――大決戦でプリキュアらが得た知見はいくつかの世界のプリキュアらが事後も保持した。その結果、その後の運命が変化した者が出た。水無月かれんと秋元こまちがその最たる例であった。大決戦で戦死していった連邦兵の霊を弔いつつ、大決戦でいろいな価値観が変容してしまったことに悩んでいた。熾烈な体験がその後の人生を変える事は(災害体験など)ままあるが、この場合もそうであった。大決戦を期に、二人は日常を守るための裏方の努力を知り、ことはが接触してきたのを機会とし、闘いの道を選んだ。また、その場にいた春日野うららが別の世界の個体であった事も知らされた。その結果、プリキュアオールスターズの闘いが起こった場合、『全次元世界から、ランダムに『その時に戦える』資格者が呼び出される』という事が知れ渡った。かれんとこまちはその結果、その後の道が史実と変わった事例となった――
――B世界の争乱は収束へ向かいつつあったが、封鎖された街での戦闘は続いた。ジオンやティターンズ系の兵力をハラスメント目的に使ったデルザー軍団。軍団員は64Fと歴代ライダーの奮戦で撃退されつつあったが、ジオン系の未成兵器の投入で、地球連邦軍製の普及量産型MSなどでは歯が立たなかった。地味に製造時の技術でアップデートされていたのだ。そのため、スーパーロボットでの鎮圧がなされた――
『ったく、未成兵器を完成させて、やることがテロか。おまけに、元の所属組織になんら貢献しないとはな。怨念返しもいいところだ』
ナリタブライアンはこの日、ジオン製のMAの掃討をグレートマジンカイザーで行っていた。同機の実績作りの一環であった。ジオンのMAは基本的に、一年戦争後期~デラーズ紛争期の設計である。歴代ガンダムにその尽くが撃破されていったり、MSの小型化が流行った影響もあり、モビルアーマーはネオ・ジオン戦争の後は廃れている。だが、単一の能力に偏らせた故に戦闘力は高く、ジム系MSでは相手にならない。そのため、迅速な鎮圧のため、地球圏最強の機動兵器たるスーパーロボットが使用された。
『グロムリンか…。日本の八咫烏かなんかの絵でも見てたのか、設計者は??』
グロムリンは全高が70m以上の巨体であり、ゲッタードラゴンや真ゲッターロボよりも大きい。だが、その装甲は超鋼スチール合金製であり、とうに旧式化している。ガンダリウム合金が第四世代に到達した時代、スチール合金はモビルワーカーにすら用いられなくなり始めたものだ。
『どんな分厚さのスチール合金だろうが、このGカイザーにはおもちゃも同然だ。食らえ!!』
グレートカイザーは28m。大きめのMSくらいのサイズであり、グロムリンはゲッタードラゴンよりも大きい。だが、グロムリンは本来、宇宙要塞防衛戦用に考案されたものである。地上では、その想定した性能の半分も出せないと思われる。だが、グレートカイザーは全ての点で皇帝級のポテンシャルを誇る。そのため、グロムリンの武器は通じず、逆にグレートカイザーはおもちゃのように、同モビルアーマーを解体できるという光景が展開された。机上の理論では『他の機動兵器を圧倒する』とされたグロムリンだが、想定外の戦場かつ、相手が『皇帝』とまで呼ばれたスーパーロボットでは、おもちゃ同然の有様である。
『ショルダースライサー!!』
ブライアンもだが、ショルダースライサーは片手持ちの軽量な二振りの剣なので、好んで使われる。カイザーブレード(ソード)を使うまでもない相手との剣戟はこれで間に合うからだ。
『膾切りにしてくれる!!』
ブライアンは機体をグロムリンの懐に飛び込ませ、そのままスライサーを見舞う。元々、グロムリンは対艦戦闘が主眼に設計された代物であるので、機動兵器への対処は意外と苦手である。ましてや、元々が宇宙戦想定のものを地上で使うのだから、想定された戦闘力は出せない。残党の技術力では、グロムリンの想定された全機能をフルに活用できるほどの完成度は持たせられないからだ。
