――ウマ娘世界。アオハル杯第三戦の日程が冬に決まったわけだが、サクラローレルが一世代下のウマ娘と鎬を削る形で台頭し、世代の強豪として、本格的に名を馳せ始めた。この頃には、サクラローレルは凱旋門賞への超戦を公言した。史実の世代を考えると、ゴチャゴチャ感があったが、ブライアン世代とディープインパクト世代が共に現役にあるというのも奇妙であった。本来はお互いに10年ほどの世代差があるからだ――
――ウマ娘達の世代交代のサイクルは人間のアスリートより遥かに早い。これに疑問を呈する者も多く、走り続けたいウマ娘も多かった。ドリームトロフィーレースは、相次いで起こった『かつての悲劇』を鑑み、そうした要望に応える意図で設立された。だが、実態は『実績はあるが、盛りを過ぎたウマ娘達の馴れ合いの興行』という揶揄がまかり通る有様であった。その揶揄の払拭のため、協会の会長に就任した『シンザン』はゴルシと契約を交わした。ルドルフやタマモが波紋法と措置で往年の実力を取り戻し、ドリームトロフィーを蹂躙したのを皮切りに、平成三強も続いた。平成三強は別名で『永世三強』ともされる。これは後の世代の三強とされた者はオグリたちのように『常に、同程度の強さで切磋琢磨していたわけではない』からである。例として、世代が近縁である『BNW』はビワハヤヒデが突出してしまい、他の二人は霞んでしまっていたからだ。故に、三強と呼ばれた場合、彼女らを指す言葉となる――
――シンボリルドルフ、タマモクロスに続き、平成三強も華麗なる復活!!次回のドリームトロフィーレースの開催は大盛りあがりであり――
かくして、往年のスター達の華麗なるカムバックに際し、現役のエース格との対決の特別レースが模索された。ウマ娘の界隈では、全盛期を保てる時間が短い都合か、世代代表で最強同士がぶつかる事は少ない。一世代しか違わなかった場合でさえ、片方がピークアウトしていた。なので、『文字通りに全盛期のウマ娘が世代を超えて、本気でぶつかる』事はまずありえない現象と見なされていた。アオハル杯とは別枠で開催が模索されだしたその企画は、後に『メイクスタークライマックス』という形で実現を見ることになる。
――チーム・ブリュンヒルトの快進撃は世間にも知られていた。アオハル杯は協会公認のレース行事でもあるからだ。メンバーに独占感はあるものの、歴代の強者が全盛期の強さで集まるというドリームチームぶりは他のチームを圧倒していた――
「ブライアンさん、私と勝負してくださる?」
「お前はゴルシの同期の……ジェンティルドンナ?」
「ええ。あなたの実力が全盛期に戻ったというのがハッタリか。それを確かめたいのですが、よろしいですか?」
「お前の事は奴から聞いている。戦車並のパワーだというが?」
「あの方……いいたい放題ですのね」
ブライアン(のぞみA)にジェンティルドンナが模擬レースの誘いをかけてきたので、ゴルシの言っていた評価を教えてやる。さほど動じないのは、トリプルティアラの継承を確実視されている故の余裕だろう。
――こうして、歴代の三冠達成者の中でも『パワー重視』で鳴らした者同士がレースでぶつかりあった。ジェンティルドンナはあのカワカミプリンセスすらも更に超える怪力の持ち主であり、怪力魔法発動時のバルクホルンが赤子に見えるほどの超常さを誇る。それでいて、史実の父であるディープインパクト譲りの速力も兼ね備える強豪ウマ娘であった――
――おお、バルクホルンさんが泣くレベルの怪力だ……なぎささんとほのかさんも軽くねじ伏せられるレベルじゃないか?
スタートダッシュの踏み込みで、その場にクレータを穿つレベルのパワーを見せ、速さもこの当時の現役組でトップレベル。まさに隙がない。おそらくは単純な腕力では、キュアブラックとキュアホワイトをも超えているだろう。その彼女のタックルを逆に跳ね返した史実を持つゴルシの体幹の良さがわかるというものだ。
(だけど、こっちもぶつかりあいのプロだって……の!!)
