――扶桑の航空機の進歩は概ね史実どおりであったが、五式戦闘機が一式戦の後継者として活動し、四式戦が実質的に要撃機としての少数生産に終わるなど、史実と正反対になった例もある。これは四式戦が嚮導機としての運用を考慮して開発されていた事、開発中に主力となる航空機関砲が世代交代し、20ミリ砲へ大口径化してしまったことによる翼部の設計変更に時間がかかった事、似たような機体構成の紫電改が史実通りの武装で完成していた事、格闘戦の鬼である零戦の後継である『烈風』の量産が成った事による影響であった。四式戦は後継候補のキ87と計画が統合された高高度型が最終生産型となったが、ジェット機までのつなぎで改修キットと新規生産機が数百ほど出回った程度に終わった。『伸びしろのないレシプロ機よりもジェット機を』。そのような方針となったからで、実際に、四式の生産が始まった段階で、既にF-86の量産が軌道に乗りつつあったので、四式戦は老朽化した二式戦の代替機以外の何物でもなかったことがわかる。とはいえ、制空に特化しすぎた紫電改は数年後に退役が始まったのに対し、戦闘爆撃機としての運用が可能であった烈風や疾風(四式戦)はターボプロップエンジン換装型を含めれば、意外と長命を保っている。レシプロ機がいまだ多数飛んでいる時勢であったし、国によっては、複葉機がまだ現役というところさえあったので、ターボプロップエンジンによる延命措置は予想以上の効果であった――
――カールスラントは国土の二度目の荒廃(内戦)でジェット機の運用どころではなくなり、空軍も人材の流失で衰退してしまった。極度の燃料事情の悪化(燃料プラントの荒廃など)で軍自体が有名無実化してしまったため、治安回復はNATO軍に依存する有様であった。エーリカやマルセイユ、バルクホルンは家族を日本連邦に避難させ、自身も永住権を取得するなど、移住を前提に動いていたが、カールスラント政府の上層部が懇願し、カールスラント軍の予備役の籍は維持された。これは彼女らにいなくなられると、軍が完全にメンツ丸つぶれなばかりか、次代を担う将校が完全にいなくなってしまうからである。結局、(ドイツが手を引いたので)カールスラント軍人で、扶桑に与した者は太平洋戦争の従軍を『海外勤務』と扱われることになった。『コンドル軍団の魔女の世界での実情』が明らかになり、史実の『悪魔の軍団』とは逆の『怪異戦の先駆者』であった事による名誉回復が図られた結果である。ドイツの同名の軍団とは似て非なる者であった故の暫定措置であった。とはいえ、遅きに失したのは否めず、カールスラントの有力な軍人の大半は食い扶持を求め、扶桑へ既に移住していた――
――ダイ・アナザー・デイでの不祥事はカールスラントやスオムス、ブリタニアの権威を凋落させ、日本連邦一強の情勢を造り上げた。既にエイラ・イルマタル・ユーティライネンも一線を退かされ、他の撃墜王も多くが軍を去ったスオムスはただの弱小国家に戻っており、日本連邦の意向に逆らえる力はなかった。日本連邦は逆に、超科学と異能で世界最高峰の軍事力になりつつあり、その力は突出しつつあった。日本の左派の思い込みからの動きは結局、魔女と軍人たちの人生の選択肢を狭める結果を生んでしまうのみに終わり、社会問題を引き起こしてしまった。特に戦闘に向かない魔女の行き場を奪う形となった事は(彼等の予想外の)事件であった。異能の全てが戦闘向けではないのだ。治癒魔法の最高峰を極めつつも、戦闘技能も極めて高い水準を持つ宮藤芳佳がいるが、彼女は例外中の例外である。魔女は突発的に生ずる上、他の世界のように『生まれつきのものではなく、ごく稀な特異体質でもない限り、若いうちしか力を使えない』という難点の判明は彼等の思惑を木っ端微塵に打ち砕いた。