ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前々回の続きです。


第百七十三話「それぞれの道」

――結局、日本は扶桑との戦争を恐れ、扶桑の社会行動の変革を断念した。裏で自分達を超越する装備を多数有することが判明したことで『逆に植民地にされてしまう』という恐怖心が生まれたのである。対外的には公表されなかったが、そういうことであった。八八艦隊型が六割ほど完成し、一部は他国へ売却されたことについては無定見とクレームがついた。これについては、扶桑自身もガックリした事項である。カールスラントの艦艇技術は1930年代時点で時代遅れであることがM動乱で判明したからで、以後、(愛鷹の一件もあり)カールスラントは扶桑から技術を得ることがものすごく難しくなる事態に陥る。親独派の多くが失脚した上、技術格差が逆転してしまったからである――

 

 

 

 

――501から人員の7割超が引き継がれた64F。だが、エイラが(サーニャの退役と時を同じくして)一線を実質的に退く、ルッキーニが本国への帰還を命じられるなどした結果、他国の人員の多くが次第に隊を去ったとされた(変身能力で別人として過ごしている者もいたための帳尻合わせ)。後の世の記録では、この人事を以て、統合戦闘航空団時代の終焉とされる。元の506の人員のうち、リベリオン系の人員は多くが他部隊へ転属させられ、黒田も本家のお家騒動で一線を退く羽目に陥るなどして、同部隊が存在していた証拠は後世に残らなかった。のぞみはそうして、黒田の後任の副官として、黒江に仕えることになった。連合軍司令部がある時期に記録を(組織存続のために)全て改竄したため、505統合戦闘航空団と506統合戦闘航空団は欠番とされた。これは関係国の不祥事に直結した関係である。また、ミーナが(恋人の関係で)整備班を冷遇したことは(ミーナの失脚の直後に人員の入れ替えが行われ、その人員も直後に大半が別の戦地で戦死か、移動中の事故死を遂げ、事実上は闇に葬られた。だが、教訓としては確かに残り、以後、整備班の取り扱いは全部隊で丁重となった。ミーナ在任中の現場と整備のコミュニケーションの不足も問題であったので、接触禁止は以後の時代ではタブーとなった(対外的には、『魔女は純潔を守らなくては』という大義名分を使っていたが、みらいたちの登場などで意味が無くなったため)。また、理由の半分以上が私的なものであることは名誉のために伏せられた。ロンメル曰く『彼女の知られたくないことをわざわざ晒し、これ以上の晒し者にする理由はない』とのこと――

 

 

 

 

 

――とはいえ、日本のオタクにはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが同性愛者に転向気味であったことは既にバレバレであったため、主に部内秘の扱いとされた。その時の人格は緩やかに消えていく運命であったため、軍も処分を時間経過で軽くしていった。軍の関心は『歴代プリキュアの雇用』に移っていたからだ。ミーナの元の人格が表層化せずにいた理由は『自分の行為が民族存亡の危機を起こした』こと、『上手くやれていれば、外交問題にはならなかった』という後悔と国家への強い罪悪感であった。更に、ハルトマンに見限られた事も人格入れ替わりの決定打であった。もし、彼女が志願前に『軍事関係のニュースを見ていれば』簡単に対策ができたという事実も、彼女の失脚の一因であった。発覚時の階級が高すぎた事も不運と、後世に評された。中佐、それもエース部隊の隊長ともあれば、最高機密に触れられる権限を持つからだった。彼女は人事管理を坂本に丸投げしているに等しかったが、それも外交問題が大きくなった理由であった。結局、その負の遺産として、黒江たちは機材の整備状況や隊員の健康チェックまでも、自ら監督せねばならなくなった。副官という職分が有名無実化したといえる状態は、過労死問題が日本で大きく取り上げられるまで続く。扶桑軍は自衛隊と違い、外征型の軍隊であるため、業務は自衛隊以上に多いからである――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――自由勤務が許される64Fでも、書類仕事がないわけではないし、幹部級は戸籍上の年齢が30代に達してくる者もいるので、(形式的とはいえ)健康チェックは行われている。普通なら、軍隊で普通、30代は若手の後期かつ働き盛りの年代だが、魔女の世界では高齢扱いだからだ。とはいえ、1949年時点では人員の新陳代謝の全体的な停滞から、魔女の平均年齢が10歳以上は全盛期から上がっており、扶桑の魔女は『見かけと実年齢が一致しない』ケースが常態化した。また、扶桑の社会規範が急速に史実の戦後世界に近くなったことで、家父長制が解体に向かった。各地で行われていた『お座敷遊び』なども衰退し始め、10代での勤労も減少し始めた。このように、社会的混乱が伴う変化を『戦中』にさせてしまったのも、日本の判断ミスの一つであった。また、他国を徹底的に追い詰めたら、自分たちがその代わりを担わされるという(ごく当たり前の)事に思い至らなかったのも、致命的な外交ミスであった。結果、扶桑の軍備を(自衛隊より外征能力がある程度にまで)大きく縮小させる計画は机上の計画に留まり、現状の規模で近代化を図るのを容認せざるを得なくなった。日本はこうして、外交面の判断ミスを細かく重ねてしまい、扶桑をコントロールする計画を次第に放棄していった――

