――カールスラントは結局、内乱で民主共和制では立て直せない事が周知されたため、立憲君主制での再建で妥協された。カールスラント国民はガリアの醜聞で、民主共和制に不信を抱いていたからである。カールスラント内部の共和派はドイツの援助で好き勝手したが、その結果が内乱では、目も当てられなかった。結局、ズタボロもズタボロなカールスラントは1949年時点で通常軍備すら内乱で殆ど失われており、もはや国家秩序すら崩壊寸前であった。ドイツは『帝政を終焉させる気はあったが、ここまで荒れるのは予想外だ』と言い訳がましい事をぬかす有様であった。カールスラントは以後、暗黒時代を迎えることになる。軍事国家化していた事がこの惨状の原因であった――
――日本連邦は、その代わりを否応なしに求められた。日本連邦と交渉するのを嫌がる国は多い。カールスラントとスオムスの惨状を見れば、明らかである。スオムスは名誉が貶され、カールスラントは(勘違いが発端とはいえ)国家が崩壊寸前に陥ったからだ。結局、有能な将校を文民統制のもとに、クビにしまくったことの弊害が出てしまったわけだ。連合軍を64Fに負担を強いる構造にしたのは、連合軍を支えたカールスラントやスオムスの将校の多数が理不尽に解雇された故であった。結果、連合軍は残る人材を一点集中させ、遊撃部隊として運用するしか、有能な人材を保護する方法はなかった。黒江たちの異能はそれを補うのに充分であったからだ――
――将校になりつつも、政治的理由でクビにされた者は転職も事実上は不可能であった。軍事国家化していた、カールスラント軍の将校ですらも相当に困難であったので、扶桑ではなおさらであった。結局、日本側は『口減らし』をせねばならなくなったりしたのもあり、扶桑魔女の主流派が疎んじていた黒江たち異能者の保護に動き、現状維持のみを考えていた主流派の魔女たちは逆に疎んじられるようになった。異能者は時空管理局出身者からも生じた。元・機動六課のティアナ・ランスターがそれにあたる。彼女の場合、二回の前世で持っていた異能が蘇り、更に変容したものであるため、ティアナ・ランスターの容姿で扱うのは、時空管理局のメンツを潰してしまうことになる(空戦が可能になる異能なので)ので、結局は容姿を変えることとなった。なんともグダグダな話であった――
――結局、四式戦闘機は操縦桿を軽く調整し直す、翼部の構造見直しなどの細かな修正に手間取り、ダイ・アナザー・デイには、ほぼ間に合わなかった。完成した機体は『レシプロ機としては高性能であるが、敢えて大規模に量産する価値はない』と判定された。とはいえ、現場の二式戦の大半が老朽化していたことから、現場の要望で多くが生産された。ジェット戦闘機に反発する高年齢層に多かったからである。また、空中給油という概念が生まれたことから、搭乗員と魔女のの負担増から、現場の一部から反対論が出るなど、扶桑軍はシッチャカメッチャカに陥った。とはいえ、技術革新の嵐が扶桑軍の人員を削減させたのも事実であった。徴兵では補いきれない技能が増えたこと、訓練された志願兵による少数精鋭が尊ばれる時代を迎えたことから、レシプロ機の高性能機が(数合わせで)求められたわけだ。だが、既にレシプロ機は性能向上に限界を迎えていたため、ターボプロップ化が進められ、既存機の改修が進められた。この開発競争に追従できる国はもはや、連合国内には存在しなかった。扶桑が戦後第三世代ジェット機を配備せんと奮闘中のところ、他国は戦後第一世代すら配備途上なのだ。しかも、ミサイル装備は影も形もない。この差も連合国の連携が上手くいかない理由であった――
