ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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今回は二つのパートに分かれます。


第百八十二話「魔女の時代の終焉とシンボリルドルフの憂い」

――魔女たちがサボタージュした事は結果として、64Fの『特権』を恒常化させるきっかけとなった。大半の魔女たちからすれば『現実味がない』人同士の戦争だが、(地球人出身で出ない者もいるが)プリキュアたちからすれば『当たり前の風景』。その差も魔女たちが戦果を挙げられずにいた理由である。支援のために五式砲戦車も投入されたが、当時の時点で火力は早くも陳腐化しつつあったため、155ミリ砲に換装された個体が生まれ、それが後期型として量産された。無論、自動装填付きである。当時、既に旋回砲塔に105ミリ砲を積んだレーヴェが生産されていたための措置であり、半ば自走砲としての運用である。戦車自体は74式そのものの供与が(野党の反対で)遅延した事から、結局は最新式の10式を引っ張り出すしかなくなった。更に、詫び代わりにメーサー戦車などを提供せざるを得なくなり、日本の防衛関連の議論は白熱した。それら秘匿兵器の威力は抜群であったが、少数の逐次投入とならざるを得なかった都合、センチュリオン戦車の大量購入は止められなかった――

 

 

 

 

 

 

 

――元々、センチュリオンはブリタニア陸軍が重巡航戦車として開発していたが、未来情報で改良が施され、量産された。扶桑が購入したのは第一次生産ロットのほぼ全て。ブリタニアとしても、いいビジネスチャンスだったからである。元々、当代屈指の高火力であったが、扶桑が使用したのは、独自改良で史実の最終型相当以上にアップデートしたもので、M26を一撃で撃破可能な火力、数段強力なエンジンで機動力を確保したものである。1940年代当時の他国の状況、扶桑の急速な技術発展を鑑みて、当時の在来型戦車で最強と言えた。当時は扶桑でしか、装弾筒付徹甲弾以上の次世代型徹甲弾は使用しておらず、また、爆発反応装甲や複合装甲などのノウハウも日本連邦軍のみが有していたので、MBTであるセンチュリオンは扶桑の改修に耐えうる余裕があったのだ。その資金は在来型レシプロ機の売却などで賄われた他、ラーテ購入用にプールしていたものも用いられた。また、ビックトレーとヘビーフォークはダイ・アナザー・デイの只中に『ラーテの代替品』として購入されている。ジオン残党の自然消滅とデザリアムの投降で需要が消えたため、地球連邦が売却したからである。とはいえ、前線では、カールスラント軍の遺棄したティーガー系統やレーヴェ戦車も根こそぎ購入され、現地改修(足回りの交換など)が施された上で使用された――

 

 

 

 

 

 

――2025年 野比家――

 

「ゴルシさん?私ですが……」

 

「ジェンティルか?結局、誰と入れ替わった?」

 

「今、作業が終了致しましたところでしてよ。水無月かれんさんに了承が頂けましたので、彼女と」

 

「そうか、キュアスカーレットは避けたか」

 

「彼女の体は複数の人格が共存している状態なので、避けるようにと。それで属性の近い彼女と」

 

「待て、かれんは一応、軍医で雇用されてたはずだ。お前、医療知識あるのか??」

 

「ご心配なく。姉のドナウブルーが病院を経営していますし、おじの一人が医者なので、父の意向で医療知識はあらかた」

 

「お前んちの教育方針はどうなっとるんだ」

 

ジェンティルドンナはその時に手空きであるキュアアクアと入れ替わった。軍医として雇用されている都合、医療知識の有無が心配されたが、実姉のドナウブルーが引退後に実業家に転身し、成功を収めたこと、おじの一人が医師である都合、医療知識は仕込まれていたと語った。これがジェンティルドンナの父が『一代で財を成した剛腕の実業家』であり、子の中で一番優秀な者に家を相続させる方針であったためで、ジェンティルドンナは(史実を考えると)継承者となるのは確実であった故、自分の弟の一人に依頼し、次女に医療知識を仕込んでいたからである。

 

「父は実力主義でして、子の中で最も優秀な者に相続権を与えると常々……」

 

「うぉぅ……お前……」

 

「帝王学も仕込まれていますし、経営学、医療知識も…。父はT大の首席だったとかで」

 

