――魔女の世界では、中国がある時期に滅んで、地域の気候変動が緩やかになったためか、ロプノール湖は往時のままで健在であった。衛星軌道からの調査で、旧・明国の領域は風化しつつある同時代の文明の跡が点在するに留まっている事が確認された。怪異の巣となった影響で、人の居住に適さない環境となったためであろう。欧州は中国文明を忘却しており、未来世界との接触で改めて知り、慌てて、残された文献を調べる有様であった。地球連邦はこの有様に、野心を持った植民惑星の取り得る選択を悟り、融和政策の推進を選ぶ。それはシリウス星系の過激派のように、地球に取って代わる野心を持つ者が現れるからだ。ゲッターエンペラーはシリウス星系を一旦滅ぼし、星系を再構築する事で、地球への反乱の芽を摘むんだわけで、これがゲッターエンペラーが後に恐れられる理由となった。23世紀当時に有力な植民星系であったシリウス星系が事実上滅んだことから、地球への反抗の意思を持つ植民惑星は減少していく。ゲッターエンペラーの力が伝わった結果であった。更に後の時代、ボラー連邦が衰えたことで成立した『セイレーン連邦』の首脳陣はこの時にエンペラーの意思に抗った者、あるいはその子孫らであり、以後、25世紀までは存続するが、第18代宇宙戦艦ヤマトの時代(西暦2520年頃)の戦役で首脳陣の全滅が起こり、空中分解。地球連邦は銀河を再統一する事になる。地球連邦は本来、この第二戦乱期の後に文明の停滞期に入る事になる―
――銀河100年戦争後の第二の停滞期を第二の宇宙開拓期に変えるため、キャプテンハーロックとクイーン・エメラルダスは歴史への介入を実行。23世紀の動乱を地球により優位な状況にすべく、30世紀の技術を過去の時代へ意図的に流した。その技術でパワーアップした地球連邦の23世紀当時の軍備は姿こそ、その時代相応だが、中身は本来のものより700年以上進歩したものになっていた。とはいえ、火炎直撃砲などの超兵器には耐えられないが、本来失われるはずの人命を救えるため、このオーバーテクノロジーによる変革は受け入れられ、地球連邦の繁栄を確固たるものとしていくのだ――
――オトナプリキュア世界の動乱は第二段階である『各地の解放』に移行していた。大人のぞみは教師生活の業(定時に帰れないなど)に本心では疲れていたためか、軍人として過ごす事に抵抗が無くなり、台湾軍の出迎えに『国連軍出向の航空自衛官』と答え、ぬけぬけとそう振る舞った。相手方に三佐(少佐)と答え、幹部自衛官であると装うなど、事後に結構混乱を起こしそうな事をした。とはいえ、地球連邦もそこはわかっており、国連軍名義で『義勇兵の募集』を各国で行っており、のぞみは教諭を失職したところを志願し、士官課程を終えたという説明を台湾軍にしている。ある意味での帳尻合わせだが、事後、大人のぞみはこの事が幸いし、多額の礼金をこの世界の国連から得る事になり、生活の再建に成功するのである――
――少女のぞみはその頃には『ナリタブライアン』としての生活を送っていたが、逐次、魔女の世界の状況を知らされていた。カールスラントの『共和制としての再建』は『現地住民の意志で』否決された事がそれだ。既に50万以上の住民が内戦で死に、エクソダスの際に膨大な人数が死んでいたので、政体の無理な変更は民族の完全滅亡に繋がりかねないと判断されたのだ。結局、ドイツ連邦が蒔いた『東部地域の住民への差別意識』はカールスラントの衰退を引き起こし、以後、カールスラントは『黄金時代の遺産で食いつないでいる』とまで揶揄されるようになっていくわけだ。その代わりを物理的に求められた扶桑皇国は国家体制の変革を少なからず強いられたが、華族は名誉階級扱いにしていく事を条件に存続した。魔女の世界では、爵位があることで『欧州でまともに扱ってもらえる』事が多かったからである。爵位の権威は欧州の影響力が強いままの世界では『武器になる』のだ。