――こうした事情で孤軍奮闘を余儀なくされた扶桑は、異能者を歓迎する方向に方針転換した。黒江たちが血と汗を流した結果を国家が歓迎したわけである。ミーナの名誉回復には長い時間を要することとなるが、これは組織ぐるみで書類などを改竄する必要があったためである。また、意図的に当時の整備員などを死なせる(口を塞ぐ)ことも行われた。同性愛的言動が1949年時の一般層に知られれば、異常者扱いされるのが関の山だからだ。最も、その言動は幼馴染の戦死が原因という悲劇性も絡むのだが、時代的に『男の一人や二人が死んだ程度で』と謗られるだろうことは容易に想像できた。そのため、1970年代の中頃までは、隠者として生きるのが賢明だろうというのが、ロンメルの結論であった。ミーナはその点でも『同性愛の傾向を持つには、あらゆる意味で早すぎた』と言えた。後の世で再評価がされるものの、この1940年代終わりの頃はカールスラント没落のきっかけを作った張本人という汚名に甘んじることで、隠者として生きる。それがせめてもの救いであった(日本は不名誉除隊を要求したが、功績自体は充分であり、無知が人員の扱いの理由と判明したことから、連合軍の判断で情状酌量が取られた)。当時はモントゴメリーの更迭や、ジョージ・パットンの謹慎処分(史実の言動が原因)などの人事処分の嵐が吹き荒れていたため、カールスラントの滅亡に繋がりかねないこの事実は組織ぐるみで隠蔽された(ただし、整備員の取り扱いは、黒江たちが着任後に司令部による指令として、『業務上の接触を認めさせていた』(ただし、司令部が見ていない場では厳禁を続けさせていたが…)記録から、大事にはならなかった)。異能者の扱いの改善はこの混乱を察知されるのを避けたいという事情も絡んでいた――
――ティアナ・ランスターが顔出しをNGにされたのも、時空管理局への外交的配慮の一環であった。時空管理局で空戦適性ゼロと判定された人員が『別世界の魔法で撃墜王になっている』事実は、ただでさえ『M動乱で丸つぶれにされたメンツにトドメになる』故であった。時空管理局の教育部門は、なのはの起こした不祥事でメンツがズタボロになっており、その上、ティアナ・ランスターの適性見込みが間違いであると分かれば、今いる教官らの全員の解雇もあり得たからだ。その都合上、魔導師としての活動は休止し、前世由来の『高次物質化能力』を前面に押し出しての活動がメインになり、容姿もティアナ・ランスターとしてのものは使わず、偽名も新たに作られた。地球人としてのものだ――
――野比家――
「と、いうわけ」
「あんたも大変ね。顔出しがNGなんて」
「管理局のメンツが丸つぶれになるからって、上が決めたのよ。仕方がないから、容姿を変えたわ」
ティアナは偽名が前世での『鴇羽舞衣』になり、容姿もその姿に(黒江たちの能力で)変えられた。遠征の後は自身でもその姿になれるようになっていたので、望んでなっていた。ティアナ・ランスターとして、時空管理局のしがらみに囚われているのに嫌気が差しているからだろう。
「その姿はどうなの?それも有名だと思うけど」
「この時代からは20年近く前の深夜アニメのヒロインなんて、若い子はわかんないから。それに、能力が完全にアニメ通りでもないし」
ナリタタイシンは(年齢的に)出れるレースが限られてきたこと、卒業に必要な単位は取れたこと、アオハル杯第四戦までに時間があることもあり、しばらく休養を取り、野比家で暮らしている。年齢的に、ティアナとほぼ同年代であることもあり、この頃にはよく話す仲になっていた。
「で、『あれ』は呼び出せるの?」
「できると思う。一回しか試してないけど」
「だから、フェイトが子どもたちを隊に呼び戻さなかったの?」
「たぶん。あたしらはこれからは戦争にも関わることになるから、あの二人を遠ざけたんでしょうね。前世以来の宿命のようなものだし、元相棒のスバルも改造人間になったし。」
正確には戦闘機人であったが、地球系の技術で再改造(救命措置で)されたため、改造人間にカテゴライズされ直している。スバルとギンガの姉妹は(救命措置で)地球系の技術で再改造され、生体部分がほとんど無くなったからである(仮面ライダーに用いられた技術での再改造で肉体的加齢が起きなくなっているのもあって)。
「それに、なのはさんがあの『事案』をあたし相手じゃないけど、起こしちゃってさ。それで、上も不味いと思ったんだろう」