さすがのゴルシもドン引きのジェンティルドンナの実家の環境。声はかれんのものだが、口調はジェンティルドンナのものなので、わかったのである。

 

「ジェンティル嬢、少しよろしいですか?」

 

「何か、陛下」

 

「今は王位にはついていないので、その呼び方はご容赦を」

 

「その声は『セイバー』か?」

 

「今は英霊というわけではないですので、それもちょっと…」

 

「しゃーないだろ、あんた、英国で一番に知名度のある王だったんだから。クラス名で呼ばんと、色々と問題だろ。転生先でも、カールスラントの王位継承権ありなんだし」

 

「うっ……。護衛で呼ばれたのですが、彼女には必要ないのでは?」

 

「確かにな。しかしだ、カールスラント軍は有名無実化してんだし、暇だろ。あんたは日本でそこそこは有名なキャラだし、多少の有名税は我慢しろ」

 

と、英霊であったアルトリアをして、護衛の必要があるのかと言わしめた、ジェンティルドンナの超パワー。猛スピードで迫る特急列車を片腕で強引に止められるほどであり、大抵の金属はねじ切れるとも。護衛は怪我の防止の意味あいが強い。カールスラント軍の中佐であるが、最近では名誉職に近い扱いである。

 

「で、かれんしか該当するのがいなかったのか?」

 

「ええ。キュアマーメイドの海藤みなみさんは不在、キュアスカーレットのトワさんは色々な兼ね合いで困難ということで」

 

「お前に属性が近いの、意外にいないもんな、90人近くいるけど」

 

とはいえ、かれんはかれんで、意外にパワーファイター気味の特性であるので、意外に属性は近いとも言える。

 

「で、しばらくは休みか?」

 

「ええ。クラシック級に昇格しましたが、シンザン記念の次のレースは桜花賞にしたほうが最善だと思いまして」

 

「史実だと、お前、チューリップ賞は熱の影響で負けるもんな。それは避けるのか」

 

「ええ。桜花賞に万全を期すという事はトレーナーにも話しています」

 

「そこからはヴィルシーナが哀れになるくらいにぶっちぎるもんな、お前」

 

「精神面の鍛錬に出ると言ってありますわ。前世の運命がある程度作用するなら、三冠は問題ありませんから」

 

「お前、ある意味でサイヤ人に近い身体能力持ちだからな。カワカミが子供扱いだし」

 

ウマ娘はその全盛期においての身体能力に差があるが、ジェンティルドンナは特に突出した力を持つ。三冠の後継であるアーモンドアイがスピードと瞬発力にパラメータが割り振られているであろう予測されているので、有馬記念に勝利した記録のあるジェンティルドンナはスタミナとパワーに優れていると思われる。

 

「しばらくはその姿か」

 

「ええ。折角の機会ですし」

 

「それと、ドラえもんさんに伝えることがあります。地球連邦の観測衛星が捉えたのですが、植物星と元の天上人はゼントラーディのはぐれ艦隊やガトランティスの残党に襲われ、ほぼ全滅したと」

 

「ああ、『雲の王国の生き残り』か…。因果応報だが、ゼントラーディにしてみれば、事故のようなものだろう」

 

ドラえもんが存在を報告した『植物星』は20世紀の終わりに天上人が移民した星であり、23世紀まで存続していたが、二大勢力の争いに巻き込まれ、ほぼ全滅してしまったという顛末は(天上人のノア計画を鑑みれば)因果応報と言えるものだろう。地球は三度の襲来で完全に宇宙戦争=生か死かの倫理が根付いてしまったので、ウィンダミアの蜂起には情け容赦がほとんどなくなってしまうことが懸念されていた。ウィンダミア王が懸念したのも、その倫理が生み出すであろう破壞神『ゲッターエンペラー』の存在である。

 

「問題はこうした事故が多いという事だ。ゼントラーディは全盛期のプロトカルチャーが遺した遺産だが、銀河系を雲霞の如くさまよってる。だが、最近はボラー連邦とガルマン・ガミラスに駆逐されてきてると聞いている。デスラー砲とかで星系ごと消し飛ばす方法でな。地球連邦はその勢力圏の間を縫う形で勢力圏があるから、波動砲のような兵器が必要なんだが、まさかな」

