――結局、21世紀日本の一部勢力が引っ掻き回した魔女の世界は『魔女の立場が決定的に悪化』した状態で1950年代を迎える見込みであった。元々、怪異との闘いで市民権を得ていたが、21世紀側の倫理で若年での就業が否定され、高級将校らのミスを徹底的に叩いた結果、軍部の魔女科は致命的な人手不足を呈し、今次大戦が兵科としての『最後の華』と認識されるようになった。メリットが減りすぎたのである。無論、ジェットストライカーの開発は急がれたが、1940年代の技術的限界や魔女の根本的な限界(通常は若いうちの儚い奇跡)もあり、魔女は社会的地位を急速に減じた。怪異に対抗可能な別の異能が次々と現れたためである。瘴気も魔導師やプリキュア、聖闘士などであれば、意に介さずに行動できるからだ。世代を経て強力になるのは『ごく一部の血筋だけ』なのもマイナスポイントであった。体系化されていないことと併せ、異能の増加=権勢の終わりを意味した。雇用形態の変化もあり、農村地域の衰退の引き金ともなった。別の異能と併せれば、近代兵器をもねじ伏せる万能性を得られるが、多くはその可能性に気づかなかった。それも致命的となった。その衰勢の直接のきっかけはミーナの不祥事であったので、彼女は国籍を問わず、周りから白眼視された――
――坂本美緒などの擁護、自身の人格変貌で軍籍剥奪などの重罰は免れたが、世間的な百眼視は当然ながらつきまとった。そのため、しばらくはミーナとしての活動を避けざるをえなかったまほ。体がまほの人格に馴染むのに時間もかかったので、しばらくは戦車教導隊への出向……つまり、陸戦要員として過ごしたわけである。その際には戦車教導の俊英として鳴らし、まほとして『少佐』に任官された。ミーナと同一人物である事は伏せられ、日本人として扱われた。これは先の事件を受けての措置であった。これはプリキュア関係者も同様で、ステラ・ルーシェは明堂院いつきとして、ペリーヌ・クロステルマンは(隠匿の意図もあって)紅城トワとしての姿で日本連邦に与した。ややこしいが、ステラ・ルーシェはシンが看取ったのと同一の個体ではないので、その理解と説明に時間を要した。自我意識もステラ・ルーシェ本来のものではなくなっているのも理由であった。また、ルナマリアも自我意識はジャンヌ・ダルクのものになっているので、色々とややこしくなっている。プリキュア変身者の転生を重ねた姿であることを示すため、ペリーヌ・クロステルマンとステラ・ルーシェは別名義でプリキュアになり、その姿で勤務している。ルナマリアは前世の姿が偉人であった都合上、むしろ、ルナマリアの姿を隠れ蓑にしている。コーディネイターの存在しない世界であり、なおかつ、ニュータイプ能力の兆候が現れていたため、連邦軍のパイロットとして食っていくのに困らなかった。(ルナマリアとして)トップガンの部類であったことも、就職の手助けとなったという――
――扶桑軍は相反する文化を持つ航空部隊を強引にまとめたため、陸海の相克が悪影響として残った。志賀が天皇に諭される事件は日本側にかなり問題にされたが、志賀は単純に『海軍航空の文化を守る』のが目的であり、反逆とかそういう意図はなく、むしろ皇室への忠節に篤いことの判明で、軍籍剥奪をすんでで免れている。坂本も前世では、機体へのノーズアートに無理解であったところがあるが、現世では逆に、ノーズアートの推進者である。現役時代は矢で敵機を射抜いた絵をユニットの側面に描いていた。名目上は士気向上の実験として。M粒子で視認性向上による敵味方識別が必要になった事は、その推進のいい大義名分であった。扶桑海軍航空隊も肩身が狭くなったためか、今までの頑迷さを捨て去り始めた。ダイ・アナザー・デイなどで民衆へのアピールの重要性を理解したからだ。元々、扶桑海事変以来、クーデターなどの凶事の当事者であったために、世間の目は海軍に冷たかった。それを『1945年当時の魔女の中堅層』が自覚したのは、1946年以降。