 

 

 

 

 

 

――扶桑は日本の資金をこうしたミスを利用する形で賠償を得、軍備の刷新と国土強靭化を同時に行っていった。そして、最前線には、地球連邦軍からの供与兵器などを配し、国内の近代化と耐震化の時間稼ぎをしていた。戦場を外地に留めるよう、日本には要請されていたが、外地の既存部隊の壊滅が相次いでいる現状では、本土からの増援もやむなしとされた。本土の人員は『災害救助の作業員』ではないのだから、当然のことである。そんな戦況の火消し役をさせられているのが『Gフォース』と64Fの主力であった。この頃には、統合戦闘航空団の出身者は(それぞれの出身国と軍の都合で)大きく減少し、その代わりに歴代のプリキュアが続々と加入。その力で、南洋の防衛をほとんど一手に担っていた。プリキュアは力が『敵がいなくなったりするまで』の期間限定である場合も、近年には多い。だが、転移で力が現役時代から変質し、変身能力が恒常化したケースが続出した。現時点で生前とまったくの別人かつ、別の異能持ちがプリキュア化したケースも生じた――

 

 

 

 

 

――立花響はガングニールの装者であったが、プリキュア因子の覚醒で『キュアグレース』になった。癒やしのプリキュアであるので、覚醒の兆候が進むと、プリキュアの力がガングニールを異物と判断してしまい、ギアを纏えなくなる(アーマーが装着された瞬間に強制的に体から弾かれる)トラブルが発生。だが、彼女の特性がプリキュア因子を変質させ、なんと、ヒーリングステッキ無しでの変身と維持、ガングニールの特性の反映による戦闘能力の向上を実現させてしまった。また、史実と違い、パワーアップフォームが『スーパーグレース』と『ドリームキュアグレース』となっていた――

 

 

 

 

 

 

「確認はこれで全部ですね」

 

「はひー…。長かったぁ~」

 

「仕方ないですよ。現役時代のデータと一致しない点のほうが多くなってたんですから。そのコスで格闘戦できるんですね」

 

「思い出したんだけど、前世はステッキを持ってないと、変身も維持できなかったんだよ。それがどうして?」

 

「多分、今のあなたが装者であったためかと。装者としての特性がプリキュアの能力を変質させたんでしょう。私は幹部に報告しに行きますから、これで」

 

「わかった。今日はありがとう。調ちゃん」

 

 

この日、64F基地内のトレーニングルームで、キュアグレースとなっている立花響の現状確認が行われた。能力は現役時代のそれと似て非なるものに変容している事が確認され、ヒーリングステッキとパートナー妖精の存在なしにスタンドアローンで『プリキュアの姿を維持できる』点は特に注目された。おそらく、シンフォギア装者としての特性がプリキュアの力を変質させたものと思われる。小手調べで調、キュアマジカルの二人と手合わせしたが、プリキュア化による能力向上はシンフォギアとは勝手がずいぶんと違った上、能力の変質で『前世の記憶』が宛にできなかったのもあり、チグハグ感が否めず、本人も『動く時の感覚が記憶と違いすぎて……間合いが掴みづらい』とぼやくことになった(現役時代の通常フォームはヒーリングステッキがあり、パートナー妖精もいたため)。