「あれねぇ。なのはって、子供の頃はいい子で通ったけど、思春期以降に歪みが出たタイプ?」
「だと思う。ただ、高校までは行ったみたいだから、他の世界線よりは割り切れてるみたい」
「大学には?」
「世間の手前、高卒で就職したってことで通してるみたい。大学にはいつでも行けるから…ってことでさ。あたしのことは事前に説明されてたみたいだから、なんとなく、気を使われてたよ」
「それもややこしいわね」
「魔女の世界で魔女をしてますって生存報告、すごく気まずくてさ…」
ティアナはそれもあり、なのはとはあまり連絡を取っていなかったらしい。だが、調からの連絡で『事案の後の体たらく』を知った後はなのはを『介護』しているという。
「で、どうしてんの、件のなのはは」
「タイムふろしきで11歳当時に若返らせて、しばらくはそれで過ごさせることに。流竜馬さんの道場に預かってもらうことになったわ」
なのはは本来は20代になっているが、外見や言動が本来の年齢より若々しいことから、タイシンらにタメ口を聞かれていた。本来の年齢がわかった後も、本人が望んだため、そのままとなった。ティアナの場合は、なのはは元の上官でもあるため、一応は敬語である。
「それで、当人は?」
「生きがい無くして、やさぐれてたけど、養子のヴィヴィオが手のかからない子で助かってるってヤツ。調が定期的に様子を見に行ってるから、今は心配なし」
なのはがやさぐれたことは極秘事項に指定されていたので、ヴィヴィオにも箝口令が引かれているが、こちらは品行方正に育っている。調の仕えていた聖王のクローンである故に、なのはより良い意味で純真であるのも大きい。
「それで、あんたはミッドチルダには?」
「両親と兄はとうに他界してるし、管理局に愛想は尽きてるんだけど、兄の名誉回復を条件に、復帰させられてね。籍は戻ったけど、実際に勤務するつもりはなし。日本連邦の軍人でいたほうが、給与はいいもの」
ティアナは天涯孤独の身の上であったのもあり、兄を取引材料に使う管理局に愛想は尽きていた。籍だけ戻したのは、兄の名誉回復のためであると明言する。また、空士としての試験に落第した経緯も、時空管理局の名誉に関わる事柄であった。
「それで、この姿になったわけ。このほうが気楽にやれるから、楽よ」
時空管理局はなのはたち無しに、組織の維持ができなくなっているため、なのはがやらかしても、軽めの人事処分程度で済んでしまう。組織としては問題だが、ミッドチルダの存亡に関わる事柄なので、見逃されている。そのことへの反発はないわけではないので、なのはとは距離を置いている事を語る。
「あんた、これからどうすんの?」
「そうね……」
――ティアナが手に取った新聞の記事では、扶桑海軍軍令部の旧スタッフが見せしめに謝罪会見をさせられている様子が一面を飾っていた。これは撃墜王への二枚舌の方針が問題視されたからで、海軍航空隊の人材流出を招いた責任を取らされたのだ。海軍航空隊は1943年以降、個人戦果を公式に記録していなかったが、統合戦闘航空団の登場で都合が悪くなり、自己申告を鵜呑みにして送り込んでいた事が問題になったからで、ミーナの起こした不祥事で旗色が変わったのだ。また、同調圧力を嫌い、有力将校の多くが空軍へ移籍したことの責任も被せられ、空軍から旧軍令部のメンツの殆どが意図的に除かれる有様となった。噂では、日本の義勇兵に海軍精神注入棒でしこたま殴られ、精神病院行きになった将校が続出しているとも。また、雲龍型航空母艦を無駄に多く作ったとの批判も多く、ジェット時代へ向けて、少数精鋭化を進めている日本の剛腕が目立つ報道である。だが、そもそも、扶桑は雲龍型航空母艦を単艦で運用する想定ではなかったので、そこも空母機動部隊の整備構想の破綻の理由であった――