軍が戦時下では『戦時促成のため、魔女として、一定期間を働いてくれればいい』という方針を取っていたこともあり、魔女として必要な事以外は兵学校、ないしは航空士官学校で教えられず、自分らの職分以外のことに無知な魔女が現場人員の過半数であったからだ。この問題は扶桑の魔女の1946年以降の出世に大きく響くこととなり、高級将校としての事前教育を受けていた者であっても、佐官に出世できなくなるという問題が起こった。結局、元の海軍特務士官や陸軍航空隊の現場叩き上げの人員を優先的に指導的立場に置く事とされたが、普通に統率できる人材も必要なため、士官学校卒の中で特に優秀な人材を優先的に佐官にする措置も同時に行われた――
――黒江たちは1945年当時では数少ない『事変の最前線で戦い、その時に少尉任官済みであった』古参であった。その関係上、一部隊の先任大隊長という地位に見合わない『高い階級』を有した。これはカールスラントの影響を受けた撃墜王にありがちであった『撃墜数だけが空中ではものをいう。階級とか、他のくだらぬものはどうでもいい。地上では軍律があるが、空中では最多数撃墜のパイロットで、戦闘技術と経験に優れたものが指揮を執るべき』という思想が日本側に鬼の首を取ったように非難されたことの兼ね合いであった。提唱した本人である『フーベルタ・フォン・ボニン』も『軍律や軍法を軽視しているわけではなく、空中では、階級を振りかざしての指揮を執るべきではないという趣旨でありまして、軍律軽視というわけではありません』と釈明しているが、日本の政治家らに『危険思想』とされ、失脚へ追いやられそうになったので、ダイ・アナザー・デイ後に公式に謝罪する羽目となった。黒江たちが同戦役後は『やたらと高い階級』なのは、連合軍が『ガランドとメルダースに代わる、魔女の立場を守れる、前線の英雄』を求めたことの他、ミーナ(元の人格)のように『書類上の年齢だけで目上を軽視する』ことのないようにと、天皇自らが裁定を下した結果である。その関係で、歴代のプリキュアも入隊時に士官級の待遇で迎えられているのは言うまでもない。これらの失敗と、ダイ・アナザー・デイでの64Fメンバーの孤軍奮闘から、カールスラント空軍の他国への強さと平等性の権威は木っ端微塵に崩れ去り、逆に扶桑空軍が『空の王者』として君臨するに至った――
――複合的要因から(『魔女の世界』にゴジラが出る可能性が危惧されたこともあり)、扶桑の戦略爆撃機の保有を容認した日本。これは富嶽や連山の開発資産の民需転用という『日本の求めた航空技術資産』が手に入る故でもあり、実際に同機種の生産ラインの一部は旅客機に転用されることとなった。その過程で、レシプロ双発爆撃/攻撃機は淘汰されることとなったが、四式重爆のみは(生産ライン構築費用回収のために)1949年度中は稼動する見込みであった。末端の部隊では、一〇〇式重爆すら配備されていないこともザラであったからだ。かといって、いきなり『F-105』や『F-4EJ改』、『F-15E』へ置き換えるのも無理な相談であるし、大量に双発爆撃機の要員が余ってしまう。その兼ね合いで、四式重爆は(『銀河』をも置き換える形で)戦術爆撃機の主力の地位にあった。そのことも関係し、ジェット機は『練度の高い精鋭部隊の特権』とされていた――