 

 

 

「うーん…。ギアとプリキュア。両方の力が混ざりあった結果なのかな、これ」

 

「おそらく、あなたの装者としての特性が二つの力を融合させたんでしょうね。あ、あなたのお父さんの捜索を始めてるけど、長くかかりそうよ」

 

「ありがとう、マジカル。お互いに大変なことになったね」

 

「前世の記憶の覚醒で、色々とややこしいことになったもの。私は故郷の世界が滅んでしまったから、のび太さんの世界で暮らしてるわ。地球人の前世の記憶のおかげで、アニメみたいな真似はしないけど、マリア姉さんが過保護気味で……」

 

「仕方がないって、まさか、別人に生まれ変わった状態の身内が記憶持ちで、その状態で会えるなんての、奇跡なんだから」

 

「一応、プリキュアだから、前世みたいな最期にならないんだけど、姉さん、天涯孤独になってから、ああなの?」

 

「らしいよ」

 

キュアマジカル/十六夜リコは『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』の転生した姿にあたる。無論、『リコがセレナ・カデンツァヴナ・イヴの生前の全記憶を保持する』状態であるのだが、リコは気を使い、生前に近い振る舞いを見せるようにしている。魂は同一であるからだ。特殊な転生の最たる例だ(例えば、ウマ娘たちは魂は引き継いでも、生前の記憶はたいてい封印されているので)。

 

「まぁ、気持ちはわかるけど」

 

と、困った顔をするキュアマジカル。マリア・カデンツァヴナ・イヴが過保護になるのは、(セレナ・カデンツァヴナ・イヴとしての最期を考えれば)当然の流れである。とはいえ、行き過ぎているところがあるのは諌めたいようである。

 

「あなたも大変よ?これからはプリキュアとしても活動するんだから。」

 

「わかってる。元の世界じゃ、装者としての活動は無くなったけどね。綾香さんやその仲間の人たちが徹底的に敵になりそうなのを潰していったから、アルカ・ノイズが出る事もない。月も、先史文明が手を加えた部分が消しとんだ。おまけに、今の人類は『人為的に進化を促された生物』と分かったけど、隠蔽された。これで良かったの?」

 

「仕方ないわ。あなた達の世界の人類は先史文明時代の『もっとも賢いサル属』をベースに生み出されたけど、それを明らかにしても、戯言と扱われるわ。それに統一言語の剥奪が人類種の守護のためなんて、近代言語学の根幹が崩れるわよ」

 

「アナンヌキって、なんだったと思う?」

 

「大昔の地球を植民地化していたであろう、星間文明レベルの宇宙人。そういうべきでしょうね。だけど、23世紀のドラえもん世界ほどの軍事技術は持ってないようね。あの世界の宇宙戦争は『星が軽く消し飛ぶ』ような戦だから」

 

「……マジカル。あのロボットはなんなの?現代科学の理論で造られてるはずなのに、異端技術を赤子の手をひねるように……」

 

「理屈じゃ説明できないわ。あれは機械技術で生み出された『魔神』。あれもほんの一部に過ぎないわ。核兵器よりも遥かに強大である故に、スーパーロボットって呼ばれてるの」

 

「スーパーロボット……」

 

キュアグレースになっても、立花響はグレートカイザーの強大な力が魔法少女事変を終結に導く一助になったことが信じがたいようだ。シンフォギアは異端技術で構成されている。それを現代科学が超えてしまうなど……。

 

「更に上もまだまだいるから、インフレよ。惑星破壊レベルで赤子扱いなんだから」

 

スーパーロボットは宇宙支配レベルすらも『未熟な進化』とされるので、まさに魔境である。

 

「う、嘘!?」

 

「おまけに、異能も上には上がある。私達が全員で束になっても、かすり傷一つつけられなかった相手も平行世界にいたそうよ。それを更に蹂躙できるの、スーパーロボットは」

 

それはいくつかの世界ののぞみが遭遇した、強大な宇宙生物のこと。二人ののぞみが強大な力を渇望した理由の根源であり、前世(現役時代)で『目の前で仲間を倒された』ことのトラウマが(本人も無自覚のうちに)行動と思考に影響を及ぼしていた。その事を聞いたのだろう。つまり、この場にいるキュアマジカルはその出来事を経験しなかった世界線にいたことになる。

