ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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ウマ娘世界編です。


第六百二話「ウマ娘世界を変えうる発見とは」

 

――ドリームシリーズは表向き『活躍したウマ娘達のオールスター戦』とされているが、実態は過去の悲劇の教訓で生まれた『引退ウマ娘の福利厚生のための興行』に近く、能力値が低下している状態のウマ娘たちは『テクニックは高いが、往時の輝きは失われている』ので、一定の人気はあるが、レースの根幹である勝負という観点からは『馴れ合い』とも揶揄されていた。協会の新会長となった、往年の『神のウマ娘』シンザンはゴールドシップと極秘裏に会合を重ね、彼女の世代が最盛期を迎えているうちにと、『ドリームトロフィーシリーズの改革』を志向した。折しも、ルドルフやオグリ、タマモが往時の力を取り戻したのを見せつけた時期であったのもあり、シンザンの後援のもと、ゴルシは波紋の呼吸での身体状態の維持を『呼吸法の訓練』と称して広げ、協会に『引退タイミングの任意化』などの提案を通させた。これは三年前後で世代が入れ替わることでの色々なデメリットが無視できなくなった(スペシャルウィークらの世代の引退など)ことからの合意であった。史実よりも入れ替わりが激しい上、世代の離れている競走馬が、ウマ娘としては数年の誤差で存在するなどの理由もあった――

 

 

 

 

 

――プリキュアやシンフォギアの出現以降、黒江たちは調査の主体を異能に切り替えていった。自身らが異能を得たからである。プリキュア達が『復活』しても、普通に南斗聖拳は優位に立っている故でもあった。のぞみは南斗聖拳に手痛い敗北を喫し、更には、デザリアム戦役時には、肉体の加齢で能力の低下が起こっていた強化人間(タウ・リン)にいいように弄ばれるなど、大ボスとの一戦では連敗続きであった。それを改善すべく、黒江は自身の副官に抜擢した後、ことはと同じように鍛え上げ、流竜馬のもとに修行へも行かせた。その成果が太平洋戦争以降の一騎当千であった。その状態が別個体の大人のぞみにも反映されたわけである。のぞみAが直近の修行で会得した『波紋の呼吸』ができる状態になっていたため、素の外見年齢は16歳前後で落ち着き、髪型も往時のものに戻していた。これは当面の間、教師はしないからである(背丈は成人後のものになっている)。この波紋の呼吸の効果は凄まじく、ウマ娘『ナリタブライアン』と入れ替わっているのぞみAの呼吸で、ナリタブライアンの体はウマ娘としてのピーク期の状態を素で維持できるようになった。この呼吸法の有効性を確認したゴルシは自身を含めた、周りのウマ娘達に広めた。結果的に、現役組、引退組を問わず、能力がそのウマ娘のピーク期のそれに戻る事になり、ドリームシリーズの難点であった『全盛期を過ぎたウマ娘達のサーカス(興行)』と揶揄されている点を解消させる一助になっていく――

 

 

 

――ウマ娘世界――

 

ちょうど、ディープインパクト世代がクラシック期を迎え、その次の次であるゴルシ達世代がジュニア期の前半の時期であったため、ディープインパクトとハーツクライの二強がレースを盛り上げており、前世代の三冠ウマ娘たる、ブライアンとの対決が期待されていた。ウマ娘世界でも、三冠ウマ娘同士の対決は例が少なく、片方がピークアウトを迎えていたりするので、ちょうどピークである、あるいはそれを取り戻した者がぶつかりあうことへの期待は大きかった。ウマ娘のレース界隈は世代交代のサイクルが実馬よりも早いペースで進むため、史実で世代が離れている者でも、比較的にレースで巡り合う機会があるからだ。ただし、その機会は一、二回。ルドルフとシービーの場合は後者がピークアウトと怪我で能力が急激に減退してしまった都合上、ルドルフの伝説に箔をつける結果になった。そのため、最盛期の実力を維持した状態での三冠対決に期待がかかっていた。

 

 

――ある日――

 

「次の三冠対決だと?……それは別に構わんが、オルフェーヴルはなんだ?あれでは、都会の学校デビューで舞い上がった、田舎から上京したての学生に見えるが?」

 