 

「ドラえもんさんが行った星は?」

 

「他にもあるそうだが、それはうまい具合にボラー連邦とガルマン・ガミラスの勢力圏から外れてるそうだ。それと銀河連邦警察も、最近はギャバンが現場を外れたり、シャリバンが代替わりの準備で現場を外れたショックで汚職が表に出始めたそうだから、組織としては宛にできんそうだ。コム長官も引退したそうだし。だから、銀河連邦の作り変えが要望されてきてるそうだ」

 

銀河連邦はフーマとの大戦後に衰退期に突入し、地球で23世紀の時点では、功労者である警察のコム長官が引退を表明した途端に汚職が表面化。もはや形骸化が始まる段階であり、新興の星間国家である地球連邦に正式加盟の要請が出ているという(議席は日本国のものを引き継ぐ形である)。銀河連邦の中興には地球連邦の力が必要だという事だ。

 

「バード星の人々は地球人類と?」

 

「同根だ。おそらく、水惑星アクエリアスのどこかでの回遊で最初の文明が滅んだ後に再興してきた第二の文明が気候変動とかで宇宙移民をした結果、生まれたんじゃ?と推測されている。別の星で自然に生まれたのなら、遺伝的に地球人類と全部が同じというわけではなくなるはずだからな」

 

地球での23世紀、バード星は内部での汚職などの露見で求心力が急速に低下し始めていた。コム長官の引退でタガが緩んだのだ。さらに、宇宙刑事ギャバンの指導職への異動、シャリバンの交代準備などが祟り、犯罪率が上がってしまう『大チョンボ』をしでかした。その一方で、地球連邦との共同で起源の調査が進められ、地球の超古代文明のどれかが宇宙へ移民した結果、根付いた種族ではないか?というもの。つまり、現生人類以前にも、人類は文明を持っていたが、外的要因で滅んだり、宇宙移民で消え去り、その後に残されたサルをゲッター線の作用とプロトカルチャーの手での遺伝子改良により、現生人類が生まれたのでは?という仮説が生まれている。シンフォギア世界と違い、多少の改良が施されたサルが先史人類の後継に自然と進化したという点では、より自然な形である。そこも謎である。また、バード星経由で水惑星アクエリアスの存在が知られたようで、地球連邦軍のボラー連邦の『次』の敵への準備が始まった段階であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――扶桑海軍はダイ・アナザー・デイの開始段階では『九六式艦上戦闘機』が未だ数的主力であり、雷電と紫電改は愚か、零戦すら配備が進んでいない有様であった。日本側に罵倒される状況であったが、扶桑は魔女装備を優先していたので、飛行機の更新は遅れていたのだ。それを不眠不休でラインを切り替えていったが、パイロットの機種変更の問題があった。日本軍出身の義勇兵が大規模に集められたのは、大戦後期型のレシプロ機はあくまでも『繋ぎ』目的でしかなく、本命は戦後世代のジェット機であった。ジェンティルドンナは(念の為)プリキュアたちが参戦に至った経緯を事前に知らされ、自分でも書類を閲覧していた――

 

 

 

 

 

――1945年 ダイ・アナザー・デイにて――

 

 

「紫電改と烈風はラインに載せた。四年後(1949年)まで使う手筈で数千を用意する。紫電改は途中で陣風に切り替えさせる」

 

「間に合う?」

 

「陸軍管轄の工場には、キ100を最優先で用意させてるが、キ84はキ87と計画を統合させるしか存続の道はねぇな」

 

「義勇兵に不評だものね、あれ」

 

「キ44-Ⅲが本当はキ84の役目を担うはずだったが、リベリオンが敵になったせいでオジャン。で、84の初期生産機見て、日本があーだこーだ言いまくったから、長島の技術者が『提示された仕様と違う!!』と泡吹いてな。結局、完全に戦闘機へ直すプランは通ったが、メーカーへのお情けの救済措置にすぎん。ホ5の四門じゃ『弱火力』だそうでな」

 

日本側は四式戦に30ミリ砲の搭載を指令しようとしたが、色々な兼ね合い(再設計の手間など)で、機首砲のみを30ミリに変更し、翼内砲を12ミリ銃から20ミリ砲に変更するプランが採択されたが、これはダイ・アナザー・デイに間に合う公算は低いと見積もられた。そのため、当初から重戦闘機として生産されている紫電改や雷電が有力な『繋ぎ』の戦闘機と見なされていた。