日本側は身分制度の完全な解体を叫んだが、旧家の少なからずが権威を維持していたり、皇室が戦後も維持された都合もあり、強くは出られず、のぞみの一件の借りもあり、妥協した。こうして、扶桑は日本とは似て非なる新体制を構築し、1950年代以降の『新・皇国時代』に突入していく。軍の社会的地位は多少なりとも低下したが、史実戦後直後の日本のように、国民に蔑まれる立場には落ちなかった。むしろ、雇用が保証され、下士官以上なら高級取りになれるのだから。魔女の雇用数が減ったのは、社会的特権が男女平等の観点と長期雇用を前提に、以前より大きく減らされたことで、それまでの多数派であった農村部からの志願が一気に減ったからである――
――扶桑は国内の再開発が優先され、軍備は二の次である状況が開戦後も続いたので、ダラダラと戦争状態が続いている。本来、扶桑は太平洋戦線は短期決戦で終え、早々に大陸領の怪異からの奪還を模索していた。だが、大陸領の殆どの事実上の放棄が日本連邦の評議会で内々に決まり、太平洋の海洋国家となる事が決まった兼ね合いで、(海洋国家には不要な)膨大な陸軍を戦争という大義名分のもとにすりつぶし、空・海軍を戦後の権益確保のために増強する事になっていたが、カールスラントが予想以上に衰退した事から、1945年8月時点の規模を現状維持する事がなし崩し的に決まった。実際の世界情勢に当局の予測が追いつかなかったわけである。結局、このグダグダな戦略の変更が災いし、扶桑は1950年以降も戦争継続をせざるを得なくなったわけだ――
――ドラえもん世界。2023年も暮れに近づくと、学園都市のおかげで、ロシアのウクライナ侵攻が図らずも阻止された(極東ロシアを失ったことで、国力と兵力の余裕がなくなった)事による影響がいい方向に出たが、その分、中国共産党の野心が顕になった。日本連邦は東側諸国が将来に復讐を目論む事を察していた事から、当面は扶桑由来の戦艦と空母を戦争抑止力とする事にしている。日本側が扶桑の空母の計画を強引に超大型へ変更させたのは、自分達が使うためであったのだ。西側諸国、とりわけアメリカだが…も手放しで喜んでいるわけではなく、扶桑由来の戦艦の存在を大義名分に、戦艦の再装備を実行。手元にあったアイオワ級戦艦は既に老朽化していたため、日本連邦の鹵獲したモンタナ級戦艦を譲渡させ、近代化改修を実行。日本に提供させた近代化改修のデータをもとに、アイオワ級戦艦のそれより進歩した近代化改修を施した他、基本構造と砲を解析し、(過去の図面をもとに)自前で建造した予備艦が2020年代前半に相次いで就役した。米国の戦艦の再建造は扶桑の大戦艦への抑止力的意味合いの強いものであったが、見栄えがいいため、他国にも影響が生じ、同位国同士の関係が良好な国は余剰の戦艦の供与を受けられた。それに近代化改修を施し、2020年代半ばに入る頃には『日米英は戦艦を有する』状態になり、核兵器を使うよりは『クリーンで、見える脅威』である事実もあり、政治的に喜ばれた。この状態が後の宇宙戦艦時代の下地となっていくのである――
――その時代、最強とされていたのは、扶桑の誇る『水戸型戦艦』であった。元々、リベリオンが投入するであろう『超モンタナ級戦艦』を仮想敵にして設計されていたため、攻防速で前型を凌いでいた。検討段階では『61cm砲を持つウルトラヘビー級』が俎上に載せられていたが、あまりに大口径なため、実用性に疑問符がつけられた。次いで、三笠型、敷島型と同じ56cm砲が検討されたが、専用砲弾の生産能力の都合により、見送られた。その中間の『53cm砲』が選ばれたのは『妥協の産物』であったわけだ。扶桑は大和型の名残りが濃いデザインの艦型であるのに不満があったが、そうでなければ、日本側の予算審議を通らないため、大和型の上部構造物デザインを流用しつつ、サイズを拡大したものに変更していた。