――ダイ・アナザー・デイで危惧されていた『魔女同士の戦闘』はほとんど起こらず、空母自体が対艦ミサイルで先制撃破されるほうが多かった。1945年の武器では『対艦ミサイルの飛行中の撃墜』はほぼ不可能であり、重装甲を持つ戦艦以外の艦艇であれば、一撃で中破相当の損害を負う。空母も例外ではない。軽空母であれば一撃で轟沈、大型正規空母でも(当たりどころによるが)大破する。日本連邦は戦艦を『丸裸』にするため、護衛艦隊を魚雷とミサイルで潰し、残った戦艦を砲撃で沈めるドクトリンを編み出した。戦艦を高価な対艦ミサイルと魚雷で潰すより、『砲撃で沈めた』ほうが遥かに安上がりであったことの兼ね合いである。システム化されていく戦闘に精神的に適応できず、軍を去る者も多かったが、ティターンズの超人らが生身で魔女を圧倒し、プリキュアすら不利に陥る様に奮起する者もいるのは事実だ。プリキュアたちも正史と異なる進化を辿る他なかったが、『精神面の問題』で壁を突破できないプリキュアも生じる。優しすぎるからであった。だが、世の中には『不倶戴天の敵』というものも存在する。その敵が彼女らの大事な何かを傷つければ…?ありがちではあるが、穏やかさだけでは『力の殻』は破ることができない。ことはは悲しみ、のぞみは怒り。それぞれの激しい感情をキーにする形で、プリキュアの壁を超えたのである――
――壁を超えたプリキュアは以前より大きく身体能力が増す他、それまでは不可能であった『別の異能のプリキュアとの並行制御』を可能とした。変身者が鍛えていた場合は、その状態が可視化されたオーラとして反映される。ある一定の水準を超えると、火花を散らすオーラになるなど、バトル漫画さながらの有り様となっている。また、(のぞみの場合は)本来は上位形態にならなければ開放されない『飛行能力』も使用可能になるなど、多大なメリットを持つ。ただし、それだけでは『パワーが大きく増しただけ』であるので、変身者が訓練を積む必要がある。その状態であった故に、のぞみの肉体は(現役時代に運動音痴であったことを考えれば、驚異的である)ナリタブライアンの魂が肉体に求める水準の能力を発揮できたのである。一言で言うなら、現役期間中である『のぞみB』より遥かに戦闘に向いている肉体になっているというべきであった――
――デルザー軍団との戦闘は続いていたが、連合軍側が優勢となったこともあり、ここ数日は小休止状態であった。ブライアンは変身をいちいちするのが面倒なのか、ドリームの状態を維持したままで過ごしており、のぞみBと(結果的にだが)区別はしやすかった。のぞみBは別の自分にコンプレックスを感じているが、自分の変身態を他人に使われるのは複雑な気持ちであるが、『夢原のぞみとキュアドリームは別人』という活動上の大義名分を得られる事の判明で承諾した。とはいえ、ブライアンは(生徒会副会長の職にあるのもあって)現役時代ののぞみ本人よりも落ち着いているため、むしろ『オトナプリキュアの世界』における成人後の時間軸におけるのぞみ自身に近い。違うのは、ブライアンは好戦的(ウマ娘としての本能により)であるため、大まかに言えば、デザリアム戦役の時点での流竜馬に近い雰囲気を纏っているといっていい――
――秘密基地――
「こっち側と違って、あなたが体を借りてるほうは戸籍上の年齢だと成人済みなのね?」
「肉体的には齢を食わんようになったが、戸籍は普通に加算されるからな。覚醒した時点で17歳だから、今は21歳くらいの戸籍年齢だそうだ。私自身は17歳くらいだがな」
「あなた、本当の姿は?」
「亜人類の種族だ。別の世界で何かかしらの競走馬だったりした魂が転生して生まれる種族だ。通常は前世の記憶は持ってないが、極稀に、前世の記憶が後天的に蘇る事がある。私がそうだ。前世で無念が強かったらしい」
シニカルさを感じさせるブライアン。キュアドリームの姿である。変身を維持しているブライアンに合わせたか、ミルキィローズの姿で『美々野くるみB』も話をしている。
「この時代より14年(競走馬・ナリタブライアンの全盛期は1994年なので、2008年からは14年は昔になる)ほど昔に名を馳せた競走馬・ナリタブライアン。それが私の前世だ。この時代なら、インターネットの百科事典で検索すれば出ると思う。一時代を築いたからな」