ジェンティルドンナとの競り合いは、小手調べと言わんばかりの彼女のタックルで幕を開けた。史実では、オルフェーヴルがこれで怯んだという記録がある。だが、のぞみは百戦錬磨の戦士であるが故に、タックルを受け流してみせた。公式レースでは、危険行為と見なされる場合があるが、一、二回は(海外組との叩きあいでは『当たり前の行為』である故に)黙認されている。
「!!」
「フ……お前のタックルに耐えられるのは、ゴルシだけではないという事だ」
わざと煽ってみせる。ジェンティルドンナも初手から戦術を読まれたことで、流石に精神的に動揺が表れた。それは数秒間であるが、領域持ちのウマ娘にとっては、充分な時間であった。
(しまっ……!)
「勝たせてもらうぞ、ジェンティル。この勝負!!」
のぞみAはナリタブライアンの肉体との同調率が高まっており、ブライアンが持っていた『領域』(俗に言う、超集中のようなもの)をイメージすることで任意に発動できるようになっていた。それを発動させたのである。彼女を紫色のオーラが包み、一気に加速していく。ジェンティルドンナは若さ故に、その域に達してはいなかった。つまり、地力だけで、全盛期のブライアンと渡り合えるだけのポテンシャルを誇っている事でもある。つまり、領域を用いなければ、泥試合化しかねなかったということでもある。
「地力では互角のはず……。到達していないというだけで……くっ!」
数馬身ほどしか離されないあたり、彼女の地力の証明にはなる。だが、いくら史実で『神に愛された』ジェンティルドンナといえど、場数を踏んでいない状態では、既にアスリートとして完成の域にあったブライアンに勝つのは『まだ』無理な話であった。それでも、極端な差はついていない。
「私に……何が足りないと?」
「お前は輝かしい未来を得る権利があるし、それをモノにできる力もある。足りないのは場数だ。場数をある程度踏めば、この力もモノにできるだろう」
ゴルシの話では、桜花賞の時点で『領域』を展開できるようになるだろうというほどの才覚を持つというジェンティルドンナ。ジュニア期の地力だけで、ナリタブライアン(全盛期)に離されないだけの差に持ち込むということは、全盛期にはどうなるのか。
「末恐ろしいよ、お前は」
「……!」
レースには負けたが、当代の三冠ウマ娘に太刀打ちできる事が証明された事で、自信をつけたジェンティルドンナ。
「さっそく、若いモンに喧嘩を売られおってからに」
「タマさんか」
「ジェンティルドンナ、ウチを知っとるな?」
「……はい」
史実で遥かに上の世代である上、ウマ娘のレースの世代としても、有に三~四世代は上であるので、さすがのジェンティルドンナも、タマモクロスには敬語で接する。
「ルドルフからの伝言や。うちのチームに入る気はないか…と」
「単刀直入……ですわね」
「イエスかノーか?はっきりしぃな」
「大昔の日本軍の大将が言ったという伝説のような事を……。イエスですわ。これでご満足かしら。ゴルシさんと戦うことに興味はありますが、学園全体の危機ならば」
「話は決まりやな」
「なんでぇ。割とあっさりじゃないかい」
「イナリ。ワレも来たんかい」
「会長さんからの通達があったんだよ」
イナリワンも姿を見せる。史実では、ジェンティルドンナより遥かに上の世代であるので、本来は会うはずのない組み合わせだ。
「ルドルフからやと?」
「ああ。チームファーストと次で初の顔合わせになるそうだ。メンバーが豪華すぎるから、くじ引きで決めようかってことになるとか?」
「スプリンターは固定やけど、マイル以上はルドルフ以降の世代のエース格が、あらかたおるからのぉ。あ、マルゼンは例外か。あいつは史実での世代が突出して古いし」
チームブリュンヒルトの陣容は突出しており、スプリンターとダートに隙がある以外は無敵に等しい。三冠達成者が二人もいる上、各時代のエース格が揃っているからだ。普通なら、盛りを過ぎた者達と言われそうだが、直近のタイムは絶頂期のそれであったので、皆が腰を抜かしている。ウマ娘の絶頂期は長くて一年半から二年、短ければ、半年未満。怪我での短縮は充分に起こり得る事なので、ウマ娘達は刹那の時に全てを賭ける。だが、それに疑問を持つ者も多く、それがゲッター線と波紋法の力への縋りつきに繋がった。『惨めな最後は迎えたくない』。ある程度の実績のある者達ならば、有終の美を飾りたいもの。足を怪我したままで現役を終えれば、後世での評価は下がる傾向にあったからだ。
