――扶桑皇国は異世界の住人らの内輪揉めに図らずしも巻き込まれたが、ある程度は織り込み済みである。技術がほしいからである。ものの数十年程度の差であれば、戦時であれば、すぐに埋められると考えていたからだ。それは的中し、扶桑の科学力はすぐに1942年頭相当から1950年代後半相当に飛躍した。ただし、史実で絶えていた『砲熕型の大型戦闘艦の製造ノウハウ』は宇宙戦争時代の世界のほうが却って技術を持つため、必然的に彼等に頼ることになった――
――軽巡洋艦は阿賀野型を最後に開発が止まり、代わりに重巡がミサイルとの混成装備で生き延びた。VLSのおかげで、砲火力を削減しなくて良くなったため、内部容積に余裕がある重巡のほうが都合が良かったのだ。艦艇が軒並み大型化し、怪異の攻撃を避ける事よりも未然に防ぐ方に焦点が移ったのも大きかった。対ビームコーティングやバリア技術も導入されたが、気休めに近いと、真田志郎の談。真田志郎は扶桑皇国の軍事アドバイザーの仕事も引き受けており、艦艇の整備計画の修正には彼の存在がある。日本は後方支援艦艇を重視するが、肝心要の戦闘艦が『大正期建造のものが残っている』状況はよろしくないし、時代的に民間の港湾施設はまだ発展途上であるので、工作艦の存在は外せなかった。電子装備が必須となったため、前時代の工作艦で直せるのか?という問題も起こったため、結局は電子装備の修理のための浮きドックが整備されるに至る。全体的に艦艇の装甲が強化され、大型艦にはフィールド発生装置も備わった。これは怪異との交戦を想定したもので、逐次、改良が続けられる見込みである。港湾施設の近代化も併せて実行されているが、民間船がせいぜい数万トンの時代に『十万トンオーバーのマンモスタンカーなどを想定した設備』はオーバーに思えたが、史実での造船科学の発展具合から、計画通りに策定された。兵器の怪異化研究が破棄された引き換えに、未来兵器による近代化が策定されたのは当然のことだが、コンピュータ技術が必須なため、自衛隊に要員を出向させ、教育する方法が取られた。ミサイルは撃ったら、補充が効かないと嫌う者も多かったが、中・小型艦艇が単独行動を取る事は『魔女の世界』では自殺行為と同義であるので、問題はないとされた。魔女のあり方も通常兵器の飛躍で変わろうとしていた――
――ダイ・アナザー・デイで大量に雇われた義勇兵らはそのまま正式に軍人になり、太平洋戦争でも戦線を支えた。旧軍の解体後、空自に入隊した者も多かった故、機体が旧軍のそれから自衛隊の米国機になっても対応できたからである。中には、空自に在職していた時期に教導部隊にいた者もいたため、そうした人材が扶桑の新しい世代のパイロットらをしごいていた。瞬く間にF-86の時代は過ぎ去っていたが、レシプロ機よりはマシなため、戦争中は現役で飛ぶ予定であった。数合わせという奴だ。次世代機は高価な機材であったので、こうした『使い捨ての効く旧型機』は数合わせには最適であった。さらにパイロットを比較的短期に育てやすい特徴もあった。扶桑は数合わせの部隊に在来機種を宛てがい、精鋭に最新鋭機を回す(機種は時期で変化するが)軍事ドクトリンをこうして確立させていく。1950年代を見越した施策でもあり、扶桑はこの年代に『大日本帝国陸海軍と共通した習慣』の多くを取り捨て選択し、新時代を迎えていくのである…――
」
――遠征も終局が見えたある日、黒江はブライアンに尋ねた。大学を出たらどうするのか?と。ブライアン本人は『その頃になったら、改めて考える。凱旋門に挑む資格を得られるまで、長い道のりになるからな』と返した。ブライアン自体、実は高校の単位が半分以上残っていたからだ――
「お前なぁ。高校の単位、なんでそこまで放っておいたんだよ」
