ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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ストライクウィッチーズは歴代プリキュアの出演者の方も多いので、それをネタにしています。


第七話「キュアマーメイドの気苦労」

――ペリーヌ・クロステルマンは家族・親族を全て失ったことなどから、周りに付け入られないように振る舞っていたせいか、高飛車さが目立っていたが、モードレッド/紅城トワの二人がペリーヌの別人格という形で転生し、共存する事で、ペリーヌ自身も落ち着きを身に着けつつあった――

 

――竹井の執務室――

 

 

「トワ、まさか貴方がペリーヌの別人格という形で転生するとはね」

 

「ええ。お久しぶりですわね、みなみ」

 

「どうするの、これから」

 

「体をペリーヌやモードレッド卿と共有してゆく事になります。今は私が使わせてもらっていますわ」

 

キュアスカーレットの姿ながら、プリキュアとしての現役を終えた後なので、本名で呼ばれるトワ。今はペリーヌもトワを受け入れたため、紅城トワの名義で太平洋戦線に参加すると公言している。(扶桑国籍も紅城トワ名義で取得したため、ペリーヌは二つの国籍を保有する事になった。)基地内でもキュアスカーレットの姿でいるのは修行の一環である。この日は非番だが、改めて、キュアマーメイドに挨拶したのである。

 

「で、あなたも綾香さんに言いつけられたのね?」

 

「ええ。なんだか妙な感じですが」

 

「日常を変身した姿で過ごせというのは、バトル漫画じみてはいるけれど、変身した時の興奮状態を取り去るという点では理に適ってるわ。私やあなた、ドリーム、メロディ、ハッピーは軍部で既に一定の地位を築いているウィッチが覚醒している事になるから、誹謗中傷も凄くてね。ドリームは凄く怒っているわ」

 

複数の歴代プリキュアは転生の素体が軍で一定の地位を得ているエースウィッチであるがため、それも嫉妬の対象になる。それに言及するキュアマーメイド。

 

「私達も、好きでこうなったわけではないというのに。民間人は勝手な事を」

 

「日本の大衆はそういうものよ。強きをけなし、弱きを笑う。太平洋戦争で、それまで築いた全てを壊されたからだと思うけれど、勝ち組のアラ探しで庶民の嫉妬を柔らげ、負け組の弱点をつくことで、庶民に優越感を与える。一般大衆が読むゴシップ週刊誌はそういう作り方で作られてるし、ネットギーク達の物言いはまさにそれよ。曲がりなりにも公職にいる私たちは、『戦況をひっくり返すだけの戦果』でしか、彼らを黙らせられないわ」

 

「ですが、今の戦闘は味気ないように思えます。ルーチンワーク的な…」

 

「まぁ、力をフルに奮えば、ある程度はルーチンワーク化してしまうわ。だけど、敵も生き残りを束ねてるし、ティターンズも精鋭を教官にして鍛えてるろうから、ここからが肝心なのよ。チートだのが正面から通じる時間は終わりって事よ」

 

「それで私達にも銃火器の訓練を?」

 

「そうよ。これからは味方の立て直しが始まるから、共同戦線も多くなるだろうし、デリケートな任務も増えるわよ」

 

「あの方はどう考えても…」

 

「ケイさんのことは考えなくていいわ。あの人は好きにやらせたほうが戦果出るから」

 

圭子についてのキュアマーメイドの見解はそれであった。これからはプリキュアと言えど、必ずしも一騎当千できるとは限らない。これまではゴリ押しが通じたが、敵も神闘士や海闘士級の実力者や世紀末系拳法の上位の使い手を送り込んでくるだろう。単純な兵器の差と練度差を覆すためのものは敵も持っているのだ。

 

「問題は敵は北斗琉拳や南斗鳳凰拳とかの使い手を温存してるって事。それに正面から対抗できる力は……まだ、私達にはないわ」

 

「それほどの相手なのですか?」

 

「最強形態のドリームとピーチが毎回のように血反吐吐くレベルにまで、容易く追い詰められてるのよ?正面から対抗出来るのが聖闘士組やヒーロー達だけじゃ、プリキュアの沽券に関わるわ」

 

「沽券、ですか」

 

「なぎささんとほのかさん、咲さんと舞さんがいない以上、のぞみやラブはその看板を背負わなくてはならないのよ?仮にも『物語の主役』を張っていた二人がけんもほろろにやられたら、なぎささん達に顔向けができないわ。あの子達には強くなってもらわないと困るわ」

 

「そのような物言い、日本から叩かれますわよ?」

 