 

「問題は空母だよ。雲龍が無駄に多いから、零戦を五四型に切り替えざるをえない。五二型と半々だな。無いよりはマシだ」

 

「雲龍は大きさが中途半端だものね」

 

「大鳳の増産が撤回されて、スーパーキャリアの調達に切り替わったが、繋ぎでミッドウェイ級を手に入れんとならん。日本は『縁起が悪い』とかで、大鳳を早期に退役させようと提案したが、信濃が戦艦のままだってんで、撤回した。雲龍はコア・ファイターを載せての軽空母運用が生き残る道だが、日本は予算執行を渋っとる。大半は他用途に回されるだろうから、ミッドウェイを一隻か二隻、エセックスを六隻以上は捕まえんと、空母機動部隊が置き物になる。地球連邦軍から買ったプロメテウス級は納入後に公にするほうがいいだろうしな」

 

この当時、シンフォギア世界から帰還間もない黒江だが、ミーナが後送扱いにされたと同時に准将に昇進していた。帰還後であるので、既に調と同一の容姿かつ、手っ取り早い身体保護として、シュルシャガナを展開している。執務スペースの机で引き継ぎの書類を書いているのは、武子だ。

 

 

 

「のぞみ。お前がプリキュアなのは、軍には福音だ。サボタージュで周辺の部隊は戦力にならんから、お前の初仕事としては派手になる。緊急事態だから、はーちゃんを参戦させるが、途中からになりそうだから、当面はピーチかメロディと組ませる。天姫は今日の定期便で本国に帰させたから、軍人としては俺の下で勉強をさせるぞ」

 

「わかりました。この戦いが終わったら……」

 

「お上に言って、予備役編入の許可の勅を出してもらう。教師になるのは、それからでも遅くはないさ」

 

「ありがとうございます」

 

 

しかし、日本の官僚の思想的暴走で、この時の手筈は完全にパーになってしまう。日本側は(自分達の官僚の不手際で)思わぬ外交問題が起こったことに顔面蒼白。結局、のぞみは(政権スキャンダルを恐れた日本の要請で)軍を辞めるどころか、『骨を埋める』ことになるのである。プリキュアの法的位置づけの議論が白熱する前に、連合軍は身辺保護を大義名分に、軍で雇用する事とし、以後の原則となっていく。日本は歴代のスーパーヒーロー達の法的位置づけの議論で警察と法務省が揉めてしまっていたのだが、扶桑はその様に呆れ、先手を打ったのである。厚生労働省、法務省、文部科学省は結局、のぞみの一件で扶桑に大恥をかいたばかりか、外務省に過労で倒れる官僚が続出する事態となったことの責任を取らされ、特に文部科学省はこの失態で政府に睨まれた故に、『冬の時代』を迎える事になる。

 

 

 

 

 

 

――かくして、ダイ・アナザー・デイの空戦は黒江の予測通りの様相となり、序盤は零戦/隼とF4Fが戦い、徐々に後続の陸軍機が加わる構図となった。F6F/F4Uが現れたタイミングで紫電改と烈風の本格投入がなされた。日本側は史実の速度値から『時速596キロ程度では……』とあげつらったが、扶桑の紫電改は(地球連邦軍の介入で)ハ43発動機搭載かつ、史実と段違いの工作精度により、680キロ以上の高速を誇っていた。更に対重爆仕様は排気タービン搭載済みであった。初期生産機は史実の通りの仕様であったが、日本側が『重爆を落とす気があるのか?』と剣幕であったので、生産101号機以降は排気タービン搭載型と『水メタノール噴射装置型』が半々となった。水メタノール噴射装置は既存機の性能向上に用いられ(レシプロ機の最初で最後の華となる戦闘を)、戦闘を支えた。ダイ・アナザー・デイは圧倒的多数の敵を少数の精鋭で迎え撃つ構図が常態化したため、途中からは飛行場への先制攻撃も(流石に、日本の政治も折れた)常時行われるようになり、その掃射には屠龍が用いられた。これは旧式の機材となってしまった同機種の再利用という側面が強いものであったが、扶桑にとっては比較的に新しい機種であったのも事実であるからであった。また、国民への示威と士気の維持のため、空軍の設立が発表され、エースパイロットの報道が大々的に行われるようになったのも、この時期であった――