砲撃戦の被弾率軽減云々よりも、戦闘時の生存性の確保のほうが命題とされた事から、船体サイズも350mを有に超える。史実の大和型の最期が『魚雷の被弾時に浮力余裕がない』と後世に判断された事から、このサイズ拡大は好意的に受け止められた。また、未来世界の宇宙戦艦の技術で建造されたため、時代相応のリベット工法で作られていないのも、好感をもって迎えられた。1940年代後半頃には、マイティ・フッド(戦艦フッド)の伝説は遠い過去の話になり、扶桑の別称である『大和』の名を持つ戦艦とその後継ぎたちが世界最大最強の座を独占している状況を座視している『魔女の世界の列強』ではなかったが、大和型のサイズの時点で欧州のドックの能力を超え気味であった事から、戦艦の更新に消極的になっていく。とはいえ、1930年代の造船である個体が老朽化し始める時期にあたる事から、余裕のある国はその時代の戦艦を退役させ、新戦艦に取り替えるが、ガリアは完全にその流れから取り残される形となり、後の時代で『アルジェリア戦争』に全面的に敗戦する伏線となるのである(ペリーヌは後に、自業自得のとはいえ、リシュリューが超大和型戦艦に敗北したことには複雑な思いがある旨を告白し、代替艦の建造をやむなく認めるのである。)――
――ペリーヌ・クロステルマンは1946年以降、公式には予備役に退き、政治方面に進んだ。だが、貴族の出であった事から、娯楽イベントの開催などで国家が援助する事を拒んでしまったことで、困窮状態の大衆の反感を買うなど、自身の失策で窮地に陥ることも増えていた。戦後の日本のような『国民が一眼となっての国土復興』など、ガリア人には難しい話であったのだ。この現実に打ちのめされ、七度も暗殺未遂事件に遭遇した彼女は母国の政治に失望し、政治からも遠ざかっていった。世間的にはそう記録されている。だが、実際には太平洋戦争勃発の半年前に『暗殺未遂事件での負傷の療養』を名目に扶桑へ渡り、そこで紅城トワに肉体を貸していた。ペリーヌ・クロステルマンとしての人格はそれ以降は休眠状態にあったのだった――
――グンドュラ・ラルは御坂美琴の同位体の転生体であった。ダイ・アナザー・デイ以降はその能力と御坂美琴としての記憶が覚醒したが、メカトピア戦役での御坂美琴とは別個体であったようで、その記憶は保有していなかった。だが、転生者としての覚醒後はそれ故の受難が続いた。1945年時点で佐官であった事から、コンドル軍団の面々がドイツ連邦の横槍で社会的地位を失った後の後釜に添えられることとなり、あれよあれよで、カールスラント臨時政府の首班にまで祭り上げられてしまう。NATOに軍政を要請したのは彼女であり、カールスラントの再建にさほどの興味がないためか、NATOにさっさと丸投げし、1947年以降は日本連邦に滞在し、そのまま太平洋戦争に従軍していた――
――二人ののぞみは別々の場所で別々の暮らしをしているが、戦いから離れていたはずの大人のぞみがバリバリに戦う日々になり、転生者かつ、軍人であるほうののぞみが『ナリタブライアン』に成り代わり、レースの日々となる逆転現象が起こった。ブライアンとなったほうののぞみは高松宮記念をギリギリで勝利したものの、ルドルフに言われ、スプリント路線に出走した事は不本意と言い、学園の次期三冠ウマ娘を確実視されていたウマ娘の一人『オルフェーヴル』を模擬レースで下すなど、三冠の現任者としてのブライアンの権威を全盛期の状態に立て直し始める――
――生徒会室――
「これはこれは……お祖父様直々のお出ましとは」
「口を慎め、オルフェーヴル。お前は今、このサンデーサイレンスの前にいるのだ」
と、ルドルフが思わず苦笑いするほどの偉そうな態度を見せるサンデーサイレンス(憑依)。暴君の異名で名を馳せるオルフェーヴルも、前世での祖父の前では、流石に下手に出る。
「じっちゃん、流石にエラソーだぞ」