――結局、雲龍型航空母艦の多くは他用途へ転用され、鋼材の質がいいと判定された初期の六隻のみが『試験空母』名目で現役に留まった。その分を超大型空母で補う構想が雲龍型の整備に取って代わり、1949年度にようやく予算が成立し、起工された。また、軍事的需要を満たすため、現代式の強襲揚陸艦が量産体制に入った。これとて、50000トン前後の大型艦であるので、本式の空母が10万トン前後になるのは仕方がない進化であった。艦上機の大型化は運命であり、扶桑の従来の好みとは一致しない。雷撃機の消滅などの軍事的イノベーションが起こったため、人員の再訓練などの手間がかかったのだ。水上機が引退させられ、ヘリコプターに置き換えられた都合もある。水上戦闘機の搭乗員の転換訓練も問題になった。結局、飛行艇部隊の縮小、任務内容の変化(救難任務専任へ)などの混乱も重なり、扶桑海軍航空隊は形骸化。空軍が任務の大半を代行する始末であった――
――ジェットと、搭載兵器のミサイルへの置き換えで生じた混乱は長期化の見込みであったことから、地球連邦軍は扶桑の戦争に大規模に参加し、その軍事的空白を埋めた。いわば、デモンストレーションを兼ねての参戦であったが、扶桑一強体制の確立に一役買った。また、モンタナ級戦艦の登場の衝撃による世論の突き上げで、航空主兵論者の多くが追い込まれたが、かと言って、大艦巨砲主義も史実の敗北の記録で日本から散々に叩かれたが、扶桑の国民はとにかく、戦艦を求めた。そんな政治的理由で、大型水上艦艇の計画は次々と復活し、地球連邦の援助で形となったのである。この時に事実上、失脚した航空主兵論者も多い。この混乱により、陸軍と海軍は機能不全に陥った方面軍が続出。空軍が陸戦まで担当する始末となった。特に機甲部隊が少なかった南方方面軍は配置転換で機械化が進んだが、魔女を中心に反対論が噴出。そこに戦後基準でバリバリに機械化された敵の機甲部隊が揚陸してきたため、大混乱。結局は地球連邦におんぶにだっこな状況が続き、扶桑軍はこの時に大陸領奪還を事実上は諦めた。こうして、南洋防衛に死力を尽くすことになったが、扶桑にとっては妥協であったのだ――
――結局、南洋戦線は扶桑が長年にわたって構想した『大陸領奪還』の事実上の放棄であった。日本が旧式兵器を強引に廃棄させたためで、日本は『新式の少数配備で間に合う』と宣ったが、それは平時であって、戦時では意味はなかったのだ。結局、自衛隊式兵器は政治的都合で配備が遅れたため、敵軍からの鹵獲も公然と行われている。異能者は『少数でもいれば、物量作戦を本当に潰せる』ことから、政治的にも好まれた。皮肉にも、魔女たちが異端視した才能が国防を担うとされたのである。扶桑海事変の生き残り佐官や将官らは一様に気まずい空気に包まれ、天皇への詫び状を書いて、自刃する者も生じたという。魔女たちは第一世代宮藤理論の限界に突き当たる時期であったこともあり、以前のようには活躍できるとは限らず、陸戦では互角だが、空戦では(飛行能力の差もあり)苦戦が続いていた。その報道であった――
「扶桑の戦況報道?」
「日本の方針で、小さい扱い。扶桑軍人が軍服で出歩くのも禁じられてる。最も、自衛隊に籍を作っといた連中は自衛隊の制服で出歩いてるけどね」
扶桑軍人が日本国内を扶桑軍の軍服で出歩くことは禁止されている。これは黒江たちがトラブルに巻き込まれた事を鑑みての措置であった。故に、扶桑軍も自衛隊式の制服への刷新が計画されている。日本連邦体制では、軍事的負担の多くは扶桑が代行しているが、日本の大衆ははそれを『田舎の国に科学技術を与えてやった対価だ』と、公然とせせら笑う。政治家は扶桑が怒ったら、21世紀の日本などは火の海にできる事を知っているので、日本人の扶桑軍人への暴力を取り締まるようになった。あまりに度が過ぎるからだ。亡霊のように蘇った『勝算なき戦をした旧軍隊への憎悪』は扶桑の軍隊へ向けられたが、彼らは『似て非なる者』に過ぎない。その当たり前に政治家は気づき、大衆が気付かないのは皮肉であった。
「ある意味、日本の大衆の軍隊への不満が『似た存在』を知ったことで爆発したってことね」
