てしまったことから、それを半ば諦めていた。だが、一縷の希望が見えた。それをモノにしたい。それがカフェの心からの願いであり、自身の守護霊であり、前世での実父『サンデーサイレンス』が子へのプレゼントとして、叶えてやりたいと思っていたものであろう。
――ルドルフ、あんたにしては策を巡らせたな。まぁ、自分の倅や孫、その後の代の子孫が繁栄している『俺』が言う事でもないか?――
と、不意にカフェに似ているが、如何にも荒くれ者といった風体の声が響く。カフェは驚く。『お友だち』が他人にも聞こえる声を出すのは始めてだったからだ。そして……。
「あ……何を…!?」
「なに、俺もしばらくぶりに現世を味わいたいんでな。悪く思わんでくれ、我が『息子』よ」
と、『お友だち』はカフェの体を借り、現界した。カフェととても良く似ているが、口調は荒く、カフェを息子と言えるのは……。
「あなた……私がいるからと、現界したのですか?サンデーサイレンス?」
「久しぶりだなぁ、マックちゃん」
「君がメジロマックイーンと深い仲であったのは、ゴールドシップから聞いたが……そういう仲だったのか?サンデーサイレンス?」
「あの馬鹿孫め。俺とマックちゃんの愛の結晶でなければ、殴ってるところだ」
やはり、お友だちは『サンデーサイレンス』の魂であったのだ。ゴルシは前世では『メジロマックイーンの娘がサンデーサイレンスの子であるステイゴールドの子を受胎する』形で生まれたため、メジロマックイーンとサンデーサイレンスの時を超えた『愛の結晶』と言える立場にあるのである。
「日本を実質的に支配した血統の大元なんだ、子供や孫たちには敬意を持ってほしいが……」
「それはノーザンテーストにも言えることではなくて?」
「確かにな。カフェだが、昔から俺によく似ていた。故に、あの世にいた俺の魂の波長に同調してな…」
サンデーサイレンスはウマ娘として存在していれば、おそらくはマンハッタンカフェとほぼ瓜二つの風貌であったのは想像に難くない。競走馬としての両者は瓜二つであり、競走馬としてのマンハッタンカフェが存命であった頃、父・サンデーサイレンスの伝記映画を撮影する際に、サンデーサイレンスと瓜二つであったカフェが父に扮し、映画に出演したという逸話が伝わっているからだ。故に、カフェの体に憑依しても、拒絶反応を起こさないのだろう。
「ヤツは霊感が強い故に、子供の頃は引きこもりがちでな。俺が『友だち』として外に出るように促した。大きくなれば、俺の役目は終わると思ったが、カフェはそれを望まなかった。俺もマックちゃん達に会いたかったのは事実だがな」
「で、カフェさんの体に憑依したのは、私と会話するためと?」
「霊感が強くなきゃ、霊体の声は聞こえんだろう?幸い、カフェの体は俺がウマ娘になれていれば、こうなっただろうという姿を持つからな」
「なんだ、じっちゃん。現界したのか?」
「ゴルシか?別世界にいると聞いたが?」
「状況報告のために、一時帰国だ。またすぐにいなくなる。オルフェの奴に事情は話してあるぜ」
一時帰還のゴルシは不思議なことに、ズカズカと入ってくるなり、生徒会室にいる人物が『マンハッタンカフェ』ではなく、自身の父方の祖父『サンデーサイレンス』であることを分かっていた。
「じっちゃんよぉ。かわいい孫が来たんだし、こづかいくれよぉ」
「俺にせびるな。親父のステイからもらえ、ステイに。あの馬鹿息子に」
「あーん!ケチンボーー!」
と、漫才のようなやりとりを交わすゴルシだが。
「あー、会長。こっちの状況を伝えるぜ。それが目的だから。元の姿に一時的に戻ったのは、そうでないと、学園に入れねぇしな」
「ご苦労。それで?」
「ああ…」
ゴルシは『プリキュア5の世界』での戦闘も佳境に入ってきた事、海底軍艦『インペロ』の制圧戦はデルザー軍団の『磁石団長』が防衛のために立ちふさがり、激しい戦闘が展開されている事を伝える。