 

「そんなのがあるのに、なんで?」

 

「あなた達の時代の核兵器のような存在でもあるのよ、あれは。故に、おいそれと使えない。だから、個人個人で色々な世界の異能を身につける事も推奨された。ドリームはそれを使って、強くなっていってる」

 

プリキュア単体のスペックでは(キュアフェリーチェやキュアハートを以てしても)手も足も出ない敵は次元世界に多く存在する。それを自覚した者たちは各個に特訓を行ってきている。聖闘士の門戸を叩きつつ、飛天御剣流を独学で学ぶ、波紋法を覚えるのはその一例である。

 

「あの子は複合的な要因で、力を渇望する深層心理が根付いてね。あ、あの外見だけど、本当は21歳くらいよ?」

 

「えーーーーー!?21ぃ!?若すぎない!?」

 

「えーと、あなた、高校くらいでしょ、元の姿だと」

 

「うん、16くらい」

 

「現役時代の容姿に戻ってるけど、戸籍上の年齢はそのままでしょ?あなたに初めて会った時には17歳だけど、数年経ったから」

 

「そっか、プリキュアだと、よほどのことでもない限りは『なった時期の姿』がベースになるんだっけ?」

 

「ええ。基本的に、14~5でなる場合が多いから、基本的にその時代の姿がベースなのよ。あの子もその時代の姿で、二度目の青春を謳歌してるわ。前世の大人時代に辛いことが続いたらしくてね――」

 

大人になった後に不幸が連続し、プリキュアであることで精神の均衡を辛うじて保っていた世界線からの転生であるのぞみAは『青春を取り戻す』意図で、現役時代の頃の髪型を通している。

 

「そのために?」

 

「まぁ、話せば長くなるわ。あの子の前世での出来事を説明しないと、背景が理解できないから。夜にでも話すわ。今は訓練中だし」

 

こうして、立花響は少しづつ、双方の力を扱う方法、前世で共闘経験のある先輩であるのぞみに起こった出来事の仔細を学んでいく。それと同時に、調が口にしていた『騎士道』についても勉強を始めていく。これは改めて、騎士道を理解したいという彼女の申し出であった。また、元の世界からいなくなった実父の捜索を時空管理局などに依頼しており、長丁場を覚悟している姿を見せた。彼女は運命の流転にもめげず、『シンフォギアが必要にされなくなった世界線』になった『彼女らの故郷での身の振り方』を考え始めているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――こちらはウマ娘世界 ある日――

 

「気になったんだけど、あの話、どうなったの?」

 

「ああ、会長さん以下が雁首揃えて、チンピラを成敗しにいったってヤツだろ?映像撮ってたが、意外に大物がいたんだろ?あんた、顛末聞いてねぇのか?」

 

「その場にはいたんだけどねぇ……細かい処理は任せちゃって」

 

「昔のG1級がいたっていっても、あんだけのメンツがいれば、普通に考えて、撫で斬りだろ?」

 

「いやいやいや、意外と詰め寄られたよ。ありゃ、学園から姿を消した後に、野良レースで鍛え続けてたんだろう」

 

「お、本当だ。アンタが『領域』で突き放しにかかるくらいには、能力を保ってたのか」

 

「素の巡航速度は互角だったよ。ピークアウトが野良レースへの出場で比較的に抑えられてるんだろう。残りの数百mの直線の加速で振り切った。伊達に天皇賞バじゃなかったな……」

 

ジャスタウェイの持つスマホに映るはテンメイ。マルゼンスキー世代の天皇賞バであり、現役引退後は学園から姿を消していた。引退して久しいため、ピークアウトは起こったと思われたが、全盛期とほぼ同じポテンシャルを未だに保持し続けており、ナリタブライアンと一騎打ちに持ち込んでみせた。それは『マルゼンスキーの光に飲み込まれた悲運の世代』のウマ娘としてのせめてもの意地であったのだろう。

 

「そうか、思い出した。ハーツクライの『親父』に聞いた事がある。こいつが『トウメイ』の……!」

 