次代のホープと呼び声高いオルフェーヴルへの感想を求められたナリタブライアンのこの回答は色々と波紋を起こした。オルフェーヴルは実際、どこぞのバビロニアの英雄王に口調が似ている事から、ウマ娘になる過程で、その英雄王の魂の欠片を拾ったのでは?と、ゴルシは訝んでいた。それを聞いていた故であったが、対決の機運を盛り上げろとのゴルシの指示でもあった。とはいえ、オルフェーヴルはカレンチャンとトーゼンジョーダンの二名の言うことは素直に聞く他、実姉のドリームジャーニーには当然ながら頭が上がらないなど、意外に人間味に溢れている。

 

――「前代の覇者は次代の英雄に道を譲るものだ。もし、勝負するなら、我のほうが速いだろう」――

 

と、オルフェーヴルはインタビューに答えた。ゴルシ世代なので、これからクラシック期を迎えていく若手である。先達のディープインパクトが当代の三冠となっていたが、ディープインパクトはシニア級にいく意志はあまりなく、早期の引退すら匂わせていたため、オルフェーヴルはそのさらなる後継ぎが期待されていた。

 

 

 

 

――とはいえ、オルフェーヴルは史実では、その気性が災いし、勝つ時は勝つが、負ける時は負けていたので、ルドルフやディープインパクトのような無敵タイプの三冠馬ではなかった。らしくない不調も明確にあったので、タイプ的に、ブライアンの実質の後継ぎと言える。ブライアンと異なるのは、有終の美を飾れたところである。とはいえ、同期のジェンティルドンナに負けてもいるので、パワーでは彼女に劣ると言って良かった――

 

 

――そのジェンティルドンナはジュニア期の時点で、プリキュアにすら不可能である『砲丸投げ用の鉄球をチョコボールサイズに圧縮する』ほどのパワーを持つため、ゴルシをして、『バケモン級のパワーだ』と言わしめていた。ばんえい競馬のウマ娘でもないのに、それほどのパワーを誇るということは、カワカミプリンセスすらも遥かに凌ぐパワーを自在に操れるということである。つまり、彼女は素でダンプカーの突進を片手で受け止めるどころか、素でダンプカーの突進を押し返せることになり、並のプリキュアであれば、パワーだけでねじ伏せられる事を意味する。そのことはウマ娘界隈でも話題である。当代のトリプルティアラは間違いなしと評判の女傑であり、前世で父親であった『ディープインパクト』曰く『できの良い娘』のこと――

 

 

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘世界――

 

「ジェンティルドンナは間違いなく、ラモーヌ、スティルインラブ、アパパネの次のトリプルティアラ達成者だ。同期でそのパワーを超えられるのは、あたしだけだ」

 

「そいや、史実でタックルを弾けたの、ゴルシだけだっけ」

 

「オルフェーヴルは怯んでたからな。記憶がないとはいえ、ジャパンカップで負けてるのはどこかで覚えてるはずだ。『今回』は前世の借りを返してやるぜ、あの野郎。見てろ~!」

 

ゴルシはまさに自身がクラシック期に突入していく時期であるため、史実を超える事に燃えている(と、いうよりは、同期と先輩・後輩が『増えた』ことで、自身の『やり直し』が起こった事を知覚しているらしい故か)。

 

「今回?」

 

「一回、史実通りの成績挙げたら、ジェンティルドンナとオルフェーヴルがウマ娘になったせいか、『時間のリセット』が起こったらしくてな。アンタと会うまでは同じだが、ジェンティルドンナやオルフェーヴルの存在が書き加えられていた。多分、こんなことはちょくちょくあるだろうな。史実の記憶を見ると、各世代の穴は多いし」

 

ゴルシは『その時、不思議なことが起こった』を地で行くことを体験したようである。

 

「メタってるね」

 

「あたしが最初にそれを知覚したのも、何かのあれなんだろう。だから、今回は史実より長く走ってやるさ」

 

ゴルシはメタ情報を持った状態で『やり直し』が起こったのを楽しんでいるようだ。

 