――ウマ娘世界での出来事はこうして、次のステージに向かう。では、他の世界はどうか?――
――魔女の世界では、カールスラントに流された史実の戦後東西ドイツの対立の情報が同国の秩序を結果として、崩壊に導いた。西側住民の東側住民への蔑視の露見はカールスラントの西部と東部の元住民の凄惨な殺し合いに発展していき、それで身寄りが全滅した魔女も多い。NATO軍の介入で内乱は沈静化したものの、双方の住民の心に不信と憎悪が渦巻いた。同国の国内秩序はこの内乱で破壊し尽くされ、クメール・ルージュ崩壊後のカンボジアやアフリカの民族紛争よろしくの散々たる有様に落ちぶれた。NATO軍の統治は20年以上に及ぶ予定であった。これは東部出身であった者らへの私刑すら横行している状況を抑えるためである。日本連邦はカールスラントの有様を引き起こす原因の一端を担った責任を取らされる形で、やむなく超大国化をさせられていくのである。通常兵器の保有数削減を進めようとした日本側はその外圧に困惑し、結果として、超兵器の少数配備での秩序維持を認めた。それが凄まじい勢いで推進された結果、MSやコンバットアーマーが使われだしたのである。更には、スーパーロボットも。日本の左派が失態を重ねたためである。戦艦と空母の保有数も結果として、戦前期から減らされることはなかった。これは他国が軍縮を始めたため、独善的な軍縮が国際的に許されなかったからだ。彼ら(日本の市民団体)が扶桑各地で起こした『怪異の封印を壊す』事態への対処と損害賠償への対応もあり、扶桑に日本と同等の銃刀法の規制を当てはめるのは(物理的に)不可能とされ、武器の保有は厳格な許可制かつ、怪異の狩猟免許の創設(その時点で軍部にいたり、在籍経験のある魔女は自動的に免許を有する)ということで妥協された――
――結果として、この変革を性急に推進させた日本は扶桑の軍事力の維持を容認せざるを得ない状況となった。予備役制度にも重大な影響を与えたからである。軍事的には、戦艦・空母・巡洋艦は『扶桑にしか運用ノウハウがない』からでもあった。魔女の取り扱いにも難儀したので、結局は一部の極限された人員におんぶにだっこな状況を容認していく。新規育成の拡大が困難であったり、一部の特異体質者以外は才能を発揮できる時間が有限であったことで、費用対効果に疑問符がついたからである。国家総力戦では物量が最重要視される故に、魔導触媒のリソースを食う割に、戦果が得られにくくなった航空魔女とその装備に割く予算は減らすものとなっていたのだ。ダイ・アナザー・デイのサボタージュで、魔女は厄介者のレッテルを貼られたからである。その一方で、国家組織にあくまで忠誠を尽くせば、軍内で『特権』を保証されることが示されたことから、思想の『転向』をする魔女も太平洋戦争から増え始めている。仕方がないが、政治に興味を持った時点で『危険分子』と見做され、出世が閉ざされるリスクが大きくなった故であった――
――軍組織はそんな時代の流れに適応しようと奮闘した。その代償は『横の繋がり』が希薄になり、部隊間連携が困難となることとして生じた。日本の組織は良くも悪くも、人員の『横の繋がり』で物事を運んでいた事を示すことになった。結果、黒江達の同期、あるいはその前後の期に属していたであろう、有能な将校らが現場の中枢を占めていくのである。この頃になると、扶桑皇室と軍部の繋がりはほぼ断ち切られていたが、儀礼上は『皇室から軍隊を借り受けている』扱いのままであった。これは扶桑への配慮で残された文面であり、内政干渉との扶桑国民の批判を躱すために、日本も妥協的に承諾した事項であった。近衛が連隊に縮小されつつも存続したのは、扶桑では『近衛は不祥事を起こしていない』事に日本が配慮(史実での事件が起こっていないので、事件の咎を咎めようがないのだ)した関係である。皇宮警察も自身が21世紀に不祥事を頻発したことから、扶桑の近衛へ居丈高に振る舞えなくなるなど、恥を晒した。また、日本と違い、怪異がいることから、『警察力でどうにもできない』という現実があったからだ。そのことにより、皇宮警察は扶桑では史実戦後の立場になることはなかった。その代わりに、近衛師団を連隊へ縮小させることだけは認めさせ、扶桑の皇宮警察を自分達の指揮下に置かせた。日本警察の策略で『成功した』のはそれだけであった。軽武装が当たり前であった戦後日本の現場の警察官らは死傷率が高いであろう『扶桑への出向』を強く嫌がっており、警察庁も怪異関連の事柄への関わりを避けたことによる――