「えーと……未来の機械をいじるってのも妙な気分ね…あった。ナリタブライアン。1990年代における三冠馬で、全盛期には当代最強と言われた……だが、現役後期は怪我の影響で奮わず、短命に終わった影響もあり、子供世代に重賞馬が出ず、サイアーライン(父系)は途絶えた……。この馬が?」
「ああ、そうだ。私の前世だ。私たちは誰かの介入がない場合、競走の道に進んだ場合は無自覚に、前世と同じ道を辿る。だが、私はひょんなことから、前世の辛苦を舐めた記憶が蘇った。故に、運命に逆らう道を選んだ。それには強い精神力が必要だとわかったが、あいにく、怪我をきっかけに色々あったんで、自分を鍛え直す必要が出たんでな。それで、のぞみと利害が一致した」
「利害って、何よ」
「あいつ、転生前の学生時代の後半は楽しめなかったそうでな。私の代わりになることで、楽しめなかった高校生活をするそうだ。転生後の身体能力が私の肉体にプラスされるから、私の代行は務まる。転生後は運動音痴じゃないしな」
「嘘ぉ!?」
「転生後は正規の職業軍人で、それも将校だぞ?相応に訓練は受けている身だ。だから、競走馬の生まれ変わりの種族である私の代わりを務められるという算段だ」
実際、ブライアンの基礎能力が当代最強クラスであったこともあるが、転生後の実戦で鍛えられたのぞみの身体能力はプロの軍人に恥じないものに向上しており、ブライアンの肉体の能力との組み合わせで、ジェンティルドンナのタックルをいなせたわけだ。
「いいの?」
「私も事情があって、不調に陥ったまま、『落ち目のヤツ』として、アスリート生活を終えたくはないんでな。前世を思い出したなら、なおさらだ。私は『学生の本分』にはあまり興味はなくてな。のぞみに、残ってる私の単位を取らせる」
「えぇ……」
若干、引いてしまうミルキィローズ。ブライアンは『学生の本分を果たす』よりも『アスリートとしての再起』に自分の全てを賭けたため、学生の本分には興味はない。だが、生徒会役員である都合上、『そこそこ高い成績が必要』(ウオッカやスペシャルウィークのように、学業面が芳しくない者もいるが、ブライアンは副会長である)である。のぞみは正規軍人かつ『前世で国語教師であった』ので、ブライアンの求める条件に合致していた。唯一の懸念材料は運動神経だが、生前と違う肉体であるので、問題はなかった(運動神経抜群の魔女が素体となったため、自動的に運動神経抜群となった)。
「あなたねぇ。いいの?高校生が……」
「そんじょそこらの連中よりは優秀だぞ?エリートの集まりの中のトップクラスではある」
中央トレセン学園の生徒会副会長であるので、当然ながら、学業成績はその中でも優秀なほうにあった。それでいて、ウマ娘の本能の発露たるレースでも『当代最強クラス』である。故に、あまり授業に出ていない。レースでの低迷を期に、トレセン学園を去る者も多いので、学業成績自体は良好である上、生徒会の役員であるので、授業をサボろうと、あまり問題にならない。
「数カ国語は余裕だ。海外遠征もするからな。」
「ぐぬぬぬ……。何よそれぇ……」
ブライアンは全盛期にアメリカ遠征を視野に入れていた都合上、数カ国を操れるようになっている。それにのぞみAの語学力がプラスされたため、英語圏では会話に不自由しない。
「英語の筆記体も書けるが、お前らでは読めんかもな」
「あの崩し文字みたいな奴でしょ?あたしたちは習ってないし……」
「そもそも、コンピュータ文章の普及で衰退してる文化だしな。私は前会長(ルドルフ)の指摘で覚えておいたんだが、コンピュータの普及で、手書き文章を外国人とやり取りすることも無くなってきてるから、宝の持ち腐れだよ」
