――扶桑軍は戦闘車両の区分があらゆる技術の発展で淘汰されてしまい、従来の構想が根本から崩壊してしまった事に狼狽した。当時、比較的に開発が順調であった『陸のストライカー』もその能力が開発中に陳腐化する有様であったからだ。その当座の対策で、扶桑空軍は地球連邦軍(と、アナハイム・エレクトロニクス社)から、単騎城塞攻略用MS『ジークフリート』を生産ラインごと購入。戦闘車両の保有数に制限が加えられるであろう政治情勢に対応した。日本はごく少数の超兵器が戦闘車両の需要を置き換えてしまう事に困惑し、場当たり的であるが、戦闘車両の保有枠を拡大すると伝え、双方の軍需産業への配慮を見せた――
――こうした扶桑の対応は日本の想定を超えていた。通常は各国で対応すべきところを単独でしなくてはならぬ点が悲劇であった。物量で絶対的に及ばず、物量合戦が不可能であった故の少数精鋭主義が極端に突き詰められてしまった形である。また、極端に前線指揮が尊ばれる弊害も生じているのは事実であった。連合艦隊司令長官が毎回、前線指揮を取らなければならないからだ。元々、日吉に司令部を移す計画があったのは、大和型などの戦艦を有効に活用するためであった。だが、日本からの猛批判で、日吉に司令部を置く計画は潰えた。結局、司令部は未来技術の塊である新戦艦に置かれつつ、時と場合で異動する事とされた。1949年初夏の段階では、最新鋭の戦艦水戸に置かれていた。播磨型の後継型である53cm砲艦は扶桑の国民への『示し』としても有効であった。播磨型と違い、当初より変形機構で波動砲を隠し持つのもそうだが、戦闘能力でも世界最高級なのは事実であった。――
――扶桑は1944年の事件後に呉の拠点としての再建を諦め、工廠の機能を南洋の秘密工廠を中心に移転し、呉は形式的な機能だけの再建と維持に留められた。街との付き合いというものがあるからである。同時に、横須賀と佐世保の機能強化も促進させた。また、室蘭、大神については、機能の強化に限度があるため、早々に見限れという声があったが、既に土地を強制的に買収済みであった事から、妥協的に補助工廠として整備の継続が決まった。本土のインフラ整備と国民の福利厚生に予算を削った分を費やせたい日本であったが、既に戦時であった故に、多くは軍隊の近代化に費やされた。敵に本土侵入を許した場合に、それを許した部隊の構成員に厳罰を与えるという頓珍漢な案も日本側によって出されたが、現場の士気が崩壊してしまうので、それは即時に却下された。M粒子で『完全な索敵』などは不可能となったからである。民事優先の日本だが、日本人がオーバーツーリズムを起こしたり、怪異の封印を解いてしまう問題の頻発、魔女への差別問題もあり、結局は扶桑に対怪異の自警団の結成の余地を認めざるを得なかった。日本の妖怪の類も『形を変えた怪異』か、『怪異の原初の姿』もしれないからだ。日本は元々、異能の研究をしていたが、2020年代には途絶えていた。魔女に寛容なところを見せなければ、日本は扶桑に『示しがつかない』からだ――
――結局、日本連邦は21世紀以降の時点で確立されていたあらゆる戦術を史実戦後の水準の兵器で試しまくった。地中貫通爆弾も多数が投入された。その結果、魔女の出る幕がないほどの弾雨が敵へ降り注いだ。武器の威力が桁外れになっているためである。魔女達の作戦参加率が大きく低下したのは、この圧倒的火力による破壊の光景の副次効果であった。当時の魔女達は『1945年当時に既に年長であった者』と『17歳以下であった者』達の対立が表面化した事が報じられ、世間的に魔女の社会的評価が大きく下落した後であったので、魔女の作戦参加率は大きく低下。64Fの主力の不在の状況では、1937年比で30%まで低下した。結局、統合戦闘航空団所属経験者でも、対人戦に忌避感を持つのがクローズアップされた結果、芳佳のワーカーホリックぶりを強調される形になり、世間体もあり、産休を伸ばすしかなくなった。また、参加する魔女の平均年齢も大きく上がり、平均で25歳になっていた。これは1945年で退役するはずの者達が(その直後の世代の追放で)退役できずに勤務を続けている事、新規入隊が一律で18歳と定められたことで、1945年当時に軍学校を卒業見込みであった者の入隊が遅れたためであった――