『どっせい!!』
グロムリンの装甲は容易く斬られる。超合金ニューZαの剣の前では、スチール合金などは薄紙も同然だ。グロムリンの武装や火器管制装置は対艦主体のものであるためか、30m級の細かく動く機動兵器相手では、照準が追いつかないという欠陥を露呈した。
『グレートスマッシャーパーンチ!!』
そのまま、Gスマッシャーパンチを見舞う。ものの見事に大穴を穿つ。
『暴れられちゃ迷惑なんでな。このまま消し炭になれ!』
『ゴッドサンダー!!』
サンダーブレークと違い、雷を直接ぶつける攻撃である。広範囲への照射などのコントロールが可能だが、一点集中の雷として降り注がせた。マジンガーZEROをも怯えさせたという攻撃なため、たかだかモビルアーマーであるグロムリンが耐えられるはずはなく、一瞬で乗員ごと消し炭になり、その場で銅像のように沈黙する。
「こちらブライアン。例の野郎は消し炭にした。回収を頼む」
「了解。70mくらいだから、ジムやガンタンクじゃ手に余るな。大型輸送艦を寄越すから、それに持っていってもらえ。サイド3とスゥイートウォーターの連中には、俺から文句を言っとく。残務処理のために、共和国の政庁はまだ生きてるからな」
ジオン共和国は正式に解体されることにはなったが、各種業務の残務がたんまり残っているため、当面の間は政庁が存続の見込みであった。残党軍や共和国軍の武装解除も業務だが、共和国軍の艦隊が公国系の残党へ加わるケースも続出しており、実のところ、残党の名目上の頭目であるミネバ・ラオ・ザビは針の筵であった。また、ジオン系の機体の技術の保持のために、ギラ・ドーガなどの生産は続けられている。仮想敵機や、連邦系を好まないコロニーへの機体供給のためだ。
「連中も統制が効かんな。こんな、たいそれたものを秘匿してる残党を察知できんとは」
「残党は共和国を認めてこなかった上、意図的に軍の連中が共和国に秘匿したことも多い。それで、共和国は立場が弱い。元々、一年戦争の直後からの時限的な自治権だったしな。それを恒久的なものに格上げしてやろうと、穏健派が動いてたが、デザリアム戦役で御破算。結局、ムーンクライシス事件の責任を負う形で解体が却って早まった。それに共和国の右派が反発して、集団脱走。ミネバ・ラオ・ザビは面目丸つぶれさ」
「やれやれ。連邦も泣きだな。共和国を残したのが良かったのか」
「ジオンの連中は強い被害妄想だからな。コロニーの住民は、地球の貧困層よりよっぽど恵まれているんだがな。度重なる戦争で北米なんて、見る影もないんだぜ?栄えてるのは西南部だけだ。デラーズ紛争で食料プラントもやられたし。ドラえもんがいなけりゃ、アースノイドは飢え死にだ」
デラーズのしたことはティターンズなどの存在を生み、地球圏の人々の反ジオン風潮と地球至上主義の台頭を引き起こしただけである。皮肉にも、異星人の襲来の連続はスペースコロニーの『脆さ』を根付かせ、技術の飛躍を起こした。それが地球連邦の存在意義のスペースノイドへの浸透を改善させ、宇宙戦国時代の到来がはからずも阻止された形である。連邦の守旧派も死んだが、彼等も多くが死んだからである。異星人や異世界の存在の判明が連邦の権威回復や組織改革の契機となり、ジオンの歴史的意義の終焉を招いたといえよう。
「コスモリバースは環境を戻すが、受けた傷までは癒さんからな。再テラフォーミングや過去から動物を連れてくる計画も込みだと、一万年だろ?」
「もうちょい短縮されるそうだ。地球に反抗しようとする移民星はエンペラーが睨みを効かせるようになったから、大人しくなり始めた。あんなの見ちゃな」
「皮肉なもんだ。惑星を軽く握りつぶせるロボットが出た途端に、反政府運動が収まるなんて」
