ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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次のステップ編です。


第百五十八話「坂本Bの奮闘」

――魔女の世界では、日本連邦化に伴い、扶桑のナショナリズム高揚の禁止、陸軍を押さえつけるべく、予てから提案されていた『国粋主義的教育の排除』がついに正式化した。提案者は続けた。『思想に問題ありのものは『即時の失職と公職追放の対象とする』等も検討された。だが、実際に扶桑の各官庁の官僚のかなりの人数がこの規定で公職追放を伴う失職者が続出。このように、公職追放の影響は軍部に留まらなかったため、国家運営のかなりの部分がY委員会に依存するようになった。扶桑の官庁のかなりが瞬く間に機能不全に陥ったわけで、結局、この混乱で『内務省分割案』は完全に息の根が止められ、内閣情報部を作り、強引に陸海軍の情報機関も統合・再編された。民需分野の力が軍部を押さえつけるようになると、扶桑軍部は常に寡勢での戦闘を強いられ、時には住民の避難のための玉砕すら許容される有様であった。この状況は前線の士気低下を招いた。全てが足りない状況では、防衛すら不可能だからだ。結局、日本側が扶桑の兵器生産量の増加を認めたのは『1949年の夏』、兵員補充のための本土部隊の出征を容認するのは、1950年春の見込みとなった。官僚にかなりの失職者が生じてしまい、国家運営に支障が生じた事もあり、Y委員会の権限は拡大され、1949年夏の時点では『円卓会議』と批判者に揶揄されるほどの権限を有するに至った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――太平洋戦線自体は均衡を保っているが、攻勢計画が日本の政治的都合で潰される事が相次いだ事から、前線では徒労感が蔓延しつつあった。扶桑は日本に強く抗議。日本は『攻勢は戦争の決着をつけるものでないとならない』と回答した。これはミッドウェイ海戦やマリアナとレイテの教訓を大義名分としたものだが、戦局の好転のための攻勢も必要なことは事実であった。また、航空隊の集団主義的風潮を打破するためと、国民の士気維持のために『英雄』が必要とされた。それが黒江たちであり、のぞみたちであった。これは扶桑より日本が積極的であり、扶桑の反対者を強引に左遷させてまで、施策を実行させた。結局、プロパガンダ的側面からも『英雄』は必要であったし、『敗戦すれば、軍人はいっぺんで鼻つまみ者にされる』事実の浸透による、兵士らの士気低下への対応策は必要だったのだ--

 

 

 

 

 

 

 

 

――坂本や武子のような『武人』の気質の者は過去のものになりつつあり、かと言って、雁淵ひかりや宮藤芳佳のような気質の者も疎まれるようになり始めた扶桑の魔女界隈。社会的ステイタスが失われた『軍』に好き好んで志願する者はいない事の証明となってしまった。その代わりに重宝されたのが、他国で厄介者とされた熟練者達の義勇兵への応募であった。特に、カールスラント軍の熟練者の大半が応募してきたことは驚きを以て、迎えられた。コンドル軍団出身者の雇用は賛否両論であったが、下手な若い魔女の数十人分よりも価値のある練度の高さは魅力であった(そもそも、存在意義が根本で異なるため、コンドル軍団はゲルニカを爆撃していない)。彼女らも謂れなき批判で、一方的に責められるのは御免なので、厚遇を約束された日本連邦に次々と移住していった。それがカールスラント軍の衰弱を招いたのである。とはいえ、既にジェット時代を迎えつつあるので、彼女らもなかなか苦戦を強いられていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――怪異への対処法がある程度判明すると、中規模までは通常兵器でも対処が可能、大規模は異能者やスーパーロボットに任せたほうが手っ取り早い。それが扶桑軍の結論であり、巣の駆逐に平均で『四年』以上かかっていた事による(財務当局の権限強化に伴うもの)魔女の待遇是正の一環であった。怪異の脅威度低下に伴い、魔女部隊の削減も進んだ。古参の熟練者は優先的に、いくつかのエース部隊へ回されるのが当たり前なこの時代、坂本は娘を出産して、産休は取っていたが、時たま人員育成をしていた。前世の失敗を鑑みたらしく、積極的に裏方仕事に勤しんでいる。坂本は(前世の反省で)人員育成に熱心であり、その関係で、B世界の魔女との折衝も担当していた。彼女には目下の課題があった。芳佳Bが『単独で怪異を倒せる』異能者である、のぞみへの嫉妬を顕にする事態が起こっていた。純粋な魔女としての才能は劣るが、プリキュアという異能があるおかげで『一騎当千』となっている事も関連すると思われるが、芳佳Aもプリキュア戦士である――