「スーパー戦隊にもある役割分担よ?私の属性は基本的に参謀で、正面戦闘はある程度こなせればいい。えりかは例外だけど」

 

「あの方はブルーチームで唯一無二のコメディリリーフですからね」

 

キュアマリン/来海えりかの後輩からの扱い度合いと認識が分かる。プリンセスプリキュアから見れば、ハートキャッチプリキュアはかなり上の先輩になるが、マリン/えりかだけは後輩からもコメディリリーフ扱い(先輩や後輩達もその認識である)されているのが分かる。

 

「ここからが正面場なのは事実よ。戦略はそうだけど、戦術が戦略をひっくり返す例は地球連邦軍にはいくらでもあるし、ジオンが戦術で連邦の戦略を崩壊させた事も多いわ。強い力はあるに越したことは無いけれど、ここからは戦略も入ってくるわ。本音としては、かれんさんあたりに来てほしいわ…」

 

ブルーチームは現在、類型通りな者がダイヤモンドとマーメイドしかいないため、猪突猛進気味なドリーム達の抑えがイマイチ効かない事をのび太に指摘されており、キュアアクア/水無月かれんあたりに現れて欲しい本音をぶっちゃける。

 

「りんはのぞみと同じタイプだし、せめて…、せつなさんがいればねぇ…」

 

マーメイドはせめて、キュアパッション/東せつなでもいいから現れて欲しいと漏らし、ため息であった。ウィッチとしては、子供の頃から黒江達に振り回され、プリキュアとしても苦労人属性になりつつあるため、どうにも気苦労が多い。

 

「どうするのですか?」

 

「トワ、貴方の役目はモードレッド卿やペリーヌさんに出来ないことをすることよ。それは頭に入れて。それと、とっさの受け答えも出来るでしょう?記憶は共有されてるから」

 

「え、ええ」

 

「マスコミの不意打ち対策よ。記者会見もすると思うから、事前に言っておくわ」

 

トワはペリーヌとして、一定範囲の受け答えも要求される事があると、みなみから告げられる。仕方がないが、ペリーヌはガリア共和国の英雄であり、現代のジャンヌ・ダルクと祭り上げられている身であるため、メディア露出は多めである。ペリーヌ自身がドゴーリスト(ドゴール主義者)を抑えるため、近々の政治家への転向を表明しているのもあって、メディア露出が多い。表向きはペリーヌ・クロステルマンがプリキュアになったと説明されているためだ。

 

「なんだか、大変ですわ…」

 

「お互いにね」

 

「竹井、いるかー?」

 

「ケイさん、なんですか?」

 

「日本向けの記者会見だ。あたしが仕きって、お前らを参加させる。スカーレットは最低限の受け答えさえすればいい。あとはこいつとあたしでどうにかする」

 

「わかりました。準備させます」

 

日本向けの定例会見は二週間に数回の割合ほどである。大本営発表が嘘だらけと揶揄され、大本営名義での発表がまったく信用されない(統合参謀本部に改編中でもあるが…)ため、現地部隊が直接、戦果を公表する方法が便宜的に取られた。日本の大衆が広報部の発表や大本営発表をまったく信用しないため、現地部隊の直接発表という形が取られた。広報部の面目丸潰れだが、戦果報告は大本営発表が『大本営虚報』と揶揄されるほどに嘘八百という認識なので、64Fが直接、戦果報告をする奇妙な状況が生起している。また、アニメ通りの装備ではP-47やB-29を撃墜出来ないとする指摘があるため、アニメよりも重装備で臨んでいる事をこの日の会見では強調した。

 

 

「小官が撮影した写真ですが、これは小官の部下のハンナ・ユスティーナ・マルセイユがマウザー砲でB-17を撃墜した写真であります」

 

圭子は記者会見の進行役を元の温厚な振る舞いを演じてこなす。猫かぶりを三重くらいしてるとは、マルセイユの談。マルセイユはここ最近はレイブンズのパワーやプリキュアの影に隠れ気味であったが、相応に戦果は挙げており、重爆邀撃に参加している。銃も相応のものを使用しており、MG151/20に切り替えている。使用した弾はロンメルのプレゼントの『薄殻榴弾』である。マルセイユの華々しい戦闘ぶりは軍縮の嵐に翻弄されるカールスラント空軍の一筋の光明である。

 

「ウィッチの撃つ弾は魔力で初速が倍増するため、20ミリであるなら、通常の30ミリ相当の貫通力を持ちます。B-17であろうと、数発で撃墜できます」

 