「エンペラーは地球を侵す者は何人たりとも許さんからな。ウィンダミアはワルキューレがいなければ、あっという間に星団自体が塵になるだろうよ」
「プロトカルチャーの力が赤子扱いなのに、連中は?」
「ガチでしょんべん漏らしたそうな。エンペラーの前には、次元兵器も『チャチな玩具』だからな」
「ドグラもそうか。時空管理局の一般局員が手に負えなくて、結局、フェイトが未熟とはいえ、空間支配能力でねじ伏せたと聞いたが……」
「俺達はまだ初歩の段階だからな…。空間支配能力持ち同士だと、結局はステゴロでドンパチすることになって、図式が一周回るんだよ。その局員はドグラの穴になって、フェイトに始末されたそうだぞ」
「あれは空間支配能力が最善の対策か」
「そうだ。宇宙戦争で『チャチな兵器』と見下されてるのは、上位の神々は空間を支配できるからだよ。プリキュアとかの異能持ちは耐性があるが、連中のパワー程度では『穴』は塞げん」
「詳しいな」
「フェイトに付き合って、次元世界を散策する事も多いんだ。戦間期はそれがメインの仕事だった。空間支配はそれで存在を知った」
「空間兵器ドグラ。実在していたのか」
「時空管理局のどっかのアホが封印を解いちまってな。それで、フェイトが急派されて、聖闘士として会得済みの空間支配能力で対処した。管理局はその世界から手を引いたそうだ。不祥事だからな、現地の封印物を勝手に解いた挙句に、街を数個は全滅させたという…。それが判明したのが動乱の直後。結局、発表せざるをえなかったんだが、ヘマもヘマすぎたんで、管理局の評判は地に落ちた」
「まったく、管理局の統制はどうなってやがる」
「奴さんは秩序の維持のために生かされたにすぎんよ。一年戦争直後の連邦より腐敗がひどかったからな」
「そんなにか?」
「帰ったら話してやる。ところで、お前。高校の単位は丸投げか?」
「いいだろ、記憶はコピーロボットの技術で転写できるんだし。敢えて落としといたんだ。単位を全部取っちまうと、高等部をその次の年の春には卒業させられちまうからな。ルドルフが出れるのは、世代交代が認められたからだしな」
「お前んとこも大変だな」
「ルドルフなんて、本当はもう大学に行ってていい年ごろのはずだ。私が入る頃にはもう『やってた』ぞ」
「あいつ、いくつなんだ?」
「オグリさんよりも上だから……もう20代になってていいはずだ?」
「なんで、疑問形なんだよ」
「わからんからだ」
と、ブライアン。ルドルフ、マルゼン、オグリ、タマモらは実は(ブライアンが高校三年生相当になる時期には)本当は大学生で通じる年齢になっているという。だが、アスリート生活と並行する都合上、学生でいる時間は普通より長くなる。これはウマ娘の肉体的加齢はヒトよりも遅い(走る能力は落ちても、若い時間そのものは長めだという)ことによるものだという。
「ウマ娘の生態は謎だな」
「私達自身もよくわからんくらいだ」
――こうして、ジオン残党の破壊活動は旧共和国政庁へ通報され、共和国政庁はまたも『メンツ丸つぶれ』となったのは言うまでもないが、この後、グロムリンの内部からかろうじて回収された文書から『後継機がアクシズ時代に計画されていた』事、そのプロジェクトは『生きていた』事が判明。さすがの連邦軍も震撼した。プロジェクトの決済者が『死人』のはずの人物――ギレン・ザビ――だったからだ。ギレン・ザビが蘇生している。これは連邦軍本部に通達され、連邦軍は最高機密に位置づけた。ギレンが生き返った事が周目に知れ渡れば、ジオニズムの過激派が息を吹き返すのは目に見えているからで、シャア・アズナブルには通達されたが、ミネバ・ラオ・ザビに知らせるかは政治判断を仰ぐしかないという結論であった。シャアは『人生最後の大仕事』と嘯きつつ、ギレン討伐の意思を伝え、過去の偽名のいずれかでの連邦軍籍の取得の意思をレビル将軍へ伝え、レビル将軍も新鋭戦闘空母『ブルーノア』の建造を急がせ、それを自らの次期座乗艦とすると決定。ギレン討伐に赴く決意を見せる――