気がついた時には『魔女は戦場の主役から滑り落ちていた』こと、『軍人は日陰者であるべき』という、戦後日本人の思想が根づき始めたことで、戦前期の教育を受けた彼女らは息苦しい思いをすることとなった。その思想の変革が軍の人手不足を起こしたわけである。日本はその責任を問われたため、表沙汰にしないのを条件に、扶桑へ自衛官を多数派遣。それで幕僚の穴埋めを行っていた。表沙汰になれば、日本の政権を転覆させかねないが、日本連邦の恩恵を受け、経済が復興し始めた日本としても、扶桑軍の士官層の不足を招いた責任はなんとしても、取らざるを得ない。こればかりは金でどうにかできない問題なのだ――
――史実にもいた高級軍人たちも、史実と違う面を持っていたりするので、日本人らの感情的な罵倒はあまり意味のない行為であった。山本五十六にしても、史実であった保守性と頑迷さは(黒江らが事変当時から窘めたりして、彼を上手くコントロールしたため)鳴りを潜めており、軍政の道に進めたのもあり、史実より聡明な人物であった。黒島亀人への寵愛も存在しないなど、異なる人物像であった。ただし、後世での温厚なイメージと違い、荒っぽさが驚かれたのが、海軍長老の一人であった鈴木貫太郎である。映画では好々爺じみた温厚な人物であったが、実際には(軍人かつ、史実の日露戦争当時に大佐であった)軍人らしい荒々しさを失っておらず、『俺は皇国の海軍大将だ! 貴様の今のその受け答えは何であるか!』と、騒動の際に、志賀を叱責する一幕があった。あるいは、史実と違う要因で連合艦隊司令長官を辞する事になった小沢治三郎など、『ついていない顛末』になった者も多い。また、要職への起用がなくなり、戦場での戦死が望まれている『可哀想な』海軍軍人の例に『宇垣纏』、『黒島亀人』、『豊田副武』、『大西瀧治郎』などがあった。彼らは同位体の史実での行為が原因で、日本側に戦死が望まれている例であり、大西瀧治郎は特にその声が大きい。特攻の推進者であったためである。大西自身も蟄居を望んだが、日本側の意向で戦死を望まれていた。自刃されても困るからで、ある意味で不幸な例であった――
――海援隊に在籍していた『初代・三笠』は日本が強引に海援隊から『奪った』。当然ながら、既にオリジナルの部品の多くは取り外されていたので、日露戦争時代の面影はだいぶ薄れていた。海援隊(坂本商会)が長年に渡って手を入れていたためだが、坂本商会は結局、理不尽な罵倒を忍耐せねばならなかった。オリジナルの部品は保管されていたので、それを寄贈する(復元が不可能になっているものも多いので)ことで手打ちとされた。ただし、象徴となる戦艦を奪われた海援隊の現場からの苦情も大きかったため、日本政府は『初期の戦艦より役に立つ』ということで、海保の『大型巡視船』を代替にしようとし、内定まで行ったのだが、現場が『巡視船なんて、図体のでかいデクの棒やんけ!』と猛反対。結局、廃棄予定であった『戦艦近江』を復元し、それと抱き合わせることで妥協が図られた。しかしながら、日本主導で海援隊の国家組織化がなされ、太平洋共和国がリベリオンによるハワイ占領で有名無実化すると、急速に日本連邦の体制と完全に一体化することになり、瑞穂国に次ぐ『歴史の流れで消えた日系国家』となる。海援隊も連合艦隊の『海上護衛総隊』に組み込まれ、その時を以て、太平洋共和国と海援隊の歴史は終わりを迎えるのである――
――カールスラントが衰退したことで、陸上兵力の微弱ぶりが顕著に現れた連合軍。M4中戦車は瞬く間に陳腐化。ましてや、MSの前ではおもちゃ扱いであった。扶桑の最新型であったものでも、M4後期型に伍する程度。これに焦った者達は地球連邦軍に協力を依頼。ダイ・アナザー・デイ以降、扶桑へ地球連邦軍の兵器が大量に出回る事になった。扶桑はレーヴェに触発され、105ミリ砲搭載の戦車の試作をダイ・アナザー・デイ前に行わせていたが、足回りに苦心し、試作段階を脱しない有様であった。74式が扶桑軍に不評を囲ったのは『装甲が薄いから』というもので、避弾経始も『机上の理論だ』という声があったが、ナチスの重戦車を目の当たりにしたことで霧散。