――軍隊の社会的旨みが減ったことによる『軍隊離れ』で、軍隊への人的資源の供給量は大きく下落した。この結果に日本も驚く羽目となった。予想以上に下がったからだ。仕方がないので、恩給や転職の際の待遇などを手厚くする事を社会全体で保障すると確約することで、求心力の維持を図った。戦後日本のような『軍事は日陰者』との論理は、扶桑には当てはまらないのである。元々、織田幕府の時代は『生存圏確保のための外征』を定期的にしてきたためであった。日本の国民はその歴史に驚愕し、結局、統帥の近代化などを行う、『織田幕府からの繋がりを強く意識させない』という妥協をする形で、風土改革の程度を弱めた。魔女狩りが欧州で起こった事も、日本が魔女の軍事からの追放の目論見を取りやめた理由であった。中世の魔女狩りの再現は誰も望んでいなかったからだ。その一方で、プリキュアとそれに匹敵する異能が『軍事外交に有用』であったため、その保護の恩恵に預かれたわけである。反感の多くは『通常の軍略に無知』であった事に由来するので、それは教育でどうにかなる。問題は魔女に排他的な風土があることで、64Fはそれを払拭するための役目も担っていた――
――結局、魔女達の政治的抵抗は徒労に終わり、自分達が却って、社会から排除されそうになる事態となった。日本連邦はその流れで、全世界から殺到する『魔女の義勇兵』に困惑。しかしながら、魔女の覚醒休眠期の扶桑には願ってもない出来事でもあった。世界の魔女の中でも『腕利き』を自分達の判断で使えるのだから、人的損耗を抑えるには、まさにうってつけであった。この出来事は『魔法の体系化』に大きく貢献する。日本連邦は異能に(比較的)寛容であったからだ。魔女はこうして、血を流すことで社会的信用を取り戻すしかなくなり、それまでの常識で『ロートル』と揶揄されていた『10代末期~30代』の魔女、魔女経験者が主に活躍する事となった。基準は『1945年当時に15歳以上かつ、ダイ・アナザー・デイにちゃんと参加したか?』というもの。1949年では、それが『勝ち組』か、『負け組』か。それを分ける材料であった。例外は歴代のプリキュアらであった――
――のぞみは数ある平行世界の一つからの転生である。つまり、オトナプリキュア世界との分水嶺は基本的に、『フレッシュプリキュアが2009年に生まれるか?』という点であった。大人のぞみのいる世界は『初期世代が引退しつつも、後続のプリキュアが世界を守ってきた』特殊な世界なのだ。従って、現役時代からの分岐はいくらでも生ずる事になる。その中でも、戦士として最強の存在となったのが、のぞみAなのだ。――
――彼女は未来世界を含めた、複数の世界での戦いで加速度的に強くなった。最終的には『ロボットガールズとプリキュアの間の子』と評されるほどに強大となった。これでも、64Fでは『青二才』扱いなのである。そこに至るきっかけの一つが『圭子の真の力の発露』であった。圭子は今次転生では『ゲッター線の使者』として存在しており、素でゲッターロボの技を放つ事ができる。エルヴィン・ロンメル元帥は圭子のその能力を把握した後、直ちに戦力の要とし、アフリカ戦線を数年は安定させた。その功績は欧州には『ロンメルの功績』として伝わっていた。それもモントゴメリーの政治工作であったが、彼の失脚の理由でもあった。結局、バーナード・モントゴメリーは史実での失敗と、アフリカ失陥の責任を問われるのが響く形で、実質の失脚に追い込まれた形であった。モントゴメリーは1945年当時、圭子にこう釈明していた――
――『扶桑に手柄を独占させないための政治判断だったんだ』――
モントゴメリーは三将軍の中では『協調性を比較的に選ぶ』ためでもあったが、裏目に出た形であった。モントゴメリーはこの策謀の繰り返しが仇となり、1945年での元帥昇進が取り消され、逆に降格される憂き目に遭った。彼の工作が尽く裏目に出たからで、ミーナの失脚の一因でもあった。その一連の騒動の後に、自分が外交問題の渦中に放り込まれたのが、のぞみであった。圭子はその際、『新聞社をストナーサンシャインで綺麗さっぱりに消し飛ばしてやろうか?』と冗談交じりに明言している。その時に思い切って聞いてみたところ、明確に『ゲッターの意志の代弁者でもある』と述べた。同時に、『昔からのダチのために、いてやってる』とも述べ、本来はゲッター艦隊で何かと戦う立場であるが、ゲッターエンペラーのお召星で『元の世界で仕事をする』ことになったと。騒動の後に早乙女研究所でバイトをさせたのは、ある意味でのお膳立てであったと言える――