――扶桑皇国の航空戦力は急速に近代化され、耐Gスーツなどが短期間に標準装備となった。この近代化に追従できなかった魔女装備は発達が急速に鈍化した。第一世代理論の限界に突き当たってしまったのだ。ダイ・アナザー・デイで実用化された『F-86』がそのまま太平洋戦線でも主力であったのは、それに代わるべき後継機は生産の遅れと生産数の抑制により、まったく普及していないからだ。とはいえ、ジェット時代への入門としては、充分な効果を発揮したのが『ハチロク』であった。実機は早期に退役になったが、ストライカーの方は第三国での現役期間を入れると、1980年にまで及ぶ期間、現役であり続ける。1949年当時においては、扶桑空軍の各部隊で使用されるジェットストライカーとして、もっとも普遍的な機体であった――
――スオムスはいらん子中隊にまつわることをA級機密に指定していた事を1945年の国際会議の場でこれ見よがしに咎められ、軍事的・政治的地位の向上をし損ねることになったばかりか、日本連邦に首根っこを掴まれ、無惨に失禁するようなポジションに落ちぶれてしまう。皮肉にも、1945年は『1930年代後半から戦ってきた古参の魔女たち』の引退期にあたり、戦力の低下は避けようがなかった。だが、日本連邦に多数出現した特異体質者がよってかかって、『一騎当千の強者』であったため、軍事的に対抗する術は既に失われていたのである。マンネルヘイム大将(大統領を兼任)は公然と、軍組織ごと日本連邦に糾弾される羽目となったが、モントゴメリーと異なり、反論できる余地は残っていた。智子に白バラ勲章(スオムス最高の勲章)を授与していたからである。日本側の無知に助けられる形で、マンネルヘイムは辛うじて、自らの名誉は守られたが、陣営を史実で鞍替えした事実には変わりはないので、日本連邦からの信用度は低く、彼自身はその後、信用を勝ち取るための前線指揮をせざるを得なくなり、国家指導者でありながらも、苦難の道を辿ったという――
――ガリアは軍事上の地位の失墜を恐れる層が次第に国土復興派を圧倒。ティターンズ残党との非公式な関係の構築による軍事的復興を進め、日本連邦への敵意を次第に持っていく。だが、彼らは認識していない。既に海軍力で致命的な差が生まれていた事を。リシュリュー級を必死に改修したとて、日本連邦は既に大和型を更に二段上回る戦艦を保有していることに。同位国たるフランスの支援も受けられなかったため、軍事的復興に傾倒してしまうのは仕方がないところであった。ペリーヌは農業国としての復興を志向していたのであろうか?それは否であった。近代的な軍隊には工業力は必要だというのは理解していたからである。次第に娯楽イベントの開催を容認していくなど、状況に対応していったからだ。だが、心中は日本のように『国民が一丸となっての復興』を至上としていたようで、ラテン系の気質が少なからず残るガリア人には『無理難題』であったことに落胆していた。ペリーヌは生真面目すぎた故か、自国の国民性を立場上、完全には理解していない節があり、それが立場の悪化を招いた。エーリカの助言で、政治から距離を取る事とした彼女は『戦傷の療養と孤児院の設立の土地探し』を表明し、政治の舞台を一旦降りた。その直後、極秘の航空便で日本連邦に渡り、紅城トワとして生活し始めるのだった――
