ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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行間その二です。


第百七十八話「行間 夢原のぞみ(A)とウマ娘・スマートファルコン」」

――太平洋戦争は日本連邦に明らかな大義があったが、それでも、扶桑の海外領に責任を押し付ける者が日本には多かった。だが、21世紀の倫理観では、明らかに侵攻側は『侵略者』として断じられる立場である。そのために裏で反扶桑に傾倒する者は多く、ティターンズに情報源として利用される者が日本には多かった。無論、地球連邦軍はそれを察知しており、超兵器で有無を言わさずにねじ伏せるやり方で扶桑を援助していた。同時に、魔女たちは怪異戦と違い、単独で主導権を取れない戦場に歯噛みする日々を送っていた。ティターンズの暗殺拳の使い手らにあっさり倒されるなど、どうにもしまらない戦歴が続いたことも、魔女の衰勢の理由であった。魔女を凌ぐ強さを平均して持つプリキュアたちでさえ、暗殺拳の使い手には苦戦を余儀なくされるので、そこは生前のジャミトフ・ハイマンの慧眼というべきか――

 

 

 

 

 

 

 

――さしもの黒江も、聖闘士になろうとも、暗殺拳の使い手は『本気でかからねぇと、自己再生の必要のある傷を負わされる』と考えている。南斗聖拳と言っても、ピンキリであるものの、ジャミトフ・ハイマンは中~高位の暗殺拳を意図して集めていたようであった。これはバスク・オムやジャマイカン・ダニンガンなどの強硬派を始末するためで、ジャミトフの決断があと数ヶ月は早ければ、理由をつけて、彼らが『始末』したという。その彼らを要する方面軍が丸ごと転移したため、魔女の世界は混迷に陥れられたわけである。とはいえ、MS保有数はけして多いわけではないため、シンパやバダンからの横流しに供給を頼っているのが実状であった。とはいえ、その横流しにはヘリウム3ガスが含まれているので、MSなどののエネルギー補給の心配はなかった。また、装甲材自体も現用技術の延長線上のものであるのは確かなので、(無重力下での精錬と宇宙由来の高品質チタン鉱石が必要な)ガンダリウム以外は地球で補充が効く。そのため、ティターンズ残党からはハイザックやジムⅡなどの旧式機が重宝がられている状況となっていた。MSとしては既に非力となっていたが、旧式の装甲戦闘車両などから見れば『驚異の兵器』であることには変わりはなかった――

 

 

 

 

 

 

 

――ジム系MSはジェガン以降の世代のものが供与されてはいるが、限界性能の低さは問題になっていた。上位機種は64Fの幹部級の特権であるので、地球連邦軍も困った。そこで注目を浴びたのが『RX-81』であった。戦後の残党狩りに一時使われた記録があるが、大半が解体されていた。外装は保存されていたため、ジェスタ用のムーバブル・フレームを流用する形で作り直す案が採択された。元々はジェスタなどが(ジェイブスの量産開始で)型落ちモデルとなったので、外国に輸出の予定であったが、ジェスタ自体はUC計画との絡みがあったため、アナハイム・エレクトロニクス社と政府の保守派が(計画関連の)機密流失を恐れたために、輸出計画は頓挫した。だが、既に16m級のジェイブスが次期主力に決定し、従来通りのサイズのジェスタは型落ちモデルと化していたのは事実だし、せっかく設けた、部品の生産ラインへの投資費用も問題であった。そこで『ジーラインの新造し直し』の内部構造的意味での素体に流用する事にしたのである――

 

 

 

 

 

 

――ティターンズがジーラインの最終到達点『フルカスタム』の開発データと実機を破棄していた事から、当初の計画通りに建造されていたものを基本に、その時点のデータで復元された。従って、機能面ではその時点のものである。もっとも、キャノン砲を背負う中距離支援機の軍事的意義が予てから薄れていたので、却って良かったとも言える。一年戦争直後の旧型とはいえ、元々は初代ガンダムの完全量産機であったので、輸出用の上位機種となることで、本来の意義を果たしたと言える。64Fはガンダムタイプ自体を扶桑で独占的に持てるので、配備の対象とは見なされなかったが、扶桑のMS部隊の総合戦力をグリプス戦役時の平均レベルにまで引き上げる効果を挙げた。当時の平均量産機のネモやジムⅡでは力不足気味であったが、元々が准ガンダムタイプのジーラインにより、当時のまま運用されるマラサイにも有利になった(機動性の強化のため、バックパックのスラスターが六発で固定されたのも大きい)。扶桑はこれらを大量購入。陳腐化した軽戦車に代わるものとした。これは扶桑の機甲戦力がここ5年の技術革新で『時代遅れ』となったことが緊急導入の理由であった――