「あんたも、ブライアンにそれをやらせたいなら、その体を仕上げていくんだな。その体のパワーなら、ジェンティルドンナはともかく、オルフェーヴルにパワー負けはしねぇ」

 

「そんなパワーなの、ジェンティルドンナって」

 

「鋼鉄の砲丸投げの鉄球をチョコボールくらいに圧縮しちまうぞ」

 

「……あたしらでもできないよ、それ」

 

「だろ?」

 

のぞみAもドン引きのそのパワー。実際に、この日、寮から通学中のジェンティルドンナが電動車椅子が故障し、横断歩道のド真ん中で動けなくなった障害児の少年を救助した(超大型のダンプカーに轢かれそうになったとの事)事がこの日の学内を賑わせた。カワカミプリンセスでも押し止められないほどの速度で突進してきた超大型ダンプカーを片腕で止めてみせたからだ。(その助けられた少年は数年後に障害者ながらも、ボディビルダーの門戸を叩いたという)

 

「ゴルシはさっきから何作ってんの?」

 

「ほら、ゴジラの最新作でたろ?そこで出てた震電のスケールモデルだ。あんたんとこじゃ、完成はしたんだろ?」

 

「うん。量産しようとしてたら、日本連邦ができて、レシプロのままで量産するより、ジェットに直すほうが『未来がある』とかで、製作済みの試作機はいくつか保存される事になったんだ。だけど、横空がそのうちの量産試作機を燃やしてさ。哀れ、連中の多くは最前線で死ぬまで戦えって指令を受けて、もう四割くらいは向こう岸さ」

 

「独断専行の結果だから、自業自得だが……お前さんとこも、なかなかに苛烈な事すんな」

 

「日本の博物館に納入が内定してた個体だったんだよ、それが。ゴジラの撮影に使う契約で」

 

「あちゃー……」

 

「別の試作機を供出するにも、ジェット換装改造の素体にされてたから、余計に連中の罪がデカくなったわけ。競作の閃電も燃やしたから、三菱に文句言われて、連中は針の筵。罪を免れたのは、その時は所用で基地にいなかった志賀少佐だけさ」

 

そのことから、(ドラえもん世界の)2023年公開のゴジラは扶桑軍の全面協力で、退役した実艦(高雄型重巡洋艦など)、実機での撮影が行われたが、震電は扶桑の事情で用意できなかった事がわかる。コンピュータ合成を使わない実艦での撮影は『空砲による発砲シーン』にまで及び、高雄は引退直後、銀幕のスターになったわけだ。なお、航行シーンは各艦の遠景を組み合わせて撮影され、高雄型の全艦が出演しているとのこと。

 

「若い連中がやらかした分の責任を負わされたわけか、その少佐は」

 

「元々はウチの飛行長になるはずだったけど、幹部層と折り合いが悪くてね。それで出ていったんだけど、その行き先でこれだよ?かわいそうだよ、少佐」

 

「生粋の海軍士官と陸軍出身のあんたらとじゃ、折り合いが悪いわな」

 

ゴルシは震電のスケールモデルを作りつつ、スピカの部室でのぞみAと語らう。のぞみAは志賀が『あまりに海軍士官であろうとした』ことが原因で、空軍内の陸海出身者の相克がクローズアップされた結果、ここ四年の扶桑航空の闇を背負わされた格好になったと語り、どこの世界でも、中堅は上と下のやらかしの現場責任を取らされるものなのだ。志賀は元々、坂本の直後の二世代に属し、1945年の時点で17~8歳前後。軍歴はその時点で10年近く。魔女としては古参であった。同位体が有名な軍人であった不幸もあり、現場の全責任を負わされたわけだ。

 

「で、同位体が343空の飛行長で、名が軍事関係者には知られてるもんだから、事さらに生贄にされたわけ。階級が据え置かれたのは、お上(天皇)への忠誠心のおかげ」

 

「お上への忠誠心で処分が軽くなったのか?」

 

「うちの国じゃ、それで命拾いしたやつ多いよ。日本側は問答無用の処刑を主張したけど、魔女は近代兵器と違って、換えの効かない存在だからね。名前と姿を変えさせて、前線で死なせる。それがうちでの『慈悲』さ」