圭子は写真を使い、解説する。ジャーナリストを副業にしているため、マスメディアが欲しい物を心得ている。圭子は防衛省背広組と防衛装備庁が『補給が続かないから…』という理由だけで、数十万発の薄殻榴弾と1000丁近いMG151を死蔵させた事に言及し、マスメディアを使い、彼らに圧力をかける。『リボルバーカノンやバルカン砲はレシプロじゃ持てねぇよ、ボケが!!』というのが本音である。日本はジェット機に通用する装備ばかりを求めるが、実際のところ、レシプロの最末期であるこの時代では、『九九式二〇ミリ』や『ホ5』などの在来式20ミリ砲のほうが需要があるのである。特に、ジェットストライカーの黎明期でもあるため、ウィッチに信頼されておらず、64Fのような例外を除き、大半はレシプロストライカーが現役であるため、バルカン砲とリボルバーカノンは許容荷重を超えてしまうのだ。

 

「なお、我が隊は諸方面の援助で試作装備を使っておりますが、あくまでも試作ですので、通常は『ホ5』か『九九式20ミリ砲』、あるいはマウザーを携行させています」

 

圭子は穏やかな声色になると、黒川エレンに似ているが、若干高めの声になるため、マルセイユからは却って不気味がられている。猫かぶりすぎるとマルセイユは呆れ返っているが、圭子はドスが聞いた低めの声が普段使いになっているため、同僚からの笑いを誘っている。最も、転生の影響で、素のクールビューティ系の外見に似合わない可愛い声色(調と同一)になってしまった黒江がいるため、驚くほどのことではない。黒江が外見を変えているのも、素の声色が変化してしまい、元の顔と釣り合わない事を気にしているのも理由に入る。過去の治療の後遺症でもあり、現在の声色は黒江が小学生当時のものである。軍隊で喉を多少なりとも潰し、低めのトーンになっていた転生前の面影はゼロである。圭子と真逆の結果だが、姿を変えることで『傍目からみてのとっつきにくさ』が無くなったため、今では、元の顔と声は帰省以外には使用しないと決めている。黒江は元から気さくな性格だが、ストイックに見えるクールビューティーの外見で損をしてきた事が多かったため、黒江は空中元素固定能力を一番に活用している。圭子よりも使用機会が多いのは、そういうわけだ。防大時代に同級生に声と言動と外見のアンバランスさをネタにされていたのも要因であり、黒江なりに工夫をしているのが窺える。

 

「先輩、ケイ先輩、相当に猫かぶってません?」

 

「ん?お前、今日は勤務だろ?」

 

「智子先輩と隊長が出るってんで、シフトが変わったんですよ」

 

「おー、そうか。それで軍服姿なのか」

 

「元に戻したばかりですよ。ストライカーで出る時は錦の顔とか使わないと不味いですし」

 

のぞみはストライカーを使用する時は広報向けの写真撮影もある都合もあり、錦の姿で出撃しているが、この日は武子が智子と組んで出たため、シフトが変わり、出撃を譲ったという。なお、変身は広報との兼ね合いで許可されているため、錦の姿からキュアドリームになることは許可されているという。

 

「で、どうだった?この間のプリキュアに戻ってから初の空戦は」

 

「魔力を使えば通常形態でも飛べるけど、整備班のご機嫌伺いで、ストライカーを持って帰らないといけないってのは面倒ですよ」

 

「回収班のアウロラに仕事させたいんだが、武子はケチだからな」

 

エイラの姉であるアウロラは502から引き継がれたストライカーユニット回収班を率いているが、64Fの被弾率と機体損傷率が低いので、開店休業も同然だった。Gウィッチでは珍しく、酒飲みを続けている一人だが、教育上、よろしくないので、黒江はアフリカ戦線帰りの陸戦ウィッチの指揮を執らせるつもりである。

 

「朝っぱらから酒飲みじゃ、ガキ共(錦からの影響)の教育によくないですよ」

 

「わーっとる。アフリカ戦線帰りの連中を押し付ける。それに、フェネクスの実戦テストを急いで済ませておきたいからな。既成事実は作っとくに越したことねぇしな」

 

「で、響(北条響/シャーリー)なんですけど、ISと実機の両方を確保ってずるくないですかね?」

 

「それいうなら、お前もニルヴァーシュ作れよ」

 

「サーフィンの才能あるっていっても、りんちゃんが信じてくれないんですよぉ~!」

 

「あいつをボードに一緒に乗せて、カットバックドロップターン決めろ。そうすりゃ信じる」

 