――どこかの世界で『オールズモビル』と蔑称された『最後のジオン軍』たる『火星独立ジオン軍』は『ギレン・ザビ』の蘇生に成功。組織再建の途上にあった。ギレンを慕う『筋金入りの公国軍残党』らを次々と糾合。また、共和国を離反した者ら、ティターンズ残党、エグム(エゥーゴ過激派)も配下に加え、その規模は新生ネオ・ジオンを超え、アクシズ軍時代に迫りつつあった。そして、火星で戦力を増強中であり、その数は数十隻に達していた。地球連邦軍は度重なる戦乱の傷で、火星にまで監視は及ばず、また、ジオン残党側もアステロイドベルト地帯を隠れ蓑に、艦隊再建を続けていたため、連邦軍に察知されなかったのである――
――回収された書類がドラえもんの道具で解読され、それが読み上げられると、事情を理解できる者の顔色が一気に青ざめる――
「お、おい……マジか…?」
「間違いない。筆跡も一致した」
「ドラえもん、連邦軍の本部に緊急電だ!!第一級の緊急だから、閣下への直通回線を使え!」
「アイアイサー!」
と、64F幹部らが半ばパニックに陥る。珍しい光景だが、事態が事態であった。
「嘘だろ、ギレン・ザビが蘇生させられたなんて。どうやって……」
「ギレンの死体は公式にはドロスの爆散で失わたってなってるが、ギレン派の手で運び出されたともされてる。与太話扱いだったが……」
「下手すりゃ、第二次ブリティッシュ作戦されんぞ……」
「うむ……」
「あ、あのぉ、皆さん……?」
「……この際だ。言っとく。俺達が普段世話になってる世界での過去に戦争があったのは言ったな?その戦争は開戦劈頭だけで、数十億単位の人間が死に絶えたものだったんだが、それを引き起こした元凶が生きてたんだよ」
「えーーーー!?だ、大事件じゃないですか!?」
「ああ。ヒトラーが生きてましたー的なインパクトのある状況証拠だ……ドラえもん、火星行政府は?」
「あそこはジオニスト最後の楽園だからね。プリベンターも査察が困難だって言ってたけど……。まさかね。あそこの航路、しばらくは閉鎖するよう、交通局にも打電しとく」
「内惑星巡航艦隊も一度、全滅したからな…。その隙を突いたな。今、火星どころでないってのに。アースフリートの艦隊司令部には?」
「今、緊急電を打った。直に返事が来る」
「奴さんも大あらわだろう。まったく、ボラー連邦と一触即発だってのに……内輪もめで、銀河連邦に醜態晒すなんてな」
「しゃーない。あ、司令部からだ。臨戦態勢に入るそうな。直に、君等にも集結指令が下されると思う」
「オールズモビル……最近に地球圏に出てきた、ジオンの忘れ形見……大人しく、火星で隠匿生活送ってりゃいいものを」
「アースフリートって?」
「ぼくの世界の23世紀時点での地球連邦宇宙軍の主力艦隊の名称。その時点だと外征艦隊の位置づけだから、地球最強のエンジン『波動エンジン』の艦に世代交代が済んでる。君等の世界を最初に観測した部署でもある」
「へー……。って、それ、大事じゃ」
「大事も大事だ。下手すりゃ、地球の何処かがコロニー落としされちまう。ギレン派は最も危険な軍閥だったから、ティターンズもそこは仕事してたはずなんだが……ミイラ取りがミイラになったか?」
「お前には関係ないこと……とはいい難いな、今さら」
「あ、アースフリートも今、主力は出払ってるよ?」
「作戦は遅くなるな、オトナ世界の動乱がどの程度になるか……」
「年単位は見といたほうがいい。下手したら、連中もかなりボロボロになるから」
「相手が白色彗星帝国の遠征艦隊の残りの全部だもんな。無人艦は全滅と考えるべきか」