 

「えげつねえな」

 

「まだマシだよ、市中引き回しで、火あぶりの刑にされた奴もいる。日本が見せしめのために、首謀者の将校団をそうやって処刑したんだ。せめて、電気椅子の処刑にしときゃ、前近代的って批判もなかったろうに」

 

日本の司法関係者の内、現地に疎い者達が主導して行わせた『市中引き回しと火刑』はある意味、魔女への恐れの具現化であった。だが、日本には既に超能力を人為的に発現させる術があったはずで、魔力を恐れることはなかったはずだが、科学万能主義に凝り固まった世代(戦後直後の世代)の人間らが強引に事を進めたという。

 

「嘘だろ、そっちは現代日本が関わる連邦国家だろ?やること、江戸時代かよ」

 

「信じられないけど、軍の青年将校への見せしめだってさ。で、魔女の志願人数は大幅に下落して、今や、都会出身のごく少数がくるだけ。農村部は年寄り連中が怯えて、若い連中を出さなくなった。で、お上の玉音放送が必要になったってオチ。だから、今度は魔女の保護に労力を割いてるわけ」

 

「なんじゃそりゃ、茶番だな」

 

「現地の反魔女の風潮を抑えるためだってさ。弾圧じみた処刑しといて……。そのおかげで、うちらはあっちこっちにたらい回しさ」

 

「それで、アンタらの任務の一環の調査で、この世界が見つかったってわけか」

 

「そういうこと」

 

二人はジャージ姿である。のぞみAは(他人の体を使う状態であるとはいえ)久方ぶりのジャージである。

 

「おはようございます~」

 

「スペか。今日は早いな?」

 

「近い内に、ドリームトロフィーの初レースがあるんですよ。それで」

 

「ブライアンさんはアオハル杯の?」

 

「そうだ。そのことでゴルシと話していてな」

 

と、とっさに誤魔化す二人。スペシャルウィークとブライアンの二人の関係性はゴルシから聞いていたので、呼び方等に違和感はない。(なお、トレセン学園の制服やジャージはウマ娘の速度に耐えられる生地でできているため、後に扶桑へ持ち帰られ、その構成生地が提供されたドラえもん世界の21世紀で解析され、量産化に至る事になる)

 

「スペはいいのか?その気になれば、シニア級でまだ走れるだろうに」

 

「ええ。クラシックの有馬で出し尽くした感があって」

 

史実では、スペシャルウィークは三年走っているが、ウマ娘世界では、二年ほどでトゥインクルシリーズの第一線を退いた事が語られる。この世代はクラシック期の雄が早期に引退していったが、名勝負も多い世代であった。最後まで残留したのは、グラスワンダーとキングヘイローの二名になる。前者は全盛期を過ぎつつあり、キングはようやく訪れた春を満喫中というところであった。この世界においては、ブライアンはチーム・リギルの解体でチーム・スピカに移籍しており、その二年目であった。同世代から引退者が出始めている時期であり、既にその前のテイオー世代は一線を退いた方が多くなっていた。

 

「ブライアンさんはまだ?」

 

「ああ。下の妹が私の現役の姿を生で見たがってるんでな…。」

 

「ああ、今度の学期で入ってきた」

 

「私と姉貴の下の妹の一人で、比較的に年齢が近いビワタケヒデだ。私と姉貴を足して、二で割った感じでな」

 

ビワタケヒデ。ブライアンの実妹で、ビワハヤヒデの次妹にあたるウマ娘である。史実では強豪であった兄たちの跡継ぎの期待が大きかったが、実際には肩透かしの成績であった競走馬である。兄たちに代わり、その血統を後世に伝えることもできずと、その血統に振り回された馬生を送ったという。ブライアンにとっては初めての『妹』であった事から、普段の態度が嘘のようにかわいがっている存在でもある。ウマ娘としての容貌は、姉達を足して割ったような感じであるらしい。

 

「あれは……私と姉貴のようにはなれん。だから、あれなりの道を歩ませるつもりだ。無事是名ウマ娘…というだろう?」

 

「ブライアンさん、いいんですか?そんな事……」

 