 

「教えるしかあるまい」

 

「いいのか?」

 

「あいつらは口が軽い。マスコミ対策で概要しか伝えておらんかったが、軍事上の~云々は通用せんからな。それにあいつ自身、ここではプリキュアを兼任しとるからな」

 

坂本は観念したようだ。芳佳Aの産休もあるので、Bには情報をあまり伝えなかったが、芳佳Bは史実以上にワーカーホリックなようであり、自分の教育もあるだろうが、根本的に『父親との約束』に固執しているのだ。

 

「親父さんもあういう意味で、言葉を残したんじゃないんだがな」

 

芳佳はどの世界でも、父親との約束を原動力とするが、それは(戦士としては引退済みの)高齢の魔女には重荷でしかない。大抵の場合、魔女としての時間を犠牲にして、前線に残っている坂本自身を見ているので、それが『当たり前』と思っているのだろうが……。

 

「別の自分の不始末を自分で処理せねばならぬとはな。堂々巡りのようだが、やるしかあるまい」

 

坂本自身も産休中だが、自分自身の教育の不備で、戦友に迷惑がかかった以上、自分が動かねばならない。自分が武人であろうとした事が騒動の原因と言うのは、因果じみたものがあると自嘲しつつ、坂本は芳佳Bのもとに向かった…。

 

 

 

 

 

 

――芳佳は父を奪った戦争を本来は嫌っていた。そのため、軍隊や魔女の常識も全く知らず、自分の周りにいた者たちを指標に考えてしまう。その者達が『世界でトップクラスの猛者』であったのも、ある意味で騒動を引き起こす原因となった。芳佳の難点は『父親との約束を否定されると、ムキになってしまう』というもので、芳佳A(転生者)曰く、『親父との思い出が心の拠り所だったんですわ』との事で、既に隠居状態であった智子と黒江のBを否定したのも、そこに根ざしている。故に、『模擬戦で叩きのめす』しか方法がなかったのである。とはいえ、若手のホープと言われるまでに成長済みの状態の芳佳をぶちのめすには、その更に上の技能を持つ者をぶつけるしかない。それ故、黒江Aやのぞみは苦労を強いられたわけだ。結局、芳佳Bは二人の先輩を鬱病に追い込んだ責任を問われる形に陥り、それが却って、与えられた仕事にのめり込みさせることとなった。坂本Aはその尻拭いを別の自分の要請で行うこととなり、産休中にも関わず、その沈静化に尽力しているのである――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――かくして、この悲劇はB世界の魔女達の間に気まずさを残す事になった。黒江と智子にはあまりに『個体差があった』上、過去の魔女に芳佳Bがあまりに無知であったのが悲劇となった。芳佳Bは事の重大さを思い知った後、完全にワーカーホリック化。痛々しいほどに仕事人間となってしまった。一方、黒江と智子の別個体はあまりのショックで鬱病を発症、帰すに帰せない有様になった。ミーナBも別個体が『思いきりやらかした』事に複雑な表情であった。リーネは『影武者』としての仕事を引き受けたおかげで、表に出れる立場だが、芳佳は別個体が『扶桑最高の撃墜王の一人かつ、プリキュア戦士の一員』であった事から、顔出しでの共闘も困難と見なされた。それも彼女の鬱憤の原因であった――

 

 

 

――また、バルクホルンとエーリカは『初期からのエースパイロットであったのが却って災いし、故郷で疎まれている』事を知り、それで幻滅したか、故郷や軍への帰属意識に悪影響を及ぼしていた。これはA世界特有の現象だが、『一般的な歴史との差異が大きかった』故に、史実での同一人物と比べるのが難しい人物が多数であったことの判明が『ダイ・アナザー・デイのしばらく後』であった事による悲劇であった。二人は、日本とドイツで横行した『どうせ、史実と同じこと考えるから、その前に組織から排除しよう』という論理の犠牲者といえた。魔女達は『女体化したエースパイロットたち』とも考えられるが、魔女であった故に、同じポジションの人物との差異も大きい。それが『因果に縛られがち』なウマ娘との差である。日本とドイツが追求を止めた時には、現地の魔女の雇用に重大な打撃を与えた後であり、『焼け石に水』であった。それを知った故に、カールスラント組も軍組織へ疑念を持つに至った。ミーナBは『このままでは、元の世界に戻った後にパニックが起きる』と懸念し、敢えて滞在期間を延長することとした。それが功を奏し、若手らも『ここは元の世界ではない』と、ようやく認識できたのである――