「有人も、どのくらいが戻れるか」
「うむ……」
「そんなに大変なの、大人のわたしがいる世界」
「その君が1000年女王になろうとするくらいなんだから、世界が滅ぶか否かだよ。既存の宗教の権威が崩れる危険性は目に見えてるから、いざとなれば、大人の君が『地球の真の統治システムの継承者』として起たなければならないだろう。色々と言われるだろうけど、既存の国家や宗教の権威が損なわれて、地球人類が自滅していくよりは遥かにマシだって思ってるはずだ。実際、核戦争でそうなった挙句、東西冷戦下の超大国が共倒れになった世界線は観測されてるし」
大人のぞみは1000年女王への即位を本気で考えている。それは地球人が『宗教的・国家的権威が損なわれ、タガが外れたら?』という事の意味を年齢と職業柄、わかっている故、いざとなれば、女王の継承者として起つつもりであった。最も、夢原のぞみという本名ではなく、ラーメタルっぽい仮名を使うつもりだとは、本人の談。
「世界の存亡か……大人になるのが怖くなるよ」
「大人になるってのは、そういう事さ。大人になると、身の回り以外の何かに気を配る必要も出てくるし、嫌な人とも否応なしにつきあわないといけない。君は帰宅部だからね」
「プリキュアは部活じゃないからなー……。小学校の頃から、礼儀は叩き込まれてきたよ。親が美容師だから」
のぞみは2000年代後半期の学生にしては、礼儀をきちんと教育されたほうである。母親が他人と接することの多い美容師だったからで、一学年上の先輩に敬語を使える(この時代になると、一歳差の相手に敬語を使わない者も生じていたので)など、伊達に私立中学校に通っていない。
「あ、君、お母さんは美容師だったね?」
「うん…。自分で言うのもなんだけど、親子二代でおっちょこちょいでさ」
「自覚あんだな、一応……」
「え、えぇ…。そっちはどうですか?」
「多少残ってるくらいか。ま、こっちは素体が軍人だし、一度死んでるからな、転生前に」
「どんな人生だったんですか?」
「他人に言えるような人生は歩めなかった。そう言ってる。子供は儲けたそうだが、シングルマザーで、幸せにしてあげられなかったって引きずってな。だから、取り戻したいものが多いんだろうな、こっちのお前」
「それじゃ、ココとは別れて…って事ですか」
「おそらくは。それで、お互いに転生した後にくっついたんだろう。とはいえ、共働き家庭だが」
「うぅ。結果オーライだけど、お先真っ暗な人生だったってことか……」
「それでいて、プリキュアとしては健在だったそうだから、その辺は複雑なんだよ、別のお前」
「それで、この子に成り代わって、高校生生活をエンジョイぃ!?なんでぇ!?」
「他人の体を乗っ取る形で転生したんだから、生前通りの運動神経なわきゃねーだろ?」
「あ、そ、そうか……」
「それも、訓練を積んだ正規の将校が素体だぞ。それもエース級の。その下地に更に訓練を上乗せしてんだ。こいつの代行くらい、こなせて当たり前だ」
「肉体がウマ娘になっても、使いこなせるかは本人次第だからな」
のぞみBはここで、Aの人となりと転生した背景を知る事になった。のぞみAは『転生したら、いきなり職業軍人であった』ので、せっかく『絶頂期の姿に戻れたんだから、たまには学生に戻ってみたいよぉ』と愚痴っていた。そんな時に舞い込んだ『ブライアンの願い』はのぞみAの利害関係に沿うものであり、即座に了承した。意外と下心があった。だが、中央トレセン学園の授業内容は相応にレベルの高いものであり、『職業軍人としての知識量でなんとか対応できた』というほど。そのため、のぞみA自身はトレセン学園でそれ相応に苦労を重ねているのだ。
「うちの学園はレベルが高いからな。T大卒レベルの連中が就職浪人するくらいの採用試験難度だ。まぁ、何か秀でたものがあれば、色々とダメダメでも、採用なり、入学は叶う。ハルウララなど、走りはダメでも、人間性とかが評価されて、入学したしな」