「私たちはデビューした場合、全盛期が短い関係で、在学期間が長くなる。本格化の後は急成長する代わりに、衰えも(個人差がある)早い。その関係で、私たちは普通の学生より学生時代が長いんだよ。とはいえ……悪かったと思ってる」
「よく、高校三年相当になれたな……」
「最低限度の単位は取っといたんでな。全盛期の頃は漠然と『ルドルフを超えた時点で引退をする』ことも考えていたが……今となっては、前世の無念を晴らすほうが優先事項になっているんでな」
「お前、前世の記憶を得てから、それが生きがいに?」
「そうだ。と、言っても、区切りは考えているさ。トゥインクルシリーズから退くタイミングは『名誉回復をした後の二~三年後の有馬記念』。引退した後は市民ランナーにでもしながら、ゆっくり過ごすさ。理事職の打診があれば、引退後に受ける。あるいは自分がトレーナーになるか…」
ブライアンは引退後の進路もそろそろ視野に入れてくるのが求められる年齢であるため、『話がくれば受ける』スタンスを取るようだ。
「選手として、やれるところまでやりたいと?」
「のぞみには言ってあるが、いつかは後進のために働く日がくるだろうが、それは『今日じゃない』。オグリさんを見てみろ。引退した後も走っているだろう?そういう道を歩みたいんだ」
ブライアンも『後進の育成に関わる日』がいつかは来ることはわかっているが、『一アスリートいられる』うちに『限界までやりたい』本音を伝える。それが競走馬としては不完全燃焼のまま引退せざるを得なかった前世の無念が蘇った事によるものだと認めた。
「高校を出たら、のび太さんちに厄介になる。姉貴が継いだら、私の勘当を解いてくれるだろうが、親戚連中に妙な噂が広まっても困る。姉貴に迷惑をかけたくはない」
「一度、勘当したのを戻すってのは、考えるよりハードルが高いからな。いくら法的根拠が無くなっても、慣習として生き続けている以上……」
勘当は戦後に民法から削除され、法的根拠はもはや存在しないが、人々の慣習的な意味では生き続けているため、ブライアンも実家の敷居を跨げない事を覚悟していた(下の妹たちが父親を強く責めたが、父親は親戚の手前、勘当を解くわけにもいかず、結局は家庭の不和を招いた自分の選択を後悔し、病を患うことになる)。
「日本は中途半端に旧時代の考えが生き残っているからな。勘当もだ。それでお家が没落したり、悲惨な例だと、大名から旗本に転落した名家もあるからな」
「あったのか?」
「幕藩体制になった場合は、どこの世界にもあることだ。最上家を知ってるな?あれもなかなか悲惨だぞ。最盛期には57万石の大大名だったのに」
最上家。最盛期には57万石の大大名であったが、最上義光の孫が起こしたお家騒動がもとで没落し、明治維新後も華族にはなれなかった(魔女の世界でも、最上一族は士族のままとのことなので、魔女が数百年は出ていないのだろう。魔女さえ輩出すれば、明治維新時に叙爵の名誉を得られているはずだからだ)。それを引き合いに出す。
「最上義光は英傑だったそうだが、その子孫がアレだったというんだろう?支配者が織田であろうが、徳川であろうと、似た出来事は起きるんだな?」
「伊達は織田と徳川の双方に強いコネを作っていたから、安土時代中はでかい顔してたが、伊達騒動は起こしてるから、そういうことだろう。お前はまだ幸運だ、ブライアン。時間が経てば、元の立場に戻れる。改易された大名の多くは復権しなかったからな」
正確には、子孫が旗本へ没落しつつも、明治維新まで続いた例も多いので、復権しなかったというのは多少の語弊があるが、大名としての復権がなかったのも事実だ。ブライアンには復権の道が明確に残されているので、改易にあった大名たちよりは遥かにマシであると言える。実際に勘当は(父親から家督相続したハヤヒデの意向で)解かれる事になるが、それは後の話になる。
「それに比べりゃ、お前は幸せだ。姉貴に家の当主が変わりゃ、勘当は解かれるからな」