 

 

 

 

 

 

 

――エースパイロットの戦果を報道する事は扶桑でも、事変の当時から行われていたが、この時期のものは『国際的な評価を得るため』という側面が強まった。ミーナによる冷遇がマスコミにすっぱ抜かれてしまい、反カールスラント感情が瞬く間に拡大し、大使館員襲撃(扶桑警察が阻止)に至ったからで、このエースパイロット関連報道が『志賀が重臣らの眼前で天皇に諭される出来事に繋がるのである。この一連の事件はカールスラント帝室が健在なうちに処理した最後の事件となり、また、カールスラント空軍の権威が保たれていた時期の最後の出来事ともなった。以後、ロシアによる戦果の疑義を提示する報道などが原因で、同国空軍は急速に衰退の道を辿る。その代わりを担うのを期待されたのが、新興の扶桑空軍であった。64Fは当初、『有名な人員をプロパガンダ目的で集めただけ』と部内で軽んじられていたが、ダイ・アナザー・デイの死闘を単独で潜り抜ける修羅ぶりを見せつけたことで『連合軍最強』に瞬く間に祭り上げられた――

 

 

 

 

 

 

――ダイ・アナザー・デイに参加した日本軍義勇兵の数は(裏事情もあり)日本には正式な数は申告されなかったが、旧軍の元軍人らのスカウト人数はかなりのもので、戦中の戦死者~2000年代まで生きた層までの各年代から集められ、空母機動部隊のパイロットの多くはそれらの再教育で賄われた。扶桑生え抜きのパイロットは教官級であっても、いいところ600時間近く程度。これは魔女が主力扱いであった弊害で、日本からすれば『未熟』の部類であろうが、42~3年当時のアメリカは320時間程度で投入していたので、魔女からも批判が飛んだ。特攻の悲劇を繰り返さないという信念からの政治的圧力であった。飛行機が普及している社会ではない扶桑としては、500時間くらいで投入したかったが、南雲機動部隊の記憶を持つ日本側が『最低で800時間!』とハードルを上げてしまい、扶桑生え抜きでは、教官をかき集めても、不可能な数字であった(魔女と兼任の黒江たちで達成する程度)。日本軍の元軍人が非合法の手段でかき集められたのだ。戦後に航空自衛隊や民間航空会社に属していれば、理想的とされた。その施策は扶桑の生え抜きパイロットを侮辱していると批判されたが、日本側は『ろくに出撃していない飛行機乗りなどは、ただの豚だ』と言って、憚かった。それが魔女のクーデターの原因になってしまった。ダイ・アナザー・デイ後のクーデターで失われた人員は技術者層にも及び、扶桑軍は間もなく、装備の自主開発の殆どを(基礎技術が世界水準に達していないこと、開発費の高騰を理由に)諦め、各国の既製品の輸入とライセンス生産を主力にし、太平洋戦線を戦う事になった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――この時代は皮肉にも、扶桑が史実の戦後日本に無理に近づけられた故のロードマップの破綻が日本に知らしめ、魔女の世界の秩序が史実の一次大戦前の状態なのが認識された頃である。欧州が力を持つままであるので、貴族階級は政治的に必要であること、怪異が現れる以上、非武装中立という考えは成立しえないことなどである。軍部の権限を縮小する前に、雇用の確保などもせねばならぬため、日本は次第に扶桑の間接的コントロールに興味を失っていく。のぞみの一件以降、火の粉がふりかかることを恐れたこと、近代兵器で超絶的に強化された大和型戦艦を止める術は自衛隊にはないことが周知されたからである。皮肉にも、46cm砲の火力は承知されていたからでもある。『核兵器にも戦艦は耐えられる』というのは、ビキニ環礁の核実験での長門型で証明されているのも、日本の一部勢力が扶桑の戦艦部隊への抵抗を諦めた理由である。兵器と人員育成費の高額化が『失われし』重装甲の戦艦の存在を際立たせてしまうという皮肉である。第二次世界大戦のように、数百機の航空機を使い捨てられる時代ではなくなったという事実は、皮肉にも、航空主兵論を失速させ、大艦巨砲を(全盛時代ほどでないにしろ)生き返らせたのである――