「タケヒデも自覚してることだ。私のような豪脚も、姉貴のようなスピードもない。重賞は行けるかもしれんが……」

 

ブライアン本人がそう言っていたので、そのとおりに話すのぞみ。史実では脚部不安の発症で引退してしまったビワタケヒデだが、血統はサンデーサイレンス系全盛期に入る以前のものでは一級であり、引退直前には、GⅢクラスで勝てるポテンシャルには到達していたという。

 

「だが、お前やハヤヒデと同じ血を持つ以上、鍛えれば化けるかもしれねぇ。重賞を連対するくらいでも、後世に名は残せるしな」

 

「お前、私に連れてこいと?」

 

「しかるべき時になれば、な。お前だって、かわいい妹が下手なトレーナーに潰されちまうのは嫌だろう?」

 

と、ゴルシはとっさにそういう流れにもっていく。ごく自然に。

 

「話はしておく。お前、下手に扱うと、姉貴が黙ってないぞ?」

 

「わーっとるさ。お前の姉貴のあしらい方はオペラオーから聞いてる。同室だしな」

 

意外な交友関係を示唆したゴルシ。と、そこで、トゥインクルシリーズのシニア期に入っていたダイワスカーレットとウオッカの両名が入ってきた。

 

「ゴルシ先輩、またプラモっすか……かっけーーー!なんすかそれ!」

 

ウオッカはこれだ。

 

「旧日本軍試作機大全の震電。ほら、ゴジラの最新作に出てたろ?」

 

「見たっす!日本軍にそんなセンスが……」

 

「元々は爆撃機迎撃用だから、そんなフォルムになった。どこかの本で見たな」

 

「ブライアン先輩、知ってるんすか!?」

 

「親父がそういうの好きでな」

 

と、話を合わせる。その反応に意外そうな顔のダイワスカーレットだが。

 

「ブライアン先輩、意外に詳しいんですね……」

 

「メカは男のロマンだろ?なぁ、ゴルシ」

 

「おう。たりめーよ。メカはロマンだぜ」

 

「お、お前ら盛り上がってんな。ゴルシ、震電なんか買ったのか?ミーハーだな」

 

「あんた、分かんの!?」

 

「ガキの頃に一度は通る道なんだよ、こういうミリタリーメカは」

 

部室に入ってなり、その反応のトレーナー。驚きのダイワスカーレット。

 

「ブライアン、移籍二年目だから、足慣らしの重賞を増やしていくぞ。アオハル杯の第二レースも控えてるから、加減しとけよ」

 

「わかった」

 

「スカーレットとウオッカは秋に天皇賞があるが、出る方向でいいな」

 

「おう。こいつと全力で戦えるまたとねぇ機会だしよ」

 

「あたしもよ。ここらで白黒つけておかないと……」

 

ダイワスカーレットとウオッカの両名の運命は『秋の天皇賞』へ集束し始めた。史実では名実況を産んだほどの白熱の展開で知られ、ちょうど、のぞみがプリキュアの現役時代の頃の出来事でもある。その時に父親がレースに熱中するのを見ていた身である故か、そのレースが行われようとしている最中に立ち会うのは不思議な気持ちにさせられていた。

 

(そうか。この子達が戦う最後の舞台の『秋の天皇賞』…。史実だと、スカーレットちゃんはもう一年は現役して、最後は海外を主戦場にするプランがあったって…)

 

史実の競走馬としての彼女にありえた道。ウマ娘のダイワスカーレットが海外転戦を意識しているのかは定かではない。だが、ダブルティアラのウマ娘となった以上、海外で最終盤のキャリアを飾ろうとするのは、悪い話ではない。

 

(史実だと、ウオッカちゃんのほうがドバイに行くけど、出走断念のはず。スカーレットちゃんは史実を考えると……有馬の後に怪我がわかるんだよな)

 

のぞみAは両者がその運命にどこまで抗えるかを気に掛けるようになり、両者を見守る事にする。ダイワスカーレットは自身の意志力で強制力に抗っているような節があり、裏で血の滲む努力をしていた。対するウオッカも、海外遠征の夢があり、その実現に向けて努力している。秋は当分先のことだが、二人の運命の糸は確実に史実と同じ『対決の場』へ導いていくのである。