「ああ。そこは妙に史実に則ってた」

 

史実で親子である者でも、ウマ娘としては他人であるケースが多いが、トウメイとテンメイの関係は史実寄りなようであった。

 

「同じ天皇賞バだしな」

 

「思い出しますわ、あなたにぶち抜かれた2013年の秋を……」

 

「まだ根に持ってんのか?」

 

「借りはいずれ返す。それだけですわ」

 

ジェンティルは競走馬として、ジャスタウェイの前に敗北した事があるので、それを転生後も根に持っているようだ。また、ジャスタウェイは国内こそ、G1を一勝のみだが、海外のG1を勝った事がある。つまりその時、紛れもなく『同時代の日本の最強馬の一角』にあった。

 

「フッ…。ドバイ勝ってんだぞ、こっちは」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

「それを言ってやるなよ、ジャス」

 

さすがのジェンティルドンナも、ドバイでは勝てなかったので、それを成し得たジャスタウェイには一目置いているようで、素直に悔しがっている。

 

「しかしだ、このパワー…タイシンが持ってるそれだ。『借りた』のか?」

 

「うん、とっさにね。加速増強型だし、ブライアンちゃんも親類(馬としての血縁はないので、史実でいうと馬主つながりになる)として、低迷期に身に着けてたらしくて」

 

「タイシンが聞いたら、能力の無断借用だって怒りそうだが、あたしとジェンティルでが上手く言っといてやるよ」

 

「低迷期だと?その時のメモがあるのか?」

 

「見て。ギムレットに頼んで、コピーしてもらったものだけど。プライバシーに関わるから、他言無用だよ」

 

ブライアンの部屋に置いてあったノートのとあるページに(大怪我に加え、それがきっかけのピークアウトの訪れで)低迷が始まり、急速に自己嫌悪に陥り、本心である『弱さ』が表に現れてしまう心情が克明に記されていた。怪我が重度と診断され、競走能力のピークが終わりを告げ始める傾向が始まった事を告げられたであろう日を境に、ブライアンの精神状態は裏で急速に悪化し、トレーナーが姿を消したであろう日付のページには涙が滲んだ後があり、ひらがなで『ねーちゃん、オグリさん、たすけて……』とだけ書かれている。

 

「うおお……あいつ……」

 

さすがのゴルシも言葉を失う。この一文で、すべてを察したようだ。タニノギムレットの証言によれば、その日はオグリと姉のぬいぐるみを(無意識下で)抱いて寝ていたとの事である。

 

「オグリさんが翌日に慰めたようだが、ブライアンの低迷は……本人を予想以上に追い詰めてたようだぜ」

 

「ええ…。個人トレーナーが去ったことで、辛うじて保っていた何かがプツッと切れてしまったのでしょうね…。故に、彼女のお父上は三冠の名誉に泥を塗らないうちに……」

 

「だと思う。だけど、あの子はオグリちゃんの見せた『有馬の奇跡』が最後の拠り所だったから……」

 

「それ故に相容れなかった……んだろうな」

 

ナカヤマフェスタも真面目に呟く。オグリが見せた奇跡は皮肉にも、弟子の親と子のすれ違いを招いたのだ。

 

「だから、今回の事をあなたに……」

 

「だと思う。こうでもしないと、自力で『前世の道筋』は踏み越えられないだろう事はわかってたんだろうね……」

 

ブライアンがノートに記した『内容』は偽ざる本音。深層心理では、子供時代の幼さを強く引きずっていたのだ。拠り所が失われれば、ブライアンはいっぺんに『臆病なウマ娘』へ戻ってしまうのだと。故に。心の強さを持つ者に強く憧れ、幼少期にオグリの引退レース有馬記念で見た『ヒカリ』がブライアンが本当に欲しかったものであること、姉が幼き自分にかけてくれた『魔法』が『自分を変えてくれた』として、姉が自分のもとから去る事に怯え、深層心理では『ねーちゃん』と呼び続けているという意外に純真な一面を持つ。一同はそれを垣間見ることで、自分の大事なナニカを守るために、王座への返り咲きを望む姿が『外聞を取っ払った、彼女の本当の気持ち』だと知り、ブライアンの純真さに心を打たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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