 

 

 

 

 

 

――扶桑はM動乱を機会に、軍備を怪異対策偏重から改め、急速に対人戦にシフトしていった。魔女らはこれに激しく抵抗したが、志賀の失態、クーデターの失敗、ダイ・アナザー・デイでのサボタージュへの世間の白眼視で急速に発言力を失っていった。64Fや第一航空艦隊(1949年度以降は『第一機動艦隊』)に属していれば、逆に崇敬を受ける立場にあった。とはいえ、日本側が軍人の食事を『基地内で全部済ませろ』と提言したら、それで経営を成り立たせていた基地周辺の食堂や料亭から日本連邦連絡部に文句が来るという『想定外』が起こり、結局、『許可を受けた士官』に限り認めるという妥協を取らざるをえなくなるなど、日本側の想定外は続いた。憲兵を縮小したら、『どこが軍人の粗相を取り締まるのか』という問題が当然起こるので、憲兵は国民への司法警察権を持たぬ『警務科』に組織改編されていく。その過渡的措置として、64Fの幹部層に『警務官』の権限が与えられ、プリキュアたちもそれを与えられ、扶桑軍の兵隊や下士官の素行不良を取り締まるのも仕事になった。憲兵は日本では『権力の犬』『権限を傘にして威張るゲス』との評判が言い伝えられているが、プリキュアたちが同様の仕事をすれば『絵面もいい』ので、64Fは警務の仕事も任務に加えられてしまい、多忙を極めた。流石にこれは厚生労働省と防衛省も看破できなかったため、予てからの64Fの幹部層の提言は通り、遠征後に扶桑の全軍でシフト制が完全導入されることになる――

 

 

 

――64Fがダイ・アナザー・デイを孤独に戦う事になったのには、いくつかの理由があった。一つは魔女たち(普通の)は人同士の戦争を『遠い昔のおとぎ話』としか認識しておらず、上層部への批判にエネルギーを費やしていたこと、その可能性を考慮していた古参の多くは史実の大戦後期~朝鮮戦争レベルに発達した兵器の洗礼を浴び、緒戦で後送、あるいは散華していた、最後は『上層部の秘蔵っ子部隊が実際には『役立たずであった』事例が頻発し、64Fの足を却って引っ張る有様であった』ことと、『ティターンズが『南斗、華山、泰山系の暗殺拳の伝承者らを送り込み、魔女であっても、容易に血祭りに挙げていった』ことで他の部隊が支援に及び腰になったからである。プリキュアであろうと、暗殺拳の使い手らは難敵そのもの。(現役時代は『理性のある人型の敵』と戦った場数は絶対的に少ないのもあり)のぞみでも、一度は捕縛&拷問に遭い、仮面ライダーらとドラえもんたちに救出される失態を演じてしまったほどである。のぞみはこの苦い経験を糧とし、ダイ・アナザー・デイ後は特訓を繰り返し、草薙流古武術の習得に血道を上げるようになった。太平洋戦争までには伝承者になっている。プリキュアでさえ、暗殺拳の使い手らに伍すには、それなりの時間を必要としたわけで、その証明であった――

 

 

 

 

 

 

 

――水無月かれんはB世界の出身であり、デザリアム戦役で戦列に加わった。軍医としての採用であり、前線勤務というわけではない。とはいえ、戦闘能力が高めであるプリキュアには変わりはないので、前線勤務率は高い。また、現役時代の属性がジェンティルドンナに比較的近く、偶然に手空きであった事から、体をジェンティルドンナの仮の器として貸し出す事になったのである。なお、アオハル杯はチームファーストが奮戦したものの、名だたるG1ウマ娘の最盛期のパワーの前には及ばなかったが、かなり僅差で負けたことが伝えられ、チームファーストは(史実のネームバリュー補正無しでは、かなりの上積みである証明である)奮戦が讃えられたという。G1級の上積み揃いのチームに喰らいつけたことは非ネームドウマ娘には希望だ。ジェンティルはそのレースで『ティアラ路線の若きホープ』の名声を得たという。(とはいえ、デビュー前の時点で、いくつかの事業を経営しており、やり手の実業家の顔も持つ。早期に起業させるのは父の方針であるが、一代で財を成した故に剛腕であり、妻には『家族を争わせるな』と反発されている。流石に、恋愛結婚の妻には弱い彼は妻にだけ、『最も優秀な素質を持つジェンティルを跡取りにする』ことを明かしている。清朝の太子の決め方のようだが、妻の要請、子の中で最も優秀な能力を持つのがジェンティルドンナであるのは疑いようがない故である)資産家の令嬢という生い立ちと、父とは違う道を歩む点はかれんと共通する。入れ替わりの候補は他に数人いたが、手空きなのが条件であるのもあり、水無月かれんに白羽の矢が立ったのである――