 

 

 

 

 

 

 

――日本は扶桑の人型兵器の急激な導入に文句を言いたかったが、扶桑は戦時の真っ只中であり、戦間期に導入した軽戦車が軍事的に無意味な代物に成り果てるなど、予定外のことだったのだ。扶桑は史実の大日本帝国よりは近代インフラの整備が進んではいたが、本30トン級戦車を組織的に運用可能なほどではなかった。故に、装甲化装甲歩兵に傾倒していた。だが、M動乱で『虎の子の四式中戦車や五式中戦車でさえ、カールスラントの新鋭中戦車以下の代物でしかない』ことがわかると、機甲本部は無能を罵られてしまう事になり、五式砲戦車でさえも、砲の換装が必要となる事態に陥った。この大混乱が扶桑を人型機動兵器へ傾倒させることになった。とはいえ、それらは極秘事項とされたので、公には自衛隊・61式相当の『五式中戦車改』が扶桑の主力機甲戦力とされた。これはMBTの少数配備で『戦局はどうとでもできる』と豪語した政治家たちが実際の戦場の様子に青くなったという事例が相次いだからである。リベリオンの戦車軍団を真に蹂躙できるのは、人型機動兵器のみなのだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――扶桑が日本に機甲戦力の刷新の情報を隠している理由は、ダイ・アナザー・デイでの横槍に対しての不信であった。先制攻撃を封じられたことで、ロマーニャ軍とヒスパニア軍は全滅し、その再建もおぼつかない状態に陥っていたからである。そのくせ『敵を生かして返すな』と、敵軍の殲滅を叫んだからである。その弊害により、前線の玉砕も相次いだのが、ダイ・アナザー・デイである。64Fの奮戦がなければ、地球連邦軍におんぶにだっこに陥っていたのは想像に難くない。また、扶桑の人材不足はそこからのクーデターの勃発とそれへの懲罰人事の横行による。人型兵器は通常兵器の不足などを補うために、緊急で大量導入がなされたのである。日本がそれを知ったのは、第一次の配備計画が完了した後。日本の政治家達は学園都市から接収したものを与えようと画策していたので、ガンダムが『本当にある』事に目を回した。それもZガンダム以降の高性能化した世代のものだ。扶桑はそうでなければ、対リベリオン戦線で主導権を握れはしなかったのである――

 

 

 

 

 

 

 

――もっとも、旧型兵器の廃棄は日本の先鋭化した官僚らによる軍部への見せしめという理由が強く、三式中戦車や九七式中戦車改、21世紀で現存していない一式中戦車を日本の軍事博物館に自走可能な状態で収蔵するために回収された側面が強い。問題はその代替兵器を前線に迅速に配備しなかった事にある。また、収蔵されていた砲弾などの廃棄も問題になったため、扶桑はダイ・アナザー・デイでカールスラントの遺棄兵器を現場判断で購入したのである。特にヤークトパンターやヤークトティーガーはM26重戦車も容易に撃破可能であった事から、前線で重宝がられた。つまり、一方で難敵、もう一方で最強の矛としての姿を見せていたのである。扶桑が購入したのは、本来はラーテの投入の暁には、護衛軍団に配されるはずであった個体であった。遺棄された弾薬と車両は全て扶桑が購入したが、ダイ・アナザー・デイでは、弾薬より敵が多い有様であった。日本政府はやむなく秘匿兵器を投入した。バブル景気の頃に『金にモノを言わせて』作った『メーサー兵器』などである。とはいえ、23世紀から見れば旧型(原理が前世代)の動力であった事から、より高出力の動力へ換装を現地で受け、投入された。その運用部隊は日本連邦評議会直属とされ、怪獣映画に準えて『Gフォース』と呼称されるようになった。色々と『引っかけた』名だが、64Fと自衛隊の出向人員と供与兵器などを引っくるめた際の名と解釈されている。元々は飛行部隊の64Fだが、Gフォースの中核と位置づけられた事から、万能性を持つようになっており、実質的にロンド・ベルの分署も同然の状態であった――

 

 

 

 