実際、筆記体は(いる時代の都合で)のぞみAやかれんなど、業務の必要上で読み書きを覚えたごく少数が用いるのみであり、黒江たちも普段はほとんど用いていない(読み書きはできるが、面倒くさいとのこと)。筆記体教育が廃れて久しい時代である2000年代後期の中学生である『プリキュア5』の面々では、本来は医療従事者になるはずの水無月かれんしかわからないであろうものだ。
「この後、地球の文明はどうなるの?」
「物質文明が極限に達した後に、技術的特異点を恐れた欧米諸国が意図的に世界戦争を引き起こすが、却って文明が歪んだ進化をして、兵器が発達した一方で、民需技術はこの時代と大差なくなるレベルに落ちる世界もあるそうだ。地球人類は本能的に、戦いは避けられん性質らしい」
「……」
「まぁ、生物の進化というのは淘汰も同じだ。ネアンデルタール人を現代人が同化や殺し合いで淘汰したように。これは進化の性質上、仕方がないことだ」
競走馬も性質上、速い馬を代々かけ合わせることで速くなっていったが、その代わりに体質があまり強いとはいえない(重度の骨折や突然の強度の心疾患などでは、安楽死や突然死待ったなしである)ので、ブライアンは『ヒトの体を得ることで、馬類のそうした弱点をほぼ克服した』ウマ娘という存在になれている事に(前世の記憶を得たのもあり)感謝している節があるようだ。
「プリキュアも世界線によるが、『平和になれば、不要な力』と判断されるようだが、突発的な動乱や災害は起きる。それに備えて、力を持つのは間違いではないさ。そうでなければ、戦前の軍隊を解体された後の戦後の日本が自衛隊など持つか?」
「確かに…」
「主義主張は個人の勝手だ。だが、何かに備えるのは間違いではないし、正しいことのために戦うのも罪ではない。話し合いなど通用しないヤツも存在するからな」
ブライアンは自身の経験から、『何かが起こった時に無力である』事を嫌っているようであった。レースという形で戦う立場にあるのもあり、『もしものために、力を持ちつづける事は間違いではない』という価値観を持つのも覗かせた。オトナ世界のココが後悔したのは、『後続のプリキュアが世界を平和にしても、またすぐに次の敵が現れていたのなら、僕はドリームコレットに願うべきではなかった』ということであったので、その事を知らされた『B世界のココ』は『のぞみたちを戦いから解放するよりも、プリキュア戦士でいさせたほうが、全てが上手くいく』という現実に打ちのめされているという。
「ココ様は打ちのめされてるけど、私たちは戦い続けるしかないの?」
「何を思っても、お前らの勝手だ。だが、お前らが戦士でありつづけたほうが万事が丸く収まるのは事実だそうだ。こことも別の世界線ののぞみは『自分の大事なものを守るために』プリキュアの力を取り戻す選択を取ったからな」
オトナ世界ののぞみが選択した道は、雪野弥生(プロメシューム)が1000年女王であった時代に願ったことを引き継ぐことであり、実質的にはその後継者に収まる見込みであった。『ヒーロー/ヒロインを経験した者は精神的意味合いで普通の生活に戻れなくなる』というが、大人のぞみはまさにその道を選んだわけだ。プリキュアで無くなっていたことで、『有事の時に無力感に苛まれる』ことを内心で自己嫌悪(2010年代、日本は災害が多く発生したため)していた事がうかがえる。
「2010年代に入ると、日本は災害が頻発期に入る。そんな時に、のぞみはプリキュアの力があれば救えたであろう命の事を考えていたそうだ。故に、プリキュアに戻れる機会があるのなら……と受けいれた。そういう世界があるそうだ。つまり、何かから守るために、力を持つことは恥じることじゃない」
「……ココ様はそれで?」
「ああ。ありゃ、当分は寝込むだろうな」
「それじゃ、キュアフルーレは」