 

 

 

 

 

 

 

 

――坂本AはB世界の魔女に手を焼いていたが、芳佳Bがやっと落ち着いてくれた事に安堵していた。管野共々にトラブルメーカー化していたからである。ここ最近は『自分はアメとムチを使い分けるほど器用ではない』ということで、のぞみを連れ回し、アメの役目を担わせていた。これは過去に下原定子が懐かなかった事の反省だという。A世界では既に子を出産し、入籍済みだが、軍に在籍は続けている身である坂本。前世の反省で、裏方に徹する事にし、ここ最近の仕事は『夢原のぞみの指導官(教官としての)』であった。B世界での自分自身とは相反する道であったので、芳佳Bには『らしくない』と反発されるなど、災難も多かった。これはB世界の者らのいた時間軸も関係しており、B世界は『1945年の戦いは始まる頃』であったのと、他世界との接触がない故に『アニメ通り』に歴史が進んでおり、坂本は前線に残留していたからである。だが、坂本Aは既に一児の母であり、公的に魔女として引退済みの身である。坂本自身は納得したが、むしろ、芳佳が納得せず、説得に時間を要した――

 

 

――以下はその際の坂本Bとグンドュラ・ラルの会話である――

 

 

「お前、空軍の総監だろう?なのに、何故、そんな服で学生を装っている?」

 

「表立っては動けん身だからな。学生を装っていたほうが角が立たん。この戦争にカールスラントは参戦しておらん。おまけに、私ほどの大物が日本連邦に協力している事が敵にバレてみろ。即座に弾道弾がノイエ・ベルリンにぶち込まれる」

 

「だからって、顔まで変えるか?」

 

「せっかく得た能力だ、活用しない手はない。骨格も作り変えてるから、私がグンドュラ・ラルと同一人物とはわからんよ」

 

空中元素固定能力は変装などにも応用が効くため、グンドュラ・ラルは前世である『御坂美琴』の姿で坂本と会っていた。曰く、『ドラえもん達の世界にいる個体と別の次元にいた個体の生まれ変わり』だが、記憶は共有された状態である。

 

「私はメルダース大佐の失脚、ガランド閣下の引退で引っ張り出されたにすぎんからな。おまけに、組織が有名無実化している現状では、軍階級は仕事の役にたたんことのほうが多い。むしろ、この姿のほうが気楽に生活できる」

 

御坂美琴の容貌と声になっているが、喋り方はグンドュラ・ラルそのものである。両者は元々、声が似ていたので、グンドュラの幼い頃は『こうだったのでは?』という風な印象を与えている。

 

「この世界は元の歴史からは既に離れている。それを自覚させるのは骨の折れる仕事だっただろう?」

 

「ああ……黒江と穴拭の事で特にな…。あの強さはお前と似たようなものの産物か?」

 

「ちょっと違う。あの方らは純粋に『やり直し』を繰り返した結果だ。私たちよりも上の次元の強さなのは、そのためだ。違う世界に行ってるせいで、性格にも影響が出ている」

 

「一人称が『俺』だものな、黒江。こちらでは『私』で、やんちゃ坊主ではないんだがな」

 

黒江は他世界との違いが顕著であるので、坂本Bはその事を『やんちゃ坊主』と評した。黒江へ『落ち着いたお姉さんという印象を持っていた』ためで、A世界での血気盛んさは『子供っぽく』映ったのだろう。最も、これはA世界では『赤松貞子が育ての親』である故のバンカラ教育の影響も大きい。

 

 

「仕方あるまい。文句は赤松御大へいえ」

 

「言えるはずないだろ。あの方に私のような青二才が……」

 

扶桑には(極わずかにだが)中国発祥の儒教に由来する『年上を敬う』文化が残っている。その事もあり、赤松の名を聞いただけで萎縮してしまった。B世界では『海軍航空の特務士官の最古参』としての権威により、実態以上に畏れられているようである。

 

「ハッハッハ、お前も御大は怖いか」

 

「当たり前だ。あの方は先生の従卒の経験もある最古参だ。とてもとても。お前、よく投げられていないな?」

 

「つきあい長いからな。黒江さんの親代わりだから、必然的に会う機会も多い。付き合ってみれば、面白い方なのがわかる」

 

坂本Bは赤松を実態以上に畏れているようである。

 

「お前、厚木には?」

 