――64F留守部隊で重宝されたのが、リ・ガズィであった。ジム系よりは強力な性能を持つこと、BWSは空挺降下の多い太平洋戦線では便利な機能とされ、BWSを損傷すれば、MS形態になればいいという割り切りもあり、留守部隊の主力MSとされた。同機は連邦での評価は高くないが、64Fの留守部隊においては(空挺降下の必要性もあり)そこそこの評価を得ていた。准ガンダムタイプである都合上、ジム系を遥かに凌ぐ限界性能を持つことから、ティターンズ残党の虎の子であった『ガンダムTR-6』にも優位を持っていた。これはTR-6の肝と言えるはずの『BUNNyS』という管制OSがティターンズの特定の部隊にのみ与えられ、他は通常のもので代用したものが(ダミー目的で)与えられていた事による。それでも(グリプス戦役当時では)最高性能のもので代用されていたのだが、より世代の進んだMSであるリ・ガズィ(増産の際に、ジェネレーターの変更などが施されている)と戦えば、どうなるか。机上の理論では『グリプス戦役最強』とされても、ハードウェアが世代交代で旧式化した以上、想定のソフトが積まれていないTR-6は『旧式のガンダム』である。准量産機であるリ・ガズィは第二次ネオ・ジオン戦争から第一線級であるが、再生産の折に(一号機完成当時より世代の進んだパーツで)改修が施されているので、依然として、リゼルより一段上の性能を維持していた。そこも意外にTR-6が振るわない理由であった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――かくして、太平洋戦争は地球連邦軍内部の地球至上主義閥(元のティターンズ)と緩やかな地方分権派(旧エゥーゴ/カラバ穏健派)の派閥抗争の代理戦争でもあった。その舞台とされた『魔女の世界』としては、たまったものではないが、この介入により、リベリオンは国力を大きく消耗し、扶桑も軍事=日陰の職業という意識を持たされた。だが、怪異の脅威が消えたわけではないので、史実の戦後日本ほどは見下される職業にならない見込みであった。同時に、魔女の受け皿の増加と住み分け、軍内での出世の優遇措置の撤廃などが行われた。ミーナの不祥事により、若年での出世が憚れるようになってしまったためだが、戦功ある将兵の士気にも関わるため、上官の承認があれば、最大で五階級の特進が認められた。下士官の積もりに積もった戦功の消費の意味合いが大きいものだが、金鵄勲章の叙勲が戦後の一括方式となったための代替措置も兼ねていた。また、新規に少佐に任官する際に幕僚教育を義務化することとされたが、前線のパイロットと幕僚とでは業務がまるで異なる上、現場を知らぬ者に『机上の空論で作戦を立てられること』が現場から強く危惧されたため、当面は『幕僚の任務をこなせる高位の士官が作戦を現場で立案する』こととされた。ただし、現場指揮をこなす前提で。これは日本系国家は『指揮官先頭』を尊ぶからで、その過程で、黒江たちのような『戦闘に強く、幕僚任務もこなせる』タイプが尊ばれる風潮が定着した。とはいえ、当時は粛清人事で『そういったタイプの魔女』は64F在籍者以外が希少な人材となっており、それが同隊の酷使と肥大化に繋がっていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――坂本もこの問題を危惧していたが、当時は政治側が『戦争が終わったら、どうせ軍縮するんだし……』という認識であり、要員の新規育成よりも、戦局の安定を選んだ。これは民間航空会社の勃興やジェット機に耐えられない高齢のパイロットの転職が起こるのを見越したものだが、魔女の世界では、民間航空便の勃興する情勢下にはなく、航路も安定しないため、船便のほうが好まれる傾向があった。そのため、地球連邦軍が(高高度や宇宙を跳べるため)戦時下の航空旅客輸送を代行するようになった。これは突発的な怪異の巣の出現にも対応できるからで、扶桑軍も航路の護衛に人員が割けない故に、旅客航路の安全確保の代行を依頼したのである――

 

 

 

 

 

 

 

 