「問題はない。別の技で決めればいいだろう。この世界のエターナルは倒したが、まもなく、フレッシュの敵であるラビリンスなどがやってくるだろうから、戦いは続くだろう。連邦軍がしばらくは兵力を置くそうだから、連中もしばらくは動くまい。マジンガーやゲッター相手に、ロボも無しで戦おうなんてのは、熊にひのきのぼうで立ち向かうのと同じだ」
「フレッシュの子らと以外は戦わなそうね……」
「他の敵と徒党を組むこともありえるから、臨戦態勢は取っとけ。この世界に初代の連中がいれば、伝えとけ。あ、この時代だと、お前らは携帯も持ってないか」
「ええ……」
のぞみたちは現役時代、携帯電話をもたせられてはいなかった。親たちに『中学生に携帯電話は早い』という価値観が残っていた、最後の時代かつ、世代であるためだ(大人のぞみ曰く、高校入学後にスマホを持ったとのこと)。
「そうか、もっと後の連中じゃないと、携帯もってないのか」
「え、他の子たちは持ってんの?」
「フレッシュは学校がお互いに違うし、この時代の後、公衆電話がほとんど消えるから、否応なしに持つしか無くなる。つか、公衆電話のかけかたもわからんやつもいた」
「えぇーーーーー!?」
「お前、パルミエ王国出身だろう」
「地球でしばらくは暮らす気だし……」
美々野くるみはこの世界(B世界)では、中高大の10年は地球で過ごす気だったらしい。王国に平穏が戻れば、世話役の役目はしばらく休めるからだろうか。
「あなた、のぞみの代わりをどのくらいする予定なのよ」
「私も本業と距離を取るつもりだったから、しばらくは体を借りているつもりだ。元の体だと、本能的にレースが気になってしまうしな」
と、理由ははぐらかすが、まだしばらくは体を借りるつもりらしいブライアン。半分は本当だからだ。
「こっちののぞみがぶーたれてるわよ。パワーアップして身体能力がやっと互角になったのに、今度は歌唱力で負けたって」
「それは仕方がない。私たちは訓練を受けたプロの歌手兼ダンサーでもあるんだから、ド素人のこいつ(のぞみ自身)の比ではないし、春日野うららにしても、舞台女優志望で、歌手経験はあれど、ボイストレーニングを受けたわけじゃないだろう?」
ウマ娘たちは複数の職業を学生と兼ねている都合上、そのトップクラスともなれば、それ相応の訓練を受けている。実際、レースで大成せずとも、引退後にタレント業で大成功したウマ娘もいるし、双方で歴史に残ったハイセイコーの例もある。
「それに、のぞみは絶対音感持ってても、音痴のパターンだ。相当な訓練を積んで、やっと多少は改善したから、お前の知るのぞみは無理だと思う」
「でしょうねぇ」
と、何気に辛辣だが、それに同意するミルキィローズ。
「で、この世界はどうなっていくの?」
「別の世界の存在を知ってる以上、お前らが今後も守っていく必要がある。念の為、連絡先は伝えておくというから、他のプリキュアに会ったら、伝えておけ」
B世界では、プリキュア5はこうして、存続する事が確定した。B世界でのココも『戦いからの解放=のぞみらの精神的な幸せではない』と知ったことで、ドリームコレットの復活の暁には『のぞみらの戦いからの解放』を願うことを断念した。
――『英雄は時代が求める限りは死なない』――
複数の世界のココはのぞみに戦いを強いることから、戦いからの解放を願ったが、それはある一面からは『間違いである』ことを知ってしまい、精神的に追い詰められることになった。プリキュア5の後にプリキュアが生まれなかった世界もあり、プリキュア5が力を失った後に動乱が起こったと知らされ、彼は精神を病む一歩手前にまで追い詰められた。結局、他力本願でしかないパルミエ人という身の上のコンプレックスに苦しめられた彼はB世界では、のぞみと気まずくなってしまったのである。