――のぞみはこうして、ことはと共に早乙女研究所にバイトに赴いたわけだ。そこでゲッターロボGのメルトダウン、早乙女研究所の壊滅、ゲッターエンペラーとの邂逅というイベントに遭遇。それを経ての休養の期間に大決戦が起こったのであった。 大決戦の様子はその戦いに参戦していたプリキュアらがそれぞれの世界の仲間に伝えていったため、途中で尾ひれがついたのは言うまでもない。実際、のぞみAが一連のパワーアップを果たした後に平行世界のオールスターズ戦に参戦したところ……――
『カイザーブレェード!!」
胸の蝶形リボンの中央部分を柄に作り変える形で『カイザーブレード』を召喚。その戦いにおける現役組を差し置いて、トドメを刺すという見せ場を自分で作り、どこかでの地獄王ゴードンを倒した際のマジンカイザーのように『十文字に』切り裂いた。プリキュア5本来の能力ではないが、ラスボス戦には『ファイナルカイザーブレード』はうってつけであった。その際に、黒江仕込みの踏み込みからの振り下ろしをした事から、剣術に詳しい者から『じ、示現流!?』と驚かれ、苦笑交じりに肯定している。『自分は実際に手ほどきを受けている』からだ。その戦いが一種の契機となり、以後は(入れ替わりをした者達が大暴れしてしまうためもあるが)自分も暴れるようになる。それを受けて、大人のぞみも大暴れしているのであった。それはココの本来願っていた願いに相反するが、戦士に(すべてを放り出しての)安息は許されざることであることの証明であった。10人ライダーがそうであるように。のぞみAはその論理を受け入れていた。それは大人のぞみにも及んでいる。
――かくして、のぞみAは逆に『入れ替わる』側に立った。ウマ娘・ナリタブライアンとして。のぞみ本来のとっつきの良さは健在であるが、ブライアン風にしてはいて、『かったるそうに』承諾する風にしている。ローレルに違和感を持たれないための策であった。天皇賞・春に勝利したブライアンは『王座奪還』の成った身であり、現時点でシニア級『最強』の存在に返り咲いている。クラシック級にディープインパクト、ジュニア級にオルフェーヴルがいる状況では、そう表現するのが適当であった。この頃の協会はディープインパクトを次代の英雄として、大々的に祭り上げる方針であった。実際にディープインパクトはそれだけの実力者であった。史実同様に、脚があまり強くない(頑強ではない)難点はあれど、その速力は歴代屈指。早くも、ブライアンに次ぐ三冠を期待されている――
――ウマ娘世界――
「ほう…。こいつがディープインパクトという青二才か」
「君もうかうかしてられんよ?」
「あんたが出てきた時のシービーの気持ちが分かったよ」
ルドルフと示し合わせた内容の会話をしてみせ、食堂でディープインパクトを研究する。王座に返り咲いたブライアン、そして、生徒会からも引退したが、実質的に『院政』を引いているルドルフ。ディープインパクトは直に三冠を取る。だが、足の頑強さはむしろ低い部類で、これは後のコントレイルにも受け継がれてしまう特徴である。とはいえ、キャリア前半期に怪我していたコントレイルほどではない。故に、古馬戦を五体満足で走れたのである。
「しかし、なかなかの速さだな」
「レースを知り尽くしてるアンタが認めるんだ。ただの青二才ではないだろうよ」
わざとらしい感じがするが、半分は正直な感想である二人。のぞみにしては、かなりがんばっている演技である。黒江が予てより仕込んでいた事、転生前の経験の応用で形になっている。
「サクラローレルが君を嗅ぎ回っているようだよ」
「フン、クラシック期に走れなかったからと。執着されてもな…。姉貴に言って、釘を差してもらうか」
サクラローレルはクラシック期の頃に怪我を負い、その治療に手間取ったため、全盛期の訪れが『自分の一世代後がシニア期に突入する』頃になった。そのため、ブライアンへの執着は病的なまでに肥大化しつつあった。それにブライアン本人は(多少なりとも)怯える素振りを見せていた。これはローレルが世代最強へのこだわりを強く持ち、凱旋門賞が夢であった故だが、ブライアンにしてみれば、『やけに絡んでくるヤツ』という認識であった。なので、関係が曲がりなりにも良化するのはブライアンがローレルの苦難を知り、なおかつ、ウマ娘としての柵のないのぞみが本音を代言するようになる、この時期からとなる。
(夢原女史、演技力はどこで?)