「あ、あの有名な?そっちにいるんだ」
「いるぞ。純真無垢なヤツだから、皆に可愛がられている。ルドルフの奴も可愛がっているが、最近はオルフェーヴルがお供みたいにしてたな……」
ハルウララは年齢不相応なほどに幼い精神年齢もあり、純真無垢である。それ故か、最近はオルフェーヴルがお供にしているとも。彼女を泣かせた場合、シンボリルドルフ、キングヘイロー、ゴールドシップ、シリウスシンボリ、オルフェーヴルなどが殺気を漲らせながら、相手に怒鳴りこむという噂まである。これは本人が『尾ヒレ背ヒレついた話で、実際は私一人ですよ』と釈明している。
「そういえば、ウララが入学して、しばらくした頃か。あいつ、学外でチンピラのウマ娘に絡まれて、怪我してきた事があったんだが……」
ブライアンは重苦しい空気を変えるべく、一計を案じた。ハルウララの人徳の話をしだしたのは、そのためだ。
「それで保護者代わりのキングヘイローがオロオロしながら、ウララを連れて生徒会に相談しに来てな。その時のルドルフの対応が……」
ブライアンはその場に居合わせたらしく、ルドルフが痛々しいハルウララの姿に冷静さを失い、段々と現役当時の『皇帝』に戻っていく様を事細かに話す。そして。
「ウララがポロリと涙を流した瞬間だったか、ルドルフの奴……」
ルドルフはデビュー前、一族の大人から『ライオン』と言わしめるほどの激しい気性をしていた。怒りが頂点に達した場合、鳴りを潜めている『激しさ』を静かに表に出す。
「贔屓と言われかねなかったが、ハルウララには、それを選んでも『許される』魔力があった。そうだな、その時が私が最初に見た『ヤツの本性』だった」
ルドルフが後先考えずに激昂した事はめったになく、身内ですら『片腕で数える程度』と記憶している。入学後はそれが始めてであり、エアグルーヴすらも息を呑み、ブライアンも戦慄した。しかも、生徒会の仕事をほっぽりだして、チンピラウマ娘を『討伐』(もちろん、レースである)しに飛び出していったとの事。
「つか、チンピラのウマ娘って、いるんだな」
「いるぞ。そういう連中の中に時々、意外な大物がいたりしてな。そういう連中を追い払うのも、生徒会の仕事の内だ。だから、ある程度のG1出走実績がないとならん慣習がある」
「どのくらいだ?」
「時と場合によるが、当代の上位何名ってのが慣習だ。だが、あまりに世代の中で差があると、役員そのものが置かれない事がある。ルドルフの現役中はそのパターンだった。あいつがその前任から引き継ぐ前、一期上のミスターシービーを推す声があったそうだ。前任の血縁者で、出自は申し分なし、実力も相応だったが、シービーは群れとか権威に興味のないヤツでな。代わりに愛弟子のルドルフに引き継がせた。まぁ、いつの時代もそう簡単な話ではないよ」
「意外だな、ミスターシービーに打診があったなんて」
「ルドルフの前任の従妹って関係と、ルドルフの凄さに霞んだが、ヤツも三冠だからな」
ミスターシービーに生徒会長の打診があった。それは本人も忘れているが、一時は日本最強であったが故で、それを考えると、テイオーは世代代表であっても、『世代最強』ではないので、就任後も反対論が協会にくすぶっている。ブライアンが留任させられた背景には、その反対論を抑えるためである。
「私は本来、地位も名誉もどうでも良かった。だが、強いヤツと競うには、ある程度の地位はどうしても必要だった。だから、副会長なんて職につかされたし、今もやらされている。会長はガラじゃないが、汚れ仕事は必要だろう?」
「あのガキ(テイオー)にゃ、ダーティーな事はできなさそうだしな」
圭子も同意する。アフリカ戦線時代、汚れ仕事は自分の担当だったからだ。