――地球連邦はデザリアム戦役後の組織再編で、その正式名称を『地球星間連邦』に改称した。同時に波動エンジン艦隊を内惑星巡航艦隊とは完全に独立した指揮系統にする事が定められた。これが『組織としてのアースフリート』の始点に当たる。当時、マゼラン級やペガサス級などの『内惑星巡航用の艦艇』はその需要が完全に縮小していた。より強大な波動エンジン艦がおもちゃのように『ポコポコと』沈んだりする宇宙戦争では、内惑星巡航艦の居場所はなかったのである。そのため、比較的に能力の高い内惑星巡航艦艇は構造強化工事の後に、波動エンジンへの換装を受けていった。かなりの大工事であったので、さしもの地球連邦軍も古い年式の艦艇の全てを改造するほどの財力はないので、比較的に能力が高く、年式の新しいものを改装する(更に船体疲労も低いものが選ばれた)ことで波動エンジンの増産を進めた。アースの波動エンジンは(技術的に)タキオン粒子を利用した機関であるので、量産の難度が次元波動エンジンより遥かに低いという利点があった。そのため、次元波動エンジンは(波動コアがブラックボックスに近いこともあり)次第に見放され、タキオン波動エンジン=波動エンジンの図式に統一されていく。これは『Xネブラ』のある側の地球の環境では、波動コアの複製が上手くいかなくなったためでもあり、タキオン波動エンジンであれば、彼らの技術でも容易に製造できたためである。アース側はこの技術混合に伴い、(本来ならば、24世紀に実現する)第二世代型波動エンジンである『プラズマ波動エンジン』の開発に移行し、現在に稼働中の宇宙戦艦ヤマトに代わる『第二代宇宙戦艦ヤマト』の構想を練り始める。この後継艦の開発は『ヤマト型を地球のシンボルにする』思想の芽生えと、後世の地球の人間達は記録している――
――ジオンは結局、ザビ家の犯した罪が大きすぎた事、シャアが集団ヒステリーを利用して、地球寒冷化を起こそうとしたという二重の罪により、地球圏から実質の追放となった。火星圏に一定人数の残党が逃げ延びていたが、それらは派閥抗争の繰り返しで疲弊しており、反乱を起こせる余力はないと見られていた。本当は拡散波動砲でのサイドの殲滅も元のティターンズ系の派閥から提唱されていたが、レビル将軍らの尽力で移民船団化が決まった。ドラえもんの力で、エッフェル塔やシドニー・オペラハウスなどの『失われた世界遺産』がオリジナルの部材で再建され、現存する都市への移築に成功したからである。キシリア派の犯した非道ぶりがドラえもんらによって正式に暴かれ、白日の元に晒されたことにより、連邦のティターンズ派への責任の押し付けすら不可能に陥った残党らは、デザリアムとの戦闘で地球に潜伏していた者の大半が殲滅された影響もあり、組織力が大幅に低下。宇宙にいた残党も、その主力がムーンクライシス事件とラプラス戦役で壊滅。旧公国系の残党はラプラス戦役で息の根を止められたのである。ミネバ・ラオ・ザビも公国の再建には興味はなく、同位体のメイファ・ギルフォードに後始末を任せ、自身はオードリー・バーンとして生きることにするなど、公国残党には残酷な結末となった。コロニーを守るために、名誉ある戦死を遂げたアナベル・ガトーが『英雄』として祀られたのが、せめてもの救いであった。シャアが元のティターンズなどの連邦の脱走兵らを捨て駒扱いしていた事も暴かれたため、サイド3とスゥイートウォーター(サイド1)の政治はジオンの切り捨てにかかったが、既に遅かった。結果、彼ら全員を移民船団に組み込む事になったのである。『ジオンのコミュニティが保たれている内に、どこかで静かに暮らしたい』。それが公国時代からのサイド3の住民の総意であった――
――元のジオン軍人の中には、戦乱期の到来と共に共和国軍への復隊ではなく、連邦軍に入隊し、純粋に人類のために戦った者も多い。特にガミラス戦役以降は顕著に多くなっていた。これはジオン軍人は自軍の残虐行為を戦後に知り、ジオンであったことすら恥じる者も多かったからだが、タウ・リンのように、双方を憎悪した末に、アナーキズムに傾倒した者も多い。ガミラス戦役などの星間戦争はそうした、『四つ以上の層』にジオン軍人を分裂させたのである。連邦も生え抜き軍人が戦乱続きで減っており、たとえジオン出身であろうが、MSで戦闘行動を取れるパイロットを得られるのなら、連邦軍は拒むことはなかったのである――