 

「ん、テイオーとマックイーンはどうしたんだよ?」

 

「あの二人は生徒会の会議で遅くなるそうだ。スズカは海外遠征中でいないぞ」

 

「アオハル杯の第二レースも近いのに、大丈夫かぁ?」

 

「何、あの二人なら、直前で仕上げて来るだろ?」

 

生徒会の代替わりで、テイオーとマックイーンは生徒会の業務をこなすようになり、練習にはあまり参加しなくなった事が語られる。とはいえ、二人は裏で波紋の呼吸による修行で心身を全盛期の状態へ戻す特訓をしており、マックイーンは波紋の呼吸の修行のおかげで、太りやすい体質の改善に成功したとか。

 

(ゴルシ、波紋の呼吸をあの二人に?)

 

(史実を考えると、な。それに、マックイーンは足の怪我で走れなくなるはずだったから、波紋の呼吸をテイオーより覚えたがったんだ。それで、な。メジロ家の何処かに、秘密の特訓場作ったとか?)

 

メジロマックイーンは波紋の呼吸の存在を知った後、テイオーよりも熱心に修行をこなし、周りに知られないようにしていたが、たまたま、マックイーンに所用があったメジロドーベルが探す内に、特訓場を見つけてしまい、ゴルシに知らせたのである。

 

(それ、どこで?)

 

(メジロドーベルからだよ。用があって探したら、財力に物言わせて、『そそり立つ壁』をマジに作っちまってるのを見たんだってよ。ドーベル、清楚でクールそうな外見だけど、同人誌即売会に出るくらいの漫画好きでな。それで腰抜かしたそうだぞ。ガチで波紋の呼吸してたから、マックイーンが)

 

(かなり素質はあったわけか…。あたしも先輩に横隔膜突かれて、波紋の呼吸ができるようになったし)

 

(だな。テイオーもめっちゃ喜んでたぞ。足が柔らかすぎたのが怪我の原因だったから、波紋法でそれに頑強性が伴うようになるから)

 

「スペ、グラスワンダーが悩んでるったな?」

 

「は、はい。なんか激太りしたとか?」

 

「マックイーンが作った秘密の特訓場がある。そこで前会長達は極秘に特訓をした。お前も次のドリームトロフィーに向けて鍛え直すぞ。トレーナー、メジロのおばあさま(メジロアサマ)にアポ取れるか?特訓の事は把握してるはずだ」

 

「今日の放課後でいっか?お前なら、顔パスで会えるだろ?」

 

「マックイーンは知ってんのか?」

 

「ドーベルが伏せるように言ってるだろ?あんな特訓はまず近代のスポーツ医学の常識を超えてやがるからな」

 

「しかし、波紋の呼吸か…。お前ら…チベットに行ったのか?」

 

「行けるかよ!つか、知ってんのかよ!?」

 

「高校の頃、読んでたし」

 

「読んでたんかい!?」

 

トレーナーはなんと、普通に波紋の呼吸を知っていた。それが出てくる漫画のファンであったからだという。

 

「なんだ、ここのトレーナーは知ってやがったのか。邪魔するぜ」

 

「シリウス先輩!?どうして、この部室へ?」

 

「そいつ(ブライアン)に用があったんだが……ゴルシもいるたぁな」

 

シリウスシンボリはルドルフの復活の理由を探る内に、波紋の呼吸などを知り、いつの間にか、スピカによく顔を貸す『部外者』のポジションになっていた。ブライアンのタネを聞き出した故でもある。

 

「つか、ゴルシ…。どこで波紋の呼吸をガチで覚えやがった?」

 

「知り合いがその修行を修めた奴で、紹介されたんだよ。近代医学で無理なもの(ウマ娘のガンとも言われるレベルの難病)も治せる最後の手段ってな。そいつは横浜に来てた修行僧から教わったとか…」

 

トレーナーに言ったそれは本当だが、世界が違う。しかし、波紋の呼吸の実在は、ウマ娘のアスリートとしての宿命である『アスリートとしての短命さ』の克服に繋がるものである故、ゴルシは積極的に広めている。