 

 

 

 

 

 

――ウマ娘世界にジェンティルドンナやオルフェーヴルの後の世代であるアーモンドアイなどもいると見積もられており、今後に台頭してくれば、テイオーの後の生徒会長候補の筆頭になるのは間違いなしである。ウマ娘は入学順とデビュー順が一致しないため、史実を知っていれば、混乱は必至である。ブライアンはルドルフの後継候補であったが、ルドルフはテイオーを選んだため、高等部卒業まではテイオーの補佐役としての任を全うする事になった。テイオーは非三冠のウマ娘であるのと、精神面で脆さが指摘されていた(挫折で一度は引退を決意した)ため、テイオーもそれを強く気にしている――

 

 

 

 

 

 

 

――野比家――

 

「テイオーはまだ若い。果たして……」

 

「会長、テイオーのことをまだ?」

 

「スズカ、あの子はまだ子供だ。私や君のように、普通の人間でいえば、大学生相当以上の年齢ではない。割に甘やかされて育ってきている。私のように、家族から帝王学を仕込まれていたわけではない。先の挫折にしても、ツインターボやキタサンブラックがいなければ……」

 

「……」

 

ルドルフはテイオーの未熟さを懸念している。後継者にしたのは、『前世での我が子』だからというのも大きいが、近い世代のブライアンにその気がなかったというのも理由である。

 

「エアグルーヴには苦労をかけたが、偶には休んでもらいたい。夢原氏も『柄じゃない』と仰っておられるが、当面はテイオーの補佐をしてもらうようにお願いした。君にはエアグルーヴの代打で私の補佐を頼むぞ、スズカ」

 

「先立って、エアグルーヴから頼まれました。あの子、根詰めるタイプだから。あの子のトレーナーさんに頼んで、しばらく休養を取るようにしました。数週間のクルージングを手配しました。メジロ家やサトノグループのツテを使いました」

 

「ご苦労」

 

ルドルフは生徒会引退後も裏で学園の運営やトレーナーなどの管理業務を手慰みに(非公式に)しており、状況の急転直下ぶりでエアグルーヴが過労で療養の必要があったので、エアグルーヴの親友であるサイレンススズカが臨時で秘書をすることになったのだ。

 

「うちの祖母が『海外遠征できそうな生きの良い者はいるか』と連絡をしてきた』

 

「スピードシンボリさんが?」

 

「ああ」(黒江たちの接触した『ウマ娘の世界』では、シンボリルドルフとスピードシンボリの関係は実の孫と祖母。つまり直接の肉親である)

 

「君も知ってるだろうが、祖母は自身が挫折して以降、後身から海外遠征に成功する者が出るのを待ち続けている。我々(ウマ娘)は見かけの若々しさは、人間より長く保てる。その分、寂しそうにする姿はいたたまれなくてね」

 

ウマ娘は外見上の若々しさを普通の人間より長く保つ。馬が『引退後の生活のほうが競走生活より遥かに長い』ことの反映だろうか。ただし、個人差もあるので、シンザンやスピードシンボリは『気が若い』からか、青年期からさほど老け込んでいないが、メジロアサマは気苦労が多い故か、先輩のスピードシンボリよりかなり老け込んだ外見になっている。

 

「しかし、この世界の記録を見ると……」

 

「うむ……それはサトノダイヤモンドやサトノクラウンにも伝えてある。彼女らはそれを覆すために努力している。おばあさまもそれに資金援助をすると仰っている。私は期待に添えなかったがね…」

 