「考えておきます。美遊が先にサーフィン大会で優勝したのになぁ」

 

「お前、妖精さん的意味で某忍者の親子だろ。はーちゃんやつぼみも含めて」」

 

「先輩、それはやめてって、りんちゃんが」

 

「なんでだよ」

 

「元の世界で兄弟にネタにされまくったみたいで」

 

「お、おう…」

 

「わたしだって、47Fの連中から、この声色をどう出してるのかって聞かれまくってるんですからね」

 

「そうか、錦はレントン・サーストン寄りの声だったからな」

 

「そーですよ。でも、可愛い声出せるじゃないかって、中隊長に言われたのは嬉しかったですよ?」

 

錦は原隊が47Fであった。ウィッチ世界では前身の独立飛行第47中隊のままであったが、昭和天皇の勅が下った影響で通常の戦隊に改編された。その際に引き抜いた体裁で配属になっている。錦は有望なテストパイロットであったので、64への引き抜きには上申で反対論が根強かったが、プリキュアへの覚醒を理由に転属を通した裏事情がある。昭和天皇の勅が下った以上はどうにも出来ない上、Gウィッチ化では通常の部隊の手に余るからだ。

 

「連中には機材の融通をしてやって、恩を売ってある。お前を引き抜くのに、ケイが戦隊長を脅したんだぞ?戦隊長が俺の後輩だから、穏便に事が運んで良かったよ。あと一歳でも若けりゃ、喧嘩だよ」

 

「え、本当ですか?」

 

「親父さんが日本の意を受けて、全部の戦線から精鋭を引き抜いたのには批判がつきまとってるんだ。特に、お前の年代の使えるやつは8割方は引き抜いたから」

 

64の人材確保には、日本の意向もあり、かなりの大鉈が振るわれたことが明言された。源田実は当初、扶桑軍の標準からはあまり、A級ウィッチを多くはしない方針であったが、日本側の戦力集中の至上命令が下った事により、A級ウィッチのほうを多くしないと編成扱いに成らない有様で、源田を困らせた。最も、腕は良くとも、精神面で脆い者は外されたため、精神の強さも重視された選抜であり、必然的に45年当時には『高齢』と見做された事変の生き残りが多くなり、新選組に至っては、芳佳が最年少の部類に入ってしまう。第一大隊である新選組は64Fの『顔』であるのもあり、当時の扶桑ウィッチの腕利きの大半が属しているとさえ謳われる陣容である。なお、第二大隊の維新隊は配属基準が緩められたこともあり、平均年齢は比較的に若い。本土で錬成中の第三大隊である天誅組は派遣経験が無いか、本土にいた精鋭、あるいは招来の有望株の選抜である。64と言っても、維新隊はあくまで、当時の既存装備を使うプロパガンダ目的も含めてのバックアップで、いわば二軍だ。新選組は真の意味での実戦部隊なので、『なんでもあり』である。人材的意味でも、機材的意味でも。激戦を戦うため、キャプテン・ハーロックを見習い、隊の規律も緩めである。武子がビールを勤務中に煽ろうが、黒江がオートバイの整備にかまけようとも許される。この軍隊かしらぬ緩さについていけなかったのも、サーシャの追放の一因である。

 

「サーシャの治療に手を回しといたよ。あいつはイリヤを怒らせたし、何より、この緩い風紀に耐えられなかったことが原因だ。治療の便宜は図ってやるのが、下原と菅野を一人前にしてくれた恩返しだ」

 

「ロシアへはなんて?」

 

「ロシアは自国の事で精一杯で、俺達のことよりもドイツへの嫌がらせを考えてるよ。んなんだから、子孫が統合戦争の後に苦労すんのに」

 

ロシアは学園都市への敗北で自国の築いてきた秩序が崩れ、混乱の収拾で精一杯であるが、ドイツ領邦連邦への嫌がらせだけは姑息な手段を行使し、カールスラントを大混乱させている。オラーシャがロシアと連邦を組むことがなかったのは、ロシアのロマノフ王朝への冷酷さが理由であろう。そもそも、ロシアはソ連時代にロマノフ王朝を否定し、皇帝一家を皆殺しにした歴史があるので、ロマノフ王朝を全肯定はしないし、ロマノフ王朝もロシアへの一定の敵意をもっているだろう。そこが双方がわかりあえなかった理由になる。(文化的には遺産があるものの、国の建前上、ロシア連邦とソ連邦は政治的にロマノフ朝を否定して成立しているため、そこも相容れなかった)