しかしながら、扶桑は外征型の陸軍を持つので、本土での待ち伏せを目的に作られた自衛隊式の戦車は必ずしも適合していない。仕方がないので、扶桑製造の『74式戦車』は装甲と足回りが史実より強化された状態で生産されていった、ブリタニア製が国産を駆逐するのを止めるための緊急措置であった。大戦型の戦場では『量』が全てを決めることがあるため、結局、日本の政治が目論んだようにはならず、同戦車は大戦型戦車のように大量生産されていくことになっていく。大戦型の戦場は消耗戦でもあるからで、これは日本との齟齬の一つであった。リベリオンとの戦争は非対称戦争ではなく、国家間の正規戦であるからだ――
――ドイツがカールスラントを(史実の東西対立の情報を意図的に流し)、消滅寸前に追いやった出来事は(やった彼らも)想定外に騒動が大きくなり、血で血を洗う東西出身者の争いに発展。これで致命的な打撃を受けたカールスラント連合帝国は形の上では保たれたが、ほぼ有名無実化。深刻な心理的な分断という『癒えぬ傷』をもたらした。これを他山の石とした日本は扶桑へのあからさまな干渉を自主規制するようになっていく。カールスラントが『ゲルマン民族存亡の危機』にまで追い詰められ、『心理的な東西分断で、一等国に戻れなくなった』という事実に青くなったからである。華族身分が残ることを『妥協した』のは『アメリカ相当の国が史実ほどの影響力を持たない世界情勢である』からだ。引っ掻き回された『魔女の世界』はティターンズと旧エゥーゴの代理戦争の場であることが続いたことで、日本連邦の一強状態へ加速していく。カールスラントの有名無実化は同国の技術者たちの日本連邦へのエクソダスを招くことになり、日本連邦は彼らへ青天井の予算を与えていく。その流れが『史実のアメリカに相当する役周り』に日本連邦を固定化させていくのである。日本は『均等に各国に軍事的役回りを分散させ、自らは適度に軍縮する』ことを扶桑に望んだが、現地情勢と怪異の存在がそれを許さず、扶桑の超大国化を(やむなく)推進させていくのだった――
――皮肉にも、連合国のティターンズへの反抗のシンボルは戦艦大和であった。大和に対抗しえる戦艦はモンタナ系の重戦艦以外になく、扶桑はモンタナとそれ以上の戦艦の量産に対応し、航空戦力の近代化と戦艦戦力の画一化を図った。潜水艦は日本が情報開示を渋ったり、魔女閥が攻撃用潜水艦を敵視したことで近代化計画が遅延。かと言って、日本式空母では『ジェット艦載機に対応できない』。そのジレンマもあり、対外的に大艦巨砲主義を信奉しているように見せ、空母機動部隊再建の時間稼ぎをする一方、スーパーロボットの威力を誇示することで、連合国の構成国の離反を抑止する(実際、日本連邦の強権に反発する国も現れていたが、軍事的に圧倒的格差があるため、カールスラントの二の舞いを防ぐために、複数の国が面従腹背している状況でもある。だが、ティターンズの思惑が伝えられていくにつれ、それも薄れていく)ことも行われていた。裏切り者は『九族皆殺し』。それをわざと示唆するという『恐怖による支配』だが、実際、裏切り者はどこの国でも処刑には違いないので、それを家族に連座させるというのは前近代的であったが、既に、連合国軍参謀本部の統制が崩壊しつつあった連合国の構成国への精神的圧力とするのを日本の大衆が選んだのである。既に、カールスラントへの苛烈な報復措置とその結果は各国への抑止力となっており、国単位の裏切りを抑止するには『ある程度の悪は必要である』と考えたのである。皮肉なことに、かつてのソ連や東独のやり方が参考にされたわけだ。無論、ダーティーであるので、国民へは公にされない。日本は皮肉にも、かつてはスパイ天国と言われた惨状の鬱憤を『魔女の世界』で晴らしていると言えた――