――話はウマ娘世界に戻って。時代は確実に史実でいう2001年以降に活躍していた競走馬達の世代が中心になりつつあった。その流れは世界そのものの要求であった。それに抗い、自分なりの『有終の美』を望む、それ以前の世代に相当するウマ娘達も多かった。それを実現させるため、ゴルシは意図的に、波紋法を広めたというわけだ。実際、ウマ娘としての基礎能力は1990年代後半以降の競走馬の転生である者たちが(それ以前の競走馬を前世に持つ者たちより)強い(種牡馬としてのサンデーサイレンス系が栄えた時期にあたるので)傾向が顕著になったため、(史実で言う)1993年以前に生を受けた競走馬達を前世に持つ者達は(自然と)引退を促されていた。それはサクラとメジロの冠名を持つウマ娘達の減少でも表れており、(サクラ冠名の衰退、メジロの将来における消滅の証左)ウマ娘世界でも、サンデーサイレンスを始めとする、外国の種牡馬の血統を持つ競走馬の生まれ変わりが確実にターフの支配層になりつつあったのである。それは抗う事の叶わぬ大河のような流れであった。マックイーンやサクラチヨノオーはこの流れに抗おうとしていたが、そればかりはどうにもできないものであった――
――サクラチヨノオーを始めとする、名ウマ娘を輩出したウマ娘育成クラブ『ヴィクトリー倶楽部』が経営者の高齢化などで閉鎖になって、数年。既に、サクラバクシンオーも現役を引退していた。史実でのサクラチヨノオーの甥にあたる、サクラスピードオーが奮戦していたが、彼女の実力では、サンデーサイレンス系の前世を持つウマ娘にまったく及ばなかった。時代はサンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービンらの血統の競走馬を前世に持つウマ娘の天下になろうとしていた。同時に、メジロの名を持つウマ娘たちも新世代の質が目に見えて悪化。落日が確実視される有様となっていた――
――メジロ家――
「マックイーン、新世代の子たちの質は見る影もない。わかるな?」
「はい、デュレン姉さま…」
マックイーンには姉の『メジロデュレン』がいる。菊花賞ウマ娘という実力者であるが、妹のほうが遥かに偉大な実績を挙げた事もあり、現役引退後の進路は知られていないが、メジロ家のトレーナーになっていたのである。
「ドーベルとブライトが引退した後、我がメジロには、G1を取れる器を持つ者はいなくなる。どうしたものか……」
「おばあさまはなんと?」
「ファラオやロンザンは期待できぬ、ベイリーが希望だと…」
マックイーンの顔が曇る。メジロベイリーはメジロ最後のG1馬である。それがメジロ最後のG1制覇である。そして……。
「これからどうするつもりですの……」
「下手すれば、私等の子の代には『レースから手を引く』ことになるやもしれん。叔父様はレースに興味がないからな…」
メジロの栄光の終焉が現実問題になったこの頃、マックイーンはアサマの直系の子である事から、(遠からず)メジロ家の当主となる事が確実視されていた。だが、周囲はマックイーンの叔父を繋ぎで次期当主としようとしていた。叔父は優秀なビジネスマンだが、一族が何十年と続けてきた『レース』への情熱は持ち合わせておらず、姪達にも冷たく接するため、これまで鼻つまみ者であった。
「叔父様はレースに興味はない。だが、おばあさまがお隠れになれば、繋ぎで当主になるのは間違いない。どうしたものか」
「私の学友に相談します。その方はおばあさまも知っておいでですわ」
マックイーンは叔父の当主就任を未然に阻止すべく、史実での自身の孫であるゴールドシップを頼ることを選ぶ。そして、もう一組の孫であった『ドリームジャーニー』と『オルフェーヴル』の姉妹にも話が伝わり、一騒動が起こった後、メジロ家の継承権は最終的にマックイーンの手に渡る。それはここから更に数年後の話である。ゴールドシップは史実で自分がメジロの血を継いでいたことを自覚している。マックイーンと容姿の相似性があった事もあり、マックイーンの前では口に出さないが、裏では『身内』として行動していた。マックイーンの母方の叔父がメジロの名門としての歴史を終わらせてしまうことを危惧した現当主の承認を得たゴールドシップはオルフェーヴルらの協力で、件のメジロ家の叔父を家内で『失脚』させ、マックイーンをメジロ家の正式な継承者に仕立て上げる。それが史実の祖父であったマックイーンへの親孝行であった。