「似て非なる存在だっていう理屈は、SF見てないとわからないし、仕方がないかも。まぁ、それ以外の交流は平和そのものってヤツ。戦争が終われば、民間レベルの往来も盛んになるでしょうし」
「いつのことになるやら」
「1950年代の後半、下手すれば末期かも。今、戦時体制の議論がやっと収まりつつある。アメリカも核兵器が原爆しかない上、効果的に落とせる手段はアトミック・バズーカしかないけど、あれは予備の砲身がなければ、使えない」
「サイサリスねぇ。史実のエノラ・ゲイとかをデコイにして、そいつでやるって事は?」
「あり得る。ティターンズ残党はサイサリスを5機以上持ってるらしいから。まぁ、こっちもデンドロビウムの復活に成功したから、報復で『衛星軌道から反応兵器で爆撃する』案が出てんだけど」
「なんか、物騒な話。まぁ、ジオンも物騒だったけど、ティターンズもイカれた集団って話は聞いたことあるわよ。ガンダム開発計画を潰しといて、その遺産は使おうって奴?ティターンズも虫のいいことを……」
ゲーマーである都合、タイシンはティターンズの悪行の数々を知っていたようだ。
「連中、原爆は持ってる可能性はあるから、報復手段に使うつもりで、こっちはデンドロビウムを用意したわ」
「なんとも、スケールの大きい話ね」
「アメリカ相手には、情け容赦無用よ。史実のダウンフォール作戦を思えば、これも慈悲深いそうよ」
「本土決戦……ねぇ。あれもあれで、馬鹿らしい話だけど。ティターンズはどのくらい?」
「崩壊寸前の頃の資料だと、核弾頭は旧大国が東西冷戦やそれ以降に作ったものを複数。弾道ミサイルが宛にならなくなったから、博物館行きにされた弾頭がかなりあるんだそうな。それに代わる発射手段が、サイサリスだそうよ」
「ガンダム開発計画潰しといて、その遺産は都合の良いように?ティターンズの連中……」
「奴らの言い分は『計画の破棄はバスク・オムの個人的怨恨であって、造られた技術そのものは評価している』だそうよ」
「詭弁も良いところね」
「バスク・オムがイカレポンチだったのは、戦後の連邦に生きる人間なら、保育園児でも知ってるって話。要は責任の押しつけね。死んでるから良かったようなもの、生きてたら、間違いなく、戦後の軍事法廷で極刑だもの」
「で、地球連邦はスペースノイド対策も兼ねて、古くから行われていた決闘に発想を得て、スポーツ大会の体裁で、ガンダムタイプ同士の決闘を行わせることで、自治権を与えることにした。一年戦争の最中だか、後だかの話。有名になったのは、つい最近」
未来世界で、ガンダムファイトが行われるようになったのは、割に最近のこと。スポーツ大会の体裁を整えての開催だが、事実上は期限付きのコロニー自治体の統治権を巡る代理戦争。故に、軍事用MSよりも高度な技術が用いられている。
「ああ、Gガンダムのあれ。本当にやってんだ。うちらの世界でも、トレセン学園の本校と分校の交流レースがされるようになってるけど、あれに似てる」
トレセン学園は基本的に、中央がエリート、地方がその他という構図であった。だが、ハイセイコーとオグリの両名のおかげで、レベル差が縮まったと評される。地方出身でも、オグリ、イナリのような一線級がポンと現れることもある事が判明して以降は、以前ほど見下す者はいなくなった。(尚、ルドルフもオグリの引退後、実姉にオグリへの言動を咎められ、ボコボコにされたことがある。それもあって、地方出身者を侮ることは無くなった)
「ああ、地方と中央の交流」
「うん。前会長もその絡みで、えらい目にあったことあるんだってさ」
ルドルフは姉にのされて以降は、『中央をなめるなよ』などの威圧的な言動は控えるようになったらしい。シンボリ一族は代々、気が荒い者が多いので、さしものルドルフも、この事件以降、実姉を完全に怖がるようになったという噂が流れているという。
「オグリさんに威圧的な言動をしたのがすっぱ抜かれた時、姉さんにえらい目にあわされたって、もっぱらの噂。協会も、オグリさんの引退後はウララしか、一般でも知ってるウマ娘がいないって言ってた時期あるし」