「たしかにな。親父の死に目には会えなさそうだが……」
「流石に、それはおふくろさんが許さんだろ。それに、掌返しに怒っていて、親父さんと口論していたって聞いたぞ?」
「おふくろは親父の方針に反対していたからな。私が全盛期の頃に、色々と事業拡大を考えていた親父を止めていたようだ」
「そういうのはよくある。おふくろさんは事業拡大など望んでいなかったのに、親父さんはお前らが儲けるだろう子供に『まとまった金を残せる』って思ったんだろう。お前が順当に勝ち続けていれば、億単位で金が入り続けただろうし、お前と姉貴の威光で支店を持てると考えたんだろうな」
「おふくろは慎ましくやっていければ良かったんだろうな。私と姉貴が名を馳せたことで、親父は夢を見たんだろうか…」
「自分の代で家を大きくできると考えたんだろうよ。そういうのはな。バブル期の頃、豪農のボンボンが俄仕込みでマネーゲームをしようとした挙句の果てに、バブルが弾けたために借金地獄になって、結局は貧困層に落ちぶれるってパターンが有名だが、いつの時代も、目先の金に目が眩む奴はいるんだ」
「知り合いにいたのか?やけに詳しいな?」
「のび太んちの近所にいるボウヤ、知ってるだろう?あそこの家の父親の一族がそのパターンで破滅したんだよ。ボウヤがまだガキの頃だ。その父親も、残された家族に何も残さずに、ボウヤが成人したかしないかの頃に病没。ボウヤと姉貴、母親、危うく路頭に迷うところだったんだ。それで俺、『ボウヤの母方の祖父の存命中に仕事で世話になった誰か』を装って、金銭援助してるんだよ」
「障害が重い、あのボウズか。障害のせいで舌足らずだが、あんたに懐いてるんだよな」
「舌足らずで、足と手に障害がある以外は普通だよ。子供の頃のいじめのせいで、心に傷を負ってるから、他人に心をなかなか開かなくなっちまってるがな。ジャイアンがかわいがってたんだが、ボウヤは家庭の事情で、街を離れた時期があった。その時期にいじめられていたんだ。ジャイアンが知ったのは、ボウヤたちが戻ってきてからで、憤っても、後の祭りだった」
黒江はのび太の家の近所に住む一家を例に出す形で、自身が金銭トラブルや相続問題などでの家庭環境の悪化に詳しい理由を説明した。野比家の近所に住み、2020年代時点では、スーパージャイアンズの従業員をしている身体障害者の青年の抱える、生々しい問題。黒江はその一家に裏で金銭援助をしているとの事で、その一家が路頭に迷いそうになったのを救ったという。また、その青年が少年時代に直面したいじめで負った『心の傷』に苦しんでいる事をジャイアンが不憫に思っていた事、ある時に自分の会社で雇用することで、彼をトラブルから守った』ことも教える。
「ジャイアンさんはその後悔もあって?」
「だろう。俺も憤るくらいに、下衆ないじめをされたそうだ。しかも、したのが、途中から生徒じゃないそうでな……」
「どういうことだ?」
「普通の学校に通う障害児にヘルパーがつく制度を持つ土地があるのはわかるだろう?」
「養護学校に行かないで、普通の学校生活を送らせる場合も多いからな……まさか」
「そうだ。のぞみも憤っていたが、ある意味、生徒のいじめより厄介だぞ……。ボウヤはノイローゼ寸前にまで追い込まれたというからな」
ジャイアンが後で調べた結果、そのボウヤは10代の多感な時期のうちの四年近くも何かかしらの形でいじめの被害に遭っていたが、後半の二年(中学校の二年)は生徒からのいじめではなかったという。立場を利用した大人のいびりに近く、母親が気がついたときには、ノイローゼ寸前の状態であった。彼はこの二年で決定的に心の傷を負ってしまい、その影響が成人後も尾を引いているという。
「大人がそんな事していいのか?」
「立場を利用して、気に入らない子供をいびるのは学校の現場としてどうよ?って話だ。しかも、周囲に気づかれない。教師上がりのヘルパーだったっていうが、教師で無くなってるのに、教師気取りのまま。立場を弁えない奴っているんだよ」