ルドルフは現役時代の最後が敗北に終わったこと、脚部不安がよりによって、念願の海外遠征で現実になったことへの悔しさを引きずっている事から、スピードシンボリへ『不肖の孫娘』と卑下するなど、強いトラウマを負ってしまっている。その悔しさを晴らすため、ドリームトロフィーには欠かさず出場しているという裏事情があった。

 

「会長……」

 

「オグリへの罪、ブライアンとテイオーに重荷を背負わせた罪……。私は重い十字架を背負っている身だ。祖母は解放させたがっているが……オグリとは違う手段で、私は現役時代の悔恨を晴らしたいのだ」

 

そこはカタブツのようだが、ルドルフなりの矜持があるのだろう。

 

「協会に次なる企画の案は持ち込んである。おばあさまもシンザン会長にかけあってくれている。結果は一両日中に出るだろう。私やエース、シービー、ラモーヌ、マルゼンの心残りを本当の意味で晴らす機会かもしれん…」

 

その世代はオグリよりも上の世代であり、なおかつ史実で不完全燃焼気味の結末を迎えた者を含んでいる。特に、マルゼン、ラモーヌ、ルドルフの三人は。

 

「私とラモーヌは不完全燃焼としか言えん晩年でね。その悔恨を心の何処かで抱えている。なんというザマだ……」

 

「?」

 

「私とラモーヌは前世で子供を授かったが……生まれた子は虚弱体質でね…。おまけに、私の成した子の殆どは……走らなかった」

 

 

 

前世の記憶の蘇りで、交配相手であったのを指して『夫婦』と形容するルドルフ。ルドルフは自身の子の殆どがG1級に至らず、テイオーが二冠までいったが、ツヨシは虚弱体質が災いし、大成せず。ハヤヒデ、タイシンらと同世代の産駒に『ヤマトダマシイ』という有望株がいたが、事故で夭折している。その他はパッとせずに終わり、自身とテイオーはサンデーサイレンスの種牡馬としての台頭と栄華に飲み込まれ、種牡馬としては成功しなかったという顛末。また、メジロリベーラは(その子孫は大成したが)自身は虚弱体質により、惨憺たる有様であったことで、ある種の負い目があるようである。仕方がないが、ルドルフは自身の兄弟も、あるいは自分の子までもが馬主の期待通りには育たなかった。ヤマトダマシイは夭折し、ツルマルツヨシは虚弱体質が災いし、テイオーは骨折が全てを変えてしまった。さらに、自身が種牡馬として生きた時期はサンデーサイレンスの血が他を蹂躙していく時代。自身がシンザンなどを時代遅れにしたように、サンデーサイレンスの血統はそれ以前の良血を時代遅れとしてしまった。それはルドルフとテイオーのサイアーラインも含む。

 

「ヒトの体を得て……それでも因果に囚われ…。『これでよかったのか』と思うことが増えてね。記憶が蘇って、前世のロールプレイをしていたことに気づくことも残酷と言えるな…ある意味」

 

寂しそうなルドルフ。引退後は現役時代の個人トレーナーの手から離れているわけだが、それとて、前世の道の再現にすぎなかったのでは?と気づいてしまった故の感情もあるのだ。

 

「会長……」

 

「私はこれから家を背負わねばならんが、我が家はクリスエスの後に続く者は出ない。我が家はともかく、メジロは下手をすれば、家名が絶える。それはマックイーンもわかっているはずだ」

 

「どういうことです?」

 

「メジロベイリーを知っているな?彼女が現れたら、それでメジロの直系は終わりを告げてしまう」

 

ルドルフがスズカに告げる『メジロの終焉』を実質的に示すメジロベイリーというウマ娘。メジロ直系の栄光の終焉を図らずも告げる存在。マックイーンは『自分が当主になる時期には、メジロ直系のウマ娘は打ち止めになるだろうから、ウマ娘全体のトレーニングと療養施設の経営に軸足を移させる』と言っているというが、それはメジロベイリーを最後に、パタッとメジロ家の直系から俊英が出なくなることを知っているからだろう。栄華を誇ったメジロの『終焉』とシンボリの斜陽。それはウマ娘世界の名家の盛衰であり、ウマ娘世界での『サンデーサイレンス王国』の産声の予言でもあった。

 

 

 

 

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