――軍馬確保のために競馬に関わっていた軍部だが、日本連邦体制下では強制的に手切れさせられた。だが、牧場には1945年時点で数万以上の適齢期の個体がおり、(とても戦後の競走馬と比べられない)無下にもできなかったため、結局はそれらは老齢期まで軍馬として用いるしかなかった。また、いきなり戦後型の方式にしても、競走馬の育成と保有には財力が必要な事から、扶桑固有の馬主はほとんどが(依然として)高位の華族階級(旧諸侯など)や財界の名士であった。黒田は侯爵家の継承後は(軍務への復帰は戦後になる)手慰みに競走馬牧場の経営を始めており、種牡馬として、セントライト(日本初の三冠馬)を買い取るなど、1940年代という時代を考えれば、最高の質を誇っている。黒田は64Fで名を馳せてきた生粋の軍人であることから、日本からは誹謗中傷もされているが、黒田侯爵家の継承者な上、元は末端の分家の出である。貴族趣味な本家の人間に比べて、遥かに世俗的な感性を持つ事もあり、(華族の法的特権が解体へ向かうため)黒田家の中興の祖となる。複数の世界の競馬情報はウマ娘世界にも伝わっており、自分がウマ娘ではない世界での名声を知り、『恥ずかしいところを見せられない』と奮起し、アスリートへ戻る者もいた。シンザン体制で副会長となった(正確には(アスリート時代の名声で『ならざるを得なくなった』というべきだろう)ハイセイコーもそうであった。ウマ娘世界でのハイセイコーは元々、アイドル志望であったが、偶然にも(その当時としては)天才的才覚があった事から、トレセン学園には途中編入で在籍。史実通りに皐月賞に勝ってみせている。学園卒業後はアイドル業で正式に成功を収めたが、改革を志向した先輩のシンザン(ハイセイコーの入学当時の生徒会長)に担ぎ出され、理事となった。2020年代では壮年期に差し掛かるくらいの年齢であったが、気が若いためか、現役時代から変化のない若々しい姿を保っている。アイドルウマ娘の称号の継承者であったオグリ(2020年代半ばでは20代に突入する)が子供の頃からアイドルであったのを考えれば、(もっとも若く見積もっても)40代前半の年頃であろう。ウマ娘は人間より(外見が)若々しい容貌を保つ時間が長いが、シンザンは(外見でいうと)『30代後半』くらいになっているし、その二期後輩のスピードシンボリは『35歳前後』の容貌である。とはいえ、スピードシンボリはルドルフの祖母である(関係性は史実寄りらしい)。全盛期の身体能力を長く保てないのと引き換えに、容貌に若々しさを長く残すのも(馬類の生物学的寿命は現役期間より遥かに長いことの反映だろう)ウマ娘の特徴であった。そんなハイセイコーは(自身の別世界での)名声を裏切れなくなったという事情により、アスリートとして復帰する流れとなった――

 

 

 

 

 

――ウマ娘世界――

 

 

「ハイセイコーさんがアスリート復帰かぁ。アイドル業のついでに走ってたって言ったら、顰蹙買っちゃうもんなぁ……、そっちの世界で」

 

「仕方ないさ、ファル子。こっちの世界じゃ堂々とした銅像があるし、立派な墓があって、漫画雑誌の表紙を飾って、歌まで作られたくらいの名馬だ。それがだ。ウマ娘としては『アイドル業が本丸で、競走界には才能があったから、周囲の薦めで籍を置いていただけ』って知れ渡ってみろ。いっぺんに顰蹙買っちまうよ」

 

チームブリュンヒルトに途中加入したスマートファルコン(愛称は『ファル子』)は自身の憧れであり、元祖アイドルウマ娘であるハイセイコーが置かれてしまった状況にそんな感想を漏らし、のぞみA(ナリタブライアンの代行中)にそう返される。のぞみAは(ナリタブライアンに扮する必要もあって)言葉づかいは(夢原のぞみとしてのキャラからは離れた)ぶっきらぼうで、粗野になっている。

 

「他の競技の選手にいたろ?芸能人としての箔付けに、アスリートの立場を利用してたの。そういう例があるから、『どっちも本気でしてた』ってしないと、世間の顰蹙を買っちまう。これが凡百の名もなきウマ娘ならよ、視線もさほど厳しくないが、数十年に一度級の名馬、それも元祖アイドル馬のハイセイコーだぞ?下手なこと言えないだろ。下手をうちゃ、アイドル生命に関わるぞ」

 

「別の世界との交流も大変なんだなぁ……」

 

ウマ娘世界のハイセイコーはアイドル業が本丸、アスリート業は副業のようなものであったが、地方からの立志伝を最初になし得、中央在籍中に皐月賞に勝ったという泊がある。(アイドルとして成功し、アスリートとしても実績を残せたという経歴持ち)こうして、別世界の自らの蹄跡によって、アスリートとしての自らの姿勢を『装う』しかなくなってしまう『受難』に見舞われたハイセイコー。前世が一時代を築いたレベルの競走馬であった故の呪縛ともいえた。

 