――ウマ娘たちは史実を『思い出す』ことで、史実を超えるという選択肢を選ぶ余地が与えられた。ブライアンは悲劇の三冠馬と評された前世を超えるために、プリキュアの力を借りる事にした。オグリがドラえもんの道具で『歴史を変化させ、新たな世界線を生んだ』という事に触発されたのである。ブライアンはフラッシュバックで『見た』のである。競走馬としての後半生の全てを。ある意味では禁忌かもしれないが、それでも『それ』を選んだ。ルドルフの後継になれなかった自分なりの償いとして。のぞみはブライアンのそんな起死回生を賭けての願いを汲み、ウマ娘として生活することになったわけだが、周囲のサポートもあり、その生活は二年目を迎えていた――
――ウマ娘世界――
ブライアンが三冠ウマ娘であり、なおかつ、レース関連のこと以外に無関心であった都合上、預金残高は既に数百万以上であった。本来はトレーナーが管理する事柄だが、低迷期に個人トレーナーを奪われた関係で、ブライアン本人に管理権が移っていた。さらに生活資金として、のぞみは軍の数回分の給金を(現代の日本円に換金して)持ち込んでいたので、意外に金回りは良かった――
「のぞみさん、何買ったの?」
「実物乗ってる身だけど、手慰みにガンプラ。この世界でもあるみたいだね」
「どんなのに乗るの?」
「SNS炎上対策で、上が正確な機種名の公表はしないけけど、ガンダムタイプだよ。今度はフリーダムガンダムに乗ることになりそうだ。コピー機だけど、内部の規格はアナハイムのものにしてある」
のぞみ曰く、ガワと機能はフリーダムガンダムそのものだが、部品の規格はユニバーサル規格であるコピーに乗るとのこと。実際に乗るのは大人のぞみになったが、オリジナルより動力技術がだいぶ上回る世界での製造になったため、武装は一部(頭部バルカン砲など)が連邦の規格品に置き換えられている他、シールドは対ビームコーティング済み(後継機種のストライクフリーダムガンダムのデータは提供されなかったためだが、地球連邦軍に既にオールレンジ攻撃が可能なMSがあることの判明で、キラ・ヤマトは乾いた笑いをするしかなかったという)である。また、ダブルゼータの概要が開示された影響で、オーブ軍は独自の武装をストライクフリーダムガンダムに施す意向だという。
「炎上しそうだねぇ」
「仕方がないさ。キラ・ヤマト君のイメージが強いし、オリジナルはラクス・クライン嬢が与えたものだもん。それに他のが乗るのは、炎上必至だもん。ましてや、本当は縁もゆかりも無いあたしがさ……」
フリーダムガンダムのオリジナルはシン・アスカに破壞されたが、レプリカがアナハイム社の手で建造された。ただし、フェイズシフト装甲はフレームや最終装甲のみの導入に留められ、外装はガンダリウムイプシロン合金(デザリアム戦役時の最新型)で製造されている。レプリカで用いられた全天周囲モニターはストライクフリーダムガンダムの改修で独自型が導入される事になる。
「νガンダムはアムロさん専用だから、特定の搭乗を想定されていないフリーダムガンダムに白羽の矢が立ったわけ。あたしの腕じゃ、Zガンダムはまだ無理だし」
ゼータの系統はのぞみの腕では、真価を出しているとは言い難いところがあるため、オーソドックスな汎用型かつ、飛行型であるフリーダムガンダムに白羽の矢が立ったわけだ。操縦性の問題があったので、バイアランやネオガンダム、F90Aタイプのデータで操縦性が改良されたとのこと。
「あれは操縦性悪いって設定あったけど、実物も?」
「ジオン系の技術者が主幹だったって話で、リック・ディアスを通して、ガンダム試作二号機の後継ぎなんだって。大本はドム系らしいから、Z系はドムの親戚にもあたるんだって」
フェイスデザインなどの共通点から、ガンダム試作二号機はZの先祖の一つにあたる。ゼータが純然たるガンダムタイプとは言い難いのは、ドムの血統がリック・ディアスの段階で入ったためだと、のぞみは聞いている。
「アナハイムのエンジニアしてる、知り合いから聞いた話さ。νはZ系の部品を流用してる箇所多いけど、純粋に初代の正統な後継機種だから、ややこしいんだって」
「ふーん…あのデブッチョがガンダムの親戚になるんだ。信じらんなーい」