「ほう、ブライアンズタイムの小倅か……奴が聞いたら、口から泡でも吹くな」
「まぁ、それもそうだけどよ。向こうは必死なんだぜ、じっちゃん?」
「俺も現世に自分の体があれば、お前の企みに混ざっていたかもしれん」
「確かに、あなたはそのような性格でしたわね……」
メジロマックイーンはサンデーサイレンスと恋人に近い関係であった前世の晩年期の記憶から、サンデーサイレンスの性格を熟知しているようで、ため息である。もっとも、『彼』自身、生前は『持って生まれた寿命の長さ』以外は強運で鳴らしたので、ある種のゴルシの性格の源流があるし、マックイーン自身も競争生活の晩年期には、ゴルシのような気難しさが表面化していた話もある。ブライアンがキュアドリームとして、デルザー軍団と死闘を展開している事は、サンデーサイレンスからすれば、ブライアンの史実での父『ブライアンズタイム』へのからかいのネタにできるという事なのだろう。
「まぁ、スペやスズカの顔も見たかったからってのもあるな。奴らの走りは見ていたし」
「しかし、サンデー。君ほどの存在が何故?」
「わからんね。もし、普通にウマ娘になれていれば、アンタの二期下くらいに収まっていいが、そうならなかった。これも七不思議だぞ」
不遜な口ぶりだが、彼はそれが許される立場にある。90年代以降の日本競馬を席巻する偉大なる血統の大元である偉大な種牡馬。競走馬としても実績を充分に持つが、彼の場合は種牡馬としての功績のほうが後世に残っている。ドア越しに僅かに聞こえる声はカフェのものだが、荒い口調であるので、何やら誤解を招きそうだが、現界を楽しむサンデーサイレンスであった。
――かくして、その日の午後――
「おー。オレの挑戦、受けてくれるんスね」
「やれやれ。いきがるのは程々にしておけよ、小僧」
「小僧はやめてくださいよ、俺には……」
「この私と戦える力があるというなら、その脚で証明してみせろ」
「……いいっすよ。このオレの力にブルんないでくださいよ」
「……いきの良い奴だ」
約束の通り、ジャングルポケットとの模擬レースに赴いたブライアン(のぞみ)。演技と本音が半々である。転生後は『転生前からの加算』で年齢を数えることも増えたため、余計に純粋な『若さ』を感じるようだ。
(この体を完全に使いこなせるようになれば、どんなウマ娘とも互角に走れるようになる…か。某ウルトラマンのブレスレットみたいな話だなぁ)
模擬レースは有馬記念を想定した2500m。トレーナーらも見守る中、一騎打ちは始まった。ジャングルポケットは史実では、有馬記念は下位に沈んでいる。東京(府中)の巧者として鳴らしたが、中山競馬場などは不得手であった。史実での成績を見ると、それが妙実に表れている。それがブライアンへの不利な要素であった。また、史実での引退理由は前蹄球炎と筋肉痛の判明であり、現役期間はあまり長くない。史実での子であるトーセンジョーダンが長期に渡って走ったのとは、対照的である。また、ジャングルポケットは前世でもそうだったように、実は瞬間的な加速は鈍めであり、本人に自覚はないが、それがブライアンへの最大の弱点であった。
(ゴルシちゃん曰く、ジャングルポケットのトップスピードは全盛期であれば、テイエムオペラオーよりも上……。だけど、そこまでに至る時間は長い……。そこに勝機がある)
「もらったぁ!!」
ジャングルポケットは早めにまくる。だが、ブライアン(のぞみ)は挑発に乗らず、一定の間隔を保ち続ける。
(振り切れねぇだと!!……クソッタレ!)
第三コーナーにさしかかっても、ブライアンが加速しない事を不気味に思いつつも、第四コーナーを曲がる。
(よしっ!!待った甲斐があった!!こうなれば、加速はこっちが上だ!!)