「信じられんな……」
「そんな事がボウヤの身にあった上、親父の一族はバブル崩壊からの不況で没落。母親のほうの一族のおかげで食いっぱぐれしてなかったが、おばあさんが『先が見える』ようになると、相続問題が持ち上げる……俺も勉強になったが、戦後の相続はややこしくていかんし、子供に教える立場の者が、率先していじめるってのは許せん」
「タイシンの昔の知り合いが似たことになってたとか聞いたことがあるが……どこも似たりよったりだな……。生々しい話だ」
「こういう事があるから、のぞみには、日本で学校現場に立つのは薦めなかった。前世の繰り返しになりかねんからな。だから、扶桑で教師になって、予備役になってれば…と薦めて、あいつの転生先での姉貴に話を通して、あれこれしてもらってたんだがなぁ」
その話をのぞみAにもしていたことを明言し、扶桑で教師になれるように(自分の権限の及ぶ範囲で)手引きしたが、日本の官僚の感情論で潰されたと話す。
「お前にも話しておくが、お上(扶桑の昭和天皇)の勅(本物)を破り捨てやがってな、件の官僚。ケイから知らせがきた時は耳を疑ったよ。で、たまたま山下大将に招かれて、一緒にホテルで食事してたから、彼に伝えたら……」
「怒髪天になって、その足で文科省に殴り込んだわけか」
「すげえ剣幕でな。彼が怒鳴り込んできたんで、文科省の末端の役人じゃ応対できなくて、幹部が面会したよ。抑え役に、今村均閣下にも来てもらってな。で、事の重大さを知った文科省は顔面蒼白になった。時すでに遅しで、扶桑の外務省を通して、お上や重臣たちにも話が伝わってな。吉田翁や岡田のじいさんらが戦艦大和で日本に来る事態にまでなった。日本側は平謝りしかできなくて、外務、厚労、文科の三大臣がお上と重臣らに土下座したんだよ。辞表を出した上で。それで、扶桑が『自衛官の供出の増加や技術協力の促進』を条件に、矛を収めた。日本側にしてみれば、扶桑に逆占領されることすら現実味を帯びてたから、それで許してくれるなら、両手を挙げて歓迎する事案だった」
「外交ベタはどこの世界でも同じか。うまいことしていれば、波風立たないものを」
「お前の親父さんもそうだが、何が原因で、不和が起きると限らんってことだ」
「親父は若い頃はそれなりに青春を謳歌していたそうだが……私に家を継がせたいなら、私の競技生活に終止符が打たれた後にしていれば良かっただろうに。それまで待てなかったんだろうか?」
「商売をしてる者は後継者を元気なうちに決めたがる。自分が老いた後では遅いこともあるから、お前が学生のうちに……と思ったんだろうよ。普通は長子に継がせるが、お前の姉貴はいい大学に行けそうだろう?」
「姉貴をいい大学に行かせるために、次子である私に継がせたいって思うのは、親父の勝手だが……私の気持ちを無視したのは、気に入らん……」
「親の気持ち子知らずというが、お前の場合は逆だな。お前や妹たちにヒアリングして、同意を取るべきだった。そうすれば、お前を勘当する事は必要なかった」
「親父は私の再起を願っていなかった。そう思うと、むかっ腹が立ってくる……!父親でなきゃ、病院送りにしてやりたいくらいにな」
「お前が晩節を汚すのを恐れたんだろうが、オグリキャップのことを知ってるんなら、万一の奇跡を願ってやるべきだったな。オグリは周囲から見放されていた、引退レースで起こした。お前はその姿に魅せられたから、あいつの弟子になったんだろう?」
「……ああ。ガキの頃の私は臆病でな。姉貴やお袋に甘えてばかりだった。だが、親父に連れて行かれた、あの有馬記念……――」
――オグリ一着!!オグリ一着!!見事に引退レースを飾りました!!スーパーウマ娘です!!――