マヤノトップガンはちょっと膨れた顔を見せた。ドムは(重MSであるので)デブッチョな風体なので、そこが不満なようだが、メカニズム的には評価されている。MSを使った戦争はミサイル全盛時代より遥かに人道的と評価されているが、核より非人道的な兵器が増えまくっており、MSは科学者に『人間の良心』と評価されている。とはいえ、異星人相手が主流となり、血で血を洗う闘争の時代となると、異星人は手段を選ばないことが(ガトランティスなどのあまりの非道ぶりが原因で)判明してくると、MS単独での作戦は減少していく。やがて、非人道的攻撃が侵略で行われると、地球連邦は次第に『相手が牙を剥いた場合、どうすべきか』という思考が尖鋭化していく。ゲッターロボの究極であるエンペラーに惑星破壞に躊躇がなくなっているのは、その結果である。
「まぁ、ゲッターロボがエンペラーに進化したら、時間も空間も意味が無くなるけどね。人類に牙を抜いた奴がいれば、宇宙の意思だろうが、星間国家であろうが、叩き潰す。真の敵はそれよりも上の次元にいるからね。最低でも、ラグース細胞に対抗できる能力を持たないと……」
「ラグース?」
「多重宇宙を好きに作って、壊せると言われる存在。空間自体を支配できる能力を持つと言われてる。あたしらはその能力を目指してる。その領域が第十感。あたしは部分的にしか行使できないけど、その時点で、初代プリキュアの二人より強いと思う。全プリキュアでも突出してたからね、あの二人は」
ここで、のぞみAは(この時点では)テンセンシズの力は完全には目覚めていないが、それでも、現役時代の時点での美墨なぎさと雪城ほのかの二人を凌駕したと述べる。これはなぎさとほのかが『(戦士としての)プリキュアの起源』である都合上、後輩より必然的に強い力を持つからだ。現役時代の頃は(中心戦士が集まった場合)二番手か三番手のポジションであったので、聖闘士に準じた力を得ることで『やっと超えた』という自覚を持てたあたり、二人が『原初にして最強』の地位を占めていた期間が長いことが窺えた。また、マジンガーZEROから『ラグース』や『時天空』という倒すべき敵の存在を知らされたことを匂わせた。また、小宇宙を『神を超える』領域まで突き詰めていった先が『空間支配能力』であることを話す。
「あなたの先輩って強かったの?」
「うん。あの二人で対抗できなきゃ、全てが終わるみたいな扱い。だから、後輩としちゃ、危機感あったんだよね、若い頃から」
自分が一度『死んでいる』ことから、現役時代を『若い頃』と表現する。転生前の死去した年齢に転生後の年数を加えた場合、充分に『老人』と言える年齢に達しているからだろう。
「とはいえ、まさか、小宇宙の行きつく先が空間支配能力なんてさ、思ってもみなかったよ。それをオリンポス十二神は『絶対神領域』とも呼んでいたよ。阿頼耶識も虚無も超えた先の力。それもただ、会得しただけじゃなくて、支配できる領域を広げないといけない。最低でも多次元宇宙をいくつも支配できるくらいに。めまいがするね、正直。不死身でないと、とても無理さ」
「確かに、宇宙を丸ごと全部支配するったって、一つ一つが途方のない広さなんだし」
「不死身の体を得た上で、途方のない年月をかけないと、とても無理さ。普通のやり方じゃね。だから、先輩達もゲッター線の力を受け入れたのさ」
最終目標が『宇宙の上位空間を事実上、支配する無限の大きさの敵』である都合上、空間支配能力も途方のない広さを支配できるものでなければ、戦うことも叶わない。それこそが『進化の究極』だという。あのラ=グースも、神々が時点空を倒す兵器の試験の産物らしい。
「途方のない話だね」
「うん。恐ろしく遠大な神様たちの計画さ。それはそれとして、あたしの当分の関心事はタケヒデ(ビワタケヒデ)さ。あの子は下手に走らせられない。脚が弱くてね。ブライアンちゃんがなんとかしてくれって言ってたけど……」
「強度の脚部不安かぁ…」