(仕事で必要だからって、先輩に仕込まれた。それと、前世での生活かな)
のぞみはルドルフに『演技力』が高い理由を述べる。前世の生活で演技力が否応なしに高められていたのと、転生後の訓練によるものだと。
(我ながら、現役時代からは嘘みたいだって思うよ。後輩の仕事の手伝いも満足にできなくてさー…)
のぞみAは現役時代の出来事を思い出した上で、苦笑交じりに本音を言う。オトナプリキュア世界とは異なる道を辿ったのもあり、転生後の生活に満足しているとも続ける。
(転生前の仕事に戻ろうとも思ったけど、21世紀と同じ環境じゃ、ね。だから、1940年代の環境で気楽にやろうって思ったんだけど、ね。日本が『軍歴がある』ってだけで潰してきたからね。参ったよ。職業差別だから、先輩に頼んで、訴訟の準備してたんだ。政府が示談にしてくれって泣きを入れてきて、かなりふっかけた。政権をひっくり返せるからね、あたしなら)
のぞみAは騒動において、実は訴訟の準備を進めていた。プリキュア戦士であり、司法省にも多数のファンがいる以上、勝訴は決まったも同然であったからだが、日本政府が示談に持ち込んだのである。のぞみとしては、条件で大きくふっかけた。職業選択の自由の侵害などで訴えようとしていたからで、政府も(政権のスキャンダルになるのを抑え込みたかったので)二つ返事で了承した。その鬱憤晴らしをしたかったのも、入れ替わりの了承の理由の一つであるという。
(それで鬱憤が溜まっててさ。それを戦いとは別の何かで晴らしたかったんだよね。先輩達は二輪レースとかの趣味あるけど、あたしは現役時代に趣味らしいのなくて)
(わかります)
のぞみはウマ娘としてのレースを心底楽しんでいるようであった。陸上競技は現役時代に何回か機会があり、それなりに楽しめていたので、その発展形とも言うべき『トゥインクルレース』にどっぷりハマりつつあるようだ。ブロッサムの肉体からの影響だろう。
(ディープインパクトとはおそらく、彼女が有馬や宝塚記念に何回か出れば、間違いなくやり合うことになるでしょう。彼女もブライアンとの対決を望んでいるでしょう。先代の三冠であるブライアンを倒せば、現時点での最強を保証されたも同然です)
(ハーツクライは?)
(史実を考えると……彼女は長くは保たないでしょう。何かかしらの不調が襲うでしょうから…)
ディープインパクトの同期(史実では一期上)であったハーツクライはこの時期、『ディープインパクトの好敵手』と目されるほどの実力になっていた。史実で実際に土をつけているので、ディープインパクトに対抗し得る能力は充分にあった。だが、史実での喉鳴りに相当する何かが待ち受けている事を考えると、彼女の現役としての栄光は長くない。
(女史、ディープインパクトと戦うことになったら?)
(それまでにハーツクライちゃんが故障したら、彼女の役回りを演じるさ。ディープインパクトも無敗じゃないからね)
ディープインパクトとて、無敗ではない。それは周知の事実。ハーツクライは種牡馬としての実績が高く、現役時代の働きは『ディープインパクトに勝った』ことのみが伝えられている。ディープインパクトは史実において、ハルウララのフィーバーの終焉後、『全うな形で台頭した、ナリタブライアン以来のスター馬』ということで猛プッシュされた事もあり、一部から顰蹙を買っていた。それはのぞみも、ディープインパクトの現役時代に小学生であったので、辛うじて記憶がある。
(彼女が保たなかったら、彼女の代わりに、ディープインパクトに土をつけてあげるさ。仮にも先代の三冠だし、ディープの箔に傷はつかないよ)
ハーツクライには残酷な未来が待ち受けているが、その訪れが早まった場合、自分が代わりに『敗北を味あわせてやる』としたのぞみ。ブライアンに負けたのであれば、(後に雪辱を果たすにしろ)史実と違い、ディープインパクトに擬せられていた『最強』の幻想は保たれるだろう。
(まぁ、それは彼女がそうなったら、だけど)
(女史、はまりこんできましたね)
(戦いばっかだったから、こういう生活もいいもんさ。それに、昔は陸上競技じゃ、ドンケツばっかだったから、勝つ喜びを味わいたいんだ)
のぞみはそういい、ウマ娘としての入れ替わりの生活を満喫している。サムソンビッグが『気の良いウマ娘』であったので、事の次第を伝え、この頃には強力にのぞみのバックアップをし、口調などを監修している。ブライアンを『ブーちゃん』と呼び、それが許されている時点でそうだが、彼女もまた、ブライアンの戦友なのだ。
(現役時代、運動オンチでさ。その意趣返しを『学生』としてしたかったんだよね)
かつての自分を思い返したか、どこか遠い目をするのぞみ。他人になりきる形だが、運動神経抜群と言われるのは、気分がいいようだ。
(アオハル杯で対戦しそこねたポッケちゃんと対決するの、いつにしよう)
(ジャングルポケットのスケジュールが空き次第、私が彼女に尋ねます)
と、アオハル杯で対決をしそこねてしまったジャングルポケットへの埋め合わせの相談も行う。ジャングルポケットとしては拍子抜けながらも、かなり悔しい気持ちらしく、アグネスタキオンに散々に愚痴ったという。彼女は現在、かなり多忙なので、ルドルフがお膳立てをすると明言する。なんともはや、互いのスケジュールの違いとめぐり合わせのなせる業と言おうか。なんとやら。