「競走馬は競走馬、ウマ娘はウマ娘と言いたいが、歴史に残るレベルの競走馬の魂と名を受け継いだら、一定程度は生き方を縛られるのは覚悟するしかないだろう。これからは……」

 

のぞみAはウマ娘たち、とりわけ歴史に残るレベルの競走馬が由来の者たちは振る舞いを気をつけなくてはならなくなることを予見し、ファル子にそう言った。特に、競走馬としての自分がいた場合の異世界に行く場合は。成人に達する年齢層のウマ娘は注意が必要である。

 

 

「そうなると、オグリさんやウオッカちゃん……ファル子もだけど、向こうにいったら、振る舞いを気をつけないといけないのかぁ……」

 

「シリウスとか、気性の荒々しさが知られてたヤツはまだいいが、ラモーヌは競走馬としては病弱だったらしいからな。あの底知れなさが漂う妖艶な人がその転生体と言っても、一発では信じないの多いと思うぞ?」

 

メジロラモーヌは競走馬としての美しさがヒトの体を得た際の妖艶さに反映されたらしいが、競走馬としての病弱さは反映されなかったらしい(むしろ、前世での弟かつ、現世での妹のメジロアルダンに反映されたらしき節がある)。現役時代は『ピークアウトによる衰え』が史実通りのタイミングで起こったらしく、選手時代の晩期は不完全燃焼であったとのこと。

 

「た、確かに」

 

「お前もだぞ、ファル子。砂で無敵を誇った『砂の逃亡者』が別世界だと、アイドル志望の女の子なんてな」

 

「え~~!?」

 

スマートファルコンはファル子とのあだ名で呼ばれ、本人もそう自称している。最盛期にはダートの王者で鳴らしていた名馬が、転生後はアイドル志望の女の子になっているとは、関係者が聞いたら、目を回すだろう。

 

「引退したら、ハイセイコーさんみたいに、アイドル業やろうと思ってるんだけど」

 

「アイドル業はよほど歌唱力があるくらいの特徴がないと、いつまでもやれんぞ?80年代のアイドル連中を知っとるだろ?」

 

「う、うん」

 

意外にも、ファル子はサイレンススズカよりも学年自体は上である。レースのデビューは遅いが、似た脚質などから、ユニットを組んでいる。

 

「でもさ、のぞみちゃん、よく演技できてるよ」

 

「事前に先輩に演技指導されたんだよ。先輩、親に歌劇団に入れられそうになったから、軍に志願したって言ってたくらいに、英才教育受けてたんだそうな」

 

「へー…」

 

「2025年には、ブライアンちゃんの現役末期から30年を迎えるそうでね。なんかコメント考えておかないとなぁ。前世が馬だから、ある程度の無知は許されるだろうけど……」

 

2025年はブライアンの現役後期から30年を迎える。1995年は大事件と大災害の起こった年だが、ブライアンは既に前年の輝きを失っていた。その事はブライアン本人も語っていたという。そんな時代を牽引できず、同期のサクラローレルに王者の座を明け渡した事は『前世の悔恨』だと語っていた。

 

「そっちはどうなの?さっきから、ファル子しか喋ってないよ」

 

「完全に戦争指導はグダグダさ。五輪と万博を時間かせぎに使っても、日本がやらせたのは旧型の投棄とインフラ刷新。装備の刷新自体は渋ってたからね。で、自主開発は殆ど中止命令。反対した技官をトンカチでしこたまぶん殴って、脳内出血で再起不能にしちゃう馬鹿な官僚まで出たよ。無論、そいつは懲戒免職さ」

 

「うわぁ~……」

 

「橘花っていう国産ジェット機の一号でのことさ。ドイツの劣化コピーだっていう理由で中止命令出して、この事件さ。海軍としちゃ、習作だから、性能と運用性は二の次だって意識だったんだが……日本は戯言扱いでね。どうせ体当たり用だと罵った。それでクーデターの引き金が引かれた。クーデター自体は即座に鎮圧したけど、その後の混乱の収拾のほうが大変でね。それで今度はテスト部署がやらかしてさ。収蔵されてた試作機を若い連中が勝手に燃やした。それで潰れた計画がかなりある」

 

それは横須賀航空隊のことであり、人員はほとんどが見せしめに前線に送られ、既にその時の人数の五割近くは戦死を遂げている。志賀はその監督責任を問われたが、その日には不在であったという幸運で重罪を免れている。横須賀航空隊の歴史を終焉させ、先輩である坂本の顔に泥を塗ってしまったという負い目を抱いて生きていかなくなったため、精神的には『罷免されたほうが精神的に楽になれただろうに』と周囲に囁かれるほど憔悴している。