「補給で立ち寄ったくらいで、彼女に会う機会はなかった。業務も異なるからな…」

 

と、B世界での状況が垣間見える会話であった。また、B世界では、正規士官と特務士官の扱いは史実の日本軍に近いようであることも伺えた。それを考えると、非士官学校卒の軍人でも、佐官以上の高位につけるようになったA世界は方向性が異なるのである。また、A世界では、その改革により、旧来の制度の下で栄達した士官の就労意欲が低下するなど、歪みがないわけでもない。魔女もそれは同じだ。

 

「まったく…。この世界は正規士官と特務の区分がなくなっているから、面倒だな。住み分けだったというのに」

 

「そういうの、この世界で言うと、もれなく減俸処分だぞ」

 

「下士官以下と士官の仕事は根本で異なるはずだ。士官には士官の、下士官には下士官の仕事があるんだぞ。あれで定められていたのは兵科間の指揮序列であって、兵科至上主義でもなんでもないはずなんだ。諸悪の根源みたいに否定するのは……」

 

軍令承行令による指揮序列が存続している世界の住民である坂本Bからすれば、正規将校の立場が以前より下がり、現場叩き上げが尊ばれる(とはいえ、坂本も現場叩き上げに近いのだが)風潮の強いA世界の海軍は奇異に映るらしい。

 

「その弊害が表面化して、戦争に負けた世界があることがわかった以上、制度に固執する必要はない。それがお上の御聖断だ」

 

「気に入らんな…。負けたからと、すべてを否定するのか?それでは昔に滅んだ明朝と……お上の御聖断である以上はこれ以上言わんが……」

 

坂本Bは自国の制度が外圧で変えられた世界に不快感を見せたが、押し黙った。扶桑の職業軍人は『天皇の御聖断』に必ず従うように教育されているからだった。

 

「お前は不満か?」

 

「カールスラントと扶桑とでは、そもそもの素地が違うんだ。何百年も同族同士で殺し合いをして…怪異のおかげで、それを過去にできた。たとえ負けたとしても、それまでのいいところは受け継ぐべきだぞ。それなのに……」

 

「仕方ないだろ。扶桑は『それまでのすべてを否定したおかげで、世界屈指の経済的成功を謳歌できる』ルートが既に提示されている。軍隊が続いただけでも御の字なんだ。下手すれば、警察が再編後の国防組織に居丈高に振る舞っている可能性もある」

 

グンドュラは冷静である。御坂美琴としての記憶も作用したおかげだ。坂本Bは良くも悪くも、昔気質の海軍士官であり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 

「それが扶桑のたどる、おおよその大勢だと?」

 

「軍人のお前には悔しいだろうが、戦争に負ければの話だ。物質的に不自由はなくなり、農家の子でも大学に行けるようになる。だが、それを偽りの繁栄だと否定する者もいる。扶桑のたどりうる道の一つとして記憶しておけ」

 

「……」

 

坂本Bは複雑なようだ。軍人を腫れ物扱いする風潮には異を唱えたいようだが、扶桑は負け戦の経験が久しくないため、想像しにくいのだろう。

 

「子供たちは?」

 

「夢原少佐のおかげで、今はだいぶ落ち着いた。だが、黒江と穴拭は神経衰弱だ。あれでは、元の世界に戻せん」

 

「戦争が終わるまではいたほうがいいな。神経衰弱では……」

 

「うむ……宮藤め。余計な一言を」

 

流石に、長年の戦友を鬱病に追い込んだ事から、芳佳Bの頑固さにに呆れ果てたらしい坂本B。芳佳の頑固さが悪い方向に働いたための最悪の結果である。

 

「宮藤博士はああいう意味で言ったのでないというのに……。参ったよ」

 

「引退済みの者に『なにかをしろ』というとはな…。リネット曹長が引き合いに出したのは、彼女の姉だろう?だが、普通は引退すれば、もれなく隠居生活なんだぞ。特に、黒江さんはそちらでは『戦えん』だろう?」

 

「うむ……。そちらのと比べるなと怒鳴ってしまったよ。あれは超人なのだからな」

 