オグリが奇跡を起こした有馬記念。その時に自分たちの近くの観客席にいたタマモクロスが自分の存在に気づき、『特別や』と言い、オグリや平成三強の残りの面々に引き会わせてくれたこと……、オグリの優しい微笑みと声かけはブライアンの人生の道筋を決めた。父親に連れて行かれたことを未だに詳細に記憶しているという事は、ブライアンの父への複雑な感情の表れだった。
「オグリさんやタマさんと知己になって。ルドルフの後継ぎを期待された。あの時は青臭くてな、私も。あの時期は自分の同期には興味などなかった。早く、オグリさんやタマさん、ルドルフの立っていた舞台に立って、自分こそがオグリさんの後継ぎだと言いたかった。ローマン(オグリの実妹)には失礼なことかもしれないが、当時はそう思っていた。自分なら、ルドルフを超えられる。そう思っていた……」
ブライアンは(この世界線では)オグリの愛弟子のポジションにいた故、『オグリの背負っていた二つ名を受け継ぐ』事をブライアンは第一の目標としていた。また、オグリのようになりたいと願うあまり、同期の存在を歯牙にもかけなかった。その報いか、自身の怪我の判明と共に『全ての歯車は狂った』。
「怪我の後、無様を晒すうちに、もはやルドルフを超えることも、最強の座を取り戻すことも叶わないのだろうか。それ頭をよぎった。私は狂ったようにトレーニングをしたが、カンは戻らず、感覚もズレたまま。もう勝てないのか?その考えが頭をもたげる度に、私は周囲に当たり散らすことしかできなかった。そんな時だ……『あいつ』のとの契約が協会の意向で破棄され、私のもとからいなくなったのは……。世界の全てが崩れたような感覚だったよ。私はその場で崩れ落ちて、ガキのように泣きじゃくった……」
ブライアンは怪我をきっかけに不調に苦しんだ。クラシック期の強さが嘘のような連敗、自身の夢も目標も霧散したばかりか、掌返しがついに身内からも生じてしまう。そんな時に接触が起こり、ブライアンは無関心を装いつつも、生徒会の仕事という方便で、ドラえもんたちと接触したのだ。
「そんな矢先だったよ。医者からピークアウトの起こりを宣告されて、引退を視野に入れろと言われたばかりだったからな。だが、納得できなかった。だからだ」
「で、なんやかんやで前世の記憶を取り戻して、ピークアウトを帳消しにできるであろう『最後の手段』を選んだわけか」
「そうだ。全盛期にもう一度戻れるなら、今の生活などは惜しくもなかった。そのためには、何でもする。だから、あんたらに協力した」
「お前も因果なことに縛られてんな……」
「お互い様だろ、それは。まぁ、のぞみには悪いが、残った単位は取ってもらう」
「お前、勉強が億劫だからと、他人任せかよ」
「コピーロボットの技術が復活したのなら、記憶はワンタッチ(おでこを『こっつんする』)で共有できるだろう?それに地頭はいいんだぞ、私は。そうでなければ、留年無しで高3相当にまで進級するはずないだろ?それも、中央トレセン学園で」
と、ブライアンはコピーロボットの技術的メリットを知っていたようだ。過去にはパーマンも使っていた(元はバード星の技術)ことで有名なものだ。
「統合戦争直後から研究が再開されていたが、本当に最近なんだぞ、技術が同じ水準に戻ったの。この技術がグリプス戦役以前にあれば、精神的に救えた命も過去にあるだろうが、こればかりは仕方がない」
コピーロボットの記憶共有技術の再確立は本当に最近である。黒江が言及したのは、ティターンズが在りし日に研究していた『強化人間』たちであり、多くは悲劇的結末を迎えているわけだが、技術がその頃にあれば、強化人間らの悲劇的結末は緩和できたのかもしれないということだ。
「連中はジオンやティターンズに利用されただけだからな…。人間として扱われる分、MSの生体部品扱いのコズミック・イラ歴よりはマシだが……。エゥーゴが連邦を掌握したことで起こった『いいこと』には違いあるまい。統合戦争を起こした連中は何のために、自分達が衰退しかねない戦争にGOサインを?」