トゥインクルレースの世代交代サイクルが早すぎることは、一部の老年層から不満という形で現れている。そのことへの配慮か、近頃はドリームレースの開催間隔が短くされるなどの変化が起きているいう。
「仕方がないわよ。ディープインパクトにしたって、引退は早いし。あんたらの世界じゃ、早期引退は許されないかもだけど」
「本人も、それで誹謗中傷があったの気にしてたから、ウマ娘としては長く走るかも」
ディープインパクトは史実の記憶持ちのウマ娘である。その兼ね合いで、前世のような早期引退は仄めかしているものの、本気ではない節があるという。史実での批判を知っている故だろう。皮肉なことに、種牡馬になる必要のない世界では、早期引退は反感を買うだけという現実があるのだ。
「種牡馬になるって目的がないから、敢えて、早くに引退する選択は好まれない。セントライトのように、家を継ぐとかの明確な理由がない限りはね。何年も走って、やっと芽が出るケースも多くなったし。前会長、それで、引退を後悔してるっぽいし」
ルドルフはシリウスとの確執の原因が自分が(不可抗力とはいえ)約束を破ったことだと気付かされ、それを気に病んでいるという。ドリームレースへの出走はシリウスや、(現役時代の)トレーナーへの償いだと、常々言っているという。
「あの人、家を継がされる見込みだったのもあって、脚部不安を理由に、引退を選んだ。だけど、それがシリウスとの確執の原因になった。ディープインパクトも、史実の記憶で、凱旋門賞のことはいい思い出がないって行ってる。得られるのは名誉だけだもの。仏で脚を『潰した』人も多いし」
この会話で、ウマ娘世界でも、凱旋門賞への出走は競走能力喪失のリスクもある事が明確にされた。タイシン自身は凱旋門賞を『名誉は得られるけど……』という考えらしく、史実でその後に低迷した者らを考えると、出場の意義に懐疑的になっているようである。実際、ドバイのレースなどの賞金がはるかに高額な他国のレースが急速に台頭してきたのもあり、以前ほどの魅力はないというトレーナーすらいるという。
「目指してる子には悪いけど、日本のウマ娘が勝てるバ場じゃない。英雄級のウマ娘のディープインパクトやオルフェーヴルとかでも勝てない。それがわかっちゃってると、脚に障害が残るリスクを背負ってまで……って思っちゃうのよね。ブライアンもその可能性に気づいて、ローレルを行かせないでくれと、のぞみに頼んでたし」
「組織の長年の悲願ってやつね。後には引けなくなってるってやつ。けど、現実には……」
脚が駄目になるリスクを背負ってまでの凱旋門賞出場に魅力を見いだせなくなってきているのも、時代の変化であった。ウマ娘世界のフランスもそれに気づき始めているという。得られるのは名誉のみ。ディープインパクトは史実での悲運もあり、海外遠征は嫌がっているという。また、遠征自体がピークアウトを起こす要因となりうる者すらいる。史実の記憶を得た者ほど、凱旋門賞に懐疑的になるのは仕方がない。この事態は競走協会のみならず、フランスも想定外なのは想像に難くない。サトノ家のプロジェクトに競走協会が後乗りしたのは、ディープインパクトが『遠征はちょっと…』と漏らし、想定外の回答に、海外遠征支援部門の長であるスピードシンボリ以下の競走協会の幹部が狼狽しているのが目に見える。
「うん。だから、乗っかったと思うわ、サトノ家のVRプロジェクトに」
タイシンは『縁が無い』と思ってるようだが、彼女の個人トレーナーはそうではないと考えているようで、この後、ブライアン(のぞみA)は親類ということで、海外遠征のプランがある事を相談されることになる他、ディープインパクトの発言で、協会が大混乱を起こし、フランスもモンジューを斡旋のため、急ぎ派遣するという事態に発展していく。この異例の事態はスピードシンボリを久方ぶりに公の場に引っ張り出すこととなり、彼女の保つ異常な若々しさ(立場的に、相応に老けていていいからだ。)が逆に世間を賑わすのであった。