「現役引退時のルドルフが発症したのとは違って、生まれつきだんだ。しかも運命づけられてる。本人が聞いたら、自暴自棄になるから、ブライアンちゃんも、ハヤヒデちゃんも言えないでいたそうなんだ」
「まさか、それで?」
「あるだろうね。妹達は史実では走れなかったほうが多い上、才能があったのは、自分とハヤヒデちゃんだけだって『思い出しちゃう』ことで気負うものがあったんだろうな」
学園の屋上。他に誰もいない場での会話。のぞみは時たま、秘密を知る者と会話をすることが『息抜き』になっている。気を使われているのも事実なので、息抜きは必要なのだ。
「会長さんも大変だよね。引退したら、したで、理事になるための社会勉強をしてこいって言われんの」
「あの子のおばあさんが海外遠征支援の部署の長をしてるからねぇ。見かけは30代前半に見えるけど、実年齢はすごいことになってるんだよな」
スピードシンボリはこの世界線では、史実通りにルドルフの肉親である。気が若いためか、現役時代とさほど変わらぬ美貌を保っている。後輩のメジロアサマ(マックイーンらの祖母)が年相応の老いを見せているのと対照的である。声はモードレッドから荒々しさを抜いたような感じであり、年齢相応に落ち着いている。のぞみはブライアンとして、ハヤヒデの引退レースのお膳立てをしている都合上、会った事があると、マヤノにいう。ルドルフが事前に電話で協力を依頼していたためだという。しかし、アサマが相応に老け込んでいたのに対し、その先輩のはずのスピードシンボリが若々しい姿を見せているのも謎である。更に後輩のハイセイコーはまだわかるが、より上の世代のスピードシンボリとシンザンが『メジロアサマよりも遥かに若々しい容姿を持つまま』であること。それも謎だ。しかも、シンザン、スピードシンボリは既に孫世代の子孫がいる身で、だ。
「この間のアオハル杯は予想よりは接戦になった。これで、引退世代も張りが出るだろうね」
「ビデオ撮ってる?」
「学園の記録部が撮ってると思うから、みんなで見ようか。こういう時、生徒会の肩書は役に立つ」
チームブリュンヒルトは強者揃いだが、こうした『事後の反省』もする。この頃には、マヤノトップガンも加入したことが窺える。チームファーストは(史実の異名や名声による)プラス補正無しで、かなり奮戦したことが示唆され、それをねじ伏せられるだけの地力を見せたことで、名声は確固たるものとなった。学内通信では、新鋭のウマ娘であるジェンティルドンナが活躍したことが大きく報じられている。同世代のクラシック路線の有力ウマ娘として、ゴルシの名も報じられており、有力なウマ娘が早い内から取り沙汰される世代となっていた。この頃、テイオー/マックイーンの世代がターフを去りつつあり、ブライアンの世代からも引退者が出始め、根本的な世代交代の波がいよいよ訪れつつあったわけだが、アオハル杯は後半戦に突入しており、チームの淘汰が進んでいる。また、この日から一週前、偶然にも、サトノグループ運営の銀行に暴漢(道を間違った『反社』)が『シノギ』を請求しようとする現場に居あわせ、制圧している。
「ところで、一週間前、なんかあった?」
「ああ、ダイヤちゃんの家の運営する銀行に口座開こうとして、銀行に行ったんだ。そうしたら、今どきめずらしい『チンピラのカツアゲ』に居合わせてさ。膝蹴りと手刀で制圧したよ。この体なら、現役時代の変身よりも動けるからね。素人には見えない速さで攻撃した。騒ぎにならないように、ね」
「あ、そっか。マヤたちなら、普通の人より早く動けるからね」
「それに、あたし、プリキュアかつ、プロの格闘家兼軍人だから。一応、百戦錬磨のプロだよ、プロ。まぁ、上には上がいるけど、そこらのチンピラ相手なら、一瞬でいいよ。本気だと、この体じゃ加減が効かなくて、殺しちゃう危険もあるから、相当に加減したよ」
視聴覚室へ行く途中、そのような会話を交わす。その出来事では、ブライアン(のぞみA)が警察から表彰されたわけだが、その出来事の詳細がざっと語られるのであった。