「ココのことだが、奴には辛いが、自分の幸せが他人の幸せとはかぎらんってことだ。デルザー軍団を撃退するまではいるから、それまではお前らをしごいていいと、咲から伝言をもらってる」
「え、咲ちゃんから?そっちにいるの?」
「ああ。のぞみの仕事の同僚だ。便宜的に、プリキュアのリーダー扱いになってる」
B世界のプリキュア5はこうして、集中的に特訓を受ける流れとなる。また、のぞみBが任意でドリームキュアグレースになれるようにするため、ある一定の水準まで鍛える必要もあったためだ。
「でも、あなた。本職は陸上競技のアスリートでしょ?なんで、闘いを了承したの?」
「闘争心を養わんと、体のポテンシャルを引き出せないという種族上の都合があってな。それが大きい。だが、歴史に残る有名馬の名を受け継いだから、他の世界での関係者諸氏に迷惑はかけられんだろ?だから、のぞみの体と名を借りた。」
「こっちののぞみ、思いっきり拗ねてるんだけど」
「仕方がないだろ、こっちの都合なんだから。それに、プリキュアと同一人物という疑いを持たれることはこれで無くなるから、メリットがあいつらにないわけじゃないぞ」
「外身はのぞみそのものなのに、中身だけ入れ替わるなんて。それに、入れ替わってても、変身できるなんて」
「フレッシュの連中にそういう例があるというから、お前らに起きないとは限らんだろ。それに、2020年以降もプリキュアは出るし、犬もプリキュア化するぞ」
「い、犬ぅ!?」
「お前らがこの世界線でそいつに出会えるかはわからんがな。2024年頃のプリキュアだそうだから」
「えーと……じ、10年以上後じゃない!?」
「お前らが31歳の時に現れるそうだからな」
そのプリキュアは2024年におけるプリキュア戦士だが、犬が変身するという。ブライアンはのび太らから存在は聞いていたらしく、ミルキィローズ(B)へ教える。
「その頃、あたしたち、今みたいにつるんでる保証はないわよ?」
「いや、お前らはプリキュアだ。なんだかんだでつるむ宿命にあるんだ。それはいくつかの別世界で確認済みだそうだ」
「うーん……なんだか複雑だわ……」
「のぞみはうれしがってたぞ?」
「学生時代の仲が大人になっても続くとは限らないから、あの子は嬉しいでしょうね。でも、あいつらみたいな奴ら、並行世界を股にかけてんの?」
「そうだ。お前らは奴らに目をつけられている。並行世界のお前らに軍勢を相打ちに近い形で倒されたのが理由だと聞いている」
「相打ちって…?」
「詳しくは、あいつ(黒江)に聞け。私は詳しくは聞いていない」
こうした流れで、ブライアンはミルキィローズに『プリキュアが大ショッカーに狙われる理由』を教える。そして、のぞみAはそれとの果てしない戦いに身を投じた。ブライアンは『自分の思惑とは別に、大ショッカーは許せん』とも語り、大ショッカー打倒に(こっそり)協力する意思を固めているとも述べる。ウマ娘世界への魔手を未然に防ぐためだろう。
「大ショッカーって?」
「奴らの上部組織であり、次元を超えた悪の組織だ。それでいて、ナチの残党だ」
元々、ショッカーそのものがナチス・ドイツの残党であるので、そう表現する事は正しい。大ショッカーには、ナチス・ドイツが勝った世界のナチス・ドイツ軍が丸ごと加わっているので、もはや、単なる秘密組織ではないのだ。
「何よそれ……」
「ナチス・ドイツの落とし子だよ、連中は」
ミルキィローズ(B)はこうして、大ショッカーの存在を知らされた。ドイツにしてみれば、たまったものではないだろうが、ドイツが生んだ『忌み子』が次元世界を股にかける巨悪に成長し、元の同盟国である日本のヒーローたちと敵対する。かつての同盟関係を考えれば、歴史の皮肉であった。