――サクラローレルはまさに古馬戦線で昇り龍となっていた。ブライアンの低迷と入れ替わりで世代の王者となりつつあったわけだ。史実で言う絶頂期に入りつつあった。サクラ軍団最後の大物として名を馳せ始めていたわけだ。一見して『面倒見のいいお姉さん』という雰囲気の彼女だが、世代最強であったブライアンに病的な執着を抱いていた。これは彼女が真価を発揮する頃には、ブライアンは低迷期に入っていたからである。この執着について、ブライアンの親類であるナリタタイシンはこう述べている――
――ローレルのヤツは……、ブライアンの強かった時期に走れなかった。それで、絶頂期の頃の実力を持つ状態のブライアンをぶち抜く事を願ってると思う――
だが、ローレルは前世と同様に脚部不安があり、絶頂期のブライアンと戦えば、彼女の脚が持つ保証はどこにもないという。それはトレーナーの間でも囁かれていた。ブライアンも、担当トレーナーがいた頃に聞いた事があった。故に、サクラローレルに待ち受ける悲運を変えようと思い立ち、王座に返り咲く決意を固めたのである。それは史実での『97年古馬戦線』にブライアンが殴り込む事を意味する。史実では、とうに引退していた時期にあたるので、激戦は必至だろう。
――その一方で『黄金世代』と言われる『98年クラシック組』相当のウマ娘の多くは早期に現役を退いていたため、古馬戦線は97年より前の世代と99年以降の世代が入り交じる混戦模様となっていた。そこに全盛期の能力値を取り戻しつつあるブライアンが舞い戻るのだから、大いに盛り上がるのは必然であった――
――ある日――
ブライアン(のぞみA)は肩慣らしに出たGⅡ級のあるレースで、ブライアンの後輩世代のウマ娘達をぶっちぎった。ブライアンの体に馴染み始めた証でもあった。一連の復活劇は『奇跡』と称され、ウマ娘レース界を賑わせていた。
「ブライアンさん、どこでトレーニングを積んだのですか?」
「あいにく、企業秘密という奴だ。私に昔の力が戻った以上、マヤノ、マーベラス、ローレルの好きにはさせん。ディープインパクトは見どころはあるが……まだ青二才だ。経験を積むべきだ」
雑誌記者へのインタビューに当たり障りがなく、なおかつブライアンらしい『粗野な』雰囲気を両立させる演技は至難の業であり、マヤノトップガンの監修を受けている。記者が去った後……。
「ハヒー……こういう荒っぽいキャラ、あたしのキャラじゃないんだよなぁ」
「ご苦労さま~。はい、焼き肉弁当」
「元の体なら、そろそろ胃がもたれるけど、不思議に食えるなぁ、この体」
「ブライアンさん、肉好きだから。それに、マヤ達の体はアスリート向けだから。持続力がその代わりに短かったけど」
記者が帰った後、部室に顔を出したマヤノトップガンから差し入れをもらうブライアン(のぞみA)。ブライアンの体は肉食を最適なエネルギーとしたのか、三日三晩、焼き肉弁当でも胃がもたれない。かなり濃い味付けであるのは、ブライアンの体がそれを求める体という。
「すみません、女史。妹の頼みで、このようなことを」
「なに、戦い続きだったから、いい骨休みになるさ。ハヤヒデちゃん」
のぞみAは休暇代わりという事もあり、入れ替わりを満喫している。ビワハヤヒデが様子を見に来た。のぞみは体に馴染むためか、この日はブライアンの持つ中では通常時の勝負服を着ている。
「ローレル君には感づかれてはいないようですが、くれぐれもご注意を。彼女は鋭いウマ娘です。それに……」
「それはみんなから聞いてる。なかなかに業の深そうな話だねぇ」
「ええ……」
ハヤヒデの心配は『入れ替わりが露見しないか』であったが、生徒会を含めた有力ウマ娘たちの過半数が『グル』であったので、今のところはバレていない。ブライアンに『脳を焼かれたのか?』といいたいくらいに、ブライアンを倒すことに執念を燃やしているサクラローレル。今回のできごとに加えることは生徒会でも議論があり、今のところは結論が出ていない。とはいえ、ローレルはまさに全盛期に入りつつあった。中山記念を勝ち、天皇賞・春を間近に控えている。これが史実で『もっとも強く輝いた』レースであるのは、ファンには有名だ。
「次の大レースは天皇賞・春です。女史はいかがなされるのです」
「世間が望めば、私は出るよ。ブライアンちゃんならそうするだろうし。幸い、優先出走権は得たからね。表明も前走でしといたし。史実であなた達が激走したレースに混ざるのは、本意じゃないけど、これもブライアンちゃんのためだ。やるからには、勝つ。勝って、ブライアンちゃんを世代の王座に返り咲させる」