 

「マックイーンが特訓場を作ったそうだな。連れてけ」

 

「あんたは幽波紋(スタンド)のほうが似合いそうだけどな」

 

「メタなネタはやめろってんだろ」

 

と、ゴルシはメタフィクション的な台詞を吐き、シリウスは止めさせる。

 

「お前、ビリヤード得意だろ?ハスラーで食っていけると思うぞ」

 

「飯のタネにする気はねぇよ。昔、そういう映画があったな、そいや…」

 

シリウスはマイキューを持つくらいには、ビリヤードを趣味にしている。飯のタネにする気はないそうだが、現役時代から『日本ウマ娘界きってのハスラー』として名が通るくらいには有名な趣味だ。

 

「ナカヤマの奴にドンジャラで負けがこんでるそうだな?あとでどうだ?玉突きであたしとやり合うってのは?」

 

「テメェと?ハッ、テメェにやれんのか?」

 

「どうかな?」

 

ゴルシはビリヤードを嗜んでいるような口ぶりを見せ、ニヤリと笑う。シリウスは『ちゃんとマックイーンのもとに連れて行く』のを条件に、その挑発に乗る。

 

「いいだろう。ただし、マックイーンのもとへ連れて行けよ?」

 

「乗った!」

 

――かくして、その日の夕暮れ メジロ家の敷地内――

 

「あの……ゴールドシップ?これはどういう事ですの?」

 

「え?あたしらだけで使うのはずるいだろ?それで連れてきた」

 

学園の大物の殆どが特訓場に集まる事態になっていた。寮長のみならず、生徒会の役員(現任、前任問わず)も多くがおり、皆が同じ結論に至ったらしい。

 

「すまない、メジロマックイーン。いつの間にか広まっていてね…」

 

ルドルフが謝罪する。

 

「同じような特訓だけだと、ルーチンワークになりがちだし、偶にはこういうのも悪くないねぇ」

 

「ヒシアマゾンさん」

 

「ごめん、マックイーン。だけど……私達も、もう一度だけ委ねたいんだ、この体の血潮に、ね」

 

「フジキセキさん………」

 

「よし、みんなかわりばんこで修行を行う。将来、他校との交流レースもあるやもしれん。あらゆる事態を想定しての修行と考えるように!」

 

『わかりました!』

 

こうして、マックイーンが作った波紋法の特訓場はウマ娘有志一同の特訓場となった。どういうわけか、波紋の素質を皆が一定水準以上で有しており、しかも、(種自体が闘争心の塊であるためか)会得も通常よりも早く、寮長や生徒会役員クラスのウマ娘達は数週間もあれば、『そそり立つ壁』を登りきり、実用水準の波紋を練れるようになっていく。ウマ娘のピークアウトは『世界での自分の役目は終わった』事を魂のレベルで感知する事をきっかけに起こるとも言われているので、それに抗う意志を明確に持たせる意図も、この修行にはあった。いくら医学的に『治癒して』も、一つの凶事をきっかけに、ウマ娘個人のの精神力が弱まれば、容易にピークアウト現象は起きる。人間のアスリートのピークアウトには『自身の加齢による衰え』も大きく関係してくるが、ウマ娘の場合は『前世での顛末』も大きく関係する。それに自己意志などで抗うための術を、ゴルシはいつしか探し求めるようになった。その事への回答がゲッター線による闘争心の増大や、波紋法による諸効果であったといえる。

 

(運命の女神さんよぉ。あんたらがあれこれ動いたんだろうが、あたし達はあたし達の意思で、『定められた運命』に抗ってみせるぜ)

 

ゴルシは運命の三女神に向けての独白をする。自身の遭遇したできごとを加味した上でのものでもある。同期のジェンティルドンナや一期先輩のオルフェーヴルが現れたおかげで、『現役生活』をやり直す事になったゴルシはレースを『ひっかき回してやる』と意気込み、波紋の修行に勤しむ。ある意味、波紋の想定されていた使用法のうちの平和的な利用例の一つであったといえる。特訓場に彼女らの修行による独特の呼吸音が静かに響き渡る…。

 

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