「技術的特異点の現実化を恐れたらしい。ドラえもんたちのようなロボットが反乱を起こすのを異常に恐れた。その結果が、却ってひどい戦乱の時代だ。反統合同盟はイカれてたとしか思えんよ。最後の方は日本連邦に打撃を与える事自体が戦争目的だったようだからな」
統合戦争を引き起こした『反統合同盟』(旧東側諸国と一部の西側諸国)はデザリアム戦役の後の地球にとっては『恥じるべき存在』である事がうかがえる見解である。後世の人々に『技術的特異点という理論を信奉したばかりに、文明を根本から変えてしまった愚か者たち』として侮蔑されているようである。最終的な勝者の地球連邦にしても、ティターンズのような『黒歴史』を生み出しているので、地球連邦も全ての時代で善ではない。
「連中とティターンズが、地球連邦の歴史で最大の汚点の一つだ。……そうだな、グローブ事件もだ」
「モラル・ハザードの結果、起こった悲劇らしいな?グローブ事件は」
「ガキ共には見せられんよ。あんな猟奇的な事が部隊単位で行われたなんて。もっとも、日本でも、太平洋戦争後の占領期に占領軍の犯罪はもみ消されたっぽいっていうから、軍隊から理性を無くすと……いつの世も悲劇は起きるってことだな」
レビル将軍が実質的に地球連邦軍の最高責任者に返り咲いたガトランティス戦役後の時代、地球連邦は野比財団を窓口に、グローブ事件の被害者の救済を正式に始めている。史実と異なり、その被害者にアンジェロ・ザウパーという少年のいた一家は含まれていない(戦争にかかわらない人生を辿ったと思われる)他、事件の被害者数は史実より遥かに少ない(鎮圧部隊がすぐに送られ、虐殺を起こした部隊は『反統合同盟残党のスパイ』扱いで『処分』された関係だ)。野比財団がすぐに『反統合同盟残党の入り込んでいる部隊が暴走して、街を襲った』という体裁で報道を行い、それを連邦軍も追認した。つまり、事件そのものを反統合同盟の残党が起こした大規模テロ事件に仕立てあげることで、怒りの矛先を連邦から逸らしたのである。要は『軍が当事者の部隊を処分するための方便』であった。
「あんたらは機密事項にアクセスできるから、当時の連邦軍が事件の印象を操作したことを知っていたわけだな」
「連邦軍が『占領にかこつけて、暴走しそうな部隊』を合法的に処分するための生贄にした』ことにはなったが、史実よりはだいぶマシにはなった。とはいえ、それがジオン残党に勢いを与えちまう理由の一つになったがな」
野比財団にしても、その当時の時点でできる事はそのくらいであった。当時はビスト財団の全盛期。権威で勝っていたとしても、実際に行使できる影響力はその程度でしかなかった。野比財団が伸長を始めるのは、ガミラス戦役以降のことである。
「野比財団が動いた結果、事件は多少なりともマシになったが、せいぜい、アンジェロ・ザウパーがジオンに関わる事が消えたくらいだなぁ」
「そうか、フル・フロンタルのいない世界でもあるし、グローブ事件の惨禍を逃れたのなら、普通の一般人として生きてるかもしれないな。小説を読んだ事がある」
「どこで読んだ」
「ギムレットが持っていてな」
野比財団の存在で、アンジェロ・ザウパー(史実では『フル・フロンタルの信奉者である青年』である)がジオンに関わる事は消えたようだが、マリーダ・クルスが『マリーダ・クルスとなる』出来事は起こったともいい、少なくとも、未来世界に『マリーダ・クルスとクシャトリヤはいる』と推測される理由となったという。ブライアンはタニノギムレット(史実では、同じブライアンズタイムの血を持つ)の私物にある『機動戦士ガンダムUC』の小説版を読んだ事があるらしい。意外にサブカル関係に興味があるのも、オグリとタマモの教育の賜物だろうか?