「フン、日本の競馬界を飛躍させたのは俺だぞ、ゴルシ。孫であるお前らには、もうすこし敬ってほしいものだが」
サンデーサイレンスはマンハッタンカフェの体に憑依し、肉体を借りている状態である。一人称が俺であったり、態度が妙に偉そうなど、マンハッタンカフェとは正反対の態度だが、前世で好意を持っていたメジロマックイーンの前では流石に大人しくなる。ゴルシとオルフェーヴルは前世の記憶があるのか、メジロマックイーンとサンデーサイレンスを祖父と認識している。多くの場合、前世での関係は奇跡的な確率でしか、本人らに認識されないが、ステイゴールド系のウマ娘達はどういうわけか、前世での記憶を認識して生きているようだ。
「サンデー。君は孫達にそう振る舞ってるのか?」
「前世では会ってないんだ。このくらい偉くていいだろう、ルドルフ。俺が子供を思いっきり儲けなけゃ、ゴルシ達は生まれてないんだ」
「お祖父様、親父が愚痴ってたけど」
「ふん。ステイの奴は不肖の子だが……まぁ、お前らを儲けたからな」
ステイゴールド自身もそうだが、この系統はエピソードに事欠かない。ゴルシなどの子達も『強いのに、気性難な個体』が複数いるからだ。
「ブライアンズタイムの小倅に有終の美を飾らせて、奴に恩を売っておく。前世では、俺の一人勝ちのような事になったからな」
「いいのですか」
「かまわん。お前はディープの次だ。そこは守らなくてはならん。もっとも、お前は引退後に本格化した疑惑もあったがな、オルフェよ」
ブライアンを『ブライアンズタイムの小倅』と表現し、彼女に有終の美を飾らせてやる事を『涅槃のブライアンズタイムへ恩を売る機会』と考えているサンデーサイレンス。種牡馬としては最終的に『一人勝ち』に等しい状態であったための余裕だろう。
「で、ふんどりかえってないで、さっさと椅子からどいてくれんか?残務整理があるんだが……」
「やれやれ、真面目だな」
「私は大学部に進学を控えているんだぞ、サンデーサイレンス」
と、ルドルフは近日中に大学部に進学する事を明言する。ルドルフは既に就職も約束されているようで、協会の理事の椅子も用意されている。だが、彼女が長らく君臨していたせいで、生徒会長としての後継ぎが育っていないのが、トレセン学園の難点であった。少なくとも、10年近くも生徒会長であり続け、長期政権を担ったルドルフだが、生徒会の後継ぎをテイオーに任せた点は身内贔屓の批判も大きい。
「ん、アンタにしては珍しいものを……グレートマジンガーだと?」
「ああ。知り合いの子に頼まれてね。こういう大人向けのホビーは万超えだろう?」
ルドルフはノビスケへの誕生日プレゼントに、なんと、グレートマジンガーの最新超合金を買ってやったらしい。2020年代最新のモデルで、大人向けのホビーである。子供の小遣いで買えるものではないので、ルドルフが誕生日プレゼントにと、ポケットマネーで買ったらしい。
「実物がある世界でも、こういうホビーは売られるんだよな。それで研究所は食いつないでるとか」
「そりゃ、スーパーロボットはなぜか市井の技術者がひょんなことで生むことが多いからな。そこは妙に現実的だな…」
ゴルシも続く。未来世界では軍に徴用されているが、一連のマジンガーは基本的に、光子力研究所と科学要塞研究所の自主開発で生み出されてきた。その運用費捻出のため、装甲材を加工した製品を売り出すなど、意外に世知辛い方法で資金を稼いでいるという。いつの時代もZは堅実な人気だが、純粋な機械としては旧式化したため、オリジナルは大破した際にゴッドマジンガーへ作り変えられたのが、未来世界でのZの顛末だ。二号機は最終時のスペックが基準で再建され、エンジンに兜十蔵が残したサインが転写され、魂の引き継ぎを行っている。そのZは俗に強化型マジンガーZとされる個体で、世界線によっては、光子力を集中させ、巨大化する個体である。オリジナルとの違いは塗装の濃さで、二号機は装甲の変更により、色彩がかつてより薄くなっているのだ。