黒江は特に落差が大きい事から、芳佳Bも戸惑ったのは言うまでもない。結局、芳佳Bは黒江Bを精神的に追い込んでしまった罪悪感からか、ワーカーホリックが加速してしまうなど、誰も得をしない結果に終わった。黒江Aが超人となっており、Bとは『住む世界の違う同一人物だが、能力などで差がある』ことを芳佳Bが理解したのは『事が起こった後』。この事実は、武子をして『これでは帰せない』と嘆息であった。実際、黒江Aは遠近双方で芳佳Bのつけ入る隙はなく、途中で乱入した怪異を『シャインスパーク』で消し飛ばしてみせたという。芳佳Bが自分が如何に『祝福された』存在であるか、そして、自分の父親の遺した言葉は自分には『祝福』であっても、他人には『呪い』になってしまうことを突きつけられたわけだ。

 

「宮藤の特性は『神の祝福』かもしれん。だが、それはあいつにだけ許された奇跡……。私はどんなに願っても…。若い頃に酷使したツケと言えばそうだが……神は気まぐれだな」

 

「私たちもそうだが、神とはそういうものさ。ノアの箱舟の伝説もそうだ。だが、全てを変えうるのも『愛』という事でもある。愛と誇りを失わないでいれば、活路は開けるものだ」

 

「愛と誇りか……」

 

「そうだ。どこかの世界には、世界が滅ぼうとも、それを守り抜いた一族がいるという話だ。お前も復讐以外の方法で、昔の鬱憤を晴らすことだ」

 

「なぜ、それを」

 

「お前の口ぶりから察した。北郷閣下の事はわかるが、単純に、手前勝手な理由で軍の上層部を断罪したとしても、周囲はお前を大罪人と断ずる。なら、合法的にいけ。当時に扶桑の上層部がしようとしたことの資料は保管してある。それを持ち出して、お上に見せろ。該当者に然るべき鉄槌を下してくださるだろう。お前の世界では破棄されたであろう『例のあれ』の細かな予定表がマロリー邸から回収できた。マロリー卿も、弟の愚行に呆れ果てておられている」

 

マロニー卿とは、かの登山家で有名なマロニー卿であり、魔女の世界では生存しており、既に老境を迎えている(大抵の場合は青年期を終える頃に没してしまうので、貴重な世界線を意味する)。マロニー大将はその実弟であった。実弟が手を染めた『悪行』に激昂した卿はG機関に弟が隠していた全てのものを提供し、間接的に弟の名誉を失墜に追い込んでいる。また、傲慢な性格の弟とは不仲に陥っていたようで、実弟の失脚を『一族の恥』と言って憚らず、公然と喜んだという。

 

「いいのか?」

 

「今では、子供でも買える三文小説のネタにされとるくらいのネタだ。好きに使え」

 

「すまん」

 

「なに、そちらでも長い付き合いだろ?その好だ。部下に用意させる。武子さんから相談された時はなんだと思ったが、なるほど、そちらでは閣下と飛べる時間を奪われたわけか、連合艦隊の馬鹿な参謀に」

 

「うむ。せめて、その時の艦隊は海の藻屑にしてやりたい。第二艦隊の将兵には悪いが、船はまた作ればいい。紀伊型戦艦などは時代遅れの八八艦隊の残滓にすぎん。いい更新の機会だ」

 

坂本Bの思惑を悟っていたグンドュラ・ラルは、武子の要請もあり、思考を誘導する事で、穏便な解決を図った。坂本Bの鬱憤は『第二艦隊のせいで、北郷と一緒にいられる時間を奪われた』という復讐心が根源なので、『第二艦隊を何かかしらの手段で海の藻屑にすればいい』という事であろう。B世界の連合艦隊・第二艦隊の将兵が聞いたら、パニックものである。紀伊型戦艦は八八艦隊型として生まれいでた場合は何かかしらの『不運に見舞われる』らしい。A世界の場合は『格上の次世代型大型戦艦に一蹴された』が、B世界の場合は『坂本美緒の復讐の生贄にされる』道を辿ろうとしている。これはA世界の現状を鑑み、B世界の海軍首脳に『大和型戦艦を増強させよう』と決断させるための策略であった。この思惑はB世界の海軍主計科が聞いたら、間違いなく『泡を吹く』ものだが、モンタナが建造された場合、大和と武蔵のみでは『抑止力になりえない』という真っ当な理由もあった。(後に判明するが、B世界でも『両戦艦の予備は必要だろう』という結論から、坂本が知らないだけで、実は110号艦(信濃)、111号艦は既に建艦計画の俎上に載せられていたのである。無論、これは扶桑の保有戦艦の老朽化』が現実問題であったが故のものであったが、一介の少佐である坂本は知らない。その認識のズレも、後にB世界扶桑をてんてこ舞いさせる理由であったという。

 

 

 

 

 

 

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