「あんたらも軍で汚れ仕事させられるだろう?」
「実戦部隊だからな。魔女の連中は対人戦には使えないとわかったんで、この戦争で働いてる、ほとんど唯一の魔女の部隊でもあるが、らしいことはほとんどしてない」
魔女は軍内で『穀潰し』と見なされるようになり、待遇は冷遇へと変わった。ダイ・アナザー・デイで戦局へ寄与しなかったからだ。戦争=怪異退治と同義に捉えていたため、任務をサボタージュしたのだが、欧州が陥落するかの瀬戸際の時に座視している事がマスコミにすっぱぬかれ、スキャンダルとして報じられると、状況は一変した。それはダイ・アナザー・デイもたけなわの頃だ。
「魔女の連中は対人戦争を汚れ仕事扱いしてるが、それが軍隊本来の姿だからな。だから、軍隊以外の軍事会社を作っていたが、法的規制が入ったから、ほとんどは公的なハンター組織に飲み込まれていった。その煽りと、軍隊での魔女の食い扶持を残すために、ウチが何でも屋扱いさせられてんだ。空軍なのに、やってるのは、海兵隊まがいの殴り込みだ」
「おまけに、あちらこちらの組織にたらい回しで使われてるから、末端の隊員は自分達の本来の所属先がわからんって有様だぞ」
「あんたらが状況に応じて、身分を使い分けるせいだろ。とはいえ、末端は何させてんだ」
「実働要員には加えてない、留守番だ。一応、少尉以上で固めてあるが、若い連中は実績作りで在籍してるのも多いからな。ウチの隊にいれば、恩給が約束される。最近は大蔵……財務から恩給の削減案も出てるが、軍の反乱が怖いから、勲章の戦後における一括授与しか、政府は表沙汰にしてない」
「財務は金取りしか能がないのか?」
「日本が扶桑を引っ張ってるからな。日本は金が欲しいんだよ、疫病でアテが外れたイベントやら、国民的求心力の失った万博への疑心への対応やらで」
「どこも似たようなものだな」
「そのくせ、対応は現場に押しつけだ」
「大本営ってやつはどこも変わらんな」
「日本が廃させたがな。縁起が悪いとか、マスコミに叩かれるから…とかで。
「やれやれ。組織の名前を変えさせて、リフレッシュ感か。どこの世界でもお役所仕事は……」
「大衆はそれで満足するんだよ。大日本帝国時代の名称を嫌う連中は多いからな」
「思想かぶれへの配慮だろう?私たちの時代には流行らんことだ。もっとも、私たちはそうしたことに興味を持つなと教えられているが」
「お前らは前世持ちだから、余計にな」
「うむ」
同意するブライアン。ブライアンはレース以外のことに興味は薄いが、人並みの趣味はあった。長じると『政治に興味を持つな』と教育されたが、それは『前世から引き継いだ名を汚さないため』のウマ娘世界での暗黙の掟であると理解したのは入学後だ。
「この先に引退しても、それは変わらん。だが、世界を守る仕事には関わりたかったのも本音だ。ガキの頃は人並みにTVを見てたんでな」
ブライアンはさらっと言うが、意外と(引っ込み思案であったのもあって)テレビっ子であった事がわかる。ウマ娘として生まれた以上、レースの世界で生きていくしかなく、三冠取得者である都合上、引退後もレース関係の職業が確定している。これは引退後は家業を継ぐ予定のタイシンや絵本作家志望のライスシャワーなどとは対照的だ。
「だが、好きに振る舞えるのは、学生のうちだけだからな。大人になると、色々なしがらみができる。心から楽しみたいものは学生のうちにしとけ」
「うわぁ……」
のぞみBはげんなりするが、大人として生きる事は子供時代の思いを取り捨て選択していく。それが大人になる事でもある。大人のぞみもそれに内心で苦しんでいた。ある意味、大人になることは子供の頃の万能感の喪失でもある。それがプリキュアの力の存廃に影響を及ぼすともいう。いったいどうなのか。そのことへの答えは出ないだろう。