「渋いな。普通はマジンガーZだろ、欲しがるの」
「あの一族の子孫が光子力研究所のパトロンなんだと。その関係で、Zよりグレートが好きらしーぜ」
グレートマジンガーはZがミケーネ帝国の出現後に改造された世界線では、Zに代わる『マジンガーの顔役』として露出が多く、鉄也も軍に機体ごと入隊した(なお、戸籍上は兜剣造の恩師であった神竜博士の養子になったので、戸籍上は『神竜鉄也』になっている)ため、Zより人気がある。パイロットの剣鉄也はデザリアム戦役前にジュンと結婚したが、未来世界では子持ちではない(妊娠初期だという)。なお、鉄也が父になるのは28歳前後とする世界線もあるが、未来世界ではそれより4、5歳は若い年齢でなる見込みだ。なお、科学要塞研究所は再建後は光子力研究所のすぐ近くに移転している。光子力研究所の建物がデザリアム戦役で崩壊した後、兜十蔵が隠していた『真科学要塞研究所』が姿を現したからだ。従って、新光子力研究所の代わりに真科学要塞研究所がそうなった世界線である。基地の移行は宇宙科学研究所でも起こっており、未来世界の日本は堂々と『スーパーロボットを作ってまーす』な基地がまた増えたことになる。
「それで、その小僧のへのプレゼントに、あんたがポケットマネーから?」
「何、現役時代の賞金とCM出演料が余っていてね。腐らせておくのもなんだからね」
「話は変わるが、ブライアンと入れ替わってる奴だが、前代未聞だな。隠しておくのか?」
「大事になるからね、バレたら。ゴルシも協力させている」
「じっちゃん、オルフェ。くれぐれも、バレないようにしてやってくれ」
「お前がそういうとはな。珍しい」
サンデーサイレンスはこの反応だ。とはいえ、のぞみAも体に慣れてきており、曲がりなりにも、スプリントのG1を勝てるほどの能力を出せている。ブライアンの史実の最後のレースを考えれば、最低限の適性はあるのだろう。そうでなければ。スプリントのG1の第一線級と戦える瞬発力は得られないからだ。
「しかし、あの青二才(ブライアン)だが、前世で走ったからか、スプリントにも最低限の適性があったとはな。アンタはわかっていたのか、ルドルフ?」
「ブライアンの史実超えのための第一関門だからだよ、サンデー」
ルドルフがなぜ、のぞみに高松宮記念を走らせたのか。その答えは『史実超え』にあった。ブライアンの『史実』を鑑みれば、高松宮杯(後の高松宮記念)はブライアンのレース生命に終止符を打つはずであった。しかし、それを無事に乗り越えた。
「ブライアンのキャリアは下降線に入っていた。世間はそう判断している。夢原女史は当面の間、ブライアンに成り代わり、ブライアンが凱旋門賞に向かうための下地づくりを行うとのことだ」
ルドルフはそう通達する。ブライアンは『サクラローレルを『史実の因果から救うため、自分が凱旋門賞へ行く』と延べ、学園の高等部の卒業前に、凱旋門賞に挑むと述べたと。その下地作りをのぞみにさせているのだ。
「ブライアンはなぜ、自分でやらんのだ」
「先方に骨を折ってもらうには、それなりの交換条件が必要だろ、オルフェ。その交換条件は後で文章で説明する。口に出すと、誰が聞き耳を立てているかわからねぇだろ?」
ゴルシが続ける。のぞみの素性などはトレセン学園の生徒会・寮長、理事長とその秘書などしか知らぬ『極秘情報』に指定されていると。生物学的観点からも『前代未聞』の事例だからだ。
「確かに」
「それに、此度の『アオハル杯』は理事長代理の方針を撤回させるためにも、生徒側が勝つしかない。そのためには多少なりとも汚い手段も用いる」
「いいのか?」
「理事長代理のチームは強い。それは認めざるをえないよ、オルフェ」
ルドルフは既に手を打ったようだが、アオハル杯の最終的な相手になる『チーム・ファースト』の強さを認めているようだ。正攻法以外の手段も用いると明確にしたあたり、三冠ウマ娘を複数抱えている自チームとて、油断出来ない相手と見ているからだろう。