 

「ドイツへの嫌がらせする暇があれば、オラーシャを助けてやれっての。サーシャは同位体がソ連邦元帥で、ソ連邦英雄だぞ?」

 

サーシャは同位体がソ連邦英雄であるのにも関わらず、ロシアからの擁護を受けられなかった。ロシアは皇帝を諌める事もせず、日本人の暴漢を責めもしなかった。ロシアの対応は正に屑としか言いようがないもので、黒江が動かなければ、サーシャは満足な治療も受けられなかっただろう。

 

「オラーシャとロシアじゃ、社会と住む人々の感覚が違いすぎて、とても同系民族(スラブ系)と思えないわよ」

 

「イリヤか。お前、出てきて良いのか?」

 

「スカーレットの受け答えが終わったら、私みたいで。それで。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとしては初めてよ」

 

「なるほどな。お前、カールスラントのユンカーを演じる準備はいいか?」

 

「アインツベルン家自体、絶えてましたしね。ローエングラム家みたいに、名跡を継いだだけ。あとはまぁ、魔法少女的ノリで?」

 

「それしかないなぁ」

 

イリヤ(サーニャ)はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして初めての公の場であった。イリヤとしての性格の基準はプリズマイリヤであるが、そうでないところも混じっている。また、戦闘時は『stay night』要素が強まるが、素体がサーニャである関係でイリヤの持つ要素の一つたる残虐性はなく、むしろ、青年なのはの持つ怖さと同種のものと言える。相方の美遊が素体のリネットの芯の強さが反映されたおかげで、バリバリの戦闘要員化しているのと対照的に、こちらは『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのごった煮』と表現される。

 

「お前、アインツベルン家が何時に絶えたのかって、わかってるのか?」

 

「金髪の孺子だって、ローエングラム家が何時に絶えたか知ってた素振りなかったでしょ?」

 

「そりゃ、そうだけどよ」

 

ウィッチ世界のアインツベルン家は伯爵とされ、カールスラントに残された記録によれば、1914年に当時の当主一家が戦災で全員死亡し、この時代には単なる名跡扱いであったが、カールスラント先代皇帝の信頼厚い一家であったという。フォン~とつくことから、初代は300年ほど前に名を挙げたと推測されている。新し目の家である上、戦災で絶えてからは忘れ去られた家名なので、サーニャに与えるのには障害はない。

 

「ユンカーは古くからの貴族には『新参者』扱いされるのよ。ある意味、私が名乗るにはうってつけの身分ね」

 

「お前も色々と大変だな」

 

「九条家には入ったけど、九条家は扶桑じゃ大物すぎて、軍楽隊以外には入れないし、アインツベルンの名は使わせてもらうわ」

 

「上級華族だしな。公家系の」

 

ドイツ連邦では、かつての貴族は冷遇されるものの、カールスラントでは国家を支える重要基盤である兼ね合いもあり、ドイツ連邦はカールスラントの貴族の扱いに困った。日本連邦が扶桑華族の地位を保全したのに対しては冷遇気味だが、ドイツに来ても『貴族として遇する』事で妥協が図られた。共和制ドイツなりのビスマルク帝国への敬意であった。日本連邦の華族保全は『扶桑への内政干渉は出来ないという立場と、華族のあり方が史実と違うから』だが、ドイツの場合は『ビスマルク帝国が続いている以上、体制を変える必要はないし、皇室が現地の拠り所となってるのなら、解体する必要はない』という理由であった。また、ウィッチになった場合、怪異と率先して戦う事が義務付けられていた事も、日独が現地の貴族体制を解体しようとするのをやめた要因だ。要はノブリス・オブリージュである。完全に共和制になっていたガリアの体たらくも、ウィッチ世界で、共和制が少数派である理由だろう。裏ではペリーヌのような元領主以上の家柄にはノブリス・オブリージュが求められるという矛盾があるが、建前上は共和制なのがガリアだ。ノブリス・オブリージュを重視したのがブリタニアであり、カールスラントであり、扶桑なのだ。その点はガリアには皮肉な結果だろう。

 

「直にお前の出番だな。用意しとけ」

 

「頑張って」

 

「ありがとう。それじゃ、着替えてくる」

 

キュアスカーレットが必要最低限の受け答えをしているのを遠目に見ながら、イリヤの出番(というのも変だが)が近くなったのを教え、イリヤは軍服に着替えにいく(カールスラントの軍服である。)黒江はのぞみと共に舞台袖で圭子が仕切る会見の模様を見るのであった。


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