衰えを見せているとされていたブライアンが王座に返り咲いた証明には、天皇賞・春級の大レース(かつての八大競走相当)が必要とした。のぞみはこの日に夜中まで迷った末に、更に翌日、『ナリタブライアン』として、この年の天皇賞・春に出走を表明。史実を超えるための戦いの第一章の幕開けであった。
――そのまた次の日のスポーツ新聞の見出しは『ナリタブライアン、天皇賞・春への出走を正式に表明。王座への返り咲きはなるか!?』というもの。史実では、その前にライスシャワーが隔年で連覇しているが、ライスシャワーは(ウマ娘世界では)まだ入院中であったので、それはまだ叶わない夢である。史実では、ブライアンは出走を回避したレースであるので、その時点で『IF』といえる展開であった。史実でのライスシャワーの終焉の地。その京都レース場で、(史実で引退式を行い、なおかつ現役時代に断念した)ブライアンが現役として出走するのは、何かの因果であろうか。のぞみは出走を決める日の夜、夢原のぞみとしての面識があるライスシャワーにに相談をし、彼女の後押しで出走を決めた。
――ライスはまだ走れないけど、ブライアンさんが願う事なら、のぞみさんは現実にできる。ライスも応援してるから――
その一言がのぞみを奮起させ、天皇賞・春への出走は決まった。締め切り間近であったが、元から前走の圧勝で優先出走権は得ていたので、なんとかセーフであった。
――かくして、天皇賞・春の幕は開ける。史実でのライスシャワーが勝った天皇賞・春と、その翌年のそれが混ざったような顔ぶれであったが、一部は現役を続けている、その前の世代の者達が代わりに出ている。史実でその双方に出ていた者達がウマ娘世界には『いない』ためであろう。
(ライスちゃん、見てて。あなたの代わりに……この天皇賞・春を……勝つ!!)
ライスの激励が効いたらしく、ゲート前で立っているブライアン(のぞみA)の体からは、はっきりと紫色のオーラが発しられていた。その様子を観客席から見つめるは……。
「あいつ、気合い入りまくりじゃん。何かあったの?」
「ライスに気合いを入れてもらったそうだ。それで、な」
「このレースの顔ぶれの半分から察するに、本当はライスが勝つはずやったんやろな。だけど、そのライスはリハビリ中。ライスの代わりに勝つ気なんやろ」
ナリタタイシン、オグリキャップ、タマモクロスの三者がいた。タイシンはブライアンの身内として、オグリとタマモは師匠ポジションとしての観戦であった。
「ファンファーレだ」
「丁が出るか、半が出るか。前代未聞やで……これは」
「それも、G1を…ね」
ファンファーレが演奏され、ゲートインとなる中、観客席の三人はさながら、『子供の運動会での出番を見守る親』のような心境であった。今後を占う一戦でもある。
「間に合わせの調整で、こんな大レースに出るなんて…。いくら、ブライアンの体を使ってるったって……!」
「タイシン、信じぃな。別人の魂が入ってても、体はお前の従姉妹のものや。それに、うちらは思いの強さで奇跡を起こせる種族や。ブライアンなら……!」
「で、でも……」
「タイシン、ブライアンは私の弟子だ。やってくれる。『彼女』がブライアンを信じるように、君もブライアンを信じるんだ」
「それはそうだけど……」
二人とは子供の頃から面識がある(ゴルシの歴史改変の副産物で生じた関係である)からか、普段の無愛想さはどこへやらのタイシン。本人は気づいていないが、タイシンのルームメイトであり、平成三強の一角『スーパークリーク』がタイシンへ抱いているのと似たような『親心』に至っていたようだ。
「始まるぞ」
ゴルシの歴史改変は細かいところで、ウマ娘達の関係に影響を及ぼしていた。オグリとタマモが『ブライアンやタイシンと、以前から関係を持つ』のも、その産物であった。その事から、ビワハヤヒデ、ブライアンとタイシンは縁戚関係にあることになる。
――ファンの期待を一身に背負って、完全復活を期す三冠ウマ娘・ナリタブライアン。気合い充分の模様です!――
TVの実況中継でそんな言葉が飛び出した直後、ゲートが開く。ブライアンとライスの思いを無為にしないため、のぞみは淀のレース場の第一歩を『ナリタブライアン』として刻むのであった…。