 

「橘花もその一つ。花って名前は『開花を願ってつけたのに、花と散るなんて……』と技官たちは憤慨したけど、橘花の元設計に問題があったのもあって、結局は採用中止。で、ドイツと国際問題になって、奴さんが泣きを見た。ぼったくりとかが発覚して、結局は史実のアメリカ軍が朝鮮戦争で使ったF-86が主力になって、ドイツ軍のジェットはあっという間に時代遅れになって、消えてった。何ごともケチとぼったくりは良くないって事。その出来事の流れに巻き込まれたクチでね、あたし」

 

「えーと、つまり、軍隊が別世界の情報で混乱しちゃう流れってこと?」

 

「そそ。あたし、プリファイとかいったっけ、この世界で人気のアニメ。その類でね、本業。軍人してるのは公の立場上の都合ってヤツ。パイロットしてるから、一応は士官だけど。転職しようとして、予備役編入願い出したら、向こうの世界の日本の官僚に『歩兵上がりが教職になろうなど!!』って罵られてね。お上(天皇)の書状見せても、偽物扱いされて破られてさ。面談が終わった後、先輩の一人に泣きついて、厚生労働省のお偉方に訴えてもらった。そうしたら、国際問題ものの大事になったよ。戦争一歩手前?ってとこにまで悪化してね。で、転職はものの見事に潰れてね。軍隊を辞められなくなった代わりに、早く出世させて、危険手当も倍以上出すって条件を呑ませられた。あたしとしては、もっとぼるつもりだったけど、山下大将に諌められてさ…」

 

のぞみAは騒動を収拾させるために、ある程度は泣きを見させられた事、夢を否定されたことへの精神的苦痛を考えると、訴訟を起こしてもいいくらいだが、隊の上級編成元の司令官に諌められ、日本の政権のお偉方に土下座され、日本の陛下に慰めの言葉をかけてもらった以上は『引き下がる』しかなかった(野比財団が『公的に活動を支援している』ことも皇室の高評価につながったらしい)とぼやく。その一連の報道の流れで現役時代のすべてが事細かに報じられてしまったため、プライベートやプライバシーのプの文字もあったものではない状況となったのだ。

 

 

「その流れで、あたしが現役時代にどうだったか……が全部報じられちゃって。それで、プライベートも、プライバシーもあったもんじゃなくてさ」

 

「それでどうしたの?」

 

「変身した状態を極力維持することで、公務中って言い訳を通せってことになってね。転生して、昔に持ってた変身をした状態に、今の体が慣れきってなかったから、体を慣らす絶好の機会だった。そうしたら、プライバシーの時間を久しぶりに持てたよ」

 

騒動の後はそういう『やむなき事情』もあり、キュアドリームの姿を保っているのぞみA。ウマ娘になる事は精神的に休みたいという本音もあったのだ。

 

「でも、久しぶりに学生生活に戻れて、楽しいのは本当だよ。あたし…前世じゃ、高校や大学は本気で楽しめたって言えなかったからね」

 

 

それは教諭になるために、高校と大学の時間の多くを勉強に費やした前世で残った悔いのようなもの。ブライアンに成り代わることで、それを晴らしていると言っていい。

 

「それに、現役時代はずっと帰宅部で、普段は運動音痴だったから、運動神経抜群の人ってどうしてるのかを疑似体験してるのは感慨深いなぁ」

 

 

「変身してる間はプロって言っていいくらい動けてるのに?」

 

「変身してる間は身体能力が遥かに強化されてんの。そのプラス補正がなくても軽やかに動けるっての、憧れだったんだよね~」

 

 

のぞみAの本音。その一端が垣間見える一幕であった。

 

「後輩にヒーローやヒロイン好きの子たちがいるんだけど、げんなりしそうだよ?それ」

 

「変身しなくても、充分に身体能力があるのなんて、昭和の仮面ライダーや軍人系のスーパー戦隊、宇宙刑事くらいだよ」

 

 

と、昔は完全に運動音痴であった故の憧れをスマートファルコン(ファル子)に漏らすのぞみA。現役時代に運動音痴かつ、ドジっ子であったがための憧れに、ウマ娘(現時点で在籍中の)の中で随一の強者でありつつ、アイドル志望である故に、体力抜群でもあるファル子は『本業が超ヒロイン』の者の本音に意外そうな顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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