「三冠ウマ娘の殆どが裏で徒党を組むと知れたら、大事じゃないのか?」
「いざとなったら、私の独断を通すさ。そうすれば、批判を受けるのは私だけで済む」
「今回のアンタの考えを本気で知らないのは、ラモーヌ他数名のトリプルティアラの連中などか…。ラモーヌを取り込まなかったのか?」
「私に……彼女の協力を仰げというのか?」
「アンタの苦手なヤツだったのか。前世では子供作ったろうに」
「勘弁してくれ、サンデー……」
サンデーサイレンスはメジロラモーヌとルドルフが前世で子供を儲けていた事に触れ、ルドルフをからかう。ルドルフはその記憶を思い出したが、互いにウマ娘化した身では、前世の記憶をどう説明すればいいのか。本気で困っているようだ。また、メジロラモーヌの名を出された途端に頭を抱えることから、ラモーヌには頭が上がらないか、かなり接し方に困る相手であるのが窺える。その様子を見て楽しんでいるあたり、サンデーサイレンスは相当な『ぶっとび野郎』(生前は壮絶な経験を幼少からしてきたが、最後には日本の競馬を自分色に染め上げたことで名を馳せたが)なこと、いたずら好きな点で、ゴルシとオルフェーヴルの祖父(父方の祖父)であることがわかる。
「お、高松宮記念のウイニングライブ、バズってるぜ」
この年の高松宮記念から(前年の騒動の影響の払拭のためか)既製の音楽の使用が試験的に解禁されたため、のぞみは(ブライアンの体に入ることで、自身の持っていた『絶対音感』が完全に覚醒めた。なお、のぞみAは現役時代の時点で、エアギターを弾けるくらいの音感はあったが、歌は下手だった)特訓の成果も兼ね、ウマ娘世界でもあった楽曲『Realize』を高松宮記念のウイニングライブでサプライズ的に披露した。2000年代前半期の曲なので、2020年代を迎えていたウマ娘世界からすれば『古い楽曲』であったが、ノリの良いポップな曲であったり、元々、ミュージックビデオでダンスが取り入れられていたことから、意外と相性抜群であった。
『たどりつく場所さえもわからない~♪届くと信じて~♪今、想いを走らせるよ~♪過ちも切なさも、離れても~あの日と同じ、この空は…君へと続いている……――』
のぞみ自身の心情に曲の歌詞がマッチしていた事もあり、力の入った歌唱とダンスであった。のぞみは現役時代の時点で、後輩の春日野うららが俳優兼歌手(学生のうちはアイドル的な位置づけで所属事務所が売り出していた)であったり、『5』の後続のプリキュアである『フレッシュ!プリキュア』のメンバーがダンサー志望(成人後に夢を叶えたとの事)であったため、お互いの交流の結果、ダンスの腕前がプロ級になっており、それがウマ娘世界で『ウマ娘』として過ごすのに大いに役立ったというわけだ。
「ふむ。再生数はうなぎのぼり。ブライアンが明るい曲調のポップを歌って踊るのが再生数の増加の要因だな」
「こりゃ、うかうかしてらんないぞ、会長?」
「今は会長ではないといっただろう、ゴールドシップ?」
会長職を引退しても、周囲からは『会長』と呼ばれ続けるルドルフ。在任期間が前任者らよりはるかに長かった故だ。本人も諦め半分だが、テイオーを立てての院政であるも同然の現状も大きいだろう。苦笑交じりながらも、そう呼ばれる事に慣れているからか、会長呼びを嗜める程度だ。名前呼びできる者はメジロラモーヌ、オグリキャップ、タマモクロス、マルゼンスキー、カツラギエースなど、ごく限られた古株の実力者のウマ娘のみ。親密な仲で知られ、自身の後任に選んだトウカイテイオーにしても『カイチョー』なので、同じシンボリ家のウマ娘を除くと、ルドルフを名前で呼べる者は少ない。生徒会長を引退したのだから、名前で呼んでほしいが、そうは問屋が卸さない現状を実感するシンボリルドルフであった。