曲がり終えた直線で『領域』が発動したブライアンがスパートをかける。紫色のオーラに包まれ、ジャングルポケットに瞬く間に並ぶ。
「……嘘だろッ!?」
ジャングルポケットは史実がそうであるように、加速そのものは鈍い。そこを見事に突いたのである。新旧ダービーウマ娘同士の対決は佳境を迎えていた。
「く……クソッタレがぁぁァァ!!」
ジャングルポケットは全盛期に突入しつつあったが、若年故に一流のウマ娘が至る『壁を超えた状態』である『領域』には至っていない。必死に脚を動かすが、最大加速になったブライアンには及ばず、徐々に離されていく。
(諦めてたまるか……オレは……オレは……!!)
「ポッケさん!!」
(か、カフェ……!!そうだ、まだ勝負は……ついてねぇぇーーー!)
観戦していたカフェの声が響いたその時、ジャングルポケットの体を黄色のオーラが包み込み、本来のポテンシャルを超えた加速を見せる。
「ほう。……カフェの声がトリガーになったようだな、ジャングルポケット?」
「カフェがオレに力をくれた!!もう負ける気はしねーーー!」
「フッ……。忘れたのか?この私もダービーを勝っているのだぞ?」
「……!!そうだった!!」
領域に至った二人の速度は互角であった。そのままの態勢でゴールを走り抜ける。人間の動体視力では判別できず、写真判定となったのだが……。
「こりゃ……同着でいいな。0コンマまで差がねぇよ」
と、写真判定をしたゴルシはそう判断を下した。戦いが待っているので、アオハル杯には今のところ、参加届を出していないし、学業も休学中だからだ。
「同着だー!同着!!」
と、ゴルシが知らせると、ジャングルポケットは安堵したのか、一気に脱力してしまう。
「ほれ」
肩を貸してやるブライアン(のぞみ)
「す、すんません。一気に力を使っちまったみたいで」
「念のためだ。保健室で診てもらえ」
「いいっすよ、そんな……」
「おい、ゴルシ。どんなので戻った?」
「向こうが気を回してくれてよ。アンドロメダ級で送ってくれた。二、三日で戻る」
「ヒュウ♪アンドロメダで、か」
「今は衛星軌道より上を周回中だ。どっかのドックに放置されてた『12番艦』をドックを開けるために完成させた代物らしいぞ?」
「ああ、南米だか、カリブ海に残ってた奴か?」
「そうらしい。どっかの小島で造ってたから、直撃を免れてたらしい。ところが、現地の行政府が消し飛んだから、発見が遅れたらしい」
――ゴルシの送迎に就役前のアンドロメダ級を使うのは、近いうちに全艦が連邦軍の編成から外れる見込みであったからでもあるが、同艦級であれば『不測の事態』にも対応できるからだ。ウマ娘世界の観測機器から完全に逃れられるだけの欺瞞能力もある。
「二、三日で?」
「向こうから迎えが来る。その前に、ここでやれることはやっとくぜ」
「トニービンの倅か……面白いボウズだ」
「あの声はカフェのものか?」
「意識はあるからな。それで、一瞬だけ体を返したのさ。まぁ、こいつの潜在能力を覚醒めさせたんだ。その見返りに、体を正式に借りたわけだ」
「なるほどねぇ。この子を保健室に運ぶのを手伝って。能力を開放したはいいけど、無理を押してたみたいだし」
「あれは体に負担がかかるし、こいつの『史実』のこともあっからな。じっちゃん、手伝ってくれ」
「いいだろう。お前らが過ごしてる場所をこの目で見たくなったからな」
サンデーサイレンスは史実がそうであったような『クセモノ』だが、メジロマックイーンの『恋人』を自負するなど、かわいいところもある。仮初めの肉体はマンハッタンカフェ(史実での実子)からの借り物だが、ゴルシの祖父であり、ステイゴールドの父である事は自覚しており、久方ぶりの現世を楽しむつもりであった。現在、トレセン学園にいるウマ娘の多くは彼の血を受け継いでいた。それほどの名種牡馬であった彼だが、ウマ娘として存在していない理由は本人にもわからない。それ故に、このような方法を取ったのであった。